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教職課程に在籍する大学生に対する社会的スキル訓練

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Academic year: 2021

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教職課程に在籍する大学生に対する社会的スキル訓

著者 金山 元春, 小野 昌彦, 宮城 洋平

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 16

ページ 139‑144

発行年 2007‑03‑31

その他のタイトル Social Skills Training for University Students in Teacher Training Courses

URL http://hdl.handle.net/10105/506

(2)

1.問題と目的

社会的スキルとは、円滑な対人関係を形成、保持し ていくために必要な認知的判断や行動に関する技能 で、学習可能なものであるとされる(吉村,2003)。

円滑な対人関係を形成、保持していくために必要な社 会的スキルが不足している個人は、社会的不適応に陥 ったり、心理的・精神医学的問題を抱えたりするリス クが高いことが多くの研究によって実証されている

(相川,2000)。そこで、社会的スキルの学習可能性に 着目し、個人に必要な社会的スキルを学習させること で社会的適応状態を向上させたり、心理的・精神医学 的問題の解決をはかったりするための心理技法として 社会的スキル訓練が開発され、数多くの実践が重ねら れてきた(相川,2000)。その一方で、最近では、特 定の心理的・精神医学的問題を抱えたものだけでな く、一般大衆を対象とした社会的スキル訓練の実践も 報告されるようになってきた(大坊,2005)。

一般大衆を対象とした社会的スキル訓練の実践が報 告されるようになった背景には社会状況の変化があげ られよう。大坊(2005)は、コミュニケーション不全 や人間関係の希薄化が指摘され、多くの人が他者との つきあいで悩みを抱え、人間関係に不安や不満を感じ ている現在では、社会的スキルを高める試みは、社会

的な要請に沿うものであると述べている。また、野口

(2005)は、昨今の大学における学生相談の現場では、

挨拶の仕方や話し方など、大学生の対人関係技能の低 下が指摘されていると述べ、自分の考えや気持ちをう まく人に伝えることができないため、他者とのコミュ ニケーションのとり方に悩む大学生が多いと報告して いる。さらに、中村(2003)は、若者の対人関係能力 が低下している状況の中、大学において対人関係能力 を高めることをめざした授業が必要と指摘している。

本研究では、以上のような指摘と同様の問題意識を もちつつ、大学生の中でも教職課程に在籍する学生を 対象として行った社会的スキル訓練について報告す る。教職課程に在籍する学生を対象とした理由は、以 下のとおりである。

教師の資質の問題が取り沙汰されるようになってす でに久しいが、特に問題と考えられているのが教師の コミュニケーション能力である(教職課程編集部,

2006)。教育は人間関係の営みの中で展開されるもの であり、豊かなコミュニケーション能力は教師にとっ て欠かすことのできない資質といえる。

コミュニケーション教育を専門とし、教師向けのコ ミュニケーション研修を担当している笠井(2006)は、

研修の必要性を次のように述べている。①教師は生徒 と過ごす時間が長いため、どうしても「上から下に向 金山元春(学校法人天理大学)

小野昌彦(奈良教育大学教育実践総合センター)

宮城洋平(奈良教育大学大学院教育学研究科)

Social Skills Training for University Students in Teacher Training Courses

Motoharu KANAYAMA(Tenri University Corporation)

Masahiko ONO(Center for Educational Research and Development, Nara University of Education)

Yohei MIYAGI(Graduate School of Education, Nara University of Education)

要旨:本研究では、教職課程に在籍する大学生を対象に社会的スキル訓練を実施し、その効果を検討した。大学の教 職課程における「生徒指導」の受講生を対象に「挨拶」を訓練目標とした社会的スキル訓練を行った。訓練効果を分 析するために、受講生の挨拶行動を観察した。その結果、「相手に顔を向けて、頭を下げ、再び頭を上げて歩き出す」

一連の挨拶行動を可能にするスキルの発現回数に訓練前後で増加があった。この結果は「挨拶」を訓練目標とした社 会的スキル訓練の効果を示すものであった。

キーワード:社会的スキル訓練 social skills training、大学生 university students、教職課程 teacher training courses

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けてものをいう」態度が身に付いてしまっている。② 学校はコミュニケーション能力を自然な形で身につけ る機会に恵まれない職場である。よって、③研修など で積極的に学ぶ必要がある。ところが、参加者の教師 は、「今さら教わらなくてもちゃんとわかっている」

