論文の内容の要旨
氏名:阿部 圭甫
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:レジンセメント接着システムに到達する光エネルギー量が CAD/CAM レジンへのレジンセメント の接着強さに及ぼす影響
CAD/CAM装置で切削・加工可能なメタルフリー修復材が種々開発され,適合,審美性のよい補綴装置を製
作することが可能となった。なかでもCAD/CAM冠用ハイブリッドレジン(以下,CAD/CAMレジン)はセラミ ックス(ジルコニア,二ケイ酸リチウム)と異なり,焼成などのプロセスを必要としないため即日修復が可 能であり,今後,さらに臨床に応用される機会は増加すると考えられている。しかし,CAD/CAMレジンクラ ウンは早期に脱離することが多く,セメントの接着性の不足が指摘されている。
近年,CAD/CAMレジンへの接着性を向上させるため,接着材とデュアルキュアレジンセメントから構成さ
れるレジンセメント接着システム(以下,接着システム)が開発されている。しかし,これまでは接着シス テムの接着性の評価にはCAD/CAM レジン表面に設置したデュアルキュアレジンセメントにLED光を直接照 射して作製された試験体が用いられているため,得られたデータを基に口腔内に装着した CAD/CAM レジン クラウンの長期的な安定性を推測することは難しいと考えられる。これは,CAD/CAMレジンクラウンの外側 から LED光を照射しても,照射器から出力された光エネルギーの大部分は吸収され,その直下に存在する 接着システムに到達する光エネルギー量は大きく低下し,その結果,接着材やデュアルキュアレジンセメ ントの重合率の低下を引き起こし,ひいては接着性の低下を招く恐れがあるためである。
そこで,本研究では,接着システムの接着強さをより臨床に即した形で測定するため,CAD/CAMレジンを 介してLED光を照射する接着試験体を作製し,口腔内に装着したCAD/CAMレジンクラウンを長期間維持さ せるために接着材が具備すべき機能に関する知見を得ることを目的とし,以下の研究を行った。
研究1では,従来の評価法に準じて,CAD/CAMレジン表面に設置したデュアルキュアレジンセメントに直 接光照射を行い,CAD/CAMレジンへの4種接着システムの接着強さを測定し,CAD/CAMレジンや接着材のタ イプが接着性に及ぼす影響を比較検討した。さらに,試作 2 液性シランプライマーを調整し,シランカッ プリング剤処理による接着強さを向上させる効果について検討した。
使用した材料は,CAD/CAMレジン,デュアルキュアレジンセメント(以下,レジンセメント)および付 属接着材から構成される4種類の接着システム,すなわちクラレノリタケシステム(クラレノリタケデン タル株式会社,東京,日本)(以下,KA),ジーシーシステム(株式会社ジーシー,東京,日本)(以下,
CE),松風システム(松風,京都,日本)(以下,HC)およびトクヤマシステム(株式会社トクヤマデンタ ル,東京,日本)(以下,ES)である。それぞれのシステムにおいて,CAD/CAMレジンにはKatana® Avencia® Block,Cerasmart®270,Shofu Block HCおよびEstelite Block,接着材にはClearfil® Ceramic Primer Plus(以下,CPP),G-Multi Primer(以下,GMP),HC Primer(以下,HCP)および Tokuyama Bondmer Lightless(以下,TBL),レジンセメントにはPanavia® V5,G-Cem Linkforce®,Block HC CemおよびEstecemを用いた。接着材をその成分を基にCPPとGMPをシランプライマー,HCPとTBLを レジンプライマーに分類した。さらに,シランカップリング剤と塩酸からなる2液性の試作シランプライ マーを用いた。
研究2では,臨床で行われている接着操作を模倣し,CAD/CAMレジンを介してデュアルキュアレジンセメ ントに光照射を行い接着システムに到達する光エネルギー量が接着性に及ぼす影響を検討し,接着材のモ ノマー成分およびその重合開始機構が接着性に及ぼす影響を検討した。
材料は研究1 に準じたものを使用した。なお,レジンプライマーは重合開始剤の種類によりさらに分類 し,HCPは光重合タイプ,TBLは化学重合タイプとした。
CAD/CAMレジンを透過する光強度の測定および接着システムの接着強さの評価は,光照射器の出力口を
厚さ1.5 mmの4種CAD/CAMレジン表面から0 mmおよび2 mmの距離に設置し,LED光を20秒間照射して 行った。CAD/CAMレジンを透過する光強度の測定は微小パワーセンサーを用いて行い,得られた光透過曲 線を積分して光エネルギー量を算出した。また,接着強さの評価はレジンブラスト面にシリコーンリング
を用いて接着材およびレジンセメントを設置した後,上記方法に準じて光照射し,レジンセメントを光重 合させた試験体,およびレジンセメントを化学重合させた試験体を用いて行った。
研究1の結果として,
1)レジンプライマーを接着材としたHCおよびESはシランプライマーを接着材としたKAおよびCEよ
り高い接着強さを示した。
2)シランカップリング剤処理がCAD/CAMレジンへのデュアルキュアレジンセメントの接着強さを向上
させる効果は,CAD/CAMレジンに添加されているシリカフィラーの粒子径に依存した。試作シランプライ マーはCPPおよびGMPに使用されているリン酸モノマーより電離度の高い塩酸を加水分解促進剤として用 いているため高い接着強さを示した。
研究2の結果として,
1)LED光の光路に厚さ1.5 mmのCAD/CAMレジンを設置すると,CAD/CAMレジンを透過する光エネルギ ー量はCAD/CAMレジン表面に光照射器の出力口を接触させても約12%であり(距離0 mm),CAD/CAMレジ ンから光照射器の出力口までの距離を2 mmにすると,光エネルギー量はさらに低下し,約10%となっ た。
2)シランプライマーを接着材とするKAおよびCEの接着強さは光エネルギー量が減少しても,約3 MPa
および約7 MPaと一定値を示したが,レジンプライマーを接着材とするHCおよびESの接着強さは光エネ
ルギー量の減少に伴い約11 MPaから約1 MPaおよび約15 MPaから約11 MPaへとそれぞれ低下した。
3)光を照射しない場合のHCPを接着材とするHCの接着強さは1.1 MPaであった。しかし,TBLを接着材 とするESの接着強さは11.7 MPaを示した。
以上の結果より,CAD/CAMレジンに対するレジンセメント接着システムの接着強さは,使用する接着材 の接着機構とその重合開始機構に強く依存しており,今後,レジンプライマーの接着機能をさらに高める ためには多官能性モノマーを化学重合させる機能を向上させる必要があることが明らかとなった。