1.問題
1.1.授業評価の現状
本研究は,大学の授業評価における「中間評価」
が,授業改善にどのような影響を与えているかに ついて検討し,その有効性を明らかにすることが 目的である。
大学における教育内容等の改善については,カ リキュラム改革や授業方法の開発をはじめとし て,成績評価方法や履修科目数の上限設定,組織 的な研修活動(FD)など多岐にわたって行われ ている。学生による授業評価も,それらの取り組 みの一つである。文部科学省の調べによれば,平 成16年度の時点で学生による授業評価を実施して いる大学は,国立大学では100%,公立大学・私 立大学ではそれぞれ97%となっており,ほとんど の大学で何らかの形で導入されているという状況 にある。
日本の大学における授業評価は,1980年代から,
先導的な実践例が蓄積されてきた(沖,2004)。
1990年代に入ると,体育や語学関連の科目におけ る取り組みが多く報告されるようになり,授業を 評価するという取り組み自体が広がりを見せ始め たが,全学的な実施はここ数年の動向だといえる だろう。それまでは,多くの大学関係者にとって,
大学の授業は何らかの評価の対象として見られる ことはなかった。「あの授業はおもしろい/つま らない」と学生が感じることがあっても,それは あくまでインフォーマルな評価であり,それ以上 でもそれ以下でもなかった。授業を担当する教員
は,カリキュラムを逸脱しない範囲で授業の計 画・実施及び学生の成績評価に対して責任を持 ち,その営みに対して,他者が意見を述べるよう なことは行われてこなかった。
このことは,大学教員が授業を疎かにしていた ことを意味するものではない。ここで指摘すべき ことは,授業に関する仕事が個々の教員の個業に よって行われてきた点である。いわゆる「オムニ バス形式」の授業のように,1つの科目を複数の 教員で担当することはあっても,複数の教員が共 同で授業設計をする風土はなく,授業方法につい て学ぶ場もない。また,教員同士で授業を見合う ような習慣もない。よって,よりよい授業づくり に取り組む教員がいたとしても,それを教員間で 共有するような仕組みはない。教員は,自分自身 が受けてきた授業の経験に基づいて,試行錯誤し ながら授業を実施していく以外に方法がなかった といえる。
しかし,大学教育のあり方が問い直され,教育 改善に取り組むことが大学に求められる中で,組 織的な取り組みとしての授業評価も急速に普及し た。学生による授業評価に対しては,依然として
「やる気のない学生や基礎学力のない学生に授業 を評価する資格はない」といった反対意見もある。
その一方で,6割程度の教員は学生の授業評価に 対して一定程度の信頼を置いているという調査結 果も報告されている(安岡,2004)。学生による 授業評価が,授業改善に向けた取り組みへの契機 の一つになっていることは間違いなさそうである。
秋 田 大 学 教養基礎教育研究年報 1 − 9 (2007)
授業評価調査における中間評価の有効性
細川 和仁
Is the Midterm Survey of Class Evaluation Effective in the Improvement of the Quality of Classes?