という認識でいるという。これに対して、笠井(2006)

は、「ではこういう場面を想定して、さあ実際に挨拶 をしていただきましょう」と実際にやらせてみると、

簡単にできると思っていた挨拶でさえ、実際にはとて も難しいことがわかると指摘している。録画され、そ の後VTRに映し出された自分の姿を見て参加者は例 外なく驚くという。笠井(2006)は、人に物を教える こと、指導することを職業としている人ほど、他人か ら改善すべき点を指摘される機会はなかなかないと し、こうした研修の必要性を説いている。

以上の笠井(2006)の指摘にあるように、教師は一 度現場に出てしまうとコミュニケーション能力を磨く 機会がなかなか得られない立場にある。しかも、上述 したように大学生一般のコミュニケーション能力の低 下が危惧される昨今では、現場に出る前に、すなわち、

教職課程の段階で学生のコミュニケーション能力の向 上をはかる教育を行う必要があると考えられる。

そこで、本研究では、教職課程に在籍する学生を対 象に社会的スキル訓練を実施し、その効果を検討する ことを目的とする。

2.方 法

2.1.訓練の位置づけ

学習指導要領には「教師と生徒及び生徒相互の好ま しい人間関係を育て、生徒が主体的に判断、行動し積 極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒指 導の充実を図ること」(文部省,1989a,1989b)と、

生徒指導が好ましい人間関係の育成に重要な役割をも つものであることが明記されている。教師の豊かなコ ミュニケーション能力は、生徒指導において特に必要 なものといえる。そこで、本研究では、大学の教職課 程の中でも「生徒指導」の授業において社会的スキル 訓練を行うことにした。

ある教員養成系大学における「生徒指導」の受講生 を対象に「社会的スキル教育(ソーシャルスキル教育)」 に関する授業を行った。社会的スキルが全般的に低下 してきている現状を問題視し、義務教育の段階ですべ ての子どもに社会的スキルの学習機会を意図的、計画 的に提供することによって、社会的スキルの不足から 派生する問題を予防し、子どもの社会性の発達に寄与 しようとする学級単位の集団社会的スキル訓練が新し い教育技法として注目されている(金山ら,2004)。

集団社会的スキル訓練は教育技法であることから「社 会的スキル教育」と呼称されることが多い。授業では

「積極的生徒指導としての社会的スキル教育」を教授 する中で、受講生に社会的スキル訓練を行った。

授業は2日にわたって行われた。1日目(12月7日)

の授業の内容は、①社会的スキル教育の理論的背景に ついての簡単な説明、②社会的スキル訓練への参加で あった。2日目(12月21日)の授業は2週間後に行わ れた。内容は、①社会的スキル教育の理論的背景の詳 細な説明、②社会的スキル教育の実践事例の紹介、③ 質疑応答であった。本研究では、上記1日目②で行っ た社会的スキル訓練の効果について検討した。

2.2.対象者

受講生80名(1年生72名、2年生0名、3年生4名、

4年生3名、科目履修生1名)であった。

2.3.スタッフ

授業は、社会的スキル訓練、社会的スキル教育に関 する実践経験と研究業績を有する大学教員2名が行っ た。補助スタッフとして大学院生1名が加わった。

2.4.訓練目標

社会的スキルの研究者である相川(2006)は、挨拶 が人間関係を開始し、良好な関係を維持するための基 本中の基本スキルであると述べている。教師のコミュ ニケーション研修を担当している笠井(2006)も「基 本は挨拶」と明言している。以上から、訓練目標とす るスキルは「挨拶」とした。

2.5.訓練の概略

訓練の概略は表1と表2に示した。

2.6.訓練効果の指標

「生徒指導」が開講される教室へと続く廊下で、対 象者が大学院生の先輩の前を通る様子をビデオ記録し た。大学院生から対象者に挨拶をすることはなかった が、対象者から大学院生に挨拶があった場合は、大学 院生は挨拶を返した。測定は、訓練前の11月30日、訓 練後の12月21日、そして追跡調査として翌年2月8日 の計3回、午前9時から15分間行った。なお、計3回 の測定場面にいた大学院生は同一人物であったが、表 2に記す訓練に参加した大学院生とは別人であった。

挨拶行動は次のような下位スキルに整理して定義し た。ア.先輩の前で立ち止まる。イ.先輩へ顔を向け る。ウ.「先輩、おはようございます」と言う。エ.

