問題と目的
これまでは,化粧といえば女性が主な対象であっ た。しかし最近では,特に若い世代を中心として化粧 に関心を持つ男性が増えつつある。その背景として,
世相の変化や化粧意識の変化があろう。実際,男性の 化粧品使用は珍しいものではなくなりつつある。ひと 昔前の男性用化粧品といえば整髪料と髭剃りクリーム が一般的であったが,最近では,それらに加えてスキ ンケアを中心とした化粧品を使用する傾向がある。花
日中男子大学生の化粧意識
− 文化的要因と経済的要因の影響 −
孫 暁 強1)・ 木 藤 恒 夫2)
王の「くらしの現場レポート」(2014)によると,2011 年の時点で日本の20代男性では洗顔料の使用率が 76%,化粧水・乳液・美容液いずれかの使用率が48%
であった。また,プラネット(2019)では,スキンケ アをしている日本の男性は,20代が59%,30代が 52%,40代が42%と報告されていて,特に若い世代の 成人で化粧品の需要が多いことが示されている。
化粧行動の背景には生理的,心理的,社会的な側面 に関わるものがある。大西・山口・栗山・辻野・藤原
(2007)は日本人男性の顔面についての生理的な特徴 要 約
本研究では,日本と中国の男子大学生における化粧意識及び化粧意識に関わる文化的要因と経済的要因 の関連について調査した。調査参加者は日本の男子学生134名と中国の男子学生120名であった。参加者は 化粧意識「魅力向上・気分高揚(MC1),必需品・身だしなみ(MC2),効果不安(MC3)」,化粧に関わる 文化的要因と経済的要因,及び化粧に関わる個人の家計についての質問に答えた。その結果,中国人学生 は日本人学生より化粧を必需品・身だしなみとする意識は高く,化粧による効果不安は低かった。文化的 要因と経済的要因についての因子分析を行い,日本と中国におけるそれぞれの因子構造を調べた。その結 果,文化的要因においては,日本では「社会的側面での肯定(C1J)」,「文化的側面での肯定(C2J)」,「化 粧の否定(C3J)」の3因子,中国では「化粧の肯定(C1C)」,「化粧の否定(C2C)」の2因子が抽出され た。経済的要因においては,日本では「化粧品の価格と経済的余裕のなさ(E1J)」,「経済的余裕(E2J)」
の2因子,中国では「化粧品の価格と経済的余裕(E1C)」,「経済意識(E2C)」の2因子が抽出された。さ らに,化粧意識と文化的要因ならびに経済的要因との関連について検討した。日本ではMC1とMC2が
C1J,自由に使える金額に占める化粧品費の割合と正の相関,さらにMC1はE1Jと正の相関が認められた。
中国ではMC1がC1C,C2C,E1C,E2C,自由に使える金額に占める化粧品費の割合と正の相関,MC2が
C1C,E2Cと負の相関,MC3がC1C,E1C,E2Cと正の相関が認められた。これらの結果は,日本と中国
の男子大学生の化粧意識には,文化的要因と経済的要因の影響があることを示した。
キーワード:化粧意識,男子大学生,文化的要因,経済的要因,日中国際比較
1) 久留米大学大学院心理学研究科後期博士課程 2) 久留米大学文学部心理学科
として,T-ゾーン(おでこから鼻筋にかけての部分)
とU-ゾーン(あごや口の周りの部分)間の皮膚コン ダクタンス,皮脂分泌量の差異は女性より大きく,髭 剃り習慣による皮膚ダメージは顔面皮膚の加齢変化の 進行に影響すると報告している。また,女性の皮膚は 20代までに成育の完成期を迎え加齢とともに老化し ていく(熊谷・渡辺・神津・野口・高橋,1989)が,
男性における顔の形態的な加齢変化が顕在化する時期 は40代前後であると同時に,女性より顔面の変化も鈍 感に気づくという報告もある(山口・大西・栗山・辻 野・藤原,2007)。
