中学生のメタ認知育成のための振り返りシート活用 の実践的研究
著者 重松 敬一, 吉岡 睦美
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 61
号 1
ページ 121‑133
発行年 2012‑11‑30
その他のタイトル Practical Research on Reflective Sheet for Fostering Metacognition in Junior High School Mathematics
URL http://hdl.handle.net/10105/9045
Bull. Nara Univ. Educ., Vol. 61, No. 1 (Cult. & Soc.), 2012
中学生のメタ認知育成のための振り返りシート活用の実践的研究
重 松 敬 一 奈良教育大学数学教育講座(数学科教育)
吉 岡 睦 美 奈良教育大学附属中学校
(平成24年5月7日受理)
Practical Research on Reflective Sheet
for Fostering Metacognition in Junior High School Mathematics
Keiichi SHIGEMATSU
(Department of Mathematics Education, Nara University of Education, Nara 630-8528, Japan)
Mutsumi YOSHIOKA
(Department of Mathematics, Attached Junior High School, Nara University of Education, Nara 630-8113, Japan) (Received May 7, 2012)
Abstract
In this paper, we discuss the case study of mathematics education for fostering students’
metacognition in Junior High Schools using ‘Reflective Sheet’(the Math Journal).
The metacognition is rather than direct action on the environment and the perception that target cognitive function and cognitive recognition of that, and say what happens in the mind. This concept is derived from the study of memory development in math education where solving problems with knowledge and skills.
Recently, there are many teachers in Junior High School who request for students to write the math journal writing at the end of a lesson, but they don’t have aware of fostering students’
metacognition using it.
Through this case study, we have checked the teacher’s and students’ metacognition using our metacognitive questionnaire and students’ cognitive and metacognitive attainment of mathematics using Reflective Sheet. Especially, we use the metacognitive questionnaire under the hypothesis that the formation of student’s metacognitive actions are internalized according to the teacher’s utterances ( Explanation, Questions, Indication and Assessment). On the other hand, Reflective Sheet is formed to check students’ cognitive and metacognition attainment.
As a result, we obtain certain points of view in implementing mathematics education and tasks as follows:
1. Teachers’ metacognition influenced strongly to students’ metacognition through teachers’
