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自治体政策過程に関する 動的相互依存モデルと相互参照

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自治体政策過程に関する 動的相互依存モデルと相互参照

外 川 伸 一・安 藤 克 美 はじめに

筆者はこれまでに、自治体の政策立案過程における経時的な相互依存行動を「動的 相互依存モデル」という形でモデル化し分析した伊藤(2002;2006)に基づき、いく つかの論考を発表してきた(安藤・外川2012;外川・安藤2012;安藤・外川2014;外川・安 藤2014)。動的相互依存モデルは、自治体が新たな政策課題に向き合い自前の政策資 源を用いて地方独自の新政策を生み出し、時には国政レベルで実現しない政策転換を 成し遂げるメカニズムを明らかにする理論モデルであり(伊藤2002:18)、「内生条件 への対応」「相互参照」「横並び競争」の3つメカニズムからなる(伊藤2002;2006)。

「内生条件への対応」とは、自治体が管轄する区域の社会的・経済的・政治的条件

(要因)に当該自治体が対応することである。このうち、社会経済要因は自治体の政 策立案を規定する社会的・経済的環境の状態をいい、政治要因は特に自治体内の政治 的諸アクターの選好や勢力を示す。つまり、「内政条件」は自治体が立案する政策を 規定する要因となる。

「相互参照」とは、自治体が政策立案に際して、他の自治体の動向を参考にする行 動をいう。自治体の政策立案者は不確実性の高い環境に向き合わなければならないた め、他の自治体が同一政策領域において新政策を採用するか否かを参照した上で、そ の政策の採用に向けて動き出す(1)

「横並び競争」とは、政策を採用すれば便益が見込まれる状況のもとで、当該自治 体が他に先んじて政策の採用に乗り出す行動を意味する。横並び競争は、ある政策が 自治体の標準装備(規範化)となることや国の介入(法律制定、基準設定等)によって 不確実性が低下した状況で見られる。

これら3つの行動原理の基本的関係を示すと図1のようになる。すなわち、「国の 政策採用」がない段階では、内生条件が熟した自治体から新政策を採用し、相互参照 がその動きを促進する。……時間が経つに従って、相互参照が占める部分が拡大し て、多くの場合、ある時点で国が参入し、同種の政策を採用してからは、横並び競争 が自治体を政策採用に駆り立て、内生条件は大きな意味をもたなくなる」(伊藤2006:

33−34)。

なお、3つの行動原理のうち、相互参照と横並び競争の関係について、伊藤は基本

−25−

(2)

的に「代替的」な行動原理として捉えている(伊藤2002:31)。もっとも、政策波及の 途中で国が介入した場合、「それまでの内生条件や相互参照の働きはぼやけるであろ うが、その痕跡は確認できる」とも述べている(伊藤2002:31)。内生条件への対応と 横並び競争の関係については、基本的に前者の終了後に後者が作動するものと捉えて いるが(伊藤2006:32、34)、必ずしもこうした明確な関係にないことも付言している

(伊藤2006:35)。

こうした伊藤の指摘を踏まえると、国の政策援用後、相互参照や内生条件への対応 は皆無ではないが、支配的な要素は横並び競争であるという理解のもとに、それを強 調すべく図を提示したことが推察される。そういう意味では、この図は、伊藤の理論 を単純化したものではあるが(伊藤2006:34)、伊藤モデルの本質を簡潔に表しており 以下の考察の「プロトタイプ」として極めて有効である。なお、以下では、伊藤

(2002;2006)で展開された動的相互依存モデルの全体像を「伊藤モデル」と呼ぶこ とにする。

本稿では、まず、世界文化遺産(2)登録推進事業(以下、「世界遺産事業」)と中心市街 地活性化基本計画策定事業(以下、「中心市街地計画策定事業」)を例に、伊藤モデルの 基本型が成立するか否かについて考察する。次に、伊藤モデルの構成要素である相互 参照について、実際の相互参照先は、自治体の事務区分によって相違があるか否かに ついて考察する。その際、空き家の管理について規定する条例(以下、「空き家管理条 例」)について詳細な分析を付け加える。最後に、空き家管理条例については、伊藤 モデルが修正される可能性があることについて触れる。

動的相互依存モデルの修正

本節では、伊藤モデル(2002:19−28)と比較対照しながら、世界遺産事業及び中 図1 政策決定要因の中の三つの行動原理の基本的関係

出典:伊藤(26:34)※原題は「政策決定要因の中に三つの行動原理が占める割合」である。

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心市街地計画策定事業の動的相互依存モデルを提示する。

(1)動的相互依存モデルの世界遺産事業への適用

①世界遺産事業の流れ

現在のわが国の世界文化遺産は、2013年に「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」

(以下、「富士山」)、2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」(以下、「富岡製糸場」)が登 録され14件となった(表1)。

世界文化遺産登録までの流れについて述べると、自治体としては、まず、国の候補 のリストである暫定一覧表に追加記載される必要があるため、文化庁の公募に対し て、提案書の精緻化に磨きをかけることになる。自治体の提案を受け、文化庁は文化 審議会での意見を踏まえ、暫定一覧表へ追加記載するか、継続審議するか区分し、継 続審議となった提案については、今後に向けた課題が示される。また、追加記載と なった提案であっても、世界遺産一覧表への登録推薦に向け、充足すべき事項が示さ れ、自治体はその充足に全力を注ぐことになる。この後、そうした自治体の条件充足 の進捗状況を勘案し、暫定一覧表の中から、国で推薦すべき候補が選定され、推薦書 がユネスコ世界遺産センター(3)へ提出される。以降は、その諮問機関であるイコモス

