• 検索結果がありません。

職業会計士による保証機能の多層性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "職業会計士による保証機能の多層性"

Copied!
26
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

職業会計士による保証機能の多層性

その他のタイトル Multilayered Assurance of Professional Accountants' Services

著者 松本 祥尚

雑誌名 關西大學商學論集

巻 43

号 4

ページ 879‑903

発行年 1998‑10‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00019136

(2)

関西大学商学論集 第

43

巻第

4

(1998

10

月 )

(879)  309 

職業会計士による保証機能の多層性*

目 次

I.

はじめに

II.

会計関連業務の内容

II‑1.

内 容

II

2. 非監査業務の問題点ー——相互理解の方法

III.

保証機能の多層性

III1.

当事者の認識

松 本 祥 尚

III

2. 保証概念の経済学的分析—f呆証行為としての同質性

III‑3.

保証業務への経済学的分析の適用ー一多層性の論証

IV.

おわりに

参考文献

I.

は じ め に

アメリカにおける職業会計士の活動領域は,監査や税務業務のみならず,

ヨリ広範なピジネス・コンサルティング業務へと拡大してきた。その背景 には会計士の数の安定的増加と歴史的データに基づく伝統的な監査市場の 成熟化がある。とくに1950年代半ば以降は,監査およぴ税務にくわえてク ライアントヘのコンサルティング提供は,会計士にとって,企業からの需

*本稿は,第

57

回日本会計研究学会における報告に対して項いたコメントを考慮し,

加筆・修正したものである。

(3)

310 (880) 

43

巻 第

4

要に応じる形での戦略的機会として把えられた (Previts[1985])。しかし これらコンサルティング業務 (AICPA [197 4])に関しては,その市場にお いてコンサルタントとの確執が避けられなかった。

そのようななかで,アメリカ公認会計士協会(以下AICPA)は,従来か ら比較優位にあった会計士固有の技能を適用したサービスの提供を指向す るようになる。その1つがAICPAによって1978年に公表された『財務諸表 のコンピレーションおよびレビューに関する基準書 (Statementon Com‑

pilation and Review of Financial Statements)AICPA[1978])であ り,さらにはその枠組みをも超えた現在の保証業務に関する特別委員会 (Special Committee on Assurance Services)による各種報告書の公表 である (AICPA[1997]

わが国においても, AICPAや国際会計士連盟(以下IFAC)による保証 業務の拡張気運を受けて,保証業務に関して前向きな議論がなされつつあ る。しかし,多様な保証業務の拡張を議論できる土壌がアメリカ等では培 われてきたのに対して,わが国では監査以外の保証業務がCPAに対して 認められてこなかったし,CPA自身も積極的に多様な保証業務を一般社会 に売り込もうとはしてこなかった。この事実は,保証業務の拡張を議論で きる土壌が未だ十分に整備されていないということに繋がる。サービスを 提供しようとする側が,自らの保証業務の品質や貢献に関する比較優位を シグナリングしなければ,当該サーピスを需要しようとする利害関係者も でてこない。それは,アメリカCPAが監査を制度化させてきた歴史的経過 を見れば明らかである(千代田 [1998];松本 [1994]

以下では,わが国で多様な保証業務を議論できる前提として,依然とし てアメリカ職業会計士が自らの比較優位の拠処とする会計関連業務(レピ ュー・コンピレーション)を中心に,当該業務の内容についてII節で, III 節では保証業務としての監査がレビュー・コンピレーションと同質である ことを論証し,最後に職業会計士による保証業務の拡大可能性について言 及したい。

(4)

職業会計士による保証機能の多層性(松本) (881)  311 

II.

会計関連業務の内容

わが国においても,いわゆる中小会社監査制度の法制化論議とともに,

レビューとコンピレーションが詳細に検証された時期があった(日本監査 研究学会 [1989])。その後,「簡易監査」に関する議論は,わが国では当時 の「正規の監査制度に対して悪影響を与える」という理由とともに,下火 となり今日に至っている。本節では,その際に俎上に挙げられた『会計お よぴレピュー業務に関する基準書』(Statements on  Standards  for  Accounting and Review Services:以 下SSARS) (AICPA [1998]) 1)をも