utterances.;
2. In metacognitive questionnaire, there are many different patterns in students’ metacognition.;
3. Even if students’ academic attainment are high, sometimes they have negative metacognition.
We have studied some real situation on students’ metacognition in Junior High School using
‘Reflective Sheet’. Finally, we propose the seven steps to get students’ metacognition which foster and transform them.
キーワード:中学校数学、メタ認知、振り返りシート Key Words : Junior High School,Metacognition, Reflective Sheet
1.はじめに
実践的には無意識であっても、生徒のメタ認知の育成 に有効な指導事例が多くみられる。しかし、それがメタ 認知の育成の視点から反省的に見られることは少なく、
それだけに、多くの先生方の実践に活用されることが少 ない。そのような事例は、小学校に多いが、本稿では中 学校の数学学習に注目して、メタ認知の育成の視点から 生徒の記述を評価し、改善を含めて活用の展開を提案し てみたい。
とくに、今回、中学校のメタ認知に関する育成の実践 事例に着目したのは、生徒の授業感想や授業コメントの 記述の事例は多くなってきているものの、それをメタ認 知の育成の視点から実践的価値を述べたものが少ないた めである。
実際、最近は、資料1のように、教科書の記述の中で もノートなどに感想を書かせることを促すものが現れ、
より生徒の反省的な記述には注目されてきているが、メ タ認知の育成の視点から論じたものが少ない。(引用
(1))
このように、今日、生徒の反省的な記述の機会が増え たことを踏まえて、メタ認知の育成の視点から改善の提 案を考えたい。結果として、生徒の反省的な記述からメ タ認知の育成が促されることによって、より生徒の自律 的な数学学習が促されると考えられる。
本稿では、メタ認知や研究の概要をまとめ、ある中学 校での「振り返りシート」に着目し、振り返りシートに よるメタ認知の育成を実践的な視点から検討し、中学校 におけるメタ認知の育成の意味を分析し、実践的な改善 を述べてみたい。
2.メタ認知研究の概要
問題解決における思考の中には、次の2つの側面が認 められる。
① 問題に対する直接的な解決行動としての思考活動
② この直接的な解決活動をコントロールしようとする 間接的な解決行動としての思考活動
ここで、上の2つのうち①の思考活動を認知といい、
この認知をコントロールする活動をも含めて、②の活動 がメタ認知(metacognition)といわれる。
認知は、狭い意味では、知覚と同じとみられるが、算 数・数学の学習では計算する、測定する、作図する、グ ラフをかくというような、環境に対して直接働きかける 数学的活動に作用する知識や技能をも含めた認知作用を 意味する。これに対して、知識や技能がうまく活用され ているかなど、その認知作用を調整する作用がメタ認知
である。このようにみると、メタ認知は環境に対する直 接的行動というよりは、認知を対象とする認知作用、つ まり認知についての認知であり、頭の中で起こるものと いえる。
記憶発達研究に由来するこの概念が、数学教育では、
「知識・技能をもっているのに問題が解けない」という 研究課題に応えるものとして1980年前後から注目されて きた。
例えば、算数・数学の学習不振の子どもに対して、同 じ内容を繰り返し説明したり、試験したりする指導がよ く行われる。子どもは、その場では内容を理解し、練習 問題もでき、定着したような反応をしめす。しかし、一 週間もすれば、その内容をすっかり忘れていることがよ くある。この場合、記憶の悪さばかりではなく、算数・
数学に対する自信のなさ、記憶に対する自信のなさなど が影響して、記憶の剥離現象を促進していることがある。
この例からわかるように、メタ認知は、関数や図形と いった問題領域に依存する知識・技能とは違い、問題領 域に依存しない部分を有する能力としても注目されてい る。
これらのメタ認知的知識を、それが思考過程により有 効に機能する肯定的なメタ認知的知識と、逆に阻害的に 機能する否定的なメタ認知的知識とに区分している。そ して、認知(行動する自己)とメタ認知(もう一人の自 己)の関連は次の図1のように考えられる。
また、認知とメタ認知、および、メタ認知的知識とメ タ認知的技能の論理的関係を三段論法肯定式によって説 明できる。特に、メタ認知が生起している過程を「モニ ター→自己評価→コントロール」というサイクルでモデ ル化できる。(文献(1))