(ICOMOS/International Council on Monuments and Sites:国際記念物遺跡会議)(4)による審査・

表1 日本の世界文化遺産

記 載 物 件 名 暫定一覧表

記 載 年

世界遺産一 覧表記載年 1 法隆寺地域の仏教建造物 1992年 1993年

2 姫路城 1992年 1993年

3 古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市) 1992年 1994年 4 白川郷・五箇山の合掌造り集落 1992年 1995年

5 原爆ドーム 1995年 1996年

6 厳島神社 1992年 1996年

7 古都奈良の文化財 1992年 1998年

8 日光の社寺 1992年 1999年

9 琉球王国のグスク及び関連遺産群 1992年 2000年 10 紀伊山地の霊場と参詣道 2001年 2004年 11 石見銀山とその文化的景観 2001年 2007年 12 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群 2001年 2011年 13 富士山−信仰の対象と芸術の源泉 2007年 2013年 14 富岡製糸場と絹産業遺産群 2007年 2014年 出典:文化庁ホームページを基に筆者作成

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勧告を経て、ユネスコ世界遺産委員会(World Heritage Committee)(5)で登録の可否が決定 される(図2)。こうした事業の流れの中で、本稿で考察するのは、主として、様々 な形の動的相互依存メカニズムが働く、暫定一覧表に登載されるまでの初期(t〜 t)と国の候補として推薦されるまでの中期(t〜t)である。文化遺産については、

2006年に国が自ら候補を洗い出すという方法から、自治体の提案を国が公募する方法 に切り替えられた。この時を境に、世界遺産事業は国の事業から自治体の事業になっ たといえる(安藤・外川2012:50)(6)

②世界遺産事業における内生条件への対応、相互参照、横並び競争の捉え方 まず、内生条件のうち社会経済要因としては、世界遺産として顕著な普遍的価値が あると言明できる可能性を持つ資産であることが何よりも重要である。また、当該事 業を首長が目指すべきものとして宣言しているかといった政治要因も重要である。世 界遺産事業においては、こうした内生条件にいち早く対応し国の提示する基準や条件 を充足することを目標とする。

次に、相互参照については、既に登録された世界遺産を有する先行自治体を対象 に、手順等を含めたあらゆる情報を得るために行われる。ただし、暫定一覧表への登 載を目指す提案を作成する際の相互参照については、その内容が類似している場合、

文化庁から「統合」を求められることもあるため、独自のコンセプトの構築が必要と なる。

最後に、世界遺産事業については横並び競争の捉え方に若干の修正が必要となる。

世界遺産事業は国の事業を公募という形で自治体の自治事務に転換したものである が、登録までの事業スキーム(手順、基準、採用条件など)を国が作成している。つま り、国の介入は事業の最初から行われている。したがって、伊藤モデルのような先行 自治体による事業の採用→国の介入→横並び競争という「ストレート」な時系列は当

図2 世界遺産登録までの主な流れ 出典:文化庁ホームページを基に筆者作成

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てはまらない。また、世界遺産事業は、理念的に言えば、すべての自治体が取り組み 得る事業といえるが、現実的にはすべての自治体で取り組まれている訳ではない。こ のことは、伊藤モデルのように、この政策が標準装備になるほど規範化されることは ないことを意味する。しかしながら、この事業に取り組んでいる、あるいは参入しよ うとしている自治体間において、国の示したスキームの中で、各々の課題を早期に解 決すべく、横並び競争メカニズムが作動することは確かである。

③世界遺産事業における内生条件への対応、相互参照、横並び競争の経時的変化 図1では、時間の経過とともに、政策全体における内生条件への対応の割合が次第 に減少し、それとは逆に相互参照の割合が増加し、国の政策採用(国の介入)後、自 治体間の横並び競争が始まるというクリアな関係が示されている。これとは異なり、

世界遺産事業では、初期(t〜t)、中期(t〜t)には内生条件への対応、相互参 照、横並び競争のそれぞれが常に並行して行われる。中期において、国の役割が登場 する背景には、暫定一覧表への登載に向けた各自治体の提案の審査、暫定一覧表登載 時における各候補に与えた課題の進行管理などが大きく関係している。自治体間、あ るいは国と自治体の関係に着目すれば、初期は、提案書提出に向けた自治体間の「競 争期」、中期は、暫定一覧表に登載されている候補を抱える自治体同士での国の推薦 を得るための競争と、全世界を視野に入れより良い提案となるよう国と自治体が連携 することを特徴とする「競争・協働期」、後期(t〜t)は、国が推薦することになっ た世界遺産候補を国・自治体が連携しつつその実現を目指す「完全協働期」といえる

(図3)(7)

内生条件への対応によって課題を解決するのが世界遺産事業の前提であるが、それ は事業の最後まで継続する。図3に示すように、顕著な普遍的価値を証明し得る可能 性の検討が重要視される競争期よりも、登録内容が具体化し、その価値を証明する物

図3 政策決定要因の中の3つの行動原理の関係(世界遺産事業)

出典:筆者作成

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証となる資産の選択、資産の保存管理や周辺環境の保全に必要な文化財の指定や条例 制定といった「調整事項」が増大する競争・協働期にその割合が大きくなる。こうし た内生条件への対応の進捗状況が国による候補決定に影響を与える。しかしながら、

