一無気力の発生過程と対処法に関する知識構造一一
宮崎章夫
予備調査問 題
本調査
総合的考察引用文献
要 約
問 題
ストレスの時代といわれるようになって久しい。旧労働省が全国の就労者を対象にして5 年ごとに爽施してきた「労働者健康状況調査」によれば仕鵬,職業生活での強い不安,悩 み,「ストレス」があったと答えた者の割合は1982年の50,6%から増加傾向をたどり,1997年 国度には62.8%に達した。2000年代に入った今日でも,「ストレスがたまって,きれる」「た まったストレスを発散する」といった表現は日常当然のごとく用いられている。ストレスと は「たまる』ものであり,「発散』すべきものであるという発想は,現代日本人にある程度ま で定着しているといっても過言ではあるまい。
「ストレス」という概念を最初に提唱したのはカナダ人の生理学者,H. Selyeである(林 1993;SELYE 1976)。彼に始まる生理学的なストレス学説によれば,生体に与えられた有害刺 激(ストレッサー)は,胃や十二指腸の潰瘍などに代表される反応(ストレス反応)を引きお こす。ストレッサーとストレス反応との間を介在するのは,脳下垂体・剛腎皮質刺激ホルモ ンー副腎皮質ホルモン系と交感神経一副腎髄質ホルモン系という2つの神経一内分泌系であ り,それぞれのホルモンが長期間にわたり過剰分泌されることによりストレス反応が生みだ される。このように本来のストレス学説は,ストレス反応が生みだされる過程を生理学的視 点から説明するものであった。
それに対して一般人の用いる「たまる」「発散する」という蓑現には,ストレスを物質様の ものとしてあっかう発想が見うけられる。その発想が,神経一内分泌系を問題とするストレ ス学説と内容を異にすることは明らかであろう。近年になりコルチゾールなどのホルモンが ストレスを反映する物質とみなされることもあるが,このホルモン分泌量と主観的に感じら れるストレス感や安堵感は必ずしも一致するものではない(阿部1996)、そこで「たまる」
という表現がホルモン分泌量を直接的に知覚した結果であるとも考えられない。ストレッ サーがストレス反応を引きおこす過程について,一般人は独自の説明理論を有しているよう
である。
『人文学科論集」37,pp,1・19. ◎2002茨城大学人文学部(人文学部紀要)
2 宮崎章夫
ストレスに限らず,一般人はその領域の専門家とは異なる独特の理論により世界を理解し ていることが多い(FURNHAM 1988>。多様iな理論のなかでも「ああやったら,こうなる」と いう刺激と出力間の過程を説明する理論は,「メンタルモデル」と呼ばれる(有川/丸野
1998;JOHNSON↓AIRD l 983)。たとえば「ストレスがたまって,きれて,燃え尽きた」とい う説明は,一般人がストレスについてもつメンタルモデルの一つということができる。
生理学者が生理学的なモデルを,一般人が一般人なりのモデルを有するように,心理学者 も独自のメンタルモデルによりストレスを理解している。とくに現在広く利用されているモ デルの一つに,R.S. Lazarusらが提II昌する理論(ストレス理論)がある(LAZARUSIFOLKSMAN 1984;LAZARUS 1999)。ストレス理論では,ストレスを個人と環境との相互作用から発生する 過程とみなす。そのモデルを構成する主たる要素は,「感情」「認知」「行動」の3つである。
一例を挙げて説明してみると,本人の能力をこえる仕事を課されたひとは,恐らく自分の力 ではのりこえられない(認知的評価)と考え,結果として強い不安やいらだちを経験する(感 情〉。不快な感情を解消しようと,自分ひとりで無計画に努力した結果(対処行動),仕事は うまくいかず,周囲からは孤立し,本人の集中力も低下する(ストレス反応)。その結果さら に考えかたは悲観的になり(認知的評価},ストレッサーは増幅していく、..似下省略)。この ような悪循環におちいることにより,通常であれば対応できるストレッサーにも対応できな くなっていく過程そのものが,ストレス理論のいうストレスである。ストレス理論によれば,
本人がストレッサーをいかに認知し,それにどう対処するかにより,いわゆるストレスへの 強さ(ストレス耐性)が左右される。本人の振るまいかたが,ストレス反応を増減させるとい
う『能動的」視点は,従来のメンタルモデルにはない特徴といえる。
ストレス理論は,ストレス反応が生じるのを未然に予防したり,生じたストレス反応を緩 和するための対処法についても様々な発想をもたらす。ストレス理論にしたがえば,ストレ スへの対処法は,リラクセーションなどの「感情」に働きかける方法のみならず,自分の認 知スタイルを自覚して認知的評価を変えることや,新たな対処法を修得して実行することな どが含まれる。これはメンタルモデルを構成する「感情」「認知」「行動」の3要素にバラン スよく働きかけようとする発想である8また上記の3要素に働きかける対処法として,励ま し,情報提供,および実質的援助を周囲から求めることも有効とされている。本人のちから では如何ともしがたい悪循環におちいっている場合,これらの情緒的・道具的サポートの役 割はとくに重視される。ストレス耐性が,本人を取りまく家族,地域,職場などのサポート 資源により左右されるという「社会的」視点は,ストレス理論のもついま一つの特徴である。
ストレス理論の例が示すように,メンタルモデルはストレス反応の生起過程を記述するに とどまらず,それを予防・緩和する方略を案出するための理論的枠組としても利用される。
多少一般化すると,我々は自分のもっモデルにしたがい未来の結果を予想し,それを逮成す るように,あるいは防止するように行動をおこすといえよう。ただし言うまでもなく,スト レッサーへの対処は心理学者のみが行うわけではない。一般人の多くが,それぞれの文脈の
なかで日々多様なストレッサーに対処しており,各自が好んで頻繁に用いる対処法をもって いる。これらの人々すべてが,心理学的なストレス理論にしたがって対処法の有効性を予想 しているとは考えづらい。
メンタルモデルを直接あつかったものではないが,一般人のストレス観を問魎にした数少 ない研究としてFURNHAM(1997)の調査がある。この研究では,米国のホワイトカラー就労 者を対象にして,様々な職場ストレスの原因やその対処法に関する知識を調べている。その 結果によると,たとえば自尊心の低下という症状は自助努力により改善できるが,抑うつ状 態におちいった場合は専門家の援助を求めたほうがよいとの知識が共有されていたという。