3.メタ認知と実践について
3.1.メタ認知の育成の枠組み
平林・重松(1986)は、メタ認知の育成のプロセスを とらえて、メタ認知のことを「内なる教師」(inner teacher)
と表現している。算数、数学の学習でのメタ認知は、子 どもにとって教師となる者(学校教育では教師、時には、
友人、自分であることもあり、家庭、社会では各々の教 図 1 認知とメタ認知との関連
師的存在の人)の影響が内面化することによって形成さ れていくと考えられるからである。(文献(2)) 重松・勝美ら(1993)は、これらの考察をもとに、次 の7段階による「メタ認知の内面化モデル」を作成し、
その過程を図2のように表している。(文献(3))
① 子どもが、聞く気持ちになっている。
② 問題解決の前やその途中に、教師の適切なメタ認知 的アドバイスがある。
③ 子どもが、教師のメタ認知的アドバイスを一時的に 記憶する。
④ 問題場面でアドバイスされたメタ認知を使って、子 どもが情動的にも認知的にもよい問題解決の経験がで きる。
⑤ 子どもが、そのメタ認知を記憶する。
⑥ 子どもが、別の類似問題をこのメタ認知を使って解 くことができる。
⑦ 子どもが、このメタ認知を「内なる教師」として獲 得する。
3.2.教師のメタ認知的支援
子どものメタ認知を育成するためには、教師の適切な 支援が必要である。
このことについて重松は、「メタ認知を育成する教師 の役割」として、次の4つを挙げている。
モデルとしての役割:Schoenfeldが挙げたもので、メ タ認知の働きを強調しながら、教師が問題解決の過 程を示すものである。
モニターとしての役割:クラス全体での話し合いや机 間観察個別指導の際に、子どもの問題解決を吟味し、
子どものモニターの役割を教師が代行し、助言する。
評価者としての役割:子どもの問題解決の結果をメタ 認知的知識と照合して直接的に評価し、子どもの自 己評価の役割を教師が代行する。
コントローラーとしての役割:子どもの自己評価の結 果にもとづいて、コントロールを教師が代行する。
3.3.メタ認知を育成する実践
育成したいメタ認知の内容を教師が示して子どもが復 唱する指導は以前から行われてきた。
重松・勝美らは、日常の算数指導で継続的に実践でき る「算数作文」によって、中学年の児童へのメタ認知的
支援を図る具体的な指導方法を4つのステップに分けて提 案している。
① 「算数作文が書ける環境を整える」
② 「段階に応じた適切な支援をする」
③ 「算数作文をかくことのよさを実感させる」
④ 「算数作文を書くことの習慣化をはかる」
そして、このような実践を行うことの効果を、算数作 文指導に初めて取り組む教師によって検証している。こ の方法は、継続的に赤ペンを教師が入れることを通して、
子どもと教師の相互作用的な効果がある点に特徴がある。
つまり、一回一回の作文では認識できないような子ども の変化を継続的に分析することを通して捉えることがで きたり、教師の方から積極的により望ましいメタ認知を 引き出すコメントを子どもに返すことができたりするの である。(文献(1))
4.N中学校での指導の概要
著者の一人である本研究での指導教員の吉岡は、数学 の授業を進める上で、生徒に「知識」を伝える人だけで なく、教科教育の専門家としての哲学を持った人になり たいと考えている。そのためには、教科以外の書籍を読 むことや、他の教科の授業を参観することも重要だと考 えている。
実践的には、個に配慮した学びの場を設定するために ノート指導を通じて、生徒―人ひとりの考えていること をつかみ、コメントを通して数学を豊かに指導するよう 心がけている。数学の授業を通して開かれた学習集団を 育成し、他人の前で遠慮せず意見を発表できる雰囲気作 りを心がけている。
また、授業中は指導者として積極的にメタ認知的言語 活動を行い、生徒のメタ認知の育成を支援したいと考え ている。そこで、授業に関して目標を具体化し、評価を はっきり数値化することも、教師にとっても生徒にとっ ても大切なことだと思っている。目に見えにくいメタ認 知の育成に関する評価については、資料2のような個人 評価表(「振り返りシート」)の記入内容を通して行って いる。
さらに、メタ認知の育成を意識して次の6つの学びを 大切にして授業を進めている。
① 練習の場と実際の場が結ばれた達成感のある開かれ た学び
基本的に問題演習の時間を多く取り、まず知識・理解 の獲得に力を入れている。わかる喜び、できる喜びを生 徒が感じ、いろいろな教科での見通しを持って考えるた めの基礎を作りたいと考える。
② 価値ある課題の継続的な探求に支えられた深みの ある学び
図 2 メタ認知の内面化の過程のモデル
数学の学習の価値の1つである「表現力」については 全単元を通じて重点的に指導している。具体的には、自 分の頭の中で考えたことを途中の式、考え方等で、人に 説明する力を身につけさせたいと考える。
③ 主体的な学びと評価活動に支えられた成長の自覚の ある学び
