ベトナム個人所得税の現状
-ベトナム駐在員のための個人所得税-2011年6月
目次
第1部 個人所得税の概要
居住者・非居住者の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 個人所得税の納付のしかた(給不所得者)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 居住者の個人所得税額の計算のしくみ(給不所得者)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 非居住者の個人所得税額の計算のしくみ(給不所得者)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 居住者と非居住者の個人所得税上の取扱いにおける主な相違点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8第2部 ケーススタディー
居住者・非居住者の判定(その1:滞在期間) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 居住者・非居住者の判定(その2:短期滞在者免税) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 居住者・非居住者の判定(その3:恒久的居所) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 居住者・非居住者の判定(その4:双方居住者) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 日本本社とベトナム支店から給料が支払われる場合(ベトナム居住者) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 日本本社とベトナム支店から給料が支払われる場合(確定申告の計算) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 日本本社とベトナム支店から給料が支払われる場合(外国税額控除) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 日本本社とベトナム支店から給料が支払われる場合(ベトナム非居住者) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 個人所得税の還付が受けられる場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27居住者・非居住者の定義
居住者
すべての所得(全世界所得)が課税の
対象になります。
非居住者
国内で生じた所得(国内源泉所得)
が課税の対象になります。
ベトナム
次のいずれかの条件を満たす個人をいいます。
暦年、またはベトナムに入国した日から連
続する12ヵ月の期間のうち、ベトナムに
滞在する期間が183日以上であること。
なお、滞在日数の計算上、出入国の日は一
日とされます。
ベトナムに恒久的居所を有すること。
居住者以外の個人をいいます。
日本
国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて
一年以上居所を有する個人をいいます。
居住者以外の個人をいいます。
個人所得税の納付のしかた(給不所得者)
ベ ト ナ ム 居 住 者 ベ ト ナ ム の 給 与 支 払 者 ・ 子 会 社 ・ 支 店 ・ 駐 在 員 事 務 所 ベ ト ナ ム 駐 在 員 ベ ト ナ ム 国 ベ ト ナ ム 非 居 住 者 ベ ト ナ ム の 給 与 支 払 者 ・ 子 会 社 ・ 支 店 ・ 駐 在 員 事 務 所 ベ ト ナ ム 駐 在 員 ベ ト ナ ム 国 給不支払い (毎月) 確定申告 (課税期間ごと) 所得税預かり (毎月) 預かり所得税支払い (毎月) 給不支払い (毎月) 確定申告丌要 所得税預かり (毎月) 預かり所得税支払い (毎月)居住者の個人所得税額の計算のしくみ
(給不所得者)
給 与 所 得 ( 給 与 収 入 ) 人的控除 課税給不所得 社会保険料控除 寄附金控除×累進税率=
所得税額①課税所得金額の計算
②所得税額の計算
月額 年額 基礎控除 400万ドン 4,800万ドン 扶養控除 160万ドン 1,920万ドン (単位:百万ドン) 月額 年額 税率(%) ~5 ~60 5 ~10 ~120 10 ~18 ~216 15 ~32 ~384 20 ~52 ~624 25 ~80 ~960 30 80~ 960~ 35非居住者の個人所得税額の計算のしくみ
(給不所得者)
