- 1 -
L1 0 規則 Fe(Pt,Pd)合金薄膜の結晶性に MgO キャップ層が及ぼす影響
Influence of MgO Cap-layer
on the Crystallographic Property of L 1
0Ordered Fe(Pt,Pd) Alloy Thin Film
電気電子情報通信工学専攻 野口 陽平
Youhei NOGUCHI
1. はじめに
近年,IoT(Internet of Things),クラウドコンピューティ ングなどの情報通信技術の発達,
PC
やモバイル端末の用途拡 大に伴い世界のデジタル情報量は急激に増加している[1,2].世界で生産されるデジタル情報量が記録デバイスの記録可能 総量を
2007
年に超えてから,その差は拡大傾向にある.発展 途上国の経済発展なども考慮すると,情報量の急増が継続す ることが予測されている.これらの情報を記録保存するため には,情報記録装置の大容量化が急務になっている.記録装 置には大容量化に加え,長期保存性,低価格性,記録再生の 高速性などが要求される.現状,これらの要因をバランスよ く満たす装置はハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)であり,個人使用の PC
からクラウド対応の大容量データセンターに及ぶ広範囲な用途で活用されている.
HDD
で は,デジタル情報を微細磁石として記録し,この磁石は記録 ビットと呼ばれる.HDDの記録容量増大では,記録ビットの 微細化が必要である.記録ビットの微細化ではビットを構成 する磁性微粒子の寸法減少を伴うが,体積(V )が小さくなると,
磁気エネルギー
K
uV
(K
u:
一軸磁気異方性エネルギー,V :
磁 性微粒子の体積)が減少する.磁性粒子の磁気エネルギーが 減少し,HDD 使用環境の熱エネルギーk
BT
(k
B:
ボルツマン 定数,T :
温度)に近づくと,熱の影響で記録磁化が反転し,記録情報が失われる熱揺らぎ問題に遭遇する[3].熱揺らぎを 避けて記録密度を増大するには,高い
K
uを持つ磁性材料を用 いることが必要となる.高
K
u材料として,Fig. 1(b)に示すL 1
0型規則構造を持つ合 金が注目されている.L 1
0型規則合金には現在活用されているCo-Cr
系合金材料に比べ10
倍以上大きなK
uを持つ材料が含 まれる[4].L 1
0型規則構造を持つFePt
およびFePd
合金はそ れぞれ6.6
および1.8×10
7erg/cm
3[5,6]と大きな K
uを持つた め次世代の磁性デバイスとして検討されている.合金磁性薄 膜の磁性デバイス応用では,高い規則度S
の実現,合金結晶 の配向制御,および高い表面平坦性の確保などが必要となる.A1
c-axis L10
Annealing
(a) (b)
a-axis
c/a = 1 c/a < 1
A atom B atom
A1
c-axis L10
Annealing
(a) (b)
a-axis
c/a = 1 c/a < 1
A atom B atom
Fig. 1 Schematic diagrams of (a) A 1 disordered and (b) L 1
0ordered structures.
Fe
50Pt
50およびFe
50Pd
50合金薄膜を低温で作製するとFig.
1(a)に示すような原子がランダムに配置された fcc
不規則相(
A 1
構造)が形成される.この不規則相を規則相へと変態さ せるには,原子の拡散が必要になるため,高温での熱処理が 必要になる.A 1
結晶の格子定数比c / a
が1
であるのに対し,L 1
0結晶は1
より小さい.そのため,外部からの影響が存在し ない場合,L 1
0結晶のc
軸はA 1
結晶の[100],[010],および[001]のいずれかに揃うため,等確率で L 1
0(100), L 1
0(010),
および
L 1
0(001)結晶へと変態する.結晶方位の異なる等価な
結晶はバリアント結晶と呼ばれる.実際に多結晶の下地層や 単結晶基板上に形成したFePt
膜において,三種類のバリアン ト結晶の混在が報告されている[7–14].膜形成条件や基板材料 が膜の構造に与える影響を調べるため,結晶方位が単結晶基 板や下地層に対して制御されたエピタキシャル膜技術が用い られている[9,11,14–18].基板上に薄膜材料をヘテロエピタキ シャル成長させた場合,結晶の格子定数が異なるために格子 不整合が生じる.膜材料に対して基板材料の格子定数が大き い場合,基板近傍の膜材料には面内方向に引張応力が働き,膜材料の面内方向の格子定数は膨張する.