定期テストでの点数評価だけでなく、学習の記録とと もに「世界に1冊の参考書」を作ることを日標としてノー ト指導を行っている。ノートは、最初は板書をそのまま 写す作業だけでもよいと考える。次第に授業中にいろい ろな他人の考え方をまとめたり、自分の考えをメモした りして、自分自身の学びを形あるものにしているかどう かを評価し、ノートの内容の質を向上させたいと考える。
④ 「わかる」楽しさと「できる」喜びのある学び 「わかる」楽しさは授業中に口答発表や黒板での板書 発表を通して感じてほしいと思っている。わかったつも り、できたつもりの「つもり学習」にならないように問 題演習を通して「できる」喜びを感じられるようにした い。
⑤ 一人ひとりの学習者の願いや興味・関心の生かされ た学び
個人評価カードである「振り返りシート」の記入内容 を授業中に点検することによって生徒がわかりにくい所 や興味・関心を持っているところを中心に授業を展開す るように心がけている。
⑥ 協同的な学び合いによる相互啓発のある学び 生徒の意見と教師の意見で授業を構成するために一つ の課題について学級全員が発表したり、男女ペア学習を して他人の意見をしっかり聴き自分の考え方を振り返る 場を設けるように心がけている。(文献(4))
5.振り返りシートについて
指導を進めていくには、生徒の内面における活動に対 しての評価が求められる。評価は学習活動を支援し続け る連続的な行為であると同時に、いつでも教師の次の指 導に向けての出発点になる大切なものである。すなわち、
生徒―人ひとりに対して自らの活動に対する示唆を与え、
一方では教師の指導方法の改善に資するものである。そ れだけに指導計画や指導内容にも循環的にいろいろな機 会と場面を作って、フィードバックできるよう意識的に なされなければならない。
特に、教師は、生徒一人ひとりの学習活動を見守り、
例えば
・説明を聞くときの様子(視線や表情)
・生徒のつぶやきやわかったときのうなずき ・教師の質問に対する応答の態度
・グループでの意見交換の様子
など、こうした反応について必要に応じて随時、丁寧な 記録も取らなけれぱならない。自分で予想したことと異 なる結果が導かれたり、誤りを積極的に修正しようとす るとき、特にその生徒の人となりが現れる。このような 機会を見逃すことがないよう、学習の過程においても、
その学習場面で特に観察することが必要な事項があれば、
明記して評価できるようにしたい。
このような学習の過程については、教師がすべて記録 することは難しいので、生徒の自己評価カードなどを活 用している。
2008年から2010年まで3年間数学を担当した生徒は第 1学年から個人評価カードである「振り返りシート」を 記入している。この振り返りシートの数学成績表の「授 業での学び」の各項目の記入内容やねらいについて述べ る。資料2は2010年度の3学期の「ふりかえりシート」
の記入例である。
① 回数
授業の回数の数字を記入する欄である。
② 授業日
授業があった日付を記入する欄である。①と②は欠席 した場合などノート内容の充実に向けて、生徒同士がノー ト内容の情報交換がしやすいための配慮でもある。
③ あっそうかと思ったことを自分なりの言葉で記入 授業を受けた後に授業内容を振り返り、気づきを自分 なりの言葉で記入する欄である。記入内容から、生徒の メタ認知の程度をつかむことをねらいとしている。
④ 予習
授業前に学習内容を予習してきたかを評価する欄であ る。Aは十分満足できる、Bはおおむね満足できる、C は努力を要する、という3つのレベルを生徒自身が判断 し評価する。予習を通して、学習内容に対して課題意識 を高く持った状態で授業に臨んで欲しいということをね らいとしている
⑤ 準備着席
毎時間、準備物を机上に準備してチャイム着席ができ ているかを評価する欄である。時間を守ることができて こそ、お互いにいい授業を展開できることをねらいとし ている。
⑥ 言う(口頭発表)
授業の中で口頭発表したかどうかを評価する欄である。
着席したままの「つぶやき」も黒板の前での問題の「解 答説明」でもよい。他人の前で自分の意見を発表する力 を育成することと発表しようとする態度を見ることをね らいとしている。
⑦ 書く(黒板発表)
授業の中で黒板で発表したかどうかを評価する欄であ る。他人の前で自分の意見を表現する力を育成すること と表現しようとする態度を見ることをねらいとしている。
⑧ 聞く(私語せず聞く)
人の意見をきちんと聞いているかを自分で判断して評 価する欄である。他人の意見をしっかり聞こうとする態 度を見ることをねらいとしている。
また、「学期での学び」はその学期で学んだ「単元の 学び」について、単元の学習内容と日常生活との関係や 単元の学習をして身についた数学的な力などを記入する 欄である。
毎日や単元毎、あるいは学期の終わりに振り返りシー トに認知的達成と共にメタ認知的達成についても記述す るように促すことによって、生徒自身のメタ認知を育成 することをねらいとしている。
