• 検索結果がありません。

授 業 前 授 業 後

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "授 業 前 授 業 後"

Copied!
13
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

中学校理科におけるSTS教育

著者 松村 佳子, 石田 文章

雑誌名 教育実践研究指導センター研究紀要

巻 5

ページ 45‑56

発行年 1996‑03‑31

その他のタイトル STS Education Practicein Science of Lower Secondary School

URL http://hdl.handle.net/10105/4375

(2)

松 村 佳 子

(奈良教育大学理科教育研究室)

石 田 文 章

(香芝東中学校)

STS Education Practicein Science of Lower Secondary Schoot

Keiko MATSUMURA

(Department of Science Education,Nara University of Education)

FumiakiISHIDA

(Kashiba HigashiLower Secondary School,Kashiba)

要旨:STS教育の成立と現状について、また学習指導要領と理科の教科書の中味について考察 した。その上に立ち、中学校理科へのSTS教育導入の方向性を示した。そして、エネルギー問 題について実践を行った。その結果は次のようにまとめられる。1)中学生が科学・技術が社会 に対して持っ利点と問題点の両方を考え、自分なりの意見を持っことができるようになる基礎が できた。2)中学生が理科授業をより大切だと考えるようになり、STS教育の導入が生徒の理 科離れ防止として役立っことが確かめられた。3)生徒にエネルギー問題を考えるための資料を 集めさせたが、図書館を利用するなど、中学生でも多方面からの資料を集めることが可能であっ た。

キーワード:STS教育実践、中学校理科 1.はじめに

STSとは、Science,Technology and Society(科学・技術・社会)の略である。STSにつ いては、あえてきちんと定義せずに使われていることが多いが、「STSとは、科学技術の社会 的側面についての人文・社会科学的な研究・教育である」1)と定義して良いだろう。その科学・

技術と社会との関連を教育に持ち込むSTS教育についても様々な解釈があるが、理科教育では、

「近年の工業化社会に生じるテクノロジー関連の諸問題を解決するための民主的な意志決定や行 動過程に市民が参加するのを強化するために彼らの科学的技術的素養を促進することをめざすも の」2)として受け入れられているがゆえに、注目されていると考えて良い。つまり、STS教育 の目的は、現代という科学技術社会において健全なる市民としての意志決定能力、問題解決能力 を身につけさせること3)と考えて良いだろう。言い換えれば、科学・技術と社会との関連に対し て一定の見識を持ち、各種の判断、意志決定ができる市民を育成することを目指すものである。

本報告においても、現代のような科学技術社会に生きる市民を育成するためには必須であると いうこと、生徒の理科離れをくい止めるために理科を学習することの意義を実感させる、という

2つの観点から義務教育の完成期である中学校理科にSTS教育を導入する必要性とそれを実施

(3)

するf二での方向性を論じ、我々が中学校理科においてSTS教育を実践した例を紹介する。

2.STS教育の成立と現状の概略

現在のSTS教育の基礎となる、科学・技術を社会との接点で考えることは、1930年代にB・

ゲッセン4),R・K・マートン5),J・D・バナール6)などにより始められた。1930年代は、大恐 慌、ファシズム、戦争の恐怖が世界を覆い、科学とその応用が失業や供給過剰を引き起こしたり、

戦争をより破壊的にしてしまったという、科学・技術にたいする批判が提起された時代であり、

このような科学批判のもと、科学と社会の相互作用が気づかれていったのである。また、1970年 代になると、1960年代におけるベトナム戦争の激化や環境破壊など、科学・技術の社会に対する

ネガティブな影響が深刻化したことによる「科学再考」の動きの中、T・クーンのパラダイム 論7)による科学の相対的な見方を核とし、科学と社会を融合、調和させる方向に沿った研究が盛 んに行われた8)。そして、イギリスを中心として、「科学の社会学」「科学の社会的責任」、「科学 政策学」、「社会的文脈における科学」などの、科学・技術・社会の相互関係に焦点を当てた多く の研究テーマを包括する STS と呼ばれる学問研究分野が興隆した9)。