とに,レビューとコンピレーションについて改めて検討してみたい。

I I ‑ 1 . 内 容

アメリカにおいても一朝ータにSSARSの発行に至ったわけではない。

1949AIA当時の監査手続書 (Statementon Auditing Procedure:以 下 SAP) #23発行時点ですでに,無監査業務 (Unaudited Financial  State ments)と限定手続業務 (LimitedProcedure Engagements)として非監 査業務が提供されていたのである。前者は財務諸表の作成業務であり,そ の結果は(l)CPAが何のコメントも記載しない財務諸表,(2)各頁に「無監査 の帳簿により作成」というレターヘッドを付した財務諸表,および(3)発見 事項と意見差控の旨のレターヘッドを付した財務諸表,のいずれかの形で 提供された。一方,後者は,限定的な監査手続を適用して中間財務諸表を レピューするものであり,結果は「コンフォート・レター」という形で提 供されていた。しかし当時から,会計士の側では,どのような手続や報告 をすれば標準的な業務水準を維持することができるのかに関する具体的指

1)  78

年発行の

SSARS#l

は幾度かの改訂・追補の後,

98

年に編集・成文化されてい

る。以下の検討は,

98

年発行の最新版

(AICPA[1998])

に依拠している。改訂内容

の議論については

Rubin[1992]

を参照されたい。

(5)

312 (882) 

43

巻 第

4

針がなかったこと,利用者の側では,意見を差控る旨の意味を理解するこ とができず監査による保証と同程度を期待したこと,が問題点として挙げ られた。そして,このような相互理解の欠如が,会計士に対する損害賠償 請求訴訟を招来し,無監査業務や限定手続業務で実施すべき手続と報告形 態の明確化に関する実務家や学界人からの勧告へと繋がった(Rankin

[1984]  pp.6473)

このような経緯で78年に発行されたSSARS#1では,レビューとコンピ レーションに関して以下のように定義している。

・ レビュー:質問と分析手続の実施に基づき,一般に認められた会計 原則に準拠するように,あるいはもし適用可能であれば,他の会計に 関する包括的な基準に準拠するように,財務諸表に対していかなる重 大な修正も施す必要のないことを,限定的に保証するための合理的基 礎を提供するもの (AR§ 100. 04) 

・ コンピレーション:いかなる保証を表明することなく,経営者の陳 述である情報を財務諸表の形で提示すること (AR§100.04) 

このようにレビューとコンピレーションについては,いずれも

CPA

認められた財務諸表に関する会計関連業務であるが,そこで想定されるク ライアントは非公開事業体 (nonpublicentity)ということになっている。

これはSSARS#1で明確に定義しようとした業務が,もともと中小規模の 企業等向けサービスとしての限定手続業務と無監査業務であったことから も自然に理解できよう。そしてそこでの非公開事業体は,以下を除くすべ ての事業体とされている。すなわち,(a)その証券が,地域ないし地方での み取引されるものを含み,証券取引所(国内ないし外国)か,あるいは店 頭市場のいずれかの公開市場で取引されている,(b)公開市場におけるすべ ての参加者に証券を販売する目的で書類を規制機関に提出している,(C) 会社,ジョイント・ベンチャー,さらに(a)ないし

( b )

の支配下にある他の事

(6)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

業体.である (AR§100.04)

(883)  313 

それぞれの業務の特徴としては, SSARSでは以下のように規定してい る。すなわち.レビューで実施する質問およぴ分析手続は,財務諸表に対 して修正すべき重大な箇所がないという限定保証を表明するための合理的 基礎を,会計士に対して提供するものであり,いかなる保証の表明も企図 しないコンピレーションとは異なっている。さらに,監査が一般に認めら れた監査基準にしたがって実施され,全体としての財務諸表に関する意見 を表明するための合理的基礎を提供するものであるのに対して,レビュー はそのような意見表明の基礎を提供するものではない。というのも,内部 統制の理解も,統制リスクの評価も,さらには実査や確認のように監査で 通常実施される特定の監査手続によって入手された証拠資料により,会計 記録を確証することも企図していないからである。もちろんレビューが財 務諸表に影響する重要な事柄に会計士の注意を向けさせるかもしれない が,会計士が監査で提供するようなすべての重要な事柄に気付くという保 証を提供するものではない (AR§100.04)

II2.非監査業務の問題点一相互理解の方法

わが国でこのような業務が「簡易監査」として議論された際にも,SSARS

#1が発行されるまでにアメリカで顕在化したのと同じ問題点が,掲記され ることになった。つまり,監査を専担するのと同じ主体である

CPA

が非監 査業務をも提供した場合,それを利用する利害関係者は,その保証水準を 誤解し,高いはずの監査による保証水準と混同し,監査の水準をも低い水 準に収敏させてしまう,というものである丸

2)

わが国の中小会社監査制度として,「監査」とは保証水準の異なる「調査」と「指 導」について詳しく議論したものが, 日本監査研究学会

[1989]