L 1
0結晶はc
軸方向 に比べて,a
軸方向の格子定数が大きいことから,A 1
結晶よ りも格子定数が大きい基板材料を用いることで,面内引張応 力が働き,c
軸が面外を向いたL 1
0結晶への相変態を誘発させ ることが可能であると考えられる.MgO の格子定数はFePt
もしくはFePd
合金の格子定数に比べて約9%大きいことから 単結晶MgO
基板はc
軸が面外を向いたL 1
0結晶の形成に適 していると考えられ,多くの研究で用いられている.また,膜厚の増加に伴い,格子不整合による応力は緩和されるため,
合金膜上に
MgO
をキャップ層として形成することによりさ らに効率的に合金膜への応力が働くものと考えられる.規則 度S
が向上もしくはc / a
の減少に伴って,K
uが増加するとい う報告があり[19],上述の引張応力により面内方向の格子定 数が膨張することで規則度の向上が見込まれる.本研究では,
MgO
キャップ層の導入により,L 1
0型規則合金 の課題である,配向制御および高い規則度を持つ合金膜の形成 を試みる.MgO
単結晶基板上にFe(Pt,Pd)三元合金膜をエピタ
キシャル成長させ,膜の組成とMgO
キャップ層が結晶性に与 える影響を詳細に調べた.また,酸化Si
基板を用いて,エピタ キシャル膜に比べて複雑な構造となる多結晶FePt膜をMgO下 地層上に形成することで,(001)配向した多結晶膜の形成に必要
となる下地層およびFePt膜の厚さの検討とMgOキャップ層が 合金膜の結晶性に及ぼす影響について調べた.修士論文要旨(2016年度)
- 2 -
2. 実験方法薄膜試料の作製には,超高真空高周波マグネトロン・スパ ッタリング装置を用いた.基板表面清浄化を目的に,製膜に 先立って,超高真空下で
600 °C
で1
時間の熱処理を施した.ターゲットと基板間の距離を
150 mm,Ar
ガス圧を0.67 Pa
とした.製膜速度が0.02 nm/s
となるように印加電力を調節 した.膜構造を反射高速電子回折(RHEED)および
XRD
により 調べた.膜表面形態を原子間力顕微鏡(AFM)により観察し,磁化曲線測定には試料振動型磁力計(VSM)を用いた.
3. MgO キャップ層が Fe(Pt,Pd)合金薄膜に及ぼす影響
MgO(001)基板上に基板温度 200 °C
でFe
50Pt
xPd
50–x( x = 0,
12.5,25,37.5,50,at. %)合金膜を 10 nm
形成し,合金膜 上にMgO
キャップ層形成を行った.その後,規則化のために600 °C
で1時間の熱処理を施した.RHEED
観察の結果から,熱処理前の
Fe(Pt,Pd)合金膜は MgO(001)基板上でエピタキシ
ャル成長していることが分かった.また,Fe(Pt,Pd)合金膜上 に形成したMgO
キャップ層についてもエピタキシャル成長 していた.キ ャ ッ プ 層 形 成 無 し お よ び 有 り に お け る 熱 処 理 後 の
Fe
50Pd
50膜の面外XRD
パターンをFig. 2(a-1)および 3(a-1)
に,面内XRD
パターンをFig. 2(a-2)および 3(a-2)にそれぞれ
示す.面外XRD
パターンから超格子反射であるL 1
0(001)反射
が,面内XRD
パターンからは基本反射であるL 1
0(200)反射が
観察された.このことから,L 1
0(001)結晶のみから構成された
膜 と な っ て い る こ と が 分 か る . キ ャ ッ プ 層 形 成 無 し のFe
50Pt
12.5Pd
37.5およびFe
50Pt
25Pd
25膜における面外XRDパタInte n sit y ( ar b . u n it)
L10(002)Kβ WL MgO(002)
L10(001) KβKβ WLWL
(a-1)
(b-1)
(c-1)
L10(002) +(200) L10(200)
Kβ WLMgO(002)Kβ WLWL
(a-2)
(b-2)
(c-2)
L10(001) Fe50Pd50
Fe50Pt37.5Pd12.5
Fe50Pt50
Fe50Pt25Pd25 Fe50Pt12.5Pd37.5
(d-1)
(e-1)
(d-2)
(e-2)
KβKβ Kβ WLKβ
2θ (deg.) 20 30 40 50 60 70
2θχ (deg.)