「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群―」(以下、「平泉」)の 2回目の推薦に対するイコモスの勧告は、2011年の世界遺産委員会開催の前月に出さ れ、その中で、「特定の資産の除外」に言及され、その点について国や自治体が調整 に動く必要があったことからも分かるように、内生条件への対応は完全協働期の後半 においても続く(8)

相互参照も参照する程度や内容に相違はあるが、これも事業の最後まで行われる。

世界遺産事業については、競争期は不確実性が大きく、特に既に登録された世界遺産 を有する自治体を対象に、手順を含めたあらゆる情報を得るために活発に行われる。

競争・協働期以降は、例えば、条例制定が必要な場合、先行自治体の条例を参照す ることが行われるが、その割合は相対的には大きくない。また、競争・協働期では、

手順よりも個々の取り組み内容や競争相手の進捗状況を把握するために相互参照が行 われる。推薦書を提出した完全協働期においても、ユネスコやイコモスから追加資料 を要求されることがある。

いずれにしても、伊藤(2006:34)とは異なり、世界遺産事業では、相互参照は時 間の経過とともにその重要性が減少する。

横並び競争は、各自治体間において、競争期には暫定一覧表登載を目指し、競争・

協働期には国の推薦を得ることを目指して行われる。国と自治体との協働は、自治体 の提案をより世界遺産登録の可能性の高い候補とするために、競争・協働期に顕著に 出始める。完全協働期には推薦候補の決定により国内での競争は基本的になくなり、

それに代わって国が主体的に事務を執行する。もっとも、推薦書作成やユネスコ・イ コモスによる追加資料の提出要求に対して必要となる資料等を国へ提供するなど、自 治体の事業がなくなる訳ではない。また、国際専門家会議等の開催については、2008 年以降増加しているが、先行自治体での開催が候補を持つ複数の自治体へと波及して いく過程は、横並び競争としての意味合いを持つ。

以上をまとめると、伊藤モデルでは、国が法律を制定するという「国の政策援用」

後に、自治体がそれにならい条例を策定する姿を取り上げているが、どの政策も理念 的には独自の判断で、国は法律の制定を、自治体は条例の制定をそれぞれ決定するこ とができる。それに対し、世界遺産事業では国の示す事業スキームの中で、国と各自 治体が競争・協働により政策を立案する。国が定めたスキームに則って相互参照、内 生条件への対応、横並び競争の三者が並行して行われることに特徴がある。国が示す 基準の達成を目指す自治体によって横並び競争が行われ、同時に政策の内容の充実の ため内生条件への対応や相互参照が行われる。国がスキームを決定するという意味で

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は不確実性は低いが、そのスキーム内では自治体が独自に判断を下すことになるた め、その点では不確実性は高い。

世界遺産事業は国が事業スキームを作成しているという意味では、国の介入は事業 の最初から行われており、その点ではスタート時点(t)が伊藤モデルにおける「国 の政策援用」に対応しているという側面もある。しかしながら、国の関与の度合い は、図3に示したように競争・協働期、完全協働期と移るに従い増してくる。世界遺 産事業のように、国が事業スキームを定める中で、国と自治体が協働で行う政策は伊 藤モデルが取り上げなかった類型である。

(2)動的相互依存モデルの中心市街地計画策定事業への適用

①中心市街地計画策定事業の流れ

中心市街地計画策定事業については、2006年に「中心市街地の活性化に関する法 律」が改正され、内閣総理大臣による自治体(市町村)が作成した基本計画の認定制 度の創設、認定された基本計画に基づく事業に対する支援措置の拡充などを行うこと とされた。つまり、この事業では、自治体が策定した基本計画を国が認定するという ことがベースとなる。

②中心市街地計画策定事業における内生条件への対応、相互参照、横並び競争の捉 え方

まず、内生条件への対応については、社会経済要因としては、基本計画を策定しよ うとする自治体が中心市街地を持ち、それが衰退傾向にあることなどである。もちろ ん、当該自治体の現在の中心市街地活性化施策や都市再開発事業等の進捗状況は、基 本計画に盛り込まれる事業内容に大きく影響を与えるため、これらも社会経済要因に 包含される。また、政治要因としては、中心市街地活性化が自治体の政策全体の中で 重要な位置を占めるか、当該事業が首長の公約か否かなどが重要となる。中心市街地 計画策定事業においては、こうした内生条件にいち早く対応し、国の提示する「ハン ドブック」に沿って基本計画を策定し認定を受けることを目標としている。

次に、相互参照については、既に認定された基本計画を有する先行自治体を対象 に、どのような指標を選定したか、目標はどれぐらいか、それを達成する事業内容は 何かといった情報を得るために行われる。

最後に、横並び競争の捉え方に若干の修正が必要となる。ハンドブックの提示とい う形で認定までの事業スキーム(手順、認定条件など)を国が決定している。つまり、

この事業では、国の介入は最初の段階から行われている。したがって、この事業の場 合、当該事業に取り組んでいる、あるいは当該事業に参入しようとしている自治体間 において、国の示したスキームの中で、早期に基本計画の認定を受けるべく、最初か ら横並び競争が作動することになり、伊藤モデルのような先行自治体による事業の採

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用→国の介入→横並び競争という経時的な過程は当てはまらない。なお、人口規模に はばらつきこそあるが、基本計画策定は中心市街地を持つ市レベルで行われるため、