である。

ただし,このような危惧がはたして実際に現実化したか否かは判らない。という のも,アメリカでは実際に非監査業務に関する任意契約の歴史があったのに対して,

わが国

CPA

には,アドホックに与えられた法定監査の歴史しか有していないから

である。

(7)

314 (884)  43巻 第 4

しかしながら,保証水準の多層性については,アメリカで同旨のことが 議論されたころからすでに「社会的要請が,財務諸表監査と同程度の保証 でなくてもよいとするのであれば,これに対して監査機能を拡張すること に制約を課すような条件を設けることは,独立監査の発展を阻害する。

……,監査概念は,固定的なものではなく,社会の発展に応じることがで きるような弾力的なものでなければならない」(森 [1975]13頁)と積極的 に理解する見解もあった3)。そのうえで,多様な監査は情報の性質や監査業 務の制約という条件に依存して,獲得される証拠に差が生じると考えられ るので,その監査によって与えられる保証の程度が監査報告書において明 示されるべきことが指摘された。つまり,情報利用者が,多様な監査によ って与えられる保証の程度の差を,区別できるような方策を必要としたの である。

上記のような問題点について,法廷等の場で十分に認識させられていた AICPAでは,このような相互の不理解(期待ギャップ)を回避するために,

一定の相互コミュニケーション策を講じるという方法を採った。実際には,

そのような方策として,(1)業務契約時のエンゲージメント・レターと (2) 務完了時の報告書の標準化を明文化したのである。

11‑2‑1.エンゲージメント・レター

CPAは,各業務の契約をクライアントとの間で締結するにあたって,当 該業務の用語および目的に関する相互理解を確認すると同時に,その性質 と限界を確認しておく必要がある。つまりこの相互の確認は,履行される サービスの性質や限界に関する記述と,CPAが提供する予定の報告書に関 する記述を含んだ書面でなされることが望ましい,とされている (AR§

3) 同じように,このような保証水準の多層性については,「要証命題の水準」と監査 による「検証の水準」の両者によって変化し得ることが指摘されていた(高田

[1983]

5 8

頁;高田編

[1997]

230-234 頁)。他にも大石 [1978] ・桧田 [1985]• 森 [1985]

など数多い。

(8)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

(885)  315  100.08)。それぞれの具体的な標準様式がAR§100.53AR§100.54であ 4)

AICPAが意図するそれぞれの標準様式は,以下の[図1J2]のと おりである。

1

財務諸表のコンピレーション一エンゲージメント・レタ一例

(AR§100.53)

(適当な挨拶)

本書は,我々の契約業務の条件と目的の相互理解と,我々が提供する業務の性質と限 界についての相互理解を確認するためにある。

我々は.以下の業務を履行するものである。

1.

我々は,あなたが提供する情報に基づき.

19XX

年度の

XYZ

社の年次およ び中間貸借対照表と関連する損益計算書,剰余金計算書.ならびにキャッシュ・

フロー計算書を編纂する。我々は.当該財務書類を監査もレビューもしない。我々 は ,

XYZ

社の年次財務書類に関する報告書を,現時点で,以下のように読まれる ことを期待する。

私(我々)は,

19XX

年1

231

日現在の

XYZ

社の添付貸借対照表.ならびに同日を もって終了する年度の関連する損益計算書・剰余金計算書.およびキャッシュ・フロ ー計算書を.アメリカ公認会計士協会(

AICPA)

発行の会計およびレピュー業務に関 する基準書

(SSARS)

に準拠して編纂した。

コンピレーションは.経営者の言明としての財表情報の形態による提示に限定される。

我々は添付の財務書類を監査もレピューもしていない。したがって.意見を表明する ものでもないし.それらに関する他のいかなる形での保証を表明するものではない。

貴社の中間財務書類に関する我々の報告書は,当該書類は実質的にすべての情報開示を 省略するものであり,以下のように読むべき追加文節を含むことになる。

経営者は,一般に認められた会計原則の要求する情報開示を実質的にすべて省略する ことを選んだ。もし省略された情報開示が財務書類に含まれていたならば.それらは 当該企業の財政状態・経営成績.ならびにキャッシュ・フローに関する利用者の結論 に影響するかもしれない。したがって.これらの財務書類は当該事象について情報を 与えられない人達のためには設計されない。

4)

このようなエンゲージメント・レターの有効性に関する実証は,

Sumners=White 

Clay, Jr.  [1987]

によってなされている。

(9)

316 ( 8 8 6 )  