L10(200) A2(220)+A2(002)
w/o cap layer
L10(200) A2(220)+
20 30 40 50 60 70
Inte n sit y ( ar b . u n it)
L10(002)Kβ WL MgO(002)
L10(001) KβKβ WLWL
(a-1)
(b-1)
(c-1)
L10(002) +(200)L10(002) +(200) L10(200)
Kβ WLMgO(002)Kβ WLWL
(a-2)
(b-2)
(c-2)
L10(001) Fe50Pd50
Fe50Pt37.5Pd12.5
Fe50Pt50
Fe50Pt25Pd25 Fe50Pt12.5Pd37.5
(d-1)
(e-1)
(d-2)
(e-2)
KβKβ Kβ WLKβ
2θ (deg.) 20 30 40 50 60 70
2θχ (deg.)
L10(200) A2(220)+L10(200) A2(220)+A2(002)
w/o cap layer
L10(200) A2(220)+L10(200) A2(220)+
20 30 40 50 60 70 Fig. 2 (a-1)–(e-1) Out-of-plane and (a-2)–(e-2) in-plane XRD patterns measured for (a) Fe
50Pd
50, (b) Fe
50Pt
12.5Pd
37.5, (c) Fe
50Pt
25Pd
25, (d) Fe
50Pt
37.5Pd
12.5, and (e) Fe
50Pt
50films without cap-layers after annealing at 600 °C. The scattering vector of in-plane XRD is parallel to MgO[100]
substrate. The intensity is shown in logarithmic scale.
ーン(Fig. 2(b-1)および
(c-1))から,どちらの膜についても L 1
0(001)反射に加えて, A 2(002)反射が確認されたことから,
不規則
bcc
構造であるA 2
結晶が混在していることが分かる.これに対し,Fig. 3(b-1)および(c-1)に示す,キャップ層を形成 した膜では,
A 2
結晶からの反射が消失している.このことか ら,MgOキャップ層の形成は,L 1
0結晶への規則化を促進さ せるために効果的であると考えられる.Fig. 2(d)および3(d)
に示すFe
50Pt
37.5Pd
12.5膜のXRD
パターンからMgO
キャップ 層の形成に関わらず,L 1
0(001)結晶のみから構成された膜とな
っていることが分かる.キャップ層形成無しおよび有りにお けるFe
50Pt
50膜の面内XRD
パターンをFig. 2(e-2)および
3(e-2)に示す.キャップ層を形成していない場合の面内 XRD
パターンにおいて,
L 1
0(001)反射が観察されており, c
軸が面 内を向いたL 1
0結晶が混在していることが分かる.しかしな がら,MgOキャップ層を形成した場合この反射が消失してい ることからc
軸が面外を向いたL 1
0結晶のみから構成されて いることが分かる.これらのことから,MgOキャップ層は規 則化を促進させるだけでなく,L 1
0結晶のc
軸を基板面に対し て垂直方向に揃えることが可能であると考えられる.XRD
データから算出した,Fe
50Pt
xPd
50–x膜中のL 1
0結晶の 格子定数比c / a
および規則度S
のPt
組成依存性をFig. 4
に示 す.全ての組成において,MgOキャップ層の形成を行った膜 のほうがc / a
が小さくなっていることが分かる.このことから,MgO
キャップ層とFe(Pt,Pd)膜間の格子不整合による面内引
張応力が働き,L 1
0結晶の面内格子が膨張しているものと考え られる.また,規則度S
についてはキャップ層形成を行うこ とにより,およそ16–53%高くなっていることから規則化が促
w/ cap layer
L10(002)
Kβ WL MgO(002)
L10(001) KβKβ WLWL
(a-1)
(b-1)
(c-1)
(d-1)
(e-1)
Kβ WLKβ
2θ (deg.) 20 30 40 50 60 70
L10(200)
MgO(200)
(a-2)
(b-2)
(c-2)
Kβ WL
Kβ WLWL
(d-2)
(e-2)
Kβ WLKβ WL
2θχ (deg.) 20 30 40 50 60 70
In te nsit y ( ar b . u n it)
Fe50Pd50
Fe50Pt37.5Pd12.5