心理的な側面として,斎藤(2019)は大学生におけ る化粧が与える心理的効果について調査した。その結 果,男女ともに化粧後は化粧前よりポジティブな気分 変化が得られたが,行動パフォーマンスとしての計算 課題において男性のみに15%の作業量の増大が認め られた。また,平松(2011)は,マニキュアの使用経 験のない男子学生におけるマニキュア塗抹による感情 状況の変化について調べた。その結果,マニキュア塗 抹によりリラックス状態を導き,指先のみならず容姿 全体に対する満足度が上昇した。また,西岡(2013)
は,日本人男性は化粧をしたいけれども化粧をするこ とができない理由の一つとして周囲の目をあげた上 で,化粧によりコンプレックスを隠すことで自分に自 信を持ち,コミュニケーション力をあげることを期待 しているとも述べている。さらに,飯野(2013)は,
多くの日本人男性の化粧観として,スキンケアと比べ てメイクの方に強い抵抗感があること,女性と同じよ うな「変身願望」を満たすことや目立ちたいという願 望ではなく,自信をもって他者と接して社会に溶け込 みたいという願望をもっていることを示した。
社会的な側面として,プラネット(2019)は男性の スキンケアへの賛否について調べた。その結果,男性 のスキンケアに対する肯定派は否定派より多かった。
男性の36%,女性の44%,男女合わせて39%が男性の スキンケアに肯定的であり,男性の18%,女性の 7%,男女合わせて14%が否定的であった。また,特 徴的なこととして,男性の高齢層には同性のスキンケ アに対する抵抗感が根強いと報告した。さらに,「くら しの現場レポート」(2014)は,スキンケアを行う若 年層の男性が増えてきた社会的背景として,他者に与 える外見的な印象も大事と考えるようになりつつある と指摘している。男性は男性らしくという従来の価値 観が薄らぎ,肌のきれいな女性の美容行動も素直に取 り入れるといった20代の男性も見られるようになっ
ているとも述べている。
男性の化粧に関する研究は,その多くは男性に特化 したものではないが,日本国内の調査のみならず国際 間の比較研究も行われている。平松(2017)は,日本 とタイの男子大学生における化粧基準(社会的場面で 施す化粧の程度)と化粧行動について調べ,日本の男 子大学生の化粧行動は化粧基準の因子である「個性」
と「同調」,タイの男子大学生の化粧行動は「調和」,
「個性」と「同調」が規定していると報告した。さら に,平松(2020)は日本とタイの男子大学生における 自意識や他者意識の個人差要因が化粧行動を規定する 化粧基準に及ぼす影響について調べた。その結果,タ イの男子大学生の化粧基準は公的自意識,日本の男子 大学生の化粧基準は外的他者意識が規定要因となる可 能性があると報告した。また,孫・木藤(2018)は,
日本と中国の男女大学生における化粧意識と化粧行動 を比較した。その結果,両国の男子学生に関しては,
中国の学生は日本の学生よりもポジティブな化粧意識 が高かった。また,化粧意識と化粧行動との相関関係 については,両国の男子大学生ともに化粧意識の「魅 力向上・気分高揚」要因のみ化粧行動との相関関係が 認められた。ただし,日本の場合は正の相関,中国の 場合は負の相関であった。この違いには,日本と中国 の伝統的な化粧意識や文化的・経済的な生活環境の違 いが関与していると示唆された。
本研究では,流行に敏感で,化粧をすることに比較 的に柔軟である男子大学生を調査対象として,化粧意 識を調べるとともに,化粧に関わる文化的要因,化粧 に関わる経済的要因に着目し,両要因と化粧意識との 関係性を検討する。また,これらの文化的要因や経済 的要因は,国や地域によって異なることを考慮して,
日本と中国との国際比較を行うこととする。
方 法
日本人と中国人の男子大学生を対象としたアンケー ト調査を行った。
調査参加者
日本人の調査参加者は福岡県久留米市にある大学の 男子大学生134名(平均年齢19.2歳)であり,中国人の 調査参加者は吉林省長春市にある大学の男子大学生 120名(平均年齢19.7歳)であった。