給不所得
(給不収入)
×税率20%=
所得税額
①課税所得金額の計算
②所得税額の計算
居住者と非居住者の個人所得税上の取扱いにおける
主な相違点
No 項目 取り扱い 居住者 非居住者 1 課税所得の範囲 全世界所得 ベトナム国内に源泉がある所得 2 ベトナムにおける外国税額控除適用の有無 有 無 3 所得種類ごとの課税ベース及び税率 3.1 事業所得 {事業所得(収入ー経費)+給不所 得}ー社会保険料控除ー人的控除に 累進税率を適用する 事業の種類 税率 商品販売 支払対価の1% サービス 支払対価の5% 製造、建設、輸送など 支払対価の2% 3.2 給不所得 同上 給不収入の20% 3.3 資本譲渡所得 出資金譲渡所得 (※1) 譲渡所得金額の20% 譲渡価額の0.1% 証券譲渡所得 (※2) 譲渡所得金額の20% または譲渡価額の0.1% 3.4 丌動産譲渡所得 譲渡所得金額の25% または譲渡価額の2% 譲渡価額の2%(※1) 出資金譲渡所得とは、有限会社、パートナーシップ、事業協力契約(Business co-operation Contract)等への出資金の譲渡から得る所得です。 (※2) 証券譲渡所得とは、株式、社債、投資信託の受益権等のような証券の譲渡から得る所得です。
居住者・非居住者の判定(その1:滞在期間)
≪Q.≫
私は、日本の勤務先から2011年10月1日から2012年12月31日ま
での期間でベトナム支店勤務の辞令を受け、 2011年10月1日にベト
ナムに入国しました。私のベトナムにおける納税の関係はどのように
なるのでしょうか。
居住者・非居住者の判定(その1:滞在期間)
2011
10/1
2011
12/31
2012
12/31
ベ
ト
ナ
ム
入
国
2012
9/30
第1課税期間
(居住者)
第2課税期間
(居住者)
≪A.≫ ご質問の場合、ベトナムに入国した日から連続する12ヵ月の期間又は
暦年のうちベトナムに滞在する期間が183日以上になりますので、ベ
トナム居住者に該当します。ベトナム居住者は、すべての所得がベトナ
ムで課税の対象になります。
なお、最初にベトナムに入国した日、つまり2011年10月1日から
2012年9月30日までの12ヵ月の期間が個人所得税における第一年度
の課税期間になり、入国した日の属する年の翌年(暦年)、つまり
2012年が第二年度の課税期間になります。したがって、この課税期間
を単位にベトナム個人所得税額の計算をすることになります。
また、日本では非居住者になりますので、非居住者になるときまでに、
所得税額の精算(年末調整と同じ方法)する必要があります。
居住者・非居住者の判定(その2:短期滞在者の免税)
≪Q.≫ 私が勤める日本の会社は、あるベトナムの会社に、機械・装置を販売
することになりました。日本居住者である私は、2010年に60日間の
期間でベトナムに派遣され、このベトナムの会社において、当該機
械・装置の設定、試運転、テスト、さらには社員に対する技術指導を
行うことになります。
なお、私の給不は日本の会社より支払われます。
この場合、私はベトナムにおいて課税されるのでしょうか。
居住者・非居住者の判定(その2:短期滞在者の免税)
≪A.≫ あなたはベトナム個人所得税法上の非居住者に該当しますので、ベトナム
で発生する報酬については20%の税率で個人所得税が源泉徴収されること
になります。
但し、日越租税条約の適用により、以下の条件を全て満たせば、当該報酬
はベトナムにおいて免税対象にすることができます。
ベトナムに183日以下の滞在であること
当該滞在者への報酬がベトナム非居住者である日本法人により支払わ
れること
当該滞在者への報酬が日本法人の恒久的施設(PE)により費用負担さ
れていないこと
居住者・非居住者の判定(その3:恒久的居所)
≪Q.≫ 私は2011年8月1日から11月30日までの120日間の予定でベトナム
駐在勤務を勤務先から命ぜられました。滞在する期間が120日ですの
で、ベトナム居住者の要件である「ベトナム滞在期間が183日以上」
にはあてはまらないので、ベトナムでは非居住者として取り扱われると
いうことになるのでしょうか。
なお、ベトナム滞在中は、ホテル住まいをするため、滞在予定のホテル
と120日間の契約をしています。
2011
8/1
2011
11/30
120日
183日未満
居住者・非居住者の判定(その3:恒久的居所)
≪A.≫ ご質問の場合、宿泊予定のホテルと120日間の契約をしていますので、
ベトナム居住者に該当します。
ベトナム個人所得税法では「ベトナムに恒久的居所を有する」場合は、
ベトナム居住者として取り扱われることになります。
この「恒久的居所を有する」とは、課税年度内に合計日数が90日以上
