は じ め に
「 持続 可 能性
(sustainability
)」 はま ち がい な く二 一 世紀 の キー ワー ドで あ る。 早稲 田大 学 比較 法 研究 所 は、 この キー ワー ドを 軸に 今 後の 社会 と 法・ 法 律を 見据 え た共 同研 究 を行 い、
「持 続可 能 社会 法学
」 を 提唱 し、 そ の 研究 成果 を まと めた
。 楜 澤能 生編
『持 続可 能社 会へ の転 換と 法・ 法律 学』 成文 堂( 二
〇一 六年
)で ある
。 社 会保 障法 学 から は菊 池馨 実 教授 が論 文
「 社会 保 障法 と持 続可 能 性」
(一 九九
~二 一 九頁
) を 掲載 して いる
。 教 授は 同 論 文に おい て、 二一 世紀 の社 会保 障制 度の ある べき 将来 像の グラ ンド デザ イン を提 示し てい る。 おそ らく 枚数 制限 の故 に、 そ の詳 細を 展開 して はい ない が、 教授 の社 会保 障法 制の 全体 像は 示さ れて いる よう に思 う。 本稿 では この 菊池 論文 を契 機に
、〈 社 会保 障と 持続 可能 性〉 とい うテ ーマ につ いて 若干 の考 察を 試み たい
。 なお 菊池 教授 の関 連論 稿と して は、 菊池 馨実
「社 会保 障と 持続 可能 性」 週刊
・社 会保 障二 八〇 七号
(二
〇一 五年
)三 八
(
)
─ ─53
社会 保障 と
S u st ain ab ili t y
─
─ 菊 池 馨 実
「 社 会 保 障 法 と 持 続 可 能 性
」 を 契 機 に
─
─ 山
田 晋
六 六
〇 四 四 六
頁 以下
、所 収が ある
。 広島 修道 大学 法学 部に おい て国 際法 の研 究と 教育 にな がく 心血 を注 いで 来ら れた 城忠 彰教 授は 二〇 一八 年三 月末 に定 年 に より 退職 され る。 短期 間で はあ った が城 先生 のよ うな
「教 養人
」の 謦咳 に接 する こと がで きた こと は私 の誇 りと する と こ ろで ある
。先 生の 今後 のご 健勝 を祈 念し 拙い もの であ るが 本稿 をも って お祝 いと させ てい ただ きた い。 一 菊 池 馨 実
「 社 会 保 障 法 と 持 続 可 能 性
」 の 概 要 論文 は
、「
Ⅰ はじ めに
」、
「Ⅱ 社 会保 障 の法 理念 と自 立 支援
」、
「
Ⅲ 子ど も・ 子育 て支 援
」、
「Ⅳ 現 役世 代の 社会 保障
」
「Ⅴ 病 気
・障 害 と社 会保 障
」、
「Ⅵ 高 齢者 と 社会 保障
」、
「
Ⅶ 社会 保障 の 持続 可 能性
」、
「Ⅷ む す びに かえ て」 によ っ て 構成 され てい る。
「
Ⅰ はじ めに
」で は近 時の 社会 保障 をめ ぐる 問題 状況 が指 摘さ れる
。 近年
、社 会保 障の 持続 可能 性に 対す る危 機が 叫ば れて いる
。持 続可 能性 に対 する 危機 は、 通常 は財 政面 で語 られ るが
、 深 刻な のは
、社 会保 障制 度を 積極 的に 支え てい こう とす る市 民意 識が 脆弱 化し つつ ある こと であ る。 その 背景 とし て、 一 つ には
「社 会保 障制 度を 根底 から 支え る理 念( 基本 的な 思想
)が 明確 でな く、 場当 たり 的な 制度 改正 が繰 り返 され てい る こ とを 指摘 でき る」
( 一九 九頁
)。 すな わち
「日 本の 社会 保障 制度 に個 別的 にも 全体 的に も通 底す るド グマ ティ ーク がな く、 そ の場 凌ぎ の改 正が 繰り 返さ れ、 極め て複 雑な 制度 体系 にな って いる こと に起 因す る」
( 二〇
〇頁
)。
─ ─
<
論 説>
修 道 法 学 四
〇 巻 二 号
(
)
─ ─54
六 五 九 四 四 五