そのような状況の中、一般市民による科学の社会的機能・役割の認識が科学技術と人類共存の ための基本であるという考えが芽生た。一般教養のサイェンスリテラシーとして、化学教師の基 礎的教養として等、その発生経過は様々であるが、1970年代中頃から、イギリスの大学教育の中 で、科学・技術・社会の相互作用を中心にすえ、科学の社会的機能・役割を認識した一般市民を 育成しようとした、先駆的なSTS教育が始まった10)。その後、イギリスの国家的なプロジェク トとして、市民のための新しい教育システムであるSISCON(SciencreIn SocialCONtext)11)が でき、後期中等教育を対象とした、SISCONin SchooIs12)、ScienceinSociety13)といったプロジェ クトができていった。そして、ヨーロッパ全土やアメリカにおいても様々なSTS教育のプロジェ クトが行われて行くようになった。現在STS教育は、イギリスにおけるナショナルカリキュラ ムの中にその要素が含まれ14)、アメリカにおいても全米科学教師協会(NSTA)が1982年にSTS を指向することを表明15)してから理科教育の大きな柱となっている。このように、

STS教育は、一つの教育運動として欧米を中心として世界の国々に着実な広がりを示している。

また、最初は主に大学教育で始まったSTS教育であるが、イギリスにおけるSATISプロジェ クトが前期中等教育を対象にし、アメリカのChautauquaプログラム16)よる実践が小・中学校で 盛んに行われるなど、現在は、あらゆる校種で行われている。

3.日本の中学校理科におけるSTS教育の現状

3.1.学習指導要領と教科書について

日本の中学校理科の学習内容は文部省学習指導要領に示されている。1989年に出された学習指 導要領17)の中にはSTSについての記述は見当たらない。しかし、第1分野の目標の(4)に

「物質やエネルギーに関する事物・現象に対する関元、を高め、意欲的に調べる活動を行わせると ともに、これらの事象を日常生活と関連付けて考察する態度を育てる。」があり、第2分野の目 標の(4)にも「・・前略・・自然環境を保全し、生命を尊重する態度を育てる。」がある。第 1分野の目標にある、日常生活との関連には、当然社会生活との関連が含まれると考えられる。

(4)

「_1然環境の保全については科学・技術と社会との間のさまざまな問題が複雑に絡み合っている。

これらを考えると、梅埜18)が言うように、中学校埋科でSTS教育を行うことは決して目標から はずれたことではない。

次に1989年度版の学習指導要領(理科)の中味において、STSと関連深い部分を示す。

第1分野の内容の(6)「運動とエネルギー」に「・・前略・・科学技術の進歩と人間生活と のかかわりについての認識を深める」があり、そのエ「科学技術との進歩と人間生活」では、

「日常生活では、科学技術の成果として様々な素材やエネルギーが利用されていることを知るこ と。」がある。

第2分野では、内容の(6)「大地の変化と地球」に「前略・・人間の生存の場としての地球 について総合的に考察させる。」があり、その中のウ「地球と人間」では(イ)「人間が利用して いる資源やエネルギーには、天然資源、水力、火力、原子力などがあることについての認識を深 めること」がある。また、(ウ)では、「自然の開発や利用に当たっては・・中略・・自然環境を 保全することの重要性について認識すること」がある。

このように、第1分野と第2分野の両方でエネルギー源の問題が示されている。この学習指導 要領に従って出版された教科書19)20)21)には、エネルギー源にかかわる部分として現在大量に利用 されている電気エネルギーを生み出すのに火力、水力、原子力等が使われていること、それぞれ の発電方法の違いや問題点、資源枯渇と新しい発電方法の開発等が記されている。しかし、教科 書ではそれらをただ知らせるという記述であり、生徒一人ひとりがそれらの問題を総合して深く 考え、エネルギー問題に対する自分の意見を持たせるという内容にはなっていない。つまり、S

TS教育が目指す意志決定能力を育成するという内容ではない。

また、第2分野で示された環境保全についてであるが、これも教科書では、環境保全の重要性 を認識させることに留まっており、生徒に問題を投げかけて深く考えさせることにより、各自に 自分なりの考えを持たせるといった内容とはなっていない。

さらに、エネルギー源、環境保全の問題ほどの教科書においても一番最後の単元となっている。

これらの問題を理科学習のまとめとして取りあげるのは良いのであるが、ここを授業する3年の 最後の時期は生徒の進路決定の時期に当たる。この時期は生徒も教師も主な関心が目の前の進路 決定にあり、深く社会的なことには関心を持ちにくいのが現状であるといってよい。

ただ最近の教科書では、酸性雨が酸・アルカリの単元に読み物として挿入される等、STSに 係わる問題に生徒の視野を広げようとする部分が多くなってきている。

3.2.STS教育の実践について

1980年代より、我が国においても諸外国のSTS教育が紹介された22)。日本の理科教育界でも STS教育が注目され、日本理科教育学会の学会誌にも特集が組まれて来ている23)。理科の教科 内容が知識に偏っている弊害、児童・生徒の理科離れ、科学・技術の社会に及ぼすマイナス面が 社会問題となるなど、アメリカをはじめ、これまでSTS教育が盛んになってきた各国において、