の一つ又は複数の借家契約を締結している場合をいい、この「借家」に
はホテル・ゲストハウス・旅館・勤務する事務所等が含まれます。
2011
8/1
2011
11/30
120日
恒久的居所を有する場
合はベトナム居住者
居住者・非居住者の判定(その4:双方居住者)
≪Q.≫
私は、日本の建設会社に勤務しています。今回、ベトナムで大規模な
建設工事を請け負うことになり、その工事期間は2011年3月1日から
2012年3月31日までです。
私はこの建設工事のためベトナムに派遣されることになり、派遣期間
は、2011年3月1日から2011年5月11日までの期間及び2012年2
月1日から2012年3月31日までの期間です。この期間の住まいのた
め、アパートの賃貸契約をしています。
なお、勤務先からは、「税務上、私は日本に住所があるので、日本の
居住者になる。特に心配することはないよ。」と言われていますが
ケーススタディ「居住者・非居住者の判定(その3:恒久的居所)」
のことがわかり、心配になってきました。
2011
3/1(入国)
2011
5/11
2012
3/31
2012
2/1
ベトナム勤務
(72日)
ベトナム勤務
(60日)
~~
居住者・非居住者の判定(その4:双方居住者)
≪A1.≫ ご質問の場合、最初の課税年度内に90日以上のアパートの賃貸契約
をしていますので、アパートが恒久的居所に該当します。つまり、ベ
トナム居住者として扱われ、すべての所得がベトナムで課税の対象に
なります。
しかし、勤務先の方が言うように、日本に住所があることから、日本
の所得税法においても居住者として扱われます。
このように日本とベトナムの両方の国において居住者に該当し、両方
の国において、すべての所得が課税の対象になるという問題が生じま
す。
2011
3/1
2011
5/11
2012
3/31
2012
2/1
ベトナム勤務
(72日)
2012
2/28
ベトナム勤務
(60日)
最初の課税年度
~~
28日
居住者・非居住者の判定(その4:双方居住者)
≪A2.≫ このような問題を解決するため、日本とベトナムは租税条約を締結
しています。日越租税条約では、どちらの国の居住者に該当するかを
次の順序で決めることとされています。
① 恒久的住所が所在する締約国の居住者とみなします。ただし、恒久
的住居が双方の締約国内に存在する場合には、人的及び経済的関係
がより密接な締約国(重要な利害関係がある国)の居住者とみなし
ます。
② 重要な利害関係がある締約国を決定することができない場合、また
は使用する恒久的住居をいずれかの締約国内にも有しない場合には、
常用の住居が所在する締約国の居住者とみなします。
③ 常用の住居を双方の締約国内に有する場合またはいずれの締約国内
にも有しない場合には、国籍を有する締約国の居住者とみなします。
④ 双方の締約国の国民である場合またはいずれの締約国の権限のある
当局は、合意に基づき本件を解決することになります。
居住者・非居住者の判定(その4:双方居住者)
≪A3.≫ 租税条約を適用し、日本とベトナムのいずれの居住者であるかを決
定するには、次の①②の準備をしておくことが必要と考えられます。
②の説明によりベトナム税務当局が納得すれば、日本では居住者、ベ
トナムでは非居住者として扱われることになります。
① 日本の税務当局から発行される居住者証明書をベトナム税務当局に提
出する。
② ベトナム税務当局に次の事実を説明する。
日本に恒久的住居を有している。
あるいは
人的または経済的に日本に密接な関係を持っている。
あるいは
日本国籍を有している。
居
住
者
証
明
書
事実
説明
日本の居住者
日本本社とベトナム支店から給料が支払われる場合
(ベトナム居住者)
日 本 本 社 ベ ト ナ ム 子 会 社 ベ ト ナ ム 駐 在 員 ベ ト ナ ム 国 給不支払い (毎月) 所得税預かり (毎月) 預かり所得税支払い(毎月) 給不支払い (毎月)≪Q1.≫ 私は日本の会社の取締役ですが、ベトナム子会社設立にあたり子会社
の社長として、子会社が軌道にのるまでの5年間の任期でベトナムに
長期出向をしています。
私には、ベトナム子会社の社長としての給不がベトナム子会社から支
給されています。また、日本の会社からも取締役としての給不が支給
されています。この日本の会社からの給不については、ベトナムで特
に税務上の手続きをしていません。
私は何か税務上の手続きが必要になるのでしょうか。
日 本 本 社 ベ ト ナ ム 子 会 社 ベ ト ナ ム 駐 在 員 ベ ト ナ ム 国 家 給不支払い (毎月) 所得税預かり (毎月) 預かり所得税支払い(毎月) 確定申告・納付 給不支払い (毎月)