Fe50Pt50
Fe50Pt12.5Pd37.5
Fe50Pt25Pd25
w/ cap layer
L10(002)
Kβ WL MgO(002)
L10(001) KβKβ WLWL
(a-1)
(b-1)
(c-1)
(d-1)
(e-1)
Kβ WLKβ
2θ (deg.) 20 30 40 50 60 70
L10(200)
MgO(200)
(a-2)
(b-2)
(c-2)
Kβ WL
Kβ WLWL
(d-2)
(e-2)
Kβ WLKβ WL
2θχ (deg.) 20 30 40 50 60 70
L10(200)
MgO(200)
(a-2)
(b-2)
(c-2)
Kβ WL
Kβ WLWL
(d-2)
(e-2)
Kβ WLKβ WL
2θχ (deg.) 20 30 40 50 60 70
In te nsit y ( ar b . u n it)
Fe50Pd50
Fe50Pt37.5Pd12.5
Fe50Pt50
Fe50Pt12.5Pd37.5
Fe50Pt25Pd25
Fig. 3 (a-1)–(e-1) Out-of-plane and (a-2)–(e-2) in-plane XRD patterns measured for (a) Fe
50Pd
50, (b) Fe
50Pt
12.5Pd
37.5, (c) Fe
50Pt
25Pd
25, (d) Fe
50Pt
37.5Pd
12.5, and (e) Fe
50Pt
50films with cap-layers after annealing at 600 °C.
The scattering vector of in-plane XRD is parallel to
MgO[100]
substrate. The intensity is shown in logarithmic
scale.
- 3 -
Order degree
0 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0 25 50 0 25 50
(a) (b)
w/
w/o
w/
w/o
0.90 1.00 0.98 0.96 0.94 0.92
c/a
Pt content, x (at. %)
(Fe50Pd50) (Fe50Pt50) (Fe50Pd50) (Fe50Pt50) c/aBulk
Order degree
0 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2
0 25 50 0 25 50
(a) (b)
w/
w/o
w/
w/o
0.90 1.00 0.98 0.96 0.94 0.92
c/a
Pt content, x (at. %)
(Fe50Pd50) (Fe50Pt50) (Fe50Pd50) (Fe50Pt50) c/aBulk
c/aBulk
Fig. 4 (a) c / a ratio, and (b) order degrees of Fe
50Pt
xPd
50–xfilms without and with cap-layers after annealing at 600 °C.
進したものと考えられる.また,キャップ層形成の有無に関 わらず
Pt/Pd = 1
となるような組成であるFe50Pt
25Pd
25付近で 規則度が最小となっている.このことから薄膜中の原子の組 成が規則度に大きく影響を与えていることが分かる.これは,三元合金膜中における
Pt
とPd
原子の拡散速度の違いや原子 間相互作用による影響であるものと考えられる.Fe(Pt,Pd)膜の磁化曲線を Fig. 5
に示す.いずれの膜につい ても強い磁気異方性を示しており,Pt
組成が増加するに伴い,垂直磁気異方性が向上している.また,キャップ層を形成し た場合,面内の保磁力が減少していた.これは,MgOキャッ プ層を形成したことにより,
c
軸が面内を向いたL 1
0(001)結晶
の減少と規則度が向上した結果を反映したものであると考え られる.4. 酸化 Si 基板上に形成した FePt 合金薄膜
表面を熱酸化したSi基板上に基板温度
200 ºCで配向制御を
目的に,MgO下地層を100 nm
形成した.その後,5,10,40 nm
厚のFePt
膜を形成し,600 ºC
で1
時間の熱処理を行 った.また,一部の試料についてMgO
キャップ層を形成した.Fig. 6
に作製した膜に対してRHEED
観察を行った結果を示 す.MgOキャップ層無しの5
および10 nm
厚のFePt
膜のRHEED
パターンは,リングパターンとスポットが重畳しており,特定の結晶面に配向した多結晶構造となっているもの
Applied field (kOe)