頭を下げる。オ.頭を上げる(歩き出す)。ビデオ分 析を行い、下位スキルごとに発現回数を測定した。ビ デオ分析者2名の一致率は訓練前で94%、訓練後で 88%、追跡で91%であった。

(4)

3.結果と考察

図1に挨拶行動の下位スキルごとの発現回数を示し

た。ただし、測定時期で記録した人数が異なった(訓 練前50名、訓練後42名、追跡60名)ので、図2には、

発現回数を人数で除した数値を示した。

図からわかるように、訓練前から訓練後にかけて

   

                               

                                             

段階   活動   留意点  

学習態度の確認   ○ 「大切な 4つの こと」  を確認する。  

・積極的に練習しよう   

・他の人のやり方を見てみよう   

・友だちが上手にできていたらほめよう   

・自分で工夫してみよう     

オリエンテーションで  伝えたことを確認する。  

イン スト ラ ク シ   ョン   

 

○ 挨拶 は心地よい人間関係のための第一歩であること、また、挨   拶 の仕方を学ぶことは将来の役にも立つことを伝える。  

 

 

モ デ リン グ     

○代表者2名に皆の前に出てもらって交代して2名ともに順に  挨拶 をする立場に立ったモデル役をやってもらう。   

(友人場面)   朝、あなたは学校に着くと友だちに会いました。  

○ 挨拶 をするときのポイントとして以下の点を押さえる。   

・相手に近づいて  

・相手を見て  

・大きな声で(相手に聞こえる声で)   

・笑顔で  

・相手の名前を呼んで  

( 年長者場面)  朝、あなたは学校に着くと先生に会いました。   

○好ましい 挨拶のモデルを示す。  

○ 友だちへの挨拶と年長者への挨拶の違いを考える。  

○ 年長者には先のポイントに次の3つが付くことを伝える。   

・言い方を丁寧に する ( 「おはようございます 」)   

・頭を下げる   

・年長者の前で一度立ち止まる(ここまで  すると非常に丁寧)  

   

一枚絵 掲示。  

ポイントカード掲示 。    学生から出ればそのま  ま 掲示 し、出なければこ  ちらから示す。  

   

一枚絵掲示。  

  資料配布 。  

リハ ー サ ル     

○ 教室中を自由に歩きまわり、目が あ った人と挨拶を交わす。  

○ 年長者(大学院生)を1名参加させて、年長者への挨拶も練習す  る。  

○授業者はスキルに焦点を当ててフィードバックを提供する。  

 

挨 拶のポイントに注 意   するように伝える。  

 

ふり返りと定 着   化   

 

○日常場面での実践を奨励する。  

○定着化のための課題として 「今日の発見・今日の挑戦」 を提供  する。  

  今日の発見・・・ 上手に挨拶している人を見つけて記録する。  

  今日の挑戦・・・上手に挨拶できたときの様子を記録する。  

 

「今日の発見・今日の挑  戦」シート  配布 。  

 

段階   活動   留意点  

導入   ○授業者が皆を見ながら大きな声で、笑顔で、自己紹介する。  

  ○社会的スキル学習では人と上手に付き合うための方法やコツ  について学ぶことを伝える。  

○先ほどとは異なる、伏し目がちで、小さな声の自己紹介をし、 

印象の違いを確認する。  

○自己紹介のコツとして 「 皆の方を見て 」「 大きな声で 」「 笑顔で 」  することを伝える 。  

○以上のポイントに気をつけて改めて自己紹介する。  

○ こうした工夫で 心地よい人間関係は広がっていくこと、これは  練習することでだれでも身に付けることができると伝え、こうし  たことを学ぶのが社会的スキル学習であると伝える。  

 

児童生徒の立場に立ち 

「社会的スキル学習」と  いう言葉を使用 する 。   このやり方では授業者  の気持ちが伝わりにく  いことを確認する。  

ポイントカード掲示。   

学習態度 の説明    

 