アンケート調査の構成
アンケート調査はフェースシート,化粧意識,化粧 に関わる文化的要因,経済的要因に関する質問で構成
された。
フェースシート:調査への同意とともに年齢と学年 を尋ねた。
化粧意識:3つの因子で構成される平松・牛田
(2004)の化粧意識尺度の中から,因子ごとに因子負 荷量が高い順に,「魅力向上・気分高揚」因子から6項 目(「自分らしい化粧をしたい」「化粧はおしゃれの一 部だと思う」「いろいろな化粧をしてみたい」「化粧を して人にいい印象を与えたい」「化粧をすると気分転 換になる」「化粧をすると気分が良い」),「必需品・身 だしなみ」因子から2項目(「化粧をせずに他人に見劣 りしたくない」「化粧をしなくても平気だ」),「効果不 安」因子から1項目(「化粧をする必要がない」)を抜 き出し,計9項目で構成し,「全く当てはまらない
(1)」〜「当てはまる(5)」の5件法で尋ねた。
化粧に関わる文化的要因:文化的要因として,家 庭,学校,国レベルでの化粧に関わる社会的側面に基 づくものに限定し,孫・木藤(2020)を参考にした10 項目で構成し(表1を参照),「全く当てはまらない
(1)」〜「当てはまる(5)」の5件法で尋ねた。
家計と化粧:月当たりの生活費,自由に使える金 額,化粧にかける金額について尋ねた。
化粧に関わる経済的要因:化粧に関する経済的要因 ついては,10項目を自作し(表4を参照),「全く思わ ない(1)」〜「そう思う(5)」の5件法で尋ねた。
手続き
日本の男子大学生(以下,日本人学生)に対しては,
授業中に質問紙を配布し,回収した。中国の男子大学 生(以下,中国人学生)に対しては,日本人学生に使 用したものを中国語に翻訳し,WEB調査を行った。
結 果 化粧意識
化粧意識についての因子ごとの日本人学生と中国人 学生の平均と標準偏差は以下のようであった(図1を 参照)。日本人の場合,「魅力向上・気分高揚」因子の 平均は2.1,標準偏差は0.98,「必需品・身だしなみ」因 子の平均は1.9,標準偏差は0.95,「効果不安」因子の 平均は3.8,標準偏差は1.59であった。中国人の場合,
「魅力向上・気分高揚」因子の平均は2.2,標準偏差は 1.05,「必需品・身だしなみ」因子の平均は2.6,標準 偏差は0.63,「効果不安」因子の平均は2.4,標準偏差 は1.43であった。また,国別による1要因分散分析を 行った結果,「魅力向上・気分高揚(MC1)」因子では,
両国の差異が認められなかった。「必需品・身だしな み(MC2)」因子については,中国は日本より平均得 点が高かった(F(1,252)=51.24,p<.01)。「効果不 安(MC3)」因子については,日本は中国より平均得 点が高かった(F(1,252)=53.46,p<.01)。
図1 日中男子大学生の化粧意識
表1 文化的要因の日中比較
日本 中国
M SD M SD F 値 親は化粧をしている
化粧をすると悪印象を与える可能性がある 親はあなたが化粧をすることについて賛成する
あなたの国の文化は女性が化粧をすることを奨励している 日常生活の中で化粧をする必要がある
学生のうちは化粧をすべきでないと思う 外見は内面と同じように大切だと思う 社会人になったら,化粧をすべきだと思う あなたの友人の多くは化粧をしている あなたの国には独自の化粧文化がある
4.6 2.6 2.8 3.7 2.8 2.2 3.9 3.5 3.8 3.3
0.81 1.27 1.37 1.05 1.27 1.13 1.12 1.17 1.15 1.04
2.8 2.4 2.2 2.8 2.5 2.5 3.1 2.8 2.7 2.6
1.51 1.22 1.20 1.34 1.34 1.29 1.47 1.39 1.32 1.25
140.21**
n.s.
10.98**
36.16**
n.s.
n.s.
