施設内発症肺炎における肺炎球菌性肺炎の重要性
―喀痰細菌培養検査および肺炎球菌尿中抗原を用いた検討―
1)
済生会二日市病院呼吸器科,
2)甘木朝倉医師会病院,
3)久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科
力丸 徹
1)3)西山 守
1)3)米光 純子
1)3)永渕 雅子
1)3)嶋田亜希子
1)3)古賀 丈晴
2)3)相澤 久道
3)(平成 20 年 1 月 15 日受付)
(平成 20 年 7 月 10 日受理)
Key words : pneumonia, Streptococcus pneumoniae, longtime care facility, immunochromatography, urinary antigen
要 旨
施設内発症肺炎における肺炎球菌の臨床的重要性を明らかにするため介護施設で発症した肺炎患者 154 例
(男性 54 例,女性 100 例,平均年齢±標準偏差 86.2 9.5 歳)において喀痰培養検査および肺炎球菌尿中抗 原検査を検討した.130 症例で喀痰培養検査が行われ,11 例で 11 株(8.5%)の肺炎球菌が分離され,その 内訳は PSSP2 株,PISP8 株,PRSP1 株であった.72 例で肺炎球菌尿中抗原検査が施行され 26 例(36.1%)
に陽性を認めた.64 例で両方の検査が行われていたが喀痰検査で肺炎球菌が分離された 5 例すべてにおい て尿中抗原は陽性であった.逆に尿中抗原陽性の 26 例のうち 21 例で肺炎球菌は分離されなかった.発症時 の栄養摂取方法の違いによって検討を加えると,胃瘻施行 26 例中 22 例において喀痰検査が施行されていた が,肺炎球菌が分離された症例は認めなかった.一方,尿中抗原検査は 17 例において施行されており,そ のうち 9 例が陽性であった.結論として施設内発症肺炎において喀痰から肺炎球菌が分離される頻度は低 かった.しかし,今回の尿中抗原検査の結果から判断すると施設内発症肺炎の原因菌として肺炎球菌は重要 と思われた.
〔感染症誌 82:628〜632,2008〕
序 文
本邦では人口の高齢化に伴い介護施設で生活する人 も増加しており,今後もその傾向は持続すると思われ る.施設入所者のほとんどが高齢者で基礎疾患を有し ている場合も多く,また入所中に新たな疾病に罹患す ることも稀ではない.施設内で発病し病院に入院する 必要がある疾患として最も頻度の高いものは肺炎であ
り
1)〜3),なおかつ死亡率も高い疾患である
4)〜6).また,
施設内で感染・発症するということは他の入所者に感 染を拡げる可能性など,施設内感染制御の観点からも 重要と思われる.施設内発症肺炎の原因菌として肺炎 球菌の重要性が指摘されている
6).しかし,市中肺炎 に限らず施設内発症肺炎においても原因菌を同定する ことは難しい.最近では肺炎球菌感染症における尿中 抗原検査の有用性が指摘されてきた
7).施設内発症肺
炎に対し肺炎球菌尿中抗原検査を用いて原因菌の検索 を行った報告は少ない.今回,介護施設で発症した肺 炎患者における肺炎球菌の臨床的重要性を明らかにす るため喀痰培養検査および肺炎球菌尿中抗原検査をレ トロスペクティブに検討した.