もう ひと つの 背景 とし ては
、社 会保 障制 度を めぐ る世 代間 の不 公平 と、 世代 内の 不公 正と いう 二つ の不 公平 感が
、国 民 の あい だに 見え ない 障壁 をつ くっ てい るた めで ある
。 本論 文は
「社 会保 障法 学の 視点 から
、社 会保 障制 度の 現状 と課 題を 踏ま えた 上で
、持 続可 能性 への 危惧 が持 たれ てい る 社 会保 障の ある べき 将来 像を 描き 出す こと をね らい とす る」
( 二〇
〇頁
)。
「
Ⅱ 社会 保障 の法 理念 と自 立支 援」 では
、「 自律 支援 と自 立支 援」 の意 味、
「 社会 保障 の規 範的 根拠
」が 述べ られ る。 社 会保 障の 目的 は 国民 の生 活 保障 にあ るが
、「 より 根 源的 な社 会保 障 の目 的と し て、 個 人の
「自 律」 の 支援 と
「 自立
」 の 支 援が あげ ら る。 こ こに い う自 立と は
、 個人 が 主体 的か つ 自由 に自 ら の生 き 方を 追究 で きる こと を いい
、「 自立 支援
」 と は、 人々 が非
「自 立」 状態 にあ る場 合に
、様 々な 施策 を通 じて
「自 立」 した 状態 に至 るよ う公 的・ 社会 的サ ポー トを 行 う こと であ る。 そし てこ の「 自立
」支 援を 通じ て「 自律
」的 な生 が達 成さ れ得 る」
( 二〇 一頁
)。 社会 保障 の規 範的 根拠 につ いて は、 その 重要 性は 今日 でも 失わ れて はい ない が、 生存 権論 はし ばし ば、 金銭 やサ ービ ス が 提供 され るこ とに より
、物 質的 な意 味で の「 健康 で文 化的 な最 低限 度の 生活
」が 確保 され れば 足る とい う理 解に とど ま る
。( 経済 的) 貧困 にと どま ら ない 社会 的排 除(socialexclusion
)の 側 面に 焦 点が 当て られ
、社 会的 包摂
(socialinclusion
) の 重要 性に 目が 向け られ つつ ある 現在
、物 質的 ニー ズの 確保 にと どま らな い、 より 積極 的な アプ ロー チす なわ ち様 々な 個 別 的支 援を 通じ ての 社会 への 包摂 策が 必要 とさ れて いる
。 また 従来 生存 権理 念の 下で 想定 され てき た国 家と 個人
(市 民) の関 係は
、と もす れば 後者 が前 者に よっ てパ ター ナリ ス 社 会 保 障 とSustainability
( 山 田
)
(
) 六 五 八 四 四 四
テ ィッ クに 保護 され る「 客体
」と して の捉 え方 であ った
。典 型的 には
、貧 困者
・生 活困 窮者
、障 害者
、高 齢者 など の「 社 会 的弱 者」 がこ うし た対 象と して 位置 づけ られ る傾 向に あっ た。 しか し、 今日 的に は、 こう した 人々 も含 め、 社会 保障 制 度 にお ける 個人
(市 民) を、 拠出
(負 担) 義務 を負 い給 付を 受け 得る 積極 的能 動的 な権 利義 務の
「主 体」 とし て捉 える 必 要 性が 高ま って いる
。国 家に よる 保護 の側 面を 重視 する ので はな く、 個人 を中 心に 据え
、そ の自 立( 自律
)支 援の ため の 社 会保 障( すな わち 国家 など の公 的主 体に よる サポ ート
)と いう 捉え 方が 必要 であ る。 この 考え で社 会保 障法 とは
「自 律し た個 人の 主体 的な 生の 追求 によ る人 格的 利益 の実 現( それ は「 自己 決定
」の 尊重 と い う 考え 方と 重 なり あう
) を 可能 にす る条 件 整備 のた めの 法
」( 二
〇 三頁
) とい う こと がで き る。 そ の規 範 的根 拠は