町村はこの事業に参入できないことから、横並び競争はある程度限定される。

③中心市街地計画策定事業における内生条件への対応、相互参照、横並び競争の経 時的変化

図1とは異なり、中心市街地計画策定事業では、初期(t〜t)、中期(t〜t) には内生条件への対応、相互参照、横並び競争のそれぞれが並行して行われる。初 期・中期から国の役割が登場するのは、初期には国作成のハンドブックを通じてのス キームの提示、中期には国と自治体の協議及び国からの指示・指導があることによ る。自治体間、あるいは国と自治体の関係に着目すれば、初期は、基本計画策定に向 けて熟度を高め、また、そのために国と協議する機会を得ようとする自治体間の「競 争期」、中期は、自治体間の横並び競争が続く一方、先行自治体は国との協議及びそ の指示・指導に従って作業を進める「競争・協議期」、後期(t〜t)は、国が関係 機関への照会、内部での調整、同意までの手続きを行う「国調整期」といえる(図4)。

内生条件に対応して事業を立案するのが中心市街地活性化基本計画策定の前提であ り、これは、基本計画に登載する事業を選択する競争・協議期に最も多くなるが、国 調整期にも実施中の事業の関係者との調整なども想定され、内生条件への対応は引き 続き行われる。

相互参照も内容や程度に相違はあるが、指標の設定や事業内容の選択について、先 行自治体の例を参考にする競争期においてその割合が大きい。競争・協議期以降は、

例えば、国による指示内容により、必要に応じて先行自治体の基本計画を参照するこ とがあるが、その割合は競争期ほど大きくない。国調整期においては、国関係機関の 質疑等に応じて自治体間の作業も生じるが、相互参照はほとんどないといってよい。

図4 政策決定要因の中の3つの行動原理の関係(中心市街地計画策定事業)

出典:筆者作成

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横並び競争は、各自治体間において、競争期には事業の熟度向上及び国との協議機 会を得ることを目指し、競争・協議期にはそれぞれの基本計画についていち早く事務 レベルでのお墨付きを得て、認定手続きに入ってもらうことを目指して行われる。国 と自治体との協議は、より中心市街地活性化に寄与する基本計画を策定するために、

競争・協議期に頻繁に行われる。国調整期には認定候補の決定により単一自治体で見 ると競争は基本的になくなり、それに代わって国が主体的に事務を執行することにな る。もっとも、この事業では、最初から国の介入が行われているので、関係自治体全 体に目を向けると、後発自治体による横並び競争はいつの時点でも行われていること はいうまでもない。

以上をまとめると、中心市街地計画策定事業では国の示す事業スキームの中で、国 と各自治体が競争・協議により政策を実施する。国が予め定めたスキームに則って内 生条件への対応、相互参照、横並び競争の三者が並行して行われることに特徴があ る。国が示す基準の達成を目指す自治体によって横並び競争が行われ、同時に政策の 内容の充実のため内生条件への対応や相互参照が行われる。国がスキームを決定する ことは、不確実性を緩和し、したがって最初から横並び競争が働く訳であるが、その スキーム内では自治体が独自に判断を下すことになるため、その点では不確実性は必 ずしも低くないといえよう。

中心市街地計画策定事業は、国が事業スキームを作成しているという意味では、国 の介入は事業の最初から行われており、その点ではスタート時点(t)が伊藤モデル における「国の政策援用」に対応している。しかしながら、国の関与という点では、

その度合いは、図4に示したように競争・協議期、国調整期と移るに従い増してく る。この事業のように、国が事業スキームを定める中で、国と自治体が協議を行う政 策は伊藤モデルが取り上げなかった類型であり、この点については世界遺産事業と同 様の側面がある。

相互参照先としての条件

次に3つのメカニズムのうち、相互参照に注目し、相互参照先の条件とは何かにつ いて考察する。この考察にあたっては、自治体が行う事務の区分により、相互参照先 が異なるのではないかという仮説を設定する。国の介入度合いにより自治体の事務 を、法定受託事務、自治事務Ⅰ、自治事務Ⅱ、自治事務Ⅲ、自治事務Ⅳに分類する(9)。 ただし、これらのうち法定受託事務は、3つのメカニズムが基本的に極めて軽微にし か作動しないことから、本稿では考察の対象としない。

自治事務Ⅰとは、政策のスキームや標準作業手続きを国が定め、それに従って自治 体はその置かれた状況を考慮しつつ政策の内容を具体化していく類型の政策である。

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骨格を国が定めているという点で介入度は比較的大きい。自治事務Ⅱとは、法令によ る規律はほとんどなく、かつ、対象とする領域や政策目的が国と自治体で概ね同様の 政策である。伊藤が考察した政策(条例制定)は基本的にこの類型に該当する。自治 事務Ⅲとは、政策の企画・実施は自治体の裁量により、かつ、対象とする政策領域や 政策目的が国と自治体とで基本的に異なる政策である。自治体の裁量が最も大きい類 型といえる。自治事務Ⅳとは、自治事務ではあるが、法令による規律があるもので、

国と自治体で事務が「融合」関係にあり、法令によって自治体の役割が定められてい るもの(自治事務Ⅰ〜Ⅲを除いたもの)である。

(1)相互参照の先行研究

先に掲げた区分に対応した先行研究として、以下のとおり、①景観条例[自治事務

Ⅱ](伊藤:2006)、②情報公開条例[自治事務Ⅱ](伊藤:2002)、③自治体Webサイ ト[自治事務Ⅲ](河原・岩井:2011)、④議会基本条例[自治事務Ⅲ](増田・深 澤:

2010)、⑤少人数学級編制[自治事務Ⅳ](青木:2013)の5つの政策を採り上げる。

①景観条例[自治事務Ⅱ]

伊藤(2006:183,190−191)では、政策策定時における相互参照先について、景観ア ンケート及びモデル自治体調査(10)の結果をもとに、3つの傾向を抽出している。1 点目は神戸市、金沢市など早期に条例を制定した自治体が参照先として上位になって いる点である。2点目は近隣、特に同一県の自治体を参照する傾向がある点である。

3点目は、町村は町村を参照先として選ぶ傾向が大きいなど自治制度上「同格」の自 治体が参照される点を挙げている。

②情報公開条例[自治事務Ⅱ]

伊藤(2002:266)では、都道府県の情報公開条例制定について、主に東北や関東な どの地区割を基本とする「準拠集団」(reference group)(11)内で条例を制定した自治体数 が増えると、当該団体の条例の制定の可能性が高まるとしている。情報公開条例の制 定過程では、国の介入が遅かったため、自治体は独自の判断を求められ相互参照のメ カニズムが働いたのである。

③自治体 Web サイト[自治事務Ⅲ]

河原・岩井(2011:78)では、自治体Webサイト制作の相互参照について、共同通 信社「全国自治体トップアンケート」(1997.12、2001.12)をもとに分析し、①近隣で 同規模の自治体を重視する従来の傾向が強く残っている、②外部評価が高いサイトを 参照する傾向も見出すことができるとし、その理由として、自治体のWebサイトラ ンキング評価の公表を挙げている。

④議会基本条例[自治事務Ⅲ]

増田・深澤(2010:48)では、54市町村の議会基本条例の条文等をクラスター分析

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(11)

し、多くの市町村の議会基本条例の構成と条文数が北海道栗山町の初期モデル(栗山 町では後に条例を改正している)に類似しており、栗山町の議会基本条例のモデル規範 性が非常に強力である、としている。つまり、最初に制定された条例の規範性が高い 場合、その後、長期にわたって相互参照されるという。

⑤少人数学級編制[自治事務Ⅳ]

青木(2013:135,141)では、埼玉県志木市、愛知県犬山市において、分権改革によ る独自施策として、少人数学級編制をいち早く導入したことを取り上げている。志木 市では、2002年に1クラス25人程度の学級編制を小学校1、2年生に導入している。

犬山市では、2001年から非常勤講師の雇用による少人数授業を本格化させ、2003年に 少人数学級編制を導入し、3つの小学校で40人程度収容していた過大学級を解消して いる。

青木は、少人数学級編制の導入に伴いこれらの自治体への市町村議会の視察が急増 していることを指摘している。図5は志木市への視察数であり、2002年に少人数学級 に関する視察が急増・集中している(青木2013:200)。図6は犬山市への視察数であ り、教育行政全般への視察が継続的に行われている中で、少人数学級編制を導入した 後、それに対する視察も増加している(青木2013:241)。

先行研究における相互参照先を事務区分別にまとめると表2のとおりである。自治 事務Ⅱでは「地理的近接」と「規模類似」、自治事務Ⅲでは「高評価」が共通点であ る。自治事務Ⅳでは「早期」導入が特徴である。しかしながら、同じ事務区分の中で も政策によって異なる条件もあり、事務区分に対応した明確な特徴はない。ただし、

全体としては、同一県や同じ地方といった、「地理的近接」の自治体、人口規模が同 じ又は自治制度上同格である「規模類似」の自治体、当該政策が「高評価」を得てい る自治体、政策などを「早期」に制定・導入した自治体が参照先となるといったいく つかの条件に絞られる傾向がある。

図5 志木市への視察数 図6 犬山市への視察数 出典:青木(23:20) 出典:青木(23:21)

−35−

(12)

(2)国のスキーム提示事業における相互参照先

先行研究には、自治事務Ⅰに分類される国がスキームを与える事業についての考察 はなかった。国がスキームを与える事業については、自治体にはこの政策に乗らない 自由もあり、乗ったとしてもスキーム内で具体化すべき内容は自治体が置かれている 状況に応じて独自に考える必要があるため、法定受託事務と比べ自治体の裁量は明ら かに大きい。以下では、中心市街地計画策定事業と世界遺産事業を取り上げ、関係自 治体がどの自治体を相互参照先としているか考察を行うこととしたい。

中心市街地活性化基本計画の認定状況は、2013年6月28日現在で140(116市)にの ぼり、2巡目に相当する計画を策定している市も21に及ぶ。中心市街地活性化の目標 を達成するために、地域の実情に応じて重点化を図りつつ、達成状況を的確に把握で きるよう、自治体には「居住人口」「歩行者等通行量」「事業所数」「従業者数」「年間 小売業販売額」「空き店舗数」等の絶対値や変化率など定量的な指標を設定し、それ について目標値を定めることが求められている。この数値目標たる指標の設定に今回 の中心市街地活性化基本計画の特徴がある。

そこで、この指標設定について、伊藤モデルで示すような相互参照が明確に見られ るかを検証する。最初に指標設定の状況を概観する。中心市街地活性化基本計画にお いて、各基本計画で設定された指標について、「居住人口」「歩行者等通行量」(12)「小 売業販売額」「空き店舗数」「事業所数」「従業者数」「公共交通利用者数」「観光客 数」「その他施設利用者数」と分類する。140計画における指標の設定状況は以下のと おりである(表3)。