振り返りシートは、「授業での学び」は授業開始5分後 や、授業終了5分前は振り返りや記入する時間を確保し ている。記入できていなくても振り返りシートは授業開 始後5分たてば全員回収し、生徒が板書発表や問題演習 をしている時間を利用して記入内容の点検を授業中に行 う。その点検中に生徒の記入内容のなかでメタ認知の内 容があれば紹介し、知識・理解の内容のみ書いている生 徒に対するアドバイスをする。また授業内容に関する疑 問や授業方法に対する要望も授業中に紹介し、机間指導 中に疑問を書いた生徒に個別指導するなど、できるだけ その日のうちに解決できるように指導者として努力して いる。
毎回の生徒の記入内容の点検に要する時間は3分もか からないので、振り返りシートは授業中に返却し、授業 終了5分前の振り返りの時間には間に合うようにしてい る。(文献(4))
6.メタ認知アンケートによるメタ認知の測定
重松は、教師の言語行動が内面化して子どもたちのメ タ認知が形成されるという仮説のもとに、教師の言語行 動(説明、発問、指示、評価)を収集しメタ認知を捉え るための質問紙を作成した。資料3に生徒用のマーク シート方式のものを示している。
そして、この質問紙による調査の結果の分析によって、
教師の言語行動と生徒のメタ認知との関連、子どものメ タ認知の発達的変容などを明らかにしている。とくに、
表1にあるように、子どもの記述をメタ認知発達段階表
に照らして判断し、それぞれの記述がより上位の段階に 移行するように指導することが望ましいと考えている。
7.振り返りシートによる学習指導の実践的な検討
7.1.指導教員のメタ認知アンケート調査結果
指導教員の数学指導時の言語行動におけるメタ認知的 発言を次の方法で調査した。
目的:教師のメタ認知的発言と学習との関係を明らか にする。
方法:次のアドレスにアクセスして、アンケートに回 答する。
http://reas2.code.ouj.ac.jp/cgi-bin/WebObjects/top 「回答のページへ」を選択する
ID 12897、 パスワード 2951を入力する 「調査票回答」をクリックする
各質問に記述や選択肢で回答する 最後に、「完了」をクリックする
この調査の結果、60項目のメタ認知の発言項目に対す る肯定的項目(選択1,4)と否定的項目(選択3,6)
は表2のようになった。
例えば、
(肯定)「わからなくなったら、別の方法を考えてごらん。」
(否定)「覚えなければならないことは覚えなさい。」 このように、指導教員は、大半の項目において生徒に 対して肯定的なメタ認知を育成しようとしている。
7.2.指導教員の授業中におけるメタ認知的言語行動 指導教員のメタ認知的言語行動を分析するために、こ こでは、資料4のような発言リスト例をもとに、最近の 授業のプロトコールを参照した。
平成24年3月13日
2年3組「資料を活かして考えよう②」
展開 注目するグラフの代表値を調べる 班ごとに注目した内容を発表する
平均値、中央値、最頻値で判断する基準を持つ 教師のメタ認知的発言
「発表はお手本になるように工夫してお願いしま す。」
「他の班の発表を参考にしながら発表して下さい。」 「メモはできていますか?」
特定の問題解決に関する記述の段階 A
特定の問題解決と結果についての理由を記述した段階 B
特定の問題に対する自己の内面的なメタ認知を記述 C した段階
特定の問題からの疑問や類推・一般化を図る段階 D
より一般的なメタ認知的知識が記述される段階 E
表1 メタ認知発達段階表
項目数 回答
42 1,4
肯定
2 3,6
否定
表2 指導教員の肯定的・否定的メタ認知項目数
「アンダーラインしてもらったら分かりますか?」
今回の授業では、方略に関するメタ認知に関する発問 に限っていたが、振り返りシートや教師のメタ認知アン ケートの回答にあるように、課題や自己に関するメタ認 知的発言にも注目している。
7.3.生徒のメタ認知アンケート調査結果
本来は数学の学習前後でメタ認知の変化を測定するの が望ましいが、今回は学習後、しかも、生徒の大学研究 室訪問で調査可能であった13名の生徒のみを実証の対象 として測定した。
13名の生徒の結果の肯定的項目と否定的項目に注目し て整理し直すと表3のようになる。
なお、対象とした13名の第3学年学年評定は、表4のよ うになる。
7.4.13名の生徒の振り返りシートにみるメタ認知調査結果 生徒の自らの振り返りの記述項目は、下記のように、
授業での学びでの「あっそうかと思ったことを自分なり の言葉で」、学期での学び、3年間での学びの記述内容 に注目した。
この結果、13名の第3学年の振り返りシートを分析す ると次のような課題、自己、方略に関するメタ認知的知 識に関して共通点が見いだせた。
・方略に関するメタ認知的知識 「予習が大切」
「文から仮定と結論を見いだす」
「表にまとめると見やすい」
「やりきることが大切」
「考えぬく力が大切」
「自分で考える=予習、みんなで=授業」
「ノートの力①書く力、②聴く力⇒判断力」
「シンプルかつていねいに」
「手ぎわよく求めるには…」
「問題文を読めば発見がある」
「数学は公式とかたくさんあって大変だけど、分 かった瞬間や解けた瞬間、見えた瞬間あるのでと りあえずやってみようと思います。分からなそう な問題に出会ったとしても解けるところまで解く ことができたらいいなと思いました」