彼の研究からは,一般人がストレスについて独自の知識を有していることがうかがえる。と くに抑うつ状態は,他のストレス反応よりも問題視されていることがわかる。しかしながら,
この研究は単に原因,結果,対処法の対応関係を示したものであり,あるストレス反応に対 して,特定の対処法が有効とみなされる根拠は依然として明らかではない。ストレス反応と 対処法とを結びつけている理論的枠組みを知るためには,ストレスについて一般人が有する メンタルモデルを明らかにする必要がある。
本研究は,大学一年生を対象にして,ストレスのメンタルモデルを検討していく。対象者 を大学一年生に限定したのは,メンタルモデルを文章で表現できる能力をもつと同時に,心 理学について専門的知識の乏しい集団という条件を満たすためである。紺象とするストレス 反応としては,FURNHAM(1997)の研究でも特徴的な結果を示し,青年期の代表的な鞘神的健 康の指標でもある抑うつに注目したい(COMPASIFORSYHTEIWAGNER l 988)。ただしメンタル モデルはストレス反応の具体的な症状により異なることが予想されるため,今回は抑うつの 中心的症状の一っである「無気力」に対象をしぼることにした。以降で報告する予備調査で は,大学生のもつメンタルモデルを収集する。続く本調査では,メンタルモデルの内容を定 量的に測定するための尺度を作成し,対処法との関連性を検討する。
予備調査
ストレスが無気力を生みだす過程にっいて,大学生がもっメンタルモデルを収集・分類す ることを目的とした。
方法
対象者:大学1年生158名(性別:男性98名,女性58名。所属学部:人文19名,教育24名,
理35名,工60名,農20名)。すべての対象者は調査以前にストレスに関する心理学の授業を 受けた経験が無かった。調査は2000年7月に心理学の授業の一環として50−100名ずつ一斉に 実施した。
4 宮崎章央
質問紙:自由記述式の質聞紙調査をおこなった。本研究のようにス}レスを一般化してあ つかおうとする先行研究では,状況を達成場面と対人場癒とに大きく二牙してきた経緯があ る(cARvERlscHEIER 1994;鈴木/坂野1998)。前例の少ない研究であることを考億して,本研 究ではより単純なモデルをもつと思われる達成場面に状況を限定し,ストレッサーについて の記述は「環境からの要求で,害や脅威,対処努力が必要と評価されるもの」(LAZARUS1 FOLKSMAN 1984)という一般的な定義を簡略化して用いた。質問文は以下の通りである。「ス
トレスにより引き起こされる代表的な症状の一つに無気力があります。これは仕事や勉強が 極度に忙しかったり,たいへんな状況におかれることにより,何ごとに対してもやる気がな
くなったり,他人と会って話したりすることがおっくうになることです。ストレスはどのよ うにして無気力を引き起こすのだと思いますか。ストレスが無気力を生みだす道筋を,あな たなりに考えて文章で説明してみてください。」
分析法;ストレスに関する専門知識を有する心理学専攻生と著者の計2名が全回答に目を通 し,複数の圓答に共通して使用されているメンタルモデルのカテゴリを協議のうえで11個案 出した。次に各回答が11カテゴリのそれぞれについて言及しているか否かを,上述した2名 が独立に判断した。両者の判断内容に大きな翻隔はみられなかったため,ここでは後者の判 断による結果を報告する。
結果と考察
カテゴリの出現頻度:llカテゴリの名称,分類基準,および出現頻度をTaL 1に示した。
出現頻度がもっとも多いカテゴリは「感情」に関するものであり,それに比較すると「認知」
や「行動」のカテゴリを含む回答は少なかった.さらにストレス理論が提唱するような「感 情」「認知」「行鋤」という3要素の相互作用,ないしは悪循環に触れた説明は極めて少な かった。心理学的なストレス理論と大学生のもっているメンタルモデルとの間には,何らか の乖離がある場合が多いといえる。とくに一般人特有の表現として「たまる」という表現が 多くみられた。これは心や体のなかにストレスやイライラがたまることにより無気力が生ず るという発想である。ストレス理論がストレスを「認知」「行動」「感情」という要素が構成 する「過程」としてとらえるのに対して,大学生はストレスを,たまっていく「もの」とし てとらえる点が特徴的である。
他にも比較的多くみられたカテゴリとして「現実逃避・自己防衛」がある。これは強いス トレスに遭遇すると,そ典以上ストレスを経験しないように思考や行動を抑制する仕組みが 人に備わっていると考えるものである。思考や行動の抑制は,脳や無意識のように本人の意 志では制御できない要因によって引きおこされると考える回答が多かった。
カテゴリの組み合わせ:一つの回答中に複数のカテゴリを含むものが数多くみられた。そ こで出現率の高かった上位5つのカテゴリについて,2つのカテゴリを組み合わせて使用して いる回答を選出した(Tab.2)。もっとも多い組み合わせは「タマル」と「感情」であり,たと
艶ble 1各カテゴリーの内容と該当人数
人数[人]カテゴリー
@ (比率[%〕)
感情:ネガティブな感憶{例:イライラ,落ち込み,不安)が無気力を生みだす。
例)ストレスがたまるとイライラし始戯何をするにも瀧できブ結梁9にやる (4よ7) 気がなぐなる。 69
現実逃避・自己防衛:無気力とはストレッサーからの逃避である。無気力とはスト
レッサーから自分を守るための自己防衛機能である。 52 例)ヌトレスを岱じすぎると膚己鵬が吻き,ストレスとなることについて考えた (329)
ウ乙なぐなる。
タマル:自分の中に何かが「タマル」ことにより無気力が生ずる。
50
行動:行助の変化(例:対処行動,考え込み,生活習慣の乱れ)が無気力を生み出
す。 43 例)仕箏や勉強が忙むいとそればガ}グに菓申してしまい,趣味などに峙輝を費やさ (27.2)
なぐなる。すると初1神的に余艀がなぐなウ反吻で勲気力になる。
認知ネガティブな認知(例;悲観的な予期,自偲喪失)が無気力を生み出す。
例)加へん姐捌こぶち当たると・それは自分燃できないと想い込んでは (259)41 い,がんばっても翻 だろラと思って何もしなぐなる。
悪循環:自分の認知・行動と,その行動が生みだす結果との悶に悪徳環が生ずるた めに無気力が生ずる。
16
例)ストレスでイライラしてい℃何をやっても桑中できないのに努力するとよけ (HM) い突敗が壇え, それがまたストレスとなる。それ力藤ク返され,忽循環となっ
て無気力を引き起こす轟