この表から理解できるように、「歩行者等通行量」はほとんどの基本計画で指標と して設定されている。逆に、活性化からイメージできる「小売業販売額」の増加を目 標指標にしている自治体は30%に満たない。

表2 先行研究における相互参照先

事務区分 地理的近接 規模類似 高 評 価 早 期

景観条例 Ⅱ ● ● ●

情報公開条例 Ⅱ ● ●

WEB作成 Ⅲ ● ● ●

議会基本条例 Ⅲ ● ●

少人数学級編制 Ⅳ ●

地理的近接:同一県。同じ地方

規模類似:人口規模が同じ。自治制度上同格 高評価:他自治体の評価が高い。規範性が高い 早期:制定・導入が早期

出典:筆者作成

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(13)

中心市街地活性化基本計画の認定第1号は、中心市街地の強化とスプロール抑制を 目指す「一極三層構造」の青森市コンパクトシティと、LRT(Light Rail Transit)の整備 などによって中心部と公共交通軸に生活基盤や都市機能を集約する都市構造を目指す

「串と団子型」の富山市型コンパクトシティであった。この2市の取り組みは中心市 街地活性化の優等生として都市政策関連の各種雑誌で取り上げられたことから、2市 で設定した指標のいくつかは、その後に認定された基本計画における指標のスタン ダードになっても不思議ではない。事実、表3からも分かるように、「歩行者等通行 量」「居住人口」「小売業販売額」「観光客数」は、その後に認定された多くの基本計 画で設定されている。

次に基本計画に現れた相互参照先について検証することにする。基本計画書第9章 の「ⅣからⅧまでの事業等の総合的かつ一体的推進」の項には、策定までの取り組み の経緯が記載されており、そこでの記述を整理することによって各自治体間での相互 参照の実態を把握することができる(13)

計画策定自治体と相互参照先及び認定時期を整理したものが表4である。現地視 察、講演会、事例研究といった形で相互参照先が明示してあるものが25市あり、相互 参照先としては、延べ54市が挙げられている。第1期の青森市、富山市をはじめ、第 2期の長野市、山口市、高松市など、認定の早かった自治体が参照先として選ばれて いる可能性が高い。54市のうち32までが第2期までに認定された市であり、その割合 は59.3%に及ぶ。

相互参照のうち、現地視察について検証する。表4のとおり、現地視察を行ってい る市が10あり、視察先として18市が選ばれている。甲府市が長野市を、別府市が久留 米市を視察するなど、比較的近距離の市を視察していることが窺える。計画策定市か ら視察先までの所要時間は、片道5時間以内が14市であり、地理的に近接している市 が視察先となる傾向がある(14)

以上より、中心市街地計画策定事業の相互参照先は、①早期に認定された自治体、

②地理的に近接している自治体であることが示された。

表3 中心市街地活性化基本計画指標設定状況 指標類型 居住人口 歩行者等

通 行 量

小売業販

店 舗 数 事業所数 従業者数 公共交通

利用者数 観光客数 その他施設 利 用 者 数 設定数 設定率 4% 1% 9% 8% 8% 6% 1% 6% 3%

青森市

富山市

青森市及び富山市の行の「○」は、それぞれの市がその類型の指標を設定していることを表す。

出典:各市中心市街地活性化基本計画を基に筆者作成

−37−

(14)

表4中心市街地活性化基本計画における相互参照先 期110期未認定 認定日青森富山金沢長野山口高松豊後高田宮崎帯広久留米弘前秋田神戸豊田松山川越長浜花巻高山富士鳥栖佐世保 H19.5.28岐阜市講演講演視察 H19.11.30鳥取市1講演講演 H20.3.12滝川市講演 藤枝市講演 奈良市視察視察視察講演 H20.7.弘前市講演 盛岡市講演講演講演講演 大野市視察視察 大津市視察視察視察視察 北九州市①講演 北九州市②講演 別府市視察視察 H20.11.11大田原市事例報告事例報告視察 甲府市事例報告事例報告視察講演 米子市講演講演 H21.3.27掛川市視察 田辺市講演講演 10H21.6.30長浜市視察視察 直方市講演 11H21.12.高槻市講演講演講演講演講演 12H22.3.23福島市講演 佐伯市講演 沖縄市講演 19H24.3.29小田原市講演講演視察 鳥取市2講演講演 参照先市別計 期計13191 ※北九州市の①は小倉地区、②は黒崎地区を表す。鳥取市の1は第1期計画、2は第2期計画を表す。 出典:各市中心市街地活性化基本計画を基に筆者作成

−38−

(15)

③世界遺産事業

世界遺産事業の場合、その相互参照先となる条件は、①「最近」の登録(15)事例、

②「直前」の登録事例、③内容が類似する事例であるという仮説が考えられる。これ を立証するために、「富士山」及び「富岡製糸場」における相互参照先を考察する(16)

「最近」の登録事例とは、「紀伊山地の霊場と参詣道」(以下、「紀伊山地」)以降を指 すと考える。これらが参照先とされる点については、「紀伊山地」から、資産周辺を 新たな自治体条例で保全することとなり、従来の文化財の保存管理計画だけでなく、