「エレガントに解く。→はやく解ける」
「簡単な方をつねに考える」
・課題に関するメタ認知的知識
「特に数の問題では、隠れた条件に注意すること」
「図形を見る感覚を身につけたらいいなと思う」
「答え方がたくさんある問題がある」
「小テストはだんだん難しくなっていくけれど基 礎を大切に」
「判断力をつけるために統計を取り組む」
「応用ができるととても便利」
「数学は1つのストーリーだ!」
「理科と数学は深く関連している」
「数学を学ぶことで、世界を数学的に見る力がつい た」
・自己に関するメタ認知的知識 「提出物はカンペキにする」
「自分からやろうとする力をつける」
「小テストの計算ミスをなくそうと思った」
「暗算が苦手でも工夫すればできる!」
「ノート力をつけて卒業!高校でもメモ欄を作って 学びたい!」
「ほじょせんをさっとひけるようになって数学の 天才になりたいです」
「分からないところが分かるのはうれしかったです」
「どこで間違ったかを知ることが大切」
7.5.生徒の振り返りシートとメタ認知アンケートの事例 研究
13名の中から、担当教員と3年間数学を学習してきて、
メタ認知的アンケートで傾向が類似した成績5と3の2 名と類似しない成績5の生徒1名を抽出して、より詳細 にメタ認知的達成を調べてみた。
7.5.1.指導教員と比較的類似の傾向をもった生徒の場合 7.5.1.1.M:数学の評価(上位群)
ア メタ認知アンケートの調査結果
この調査の結果、メタ認知の発言項目に対する肯定的 項目(選択1,4)と否定的項目(選択3,6)は表5 のようになった。
F E D C B 肯定 A
否定
49 17 20 16 33 26 1,4
4 19 12 11 6 25 3,6
M L K J I H G
40 50 20 36 38 34 41
2 1 16 15 4 12 2
表3 13名の肯定的・否定的メタ認知項目数
F E D C B A
4 5 3 4 5 5 第3学年学年評定
M L K J I H G
5 4 4 5 4 3 5
表4 13名の第3学年学年評定
各項目の中での肯定項目数と否定項目数は指導教員と ほぼ同じ数であるといえる。
次の2項目だけが指導教員と肯定・否定が反対になっ ている。これは数学の学びとしてそれぞれ逆の方が望ま しいが、課題や方略に関するメタ認知的知識としてはま だ数学の学びへの不安を持っていると考えられる。した がって、不安を少しでも減らすような教師のメタ認知的 支援と解決経験を味あわせることが大切となる。
(肯定)「数が大きくなっても失敗するなよ」
(否定)「先生と同じ方法で解かなくてもいいよ」
この生徒に対しては、図3のように、「先生と同じ方 法で解かなくてもいいよ。」を否定的な方略に関するメ タ認知とみていることを改善し、より多様な解法を模索 させるメタ認知的支援を今後は考えることが必要であろ う。
イ 振り返りシートにみる特徴
・授業での学び(自分の言葉でのまとめ)
板書など教師の表現を使ってまとめている
3年1学期
(課題)「有理数と無理数がある」
2学期
(方略)「大事から図を考えると想像力アップ」
「シンプルかつていねいに」
3学期
(課題)「こたえはひとつじゃない」
(方略)「さいごまでがんばるとよし」
・学期の学び
「三平方の定理の学習をふりかえって」
(課題)「今までのこととかんれんしているものもあ り、数学という領域が広くなったと思います。
応用ができるととても便利」
(自己)「ほじょせんをさっとひけるようになって数 学の天才になりたいです」
授業での学びでのまとめには、指導教員の板書の丸写 しなどが多く見られ、学習の内容の認知的事実のまとめ に終わっている。
その一方で、学期の学びでは、数学の不思議さなどに も気づいたり、次への学びを考えた記述をしていること から、もっと自分でも工夫できることやその楽しさを味 あわせるためのメタ認知的支援を積極的に行い、自律的 な学びのスタイル習得のための指導を図ることが大切に なる。
7.5.1.2.H:数学の評価(中位群)
ア メタ認知アンケートの調査結果
この調査の結果、メタ認知の発言項目に対する肯定的 項目(選択1,4)と否定的項目(選択3,6)は表6の ようになった。
各項目の中での肯定項目数と否定項目数は指導教員と 比べて、肯定が減って、否定が増えている。
次の3項目だけが指導教員と肯定・否定が反対になっ ている。これは数学の学びとしてそれぞれ逆の方が望ま しいが、課題や方略に関するメタ認知的知識として、ま だ数学の学びへのチャレンジや自分で分かるように努力 することが少ない。したがって、あきらめずに辛抱強く 取り組んだり、時には、チャレンジさせるような教師の メタ認知的支援と解決経験を味あわせることが大切とな る。
(否定)「これが最大の難関だぞ」
「問題をわかりやすく変えてごらん」
項目数 回答
40 1,4
肯定
2 3,6
否定
表5 Mの肯定的・否定的メタ認知項目数
図3 生徒のメタ認知改善の事例
項目数 回答
34 1,4
肯定
12 3,6
否定
表6 Hの肯定的・否定的メタ認知項目数