43 巻 第 4

何らかの理由で,貴社の財務書類のコンピレーションを完遂できない場合,我々はこの 契約の結果としての当該書類に関する報告書を発行しない。

2.我々はまた……(他の業務に関する議論)。

我々の契約は,存在するかもしれない誤謬,虚偽,ないし違法行為の開示目的では,

依拠することはできない。しかしながら,我々は注意を引くような重大な誤謬や,同じ く注意を引くような詐欺ないし違法行為について,明らかにそれらが瑣末なものでない 限り,適切なレベルの経営者に惜報提供する。

本業務に対する報酬は……。

我々はいつでも本文書について喜んで議論する用意がある。

もし上記事項が貴社の理解に準じておれば,本文書写しの以下の空欄に署名のうえ,

我々に返送してください。

敬 具

(会計士の署名)

承 認

XYZ 社 長

H

2 財 務 諸 表 の レ ビ ュ ー ー ー エ ン ゲ ー ジ メ ン ト ・ レ タ 一 例 (AR§100.54) 

(適当な挨拶)

本書は,我々の契約業務の条件と目的の相互理解と,我々が提供する業務の性質と限 界についての相互理解を確認するためにある。

我々は以下の業務を履行する。

1.我々は, 19XX1231日現在のXYZ社の貸借対照表と,同Hをもって終 了する年度の関連する損益計算書,剰余金計算曹,ならぴにキャッシュ・フロー 計算書を,アメリカ公認会計士協会(AICPA)発行の会計およぴレビュー業務に 関する碁準曹 (SSARS)にしたがってレビューする。我々のレビューは,主とし て,会社職員に対する質問と財務データに対する分析手続の適用からなり,経営 者に対して陳述書を要求する。レビューは,内部統制の理解を得ることや統制リ スクの評価を企図していないし,会計記録のテストや補強する証拠を入手するこ とによって,質問に対する囮答を確証することや,監査に際して通常実施される 特定の他の手続も企図していない。したがって, レピューは,我々が監査におい て開示されるようなすべての重大な事柄に気付く, という保証を提供するもので はない。我々の契約業務は,存在するかもしれない誤謬,虚偽,ないし違法行為

(10)

職業会計士による保証機能の多層性(松本) (887)  317  の開示目的では,依拠することはできない。しかしながら,我々は注意を引くよ

うな重大な誤謬や,同じく注意を引くような詐欺ないし違法行為について,明ら かにそれらが瑣末なものでない限り,適切なレベルの経営者に情報提供する。我々 は当該財務書類の監査を実施するものではないし,その目的は全体としての財務 書類に関する意見を表明するものでもない。それゆえ,我々は財務書類に関する そのような意見を表明することはない。

我々の財務曹類に関する報告書は,現時点で以下のように読まれるよう期待す

我々は,

19XX

1 2

31H

現在の

XYZ

社の添付貸借対照表と,同日をもって終了す る年度の関連する損益計算書,剰余金計算書,キャッシュ・フロー計算書を,アメリ カ公認会計士協会発行の会計およびレピュー業務に関する甚準帯にしたがってレピュ ーした。本財務書類に含まれるすべての情報は,

XYZ

社の経営者の陳述である。

レピューは,主として,会社職員に対する質問と財務データに対する分析手続の適 用からなる。それは,その目的が全体としての財務書類に対する意見の表明にある一 般に認められた監査基準にしたがった監査よりも,かなり範囲が狭い。したがって,

我々はそのような意見を表明することはない。

本レピューを前提にして,一般に認められた会計基準に準拠するように,当該財務 書類に対してなされるべきいかなる重大な條正事項にも,我々は気付いていない。

何らかの理由で,貴社の財務書類のレビューを完遂できなかった場合,我々は本契約の 結果としての当該財務書類に関する報告書を発行しない。

2.我々はまた……(他の業務に関する議論)。

本業務に対する我々の報酬は,……。

我々はいつでも本文書について喜んで議論する用意がある。

もし上記事項が貴社の理解に準じておれば,、本文書写しの以下の空欄に署名のうえ,

我々に返送してください。

承 認

XYZ

社 長

日 付

敬 具

(会計士の署名)

(11)

318 (888) 

43

巻 第

4

11‑2‑2.業務報告書

経営者・株主・債権者,ならぴに他の財務諸表利用者が, CPAが財務諸 表に対して負っている責任の程度を容易に確認できるように,CPAが非公 開事業体の財務諸表を編纂するかあるいはレビューする場合には,常に当 該財務諸表に適用可能な基準にしたがって作成された報告書を発行すべき である。このような書面報告書は,財務諸表利用者にとって, CPAがその 責任を知らせる伝達手段と看倣し得る。ただし,たとえばコンピレーショ ンと監査のように, CPAが複数のサービスを履行している場合には,提供 されているサービスの最高度のレベルで適切な報告書を発行しなければな らない (AR§100.05)