STS教育が必要とされた状況が我が国においても存在する。しかし、我が国で出されている論 文は海外におけるSTS教育の理念やカリキュラムの紹介が多く、実践報告や実践に基づいた研 究が少ない。特に中学理科における実践報告は平賀24)等少ししか見られない。その原因の一つは、

学校行事等のため、学習指導要領で示された授業時間が中学校では確保されにくいことである。

高等学校への進学者が多く、入学試験前に知識内容はすべて終わらねばならないため、投げ込み

(5)

教材として教科書以外の内容については取り組む時間がとれないためである。

中学校でSTS教育の実践が行われないもう一つの理由は、多くの現場教師にSTS教育が知 られていないことであろう。しかし、それは現場教師の怠慢だけではなく、長洲25)が言うように、

日本では、文部省の指導要領によるトップダウン方式の教育が長く続いたことによる弊害ではな いか。中学の教師はトップダウン方式に慣れすぎているため、学習指導要領に基づいて作られた 教科書の内容のみを教えることしか考えられなくなっているのではなかろうか。現場教師へのS

TS教育の紹介を早急に押し進める必要があると考える。

4.中学校理科におけるSTS導入の必要性

4.1.市民育成の立場より

はじめにで書いたように、STS教育は科学・技術と社会との関連に一定の見識を持ち、各種 の判断ができる市民育成を目指すものである。1989年版の中学校の学習指導要領の総則26)に「学 校の教育活動を進めるに当たっては、自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育 成をはかるとともに、・・後略・・」とある。ここでの社会の変化に主体的に対応できる能力と

は、社会の変化を単に受容するのではなく、社会がどう変化するかということに対して自分の意 志を反映させようとする能力、つまり、社会がどう変化するかということに対して意志決定がで きる能力であると考えて良いであろう。そして、現在は科学・技術が社会において重要な役割を 担っている。しかも、科学・技術の社会に対するプラス面だけでなく、マイナス面が表面化して

いる社会でもある。そのような社会の構成員として生きるためには、科学・技術が社会に及ぼす 影響や科学・技術をどう進めていけば良いのかということに対して、一定の見識が当然必要であ る。義務教育の最終段階である中学校教育において、科学・技術に関する社会問題等に対して一 定の見識と意志決定の基盤づくりを行う必要がある。科学・技術の問題は、社会におけるメリッ

トとデメリットが複雑に絡み合っており、中学生では判断しきれないものが多いかもしれない。

しかし、中学校期で結論は出せなくても、そのような問題について卒業後各自の人生の中で考え て行くきっかけと方向性を与える必要があると考える。

それでは中学教育のどの部分でそれを行えばよいだろうか。基本的には、教育活動のすべての 部分で必要であり、理科だけで行えばよいというものではない。STS科というものがあれば良 いのだろうが、たとえ、そのような科目が作られたにせよ、単に問題を知らせるだけであったり、

一方的な価値観を押しつけたりしてはいけない。生徒一人一人が自分の価値観を作り上げること ができるような指導法が不可欠である。その意味からいえば、一番大切なことは、教師全員がS TS重視の立場に立っことである。そして、現在の教科の枠組みで考えるならば、やはり中心は 理科と社会科であろう。学習指導要領(社会)27)の中にも、公民的分野の(2)「国民生活と福祉」

の中に、「前略・・公害の防止など、環境の保全、資源やエネルギーの有効な開発・利用などが 必要であることを理解させる。・・後略・・」があるからである。ただ、現在の社会科の教科書 では、環境の保全や資源やエネルギーの開発・利用が必要であるという記述があるだけである。

また、社会科では、科学・技術の中味にまで取り扱うことは難しいと考えられる。やはり現在の 中学校の教科の枠組みでは、理科がSTS教育の中心とならざるを得ない。

(6)

4.2.生徒の理科離れ対策としての視点より

もう一つ、中学校理科においてSTS教育を行う必要性は、理科教育の側からの問題である。

それは、中学生の理科離れに対する対策としてである。最近、若者の科学・技術離れが問題にさ れ、大きな社会問題となっている。小・中学生においても理科離れの調査が行われ、久田加)ら多