○社会的スキル学習で大切な4つのことを伝える。  

・積極的に練習しよう   

・他の人のやり方を見てみよう   

・友だちが上手にできていたらほめよう   

・自分で工夫してみよう     

「大切な4つのこと」 資料  配布。  

代表者の 実演   ○代表者に自己紹介をしてもらう。  

○代表者の上手だったところについて意見を募り、拍手を送る 

( 「友だち が上手にできていたらほめよう」の実行 )。  

○代表者がしたようにこれからの学習では皆で「積極的に練習す  る 」 ことを伝える。   

○これからの学習でも代表 者 の自己紹介を見ていたように「他の  人のやり方をよく見る」ことを伝える。   

○皆が実際に練習するときは「自分なりの工夫で」実行して よい  ことを伝える。   

 

 

先の「 大切な4つのこ  と 」に沿って展開する。  

ふり返り   ○ オリエンテーションをふり返り、  質問を求める。     

表1 オリエンテーションの概略

表2 「挨拶」授業の概略

(5)

「イ.先輩へ顔を向ける」「エ.頭を下げる」「オ.頭 を上げる(歩き出す)」の発現回数が大きく増加して いた。また、追跡調査時には訓練直後と比べると減少 があるものの、訓練前と比べると未だ高い数値を示し ていた。イ、エ、オのスキルによって表出される「相 手に顔を向けて、頭を下げ、再び頭を上げて歩き出す」

動作は、日本人が一般的に示す挨拶行動として適切と 評価できる。観察対象者のうち、イ、エ、オをあわせ て表出したものは、訓練前で50名中5名(10%)、訓 練後で42名中19名(45%)、追跡調査時で60名中15名

(25%)であった。つまり、訓練前には10人に1人の 割合でしか見られなかった適切な挨拶行動が、訓練後 にはおよそ2人に1人の割合で見られるようになっ た。その後、1月半を経過しても、およそ3人に1人 が適切な挨拶行動を示していた。これは、挨拶を訓練 目標とした社会的スキル訓練の効果を示す結果といえ

る。

一方、「ア.先輩の前で立ち止まる」と「ウ.「先輩、

おはようございます」と言う」には訓練前後であまり 変化がなかった。観察対象者のうち、イ、ウ、エ、オ をあわせて表出したものは、訓練前で50名中4名

(8%)、訓練後で42名中4名(10%)であった。また、

観察対象者のうち、ア、イ、ウ、エ、オ、すべてを表 出したものは、訓練前で50名中1名(2%)、訓練後 で42名中0名(0%)であった。つまり、「先輩、お はようございます」と相手を呼んで挨拶したり、相手

の前で立ち止まって挨拶したりする学生が訓練前後で 増えることはなかった。

しかし、追跡調査の結果を見ると、興味深いことに、

ア、ウ、いずれの発現回数にも増加が認められた。追 跡調査時には、相手に顔を向けて、頭を下げ、再び頭 を上げて歩き出すといった動作に加えて、「先輩、お はようございます」と相手を呼んで挨拶する学生の割 合が、60名中14名と23%に増えていた(訓練前は50名 中4名で8%、訓練後は42名中4名で10%)。さらに、

相手の前で立ち止まってから、相手に顔を向けて、

「先輩、おはようございます」と頭を下げ、再び頭を 上げて歩き出すといった丁寧な挨拶をする学生の割合 も、60名中4名と7%に増えていた(訓練前は50名中 1名で2%、訓練後は42名中0名で0%)。

この点については次のように考えられるかもしれな い。「相手に顔を向けて、頭を下げ、再び頭を上げて 歩き出す」挨拶行動は適切であるので、その発現は他 者が挨拶を返す確率を高めると考えられる。そして、

こうした周囲の反応は、正の強化刺激として挨拶スキ ルの実行を維持させると考えられる。こうした相互作 用は人間関係に良循環を生み出し、社会的スキルをい っそう洗練させていく(小林,2005)。追跡調査時に、

相手を呼んだり、相手の前で立ち止まったりする挨拶 スキルの実行が増加していたのは、上記のようなプロ セスが生じていたのかもしれない。

観察対象者のうち、挨拶スキルの発現回数が0であ ったものは、訓練前で50名中39名(78%)、訓練後で 42名中18名(43%)、追跡調査時で60名中43名(72%)

であった。この数値は、訓練後に挨拶をする学生が増 えたことを示唆している。一方、追跡調査時には挨拶 をしない学生の数が訓練前の水準にまで回復している ようにもみえる。しかし、追跡調査は「生徒指導」の 試験日に行われたので、普段の授業には出席しない学 生、すなわち社会的スキル訓練に参加していなかった 学生が、追跡調査の観察記録には多く含まれていた。