23.57**
17.52**
52.02**
22.01**
**p<.01
化粧に関わる文化的要因
化粧に関わる文化的要因については,項目ごとの日 本人学生と中国人学生の平均得点,標準偏差を求め,
国別による1要因分散分析を行った。それらの結果を 表1に示した。
また,この要因に関わる質問の因子構造を明らかに するため,国別に探索的因子分析(最尤法,バリマッ クス回転)を行った。その結果,固有値が1以上の因 子が,日本では3つ,中国では2つ認められた。因子 負荷量が0.3以上の項目の因子負荷量を表2に示した。
日本では,第1因子は,「社会人になったら,化粧をす べきだと思う」,「日常生活の中で化粧をする必要があ る」,「親はあなたが化粧をすることについて賛成す る」の3項目からなり,「社会的側面での肯定(C1J)」
と命名した。第2因子は,「あなたの国には独自の化粧 文化がある」,「外見は内面と同じように大切だと思 う」,「あなたの国の文化は女性が化粧をすることを奨 励している」,「あなたの友人の多くは化粧をしてい る」の4項目からなり,「文化的側面での肯定(C2J)」
と命名した。第3因子は,「化粧をすると悪印象を与え る可能性がある」と「学生のうちは化粧をすべきでな
いと思う」の2項目からなり,「化粧の否定(C3J)」と 命名した。中国では,第1因子は,「社会人になった ら,化粧をすべきだと思う」,「あなたの国には独自の 化粧文化がある」,「日常生活の中で化粧をする必要が ある」といった8項目からなり,「化粧の肯定(C1C)」
と命名した。第2因子は,「化粧をすると悪印象を与え る可能性がある」と「学生のうちは化粧をすべきでな いと思う」の2項目からなり,「化粧の否定(C2C)」
と命名した。
化粧と家計
個人の経済力(家計)については,中国人学生の金 額を日本円に換算し(1元=16円),日本人学生と中 国人学生の月当たりの生活費,自由に使える金額
表2 文化的要因の因子構造
因子1 因子2 因子3
日本
社会人になったら,化粧をすべきだと思う 日常生活の中で化粧をする必要がある 親はあなたが化粧をすることについて賛成する あなたの国には独自の化粧文化がある 外見は内面と同じように大切だと思う
あなたの国の文化は女性が化粧をすることを奨励している あなたの友人の多くは化粧をしている
化粧をすると悪印象を与える可能性がある 学生のうちは化粧をすべきでないと思う
0.8282 0.4951 0.3415 -0.1061 0.2895 -0.0290 0.3478 0.0219 0.1365
0.2051 0.1375 -0.0070 0.6078 0.5895 0.4276 0.4265 0.0000 -0.0167
-0.1018 0.2684 0.2017 0.4259 -0.0194 -0.2716 -0.0463 0.5880 0.3196 寄与率(%)
累積寄与率(%)
13.287 13.287
12.047 25.334
8.338 33.672
中国
社会人になったら,化粧をすべきだと思う あなたの国には独自の化粧文化がある 日常生活の中で化粧をする必要がある あなたの友人の多くは化粧をしている 親はあなたが化粧をすることについて賛成する 外見は内面と同じように大切だと思う
あなたの国の文化は女性が化粧をすることを奨励している 親は化粧をしている
化粧をすると悪印象を与える可能性がある 学生のうちは化粧をすべきでないと思う
0.8028 0.7831 0.7412 0.7221 0.6108 0.5972 0.5801 0.5779 0.0830 0.2403
0.1402 0.2687 0.2804 0.1314 0.2463 0.3149 0.3738 0.0175 0.9966 0.5639 寄与率(%)
累積寄与率(%) 37.935
37.935 17.987 55.922
表3 生活費と化粧品費の日中比較(単位:日本円)
日本 中国
生活費
自由に使える金額(A)
化粧にかける金額(B)
B/A×100(%)
56,489 27,685 485 2.4
30,269 20,157 625 4.7
(A),化粧にかける金額(B),及び自由に使える金額 に お け る 化 粧 に か け る 金 額 が 占 め る 割 合(B/ A×100,以下は「化粧品費の割合」と略す)を表3に 示した。
化粧に関わる経済的要因
化粧に関連する経済的要因については,項目ごとの 日本と中国人学生の平均得点,標準偏差,国別による 1要因分散分析を行った結果を表4に示した。
また,この経済的要因についても国別に探索的因子 分析(最尤法,バリマックス回転)を行った。その結
