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1. 研 究 の 背 景

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Academic year: 2021

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1

論 文 内 容 の 要 約

在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える看護における対話援助に関する研究

岩手県立大学大学院 看護学研究科 鈴木美代子

1. 研 究 の 背 景

世界に先駆け未踏の超高齢社会を歩む日本の高齢化率は,依然上昇の途をたどる中,と りわけ

75

歳以上の後期高齢者の割合が急増している.後期高齢者になると,身体的機能の 衰退は避けられず有病率や介護の割合が上昇する傾向にあり,加えて多様な人生転機に伴 う喪失を複合的に体験しやすくなる.実に幅広い年齢層にある高齢者の健康課題は,健康 ステージはもとより個人がおかれている社会的文脈に起因して個人差がある上に,生活・

療養の場も病院,施設,在宅と多岐にわたる.高齢者の健康支援は,もはや病院中心の医 療では限界があり地域が一体となった在宅ケアが推進される.看護では,高齢者が病気を 有しながらも最期まで主体的に発達し続ける存在であるとの捉えのもとに,発達課題を達 成しながら住み慣れた環境でその人らしい生活が維持できるよう,個人に即した健康を支 えていくことが重要である.また,高齢者の健康意識が,必ずしも病気の有無や身体機能・

生活機能のレベルに相関していないことや,サクセスフル・エイジングの概念に一致して いない状況について報告があり,加齢とともに深まり生きる意味に関連するスピリチュア リティが重要といわれる.高齢者のスピリチュアリティを支える援助は,身体・精神・社 会的側面の健康を全体的に根源から支え,高齢者が自己を見失わずに人生を意味づけ,統 合していくという発達課題の達成に導く健康支援につながると考える.

2 . 研 究 目 的

本研究の目的は

,

日本人高齢者のスピリチュアリティの特徴を明らかにし,在宅後期高齢 者のスピリチュアリティを支える対話援助に基づく看護実践プログラムを構築することで,

その有用性を検討することである.看護師が,高齢者ケアのあらゆる健康ステージの多様

な生活場面にかかわり得る身近な存在であることをふまえ,対人援助の看護場面で日常的

に交わされている対話を意図的・計画的な援助プログラムとして構築することは,今後増

加が見込まれる在宅後期高齢者の全人的な健康支援につながると考えた.

(2)

2

2. 研 究 方 法

研究デザインは,在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助の看護実践プ ログラムを構築し,その有用性について看護介入をとおして検討する介入研究である.

研究1では,日本人高齢者のスピリチュアリティと看護実践の内容について,十分なコ ンセンサスが得られていない現状から,先行文献の質的研究のメタ統合(

Meta-synthesis

) 分析を行い,日本人高齢者のスピリチュアリティ概念と看護実践の内容を明らかにした.

それに基づいて,在宅後期高齢者のスピリチュアリティを支える対話援助に基づく看護実 践プログラムを構築した.

研究2では,老化や慢性的な疾患を有し医療機関を利用しながら在宅で療養生活をして いる

75

歳以上の後期高齢者を対象に,看護実践プログラムにそって看護介入を行った.介 入結果のアウトカムを評価することで,スピリチュアリティを支える看護における対話援 助のあり方を検討した.対話の姿勢は,

Bruner

1986

)のナラティブモードの立場でかか わり,対話過程の前半は,高齢者のスピリチュアリティを外在化する目的で,内藤(

1997

) の個人態度別分析(

PAC

分析)を援用し,外在化されたスピリチュアリティの意味や意味 内容の変容プロセスはナラティブ分析で行った.具体的に対話で得られた語りのスクリプ

トは,

Labov

1982

)のフレームワークを援用して物語を構成し,全体のストーリー化と

意味変容のプロセスは,

Riessman

1993

)のナラティブ分析を用いた.

3.