、 個 人 の尊 厳、 幸福 追求 権を 定め る憲 法一 三条 に求 めら れる
。
「 こう した 捉 え方 は、 第 1 に、 結 果的 に生 活 が維 持で きて い ると いう
「 帰 結」 に 着目 する の では なく
、 各 人に よる
( こ う あり たい
、こ う生 きた い とい う) 自主 自律 的な 生 の構 築、 そし てそ れを 可 能に する た めの 生き 方 の幅 の確 保 とい う、
「 プ ロ セス
」に 着目 した もの であ り、 第2 に、 ある 目的 達成 の手 段と して では なく
、自 主自 律的 な生 の追 求が でき るこ とそ れ 自 体に 価値 を見 いだ すも ので ある
。こ うし た人 格的 利益 の実 現を 図る ため
、憲 法 条が 規定 する よう に、 国家 は社 会保 障 25 制 度を 整備 し、 一定 の財
・サ ービ スの 供給 を確 保す る責 任を 負う 一方 で、 それ に対 応す る形 で、 国民 は一 定の 限度 で財 産 権 への 制約
(憲 法 条2 項) を甘 受し なけ れば なら ない
」( 二
〇三 頁)
。 29 なお
「根 源的 には
、憲 法一 三条 に基 づく 個人 の自 立( 自律
)に 根拠 を求 める とし ても
、制 度の 根幹 であ る給 付に 関わ る 場 面 では や はり 憲法 二 五条 を直 接 的な 根拠 と する もの で ある
。 そ こで 社会 保 障法 を、
「憲 法 条 を直 接的 な 根拠 とし
、 国 25
─ ─
<
論 説>
修 道 法 学 四
〇 巻 二 号
(
)
─ ─56
六 五 七 四 四 三
民 等に よる 主体 的な 生の 追求 を可 能に する ため の前 提条 件の 整備 を目 的と して 行わ れる 負担 等を 規律 する 法」
( 二〇 四頁
) と 定義 づけ る。
「
Ⅲ 子ど も・ 子育 て支 援」 では
、主 に「 子育 て支 援」 につ いて 述べ る。 社会 保障 制度 を通 じて 自立
(自 律) 支援 を図 るべ きで ある とし た場 合、 単に 子育 て世 帯へ の支 援だ けで はな く、 養育 さ れ る子 ども 自身 の発 達そ れ自 体を 保障 し、 支援 して いく こと が求 めら れる
。将 来的 に、 社会 で自 律し
、自 立し た生 活を 営 ん でい くた めの 準備 段階 とし て、 でき る限 り実 質的 に平 等な 機会 を保 障す ると いう 視点 に立 って
、子 育て 支援
・児 童育 成 策 を構 築し てい く必 要が ある
。 社会 保障 の主 たる 財政 的担 い手 であ り、 かつ 将来 の担 い手 を育 成す る現 役世 代に 対す る社 会的 支援 の充 実は
、自 立の 観 点 のみ なら ず世 代間 公平 の観 点か らみ ても 重要 であ る。 同時 に、 世代 内公 平の 観点 から も、 生産 活動 に従 事し 財政 の担 い 手 とな る世 帯( 納税 者世 帯) への 支援 と、 将来 を担 う世 代を 育成 する 世帯 への 支援 とい う二 つの 意味 で、 子育 て支 援策 の 充 実が 求め られ る。 なお 人口 増加 のた めの 出産 奨励 策に は同 意し がた い。 あく まで 出産
・育 児を 妨げ る要 因を 除去 し、 子育 てし やす い社 会 の 整備 を目 指す べき であ り、 その 上で
、出 産・ 育児 とい うラ イフ イベ ント によ り、 退職 を余 儀な くさ れる など 生き 方の 選 択 の幅 が狭 まる こと のな いよ うな 対策 が講 じら れる べき であ る。
「
Ⅳ 現役 世代 の社 会保 障」 では
、「 現役 世代 への 対応
」と
「低 賃金 労働 者・ 失業 者の 自立 支援
」に つい て論 じる
。 社 会 保 障 とSustainability
( 山 田
)
(
) 六 五 六 四 四 二