資産全体を包括する保存管理計画の策定が必要となるなど、現在の保全・保存に通じ る考え方がこの時点で示されたことによる。当然ながら、「最近」の登録事例は、次 に示す「直前」の登録事例を包含する。

「富士山」にとって、「直前」の登録事例は「平泉」である。直前の登録事例が特 に参照される点については、申請書類に求められるものや審査基準が経時的に変化し ていることから、直前の事例が一番参照する価値のある情報を含むことによる。

次に、内容が類似する事例を参照する点については、世界遺産登録に向けてユネス コに推薦された候補地にとって最も重要な点は、顕著な普遍的価値があるか否かであ る。例えば、「富士山」と「紀伊山地」は山岳宗教の地という類似点がある。こうし た場合には、端的にいえば顕著な普遍的価値についてその一部の「引き写し」ができ る。「石見銀山とその文化的景観」(以下、「石見銀山」)のような産業遺産では、価値の 点で類似点がなく、引き写しはできない。

表5に示すように、「富士山」世界遺産登録の事業主体(参照主体)である山梨県の 視察先は「紀伊山地」「石見銀山」「平泉」の3つしかなく、これらはすべて最近の事 例である。また、内容が類似する「紀伊山地」や直前の事例である「平泉」を複数回 視察している(17)

表5 「富士山」における山梨県の現地視察先

最近の

直前の

H8 紀伊山地の霊場と参詣道 和歌山県、田辺市、那智勝浦町、尾鷲市 H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 岩手県、一関市、平泉町 H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 平泉町

H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 岩手県

H

石見銀山とその文化的景観 島根県、石見銀山世界遺産センター 紀伊山地の霊場と参詣道 三重県、熊野古道世界遺産センター、和

歌山県世界遺産センター

出典:山梨県へのヒアリングを基に筆者作成

−39−

(16)

「富岡製糸場」の事業主体(参照主体)である群馬県についても、表6に示すよう に、「富士山」と同様に最近の事例である「紀伊山地」「石見銀山」「平泉」が視察先 として選ばれており、「富岡製糸場」から見た際の直前の事例にあたる「富士山」と

「武家の古都鎌倉」も視察先となっている(18)

以上より、この事業では、①「最近」の登録事例、②「直前」の登録事例、③内容 が類似する事例が参照先とされるという仮説は証明された。

表6 「富岡製糸場」における群馬県の現地視察先 世界遺産及び暫定一覧表記載資産 最近の

直前の

H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 岩手県、一関市、平泉町

H0 石見銀山とその文化的景観 島根県

H1 紀伊山地の霊場と参詣道 和歌山県世界遺産センター H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 岩手県、平泉町

H 平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 平泉町

H

武家の古都鎌倉 民間団体(ガイド)

武家の古都鎌倉 神奈川県、鎌倉市

平泉−仏国土(浄土)を表す建築・

庭園及び考古学的遺跡群 岩手県、平泉町

石見銀山とその文化的景観 石見銀山世界遺産センター、民間団体 紀伊山地の霊場と参詣道 三重県、熊野古道世界遺産センター、和

歌山県世界遺産センター

富士山 山梨県

出典:群馬県へのヒアリングを基に筆者作成

表7 中心市街地計画策定事業及び世界遺産事業における相互参照先

事務区分 地理的近接 早期 最近の登録 直前の登録 内容類似 中心市街地計画策定事業 Ⅰ ● ●

世 界 遺 産 事 業 Ⅰ ● ● ●

地理的近接:移動時間が5時間以内 早期:認定・登録が早期

最近の登録:保存保全方法が現在と類似している事例 直前の登録:登録された最新の事例

内容類似:具体的政策などの内容等が類似

※斜線は当該自治事務へ適用しないことを示す

出典:筆者作成

−40−

(17)

(3)空き家管理条例の相互参照に係る分析

次に、全国的に条例制定数が急増している空き家管理条例について取り上げる。空 き家管理条例の制定は基本的に前述の自治事務Ⅱにあたる。空き家管理条例の相互参 照の動態的特徴についての考察にあたっては、クラスター分析を用い条例の内容の類 似性を計量的に把握する。

①対象とする空き家管理条例の特徴

2012年後半から空き家管理条例を制定する自治体(市区町村)が急増しており、2014 年4月1日時点で制定済みの条例は355件となっている(図7)(19)

本稿で対象とする空き家管理条例は、このうち、「空き家」を条例名に持ち、条例 本文がウェブで確認できた250条例である。分析項目を表8に示す。「勧告」「所有者 の適正管理義務」は全ての自治体で採用されており、「助言指導」も1自治体を除い て、「命令」「公表」「市民情報提供」「実態調査」「関係機関協力」もほとんどの自治 体で採用されている。可視化する方法としては樹状図を、結合方法としてword法を 用いる。

②クラスター分析による分類結果

クラスター分析は距離の近いものを結合し、それを視覚的に理解が容易なデンドロ グラム(樹状図)で示す方法であり、本研究では表8に示す分析項目が類似している 自治体が順に結合してくことになる(20)。結果は、6つのクラスター(以下、クラスター の用語は省略)に分類された。第Ⅰには62、第Ⅱには51、第Ⅲには34、第Ⅳには39、

第Ⅴには54、第Ⅵには10の自治体が含まれる(図8)。

それぞれの特徴を表9に示す(21)。第Ⅰには、「民事的解決」「市民情報提供」「立入 調査」「代執行」「財政的支援」「寄付申出」の規定が多い傾向にある。「代執行」を