果,固有値が1以上の因子が,日本では4つ,中国で は2つ認められたものの,項目数を考えて,日本は2 因子に分けるのが適当と考えた。さらに,化粧に関す る文化的要因と同様,因子負荷量が0.3以上の項目の み表5に示した。日本では,第1因子は,「使っている 化粧品は高価であると思う」,「化粧品を購入する時の 最も大きなポイントは価格だと思う」,「化粧品は贅沢 品だと思う」といった5項目からなり,「化粧品の価格 と経済的余裕のなさ(E1J)」と命名した。第2因子は,
「金銭的なゆとりがあると思う」,「あなたの親の世代
表5 経済的要因の因子構造
因子1 因子2
日本
使っている化粧品は高価であると思う
化粧品を購入する時の最も大きなポイントは価格だと思う 化粧品は贅沢品だと思う
化粧にかけるお金の余裕がない 現在の生活費は十分ではないと思う 金銭的なゆとりがあると思う
あなたの親の世代と比べて,国の経済は上昇していると思う
毎月のあなたが自由に使えるお金の金額については不満を感じていない
0.6733 0.6644 0.5864 0.5052 0.4084 -0.1379 0.1556 0.0691
0.2062 0.1434 0.1833 0.1235 -0.1242 0.9905 0.4136 0.3825 寄与率(%)
累積寄与率(%)
17.970 17.970
14.491 32.461
中国
使っている化粧品は高価であると思う
化粧品を購入する時の最も大きなポイントは価格だと思う 化粧品は贅沢品だと思う
毎月のあなたが化粧にかけるお金の金額については不満を感じていない 現在の生活費は十分ではないと思う
金銭的なゆとりがあると思う
あなたの親の世代と比べて,国の経済は上昇していると思う 化粧にかけるお金の余裕がない
化粧はお金がかかると思う
毎月のあなたが自由に使えるお金の金額については不満を感じていない
0.8048 0.6862 0.6167 0.5758 0.5107 0.3794 0.1348 0.4342 0.5390 0.4519
0.2208 0.2520 0.4611 0.5045 0.4111 0.1249 0.9431 0.6192 0.5773 0.5390 寄与率(%)
累積寄与率(%) 29.336
29.336 26.607 55.972 表4 経済的要因の日中比較
日本 中国
M SD M SD F 値 化粧にかけるお金の余裕がない
化粧はお金がかかると思う
あなたの親の世代と比べて,国の経済は上昇していると思う 金銭的なゆとりがあると思う
使っている化粧品は高価であると思う 現在の生活費は十分ではないと思う
化粧品を購入する時の最も大きなポイントは価格だと思う 化粧品は贅沢品だと思う
毎月のあなたが自由に使えるお金の金額については不満を感じていない 毎月のあなたが化粧にかけるお金の金額については不満を感じていない
2.6 4.1 3.0 2.8 2.2 2.8 2.6 2.6 3.1 3.0
1.43 1.06 1.23 1.19 1.13 1.27 1.07 1.14 1.33 1.36
3.0 3.3 3.6 2.6 2.5 2.7 2.6 2.8 3.0 2.8
1.44 1.44 1.46 1.23 1.30 1.32 1.32 1.40 1.43 1.38
4.33**
26.83**
12.25**
2.78†
4.49*
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
**p<.01,*p<.05,†p<.10
と比べて,国の経済は上昇していると思う」の3項目 からなり,「経済的余裕(E2J)」と命名した。中国で は,第1因子は,「使っている化粧品は高価であると思 う」,「化粧品を購入する時の最も大きなポイントは価 格だと思う」,「化粧品は贅沢品だと思う」といった6 項目からなり,「化粧品の価格と経済的余裕(E1C)」
と命名した。第2因子は,「あなたの親の世代と比べ て,国の経済は上昇していると思う」,「化粧にかける お金の余裕がない」といった4項目からなり,「経済意 識(E2C)」と命名した。
化粧意識に及ぼす文化と経済の影響
化粧意識に及ぼす文化と経済の影響を検討するた め,日本の場合は,化粧に関わる文化的要因の3因子,
化粧に関わる経済的要因の2因子,化粧品費の割合の 変数間の相関係数を算出した。また,中国の場合は,
化粧に関わる文化的要因の2因子,化粧に関わる経済 的要因の2因子,化粧品費の割合の変数間の相関係数 を算出した。それらの結果を表6に示した。
考 察 化粧意識について
日本と中国ともに男性は化粧を通して魅力を向上さ せるとか身だしなみを整えるといった意識は高くな かった。ここでの質問項目の多くがメイク化粧を対象 としたものであるためであろう。両国間の差異につい ては孫・木藤(2018)と概ね類似していた。ただし,
孫・木藤(2018)では中国の男子学生の方が日本人の 男子学生よりも「魅力向上・気分高揚」因子の得点が 高かったが,本調査では両国に差異は認められなかっ た。その理由としては,今回の調査では,この要因に