Normalized magnetization
0 10
–10 –5 5
⊥
//
//
⊥ Fe50Pt37.5Pd12.5
(d-1)
(d-2)
0 10
–10 –5 5
⊥
//
//
⊥ Fe50Pt50 (e-1)
(e-2)
0 10
–10 –5 5
0 1
–1 0 1
–1
⊥ //
⊥ //
Fe50Pd50 (a-1)
(a-2)
0 10
–10 –5 5
⊥ //
⊥ //
Fe50Pt12.5Pd37.5 (b-1)
(b-2)
0 10
–10 –5 5
⊥
//
⊥ //
Fe50Pt25Pd25 (c-1)
(c-2)
Applied field (kOe)
Normalized magnetization
0 10
–10 –5 5
⊥
//
//
⊥ Fe50Pt37.5Pd12.5
(d-1)
(d-2)
0 10
–10 –5 5
⊥
//
//
⊥ Fe50Pt50 (e-1)
(e-2)
0 10
–10 –5 5
0 1
–1 0 1
–1
⊥ //
⊥ //
Fe50Pd50 (a-1)
(a-2)
0 10
–10 –5 5
⊥ //
⊥ //
Fe50Pt12.5Pd37.5 (b-1)
(b-2)
0 10
–10 –5 5
⊥
//
⊥ //
Fe50Pt25Pd25 (c-1)
(c-2)
Fig. 5 Magnetization curves measured for (a) Fe
50Pd
50, (b) Fe
50Pt
12.5Pd
37.5, (c) Fe
50Pt
25Pd
25, (d) Fe
50Pt
37.5Pd
12.5, and (e) Fe
50Pt
50films (a-1)–(e-1) without and (a-2)–(e-2) with MgO cap-layers after annealing at 600 °C.
w/o
5 nm 10 nm 40 nm
w/
(a-1)
(a-2)
(b-1) (c-1)
(b-2) (c-2)
w/o
5 nm 10 nm 40 nm
w/
(a-1)
(a-2)
(b-1) (c-1)
(b-2) (c-2)
Fig. 6 RHEED patterns observed for FePt films of (a) 5
,(b) 10,and (c) 40 nm thicknesses formed on 100 nm thickness MgO underlayers. (a-1)–(c-1) without and (a-2)–(c-2) with MgO cap-layers.
L10(001) L10(100)
(a) L10(001) (b) L10(100) (c) MgO(001)
(a) (b) (c)(c) MgO(001)MgO(001)
Fig. 7 Schematic diagrams of RHEED patterns simulated for (a) L 1
0(001)
,(b) L 1
0(100), and MgO(001) oriented poly-crystal film surfaces.
と考えられる.これらの
RHEED
パターンとFig. 7
に示す,配向性多結晶膜のシミュレーション結果を比較すると,
(a) L 1
0(001),(b) L 1
0(100),もしくはそれらが混在したパターン
のいずれかに対応していると考えられるが,これらのパター ンは類似しており,特定することが出来ない.また,40 nm厚の
FePt
膜のRHEED
パターンはリングパターンとハローパターンが重畳しており,膜表面では結晶性が失われている ものと考えられる.MgO キャップ層を形成した
FePt
膜のRHEED
パターン(Fig. 6(a-2)–(c-2))はいずれもFig. 7(c)の MgO(001)に配向した場合のシミュレーション結果と一致し
ていることから,MgO
キャップ層は(001)に配向していること が分かる.次に,これらの膜の構造を調べるため,XRD
法に よる測定を行った.XRD
法による解析の結果から明らかになった,FePt
膜の厚 さ変化に対する膜構造と規則度の値をまとめたものをTable 1
に示す.FePt
膜の厚さが5 nm
の場合,MgO
キャップ層形 成の有無に関わらず,FePt(001)結晶のみから構成された膜と なっていた.これは,下地層として形成した100 nm
厚のMgO
が(001)に高配向しており,MgO
下地層とFePt
膜間の格子ミ スマッチによる引張応力が働いているためであると考えられ る.10 nm厚のFePt
膜では.キャップ層形成無しの場合,FePt(001)結晶に加えて,FePt(100)結晶が混在していた.し