図7 空き家管理条例制定数 出典:国土交通省・総務省資料を基に筆者作成

−41−

(18)

表8 クラスター分析項目データ

市区町

有効活用条例 「有効活用」を条例名に含む

条例名 老朽危険条例 「老朽」「危険」「廃屋」を条例名に含む

まちなか条例 「まちなか居住」を条例名に含む

前文 前文 前文がある

基本理念 「基本理念」がある

民事的解決 「条例が空き家所有者と被害者間の民事的解決は妨げない」旨の規定がある 所有者の適正管理義務 「所有者等の適正管理義務」に係る規定がある 市民情報提供 「市民の管理不全な空き家に関する情報提供」に係る規定がある

実態調査 「空き家の実態調査」に係る規定がある

立入調査 「空き家の立入調査」に係る規定がある

助言指導 「助言・指導」に係る規定がある

勧告 「勧告」に係る規定がある

命令 「命令」に係る規定がある

公表 「命令に従わない場合、氏名等を公表する」旨の規定がある

罰則又は過料 「罰則又は過料」に係る規定がある

代執行 「代執行」に係る規定がある

財政的支援 「勧告等に従って措置を行う者への財政的支援」に係る規定がある 緊急安全措置 市区町村が実施する「緊急安全措置」に係る規定がある 寄付申出 「市区町村が空き家所有からの寄付申出を受けることができる」旨の規定がある 関係機関協力 「警察等の関係機関への協力要請」に係る規定がある

審議会等 「審議会、検討会等」に係る規定がある

市町責務 「市区町村の責務」に係る規定がある

市民責務 「市区町村民の責務」に係る規定がある

事業者の責務 「事業者の責務」に係る規定がある

個人情報利用 「市の保有する個人情報の利用」に係る規定がある

専門助言 「専門家の助言」に係る規定がある

条文 認定(台帳) 「空き家の認定、台帳作成」に係る規定がある

標識設置 「公表の際の標識設置」に係る規定がある

有効活用 「空き家の有効活用」に係る規定がある

空家バンク 「空き家バンク」に係る規定がある

緊急命令 緊急の必要がある際、「命令」の手続きによらない「緊急の命令」に係る規定がある 応急代行 「所有者等の依頼に基づき市区町村が実施する応急代行」に係る規定がある

資料提供要請 「資料提供の要請」に係る規定がある

体制整備 「空き家問題に対応する体制を整備する」旨の規定がある

議会報告 「空き家管理施策の実施状況を議会へ報告する」旨の規定がある 訴え提起 「命令に係る措置をとらなかった者に対し訴えを提起できる」旨の規定がある

財産管理人 「財産管理人の選任」に係る規定がある

まちなか居住 「まちなか居住の推進」に係る規定がある

禁止行為 「空き家の老朽化の促進を禁止する」旨の規定がある

雑草斡旋 「雑草処理のあっせん」に係る規定がある

解体撤去 「所有者等の解体撤去義務」に係る規定がある

管理放棄禁止 「所有者の管理放棄禁止」に係る規定がある

自治組織との協働 「自治組織との協働」に係る規定がある

管理不全状態基準 「管理不全状態を示す基準」に係る規定がある

命令基準 「命令基準」に係る規定がある

弁明機会 「公表する際に所有者に弁明の機会を与える」旨の規定がある 相互協力 「市区町村、空き家所有者、事業者、市民、自治組織等の相互協力」に係る規定がある

基本的施策 「空き家活用等の基本的施策」を定めている

跡地活用 「空き家が除却された跡地の活用」に係る規定がある

出典:筆者作成

−42−

(19)

図8 クラスター分析樹状図(デンドログラム)

出典:筆者作成

−43−

(20)

行った秋田県大仙市、「寄付申出」制度を持つ同東成瀬村の条例制定が2012年と早く、

大仙市と同じ条文構成が8市町、東成瀬村と同じ構成が2町ある。また、全体では 58%の採用率である「代執行」が第Ⅰでは90%採用され、全体では5%程度の採用率 である「寄付申出」制度の採用率も16%と高いことから、第Ⅰ内でこの2市村を参照 先としたことが窺われる。大仙市と同じ条文構成は、青森県五所川原市、秋田県小坂 町・井川町及び吉野ヶ里町など佐賀県内の5町となっていることから、大仙市条例は これらの市町の参照先となっている可能性がある。さらに、第Ⅰ内には秋田県の11市 町が含まれ、地理的に近接する自治体への波及が窺われる。また、佐賀県の11市町が 含まれることから、いったん佐賀県に波及した大仙市条例の条文構成がその後地理的 に近接した同県内の市町に波及したことも推察される。

第Ⅱには、「基本理念」「立入調査」「代執行」「緊急安全措置」「審議会等」「市区町 村の責務」「市民の責務」の規定が多い傾向にある。また、全体では約20%の採用率 である「市民の責務」の採用率が約31%と高い。市民の「情報提供」に加え、良好な 住環境の維持・市の施策への協力といった「市民の責務」を敢えて別条文で入れてい ることから、市民に良好な住環境の維持・向上と市の施策への協力を求める姿勢が推

表9 各クラスターの項目の特徴

調 調

市区町

村 数 1 24 17 29 28 2

市区町

村 数

△:クラスター内で条文として持つ傾向が大きい。▲:クラスター内で条文として持つ傾向が小さい。

出典:筆者作成

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