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Ⅰ.臨床経過および検査所見
【症 例】 50歳台,女性
【現病歴】
入院4日前に,全身倦怠感・発熱で発症した。入院3 日前,40度の発熱があり,腰背部痛を自覚し,非ステロ イド性抗炎症薬内服にて様子をみていた。入院2日前,
食欲不振があり,軟便数回を認め,嘔気が出現。その後,
倦怠感が増悪し,入院前日の22時過ぎに当院救急外来を 受診した。
【来院時現症】
体温 35.4度,血圧84/55mmHg 脈拍95/min.JCS1。
四肢の冷感,口唇チアノーゼを認めた。呼吸器症状はな く,胸部聴診上,心肺雑音を認めなかった。腹部は緊満 様で,グル音は減弱していた。来院時の検査所見は以下 の通り。
【L/D】
WBC 5400/μ l RBC 527万/μ l Hb 16. 3g /dl Ht 47. 9% Plt 10. 7万/μ l
血糖 126mg/dl BUN 40mg/dl Creatinin 1. 7mg/dl Na 133mEq/l K 3. 4mEq/l Cl 97mEq/l TP 6. 1g/dl Alb 3. 2g/dl GOT 164IU/l GPT 174IU/l LDH 414IU/l ALP 468IU/l γ-GTP 44 IU/l T-Bil 0.6mg/dl CRP 30.5mg/dl
【BGA】
pH 7. 288 PaCO2 36. 2mmHg PaO2 93. 5mmHg BE −8. 7mmol/l SaO2 99% (3L/minO2)
【胸腹部X線】
特記すべきことなし
【腹部造影CT】
結腸壁がやや肥厚している。上行結腸背側にfluid貯留。
【ECG】
NSR HR 88/min.
【入院後経過】
入院後,血圧が低下し,末梢循環不全が顕在化したた め,大量補液・カテコラミン投与を開始しICUへ転出し た。グラム陽性球菌感染による敗血症性ショックを疑 い,PCG,CZOP,γ-グロブリンを投与。CTにて胸水 の貯留,血液検査にてDICを認め,CHDF,ついで,診 断的開腹術を施行した。手術所見は以下の通り。腸管損 傷や膵炎の所見は認めなかった。子宮,付属器に病変は なかった。後腹膜は浮腫状であった。腹腔内を洗浄し,
ドレーン留置し閉腹した。しかし,その後もDIC,ショッ クは進行し,さらに大量の胸腹水貯留が続いた。これに 対し,PMX,大量の血液製剤を使用したが,血圧は維持 できず,入院2日目,16時過ぎに死亡を確認した。その 後,来院時の静脈血培養の結果が判明,Streptococcus pyogenes(A群)が検出された。
【臨床診断】
#1 Streptcoccal Toxic Shock Syndrome(STSS) #2 DIC
Ⅱ.臨床上の問題点
#1 感染巣の特定は可能であったか?
#2 感染経路として何が考えられるか?
