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(1)

中国における持続的経済成長の課題 : 資源と環境 の制約的側面からの一考察

著者 田 暁利

雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =

Annual report of the Institute for International Studies

号 11

ページ 99‑103

発行年 2008‑12

URL http://hdl.handle.net/10723/506

(2)

中国における持続的経済成長の課題

―資源と環境の制約的側面からの一考察―

田 暁 利

要 旨

  中国政府は「エコ五輪」という目標を掲げ、この目標を達成するために北京市内に位置していた中

4

大製鉄所の一つ「首都鋼鉄公司」の移転を決定し、実行に移した。中国政府はこの大きな決断を もって、2008 年の北京オリンピックに向けての環境対策に強く取り組む姿勢を世界にアピールした。

しかし、一方で自動車社会の急速な普及によって、光化学スモッグ問題が激化し、むしろ交通渋滞が 北京オリンピックのアキレス腱となっている。

  このように環境対策が打ち出される一方で、環境汚染は益々深刻化するという現状は、中国全土に 広がりつつある。今後における中国経済の持続的成長にとって大きな制約要因として考えられるのは、

鉱物資源、水資源などの資源問題や環境問題であると言っても過言ではない。

  本稿は中国が抱えている環境問題の現状について分析し、その打開策について考える。

Ⅰ 中国経済の現状

 

2007

2

14

日、世界銀行は北京で最新版の『中国経済四半期報告書』を発表した。その中に

「今後しばらくの間、中国経済は引き続き好調を保ち、2007 年の

GDP

の成長率が

9.6%に達するこ

とはほぼ確実である」とし、さらに「中国の輸入業者やメーカーは、最近始まった経済の均衡性を保 つための政策や措置の影響を受けているものの、中国の生産効率は引き続き高いレベルにある上、国 際経済からの強い要請もあるため、中国の輸出増加の速度は鈍化するものの、その減少幅は小幅なも のにとどまるだろう」としている(2007

2

14

日世界銀行報告書)

  また、2007

12

31

日新華社が

2007

年度中国経済に関する

10

項目の重要データを記事した。

それによると、GDP(国内総生産)の伸びは

11.5%で、消費者物価指数の上げ幅は 1996

年以来の最 高値となる約

4.7%に達した。また、人民元の切り上げ幅がすでに 6%を超え、貿易黒字額は 2500

ドルに達した(2007

12

31

日新華社)。このような高成長をもたらす要因として考えられるのは 次の点にあると思われる。

1

点:高い投資(=資本形成率)の持続的推移。

①  資本形成の比率が高いほど、国民生産の成長率をより高くし、低い資本形成率は資本一単位当 たりの産出が増加しなければ、低い国民生産成長率を意味する。

②  中国では、1985 年から現在、毎年の資本形成率が占める

GDP

の比率は、軒並み

35%以上。

2003

年の場合はさらに

42.3%に達した。

(3)

2

点:対外貿易の拡大。

①  生産効率の進展:外資系企業の役割。

②  貿易総額の推移:1978年の

264

億ドル〜2004年の

11548

億ドルに達した。

③ 

GDP

に占める対外貿易総額の比率は

91%(2006

年)に達した(貿易摩擦原因)

④  中国経済成長の「過度の対外依存」

⑤  国内市場の狭小「国民消費の不足」

  一般的に、一国の消費率(国民消費/GDP×100%)によると、先進国の場合:78%前後、途 上国の場合:74%前後に対して、中国の場合:50%(2006年)

3

点:高い貯蓄の達成。

①  改革・開放以降、中国都市部の家計部門の所得は急増している。

② 

1978

年の都市部の一人当たり可処分所得は

343

元であったが、2002年には

7,703

元と

24

年間 でおよそ

22

倍になっている。

③ 

1978

年の都市部の一人当たり消費支出は

311

元で、2002年には

6,030

元とおよそ

19

倍にとど まっている。

④  所得の伸びが予想以上に高く、消費の伸びがそれについていかないことがうかがえ、貯蓄率の 上昇をもたらしていると考えられる。

⑤  都市部の一人当たり平均賃金は

2000

年から

2002

年まで年平均

13.2%と大幅な上昇になった。

⑥  金融・保険業、科学技術研究等の高度な能力、技術を必要とする業種が賃金の伸びを牽引して いる(ただし、これらの業種に従事する労働者は

2002

年で

1%に満たない)

⑦  労働力全体の

6

割を占める農林水産業、製造業、建設業等での上昇幅はそれほど大きくない。

⑧ 

1978

年以前の計画経済体制の下、中国都市部では国有企業等の「単位」が年金、医療等社会 生活を手厚く保障していた(企業が年金の財源を負担していたが)