「わからなくなったら、もう一度初めから読 み 直しなさい」
イ 振り返りシートにみる特徴
・授業での学び(自分の言葉でのまとめ)
1学期
「素因数分解の基本です!」
2学期
(自己)「考えぬくことが大切」
3学期
(課題)「答えは1つとはかぎらない」
・学期での学び
「2次方程式を因数分解したり平方根のはいった 式をとれるようになった」
「図形の相似を利用して相似の証明ができる」
・学年での学び
「2年生と1年生で学んだことを3年生で合わ さって身につけることができた」
以上のように、振り返りシートでの記述が認知的な事 実の内容が多く、それも板書に準じた記述になっている。
「考え抜くことが大切」といったことを手がかりに、ま ずは自分なりの解決を追求するような経験をより多くさ せてみたい。
7.5.2.指導教員と比較的類似しない傾向をもった生徒の 場合
7.5.2.1.A:数学の評価(上位群)
ア メタ認知アンケートの調査結果
この調査の結果、メタ認知の発言項目に対する肯定的 項目(選択1,4)と否定的項目(選択3,6)は表7の ようになった。
各項目の中での肯定項目数と否定項目数は指導教員と 比べて、肯定が大幅に減って、否定が増えている。
次の16項目で指導教員と肯定・否定が反対になってい る。これは数学の学びとしてそれぞれ逆の方が望ましい が、課題や方略に関するメタ認知的知識としてはまだ数 学の学びへのチャレンジや自分で分かるように努力する ことが少ない。したがって、あきらめずに辛抱強く取り 組んだり、時には、チャレンジさせるような教師のメタ 認知的支援と解決経験を味合わせることが大切となる。
(肯定)「覚えなければならないことは覚えなさい」
(否定)「何がわからないから解けないのか考えてみる ことが大切だね」
「答えがきれいになるとは限らないよ」
「問題によっては別解もあります」
「問題によっては答えがいくつもあります」
「与えられた数字をみんな使わなくとも解けま すよ」
「わかっていることは何かな?」
「他の方法はありませんか?」
「理由を説明してくれますか?」
「理由を別の言葉で言うとどうなるの?」
「わからない人にどう説明しますか?」
「どんなやり方でもいいから、答えを出してご らん」
「わからなくなったら、別の方法を考えてごら ん」
「どれがよいか話し合って下さい」
「どんな表現でもよいから説明してみよう」
「例をあげなさい」
これらは一貫して、自分一人で覚えることは覚え、機 械的にでもとにかく解ければよい、という発想が強く、
数学の問題を解くことの意味を今一度メタ認知的支援を する必要があろう。
イ 振り返りシートにみる特徴
・授業での学び(自分の言葉でのまとめ)
1学期
「素因数分解します する!」
2学期
(方略)「大きい図にして図にどんどん書き込んで良い」
「立体と平面にするとわかりやすい」
3学期
(自己)「判断力はむずかしい…」
(方略)「ややこしい立体は分けるのも手」
・学期での学び
「乗法公式や因数分解は楽しくおぼえることがで きて、今では見ただけでどの公式を使うかわかり ました」
・学年での学び
(課題)「図形の勉強はおもしろかったけどむずかし いのは見方をかえなければならなかったので、
がんばった」
「三平方を小学校の頃から知っていれば、あ んなに苦労しなかったのにと思ったりもした。
でも確実に力はついたと思う」
(課題)「相似をみつけて、ごちゃごちゃ。図形を考 えるのはたのしかった」
(課題)「(標本調査は)最も日常生活とからみあっ ていて身近な感じがした」
・3年間の学習のふりかえり
(自己)「とりあえず数学が好きになりました」
項目数 回答
26 1,4
肯定
25 3,6
否定
表7 Aの肯定的・否定的メタ認知項目数
このように、振り返りシートにおいても、問題が解け ることにのみに注意がいっている。数学で大切なのは一 般的というよりも特定の問題を解くための方法の習得が 大切とみている。それだけに、手続き的な知識による処 理に執着する様子が強くみられるが、「とりあえず数学 が好きになった」ことを手がかりに、数学は楽にする、
覚えるものといった意識からじっくり取り組むことの喜 びやチャレンジを経験させたい。
8.生徒のメタ認知的記述による数学の認知的達成への 提案
本稿では、生徒のメタ認知的変容による数学学習の自 律化のためにどのような点に注目していけばよいのかを、
メタ認知アンケート、教師のメタ認知に関する言語行動、
それに加えて、振り返りシートの活用に注目してケース スタディーをしてきた。
本稿ではできなかったが中学校第1学年の最初から計 画的な指導を行い、適切なメタ認知的支援を行うなら、
ケースHにおいてはより高い数学の認知的達成、ケース Aにおいては、高い数学の認知的達成を手がかりに、高 校数学の複雑で総合的な数学の学びにあっても継続的に、
よりチャレンジ的に進めることができると考えられる。
教師は、授業中に、メタ認知に関する言語的行動を行 い、その結果として、メタ認知的な働きによって問題が 解決できるなどの認知的な達成が起こるとして、言語的 行動にのみ注意しがちである。簡単に言えば、言ったか らできるはずだ−と。しかし、メタ認知と認知的な協応 行動は生徒の内面で起こるものだけに、教師が言ったか ら達成に表れるとは限らない。むしろ、すでに述べたこ とでもあるが、教師は生徒の頭の中の心的活動を促すよ うに言語行動を行う必要があるともいえる。