以下では,コンピレーションとレビューのそれぞれについて,どのよう な要件を満たした報告書が望ましいか,を SSARSにしたがって紹介する ことにする。

(1)  コンピレーション

CPAは非公開事業体が提供する情報を立証したり,確証したり,レビュ ーする目的で,質問その他の手続を実施することは要求されない,という のが原則である。しかし,契約履行中に当該事業体の財務諸表で提供する 情報が誤っており,不完全で, CPAが財務諸表を編纂するためには不満足 であることに気付いた場合には,当然に追加的な情報や訂正された情報を CPAは入手しなければならない。そしてもし当該事業体が追加的情報や訂 正情報の提供を拒んだ場合には,CPAはコンピレーション契約を解除すべ

きである (AR§100.12)

そしてコンピレーション報告書には,少なくとも以下の記載が必要とさ れている (AR§§100.14100.17)

a.コンピレーションがAICPAの発行するSSARSにしたがって実施 された。

b.コンピレーションは,経営者(所有者)の主張としての財務情報の

(12)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

形で提供することに限られる。

(889)  319 

c.財務諸表は,監査もレビューもされておらず, したがって,会計士 はそれらに関して意見を表明するものではなく,他のいかなる形で の保証も表明するものではない。

このうえで,会計士の編纂した財務諸表の各頁には,「会計士のコンピレ ーション報告書参照」というように付しておく必要がある。

(2)  レピュー

レビューは,質問と分析手続の実施を通じて,一般に認められた会計基 準に準拠しているという陳述によって,財務諸表に対してはいかなる重大 な修正も存在しないという限定保証を表明するための合理的基礎を, CPA

自身に提供するだけの知識一~当該事業体が活動する産業の実務ならびに 会計原則に関する知識—について,その一定水準を CPA に要求する

(AR §100̲24)

そしてレビューした財務諸表には,少なくとも以下を述べた報告書が添 えられねばならない (AR§§100.32100.35)

a. AICPAの発行する SSARSに準拠してレビューを実施した。

b.財務諸表に含まれるすべての情報は,当該事業体の経営者(所有者)

の言明である。

c̲レビューは,主として事業体の職員に対する質問と財務データに適 用した分析手続からなる。

d.レビューは,その目的が全体としての財務諸表に関する意見の表明 である監査よりも,その範囲が相当に狭<,それがゆえにそのよう な意見は表明されない。

e.会計士は,一般に認められた会計基準に準拠するために,財務諸表 に対してなされなければならないようないかなる重大な修正にも気 付いていない。もしあったとしても,自らの報告書で指摘された修 正以外には存在しない。

(13)

320 (890)  43巻 第 4

このうえで,会計士がレビューした財務諸表の各頁には,「会計士のレビ ュー報告書参照」という参照文を付さねばならない。

AICPAはクライアントとの相互理解のためにエンゲージメント・レタ ーを標準化し,さらに情報利用者のために業務報告書の標準様式を定めて いる。ということは当該様式の前提となるそれぞれの業務に一定範囲での 共通性を認め,かつそれぞれの保証水準を同じにする意図があると考えら れる。これは提供される監査業務の内容を標準化することを志向したエン ゲージメント・レターと,監査意見による保証水準を一定の範囲内に保つ ことを意図した監査報告書の,それぞれの標準様式と同じ趣旨である。

I l l . 保証機能の多層性

既述のように, AICPAは自主規制基準として公表したSSARSのなか CPAが実施すべき会計関連業務について,レビューを限定(消極的)

保証業務,コンピレーションを非保証業務と定義し,その内容に関して利 害関係者の間で相互理解を図る方法まで規定していた。しかしここでの問 題は, AICPAの自主規制基準で意図したとおりに,レビューが消極的保証 を提供し,コンピレーションはいかなる保証も提供しない,という理解を,

そのまま当事者全員が受け入れているか否か,という点にある。そこでま ず,この問題について,いくつかの先行研究や論説を見ることによって,

コンピレーションを非保証業務と見るのが難しいことを明らかにしたい。

そ の 後 も しAICPAの意図せざる結果となっているのであれば,なぜその ような結果となるのかについて,その根拠を経済合理性の観点から分析5)

してみることにする。

5)

経済合理性の観点からの分析は,「簡易監査」が議論された当時から,当該監査導 入による社会的コストとペネフィットに基づく分析の必要性が指摘された(會田

[1985])