感染巣を特定できず
敗血症性ショックにより死亡した1例
臨床担当:茂木 洋晃(研 修 医)・須佐 史信(研 修 医)・小出 明知(救 命 科)
病理担当:工藤 和洋(研 修 医)・下山 則彦(臨床病理科)
Septic shock without definite infection focus
Hiroaki Motegi,Fuminobu Susa,Akitomo Koide,Kazuhiro Kudoh,Norihiko Shimoyama Key words:Sepsis−Toxic shock syndrome−Streptococcus
臨床病理検討会報告
表.検査所見の推移
入院2日目 入院1日目
来院時
6600 2600
5400 WBC
4. 4万 7. 8万
10. 7万 Plt
18 21. 1
PT
82. 1 45. 2
APTT
213 502
Fiv
26 143
FDP
58 49
ATⅢ
3. 9 5
6. 1 TP
2. 4 2. 4
3. 2 Alb
633 133
164 GOT
191 123
174 GPT
2139 596
417 LDH
248 40
54 Amy
16069 313
72 CPK
38 42
40 BUN
2. 1 1. 5
1. 7 Cre
16. 9 28. 4
30. 5 CRP
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Ⅲ.病理解剖所見
Ⅰ.病理解剖所見 1.劇症型感染症疑い 2.全身出血傾向(DIC)
3.胸水 左 800ml 右 700ml。血性。
4.回腸うっ血・壊死(おそらく二次性)
5.縦隔・後腹膜うっ血。
6.肝実質うっ血,変性。
7.子宮内膜ポリープ。
Ⅱ.病理所見
1.後腹膜・縦隔壊死性化膿性炎(腹部大動脈周囲,
横隔膜周囲,胃漿膜下層,膵体部,腸間膜,左腎門 部,食道,気管,頸部のリンパ節にGram陽性球菌 の菌塊を認め,好中球,組織球,核破片,壊死物質 からなる化膿性炎症,abscessの像が認められ,細 菌感染巣の所見)
2.DIC(腎・肺)
3.回腸・S状結腸うっ血壊死 4.肝組織萎縮
5.陳旧性心筋梗塞
6.脾機能亢進状態(組織球増生)
7.腎尿細管水腫様変性(大量補液を行ったと考えら れる)
8.子宮筋腫(直径5mm)
【まとめ】
後腹膜から縦隔,頸部リンパ節にかけてGram陽性球 菌による化膿性炎症を生じ,敗血症により循環不全,
DIC,多臓器不全,死亡へと至った症例であると考えら れる。
Ⅳ.剖検検討会における討議内容のまとめ
感染巣の特定は可能であったかという点に関しては,
病理解剖所見から,一次的なfocusは後腹膜・縦隔の壊 死性化膿性炎であることが判明した。多数のリンパ節の 菌塊は二次的なもので,敗血症の存在を裏付けると考え られた。しかし,病勢の進行が急速であった上,CT,あ るいは開腹下でも膿瘍を明らかにできなかったことをふ まえ,臨床診断の困難さを再確認せざるを得なかった。
また,CPK高値から壊死性筋膜炎の存在を指摘する意 見もあった。
感染経路として何が考えられるかという点について は,目立った外傷はなく,また,泌尿生殖器系を介した 感染は臨床,病理両所見上否定的であったことから,後 腹膜に到達しうる特定の感染経路の推定に至らなかった。
Ⅴ.症例のまとめと考察
本症例はa全身倦怠感,40度超の発熱,腰背部痛で発 症s発症4日目に食事摂取不可能,倦怠感の増悪あり,当 院救急外来受診dショック状態であり,入院加療となっ たf急速進行性の敗血症性ショックから,入院翌日(発 症5日目)にはstreptococcal toxic shock syndrome
(STSS)が疑われたg腹部造影CTにおいても明らかな 膿瘍を指摘できず,腸管の全体的な浮腫と軽度の後腹膜 の浮腫を認めたh発症5日目に感染巣検索,除去目的に 開腹術施行jややにごった腹水ではあったが,消化管の 穿孔なく後腹膜も切開し観察したが明らかな膿瘍形成は 認めなかったk術前から認めた末梢循環不全進行し,輸 液,輸血,CHDF施行にもかかわらず,血圧の維持,尿 量確保が困難となり発症6日目には血圧の低下に引き続 き,徐脈となり永眠された。
清水は1),劇症型A群連鎖球菌感染症における診断過 程に関して,次のガイドラインを提示している。
以下の項目に適合する症例については,培養検体を抗 菌薬施行前に必ず確保すること。①SIRS病態を有する
(体温が38度以上または36度以下,脈拍が90/分以上,呼 吸数が20/分以上,白血球数の増加)②発熱し顆粒球減少