くの調香によって、児童・生徒の理科離れは小学校高学年より始まり、中学校でさらに進行し、

中学を卒業後は余り変化しないということが明らかにされた。また、我々の調査29)により、1989 年に改訂された学習指導要領下においてもその傾向は変わらないということが分かった。そのよ うな児童・生徒の理科離れの原因については様々な研究がなされている。1993年に出された科学 技術自書淡))では生活体験の不足と科学がブラックボックス化していることにより、若者がより深 いところを追求する姿勢を無くしている事が原因であるとしている。このような理科離れ対策に ついては、児童・生徒の生活体験、直接体験を増やすことにより、理科に興味を持たせることが 大切であろう。松村。1)の調査においても野外実習等の直接経験を多く持ち、理科を楽しく学習し た人は、その後の生活においても理科学習の内容が役立っていると感じる傾向にあるということ が報告されている。

しかし、児童・生徒の理科離れに対しては、もうーっ、大切な視点があると考える。それは大 高32)が示唆するように、現在の理科教育は王酎斗を学ぶ意義を教えていないことが児童・生徒の理 科離れを進めているという点である。杉村融は小学生に対する学習動機の研究から、児童の学習 意欲は、高学年になるほどはめられるとかテストで良い点が取れる等といった外的要因より、自 分にとって大切等の内発的な動機から起こるとしている。つまり、学年が進むにつれ、自分白身 にとってその学習が価値あるものと見なさないと学習意欲が起きにくくなるわけである。そして、

小学生では、自分が大人になったときに役立っから理科を学習すると考える生徒の数は学年が進 んでも減少しないと報告している。さらに杉村飢)は、小学生では理科学習が自分の生活に役立っ と考える児童が学年が上がるにつれて少なくなることを調査し、児童たちが、大人になると役立 つから理科を学習しようとするにもかかわらず、授業では知識の習得のみが重視され、その知識 や経験が、自分の生活とどう結びつき、どう役立っていくのかを考えさせていないのではないか と推論している。つまり、児童は理科学習がいっか役立つから学習しようと考えるのだが、いっ までたっても役立つことを実感させてもらえないということである。これでは、いっしか理科学 習に意義を兄い出せなくなり、学習意欲を無くしていくことは当然である。中学生ではどうであ ろうか。表1に中学生に対して理科学習が何に役立っかを問うた答えを示すが、やはり学年が進 むにつれ、何に役立つかが分からないと答える生徒の数が増えている。学年が進むにつれ、理科 学習に対する自分なりの意義を兄いだせなくなり、理科学習の意欲が失われていくと考える。こ のような理科離れに対する対策としては、理科学習の内容である科学が自分自身の生活や、自分 が生きていく上で役立ち、また必要であると生徒に実感させることが大切である。STS教育は、

科学・技術と、生徒たちが現在生きており、今後生きていく社会との相互作用を取り上げ、それ らの進む道を考えさせる。まさにこの目的に合致するものと考える。

(7)

表1「中学でなぜ理科を学ぶと患いますか。」に対する答えの割合(上位のみ)

実施:1994年4月 全688名       中1  中2   中3 将来役立っことがあるから      30,1%  21.9% 15.7%

わからない 入試に役立つ

16.3% 17.6%  28.8%

7.7% 15.6% 16.5%

5.中学校理科におけるSTS教育の実践

5.1.実践の目的と方向性

STS教育は、科学・技術と社会とにおける相互関連について、一定の見識を持つ市民を育成 することである。つまり、一人ひとりに科学・技術に関して、それぞれ自分なりの社会的価値観

を持たせる手助けをするということである。その課程とは、まずそれぞれの生徒が問題を認識し、

判断をするための資料を入手し、その資料に基づいて何が是で何が否なのかを考えるということ になる。これまでのSTS教育の多く35)は、問題とその問題に関する資料(多くは肯定の資料と 否定の資料)を教師が提示し、生徒に考えさせるというものである。生徒全員が同じ問題につい て同じ資料に基づき考えられるというメリットがあるとはいえ、これでは本当に自分の価値観を 作ったといえるのだろうか。与えられたものからでしか考えることができないのではなく、何が 問題なのかということを認識する力、そして、ただ受け身ではなく、自分が考えていく資料を入 手する力、それらがついてはじめて価値観育成ができたと言える。特に科学・技術と社会とがか かわる問題(STS問題)の価値判断の源となる情報については、社会に対するメリットとデメ

リットが複雑に絡み合っており、各種の団体が、自分たちの利益のためにメリットまたはデメリッ トの一方のみを強調した宣伝活動をすることが多い。マスメディアにおいてもメリットとデメリッ トの両方を同時に報道することは少ない。従って、幅広く情報を集めることができ、集めた情報 を取捨選択する情報処理能力の育成無しには意志決定能力を高めたとは言えない。このように、

生徒に資料を集めさせることを行うと、授業時間の枠内だけでは収まらず、ホームワークとしな ければいけない部分が多くならざるを得ないだろう。また、一つのSTS問題に対して、かなり の量の生徒の活動時間を確保しなければならない。従って、数多くのSTS問題を取りあげるこ