対象と方法
1.対象
平成 16 年 4 月から平成 19 年 6 月までの間に済生会 二日市病院に入院した肺炎患者 889 例のうち介護施設 で発症した 154 例を対象とした.そのなかの 130 例で 喀痰培養検査および 72 例で肺炎球菌尿中抗原検査
(BinaxNOW 肺炎球菌)が施行されていた.肺炎の診 断基準は,発熱・咳・痰・胸痛などの臨床症状を認め,
かつ胸部 X 線写真で浸潤影を認めた場合とした.施 設内発症の定義としては施設入所者とし,ショートス テイなど短期入所中の発症は除外した.また,入所後 48 時間以降に発症した肺炎とした.当院では細菌培
原 著別刷請求先:(〒818―8516)福岡県筑紫野市湯町 3―13―1
済生会二日市病院呼吸器科 力丸 徹
Tabl e 1 Pat i ent pr of i l es and c l i ni c al out c omes 154 Number
54 : 100 Gender ( Mal e : Femal e)
86. 2±9. 5 Age ( Mean±SD)
62 90 or mor e
69 80~ 89
23 Under 80
22 Sel f - hel p
I ndependenc e Par t i al c ar e 40 92 Tot al c ar e
9. 5±8. 3 CRP ( mg/mL)
11, 944±6, 076 WBC ( /mm
3)
38. 0±0. 9 Body t emper at ur e ( ℃)
6. 6±0. 7 Tot al pr ot ei n ( g/mL)
養の菌量評価において定量培養を導入しておらず,簡 易 的 に(4+),(3+),(2+),(1+),(少 量),の 5 段階に分類してる.肺炎球菌性肺炎の基準は喀痰検査 で(2+)以上の菌量を認めた場合,またはグラム染 色でグラム陽性球菌の貪食像を認めかつ肺炎球菌が分 離された場合とした.また,肺炎球菌尿中抗原が陽性 の時も原因菌と判断した.
2.方法
施設内発症肺炎における肺炎球菌の臨床的重要性を 明らかにするために以下の項目を検討した.項目は性 別,年齢,入院前の自立度,喀痰細菌検査,肺炎球菌 尿中抗原検査であった.自立度は自立例と部分介助例 および完全介助例の 3 段階に分けて検討した.自立の 条件としては補助器具を使用せずに自力で歩行ができ ることとし,部分介助は移動に杖を含む歩行器または 車椅子が必要な患者とした.完全介助は 1 日の大部分 をベッド上で寝たきりとなった状態とした.
3.統計学的手法
検定方法は chi-square 検定を用いて行った.P 値が 0.05 未満を示した結果を有意とした.
成 績
全症例 154 例(男性 54 例:女性 100 例)の年齢構 成は 34 歳から 105 歳に及んだ.しかし,そのほとん どが 80 歳以上の高齢者であり,平均年齢および標準 偏差は 86.2 9.5 歳であった(Table 1).
細菌学的検討では喀痰培養検査が施行されていた 130 例のうち 11 例で肺炎球菌を認めた.同一症例に おいて複数の肺炎球菌株は認められず,検討できた菌 株は 11 株であった.そのなかでペニシリン感受性肺 炎球菌(PSSP)が 2 株,ペニシリン低感受性肺炎球 菌(PISP)では 8 株,およびペニシリン耐性肺炎球 菌(PRSP)は 1 株であった.今回の喀痰による肺炎 球菌性肺炎の基準に照らして原因菌と判断されたもの は 4 例に留まった.
自立度別の検討では自立群 22 例,部分介助群 40 例,
および完全介助群 92 例のうち各々 17 例,32 例,お よび 81 例で喀痰培養検査が検討できた.自立度別に 肺炎球菌が分離された割合は,自立群においては 0%
(0! 17),部分介助群 3.2%(1! 32),および完全介助群 12.3%(10! 81)で全体として 8.5%(11! 130)であっ た(Table 2).肺炎球菌尿中抗原検査を行った 72 例 のうち 26 例に陽性を認め割合としては 36.1% であっ た.自立度別では自立群 25.0%(3 ! 12),部分介助群 23.5%(4! 17)お よ び 完 全 介 助 群 44.2%(13! 19)で あった(Table 3).
さらに喀痰培養検査および尿中抗原検査の両検査が 同時期に施行されていた症例を検討した.喀痰培養検 査が施行されていなかった症例が 24 例,肺炎球菌尿
中抗原検査が行えていなかった症例が 82 例認められ,
最終的に 64 例で検討できた.そのうち,今回の基準 に照らして肺炎球菌性肺炎と診断できた症例は 26 例 であり,その割合は 40.6% であった.自立度別でみ ると,自立群 42.9%(3! 7),部分介助群 23.5%(4! 17)
および完全介助群 47.5%(19! 40)であった(Table 4).
発症時の栄養摂取方法の違いについて検討すると,
喀痰培養で肺炎球菌が分離された割合は摂取方法によ り有意な差を認めなかった.これは尿中抗原検査でも 同様な結果であった.一方,胃瘻チューブから栄養を うけていた症例では喀痰から肺炎球菌は分離されな かったが,尿中抗原は 17 例中 9 例において陽性であっ た(Table 5).