倫 理 的 配 慮

事前手続きとして,病院長と看護部門の責任者へ研究協力を依頼し,条件を満たす

75

歳 以上高齢者の紹介を受けた後に,研究者から協力者へ研究主旨と倫理的配慮について文書 と口頭で説明を行った.研究協力者には,自己決定および研究協力拒否の権利の保証とし て,研究への参加は自由であり,研究途中でも辞退できること,経過の中で話したくない ことは話さなくてよく部分拒否できること,拒否した際には,決して協力者に不利益が生 じないことを説明した.匿名,機密性確保の権利の保証として,プライバシーの保守を厳 守し,不必要な個人情報については話さなくてもよいことを伝え,得られたデータの取り 扱いと保管は厳密に行い,データは研究以外には使用しないことを説明した.論文を公表 する際には,決して個人名やデータが個人を特定できない公開方法であることを約束した.

これらの説明に対し承諾が得られた場合には,承諾書へ署名をしてもらった.なお,本研

究は実施にあたり事前に,岩手県立大学大学院看護学研究科研究倫理審査の承認を得て実

施した(承認番号

2013-D002

).

(3)

3

4. 結 果

研究1の メタ統合では,選定基準に基づき17件の対象論文が選定された.そこから【ス ピリチュアルペインにかかわる喪失体験】【対象との関係性から意味を見出す過程】【人 生や自己存在の意味の再構成・統合を目指す過程】の中心テーマが導かれ,これらは時間 軸の水平構造で示された.そして,この意味を見出す対象は,自己を中心として家族や地 域社会が取り巻き,さらにそれを囲むように時空間を越えた先祖や子孫,観念的な存在が 無限に拡がるかたちの垂直構造で示された.看護実践の内容は,【スピリチュアリティに 関心を寄せ意味づけの過程を支える援助】の中心テーマが導かれ,これらを基に高齢者の スピリチュアリティを支える対話援助に基づく看護実践プログラムを構築した.

研究2の介入研究では,

78

100

歳の在宅高齢者

5

名(男性

2

名,女性

3

名)を対象に,

1

30

120

分,

6

8

回の対話援助を実施した.看護実践プログラムの内容は,メタ統合で 抽出された[関心を寄せて理解する態度]を基盤におき,対話援助の前半(

1

3

回)は,

PAC

分析を援用し[外在化による気づきを促す援助]の実践プログラムを構成した.対話 援助の後半(

4

~最終回)は,ナラティブ・アプローチ法を用いた[人生の振り返りを通し て意味を再構成・再確認する過程を支える援助]のプログラムを構成した.初回の対話で,

スピリチュアリティに関する

5

つの質問を提示し,①潜在意識の外在化による認識化,②無 知の姿勢で傾聴の態度を主軸に行い,ナラティブ・アプローチ法では,外在化されたナラ ティブの相互作用的な意味の生成を目指す,③物語の筋を立てながら傾聴,④経験の真実 性の共有,⑤語り直しによる意味の再構成,⑥意味づけの相互主観化を主軸に実施した.

スピリチュアリティに関するナラティブの変容過程は,在宅後期高齢者の体験世界の意 味づけに依拠して,大きく2つの様相が示された.1つは,家族や社会の役割意識を強く意 識していた高齢者は,発病や配偶者の死別を体験し過去への後悔や自責の念が表出され,

対話援助の語り直しによって過去を受容し新たな役割遂行へと意味を再構成する過程が示 された.それは,長男・長女として後継していくことへの責任や妻・養母の介護を担う役 割の遂行が新たな人生の目標として意味付けていた.

2

つは,病気や怪我をはじめ死に直面 するような体験を繰り返してきた高齢者は,対話援助の物語の筋立てながら傾聴すること によって,膨大に語られた断片的なエピソードのナラティブが筋道立ったストーリーとし て相互理解化することで,高齢者自身が苦難を乗り越えた道のりを確認し自らの生き方を 導く力として認識していく過程が示された.それは,老化や病いにより身体・生活機能が 低下しながらも,自分の存在を,先祖や次世代との永続的な繋がりに位置づけることで,

その繋がりを実感できる日々の出来事に感謝しながら人生の意味を再確認する姿であった.