発散の失敗:自分の中にある何かを「発散」できないことにより無気力を生ずる。 9例)ストレスがたまると,翻の入なら何かでそれを発償させるのだ潮それがで (5.7) きないと籾1神が不安定になク, どうでもよいという気持ち・:おちいる。
脳:「脳」が無気力を生みだす, 7例)過剰なストレスカ功ηわると,体を守るためにストレスがかかることをやらない (4鴻
よう こ脳力毛捗分をだす。
キレル:自分の中で何かが「キレル」ことにより無気力が生じる。 6劒仕4∫や鰍の忙しさこよって摺初ウ・肉㈱に極鰍態鑓してその顯 (3、8)
の」糸が途勿れたと〜ぎに無気力択熊に筋る。
社会的孤立:自分が他者や社会から切り離されている,あるいは自分を澗囲から切
り離してしまうことにより無気力が生ずる。 5例)ストレスζよって物やノ)こ対してあたってしまラことがあるた嶢なるぺぐ入 (3.2)
に会ったウ話したクするのを遷げたク,いろいろな行吻「を避けたウして,それ 力撫気力を生み」出すようになる。
本能・無意識:「本能・無意識」が無気力を生みだす。 4例)ストレスがこれ以」ヒたまらないよう鵡無慧襯砂に体が物4∫を受げスれなぐな (2.5)
る。
6 宮崎章夫
えば「イライラがたまる」といっ
馳ble 2
ス種類の回答がこれに該当する。 2つのカテゴリーを組み合わせた回答数 それ以外の組み合わせに注目して 自己感情 タマル 行動 認知 防衛
みると,「タマル」「感情」のカテ
感憎ゴリを,「現i爽逃避・自己防衛」 16.2 12.0 133 7.O
や「行動「認知」などのカテゴ タマル 25 11.4 8.9 i7
リと組み合わせた回答が比較的多 自己防衛 19 童8 5.7 5.7
くみられた。「タマル」と「現実
行動逃避・自己防衛」とを組みあわせ 21 14 9 82
ると(18名),ストレスがたまり, 認知 11 9 9 正3
ある限界を越えると防衛機能が働 注)下段の数字は人数(人),上段の数字は全回答数に占め くという主旨の説明が生みだされ る比率(%)を表す。
る。「行動」や「認知」の観点が
欠落しており,自動的に無気力が引きおこされるという点で,翠動的なメンタルモデルとい
える。
例:ストレスがたまることで,体がこれ以上ストレスをかかえなpよう,なにもやる気がおきない無 気力状態にして,体や心を守ろうとする防衛反応である。
一方で「タマル」と「行動ムのカテゴリを組み合わせた回答は14名にみられた。その中に.
は,たまったストレスを解消するために何らかの行動をおこすが,それがうまく機能せずに ストレスを増幅させるといった主旨の内容が数多く含まれていた。本人の行動が原因の一つ とみなされており,「行動」と「感情」との間に悪循環が生ずるとする発想は,心理学的スト レス理論に近い。
例:…ストレスがたまるとイライラします.そこで,そのストレスの原因となっている仕事を早く終 わらせようと,よりカを入れます。しかし,イライラしているせいで,細かなミスが多発,またイライ
ラは増蝋し、,。
以上に述べてきたように,大学生のメンタルモデルには「たまる」という発想が顕著にみ られる魁その内容は受動的なものから能動的なものまでが混在していることがわかる。
本調査
予備調査の結果から,大学生は無気力について独自のメンタルモデルを有することが明ら かになった。本調査では,予備調査の結果を踏まえて,メンタルモデルの内容を定量的に測 定する尺度を作成する。それと同時に,無気力に対する様々な予防法の有効性について評価 を求めて,メンタルモデルと評価さ乳た有効性とが関連することを検証する。
方法
対象者:大学1年生332人に対して質問紙を配布して回収した後,後述するメンタルモデル 尺度と対処法尺度に欠損値のあった36名を除き,残りの296名(性別:男性198名,女性98名。
年齢:18−28歳。学部構成:人文54名,教育71名,理44名,工101名,醍学部26名)を分析の 対象とした.質問紙への記入は,2001年の5月に心理学の授業の一環として150−200名ずつ 一斉に実施した。調査をおこなう以前に,その授業でストレスについて言及したことはな
かった。
質問紙:質問紙は以下に示す4つの部分で構成した。
自由記述式質問(質問1):最初に予備調査と同一の質問をおこない,メンタルモデルを文 章で回答するよう求めた。
メンタルモデル尺度(質問2):「以下に挙げる文章は,質問1であなたが答えた『無気力を 生みだす道筋』に,どの程度よく当てはまりますか。_」という教示文に続き,メンタルモ デルについて記述した質問項目を提示し,各項目が自由記述式質問の回答内容と一致する程 度を回答者本人が5件法(1:まったく当てはまらないん5:非常によくあてはまる)で評定
した。項目は,予備調査で観察されたカテゴリを参考にして著者が独自に作成した。項目の 内容は「不快な感情が生ずる」「ストレスがたまる」「認知が悲観的になる」「自分の行動に問 題がある」「防衛本能が働く」「社会的に孤立する」「身体に不調が生ずる」ことに関するもの の7種類であり,各カテゴリにつき5項目,合計35項目で構成した。
対処法尺度(質問3):「質問1で答えた『無気力への道筋』に陥るのを防止するためには,
どのようなことに気をっける必要があると思いますか。以下に挙げる方法が,無気力の防止 にどのくらい有効と思うかを答えてください。_」という教示文に続いて,様々な対処法を 記述した質問項目を提示し,各項目の有効性を5件法(hまったく有効ではない〜5:非常
に脊効である)で評定するよう求めた。項目は,対処スタイルを測定する既存の質問紙(神村 一
ε∫αn995;末永/木島2000)を参考にして著者が独自に作成した。項目のカテゴリは「問題 を解決するための計画をたてる」「がむしゃらに努力する」「聞題解決とは直接関係のない行 動を控える」「性急に行動しないようにする」「他者から情報を得る」「他者から励ましを得 る」「考えかたを楽観的に変える」「気ll育らしをする」「周囲にやつあたりする」「間題につい て考えないようにする」「諦める」ことに関する11種類であり,各カテゴリにつき3項目,合 計33項目で構成した。
無気力の経験(質問4)1「ストレスによる無気力」の経験を4件法(1:まったく経験して ない,2:ほとんど経験していない,3:軽い無気力を経験した,4:激しい無気力を経験し た)で評定するよう求めた。
結果と考察
メンタルモデル尺度:35項目の評定値に対して,主因子法,バリマックス回転を用いた因
8 宮崎章夫
馳ble 3 メンタルモデル尺度の因子構造
因子負荷皿 .