とはできない。が、たとえ一度でも、一つの問題についてじっくりと取り組み、価値基準形成の 具体的な活動を経験すれば、生徒はどのような問題に対しても同様の方法を取り、考えていくこ

とができるだろう。後は教師が折に触れ、多くのSTS問題に対して問題提起をしていけばそれ で良い。

また、生徒の成長、視野の広がりを考えると、平賀韮)が言うように、中学1年生では、広く社 会問題にまで考えさせるのには無理があろう。中学1年時には、科学・技術と自分の生活部分と の関連を取りあげるにとどめるのが良いだろう。中学2、3年と学年が進むにつれ、広く社会に 目を向けさせる必要があり、科学技術社会における意志決定能力や問題解決能力を育てて行く必 要があろう。いずれにしろ、教師は生徒達に考える場を与える事が必要であると考える。

それでは中学校理科において、どのようなSTS問題を取りあげれば良いだろうか。中学校理 科の内容は、文部省の学習指導要領に定められている。そこに書かれた目的を考えればどのよう

(8)

なSTS問題をとりあげても良いと考えられる。しかし、その内容から完全に逸脱することは許 されないだろう。従って、現在の教材をそれに係わるSTS問題に発展させるといった単元構成 が良いであろう。貝体的には次のようなものが考えられる。

中学1年生の第1分野においては、理科で取り扱う薬品(特に酸、アルカリ)が特別なもので はなく日常生活で使用する調味料や洗剤等に含まれること、第2分野では植物を取り扱うことか

ら身近な植物と自分たちの生活との係わりについて考えさせる事などが考えられる。いずれにし ろ、単に教師がそれらについて話をするだけであってはならない。生徒が自分の身の回りの事象 について調査活動を行うこと等により、それらを実感させる営みが大切である。

次に2、3年生について述べる。第1分野の内容は、2年牛では燃焼等の化学変化と電気、3 年生が酸、アルカリを含むイオンと仕事・エネルギーとなっている。これらから考えると、第1 分野では、二酸化炭素の増加、酸性雨の問題も含め、発電方法等のエネルギー源の問題を取りあ げるのが良いと考えられる。この部分を実践した例については、次に述べる。第2分野では、2 年生では動物の体のつくりにおいて生命倫理の問題、天気について取りあげる部分で天気予報と 社会との係わり等が適当であると考えられる教材である。3年生では、生物のつながりにおいて 地球環境の問題、地震・岩石等大地の変動を取りあげる部分では地震と防災について等の教材が

考えられる。

5.2.STS教育の実践

我々が中学校理科において行った、エネルギー問題についてのSTS教育の実践例を示し、中 学校理科へのSTS教育導入について評価する。

5.2.1.授業方法

今回取りあげたのは発電などのエネルギー源の問題である。この問題は、酸性降卜物、二酸化 炭素の増加、原子力問題など現在のSTS問題の多くと係わるからである。また、この問題につ いては中学校の理科の教科書でも取りあげられているが、いろいろな発電方法の違いが記述され ているのみである。

実践は中学3年生6クラス(236名)で行った。

次に授業の流れを記す。

1)「ェネルギー問題と私の意見」というテーマを5月に与え、夏休み中にレポートを作制させ た。レポート課題としたのは、生徒一人ひとりが自分なりに資料収集をしたり、考えたりする活 動の時間を十分に確保したかったからである。レポートを書く際には、今の社会におけるエネル ギー源にまつわる問題を自分なりに把握してその問題に関する資料を自分で集めること、それら の資料をもとにして自分なりの意見を書くこと、を生徒に要求した。また、資料については、相 反するようなものをできるだけ多く集めることを要求した。

2)レポート提出後の授業(3時間)

1時間目は、火力発電、水力発電、原子力発電について、簡単に発電方法を示した。2、3時 間目は、火力、水力、原子力、その他の発電方法について、生徒のレポートから資料を抜粋した プリントを作り、それを書いた生徒に説明させながら、それぞれの発電方法の利点と問題点につ

(9)

いてまとめさせた。

5.2.2.レポートに取りあげられた問題点と資料について

レポートは、3年生全236名中207名が提出をした。レポートは、エネルギー問題に関するもの であればどのような問題を取りあげても良いとしたが、そのほとんどが発電に関する問題につい て書かれていた。その中でも原子力発電に関して取り上げられてものが多く、表2に、各レポー トに取り上げられた発電方法の数を示すように、原子力発電の問題点を取り上げたレポートは、

