別紙様式8
研 究 主 論 文 抄 録
論文題目 森林性哺乳類を対象とした長寿命なGPSテレメトリシステムに関する研究 (Study on Long-Life GPS Telemetry System for Forest Mammal Species)
熊本大学大学院自然科学研究科 情報電気電子工学 専攻 人間環境情報 講座 ( 主任指導 内村 圭一 教授 )
論文提出者 森下 功啓 (Katsuhiro Morishita)
主論文要旨
《本文》
近年、日本国の山林及び農村においてニホンジカやニホンザル,イノシシによる農林業 被害が増加している。特に、ニホンジカによる下層植物への食害は深刻である。被害対策 には定常的な行動のモニタリングが必要であるが、そこではより長期間運用可能な行動調 査手法が望まれている。本研究の目的は、ニホンジカなどを対象としたGPSを用いた行動 調査システムの利便性と省電力性,測位回数を向上させることである。
GPSを用いた行動調査には、主に3つの課題がある。1つ目の課題は、GPSテレメトリ における調査の省力化である。既存の手法では、定期的なモニタリングのために調査者が 山に分け入る必要がある。従って十分な個体追跡数の確保が難しく、行動の定量的評価を 妨げている。また、同時に多数の個体を追跡することで新たな性質が明らかになると期待 されるが、実現できていない。2 つ目の課題は、GPS による測位回数の向上である。GPS 受信機の測位に要する電力量が大きいために、既存の手法では行動学的な分析を行えるほ ど頻繁な測位を行うと数日~1ヶ月でバッテリ切れとなる。3つ目の課題は、測位できる領 域を拡大することである。既存のGPSテレメトリでは、密生した樹木や谷間地形が衛星か ら発信された測距信号を遮蔽する影響で測位できない領域が存在しており、これが正確な 生態分析の妨げになっている。従ってこれまでの研究で明らかにされたことは行動面積や 季節移動の有無にとどまっており、より詳細な調査が望まれている。本研究では、これら の課題に対し、1) 無線ネットワークを適用したGPSテレメトリ,2) GPS受信機の起動タ イミングと観測間隔への工夫,3) GPSを補間する測位方法を提案した。
まず、GPS テレメトリを省力化することを目的とし、無線による測位情報の自動的な回 収の提案し、それを実現するハードウェアの消費電力について検討した。実験の結果、電 源やRAMの保持に要する基礎的な消費電流を約10 µAとすることができた。また、無線 器を利用した場合でも少なくとも1年程度の観測が可能であることを示した。加えて、GPS 受信機の測位実験の結果から、測位完了後に一定期間測位を持続することとで測位精度を
向上できることを示した。
次に、GPSの測位回数を増加させることを目的とし、GPSの測距信号仕様を考慮した測 位スケジューリングについて検討した。これまで、GPS の仕様にまで踏み込んだ運用方法 について触れた研究はほとんど発表されていない。実験の結果、GPS 受信機の起動タイミ ングによって、実験に用いたGPS受信機では、5秒以上長く起動させたとしても測位の成 功率に4ポイントの差が出ることを確認した。また、GPS受信機の測位間隔とホットスタ ートの割合を予想するプログラムを開発し、九州の緯度において GPS 受信機の電源を
ON/OFFする間隔が2時間までは測位が早く終了する割合が線形に減少し、2時間45分以
降になると急速に測位性能が悪化し、3時間では測位環境と起動タイミングによる影響が大 きいこと、および測位間隔を 3 時間より長くしても消費電力量を減らすことができないこ とを明らかにした。なお、九州以北では可視衛星数が減少するためホットスタートの割合 が小さくなると考えられるものの、九州以南も含めてほぼ同様の傾向と考えられる。
最後に、山林におけるGPSの測位を補間することを目的とし、気圧高度とデジタル標高 モデルを組合わせることで野生動物の移動経路を推定する方法について提案した。ここで、
気圧高度とは気圧を用いて推定される標高などの高さである。本研究では固定の大気観測 局を基準とすることでGPSの単独測位に比べ高精度な高さを求められること、およびこれ まで全く不明だった測位点間の移動経路を推定できるケースがあることを示した。例えば、
九州の九重連山において移動実験を行った結果、2時間に渡る移動経路を推定できた。