(14)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

皿 ー

1.当事者の認識

(891) 321 

CPAによる監査・レビュー・コンピレーションに関する代表的な理解は,

財務諸表の信頼性について,利用者が要求する保証水準は異なっており,

「財務諸表の信頼性に関する多様な保証水準に対するニーズを満足させる ために, CPAならぴに他の認可された公会計士は,コンピレーション・レ ビュー・監査という 3つの財務諸表関連サービスを提供する」 (Bailey= Pendergast [1992]  p.48;  [1994]  p.42)とするものである。そして,それ ぞれの保証水準について,会計士は実施した業務の範囲を前提にして,財 務諸表に重大な不実記載のないということに,どの程度の信念をもつかに 依存して,異なった保証レベルで業務を遂行できる,と解釈される。この 結果,これら

3

つのサービスの関係を,最高レベルの保証水準を監査が,

つぎにレビューが,そしてそれより低い水準をコンピレーションが提供す る,とする。

具体的に考察すると,たとえば,企業と殆どないしはまったく接触しな い株主は,商取引における大日債権者と同じように,財務諸表の信頼性に ついて高い保証水準を欲する。また連邦政府は,公的義務を果たさせる目 的で多額の補助金を与えている企業からの財務諸表や他の情報の信頼性に ついては,高い保証水準を要求する。他方,参加を考慮中であったり,お そらくは証券利息を収受しているような比較的少額の債権者は,保証水準 のヨリ低いレビューに依拠する傾向が大きいであろう。さらに事業に実際 に参加している所有経営者は,第三者による保証を殆どないしはまった<

必要とせず,コンピレーションに依拠することになろう (Bailey= Pender gast [1992]  p.48;  [1994]  p.42)。このような理解は,換言すると,レビュ ーは,監査よりも狭い範囲で重大な不実記載を抑止し,コンピレーション は レ ビ ュ ー よ り も 狭 い 範 囲 で 当 該 不 実 記 載 を 防 止 す る (Schneider

[1995]  ということに等しい。

また他のCPA自身による論説でも,以下のように理解されていた。すな わち,会計士がかつて無監査財務諸表に関与した際に遭遇した法的責任に

(15)

322 (892)  43 巻 第 4

比べて,コンピレーション墓準が,法的責任範囲を縮小するのには効果を 持たないということに,会計専門職業は気付かねばならない。そして,無 監査業務に関与した会計士の責任を争点とした,1136テナント社事件(1136 Tenants'Corporation v. Max Rothenberg Company)6)やネイトリ事件

(U.S. v. atelli) で生じたような疑わしい情況を調査する義務は,当然 に コ ン ピ レ ー シ ョ ン 業 務 に 随 伴 す る の で あ る (Solomon= Chazen =  Miller, Jr.  [1983]  pp.5758)。この背景には,たとえAICPAが自主規制 基準としてSSARSによって基準を明快に解説したとしても,争点となる ような複雑な事実関係に直面した法廷は,そのCPAによる業務遂行を評 価する場合, SSARSという業界基準ではなく,自らの墓準にしたがって評 価するという事実がある丸

さらに,レピューとコンピレーションの認識に関して, CPAに対して実 施されたアンケート調査では,「圧倒的多数の参加者〔CPA〕は,コンピレ ーションおよぴレビュー業務は外部の情報利用者の信頼性をおおいにまた は幾分促進すると感じている」9)(古賀 [1990] 13章)という結果が提示さ れ,先のSSARS#lの定義との矛盾を明らかにしている。つまり,自主規 制機関ないし業界団体であるAICPAが,コンピレーションを保証業務の 枠組みでは把えないとしても,当該業務を提供する当事者である CPA それを一種の保証業務と把えているのである。

一方,レビューやコンピレーションの利用者として想定される銀行業者

6)  1136 Tenants'Corporation v.  Max Rothenberg Company, 27 App. Div. 2d  830, 277 N.Y.S.2d 996 (1967), aff'd, 21 N.Y.2d 995, 290 N.Y.S.2d 919, 238 N.E.2d  322 (N.Y.Ct. App. 1968)

.本ケースの事実関係については,松本

[1991]

を参照さ れたい。

7)  U.S. v.  Natelli, 527 F 2d 311 (2d Cir. 1975). 

8) これは,監査人に対する多くの訴訟判決で,監査基準が訴訟上の抗弁とならなか ったのと同じである。

9)

本調査は,

Arnold= Diamond [1981]

の調査をさらに進めたものであり,同じよ

うに数年後の情況を調査したものに

Reed=Murray= Murray [1989]

がある。

(16)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

(893) 323  も,独立監査報告書が提供する保証のほうを,一般的にはレビュー報告書 の保証よりも高位に位置付け,さらにはコンピレーション報告書よりもレ ビュー報告書のほうを高位に位置付ける傾向にあった(Bartlett[1991] pp.  218219)

m ‑ 2 .