?レ内容 I n 皿 IV V VI V皿 粗 IX 壮
第1因子:タマル 寄与率昌11.69%{と冨.87 ル∫=3.44 εo={.oo
こころの中にストレスがたまるから。 .81 申㌔05 r「04 }.07 r.02 」2 .12 .02 −.O呂 .70
こころの中のイライラを発散しないから. .81 一,06 」7 」0 .06 一㌔04 .04 」08 .08 」2
こころの中のストレスを発散しないから。 コ7 「」1 ,{}7 』{}7 .12 .lo 一工}呂 」4 −」02 。67
心の中にイライラがたまるから。 」7 .07 」6 −.07 申㍉06 一㌔04 ,09 、03 」自 .67
イライラに心が押しっぶされてしまうから、 .6呂 .置4 、09 .OI .04 rO3 .42 ρ6 ・r.12 .69
ストレスに心が押しっぶされてしまうから。 .66 」6 .03 −.01 .17 .09 .32 」5 一25 .69
心の中に何かモヤモヤとしたものがたまっていくか
ら。 、57 」6 .15 .{〕3 」8 .{〕0 」ε rl4 27 .53 第2因子;悲観的認知 寄与取=11.01%窃=.89 ルゴ=2.56 5D旨1.19
何ごともうまくいかないと考えてしまうから。 餌 .85 」5 」0 .07 一㌦Oj .05 −.05 .06 コ7
自分が何をしても無甑であると考えてしまうから。 加 .80 」2 .22 .0哩 一.11 沿9 −.06 .03 コ4 自分に能力が無いと思いこんでしまうから。 加 」9 21 20 .01 −.Q4 、0巳 .09 』5 .72 自分に白側がもてなくなるから。 ρ5 「76 』9 .08 rO呂 「09 加 .02 .03 .65 恐い縞果がおこることを予想してしまうから。 、04 コ6 .12 .04 」7 」1 ・㌔06 一㌔02 』4 .66
第3因子:社会的孤立 寄与率=10」0%配冒,83 M=1.67 SO=β4.
周囲のひとの助けを拠られなくなるから。 .10 23 .75 」4 .O呂 』4 .05 .04 」〕3 .69
木人が不機嫌になり,冊囲の人とのトラブルが増え
るから。 .1£ ρ9 .73 」1 、02 rO3 .01 J1 」2 ,62 本人がイライラして,周囲のひとから嫌われるから. .17 .12 .73 .12 一〇5 −」O .07 』7 」55 、65
祉会から孤立してしまうから。 価 .14 ,69 .22 .25 .OO .04 一㌔07 ・一㌦IO .63
澗囲のひとの励ましを冊られなくなるから亭 創 22 、69 .05 .17 岬07 』2 .09 .13 .60 人づきあいを迎けるようになるから。 加 .1呂 .51 一〇4 21 ρ9 −,!フ .24 馬41 ,60 第4因子;弁明 寄与串冨7.06%儒=.81 層=1.94 5D=1.01
努力不足の言い釈である。 」)2 .18 、23 詔2 ゆ7 一〇3 ρ5 、08 ρ7 、7呂. 軋
現爽逃避の甘い訳である。 ㌦06 22 .07 .80 ρ7 」5 09 』O rO6 .74
本人が怠,けているから。 .⑪2 .10 29 .75 .06 一15 .05 .11 .06 !70
猟意識に苦しい現突から逃れようとするから。 」2 、23rO2 53 ,03 48 .09 ρ3 r.09 ゐ0 第5因子:固着行動 寄与率冨5.92飴ロ譜β1 層=2.09 50=.97
ストレスの原悶を解決することに集巾して,他のこ
とをする1時1川が無くなるから。 24 「02 rO4 」1 潤 一.07 −」4 .OO ρ0 、65 自分一人でがんばれば,がんばるほど,問題は増え 噛
ていく性賀があるから。 .05 .12 23 、09 .68 .i3 20 P6 .工6 規 性急に那を起こして,判 態を悪化させていくから。 ,06 28 .32 』4 .5g n5 」9 .18 」6 .63 問題の原因を解決しよ うとする自分の行動が,さら ・
に状況を悪化させるという悪循環に陥るから。 一〇7 .23 伽 rO2 .48 』8 」5 rO4 35 49 第6因子皇防衛本能 寄与率盟5、90%ロ篇.86 ル4=2.45 5D壽1.43
揚 欝灘搾砿・:ll::ll:器:ll:器[齢:?1:ll:欝
第7因子:キレル 寄与率冒5.86鴨α=.91ルf琴2.33 εD嵩1.25
糠ll::1:膿繊:尊茎購凱:;了:器:?1: :?1::囑:1;:ll:§1
第8因子:身体不調 寄与率昌545%α=2B M=1」5 50=、90
睡眠不足になるから。 .n .08 .16 」)9 』7 rO6 .02 、78 22 Jl 身体が捜野するから。 .06 、13 へ02 ゆ5 −.⑪5 07 .Q3 !73 ユ2 .6旦 病気になるから。 .03 .01 .15 ∬5 」4 」9 」4 石6 一27 、60 第9因子:悪循環 寄与串冨5.93%撰冨.85 M=2.17 SD=1.08
集中力が無くなっていろのに,無理をして努力する
ため,失敗することが増えるから. 』5 』3 」2 rO5 34 ,05 』9 21 コO JO 失敗経験が増えると,集中力が無くなるから。 ρ5 28 .18 ,0? .18506 rl3 23 后4 耐 濯三)平均値,標巡偏着,およびα孫数は各因子の負荷凧がb以上の頃目から算出したもの.