Kazuhito HOSOKAWA
1.2.授業評価と授業改善
授業評価が授業改善の契機となっている点は,
義務教育における授業改善とは異なり,大学に特 徴的な状況だといえる。小学校や中学校における 授業改善は,教員に対する研修という形で進めら れてきた経緯がある。教員の授業実践力を高める ため,教育委員会や教育センター等が研修を企画 し,各学校においては「校内研修」という形で,
授業の実践的な研究が積み重ねられている。児 童・生徒による授業評価が導入されている小・
中・高等学校は,まだごく一部である。
大学においては学生による授業評価が定着した が,やがて課題として浮上してくるのはマンネリ 化,形骸化であろう。アンケートを実施すればそ れでよしという時代は終わり,授業評価の結果を いかに授業改善に結び付けているかが問われるよ うになってきている。現在わが国の大学で行われ ている授業評価は,教員やカリキュラム評価では なく,授業の改善や指導の効果を知ることが目的 とされており,授業評価は自らの授業実践を振り 返るための一つの道具とみなすことができる。つ まり,自らの授業実践にどのような課題があるの かを知る手がかりである。授業評価の結果から課 題を見いだすことができれば,それを「次の授業」
に生かすことができる。逆に言えば,それが可能 になるような授業評価でなければならない。
授業評価に関するこれまでの研究としては,授 業評価尺度の因子構造や,各項目の関連性につい ての分析が多く見られる。例えば,田中・藤田
(2003)は,達成目標と授業自体の評価,受講態 度の自己評価,学業遂行との関係を検討し,相関 を明らかにしている。また,星野・牟田(2003,
2005)は,授業評価項目の因子分析により,評 価・教授努力・コミュニケーションの3因子を抽 出し,それらの関連性を分析している。
一方,授業評価結果と授業改善に関わる教育活 動の関連性にまで言及した研究としては,澤田
(2006)や鈴木(2006)の研究が挙げられる。澤 田は,4年間にわたって授業評価とそれに基づく 改善活動を行い,授業形態によってどのような効 果の差異があるかを検討している。また,鈴木は,
自身が担当する授業科目について,授業評価の結 果を受けて次年度に何を改善したのか,それが授 業評価結果にどう反映されたかについて,5年に
わたって継続的に調査し,それに加えて,履修し た学生に追跡調査を実施し,多角的な分析を行っ ている。
1.3.授業評価における中間評価
授業評価を授業改善に生かすことを考えたと き,評価を授業のどの時点で実施するかは重要な ポイントとなる。沖(2004)は,授業評価を実施 時期の点から3つに類型化している。すなわち,
授業の事前(最初),中間,事後(最終)の3つ に分類できるというものである。現在行われてい る授業評価の多くは事後(最終)評価である。事 後評価は,授業の最終に行われるため,回答した 結果が直接的に回答者に還元されることはない。
教員にとっても,調査から得たことは,次年度に 開講されるその授業に生かされることになる。
事後評価の限界を克服し,授業評価の結果を授 業改善に生かすには,中間評価が有効な方法とな りうる。沖(2004)は中間評価にも2種類あると している。一つは,毎回の授業終了時に行う,記 述形式の簡単なアンケートである。「大福帳」「レ ビュー・シート」「ミニッツ・ペーパー」と呼ばれ るものがこれにあたり,授業の中間段階での評価 に位置づけることが可能である。もう一つが,授 業の導入部分が終了した時期に実施するアンケー トである。なお大山(2003)はこれを「early evaluation」と呼び,授業の4,5回目で実施し,
残り10回の授業の改善に用いる,と指摘している。
本論文でいう中間評価は,この授業の中間段階で のアンケートを指し,その有効性について論じる。
授業の中間段階での評価の実施状況は,東北大 学が行った調査から傾向を把握することができる
(東北大学高等教育開発推進センター,2006)。東 北大学が実施した調査は,全国大学教育研究セン ター等協議会の加盟大学を対象に実施したもの で,国立大学の現状をある程度写し出したものと いえる。その結果によれば,平成17年度の時点で
「中間評価」を実施している大学はまだ少なく,
茨城大学(工学部),愛媛大学(共通教育,理学 部),鹿児島大学(共通教育)のみである。よっ て,この中間評価の取り組みは,現時点では先進 的なものといえる。