考 察
施設内発症肺炎に関して海外では多くの報告がなさ れ て い る
1)〜3)6).米 国 で は Nursing home-acquired pneumonia(NHAP)
6の 9〜51% しか病院で治療をさ れず,残りの症例は施設内で治療されており
8)9),施設 内と病院で治療された患者の予後に差を認めなかった との報告もある
9).本邦においても施設内発症肺炎の 重要性は増すものと思われるが,それらの報告は限ら れている.施設内発症肺炎の特徴として年齢の高い入 所者が多いことより高齢者肺炎としての特徴を有す る.一方,自立度が良好な高齢者市中肺炎においては 若年者肺炎と同様な臨床所見を示すとの報告もみられ る
8).すなわち白血球数や CRP などの炎症所見の高値,
また喀痰培養検査において肺炎球菌が分離されること が多いなど,施設内発症肺炎とは異なった点も存在す る
10).また,施設内発症肺炎は市中肺炎と院内肺炎の 両方の特徴を持ち,その中間に位置しているとも考え られている
11)12).
施設内発症肺炎の原因菌は市中肺炎と院内肺炎の両
Tabl e 2 Rel at i ons hi p bet ween s put um c ul t ur e r es ul t s and l evel of i n- dependenc e
Tot al Tot al c ar e Par t i al c ar e
Sel f - hel p I ndependenc e
Spec i es
11 10
1 0
Pos i t i ve
119 71
31 17
Negat i ve
130 81
32 17
Tot al
8. 5 12. 3
3. 2 0
Pos i t i ve r at e ( %)
Tabl e 3 Rel at i ons hi p bet ween Bi nax NOW r es ul t s and l evel of i nde- pendenc e
Tot al Tot al c ar e
Par t i al c ar e Sel f - hel p
I ndependenc e U- ant i gen
26 19
4 3
Pos i t i ve
46 24
13 9
Negat i ve
72 43
17 12
Tot al
36. 1 44. 2
23. 5 25. 0
Pos i t i ve r at e ( %)
U- ant i gen: St r ept oc oc c us pneumoni ae ur i nar y ant i gen as s ay
Tabl e 4 Rel at i ons hi p bet ween t he pneumoni a di agnos es and l evel of i nde- pendenc e
Tot al Tot al c ar e Par t i al c ar e
Sel f - hel p I ndependenc e
Di agnos i s
26 19
4 3
Pneumoc oc c al pneumoni a
38 21
13 4
Non- Pneumoc oc c al pneumoni a
64 40
17 7
Tot al
40. 6 47. 5
23. 5 42. 9
Pos i t i ve r at e ( %)
Tabl e 5 Nut r i t i on at pneumoni a ons et
DI V PEG t ube Nas al t ube
Or al As pi r at i on
Negat i ve Pos i t i ve
1 0
0 0
10 Pos i t i ve
Sput um
c ul t ur e Negat i ve 76 15 1 22 2 1 4
3 8
11 No exami nat i on
0 9
0 4
13 Pos i t i ve
Ur i nar y
ant i gen Negat i ve 25 11 4 8 1
3 9
0 8
59 No exami nat i on
PEG: per c ut aneous endos c opi c gas t r os t omy DI V: i nt r avenous dr i p
No s i gni f i c ant di f f er enc es wer e f ound bet ween nut r i t i on i n s put um c ul t ur e or ur i nar y ant i gen exami nat i ons .
方の特徴を示すとされており
13),これまでは肺炎球菌 の頻度が高いとの報告が多かった
6).しかし,報告者 によってその頻度は 0%〜39% と大きな差を認めてい る
8).また,最近では院内肺炎や施設内肺炎における MRSA など耐性菌の増加が指摘される一方,相対的 に 肺 炎 球 菌 へ の 関 心 が 薄 れ て き た よ う に も 思 え
る
13)〜15).院内肺炎や医療関連肺炎についての ATS ガ
イドラインでも培養検査については気管支鏡などを用 いた積極的なアプローチの記載がみられるが,肺炎球 菌尿中抗原の検討はなされていない
16).
