• 検索結果がありません。

著者 竹内 卓郎

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "著者 竹内 卓郎"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

辻信一著『英国シューマッハー校サティシュ先生の 最高の人生をつくる授業』講談社,2013年3月,239

著者 竹内 卓郎

雑誌名 明治学院大学国際学研究 = Meiji Gakuin review

International & regional studies

巻 45

ページ 149‑152

発行年 2014‑03‑31

その他のタイトル Shin'ichi Tsuji, Lessons for Well‑Being: One Week with Satish Kumar at Schumacher College, Kodansha, 2013, 239pp.

URL http://hdl.handle.net/10723/1929

(2)

【書 評】

辻  信一著『英国シューマッハー校サティシュ先生の  最高の人生をつくる授業』 

講談社,2013 年 3 月,239 頁

竹 内 卓 郎

本書は辻信一こと大岩圭之助が,所属する明治 学院大学国際学部の学生を引率してイギリスで校 外実習を行ったことについてまとめたものであ る。イギリス校外実習の中でもシューマッハー校

(本書では「シューマッハー・カレッジ」と「シュー マッハー校」の二つの表記を混在させているが,

本稿では本書のタイトルにならい以下「シュー マ ッハ ー 校 」 と 統一 し て 表 記 する 。) で サ テ ィ シュ・クマールらと過ごした1週間を中心に本書 は語られている。本書の構成を見る前に,本書の 舞台であるシューマッハー校を設立したサティ シュ・クマール,ならびにシューマッハー校につ いてまとめていく。

サティシュ・クマールは 1936 年インドに生ま れ,9歳でジャイナ教の修行僧になるが18歳で還 俗し,2 年半をかけて世界の核保有国を徒歩で巡 り,核兵器廃絶を訴える平和巡礼を行った。『ス モール・イズ・ビューティフル』などの著作で知 られるE・F・シューマッハーとの出会いをきっか けに1973年からイギリスに定住し,英語圏を代表 するエコロジー雑誌である『リサージェンス』の 編集長を務めながら,環境運動や平和運動に携わ り,今では世界を代表する思想家として多くの 人々に敬愛されている(2項。以下,本書からの 引用は項数のみを表記する)。著者は自身とサティ シュの関係について,「サティシュは,僕にとって は先生であり,精神的な師

グル

とも言える存在だ。と はいえ(・・・)彼は僕を友人と呼び,自分のこ とを僕の友人と見なしている」(同上)と言ってい る。本書で語られるイギリスでの校外実習には,

学生の学びの場としての意味合いももちろんある が,著者自身の学びやサティシュへの尊敬の気持 ちが発端となっていることがここで明かされてい る。

サティシュはイギリスに二つの学校を設立し た。一つはスモール・スクールという中学校で,

もう一つが本書で取り上げられている大人のため の学校であるシューマッハー校である。どちらの 学校もサティシュの「E=4H」という考えが取り 入れられている。「E=4H」のEとは教育の意であ るエデュケーション,四つのHはそれぞれヘッド,

ハート,ハンズ,ホームからきており,教育とは 頭,心,手,そして家庭のバランスの上に成り立っ ているという考え方である。この考え方がサティ シュの学校で行われる活動の基本的な指針となっ ている。シューマッハー校にはホリスティック・

サイエンスなどの修士課程のコースがあり,修士 号の取得が可能な正規の大学院であるが,世界中 から集まる学生のために集中講座やセミナー,短 期プログラムなども開いている。ホリスティッ ク・サイエンスもまた,「E=4H」とともにシュー マッハー校の性格を表す重要な概念である(18-21 項)。著者はホリスティック・サイエンスについて 次のように述べている。

ホリスティック・サイエンス(全体性科学)を簡単 に定義するのは難しいのだが,これまでの科学的な 専門性によって「部分化」された世界の見方から,

さまざまなつながりの「総体」として世界を捉える やり方へと,世界観を転換することを目指す新しい

(3)

辻 信一著『英国シューマッハー校サティシュ先生の最高の人生をつくる授業』

学問といえばいいだろうか。(20項)

著者はホリスティック・サイエンスを総体として 世界を捉えようとする志向性を持った学問だと 言っている。この世界を総体として捉えようとす るホリスティック・サイエンスの志向性はシュー マッハー校の食事にも全体食という形で表れてい る。全体食とは,ホール・フードのことであり,

言うなればまるごとの食べ物の意味で,普通なら 捨てられてしまうような野菜などの皮や根っこも だし汁などに利用した食事のことである。「白米が 部分食なのに対して,玄米は全体食」という例え 話も交えながら,シューマッハー校では食事にも ホリスティック・サイエンスの考え方が内包され ていることを示している(42-46項)。区別のある 部分ではなく,区別のない総体として物事を考え るホリスティック・サイエンスも「E=4H」の公 式と同じくサティシュの学校の基本的な方針であ る。