東北大学の調査の対象には含まれていないが,
徳島大学の全学共通教育における実施例が報告さ
れている(松谷・桑折・佐野,2006)。徳島大学 の全学共通教育では,中間アンケートを実施した 上で,学期末の授業評価アンケートにおいて,
「授業は改善されたか」及び「中間アンケートは 授業改善に効果があると思うか」という項目を設 け,中間アンケートの評価を直接学生に尋ねてい る。その結果は,肯定的な評価の割合が否定的な 評価を上回ってはいるが,「どちらともいえない」
という回答も依然として多く,学生の多くが判断 がつきかねる状態にある,としている。
秋田大学の教養基礎教育においては,平成16年 度2期からこの中間評価が導入されている。評価 をその後の授業の改善に生かすという機能に焦点 を当て「形成的評価」と呼ばれている。
この中間評価が,授業改善にどのような影響を 及ぼしているのかを明らかにすることは,授業評 価と授業改善の結びつきを確認する点で意義があ ると考えられる。また,それらの結びつきが弱い という結果が得られれば,授業改善に資するよう な評価のあり方について検討することもできる。
以上の観点から,本論文では,秋田大学教養基礎 教育科目の授業評価調査における,中間評価(形 成的評価)と最終評価(総括的評価)の関係を明 らかにすることを目的とする。
(註)この後の記述では,中間評価を「形成的評
価」,最終評価を「総括的評価」と記載する。
2.研究の手続き 2.1.対象科目
対象とするのは,平成17年度に開講された本学 の教養基礎教育科目のうち,「形成的評価」を実 施した科目の授業評価調査結果である。形成的評 価実施の対象となっているのは,15週にわたって 開講する科目である。形成的評価は授業の7週目 または8週目に実施し,事務担当者が集計したの ち,その結果はすみやかに担当教員に報告される ことになっている。担当教員以外には結果は公開 されていない。また,「総括的評価」は,授業の 最終回(15週目)に実施されている。
平成17年度の対象科目は1期241科目,2期143 科目,あわせて384科目であった。そのうち形成 的評価と総括的評価の両方の調査が行なわれた科 目は,1期151科目(実施率62.7%),2期82科目
(同57.3%),計233科目(同60.7%)であった。調 査が実施された科目の各科目における回答数は表 1の通りである。調査に回答した学生の数とその 科目の登録者数,単位認定者数等は必ずしも一致 しないと考えられるが,本論文では暫定的に,調 査回答者数をクラスサイズと置き換えて考えるこ ととする。
2.2.質問項目
本稿で対象とする質問項目は,形成的評価と総 括的評価の質問項目のうち,両方の評価で設定さ れている項目である(表2参照)。具体的には,
①目的や目標が明確に説明されているか,②授業 がよく準備されているか,③授業に対する熱意が 感じられるか,④授業内容が興味深いものか,⑤ 説明が明確で十分にわかりやすいか,⑥学生の理 解度に配慮した形で進められていたか,という教 員の授業のやり方に対する項目に加えて,⑦授業 の内容が十分に身に付いたか,という内容の習得
に対する学生の自己評価の計7項目である。これ らの質問項目に対して,「そう思う」「どちらかと いえばそう思う」「どちらともいえない」「どちら かといえばそう思わない」「そう思わない」の5 つからあてはまるものを選ばせる。以下の結果と 考察においては,「そう思う」=5,以下4,3,
2,1と数値に置き換え,平均値を求めている。
この平均値は,例えば受講者全員が「どちらかと いえばそう思う」と答えれば,その科目の平均値 は4.00となる。
表1:本論文で対象とする授業科目のクラスサイズ(単位:%)
表3:形成的評価と総括的評価の各項目の平均値 表2:本論文で対象とする質問項目
3.結果と考察
3.1.形成的評価・総括的評価の比較
はじめに,形成的評価,総括的評価の結果を確 認しておこう。
全233科目の各科目の学生による評価の平均値 を割り出し,さらにその平均値を求めたのが表3 である。形成的評価では,②授業の準備や③教師 の熱意に関しては,平均値が4.00を超えており,
比較的高い値だといえよう。ついで,①目的や目 標の明確な説明が3.90となっている。以下,④興 味深い内容,⑤明確でわかりやすい説明,⑥学生
の理解度への配慮が続き,⑦内容の習得に対する 自己評価が最も低く,平均3.38となっている。一 方,総括的評価は,形成的評価と同様,項目②と