最近では肺炎球菌性肺炎の診断に尿中抗原の有用性
が指摘されており,感度および特異度ともに高く,肺
炎球菌感染症の診断において極めて有用と考えられて
いる.特に特異度が高く,Farina らの市中肺炎患者
における検討では 98.8%
7),また菌血症を伴う感染症 における Smith らの報告では 97% であった
17).今回 の検討では 36.1% に肺炎球菌尿中抗原の陽性を示し,
完全介助群においてはその値は 44.2% にも及んだ.尿 中抗原検査の陽性は数カ月間持続する場合もあるた め,尿中抗原陽性率の高さが今回の肺炎エピソードを すべて反映していない可能性も考えられた.しかし,
数カ月以内に肺炎に罹患した既往を持つ患者は極限さ れていたこと,またこの検査の特異度から考えると肺 炎球菌が原因菌であった可能性が高いと思われた.
我々は以前,施設内発症肺炎における喀痰培養検査の 検討を行い,原因菌としての分離率が低かったことか ら肺炎球菌の意義を軽視した報告を行った
10).しかし 今回の検討から判断すると,施設内発症肺炎の原因菌 として肺炎球菌の頻度は喀痰培養検査で陽性を認めた 割合より高いと思われた.喀痰培養検査における肺炎 球菌の陽性率の低さ,一方に尿中抗原における偽陽性 の可能性など,真に施設内発症肺炎における肺炎球菌 の意義を明らかにするためにはさらなる検討が必要と 思われた.
当院では積極的に嚥下機能評価を行っており,今回 の検討でも明らかに誤嚥を生じている症例を除いた 81 例において嚥下機能評価を行った.結果として入 院前に経口摂取をしていた 120 例のうち 97 例に嚥下 機能低下を認め,肺炎の成立に誤嚥が関与した可能性 が示唆された.特に自立度の低い患者においては多く の症例で高度の嚥下機能の低下を認め,20 例におい て新規に胃瘻を造設した.今回,完全介助群に肺炎球 菌尿中抗原の陽性例を多数認めたことは,誤嚥性肺炎 に肺炎球菌が関与している可能性も考えられ,施設入 所者における肺炎球菌の咽頭定着率などの検討が今後 必要と思われた.また,胃瘻チューブにて栄養補給さ れていた患者において,喀痰培養は陰性にも係わらず 尿中抗原陽性例を多数認めたことは興味深い結果で あった.その理由は不明であるが,胃瘻で栄養を受け ている患者はほとんど全介助であり,栄養の面におい ても十分とは言い難く,胃瘻以外の要因によりこれら の結果が生じた可能性も考えられた.一方,この結果 は胃瘻栄養と肺炎球菌感染症または肺炎球菌尿中抗原 の間に何かの関連を疑わせるものであり,今後さらな る検討が必要と思われた.今回の検討は肺炎を発症し ていない施設入所者における肺炎球菌の定着率や尿中 抗原の陽性率が不明であるため,尿中抗原陽性が直接 的に肺炎球菌性肺炎の証拠とはならない.しかし,そ の高い特異度を考えると施設における肺炎球菌の役割 は大きいと思われた.
喀痰検査で肺炎球菌が分離される頻度は低いが,施 設内発症肺炎において肺炎球菌は重要な原因菌である
と思われた.特に自立度の低い症例において肺炎球菌 が重要と考えられた.喀痰培養検査では肺炎球菌は分 離されなかったが胃瘻にて栄養を受けている患者にお いて尿中抗原陽性例を多く認めた.このことより胃瘻 と肺炎球菌尿中抗原の間に何等かの関与が疑われるこ とが示唆された.
文 献
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Nursing-home-acquired Pneumococcal Pneumonia
―Comparison of Sputum Cultures with Binax NOW Streptococcus pneumoniae Urinary Antigen Assay―
Toru RIKIMARU
1)3), Mamoru NISHIYAMA
1)3), Junko YONEMITU
1)3), Masako NAGABUCHI
1)3), Akiko SHIMADA
1)3), Takeharu KOGA
2)3)& Hisamichi AIZAWA
3)1)
Department of Respiratory Medicine, Saiseikai Futsukaichi Hospital,
2)Amagiasakura Medical Association Hospital,
3)