207本中159本(76.8%)であった。レポート課題を出した時期は、高速増殖炉(もんじゅ)が日 本で初めて臨界に達した時期であり、新聞、テレビでその問題点が大きく報道されたことも関係 するのであろうが、やはり生徒は原子力問題がエネルギー問題の最重要課題であると捕らえてい るのだろう。また、それぞれの発電方法については、ほとんどのレポートで利点と問題点の両方 が取りあげられていた。

生徒達がレポートに用いた資料は多彩であった。表3に生徒が集めた資料の種類とその入手先 を示す。資料の種類としては、図書館で借りた本が一番多かった。新聞も家庭にあるだけでなく 図書館で調べるなど、207報中150報が図書館を利用した資料をもとに書かれていた。最近はどの 市町村においても公共の図書館を充実させている。中学生にとって図書館が身近な情報源であり、

生徒に入る情報の幅を広げていると言える。また、電力会社や発電所に資料を入手するために出 向いた生徒もいた。このように、本実践では考える源となる資料は生徒自身に集めさせたが、多 くの生徒が積極的に資料を集めることに取り組むことができた。そして、中学生でも多方面から の資料を集められることが分かった。

表2 レポートに取り上げられた発電方法 提出数 207 取 り上 げ た ことが ら 本 数 割 合 (% ) 原 子 力発 電 の利 点 1 4 3 6 9 . 1

問題 点 1 5 9 7 6 . 8 火 力発 電 の 利点 6 2 3 0 . 0

問題 点 4 3 2 0 . 8 水 力発 電 の 利点 5 5 2 6 . 6

問題 点 5 8 2 8 . 0 太 陽光 発 電 に つ い て 2 9 1 4 . 0 風 力発 電 に つ い て 2 2 1 0 . 6 地熱 発 電 に つ い て 1 0 4 . 8

表3 生徒がレポートに用いた資料と その入手先

図 書館   1 2 4 名 1 6 3 名 自宅      2 9 名 購入       9 名 そ の他     1 名 新 聞 自宅      7 7 名 1 0 3 名 図書 館     2 6 名 八°〃 レット類 入手 に行 った 1 5 名 3 5 名 偶然 も らった 1 4 名 自宅       6 名

5.2.3.レポート作製による生徒のエネルギー問題に対する意見の変化

レポートを書くことにより、生徒のエネルギー問題に対する考えがどのように変化したかを、

(10)

生徒の主な関心事である原子力発電の問題で考える。図1は、レポートの課題を出す前の4月と、

レポートを提出し終わった同年9月に、原子力発電に対する生徒の考えを選択法で調べた結果で ある。この結果を見ると、レポートを作成する前後で、原子力発電に対して賛成の者の数はほと んど変わっていない。レポート前に賛成意見を持っている者は、その時点で利点と問題点などを 考え、しっかりとした自分の意見を持っていることが考えられる。原子力発電に対して反対の者 の数はレポートを作製することにより10%近く減少した。これらの者は、レポート作製前には余 り深く考えていなかったと考えられる。資料を集め、じっくりと考えることにより、意見が変わっ たのであろう。レポート作製前後で大きな違いが出たのは、良く分からないという者の数と、ど ちらとも言えないという者の数である。どちらも賛成でも反対でもないというのである。しかし、

両者には大きな違いがある。良く分からないというのは、賛成・反対の基準を持たないというこ とであり、どちらとも言えないというのは、その利点と問題点の両方が分かるが、自分の中で、

どちらにも軍配が揚げられず、判定がつかないという事である。これは、利点と問題点の両方を 考えていることであり、意恩決定の萌芽と考えられる。原子力発電の賛否は、高度な社会的問題 であり、大人でも簡単に結論は出ない。中学生においては、簡単に結論を急がせるより、これか らもそのことについて考えて行くようになることが大切である。そのように考えると、今回、こ のレポートを書かせたことにより、これらの問題に対してより深く考えていくきっかけを与える

という目的は十分に達成できたと考えられる。

5.2.4.レポート後の授業について

レポート提出後の授業では、生徒のレポートから資料を抜粋したプリントを用いて各発電方法 の利点と問題点をまとめさせた。生徒に自分の集めた資料の説明をさせたが、生徒はそのような 授業形態に慣れていないためか資料を読むだけになり、授業者が補足をすることが多かった。従っ て、これらの問題について生徒が討論してより考えを深めるというような授業にまでは発展でき