本書を読み進める上で重要と思われる「E=4H」

とホリスティック・サイエンスについて簡単に触 れたところで本書の構成を以下に示す。

まえがき

「人生を豊かにする時間」へ,ようこそ 一日目 サティシュの生き方&シューマッハー校

サティシュがつくった二つの学校 一万三〇〇〇キロにもわたる壮大な旅 敵国の友人

「地球のお客」として生きる 勇気こそ通貨

恐怖は決して愛を生まない 最も偉大な教師は誰か 本当のアーティストとは

「シェアリングの場所」

全体食の衝撃 二日目 自然という家族

瞑想は「循環」

ものごとの質を表す三つの言葉

オーナーシップからリレーションシップへ

「所有」と「人種」

自然との調和は社会の調和も

エリート大学の「ハーフ・エデュケーション」

直線から循環へ,区別から一体へ 自然界における人間の役割とは

「所有」は人間の本質か お金を減らして時間を増やすと 過去に属する信仰,現在に属する信頼 三日目 ガイア理論と「魂の世界」

自分たちの食事に関わる「不思議な感じ」

ファストフードと種の絶滅の関係 ガリレオの限界

アニマ・ムンディ ― 魂の世界 ディープ・エコロジーという試み ガイア理論の誕生

地球はパーティをしている?

人間の知性は宇宙全体にとって重要か 水・陸・気温の相互関係

人類の歴史を知るハイキング 賢人サティシュはバーで何を語る 四日目 就活しない生き方

新しい「世界の見方」をつくるプロジェクト グル時事あの女性がくれた四袋の茶葉の意味

「雇用される」=丁寧に扱われる奴隷 誰もが特別なアーティスト

西洋的な幸せの定義に対してサティシュは

「仕事は遊び,遊びは仕事」の大前提 まちがいや失敗は大歓迎

「子育て」ではなく「子育ち」

トイレ掃除とシェイクスピアの関係 五日目 自分の内に眠っている能力

水から人生の困難に対するやり方を学ぶ

「先生は私ではない,水だ」

ゴッホは運が良かっただけなのか?

幸せの「根っこ」とは何か

親にとって最も大事な,究極の役割 宗教とは本来,井戸のようなもの 森の農業

世界最古の農耕では

「純粋さ」にこだわらないとどうなる アートを生む三つのC

ギフト ― 見返りを求めない愛

(4)

無意識のギフトは「君はここにいること」

絶望に対処する方法

「私を連れていけばいい」の意味 飛び跳ねるサティシュの傍で 六日目 悲しみの手当て

新しい文化の手本になるには

「伝える」ために必要なこと 死という現実にいかに立ち向かうか 死という名の再生

「トランジション・タウン」という試み 持続可能なローカルコミュニティでは ガーデンシェア,菜園と畑の分かち合いで 社会全体のしなやかさを内側からつくる運動 理想は大きく,そのための活動は小さいことから 自分の可能性にふさわしい人生を

七日目 旅のたからもの 人生の旅へ

心の中でサティシュは 若者たちが得たもの 時間に支配されると人間は 地球を祝福する方法 想像を超えた一週間 すぐに変化しはじめた人生 あとがきにかえて

Be the change!

上記の構成は本書の性質を象徴している。

本書の特徴は初めに述べた通り,著者が単にサ ティシュについてまとめているのではなく,著者 の尊敬するサティシュのもとで学生を連れて校外 実習を行った記録である。学生がサティシュらと 同じ時間を過ごすことで驚き,心を震わせる体験 をしたことが本書では余すことなく描かれてい る。著者が「とにかく学生たちをサティシュに会 わせたかった」(4項)と言っているように,学生 の存在が本書を形作る大きな要素になっている。

一歩踏み込んで言うと本書の最も読み応えのあ るところの一つに,学生とサティシュの交流の関 係性と,時にはそれを遠くから傍観するように,

時には交流の輪に積極的に関わろうとする著者の 三者の関係性がある。本書を通して学生は変化す

る存在であり,学生がサティシュやシューマッ ハー校などの影響を通して変化していく姿を著者 が余すところなく描いている。著者があとがきに 代わりに寄せている章のタイトルである「Be the change!」という言葉が本書の性質である変化を表 象している。