関する質問項目数を縮減したためとも考えられる。
「くらしの現場レポート」(2014)やプラネット
(2019)で報告されたように,男性の化粧といえばメ イク化粧ではなくスキンケアが主であり,化粧の装飾 的な機能が目的ではない。また,中国人データの調査 地は中国の内陸にある長春市であり,夏は暑く,冬は
気温が-20℃〜-30℃にまで低下する非常に厳しい生
活環境の地域である。そのため,中国人学生は日常生 活の中で肌の保護を目的とするスキンケアの意識が高 いと思われ,中国人学生は日本人学生より「必需品・
身だしなみ」の意識,特に「必需品」としての意識が 高かったと考えられる。化粧をすることのネガティブ 因子である「効果不安」に関しては,日本人学生の方 が中国人学生よりも意識が高かった。具体的には,こ の因子に関わる質問項目は「化粧をする必要がない」
の1項目のみであった。この質問に対しては,「必需 品・身だしなみ」因子の質問項目の逆転項目と解釈さ れ,日本人は比較的に高く,中国人は比較的に低く評 定した結果であると考えられる。
化粧に関わる文化的要因
この文化的要因に関する因子分析の結果,日本では 3因子,中国では2因子が抽出された。日本の場合,
「社会的側面での肯定」,「文化的側面での肯定」,「化粧 の否定」であり,中国の場合は,「化粧の肯定」と「化 粧の否定」であった。日本の「肯定」2因子が中国で は1因子にまとめて抽出された。
質問項目ごとに分析したところ,7つの質問項目に おいて日本人が中国人より得点が有意に高かった。有 意差が認められた項目は,そのほとんどが社会的ある いは文化的な「肯定」因子に属するものであり,因子 からは除外された項目の「親は化粧をしている」で あった。「否定」因子の項目では両国の差はなかった。
「肯定」的な文化的要因に対して日本人の得点が高い 理由の一つとして,日本の社会では化粧等で外見を良 くすることが重視されていることが考えられる。例え ば,石田(2005)は,日本では男女を問わず,自分の 外見を適切にコントロールできない者は社会人として 失格であるという意識が社会的に暗黙のルールとして 存在していると述べている。「化粧をすると悪印象を 与える可能性がある」と「学生のうちは化粧をすべき でないと思う」の2つの「否定」的な文化的要因の項 目に対して両国ともに得点が低いのは,たとえ学生で あっても両国の若い世代では,それらの項目が化粧の
「否定」的な文化的要因とは考えていないということ を示唆している。
表6 化粧意識と文化的要因・経済的要因との相関関係
MC1 MC2 MC3
日本 C1J C2J C3J E1J E2J
B/A×100
0.338**
0.208†
0.135 0.256*
0.003 0.307**
0.294**
0.023 -0.041 0.153 -0.060 0.309**
-0.083 0.136 0.062 -0.017 0.092 -0.112 中国
C1C C2C E1C E2C
B/A×100
0.711**
0.281**
0.619**
0.430**
0.318**
-0.319**
0.115 -0.028 -0.228*
0.154
0.635**
0.013 0.444**
0.369**
0.244*
**p<.01,*p<.05,†p<.10
化粧と家計
まず,家計的な実際の経済力を見ると,生活費全体 では日本の方が高かった。これは,中国の場合,学生 のほとんどは寮生活であり,家賃分は寮費として別に 払っていることも一因と考えられる。化粧品費の割合 は中国の方が日本よりも高かった。前述のように,中 国での調査地域は気候面での生活環境が厳しく,スキ ンケア用化粧品の需要が多いためとも考えられる。
化粧に関わる経済的要因
経済的要因に関する因子分析の結果,日本と中国と も2因子が抽出された。ただし,両国での化粧に関わ る経済的要因における因子構造は異なっていた。日本 の場合,「化粧品の価格と経済的余裕のなさ」と「経済 的余裕」であり,中国の場合は,「化粧品の価格と経済 的余裕」と「経済意識」であった。
質問項目ごとに分析したところ,「化粧はお金がか かる」項目を除くと,全般的に平均得点は高くはな かった。国別の比較で見ると,「化粧はお金がかかる」
項目のみ日本人の得点が中国人より高く,「化粧にか けるお金の余裕がない」,「あなたの親の世代と比べ て,国の経済は上昇していると思う」,「使っている化 粧品は高価であると思う」の3項目は中国人の得点が 日本人より高いという結果であった。中国人の得点が 高い項目を見ると,発展が続く中国の経済状況ではあ るが,学生には,贅沢品とも思われている化粧品の価 格は高価であると解釈できる。