a:共通性 累積寄与率=67.92%
子分析をおこなった。固有値の減衰の仕方は7.8,41,2ん2.1,L9, U,14,1.3,1」,09,0.8
...であり,値の急激な降下は認めらないため,固有値1以上を基拳として9因子を抽出した
(Tab.3;累積寄与率=67.9%)。第1因子はストレスやイライラが「たまり」,それを「発散で きない」ことにより,最終的に「押しつぶされる」といった内容の項目に高い正の負荷量を 示していたことから「タマル」と命名した(寄与率騙IL69%)、第2因子は,何ごともうまく いかないと考えたり,自信を喪失するなど、本人の考えかたを重視する項目に高い正の負荷 量を示したことから「悲観的認知」と命名した(寄与率需11ρ1%)。第3因子は,周囲との対 立,孤立,社会的支援の欠如など,社会的ネットワークの断絶を意味する項目に高い正の負 荷量を示したことから「社会的孤立」と命名した(寄与率=10」0%〉。第4因子は,「努力不 足の言い訳である」などの項目に高い正の負荷量を示したことから「弁明」と命名した(寄 与率=7.06%)。第5因子は,「ストレスの原因を解決することに集中して,他のことをする 時間がなくなる」など,ストレスを解決しようとする本人の行動が,実は無気力の一因と
なっているとする項目に高い正の負荷量を示した。そこで,この因子を「固着行動」と命名 した(寄与率=592%〉。第6因子は,脳や本能が自分を守るためという項目に高い正の負荷 量を示したことから「防衛本能」と命名した(寄与率=5.90%)。第7因子は,何かが「キレ ル」という項目に高い正の負荷量を示したことから「キレル」と命名した(寄与率=5.86%)。
第8因子は,睡眠不足や身体疲労などの項目に高い正の負荷颯を示したことから「身体不調」
と命名した(寄与率=545%)。第9因子が高い正の負荷量を示した2つの項目内容を合わせ ると,集中力が無くなっているのに,無理に努力をして失敗し,さらに集中力が無くなると いう,行動と結果の悪循環が描きだされる。そこでこの因子を「悪循環」と命名した(寄与 率=5.93%)。
対処法尺度:・33項目の評定値に対して,主因子法,バリマックス回転を用いた因子分析を おこなった。固有値の沸衰の仕方は6.1,44,3」,2.2,14,1,3,L1, LO,0.9_であり,主要な 6因子の存在が確認された(Tab.4)。6因子を抽出した結果,累穣寄与率は5丘24%であった。
第1因子は,周囲からの情報収集など,ストレスの原因を分析する項目に高い正の負荷量を 示したことから「問題分析」と命名した(寄与率=14.02%〉。第2因子は,他者に話を聞いて
もらって冷静になる,スポーッ,旅行,貿い物,飲酒・飲食などを楽しむなど,不快な感情 を直接解消しようとする項目に高い正の負荷量を示したことから「気分転換」と命名した
(寄与率=lI.57%)。第3因子は,楽観的に考えたり,ものごとの良い側面を見ようとするな ど,ストレスに対する考えかたを変えようとする項目に高い正の負荷量を示したことから
「認知変容」と命名した(寄与率=8.77%)。第4因子は「諦めて,何もしない」などの項目に 高い正の負荷量を示したことから「目標放棄」(寄与率=7.90%),第5因子は「周囲のひと にやつ当たりをする」などの項目に高い正の負荷量を示したことから「感情発散』(寄与率2 7.07%)とそれぞれ命名した。第6因は「性急に行動して事態を悪化させない」ようにするな ど,一時的に自分の行動を抑制する項目に高い正の負荷量を示したことから「行動抑制」と
10 宮崎章夫
殆ble 4 対処法尺度の因子構造
因子負荷飛
項属内用 I ll 皿 IV V VI a 第1因子:問題分析 寄与率富14.02%配箒.78 財昌2!組 so器」9
既に経験した人から話をII日いて参考にする。 .74 33 Jl ρ5 r21 r.07 34
誰しい人から自分に必要な情報を収集する。 Jl 22 −」2 」6 一㌦12 』6 」56 カのある人に教えを受けて解決しようとする。 .69 2B _」4 .置:〜 一」0 」0呂 .64
がむしゃらに燭題の原因を解決しようとする。 .61 一隔29 .09 一㌦04 .17 .06 」61
妬咽を検討し,どのようにしていくぺきかを考える。 .6韮 .06 .肇5 一㌦1ε 一12 .32 55
どのような対鍛をとるべきか綿樒に考える。 .59 一」4 .07 一㌔27 一㌦04 」2 t56
問題を解決するべく,其正面から取り組む。 .59 −、08 」O r32 、12 」2 .59 棚上げにする。 56 、23 」04 ρ9 21 」3 51 過ぎたことの反省をふまえて,次にすべきことを考える。 .54 ρ8 .36 rO7 r25 .26 57 集中して聞題に取り紐み,必嬰ならほかのことは多少は成り
行きにまかせる。 50 一〇4 24 29 』2 加 魂 体力の隣界まで,ストレスの陳固と対決すろ。 34 「18 」05 「25 」3 、30 55 第2因子;気牙転換 寄与率=11.57%α=.85 ルず国a48 ερ=ε4
スポーツや旅行などを楽しむ。 一〇6 .76 .11 一㌔02 .07 .03 .67
陥かに括を聞いてもらって,冷静さを取り戻す。 .書7 ,74 」l rO7 r.05 .09 .62 雅かに話を聞いてもらい,気を静のようとする。 26 ,74 、07 −、07 .OI 、02 話3 買い物やおし中べりなどで時間をつぶす。 ρ2 .70 」0 .05 .14 .09 コ2 戎運とお酒を飲んだり好物を食べたりする。 rl6 コo .11 ,09 」2 一㌔O呂 .62
離かに愚痴をこぼして,弧侍ちをはらす。 一』3 。6B .13 。02 .30 .OI .60
第3因子こ認知蛮容 寄与率旨8」7%αr76 財=3.47 50=.83
今後は良いこともあるだろうと考える。 .12 .16 ,79 一㌦06 一画LO7 .04 .68
悪いことばかりではないこと,楽1現的に考える。 」知 」4 .TI .OO .02 」8 .57 嫌なことを列1に浮かぺないようにする。 .09 .10 .百5 .23 .Ol 、02 50
恐い而ばかりでなく,良い而を見つけていく。 .33 .22 ゴ ,62 一21 r四 .旧 .67
無理にでも忘れるようにする. 」〔巧 ρ2 54 .39 23 」1 52 そのことをあまり考えないようにする。 一21 .10 49 、45 」9 、10 ,54 第4因子;目標放棄 嵜与率=7忍O%窃冨.66 鋸岩帳}2 5D=β7
Iil分にはどうしようもないことと盟めて,何もしない。 rl6 rO8 .02 ,73 氾1 −.04 ,61 白分の圓標に向かって進むのをあきらめる。 ρ7 r.10 加 .71 .16 .14 56 超むものを樽ようとするのをあきらめる。 .ll .03 、07 、61 .04 24 50 問題に取り組む上で邪魔となることには,極力かかわらな
い。 25 ro3 」7 .32 .22 3且 .33 第5因子:感情発散 寄与率3孔07%α=.83 M=1.63 5D=.85
糠難撫_ ::ll:ll名:1[到::ll:;1
闘題の原悶となっている人の懇口を冒う。 一、G3 」8 .02 29 58 JO 52 第6因子:行動抑制 寄与串置6.91%醒≡.巳7 M=2.53 5D呂.96
甲
d:慧:畿灘羅灘毒乙肝鱗:ll:1;:ll:1濾[到:ll
自分を抑えて,行動を起こす適切なタイミングを待つ。 46 一〇2 .12 .08 ,05 .57 59 .