かしながら,MgO
キャップ層を形成した場合,L 1
0(100)
結晶 は減少もしくは消失していた.この結果は上述したMgO(001)
基板上に形成したFePt
膜と同様の結果となっていた.FePt
膜の厚さが増加することにより,下地層のMgO
とFePt
間の 格子ミスマッチによる応力が緩和する.しかしながら,MgO
キャップ層を形成した場合,下地と合金膜,合金膜とキャッ プ層という両者のミスマッチからの応力が効果的にFePt
膜 に働くためL 1
0(001)結晶のみから構成された膜になったもの
- 4 -
Table 1 Crystal structures and order degrees of FePt films formed on MgO under layer of 100 nm thickness
Order Degree, S 0.77
FePt(001) FePt(001) FePt(001)
+(100) Film
Structure
0.59 0.73 0.70
FePt(001) FePt(001)+(100)
+(110)+(111) Without MgO
cap-layer
With MgO cap-layer
5 nm 10 nm 40 nm 5 nm 10 nm 40 nm
Film Thickness
FePt(001)+(100) +(110)+(111)
Order Degree, S 0.77
FePt(001) FePt(001) FePt(001)
+(100) Film
Structure
0.59 0.73 0.70
FePt(001) FePt(001)+(100)
+(110)+(111) Without MgO
cap-layer
With MgO cap-layer
5 nm 10 nm 40 nm 5 nm 10 nm 40 nm
Film Thickness
FePt(001)+(100) +(110)+(111)
と推察される.
40 nm
厚のFePt
膜では,キャップ層形成の有 無に関わらず,複数の結晶から構成されていた.FePt
合金は(111)
面が最密充填面であることから,膜厚の増加に伴って,FePt(111)結晶が現れたと考えられる.また,キャップ層を形
成した場合についてもL 1
0(100)
結晶が混在していることから,キャップ層による影響が小さくなったものと考えられる.規 則度は膜厚が
5 nm
の場合,XRD装置の感度不足により算出 できなかったが,10
および40 nm
の場合,MgO
キャップ層 を形成することにより向上した.しかしながら,膜厚の増加 に伴って変化量は小さくなっていることから,MgOキャップ 層はFePt
膜の厚さが薄い場合に大きな影響をもたらし,膜厚 の増加に伴ってその効果が小さくなっていくものと考えられ る.5. まとめ
本研究では,エピタキシャル成長技術を用いて,
MgO(001)
基板上に,L 1
0型規則合金材料であるFe(Pt,Pd)三元合金を製
膜し,合金膜中の組成とMgO
キャップ層が結晶性に及ぼす影 響について解析を行った.Pt/Pd = 1
となる組成付近で規則度 は最小となった.また,キャップ層を形成することにより全 ての組成で格子定数比c / a
の減少,規則度の向上,および面内 保磁力の減少が見られた.このことから,MgO
キャップ層は エピタキシャル膜においてL 1
0結晶のc
軸制御,規則化の促 進を達成する上で有効な手法であることが分かった.また,多結晶
FePt
合金膜をMgO
下地層上に形成し,合金膜の膜厚 とMgO
キャップ層が結晶構造に及ぼす影響について解析を 行った.FePt
膜の厚さが増加するに伴い,複数の結晶が混在 することが分かった.また,多結晶膜においてもMgO
キャッ プ層による配向制御,規則化の促進が可能であることが判明 した.本研究によって,
L 1
0型規則合金薄膜が抱える課題に対する 解決手法の一つとしてMgO
キャップ層の導入が有効である ことが示された.これらの知見が,今後の磁気応用デバイス の発展に寄与することが期待される.謝辞 本研究を行うに当たり,指導教員の二本正昭教授に は,懇切丁寧なご指導を賜り,深く感謝致します.工学院大 学の大竹充先生には,実験指導,学会発表および論文執筆指 導に至るまで研究に関する様々な場面で多くの助言を頂きま した.深く感謝致します.東京藝術大学大学院の桐野文良教 授には
EDX
分析でご協力頂きました.山形大学の稲葉信幸教 授には磁気特性解析でご協力頂きました.ここに謝意を表し ます.参考文献
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