なかった。しかし、レポート提出後に授業を行うことによってレポート作製時には一部の生徒だ けしか気づかなかった事柄について理解を深めることができた。例をあげると、レポート作成後 でも水力発電について、多くの生徒は燃焼を行わないので環境を汚さず、原料費がいらないので 安価であると考えた。しかし、水力発電はダムや道路の建設費が多くかかり、決して安価でない ことや、ダム・道路の建設により自然環境が多く破壊される。その事をクラスメートの資料で初 めて知った生徒がほとんどであった。

5.2.5.STS授業の評価

レポート作製と授業の両方を行った2クラスの生徒について、それらの前後で生徒が理科に対 して持っているイメージをSD(Semantic Differential、意味尺度)37)法で調査した。

調査結果は各形容詞対ごとに、悪いイメージを示すと考えられるものから良いイメージを示す と考えられるものにかけて1〜5の数値を与えて統計処理を行った。その結果を図2と表4に示 す。t検定を行うと、(かんたんな−むずかしい)と(たいせつな−どうでもよい)に有意差が みられた。今回のエネルギー問題に対する実践の後で、生徒が理科に対して持っイメージが「む ずかしい」けれども「たいせつな」に変わった。生徒達は、大人でも判断が難しいエネルギー問 題に対して自分なりの判断をせまられた。通常の課題レポートや授業よりも難しいと感じて当然 だろう。しかし、生徒達はこれらの活動を通して理科の授業が大切であると実感していったので

(11)

ある。生徒達に理科授業の意義を実感させるという今回の実践の目的は十分達成できたと考えら れる。

4月      9月

国費成  因どちらともいえない 囚反対  国よくわからない 図1原子力発電に対する生徒の意見 表4 イメージ調査の結果、平均値(標準偏差)

授 業 前 授 業 後

たのしい 2 .7 7 (1 .1 5 ) 2 .7 3 (1 .0 7 ) たいせつな 3 .5 6 (0 .8 7 ) 3 .9 0 く0 .8 2 ) あかるい 2 .7 3 (0 .8 4 ) 2 .6 9 (0 .9 1 ) おもしろい 2 .8 5 (1 .2 6 ) 2 .9 4 (1 .1 0 ) すき 3 .0 0 (1 .2 2 ) 2 .7 9 (1 .1 4 ) よい 3 .0 3 (0 .8 9 ) 3 .1 6 (0 .7 9 ) へんかのある 3 .2 8 (0 .9 0 ) 3 .3 8 (0 .9 8 ) らくな 2 .7 2 (0 .7 2 ) 2 .5 7 (0 .7 7 ) けんきがでる 2 .3 2 (0 .8 0 ) 2 ,3 8 (0 .8 5 ) たんとゆんな 2 .3 2 (0 .9 0 ) 2 .0 8 (0 .8 5 ) かんたんな 2 .4 7 (0 .9 6 ) 2 .1 1 く0 .8 3 ) のんびりした 2 .8 1 (0 .7 9 ) 2 .8 0 (0 .7 3 )

HHHH・ レポート什dll S TS授tt

図2 SD法による、生徒が理科に 対して持つイメージ調査の結果

(平均値)

6.まとめと今後の課題

本報告では、最初にSTS教育について簡単に紹介し、日本の中学理科においてSTS教育が 広まらない現状について考えた。まとまったSTS教育を行うには、学習指導要領が変わる必要 があるが、現状でもその目的には添いうることを述べた。いずれにしろ、教師一人ひとりがST S重視の考えを持っことが必要である。中学校理科に導入する意義をこれからの市民育成に不可 欠な科学・技術に対する見識づくりと理科を学ぶ意義を実感させるという2つの視点を考え、中 学生にSTS教育を行う場合について考えた。そのためには科学・技術が社会に及ぼす影響の利 点と問題点の両方を生徒にじっくりと考えさせる場の設定が不可欠であり、そのための資料も自 分で集めさせるべきであると考えた。現在の中学校理科においてはそのようなことを行う時間的 余裕は無いので、ホームワークにならざるを得ない部分が多いのはやむを得ないだろう。

それらのことを考えた上で、実践として中学3年生にエネルギー問題についてのレポート課題

(12)

を出した。すると、電力会社に資料請求したり身近な新聞や図書館などを利用したりして資料を 集めた者が多く、中学生においても資料収集の範囲が広がっている事が分かった。また、原子力 発電について考えた生徒が多かったが、レポート作製をすることにより、原子力発電の賛否をはっ きりと自覚しないまでも、利点と問題点の両方を考えられるようになった生徒が多くなった。生 徒のレポートを資料にした授業を行うことにより、少数の生徒しか気づかなかったような問題を 多くの生徒が理解することができるようになった。そして、レポート作製と授業の前後で理科に 対するイメージ調査を行ったところ、理科授業は、難しいが大切であるというようにイメージが 変わった。このように、本報では、エネルギー問題に関する実践に留まったが、最初考えたST S教育を中学校理科に導入する目的は達成される事が確かめられた。今後は第2分野や1、2年 生においてどのようなSTS教育が可能であるかを考えていき、実践して行く必要がある。また、