③が平均4.00を超えており,その他の項目も同じ ような数値の傾向を示している。
形成的評価と総括的評価の平均値を比較する と,すべての項目で総括的評価が上回っている。
2回の評価の間に統計的に有意な差があるかどう かについてt検定を行ったところ,設問①〜③の 項目については有意な差は見られなかったが,④
〜⑦の項目については有意差が見られた。
全体平均の差とあわせて,各科目の比較の結果 も見ておく。表4は,各科目の形成的評価と総括 的評価の値を比較し,どちらが高い値になってい るかについて科目の割合を求めたものである。形 成的評価<総括的評価,すなわち最終評価で評価 が伸びた科目は,①〜③の項目では全体の約5割 強にとどまっているが,項目④〜⑥は全体の3分 の2程度,項目⑦では7割を超えている。
この結果から,次のようなことがいえる。まず,
すべての項目で総括的評価の値が形成的評価の値 を上回ったことから,これらの項目の観点につい ては,学生から最終的により良い評価を得られる ようになっていることがわかる。しかし,①目的 や目標の明確な説明,②授業の準備,③教員の熱 意の3項目に関しては統計的な有意差は見られ ず,総括的評価でより良い評価を得た科目も半数
表4:形成的評価と総括的評価の比較(科目の割合)(単位:%)
強にとどまった。その理由として考えられること は,この3項目は,形成的評価において既に高い 値を示していることである。受講者全員が最高評 価「そう思う」をつけた場合,平均は5.00となる が,20人以下の少人数授業であっても,平均が 5.00となることはほとんどないといってよい。
4.00を超える平均値はかなり高い値だと言える。
ある程度まで数値が高くなると伸び幅が小さくな る傾向が,ここに表れていることが考えられる。
3.2.形成的評価の高低による総括的評価の伸び の差異
これを検証するため,形成的評価と総括的評価
の値を,もう少し細かく見ておきたい。形成的評 価が高い場合,伸びがあまり見られなくなるとい う仮定を検証するため,形成的評価の各項目の平 均値によって科目を分類し,総括的評価の伸びを 比較する。表5は,形成的評価の各項目の平均値 を0.5ごとに区切り,それぞれのカテゴリーにあて はまる科目が,総括的評価においてどれだけ伸び ているか,その平均値をまとめたものである。表 の左上のセル「▲0.04(22)」を例にすれば,形成 的評価の質問①の平均値が4.50以上だった科目は,
全233科目中22科目あり,その22科目の総括的評 価の平均値は形成的評価のそれと比較すると0.04 のマイナスになっている,という意味である。
この結果によると,形成的評価で4.5を超える科 目は,④以外の6項目でマイナスとなっており,
総括的評価で伸びが見られない。また,4.0〜4.5 の科目においても,ほとんど伸びは見られない。
伸びが見られたのは,形成的評価の値が4.0以下だ った科目,すなわち「3.5〜4.0」「3.0〜3.5」「3.0以 下」の3つのカテゴリーにあてはまる科目であっ た。特に3.0以下のカテゴリーに該当する科目の平 均値を比較すると,④興味深い内容については 2.66→2.98,⑤明確でわかりやすい説明は2.57→
2.80,⑥学生の理解度への配慮は2.60→2.88,⑦内
容の習得に対する自己評価は2.68→2.99となって おり,大きな伸びを見せている。
項目別に見ると,④,⑥,⑦は4.0以下の3つの カテゴリーで統計的に有意な伸びが見られ,項目
⑤も3.5以下の2つのカテゴリーで有意差が見られ た。形成的評価と総括的評価の全体的な比較にお いて,④〜⑦の項目に有意な差を生じさせたのは,
形成的評価ではそれほど評価が高くなかった科目 の伸びにあるといえ,これらの科目の授業改善に 反映されていることがうかがえる。
形成的評価の値が高い場合伸びがあまり見られ 表5:形成的評価の値別にみた総括的評価の伸び(カッコ内は該当する科目数)
ないという点については,表5のまとめから読み 取ることができるが,形成的評価が4.0以下だった 場合であっても,項目によっては伸びが確認でき ない場合もある。
3.3.クラスサイズによる伸びの差異
次に,クラスサイズによる差異について検討す る。クラスサイズは授業評価結果に大きな影響を 及ぼすと考えられているが,授業改善に対する効 果という観点から見ると,どのような差異がある のだろうか。ここではクラスサイズによって科目 を6つのカテゴリーに分け,それぞれの平均値を 算出した。表6−1は形成的評価の平均値,表