記録人数が追跡調査時で増加しているのはこのことを 反映している。彼らが、追跡調査時の挨拶をしない学 生の割合を押し上げていたと考えられる。

以上の結果をまとめると、学生は、①訓練に参加し て挨拶行動を増加させ、さらに追跡調査時にかけて挨 拶スキルを洗練させた一群、②訓練直後には挨拶行動 を増加させたが、追跡調査時までは維持しなかった一 群、③訓練に参加せず(授業に出席しない)、挨拶も しない一群と、大きく3群に分類できるかもしれない。

対人相互作用の中で社会的スキルをいっそう洗練させ ていく学生がいる一方で、人間関係の基本中の基本で ある挨拶さえ実行しない学生がいるという二極化が示 唆される。後者の学生には集団訓練だけでなく、個別 訓練が必要かもしれない。社会的スキルの二極化は、

社会的スキルの研究者である相川(1997)も指摘して 0

5 10 15 20 25 30

ア  イ  ウ  エ  オ 

発現回数  訓練前 

訓練後  追跡 

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6

ア  イ  ウ  エ  オ 

発現回数  訓練前 

訓練後  追跡  図1 挨拶スキルの発現回数

図2 挨拶スキルの発現回数(記録人数で除算)

(6)

いる。ただし、この仮説を検証するには、さらに詳細 な分析が必要であろう。

以下、本研究の課題について述べる。第1に、本研 究では、実施上の困難さから、訓練前、訓練後、追跡 とすべての時期で測定対象となったものと一部を欠い ているものをチェックしたり、訓練を受けたものと受 けていないものをチェックしたりした上で分析を行う ことができなかった。また、統計的分析を行うために は、訓練前、訓練後、追跡調査時での測定対象が同一 であることが前提条件となるが、同様の困難さから、

この前提条件を満たすことができず、統計的分析を行 うことができなかった。しかしながら、信頼性の高い 結果を示すためには必要な作業であるので、今後の課 題としたい。

第2に、計3回の測定場面にいた大学院生が同一人 物であった点である。表2の授業概略にもあるように、

訓練の最終的な目標は、特定の人物だけでなく、多様 な人物に挨拶をすることにあるので、挨拶対象となる 人物は同一人物よりも、般化測定という意味で別の人 物が望ましかった。

第3に、測定場面において、複数の学生が教室に連 れ立って入る場合と、一人で入室している場合では、

挨拶行動の誘発可能性が異なると考えられるが、そう した詳細な分析は行えなかった。今後の課題である。

ところで、教職課程に在籍する学生が社会的スキル 訓練に参加することは、学生自身が社会的スキルを向 上させる機会となるだけでなく、以下に述べるような 意義もあると考えられる。

すでに述べたように、社会的スキルの低下が危惧さ れる中、新しい教育技法として社会的スキル教育が注 目されている。社会的スキル教育の効果については、

小学生(例えば、金山ら,2000)や中学生(例えば、

金山・小野,2006)を対象とした研究によって検討さ れている。これらの研究結果はおおむね社会的スキル 教育の効果を示すものであり、社会的スキル教育は児 童生徒の社会的スキルの育成に有効な技法であるとさ れている(金山ら,2004)。

こうした研究成果が蓄積される一方で、教師向けの 概説書(例えば、小林,2005)や実践指導書(例えば、

相川・佐藤,2006;佐藤・相川,2005)の出版、教育 雑誌への関連記事の掲載(例えば、小林,2000)など、

社会的スキル教育の普及活動が活発化している。教職 研修のテキスト(例えば、藤枝,2002)や全国各地の 教育委員会・教育センター主催の研修会(例えば、前 田・金山,2003)などでも社会的スキル教育は重要な 教育技法の1つとして取り上げられている。しかしな がら、実際の学校現場では「その名称を聞いたことが ある」という程度の理解が一般的といわれる(小林,

2005)。

社会的スキル教育の学校現場への普及を進めていく

ためには、大学での教職課程の段階から学生の社会的 スキル教育に対する関心と理解を促すための機会を積 極的に設ける必要があると考えられる。こうした問題 意識から、金山ら(2005)は、ある私立大学の教職課 程における「生徒指導・進路指導」の受講生を対象に