保証概念の経済学的分析一保証行為としての同質性10)

監査は誰が何に対して何を保証するか,と問われれば,監査人 (CPA) がクライアントの財務諸表に対して,その信頼性を保証するものである。

つまり保証の主体はCPAであり,保証の客体は財務諸表であり,保証の内 容は信頼性である。この主体と客体という点から判断すると,レビューも コンピレーションも同じ類の業務と看倣せる。その違いは,信頼性を提供 するために, CPAが業務遂行中に実施する手続範囲とその内容にある。し かしながら, AICPAはコンピレーションについては,その定義において

「いかなる保証も表明するものではない」 (AR§ 100. 04)としている。にも かかわらず,以下では,これら業務の保証業務としての同質性について,

経済合理性の観点から,CPAの提供する財務諸表に係わる業務がすべて一 種の保証業務であることを論証してみたい。

わが国の民法で保証というと,債務保証の契約が想起され,また広義に 解釈した場合でも身元保証が解説される。この民法上の債務保証契約に相

当する関係を図示したものが[図3]である。

しかしながら,一般的には,あるいは英米法においては,ヨリ広範な内 容を包括する概念として使用されており,保証は,「他者の疑いをなくし,

その確信や信頼を誘発するという意図をもってなされる誓約や言明」

(Black [1991] pp.8283)と定義されている。この定義からすれば,自ら

1 0 )保証業務としての 3つの業務の同質性は,ビッグ 6に所属するパートナーの名刺

に,従来であれば「監査

(Audit)

」部門パートナーとされていたものが,ここ数年

のうちに「ピジネス保証

(BusinessAssurance)

」部門パートナーという肩書きに変

更されていることも状況証拠として挙げられよう。

(17)

324 (894)  43巻 第 4

の職業専門的な行為の結果としての成果を公表し,かつそれに署名する行 為は,他者に対する「保証」という行為に該当する。その結果,自らの意 見・署名・証明といった職業専門家としての成果の公表を信じて損害を蒙 った他者に対して,当該公表が不実であった場合に,その担保責任を負う のは当然である。このような保証契約の関係を図示したものが[図4]

担保+利息

← 顕 在 的 弁 済 請 求

貸 付

主たる債権債務契約関係

3 民法上の保証による契約関係

潜在的補償請求

F/SCPA'sReport(保証)

利 息

顕在的弁済請求ー一

貸 付

4 保証業務による契約関係

(18)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

(895)  325  ある。

20世紀初頭のアメリカにおける信用目的の貸借対照表監査11)でも,企業 が個別に銀行に企業評価してもらうと,そのコストは貸出金利への上乗せ という形で企業自身が負担することになる。ゆえに,企業の借入金利は,

銀行側の貸借対照表の分析コストと銀行の融資業務による利潤を加えた額 に等しい。なお,この場合,情報分析の前提となる情報収集のコストは,

融資を申請する企業が貸借対照表を銀行に持参するため埋没原価である。

借入金利(厳密には借入金利合計の現在割引価値)=銀行の情報分析コス ト+銀行の利潤*

* 

ただし,銀行の融資業務に伴う利潤に関しては所与とし,以下の分析から除いてい る 。

銀行の情報分析コストは,貸借対照表監査という専門家による保証を導 入し,それに依拠することによって,引き下げ得ると考えられる12)ので,監 査(保証)コストを企業側が支払ってでも導入しようというインセンティ プは,

借入金利の監査(保証)による削減額>監査(保証)コスト

となり,貸借対照表監査が成立する素地ができる。つまり,貸借対照表監 査は,企業にとって有益となるのである。

11)

ここでの分析では,大規模な企業をクライアントとして想定する

SEC

監査ではな

<.貸借対照表監査を会計士による監査業務として採り挙げた。これは中小規模の 事業体をクライアントとして想定する他の

2

つの業務との分析上の整合性を図るた めである。なお,株式市場をも含めた分析は別稿に譲る。

12)

現に多くのベンチャー・キャピタルは,

CPA

(監査法人)の監査証明の添付され

た財務瞥類を融資依頼企業に要求している(エム・ヴィー・シー

[1997]

。 )

(19)

326 (896)  43 巻 第 4

一方,銀行自身が単独で企業評価をした場合,分析コストは金利に上乗 せして顧客から回収できたとしても,不実記載を見抜けずに銀行が損失(究 極的には倒産によって)を蒙る取引コストは,銀行自身がかぶらねばなら ない。通常は,当該損失に備えて担保を設定し,それによって補填するこ とを計画することになる13)。しかし,担保によるリスク転嫁が図れない場 合,銀行としては,貸出金利へのリスク相当の上乗せという手段を採る14)