化粧意識に及ぼす文化的要因,経済的要因,化粧品費 の割合の影響
日本人の男子学生においては,化粧意識の「魅力向 上・気分高揚」因子は,文化的要因の「社会的側面で の肯定」,経済的要因の「化粧品の価格と経済的余裕の なさ」,及び家計的な実際「化粧品費の割合」と正の相 関が認められた。この結果は,そもそもこの因子での 得点は低く,その理由として,男性のメイク化粧が社 会でまだ十分には浸透していないこと,化粧品の価格 が高くてそれに見合う効果を期待していないことが考 えられる。「必需品・身だしなみ」因子は,文化的要因 の「社会的側面での肯定」と「化粧品費の割合」と正 の相関が認められた。この因子の得点も高いものでは なく,「魅力向上・気分高揚」因子と同様のことを示唆 するものと考えられる。また,「効果不安」因子は,ど の文化的要因や経済的要因,及び化粧品費の割合とも 相関関係が認められなかった。この因子の得点は比較 的に高く,日本人の男子学生は化粧の必要性を否定し ていた。文化的要因の「化粧の否定」等との関連が考
えられたが,そのような結果は得られなかった。この 理由としては,「効果不安」については質問項目が1項 目しかなく「化粧の否定」についても2項目しかな かったため,十分に検討できなかったことが考えられ る。
中国人の男子学生においては,化粧意識の「魅力向 上・気分高揚」因子は,全ての文化的要因,経済的要 因,及び「化粧品費の割合」と正の相関が認められた。
日本人の場合と同様,化粧意識のこの因子での得点は 低かった。したがって,この相関関係の結果は,文化 的要因や経済的要因が高いと魅力の向上や気分の高揚 という化粧意識が高いということよりも,文化的なら びに経済的要因が低いと「魅力向上・気分高揚」因子 の得点が低いことが反映されたものと考えられる。
「必需品・身だしなみ」因子は,文化的要因の「化粧 の肯定」と経済的要因の「経済意識」と負の相関が認 められた。この結果は,「社会人になったら,化粧をす べきだと思う」や「日常生活の中で化粧をする必要が ある」といった「化粧の肯定」感が強いと「化粧品は 必需品であり,身だしなみである」といった日常的な 化粧感と相容れない,「経済意識」が高いと「化粧品は 必需品である」といった化粧感と相容れないと解釈で きる。
さらに,「効果不安」因子は,文化的要因の「化粧の 否定」以外の全てと正の相関が認められた。「効果不 安」という因子名ではあるが,今回の調査で使用した 質問項目は「化粧をする必要がない」のみであった。
中国人の平均得点は2.2点であり,やや必要があると の評定と解釈できる。したがって,この化粧意識要因 と文化的要因の「化粧の肯定」要因,経済的要因の「経 済意識」要因,及び「化粧品費の割合」との間に相関 があることは容易に理解できる。また,もう一つの経 済的要因である「化粧品の価格と経済的余裕」とも相 関が認められた。この理由としては,この経済的要因 の因子に含まれる質問項目には,化粧品は高価な贅沢 品であるといった項目とともに,金銭的なゆとりがあ るとか使える化粧品費に不満はないといった経済的余 裕に関する項目への評定が影響したと考えられる。
結 論
本研究では,日本と中国の男子大学生を調査対象と して,化粧意識,化粧に関わる文化的要因,化粧に関 わる経済的要因,及び両要因と化粧意識との関係性を 検討した。その結果,化粧意識は両国とも全般的に低
かった。この結果は,男性の化粧はスキンケアが主で あり,本調査での質問項目の多くがメイク化粧を対象 としたものであったためと考えられた。男性の化粧意 識を調査する場合,この質問項目の適切な選定は今後 の大きな課題であろう。また,文化的要因と経済的要 因の因子構造は両国で異なることが明らかになった。
それらの要因と化粧意識の間にはさまざまな因子間で 相関が認められたが,その様相は両国で少なからず異 なっていた。最後に,調査を実施する背景として社会 的にも経済的にも男性の化粧が進展しつつあると考え たが,本調査の結果は,実際はそれほどでもなく,ま だまだ進展途上であることを示すものであった。
引用文献
平松 隆円(2011).男性による化粧行動としてのマ ニキュア塗抹がもたらす感情状態の変化に関する研 究 佛教大学教育学部学会紀要,10,175-181.
平松 隆円(2017).化粧基準と化粧行動の日タイ比 較 繊維製品消費科学,58(3),260-269.
平松 隆円(2020).青年男女の化粧基準を規定する 個人差要因(自意識・他者意識)の日タイ比較 繊 維製品消費科学,61(2),35-42.
平松 隆円・牛田 聡子(2004).化粧に関する研究
(第3報)―大学生の化粧意識の構造解明と化粧行動 との関連性― 繊維製品消費科学,45,53-62.
飯野 智子(2013).「男らしさ」とファッション・美 容 実践女子短期大学紀要,34,83-99.