「積極的生徒指導としての社会的スキル教育」に関す る授業を行い、学生の社会的スキル教育に対する認識 や意見をまとめている。その中に「具体的な実践方法 を知りたい」と訴える意見があった。この意見に対し て、金山ら(2005)は「今回の授業は社会的スキル教 育の概略を伝えただけのものであったので、社会的ス キル教育の実践事例を具体的に紹介するとともに、学 生が児童生徒役になって社会的スキル教育の模擬授業 を体験するような体験学習を導入すれば、彼らの社会 的スキル教育に対する関心と理解はいっそう深まるも のと期待される」と述べている。本研究で実践した授 業は、学生にとって貴重な体験学習の機会として機能 していたと考えられる。将来、学校現場で児童生徒に 社会的スキル教育を実践することが期待される学生、

すなわち教職課程に在籍する学生に対する体験学習の 機会として、大学の教職課程において社会的スキル訓 練を行うことの意義がいっそう強調される。

4.引用文献

相川 充 1997 対人関係能力の向上への手立て 名 古屋大学教育学部紀要(心理学),44,17-24.

相川 充 2000 人づきあいの技術―社会的スキルの 心理学― サイエンス社

相川 充 2006 ソーシャルスキル教育の14の基本ス キル 相川 充・佐藤正二(編) 実践!ソーシ ャルスキル教育 中学校―対人関係能力を育てる 授業の最前線― 図書文化 44-51.

相川 充・佐藤正二(編) 2006 実践!ソーシャル スキル教育 中学校―対人関係能力を育てる授業 の最前線― 図書文化

大坊郁夫(編) 2005 社会的スキル向上を目指す対 人コミュニケーション ナカニシヤ出版

藤枝静暁 2002 小学生を対象にしたソーシャルスキ ル・トレーニング 津村俊充(編) 教職研修総 合特集151 子どもの対人関係能力を育てる 教 育開発研究所 206-209.

金山元春・後藤吉道・佐藤正二 2000 児童の孤独感 低減に及ぼす学級単位の集団社会的スキル訓練の 効果 行動療法研究,26,83-96.

金山元春・中台佐喜子・佐藤正二 2005 教職課程に ある学生の社会的スキル教育に対する認識と評価 宮崎大学教育文化学部附属教育実践総合センター 研究紀要,13,53-60.

金山元春・小野昌彦 2006 中学生に対する集団社会

(7)

的スキル訓練 奈良教育大学教育実践総合センタ ー研究紀要,15,77-84.

金山元春・佐藤正二・前田健一 2004 学級単位の集 団社会的スキル訓練―現状と課題― カウンセリ ング研究,37,270-279.

笠井玲子 2006 コミュニケーションが学校を変える 教職課程(協同出版),32(1),30-33.

小林正幸 2000 ソーシャルスキルをどうやって身に つけるか 児童心理(金子書房),54(3),63-68.

小林正幸 2005 先生のためのやさしいソーシャルス キル教育 ほんの森出版

教職課程編集部 2006 教師のコミュニケーション能 力 教職課程(協同出版),32(1),21.

前田健一・金山元春 2003 「子どもの社会性の育成 と社会的スキル教育」について 広島市教育委員 会主催平成15年度学校人権教育研究推進校合同研 修会(二葉中学校区) 研修会資料

文部省 1989a 中学校学習指導要領(平成元年3月)

大蔵省印刷局

文部省 1989b 高等学校学習指導要領(平成元年3 月) 大蔵省印刷局

中村和彦 2003 体験学習を用いた人間関係論の授業 が学習者の対人関係能力に及ぼす効果について―

社会的スキル・対人不安などへの効果および学習 スタイルと効果との関連― 南山大学アカデミア

(人文・社会科学編),76,103-141.

野口康彦 2005 学生相談におけるソーシャルスキル ズトレーニング(SST)の活用 学生相談研究,

25,213-223.

佐藤正二・相川 充(編) 2005 実践!ソーシャル スキル教育 小学校―対人関係能力を育てる授業 の最前線― 図書文化

吉村 英 2003 社会的スキルと攻撃性 京都女子大 学教育学・心理学論叢,3,87-111.

5.付 記

本研究にご協力を賜りました皆様に御礼申し上げま す。

参照

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