@ .7注)平均価標巡側茄およびα係数は各因子の負荷皿が酒以上の項目評定値によるもの。
a:共通性 累積寄与率冨56.24%
命名した(寄与率=6.91%)。
メンタルモデルの類型化:予備調査の結果メンタルモデルには「タマル』や「行動」と いった単独のカテゴリから成るもののみではなく,複数のカテゴリの組みあわせを含むもの が多数みられた。そこでクラスタ分析を用いて,組みあわせられやすいカテゴリを類型化す ることにした。まずメンタルモデル尺度の9因子それぞれについて因子得点を算出した。9種
団1:身体型 ロ2:芒積型
3 ■3言バランス型、
. 田4:防衛型 1ヨ5:紐知型
含 亀 皐 1
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タ 悲 社 弁 固 防 キ 悪
マ 観 会 明 着 衛 レ 謀 循
ル 的 的 行 本 ル 不 環 認 孤 動 能 調
知 立 因子名
Figure 1メンタルモデル尺度の因子得点
垂直線はSDを示す。異なるアルファベットを有する値間には危険率5%水革で統融的有意差が認められた。
類の因子得点を用いてWard法による階層的クラスタ分析をおこない,対処法の回答傾向が 類似している者同士をまとめて,最終的に回答者を5つのクラスタに分類した。9種類の因子 得点それぞれに対して,クラスタの種類を要因とした一元配置分散分析をおこなった。その 結果「たまる」(F(4291)=51.93,ρく.OD,「悲観的認知」(F(4291)=39.26,p<.01),「社 会的孤立」(F(4、291>嵩4L1◎pく01),「固着行動」(F(4、291)=444,ρく.Ol),「防衛本能」
(F(生291)=6.刀,ρく』1),「キレル」(F(生291)言3907,ρく.01),「身体不調」(F(429D;
1426,ρく.Ol)の各因子に有意な主効果が認められた。なお「弁1朔」(ノ7(4,29王)=10.9, ns)と
「悪循環」(F(4,291)冨f38, ns)因子に有意差は検出されなかった。有意な主効果に対しては,
危険率を5%水準に設定したTurkey−b法による下位検定を行った(Fig. D。第1クラスタ(69 名)は「身体不調」の因子得点のみが高く,他の因子はゼロ近傍からマイナスの値を示した。
このメンタルモデルは,病気や寝不足などの身体的原因により無気力になるという内容をも つといえる。そこで,このクラスタを「身体型」と命名した。第2クラスタ(83名)は「た まる」因子の得点のみが高い。このメンタルモデルは,ストレスがたまるので無気力になる という内容をもつといえる。そこで,このクラスタを「蓄積型」と命名した。第3クラスタ
(48名)は,「社会的孤立」「行動」,および「悲観的認知」因子が高い得点を示した、このメ ンタルモデルは,自分の行動に問題があったり,社会的に孤立したり,あるいは考えかたが 悲観的になることにより無気力が生じると考えるものである.また他の因子も際だって低い 得点を示すものがないことから,比較的バランスのとれた内容といえる。そこで,このクラ スタを「バランス型」と命名した。第4クラスタ(69名)は「キレル」と「防衛本能」因子
12 宮崎章夫
の得点が高い。2つの因子を合わせると,「ストレスがある限界をこえる(きれる)と,自分 の心や体を守るために本能的に無気力になる」という説明が描きだせる。そこで,このクラ スタをf防衛型」と命名した。最後の第5クラスタ(27名〉は,「悲観的認知」因子の得点の みが高い。このメンタルモデルは,無気力の原因として本人の考えかたのみを露視する内容
といえる。そこで,このクラスタを「認知型」と命名した。
メンタルモデルと対処法との関連牲:メンタルモデルが対処法の評価と関運することを検 証した。対処法尺度のα係数をみると,いずれの因子でも.6以上を示しており,比較的高い 内的整合性を有すると考えられた。そこで閣子ごとに因子負荷量が.6以上の項目を平均し,
その値を各因子の得点とした。6種類の得点それぞれに対して,上述したクラスタの麺類を 要因とした一元配置分散分析をおこなった。その結果「気分転換」(F(4,29D=6.25,pくjD,
「問題分析」(F(4,291)=3.08,p<の5),「認知変容」(F(4,291)=442, pく.01),「行動抑制」
(F(4,291)=3.84,pく,Ol)に有意な主効果が認められた。なお「問題放棄」(F(生291)=.90,
皿s)と「感情発散」(F(4,291)=1.82,ns)に有意差は検出されなかった。有意な主効果に対し ては,危険率を5%水準に設定したTurkey−b法による下位検定を行った(Fig.2)。メンタルモ デル尺度では評定値「3」に対して「やや当てはまる」というラベルを付していた。そこで以 降では平均値が他のクラスタに比べて高いことにくわえて,値がおよそ「3」以上の因子を,
そのメンタルモデルの特徴とみなすことにする。
5 、 団 1:身体型 、
・塁・ h 』
器鰯ス型
讐
』 田4:防衛型
4
@3
rl 2
』 卜
目 5 :認知型
』 騨
1
o
気分転換 問題分析 認知変容 目標放棄 感情発散 行動抑制 因子名
Figure 2対処法尺度の平均値
垂直線はSDを示す。異なるアルファベットを有する値闘には危険率5%水準で統計的有意差が認められた。
「身体型」は,他の群に比べて際だって高く評価した舛処法がなかった。f気分転換」や
「認知変容」などはある程度まで高い値を示してはいるものの,他の群に比べると低いので,
この群独自の特徴とけいえないだろう。「蓄積型」は「気分転換」や「認知変容」を高く評価 していた。どちらの対処法も問題の解決を図るのではなく,ストレスにともなう不快な感情 を緩和しようとする点で共通している。「バランス型」は「気分転換」にくわえて,「問題分 析」を重視していた。また「行動抑制」の有効性も,その平均値はわずかに「3」に届かぬも のの,他の群に比べてもっとも高く評価していた。そこで,この対処法も「バランス型』の 特徴の一つに含めて差しつかえないだろう。「問題分析」と「行動抑制」は,問題の原因を解 決しようとする点で共通している。「防衛型」は「気分転換」を高く評価していた。「蓄秋型」