今回の実践において、中学校理科にSTS教育を導入する事の大切さが改めて確認されたと考え るが、問題は、教師の意識である。理科の教師、また社会科や技術家庭科、保健体育科などの教 師もSTS教育の大切さを理解する必要がある。それら、教師の意識の調査並びに啓蒙活動が今 後の大きな課題である。

参考文献:

1)中島秀人:「私のSTS観」,『Year,Book 90』,PP32−44,STS NetworkJapan,1991

2)Waks L.J.:Critical theo7ワand curriculum practicein S77S education,Journal of Business Ethics,8,PP20ト207,1989

3)小川正賢:『序説STS教育』,Pp20,1993

4)B.ゲッセン(秋間実はか訳):『ニュートン『プリンキピア』の社会的,経済的根源』,

法政大学出版局,1986

5)成定薫:『科学と社会のインターフェイス』,p125,平凡社,1994

6)J.D.バナール(坂田昌一ほか訳):『科学の社会的機能』,勤章出版,1981 7)T.クーン(中山茂訳)二『科学革命の構造』,みすず書房,1971

8)前掲5)pp113−154

9)大洲隆一郎:「STSカリキュラムに関する基礎的研究1」,『日本理科教育学会研究紀要』,

Vol.31,No,3,1991 10)前掲3)pp9−12

11)小川正賢監修:『科学・技術・社会(STS)を考える』,東洋館出版,1993

12)SolomonJ∴ScieTWe andsociety studuesin the schooIcurriculum,SchooIScience Review,62,pp213−219

13)LewisJ L.:ScienceinSociety,Physics Wducation,13,PP340−343,1978

14)長尾雅史他:「21世紀の科学技術社会に求められるライフスキルの研究」(1),『日本理 科教育学会第45回全国大会発表予稿集』,日本理科教育学会,1995

15)NationalScience Tearchers Assotiation:Science−Tbchnology−Society:ScienseEducation for the1980S.Position Paper,National Science Tearchers Assotiation,1982

16)Namio NAGASU:Ⅵ兢atis S7S Approach,Bulletin of Sciety Teaching Vol.33 No.2,1992

(13)

17)文部省:『学習指導要領』,pp46−62,大蔵省印刷局,1989

18)梅埜国男:「理科教育におけるSTS教育の役割」,『Year−Book 90』,pP89−96,STS

NetworkJapan,1991

19)中学用「理科」,啓林館,1993 20)中学校「理科」,大日本図書,1993 21)「新しい科学」,東京書籍,1993

22)諸橋清一:「イギリスの大学教育SISCON projectについて」,科学教育研究,Vol.7,No.3,

ppl13−120,1983

23)日本理科教育学会:『理科の教育』,Vo142,No.11,pp8−36,1993 24)前掲3),pp36−37

25)前掲3),pp10−11 25)前掲14

26)前掲15,p1 27)前掲15,pp17−36

28)久田隆基ほか:「理科に対する好嫌調査(2)」静岡大学教育学部研究報告(教科教育学編),

No.22,pp.71−100,1990

29)石田文章・松村佳子:「理科のイメージを高める授業作り」,『理科の教育』,Vol.45No2,

pp56−60,日本理科教育学会,1996

30)科学技術庁:『科学技術自書』,大蔵省印刷局,1993

31)松村佳子:「学校における理科学習と成人後の生活意識との関わり」,『日本理科教育学会研 究紀要』,Vol.32No.1,pp59−65,1991

32)大高泉:「理科教育の目標」,『理科の教育』,Vol.44No7,pp8−11,1995

33)杉村健:「小学校における教科別の学習動機の分析」,奈良教育大学教育研究所紀要,

Vol.28,pp45−52,1992

34)杉村健はか:「小学生における教科学習の目的」奈良教育大学研究所紀要,Vol.29,

pp159−166,1993

35)前掲3)に示されたSTS教育実践のほとんど。

36)前掲3),pp36−37

37)岩下豊彦:『SD法によるイメージの測定』,川島書店,1983

参照

関連したドキュメント

ア詩が好きだから。イ表現のよさが 授業によってわかってくるから。ウ授

はい、あります。 ほとんど (ESL 以外) の授業は、カナダ人の生徒と一緒に受けることになりま

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から

具体的な取組の 状況とその効果 に対する評価.