さらに,その取引関係に債権債務契約の関係外にいる第三者を介入させ,

情報を保証させることによって,自らの誤評価による損失リスクをある程 度転嫁することができるのであれば15),銀行にとってヨリ合理的といえる。

そこでの銀行のインセンテイプは,

貸出金利=分析コスト+誤評価による不実記載看過(倒産)リスクX損害 額(潜在的倒産コスト)

のうちの誤評価による潜在的な損害の分散化にある16)。このことから,貸借 対照表監査は,銀行にとっても有益となる。

さらに,保証を担当する監査人は保証(監査)報酬を得ることと引き換

13)

三田工業経営者が銀行から融資を獲得するために粉飾決算を行ない,その後,実 質倒産に至ったために,担保を取っていなかった関係金融機関が融資分の損害を蒙

った事実は,この典型例といえる(日本経済新聞社

[1998a]

。 )

14)

間接金融市場への変化を指向する今後,金融機関による貸出条件へのリスクの適 切な反映が必要であることは,通産省

[1998]

でも指摘されている。

15)

もちろん実際に損失をカバーするためには,監査を実施した

CPA

に対して監査 の失敗(過失・詐欺)を訴因とした損害賠償請求が認められる必要がある。しかし 追加的コストがかかるという点では,競売手続等の追加的コストを必要とする担保 処分の場合でも同じである。

16)

このような潜在的損害リスクの分散化は,シンジケートを形成することによって

も可能となる。事実,これまで相対交渉で個別に金利や融資額を決めてきたわが国

金融機関でも,単独融資のリスクを負担しきれないと考え,最近シンジケート・ロ

ーンを導入し始めている(日本経済新聞社

[1998b]

。 )

(20)

職業会計士による保証機能の多層性(松本)

(897)  327  えに,財務諸表ならぴにそれを包摂するディスクロージャーの真実性を担 保し,銀行が蒙るかもしれない潜在的な損害額を負担していることにな 17)。この場合に,監査人である

CPA

の側にモラル・ハザードが生じ得る。

具体的にいうと,クライアントが

CPA

に対して監査レベルの保証を委託 し,監査業務相当の報酬を支払う契約をした場合に,

CPA

が自らの実施す る手続を縮小し,異常な超過利得を収受するという可能性である。しかし ながら,その可能性については,次のようなプロセスで否定されよう。つ まり,

CPA

がもし必要十分な監査手続を実施しないまま監査レベルの保証 を提供した場合で,後に監査報告書とその対象である財務諸表の不実が判 明すれば,それは監査の失敗に結びつき,

CPA

は損害賠償責任を負わされ 得る。当該賠償責任は,従前に受け取った監査報酬相当分か,ないしはそ れ以上を没収するものであるため,

CPA

は監査の失敗の可能性を高くする ような不合理な監査手続の省略を避けるようとするインセンテイプを持 つ。要するに,

CPA

側の業務投入量というインプットヘの監視は,究極的 には法廷を通した制裁という形で達成され,そこに至ることを防ぐために

CPA

業界内でのピア・レピューや

SEC

による執行活動が必要となるので

ある。

以上のように,企業情報に関して情報優位にある経営者と,企業情報を 評価して信用供与を決定する金融機関との間の契約集合に,保証を担当す る職業会計士の参加を正当化するためには,保証業務に対する報酬とこの 参加によって発生する期待損失の合計が,会計士の報告書から得られる期 待便益よりも小さい, といずれの当事者も確信する必要があるということ になる。具体的には,企業経営者対金融機関経営者という 11の契約関 係に,第三者としての職業会計士を加えることによって,当初の

1

1

ときに収受できる便益よりも,あるいはいずれかの2当事者が結託するこ とによって得られる便益よりも,各々にとってヨリ良い期待便益が約束さ

17)

同じような発想は,

Wallace[1985]  Chap.5 

・千代田他訳

[1991] 5

章にある。

参照

関連したドキュメント

度の﹁士地勘 L

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延

(Ⅰ) 主催者と参加者がいる場所が明確に分かれている場合(例

むしろ会社経営に密接

(※1)当該業務の内容を熟知した職員のうち当該業務の責任者としてあらかじめ指定した者をいうものであ り、当該職員の責務等については省令第 97

告—欧米豪の法制度と対比においてー』 , 知的財産の適切な保護に関する調査研究 ,2008,II-1 頁による。.. え ,

  NACCS を利用している事業者が 49%、 netNACCS と併用している事業者が 35%おり、 NACCS の利用者は 84%に達している。netNACCS の利用者は netNACCS