と異なるのは,「認知変容」をさほど評価していないことであった。「認知型」は「認知変容」
のみを重視し,他の対処法をさほど評価していなかった。
無気力の経験による差異:「ストレスによる無気力」の経験により,メンタルモデルや対処 法の評価に違いがみられるかを検討した。質問4に対して「4:激しい無気力を経験した」と いう回答をした者を「経験群」,それ以外の回答をした者を「無経験群」として分類した。
「経験群」は57名,「無経験群」は230名,および無回答者が9名であった。メンタルモデル尺 度の9因子と,対処法尺度の6因子のそれぞれについて,その平均値を「経験群」と「無経 験」との間でt.検定により比較した。その結果,メンタルモデル尺度の「固着行動」因子得 点において,「経験群」(M=.301.5D=LO4)は「無経験群」(M=へ071,5D凱97)よりも得点 が高かった( (285)=2.6,pく.05)。顕著な無気力を経験した者は,していない者に比べて,本
人の「行動」に注目する傾向があるようである。 口 」
: ㌦ 総合的考察
本研究の目的は,1)無気力の生起過程に関するメンタルモデルを収集すること,および2)
モデルの内容が対処法の評価と関連することを検証することであった。本調査の結果から,
メンタルモデルを「身体型」「蓄積型」「バランス型」「防術型」「認知型」の5種類に分類す ることができた。「タマル」因子の値をみると,「蓄積型」「バランス型」「防衛型」の3群は,
その値がゼロ近傍から正の値を示している。それとは紺照的に「身体型」と「認知型」は大 きな負の値を示し,前者の3群とは一線を画す。前者の3群は,「ストレスがたまる」という 発想をある程度まで共有するといってよいだろう。このような共通性がある一方で,「蓄積 型Jと「バランス型」の間には本論の主題に関連して重要と思われる違いがみられた。以降 では両群の差異を中心に,5種類のモデルについて考察する。
はじめにメンタルモデルの内容が類似した「蓄積型」と「発散型」に注目してみたい。上 述したように両群のメンタルモデルは感情やストレスが「たまる」という発想をもつ。また
14 宮崎章夫
自分の「行動」についての視点や「社会」との関わりにっいての視点が欠けている点でも共 通している。両群のなかでも「蓄積型」の人数は83名と,5群のなかでもっとも多い。この 結果から, 多数の回答者が,「ストレスがたまる」から無気力になるという極めて単純なメン
タルモデルを有していたことがわかる。
「たまる」という発想が一般人に広く浸透していることは,ストレスの領域以外でも指摘さ れている。認知心理学的研究は,感情に関する雷語表現,慣用句,比喩を分析して,感情概 念を支える認知モデルを明らかにしている(楠見1996;LAKoFF I 987)。「怒り」という感情を 例にとると,一般人はその変化を表現するときに容器スキーマ(例:怒りがたまる),垂直性
スキーマ(例:頭に血が上る),バランススキーマ(例:心が不安定),コントロールスキーマ
(例:怒りが爆発する)という4種類の比喩表現を利用しているという。ストレスが「たまっ て」「発散できない」と「キレル」という「蓄積」,「発散」因子の表現は,、これまで感情の 領域で用いられてきた容器スキーマとバランススキーマをストレスの領域に転用したのもの
であろう。
楠見(1996)も指摘するように,これらのスキーマは心を「容器」,ストレスや感情をその 中に入った「液体」と考え,水圧をコントロールしようとする物理学モデルである。物理学 的モデルにしたがえば,たまった水の水圧を下げるには水を容器の外に発散すればよい。こ のような物理学モデルの発想は,「蓄積型」や「防衛型」が有効と評価した対処法の中にも見 つけることができる。両群の評価した対処法をみると,「気分転換」の有効性を高く評価して いる点,および「問題分析」の有効性をさほど評価していない点で共通している。両群が重 視する「気分転換」は,まさにたまった感情やストレスを「発散する」という発想に基づい ておこなわれる対処法である。
一方で「蓄積型」と「防衛型」との違いに目をむけると,「防衛型」は他の群ほど「認知 変容」を重視していない。「防衛型」のメンタルモデルは,本能や脳などの無意識的要因によ り無気力の発生を説明する。それに対して本人の認知を変える「認知変容」は,意識的側面 に働きかける対処法である。意識的対処法は,無意識的原因に対してさほど有効ではないと 評価されたのかもしれない。ただし群によるわずかな違いはみられるものの,「認知変容」は いずれの群からも比較的高く評価されている。そこで,この対処法についての考察はまとめ て後述することにする。
っぎに「バランス型」に注園してみたい。このモデルはストレスが「たまる」のみでなく,
考えかたが悲観的になったり,社会的に孤立したり,臼分の行動がさらにストレスを増幅す るという視点をあわせもつ。自分が無気力の発生に関わっているという「能動性」,および社 会的支援を重視する「社会性」は,心理学的なストレス理論とも共通する。ただし人数が48 人と少ないことから,この種のメンタルモデルは回答の一部に限られていたことがわかる。
メンタルモデルにみられるバランスのよさは,対処法の評価にも反映されていた。「バラン ス型」は「気分転換」にくわえて,「問題分析」や「行動抑制」の有効性も評価していた。
この群のメンタルモデルは,社会的支援が欠如し(社会的孤立),本人の行動がさらにストレ スを増幅させる(固着行動)という視点をもつ。これらの視点が,性急に行動をおこさず(行 動抑制),周囲からの情報的支援を求める(問題分析)という発想を生みだしたことは想{象し やすい。
「バランス型」の対処法には,心理学的なストレス研究が重視する特徴がみられる。対処法 の代表的な分類法の一つに問題焦点型/情動焦点型という分けかたがある(たとえば,神村他