⑨  しかし、高齢化の進展と定年退職者の急増が加わって、この社会保障制度では対応できなくな り、政府は制度改革に着手した。

⑩ 

1984

年から段階的に始まった年金改革では、国家、企業、個人が基金を作り、財源を負担す る。

⑪ 

1989

年〜2002年で年金の基金収入は

21

倍になっている一方で、基金支出は

23

倍になり、積 立不足が顕在化している。

⑫  高齢化の進展で積立不足は増加の一途をたどり、国民は将来の年金に対する不安から貯蓄高を もたらしたとみられる。

⑬  中国都市家庭が貯蓄を増やす理由としては、子供の教育費、老後生活が主であり、その他にも、

医療・健康、住宅購入も家計が貯蓄を増やす理由。

「粗放型」経済成長と環境

  中国経済の高成長を支えていたのはエネルギー消費量の規模的増幅である。例えば、中国の

GDP

(4)

これが意味するのはこれまでの中国経済の高成長は、「粗放型」(extensive)の経済成長による資源の 無駄使いによって支えられてきたことである。これまでの中国経済は、経済制度の移行によって生産 性の上昇がもたらされ、さらに経済主体の多元化構造の確立が経済成長の原動力と化した中で、後発 経済の比較優位を駆使し、これまでの

30

年近くの間、年平均

9.6%の成長率を維持してきた。しかし、

このような経済の高成長に伴い、種々の問題も顕在化するようになった。その一つはこのようにエネ ルギー消費量の急速な拡大による環境破壊の深刻化である。これについて以下にまとめることができ る。すなわち、

①  先進国と決定的に異なる点に国民の環境保護意識の欠如が挙げられる。

②  国有企業に代表される中国の企業は、エネルギー消費節約などのコスト意識や技術革新による 省エネについての意識が希薄である。

③  深刻な環境問題を克服するためには企業の積極的な関与が不可欠だが、環境産業の育成は環境 対策と経済発展の双方が期待できる。

④  中国は環境汚染物質の排出量が世界最大の国である。二酸化硫黄(SO2)は単なる大気汚染だ けでなく酸性雨(pH

5.6

以下の雨水)まで発生させる工業排気だが、この

SO

2の排出量も 世界トップクラスである。

⑤  中国全土の約

1/3

の地域はすでに酸性雨の影響を受けている。

⑥  中国のエネルギー消費量もアメリカに次いで第二位で、地球温暖化の原因物質である二酸化炭 素(CO2)も世界の総排出量の

14%を占めている。

⑦  都市部でのモータリゼーションの普及は大気汚染を加速させている。

Ⅲ 環境破壊の現実

①  環境汚染

  中国政府は、国内の産業発展を支える石炭以外のエネルギー源の確保に努めているが、石油、天然 ガスともに石炭に代替し得るほど量は国内では確保できていないのが現状である。そのため、今日に 至るまで石炭が依然として中国産業を支える主なエネルギー源になっている。

  エコ技術および経済コストなどの様々な要因によって、中国の企業では選炭及び排煙脱硫は不十分 である。そのため、石炭燃焼により酸性雨が発生し、森林、農作物、健康、更に鉄橋等の構築物にも 被害が発生し、経済的損失も年々増幅している。硫黄含有率が高い石炭の使用が続いているために、

湖北省や四川省といった内陸の工業エリアでは深刻な環境汚染とともに、酸性雨による被害が広がっ ている。例えば、1980年代末における湖北省

SOx

濃度は、日本の最も汚染が酷かった時期の

2

倍を 超える高濃度に達し、2007 年現在も中国のほとんどの大都市が最悪の大気汚染の現状を抱えている。

現在、中国は日本の約

6

倍の

SOx、4〜5

倍の

NOx

を排出するに至っている。

  中国国内における大気汚染は深刻であり、中国政府は石炭依存度の低下と大気汚染防止のための対 策を進めているが、一次エネルギー源の

75.5%が自国産の石炭であり、特に、四川省及び雲南省から

産出される石炭は硫黄分が多く

3%を超えている。その他、貴州省、広西省、陝西省の石炭も硫黄分

2%を超えており、エネルギー効率も悪い。褐炭、泥炭など 5,000kcal/kg

以下のカロリーが低い石

炭が燃料として用いられている点も、環境悪化をもたらしている。

(5)

 