石田 かおり(2005).岐路に立つ「メトロセクシャ ル」―現在の日本の男性の化粧表現に見られる問題 点と解決案― 駒沢女子大学研究紀要,12,1-13.
熊谷 広子・渡辺 弘子・神津 登志枝・野口 ひろ み・高橋 元次(1989).加齢に伴う顔面皮膚の生
理的・形態的変化(第1報)―日本女性の加齢変化
― 日本化粧品技術者会誌,23(1),9-21.
くらしの現場レポート(2014).美肌にこだわる男子
―「20代男性のスキンケア」その意識と実態―,花 王.Retrieved from https://www.kao.co.jp/content/
dam/sites/kao/www-kao-co-jp/lifei/report/pdf/02.pdf 西岡 敦子(2013).男性の化粧は受け入れられるの
か―男性の化粧行動から― 繊維製品消費科学,54
(4),332-338.
大西 一禎・山口 あゆみ・栗山 健一・辻野 義 雄・藤原 延規(2007).日本人男性の加齢に伴う 顔面皮膚の生理的・形態的変化と自己意識について
(第1報)―皮膚基本特性の部位差・季節間変動・
加齢変化について― 日本化粧品技術者会誌,41
(2),94-102.
プラネット(2019).男性も洗顔料・化粧水が常識 !?
20代では2割が美容液を使用―女性は肯定的な“男 性のスキンケア”,男性には大きな世代間ギャップ あり―,プラネット.Retrieved from https://www.
planet-van.co.jp/pdf/fromplanet/fromplanet_104.pdf 斎藤 美穂(2019).男性化粧が与える心理的効果
FRAGRANCE JOURNAL臨時増刊,22,92-95.
孫 暁強・木藤 恒夫(2018).日中大学生の化粧意 識と化粧行動 久留米大学心理学研究,17,15-23.
孫 暁強・木藤 恒夫(2020).日中女子大学生の化 粧意識と化粧行動 久留米大学心理学研究,19, 23-31.
山口 あゆみ・大西 一禎・栗山 健一・辻野 義 雄・藤原 延規(2007).日本人男性の加齢に伴う 顔面皮膚の生理的・形態的変化と自己意識について
(第2報)―シワ・皮膚色の加齢変化および男性の フェイスケア意識について― 日本化粧品技術者会 誌,41(2),103-111.
Makeup consciousness of Japanese and Chinese male undergraduate stu- dents: Influences of cultural and economic factors
Xiaoqiang Sun (Graduate School of Psychology, Kurume University)
TSuneo KiTo (Department of Psychology, Faculty of Literature, Kurume University)
Abstract
In this study, we investigated the relationship between makeup consciousness and cultural and economic factors related to makeup consciousness in male undergraduate students in Japan and China. Participants were 134 Japanese male students and 120 Chinese male students. Participants answered questions about makeup consciousness “improvement of attractive- ness / uplifting mood (MC1), necessities / grooming (MC2), anxiety about negative effects of makeup (MC3) “, cultural and economic factors related to makeup, and individual household budget about makeup. As the results, Chinese students were more conscious of makeup as the necessities and grooming than Japanese students, and were less anxious about the nega- tive effects of makeup. We conducted factor analyses of cultural and economic factors and investigated the respective factor structures in Japan and China. Regarding cultural factors, three factors “social affirmation in the social aspect (C1J)”, “affir- mation in the cultural aspect (C2J)”, and “denial of makeup (C3J)” in Japan and two factors “affirmation of makeup (C1C)”
and “denial of makeup (C2C)” in China were extracted. Regarding economic factors, two factors “cosmetics price and lack of economic margin (E1J)”, “economic margin (E2J)”, in Japan and two factors “cosmetics price and economic margin (E1C)” and “economic awareness (E2C)” in China were extracted. Furthermore, we examined the relationship between makeup consciousness and cultural and economic factors. In Japan, MC1 and MC2 were positively correlated with C1J, and the ratio of cosmetics costs to the amount of money that could be freely used, and MC1 was positively correlated with E1J.
In China, MC1 was positively correlated with C1C, C2C, E1C, E2C, and the ratio of cosmetics costs to the amount of money that could be freely used, MC2 was negatively correlated with C1C and E2C, and MC3 was positively correlated with C1C, E1C, and E2C. These results showed that cultural and economic factors influence the makeup consciousness of Japanese and Chinese male undergraduate students.
Keywords: makeup consciousness, male undergraduate students, cultural factors, economic factors, international com- parison between Japan and China.