1995)。問題焦点型とは問題の原因を分析する,計画を立てる,実際に実行に移すなど,ス トレスの原因解決を志向する方略一般をさす。本研究の対処法尺度では,「問題分析」や「行 動抑制」がこれに当てはまる。情動焦点型対処とは,ストレスにともなう不快な感情を礁接 的に解消しようとする方略一般をさす.本研究の「気分転換」「認知変容」「感傭発散」「旧標 放棄1はこちらに該当する。これら2種類の対処法の間に,一方が他方よりも優れていると いう優劣関係はない。むしろ一方の対処法に偏らず,状況に応じて柔軟に使いわけることで,
高いストレス耐性が生みだされる(COMPASε 磁1988)。「蓄積型」や「防衛型」が情動焦点 型対処に偏妊を示したのに対して,『バランス型」は両対処を偏り無く評価していた点が塾ま
しい。
次に「認知型」であるが,このメンタルモデルでは「悲観的認知」が偏重されている。い わば「ストレスは,本人の考えかたしだい」という内容である。このメンタルモデルに対応 して,対処法でも「認知変容』を重視し,他の対処はさほど評価していない。「認知変容」は ストレスに対して有効性が広く確認されている対処法であるが(坂野1995),それのみへの 偏重にはやはり問題がある。地域社会的観点からストレスの問題を扱った研究の多くが,周 囲から適切な情緒的・道具的支援を得ることによりストレスが軽減することを示している
(レビューとして,D冊ノWONG l 996>。社会的支援を求める対処法として,本研究の「気分 」
]換」因子には情緒的支援を求める項目が,「問題分析」因子には道具的支援を求める項目 が,それぞれ高い負荷量を伴い含まれている。「バランス型」は両因子を重視していたことか ら,社会飽支援の重要性を評価していたとみなせるだろう。それに対して,「調知型」は社会 的支援を含む両因子を,どちらも重視していない。「認知変容」が個人の認知を問題にするか ぎり,そこには自分ひとりでストレスに対処しようとする発想が不可避的にともなう.認知 偏璽の発想は,ストレスがもっ「社会的」側面を軽視する危険があることに留意したい。
最後に,「身体型」は他の群に比べていずれの対処法も低く評価する傾向があった。ストレ スの原因を身体的問題のみに限定して帰属すると,常識的に考えれば,医学的措催が必要と いう発想にいきつく。そう仮定した場合,医学者や生理学者のような専門家はともかく,一 般人には自力で対応できないという考えが生じても不思議ではない。ただし今回の対処法尺 度は,専門家の支援を求めるという主旨の対処法を含んでいないため,これ以上の考察は控 えることにしたい。 ,
以上に述べてきたように,大学生が無気力についてもつメンタルモデルは,「身体」を露視
16 宮崎章夫
するもの,「感情」的要素を重視するもの,「認知」を重視するもの,そしてバランスがとれ ているものに分けられた。「感情」の蓄積を重視するモデルはf気分転換」などの情動焦点型 対処を,「認知」を重視するものはf認知変容」を,バランスのとれているものは,それらの 対処にくわえて,問題焦点型の対処を重視する傾向があった。GE剛ERIGRUD困(1985)は,心 理学的モデルを分類するときに,そこに埋め込まれているメタファ(隠喩)に注目している。
彼らは心理学のモデルで用いられるメタファを生命本質比喩,神経比喩,空間比喩,システ ム比喩の4つに区別する。空間比喩とは心を「空間における事物の拡散や移動ととらえる」
発想である。「蓄積型」や「防衛型」のもつ物理学的モデルは,「空間比喩」に分類されると 思われる。物理学モデルは,ストレスを一種の物質とみなし,それが勝手にたまっていくと 考えることで,きわめて容易に無気力の発生を説明することができる。その反面,もともと 物理現象を理解するためのモデルであるがゆえに,当人が何を考えているかという「認知」
的視点,本人の振るまいかたが実はストレスの一因であるという「行動」的視点,さらには 本人を支える「社会」的視点が抜けおちることになる。そこで「タマル」因子や『キレル」
因子のみでメンタルモデルを構成すると,その内容は本人の関与する部分が少ない受動的な モデルになる場合が多い、そして,そのメンタルモデルにしたがって対処法を評価した場合,
感情の管理や発散のみが偏重される危険があることに留意すべきであろう。一方,システム 比喩とは心を「合法的に制約された要素同士の相亙作用システム1とみなす発想である。こ の発想を含むモデルとしては,今回の「バランス型」や心理学的ストレス理論を挙げること ができる。システム比喩は複数の要素が存在することを前提とするため,「認知」「行動』「感 情」などがバランスよく含まれたモデルをつくりだすことが可能である。また要素間の相互 作用という視点は,「感情」「認知」「行動」の閲で悪循環が生ずるという発想にも結びつきや
すい。無気力に限定すると,メタファはメンタルモデルの原型となり,モデルの性質を少な からず左右しているといえるだろう。実体のない「こころ」をモデル化するうえで,メタ
ファの利用は必然的であるが,モデルのもつ欠点にとらわれないためにも,背後にあるメタ ファを意識しつつモデルは利用したい。
さて本研究の墜i的は一様のところ達ぜられたといってよいが,同1侍に今後の課題となる問 噛
閧燒セらかになった。まず「認知変容」型の対処に関する問題がある。本結果は,モデルの 内容が対処法と関連することを確かに示していた。ただし5群問における対処法尺度の得点 差は,統計的に有意とはいえ,決して大きなものではない、とくに「認知変容」の平均値は,
5群すべてで「3」を越えていた。この種の対処は,メンタルモデルの内容にあまり依存せず に有効とみなされていたようである。「ポジティブ・シンキング」という言葉の流行からもわ かるように,「認知変容」を無条件に露視する風潮が現代にあることは否定しがたい。一般人 に共有されるこの種の風潮は,個人のもつメンタルモデルとは朋個に,対処法を規定してい るのかもしれない。今後,風潮に代表されるような時代性を考慮して研究を進めることが必 要だろう。