2000

年から中国政府は大・中都市の市内と近郊には石炭火力発電所を建設することを許可しない 方針を打ち出した。それと同時に、硫黄分

1%以上の石炭を使用する発電所に対して、排煙脱硫設備

2010

年までに建設し、新設発電所は新設時に排煙脱硫設備を設置する政策を導入することを義務 付けることにした。さらに、電力事業者に対して

SOx

排出量は

2000

年の排出量を超えることは認め ないだけでなく、SOx排出に対する排出課徴金が課される(0.2元/SOx 1kg)ことを

2000

年に決定し た。

  もし、この規定どおりに排煙脱硫設備が設置されれば、2010年の設備能力は

5000

kW

分に達す ることが可能になる。しかし、2007 年現在で排煙脱硫装置の設置された設備能力は依然として低い 水準に留まっている。その原因はやはり資金投入不足によるものと考えられる。今後、中国全体とし てはエネルギー使用量が増えざるを得ず、大気中に硫酸及び硝酸等の酸性物質が増加し大気が酸性化 した場合には、酸性雨問題が深刻化し、土壌被害による農産物と森林への影響、健康被害が増加する ことが懸念される。

②  河川の渇水問題

  中国の長い河川、長江の流域は中国

GDP

4

割を生み出している。北京オリンピックに向けた水 確保のための大工事である「南水北調」事業が急ピッチに展開されている。しかし、長江も今はかつ てない大きな渇水危機に直面している。2004

10

月、全国政治協商会議と中国発展研究院が連合主 催した「長江保護万里行」視察団は、上流の四川省宜賓から出発し、上海までの

21

都市で汚染を実 態調査した。その結果、「長江の生態は極めて危険な状況にあり、解決しないと

10

年以内に崩壊する 恐れがある」との見解を公表した。さらに、中国第二の大河である黄河は既に渇水期に断流現象が生 じるようになり、泥水の中に生物がほとんど生息できない、もはや川でなくなりつつある。

  河川の渇水現象と平行して中国が抱えているもう一つの水問題は過剰揚水による地下水位の低下で ある。中国では大量の水を必要とする穀物生産や綿花生産を中国では地下水利用に大きく依存してい る。2000 年までは穀物生産が地下水利用の主な目的であったが、その後、農村工業用水や周辺住宅 用水も地下水に依存するようになった。

  さらに、河川流域の森林の比率が急速に下がり、泥砂の含有量が増えて生態環境は急速に悪化して いる。渇水期も早くなり、長江でも断流が近づいている。水質も極めて悪化し、沿岸の多くの都市の 飲料水に影響している。牛や羊の死体や家具を含めた固体廃棄物の汚染はひどく、貯水が始まった三 峡ダムではこうした廃棄物が最高

4

メートルの厚さとなり、発電に大きな悪影響を与えている。

  また、中国の穀倉地帯、東北

3

省の 黒土 にも異変が起きている。土壌浸食の深刻な被害により、

肥沃な黒土が痩せた 黄色い大地 に変わりつつある。ここでは、中国全体のトウモロコシの約

8

割、

大豆の約

6

割を生産している。農民の生活向上等のために森林が切られ、溝ができ、ヤギや羊の根こ そぎの食性もあり、年間約

1cm

のピッチで黒土は減少中だ。専門家は、「現在の流出ペースが続くと、

50

年後に黒土は消滅する」と警告する。

  中国の

1

人当たり水資源量は、世界平均の

3

分の

1

にも満たず、水資源分布も極めて不均衡であり、

全国の都市では水が不足している。工業立地でも、エネルギーのみならず水問題が制約要因となりつ

(6)

悪化という

4

つの問題を抱える。

「循環型経済」の確立に向けて

  急速に深刻化する環境情勢を踏まえ、中国政策研究者においても、環境と資源問題を両立させて持 続可能な発展を導くという「循環経済」の概念を打ち出している。「循環型経済」とは物質資源の循 環利用やエネルギーの効率的利用を特徴とし、生態工業、生態農業、生態消費等のシステムを含むも のである。

  「粗放型」経済から「循環経済」への転換は、経済発展モデルを根本的に変革することを意味する ものである。したがって、転換の過程で、理念の転換、関連技術の研究開発と創造、システムの発展 計画と方案の制定、市場メカニズムの活用、関連する法律や法規の問題、国民と企業の責任など多く の課題をクリアーする必要がある。

  これら課題を根本的に解決するためには、中国政府および政策立案者はこれまで環境重視の経済発 展モデル構築に成功し、かつ大きな成功を収めた日本のノウハウ、すなわち政府の立法や企業の努力 など豊富な経験を吸収する必要がある。環境汚染の影響を直接受ける日本は、今後より積極的に中国 の公害・エネルギー・地球温暖化・廃棄物リサイクル問題などに関与すべきであり、日・中両国にお ける官・民レベルでの環境保全と経済成長の両立が可能な関連技術分野での協力関係を早急に構築す ることが望まれる。

注:本稿は「国際学研究」第

35

号に掲載予定。

参照

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