本書の構成を見渡してみると,サティシュの言 葉を本文から引いてきた「先生は私ではない,水 だ」や,サティシュの考えを一言で表現した「勇 気こそ通貨」といった言葉が並ぶ中で,著者の立 場から発せられた章立てである「若者たちが得た もの」などが入り混じっている。学生が校外実習 中に発した言葉を冠した章である「自分たちの食 事に関わる『不思議な感じ』」では,シューマッハー 校での三日目の朝の出来事が記されている。午前 の授業が始まる前の時間に行われるコミュニティ ワークについて書かれている。コミュニティワー クは「E=4H」の方針に基づいて,シューマッハー 校が単に勉強をするだけの場所ではなく,手を用 いて共同作業をすることでコミュニティの一員で あることの意味を学ぶ活動である。この活動の中 でカレッジの庭を利用して野菜が育てられてい る。この野菜はシューマッハー校で毎日食べられ ているもので,自分が食べる野菜を自分でつくる,

という経験をコミュニティワークから学ぶことが 出来る。自分が食べるものを自分でつくる,とい う体験に触れた時の学生の「不思議な感じ」とい う感想が「自分たちの食事に関わる『不思議な感 じ』」という言葉に表されている(89-90 項)。構 成のこのような特徴からも本書がただ単にサティ シュを紹介するものではなく,サティシュと学生,

そして著者の交流が中心に据えられていることが わかる。

中でも,瞑想についてのエピソードが本書に登 場する三者の関係をよく描き出している。シュー マッハー校における瞑想はサティシュが持ち込ん だもので,サティシュの習慣に周囲の人々が付き 合うように催される。著者はサティシュと行う瞑 想の柱になっているものを循環だと位置づけてい る。瞑想はサティシュの言葉とともに行われ,呼 吸という循環を通して,あらゆるものとのつなが

(5)

辻 信一著『英国シューマッハー校サティシュ先生の最高の人生をつくる授業』

りを意識させる。ここでもホリスティック・サイ エンスの考え方である部分ではなく,総体,つま りつながりとして世界を捉える取り組みがなされ ている。初回は著者がサティシュの英語を日本語 に通訳しながら瞑想が行われた。著者の役割はサ ティシュと学生のつながりを作ることである。こ うして行われた瞑想の体験を校外実習の活動の中 で最も楽しかったと述べた学生もいたようだ。初 日に瞑想に参加した学生は半分ほどだったが,数 日経つとほぼ全員が参加するようになった,と記 されている(48-52項)。著者はここで学生の言葉 を引いて,瞑想がどのような体験だったのかを示 している。

「(・・・)最初,男の子たちは朝,起きることがで きず不参加でした。でも,実際に瞑想を経験した人 たちの評判を聞いて,参加の人数はどんどん増えて いきました。『来ないと損だよ』。みんな,口々にそ う話していたんです。最終的には,誰もが『サティ シュとの時間を逃せない』という雰囲気になってい ました」(51項)

瞑想を通して学生が変化していく様子が描写され ている。本書ではこのような学生の変化がサティ シュという人間やシューマッハー校の環境ととも に丁寧に取り扱われている。変化をする対象であ る学生と変化を起こす要因であるサティシュの存 在をはじめとしたシューマッハー校の環境を繋ぐ 役割を著者が担っている。

瞑想という一つの挿話をなぞるだけでも著者が 時には間に立ちながらサティシュと学生のふれ合 いを大切にしていることがわかる。また,そのよ うな著者を仲介として変化していく学生の姿が浮 び上がってくる。このような学生の変化や三者の 関係性が本書に通底するテーマである。著者は校 外実習を本書としてまとめる際に,自身を語り手 として登場させた。語り手は時に自身も登場人物 として立ち回りながら,学生とサティシュの交流 をつぶさに観察し,学生の細かな表情を描き出し,

サティシュやシューマッハー校の思想が体現され る細部に着目した。このような語り手の態度が提

示したものは単にイギリス校外実習をまとめるに 留まらず,読者に新しい関係性を築く可能性,つ まり変化の可能性をも指し示しているのである。

サティシュ,そしてシューマッハー校が「E=4H」

を基盤とした取り組みを通してホリスティック・

サイエンスの概念を体現していくことを示すこと で,著者は読者に世界との新しい関わり方を提示 し変化を促しているのではないだろうか。

参照

関連したドキュメント

 音楽は古くから親しまれ,私たちの生活に密着したも

を塗っている。大粒の顔料の成分を SEM-EDS で調 査した結果、水銀 (Hg) と硫黄 (S) を検出したこと からみて水銀朱 (HgS)

老: 牧師もしていた。日曜日には牧師の仕事をした(bon ma ve) 。 私: その先生は毎日野良仕事をしていたのですか?. 老:

JTOWER は、 「日本から、世界最先端のインフラ シェアリングを。 」というビジョンを掲げ、国内外で 通信インフラのシェアリングビジネスを手掛けて いる。同社では

注1) 本は再版にあたって新たに写本を参照してはいないが、

帰ってから “Crossing the Mississippi” を読み返してみると,「ミ

・沢山いいたい。まず情報アクセス。医者は私の言葉がわからなくても大丈夫だが、私の言

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から