6−2は総括的評価の平均値,そしてそれらの差 をとって総括的評価における伸びを示したものが 表7である。
まず,表6−1,6−2を見ると,クラスサイ ズによる値の差が確認できる。しかし,少人数で あるほど評価が高まり,大人数になるほど評価が 低くなるという単純な傾向は見られない。20人以 下の小規模のカテゴリーは,どの項目においても 評価がひじょうに高い。21〜40人のカテゴリーが,
その次に評価が高いカテゴリーとなっている。し かし,大規模のクラスになるほど評価が低くなる という傾向にはなっていない。20人以下を除く5 つのカテゴリーは,カテゴリー間での差が小さい。
表6−1:クラスサイズ別の形成的評価の平均値
表6−2:クラスサイズ別の総括的評価の平均値
次に,それらの差をまとめた表7について見て いきたい。平均値の差の検定を行ったところ,21
〜40人及び41〜60人のカテゴリーでは,④〜⑦の 項目で有意な差が見られた。また,61〜80人,81
〜120人のカテゴリーでも,項目④,⑥,⑦にお いて有意差が見られた。その一方,20人以下の小 規模のカテゴリー,及び121人以上の大規模のカ テゴリーは,有意な差が見られなかった。また,
①,②,③の質問項目については,どのクラスサ
イズにおいても優位な差が見られないことが明ら かになった。
これらの結果については,次のような要因が考 えられる。まず,20人以下のカテゴリーは,形成 的評価,総括的評価の両方において,その他のど のクラスサイズよりも,すべての項目において高 い評価を得ており,これ以上大きく伸びることは 考えにくいということがあげられる。少人数のク ラスは,中間評価の段階ですでに高い評価を得て
おり,その評価を最終段階まで持続させていると もいえる。また,121人以上の大規模のクラスに 有意な伸びが見られなかったのは,このカテゴリ ーに含まれる科目数が少なかったこと(11科目)
が原因の1つだと考えられる。平均値では若干で はあるがすべての項目で伸びが見られている。
3.4.考察
これらの結果から,数値だけで見れば,どの項 目においても,総括的評価は形成的評価よりも向 上している。しかし,詳しく見ていくとその向上 の程度は一様ではない。伸びが著しいのは,質問 項目という観点からは,④興味深い内容,⑤明確 でわかりやすい説明,⑥学生の理解度への配慮,
⑦内容の習得に対する自己評価,の4項目であっ た。
項目④〜⑦の評価の向上は,形成的評価におい て4.0未満だった科目,クラスサイズの観点からは,
小規模(20名以下)でも大規模(121名以上)で もない科目の評価が伸びていることによる。逆に 言えば,これらに該当する科目の改善に,形成的 評価は役立っているといえる。
その他の3項目,すなわち①目的や目標の明確 な説明,②授業の準備,③教員の熱意は統計的に 有意な伸びが見られなかった。その理由として,
形成的評価において既に,3.90を超える高い評価 を得ていることが原因と考えられた。しかし,表 5に見られるように,①目的や目標の明確な説明 については,形成的評価の高低にかかわらず,統 計的に有意な伸びは見られない。このことから,
①・②・③の3項目は,形成的評価の結果を受け て総括的評価に向けた授業改善に生かすことが難 しい観点であり,授業の序盤に評価がある程度固
定してしまう可能性が高い項目である。言い換え れば,授業の担当教員がこれらの観点を特に意識 すべきなのは,授業の序盤であるといえる。授業 の目的や目標を明確に説明し,周到な準備をした 上で授業にのぞみ,それらを通じて,授業に対す る教員の熱意を学生に伝えることが,授業開始後 の数回において特に重要になると言えよう。教員 の熱意などは,授業の途中から変化する(ように 学生が見る)ことは考えにくく,むしろ興味深い 授業内容にすること,明確でわかりやすい説明を すること,学生への理解度に配慮した進め方をす ることなどは,その改善状況を学生は,授業の全 般に渡って敏感に感じ取っているといえる。
また,クラスサイズの点から見ると,小規模
(20名以下)の授業や大規模(121名以上)の授業 で大きな伸びが見られなかった点は,形成的評価 が効果がなかったことを示すと断じることはでき ないだろう。20名以下のクラスサイズの授業は,
どの観点においても,他のどのクラスサイズの場 合よりも有意に高い評価を得ていた。よって,形 成的評価の時点で既に高い評価を得ていること で,総括的評価の伸びが見られなかったと解釈す ることが可能である。