③発熱した腹膜透析例④急性細菌性髄膜炎が疑われる。
その際の検体として,血液は必須(部位を変え2セット 以上。感染性心内膜炎を疑う場合は3セット)また,髄 膜刺激症状があれば脳脊髄液,この他,膿(咽頭,軟部 組織炎),痰,尿などである。検体はグラム染色し,検鏡 する。脳脊髄液にはさらに墨汁染色(臨床医がグラム染 色と検鏡に習熟していれば15分で標本作成可能)を追加 する。STSSでは血液標本中にレンサ球菌を観察できる という。
また,それに加えて,迅速診断キット(A群連鎖球菌 のC多糖体に感作したラテックスの凝集反応を用いた キット;本来は咽頭部の膿瘍に対して使用されるもので あるが,STSSでは血清でも陽性反応が出て,15分ほど で診断が可能)を使用するのが救急外来では現実的であ ると思われる。
さらに,治療方針としては,血液採取後速やかに抗菌 薬投与開始が必要としている。投与法として以下の例を 挙げている。
Ⅰ:軟部組織炎または基礎疾患のない突発性敗血症性 ショック病態
A:基本的な抗菌薬の組み合わせ
①アンピシリン2gを4〜6時間毎(またはペニ シリンG 200万単位〜300万単位を4〜6時間毎)
②①に加え,第三世代セファロスポリン系(セフ タジジムまたはセフチゾキシム1〜2g)を8
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図1 大動脈と周囲後腹膜組織:
リンパ節腫大軽度
図2 大動脈(割面): 大動脈周囲脂肪組織は灰白色調
図3 気管周囲軟部組織 脂肪組織白濁と軽度のリンパ節腫脹
図5 リンパ管及び脂肪組織内膿瘍 末梢血内好中球値は低下していたが、 後腹膜・縦隔・頸部軟部組織リンパ節 内に膿瘍を形成していた
図6 腎臓割面:腎盂脂肪織は灰白色調 図4
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時間毎
B:ペニシリンアレルギー症例では基本的組み合わ せをAに代えて,
①第一世代セファロスポリン系(セファゾリン)
2gを8時間毎
②①に加えてゲンタマイシン120mgを12時間毎 C:敗血症病態が重篤であれば
aAに加えてゲンタマイシン120mgを12時間毎 sBの①に代えて第3世代セファロスポリン系
D:MRSAの関与が疑われる場合
AまたはBに加えて,バンコマイシン1 gを12時 間毎
Ⅱ:軟部組織炎または血行障害部の外傷に感染した症 例(壊死部は可及的広範囲に切除)
ⅠのAまたはBに加えてクリンダマイシン600mg を6時間毎
Ⅲ:免疫不全を来たす基礎疾患を持つ症例の重篤な敗 血症
①イミペネム0. 5gを6時間毎
②ゲンタマイシン120mgを12時間毎
③免疫グロブリン製剤
基本的に,迅速かつ大量のPCGと第3世代セファロ スポリン系の投与と,壊死性軟部組織炎が確認された場 合は壊死部の可及的な広範囲切除が必要としている。
また,Darenberg Jらは2),経静脈的大量免疫グロブ リン投与(1日目 1g/kg 2日目,3日目 0.5g/kg)で プラセボ群と比較し,発症28日の致死率において良好な 結果であったが,統計学的な有意差は得られなかった。
症例数がなかなか集まらないこと(17症例の時点で打ち 切りとなっている)もあり,標準的治療とはなりえてい ないが,今後の治療方針に影響してくるかもしれない。(現 時点で投与が認められている量は,最大で400mg/kg/
日,またはポリエチレングリコール処理ヒト免疫グロブ リン)
本症例の場合,血液のグラム染色,A群連鎖球菌迅速 診断キットなどによる早期のSTSS診断がなされ,か つ,CTなどの画像所見では明らかな膿瘍形成,壊死部 を認めなかったことから診断的開腹術に踏み切らず,治 療初期から大量PCG療法,PCPS等を含めた治療がなさ れていたら,異なる結果が得られていた可能性もあると 考えられた。
【参考文献】
1)清水可方 劇症型A群連鎖球菌感染症−筆者勤務 病院で経験された18症例と過去の文献のレビュー−
ICUとCCU,28s:89〜96, 2004.
2)Darenberg J et al.Intravenous Immunoglobulin G Therapy in Streptococcal Toxic Shock Syndrome:A European Randomized Double Blind Placebo-Control Trial Clin Inf Dis 2003; 37:333.
図7
図8 腎糸球体:
典型的なフィブリン血栓 HE染色およびPTAH染色