というのも、たとえ、達成が高かった生徒であっても、
教師のメタ認知的な言語行動の肯定と否定とが逆に表れ て、定着する場合もあることが明らかになっている。
むしろ、生徒が自分の心的な行動を表現する振り返り シートに、「このように書いてほしい」ということを意 識して指導することの方が大切なことであると考えられ る。
そのために、次のような指導のシステムの提案をして みたい。
① 教師がメタ認知や育成の理解を図る
② 授業前後、授業中にメタ認知的言語行動を実施する
③ メタ認知的支援のあり方を理解する
④ 第1学年時入学直後の生徒のメタ認知を調査する
⑤ 毎時における数学作文と赤ペン、あるいは、振り返 りシートを活用する
⑥ 毎学年での数学作文と赤ペン、あるいは、振り返り シートを活用する
⑦ 卒業直前での生徒のメタ認知を調査する
9.おわりに
すでに述べたように、実践的には無意識であっても、
生徒のメタ認知の育成に有効な指導事例が多い。その結 果として、生徒のメタ認知的、認知的達成が高いことが ある。しかし、それをメタ認知の育成の視点から反省的 に見られることは少なく、それだけに、多くの教師の実 践に活用されることが少ない。それを意識的な指導展開 のシステムとして本稿では、7つのポイントを提案した。
実際、部分的に有用な事例は、小学校に多いが、本稿で は中学校の数学学習に注目して、メタ認知の育成の視点 から評価し、改善を含めて活用の展開を提案したもので ある。
このように、今日では生徒の反省的な記述の機会が増 えたことを踏まえて、メタ認知の育成の視点から改善の 提案を考えた。結果として、生徒の反省的な記述からメ タ認知の育成が促されることによって、より生徒の自律 的な数学学習が促されると考えられる。
とくに、本稿では、メタ認知や研究の概要をまとめ、
ある中学校での「振り返りシート」に着目し、振り返り シートによるメタ認知の育成を実践的な視点から検討し、
メタ認知の育成の意味を分析し、実践的な改善を述べて みた。
今後は、生徒のメタ認知的変容とそれに伴う認知的変 容を継続的にシステム化することが課題である。
そのために、
・教師がメタ認知の育成の学びを深め、より積極的 にメタ認知的言語行動を行う
・学習前後でのメタ認知を測定する ・生徒全員のメタ認知を測定する ・生徒へインタビューをする 等が必要である。
参考文献
(1) 重松敬一、勝美芳雄(2010)、メタ認知、数学教育学研 究ハンドブック、東洋館出版、平成22年12月(pp.310-317)
(2) Hirabayashi, I. & Shigematsu, K. (1986), Metacognition:
The role of the inner teacher. In Proceedings of the 10th Annual Meeting of the International Group for the Psychology of Mathematics Education, (pp.165-170)
(3) 重松敬一、勝美芳雄、上田喜彦(1993)、数学教育にお けるメタ認知の研究(8)−子どもへのメタ認知の内面化に 関する調査研究−、日本数学教育学会数学教育論文発表会 論文集(pp.97-102)
(4) 吉岡睦美(2002)、豊かな学びを求めた評価、数学への 関心・意欲・態度の評価の改善と工夫一数学成績表(自己
評価表)の指導と評価の一体化−、奈良教育大学教育学部 附属中学校研究集録第32号(pp.76-86)
(5) H22年度学長裁量経費補助研究報告書「自ら学ぶ力」メ タ認知を育てる教育支援HP、
http://www2.nara-edu.ac.jp/CERT/nara-edu/index.html
(6) 重松敬一、勝美芳雄、勝井ひろみ、生駒有喜子(2001)、 数学教育におけるメタ認知の研究(16)−教師によるメタ 認知的支援の枠組み−、日本数学教育学会論文発表会論文 集(pp.373-378)
(7) 重松敬一、勝美芳雄、勝井ひろみ、生駒有喜子(2002)、 算数作文の指導による中学年児童へのメタ認知的支援、日 本数学教育学会誌84-4(pp.10-18)
引用文献
(1) 澤田利夫他(2011)、中学数学1、教育出版(p.6)
資料3 生徒のメタ認知マークシートアンケート(一部)
資料4 授業中におけるメタ認知的支援の発言リスト例
・おもしろい問題だな
・これはいい問題だ
・問題の意味はわかりますね
・少しややこしいね(以下略)
導入
・別解もあります
・問題をよく読みなさい
・できたらよく見直しなさい
・どんなやり方でもいいから答えを出してごらん
・わかるところまでやりましよう(以下略)
個人 解決
・他の方法はありませんか
・なぜそうするのですか
・理由を説明してくれますか(以下略)
集団 解決
・身のまわりでこれとよく似たことはありませんか(以下略)
まとめ