(4)

4

5. 考 察

看護介入をとおして,在宅後期高齢者のスピリチュアリティは,役割意識と病いの体験 の意味づけによって異なる様相が示され,その変容プロセスから,今回の看護実践プログ ラムは,高齢者のスピリチュアリティを支える有効な援助となり得ると評価できた.特に,

病いの体験の意味づけでは,対話援助をとおして高齢者が自身の生き方を導く力として認 識し,過去の体験や社会的文脈に関連づけ人生全体のなかで意味を再確認しながら人生を 統合する過程を導いたと考えられる.それは,高齢者が先祖や子孫,あの世を意識した時 空間を越えた永続的・超越的存在との関係性に自己存在の意義や生きる意味を再確認する 過程であり,まさに高齢者がスピリチュアリティを意識化し深めていく過程であるといえ る.また,高齢者が表出した役割意識の意味づけは,日本固有の家父長・家制度の文化的 背景や「誰にも話せなかった」「我慢が大切だ」などの言動から,「恥の文化」や儒教伝 来の忍耐・我慢の精神が影響していたと推察される.ここに日本人高齢者のスピリチュア リティの特性をみることができる.人生の最終段階において過去を肯定的に受容し,新た な役割遂行への目標を導く上で,対話援助は有効性であったと考えられる.

外在化を促す援助の過程では,自らの病気体験はもとより家族の健康問題について表出 され,高齢者の自由な語りを傾聴する「無知の姿勢(

Anderson & Goolishan1992

)」と看 護の姿勢で傾聴する「専門的姿勢」の重要性が示唆された.すなわち,発達課題をふまえ 看護の専門的知識・経験をもつ看護師として向き合う傾聴の姿勢は,高齢者が抱える病気 や症状などの多様な健康問題の外在化を促し,高齢者の人生経験を教わる立場で一途に傾 聴する姿勢は,高齢者自身が気付いていない潜在的なスピリチュアリティの意識化を促し たと考えられる.この2つの傾聴の姿勢は,意味の再構成・再確認を導く過程においても,

個別な変容過程に合わせて交互に織り交ぜながら展開することの有効性が示唆された.

6 . 結 論

今回,高齢者のスピリチュアリティを支える看護実践プログラムを実践し,その有用性 を確認することができた.高齢者は老化や病気を有しながらも,対話援助をとおして人生 全体の中に病いの体験を意味づけ生き方を導く力として認識することで,時空間を越えた 対象との関係性に生きる意味を再確認しながら人生を統合する姿が示され,高齢者がスピ リチュアリティを深め確信していく過程であると理解できた.看護における対話援助は,

日本人高齢者のスピリチュアリティの特性をふまえ,高齢者の潜在意識の外在化を促し気

付きを導くとともに,個別に異なる意味づけの過程にそって看護師の姿勢を組み変えなが

らかかわることの重要性が示唆された.

(5)

5

参 考 文 献

Bruner, J.S.(1986) :Actual Minds, Possible Worlds Harvard University Press. London. / 田 中一彦訳(1998):可能世界の心理, みすず書房, 東京.

Labov, W.(1982) :“Speech actions and reactions in personal narrative”, in D. Tannen (ed) Analyzing Discourse:Text and Talk, Washington DC, Georgetown University Press.

内藤哲雄(2003):PAC分析実施法入門 「個」を科学する新技法への招待[改訂版],ナカニシヤ出版, 東京.

Riessman, C.K. (1993):Narrative Analysis Qualitative Research Methods Series 30, USA, SAGE Publications.

Anderson, H. & Goolishan, H. (1992)

“The Client is the Expert: A not-knowing approach to therapy”. In McNamee, S. & Gergen, K. J. eds. (1992):Social Construction and the Therapeutic Process. Newbury Park, CA: Sage Publication.

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