4.授業改善に結びつけるために 4.1.形成的評価の授業改善への影響
中間評価が授業改善に与える影響という観点か らは,秋田大学教養基礎教育で実施しているもの に関して言えば,一定の良い影響を与えていると みることができる。特に,興味深い内容,明確で わかりやすい説明,学生の理解度への配慮に大き な改善が見られ,そのことが学生の内容の習得に 対する自己評価の向上につながっていることが示 表7:クラスサイズ別の総括的評価の伸び
唆された。また,クラスサイズという点から見れ ば,20人以下の小規模のクラスや121人以上の大 規模のクラスでは大きな改善は見られなかったも のの,それ以外の場合では授業改善につながって いることが明らかになった。そして,形成的評価 では4.0以下だった授業科目に関して,総括的評価 で大きな伸びが見られたことは,全体的な底上げ に機能していることもわかった。
4.2.今後の課題
しかし,このような方法の授業評価が,どのよ うな場合でも授業改善に有効に機能するわけでは ない。今後の課題として,次の点を検討していく 必要がある。
①形成的評価の項目
形成的評価に盛り込まれている評価項目は,本 稿で対象とした7項目のほかに,学習態度につい ての自己評価,教員が自由に設定できる項目,及 び自由意見欄(「授業や教員に対する意見や感想,
授業の改善してほしい点や優れた点など,自由に 書いてください」)がある。評価項目は,この他 にも加える必要はないだろうか。
星野・牟田(2005)は,先行研究の整理を通じ て,授業の満足度に影響を与える要因を4種類に 分類している。具体的には,①教員側の要因(教 授努力や学生,授業との関わり方など),②学生 側の要因(授業に対する努力の度合い,やる気の 程度,体調など),③授業のインプット(授業に 対する動機,学生の学力・既習知識,施設設備),
④授業のアウトプット(理解度,達成度,成績), の4つである。この例を参考にしつつ,新たな質 問項目の開発を考えることも,意義あることと思 われる。
また,実状として自由意見欄があまり活用され ていないことも課題である。評価観点に対する数 値評価では拾いきれない学生の意見を集める場と して自由意見欄が設けられているが,現時点では 記入数が少ない。記入のための時間を確保したう えで,自由意見欄への記入を促す必要があるだろ う。平均値として数値で表された結果よりも,自 由意見欄に記された学生の直接的な意見が参考に なることも多い。授業における教員と学生は「サ ービスを提供する者/受ける者」の関係ではある が,授業を共に作っているという点では協働関係
にある。学生も授業改善の担い手であることを意 識させ,建設的な意見を記入できるよう指導して いく必要がある。
②学生への説明
授業評価の課題として,回答した結果が学生に フィードバックされていないという課題も残され ている。冒頭に紹介した徳島大学の取り組みは,
この点について参考にすべきものである。徳島大 学の取り組みは,中間評価が授業改善に生かされ たかどうかを,最終評価において率直に学生に尋 ねるものであるが,このような質問項目を評価に 加えることで,学生は中間評価が授業改善の道具 として用いられていることを意識できる。調査を 実施する上で基本的なこととして,回答者に対し て調査のねらいを的確に伝えることが必要である。
③総括的評価の「形成的機能」
本学の教養基礎教育では,中間評価を形成的評 価,最終評価を総括的評価と呼んでいるが,総括 的評価にも「形成的機能」を持たせる必要がある。
つまり,総括的評価の結果を「次の授業」の改善 につなげるためのシステムが必要である。しかし,
大学授業は「次の授業」までの時間が長い。例え ば,4月〜7月に15週にわたって開講された授業 は,次に開講されるのは次年度の4月からである。
7月に実施した授業評価の結果を,9ヵ月後の授 業に生かすためには,何らかの仕組みを開発する ことが必要である。
以上,今後の課題として3点を取り上げたが,
授業評価全体にわたる課題として,アンケートと いう手法についても再検討する必要があるだろ う。マークシート等の方法を用いてはいるものの,
授業評価には膨大なデータ処理がついてまわる。
授業評価の効果と対照させながら,適正な実施規 模を見極める必要があろう。
引用文献
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