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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1. 研究の背景

いわゆる改革開放以後の中国における経済発展は、諸々の変動や体制転換を生じさせなが らも近年にいたるまで継続している。このような経済発展に大きな貢献を果たしてきたのが、

第二次産業の鉱工業部門であった。それでは、左記の工業部門の担い手は、どのような存在 であり、いかなる体制や資本によっていたのか。現在、中国共産党は、社会主義市場経済体 制では「公有経済」を主体とするという見解を示しているが、「公有経済」も「非公有経済」

も併存する中国において、両者のどちらが優勢なのか、どちらにより重点をもって進むのか、

判然としない状況にある。

本学位論文は、このような中国経済の展開の下、21 世紀初めから2010 年前後までの鉱 工業部門の中国企業の現状について考察する。その分析対象は、鉱工業部門に関する国有企 業の地位、国有企業の所有と支配、国有企業の利潤配分、国有企業の生産性や資本効率が含 まれる。すなわち、社会主義市場経済体制と称される現代中国において、鉱工業部門の経済 構造はいかなる実態であるかという課題について、一次資料の分析と先行研究文献の精査に 基づいて、解明しようとすることが本学位論文の課題である。

2. 本論文の構成

本論文は、7章立て(序章、1-5章、終章、本文268頁)で構成されている。目次は以下 の通りである(小節は省略する)。

序章

第1章 中国の社会主義市場経済についての諸見解の検討 はじめに

第1節 社会主義市場経済についての呉敬璉の見解 第2節 社会主義市場経済についての中兼和津次の見解 おわりに

第2章 国有企業の地位の再評価―鉱工業部門に関する考察―

はじめに

第1節 国有企業と非国有企業との区分と先行研究の事例 第2節 企業の区分―筆者の考察における区分―

第3節 国有企業の実態 おわりに

第3章 国有企業の企業統治―所有者・経営者・労働者に関する考察―

はじめに

第1節 川井伸一(2003)『中国上場企業―内部者支配のガバナンス―』の大株主支配と 内部者支配の「重合」の検討

(2)

第2節 所有・支配・経営の関係についての考察

第3節 株主・経営者・従業員の関係、性格についての考察 おわりに

第4章 国有企業の利潤分配に関する考察 はじめに

第1節 川井による利潤分配の検討 第2節 株式上場企業の利潤分配の状況 おわりに

第5章 国有企業の労働生産性と資本の効率に関する考察 はじめに

第1節 中国の鉱工業企業の生産性に係わる先行研究 第2節 生産性・利潤に係わる一般的な現象、法則

第3節 株式上場企業(国有、実質私営)の労働生産性・資本効率の特徴 おわりに

終章 参考文献

3. 本論文の概要

序章では、21世紀初め以降の10年間の中国において、市場経済化や国有企業の民営化を めぐる「新制度派」と「新左派」による論争と主たる争点の概要を示した上で、中国政府並 びに中国共産党が称する社会主義市場経済体制の現状を分析する意義の重要性を明らかに した。そして、両派には、所有制の改革、資源配分・生産方式、格差拡大の原因、経済政策 において相違が確認された一方で、国有企業の生産の発展に関する評価と見解は共通してお り、国有企業の実態を精査することにより、現代中国の経済構造の研究がいっそう深化する ことを示した。

第1章では、現代中国における経済体制の争点、公有制と私有制、計画経済と市場経済に ついて、同時代の主要な研究者である呉敬璉と中兼和津次の見解を再検討しながら、整理し た上で、国有企業の評価や計画経済から市場制度への移行に関する問題点を明らかにした。

第2章では、『中国統計年鑑』に基づいて、国有企業の鉱工業部門の実態について考察し た。本論文では、組織形態別の区分と所有別の区分を整理し、先行研究の分類を再検討した 上で、後者の区分に即して「国有企業(国家の所有が 100%)」と「国有控股企業(中国名、

国家が筆頭所有の企業、すなわち、国有株支配企業)」を国有部門として区分した。そして、

同区分による国有部門と非国有部門の鉱工業企業の分析から、鉱工業を主導する企業は、国 有および国有株支配企業であることが明らかとなった。なお、第 2 章の主要部分は、査読 付き論文として、『経営と制度』11号、2013年に掲載されただけでなく、査読審査を経て、

進化経済学会第18回金沢大会(2014年)にて学会報告が行われた。

(3)

第 3 章では、国有株式会社の企業統治、すなわち国有企業の所有・支配・経営の関係、

所有者(株主、出資者)、経営者、労働者(従業員)の関係について、先行研究の再検討を ふまえて、中国の株式上場企業のなかの国有株式会社と同じく株式上場企業の実質私営株 式会社(私人の株主が支配する会社)を比較検討しながら、考察した。その結果、国有株 式会社では、資本の所有者=株主=国と資本を所有しない経営者=企業の高級幹部との関 係という点で、所有と経営は分離されている一方で、所有と支配は分離されておらず、内 部者(経営者・従業員)による支配がなされていないこと、また、従業員が生産する剰余 価値=利潤は、その額の多少はあっても国有株式会社から株主(国有株式会社の親会社で ある国有株支配企業)へ配当され、さらにその親会社の所有者である政府はその親会社へ 利益配当を求めているという事象を確認し、同事象は実質私営株式会社や資本主義経済の 一般的な株式会社企業における株主・経営者・労働者の関係と類似していることについて、

示した。そして、上場企業である国有株式会社の所有・支配・経営の関係には、所有と経 営の分離は存在するが所有と支配の分離は存在せず、中国の実質私営株式会社や資本主義 経済圏の一般的な株式会社と大きな違いはなく、国有株式会社の株主・経営者・従業員の 関係や性格でも、実質私営株式会社や資本主義経済の一般的な株式会社企業の株主・経営 者・労働者の関係が成立している、という実態が明らかとなった。なお、第 3 章の主要部 分については、査読付き論文として、『マルクス・エンゲルス・マルクス主義研究』56・57 号、2015年に掲載された。

第4章では、2000年代後半から2010年代初までの時期の株式上場企業の国有株式会社 の利潤分配を取り上げて、実質私営株式会社の利潤分配との相違が存在するか否かについて 考察した。中国の国有と私営の鉱工業の株式会社13社に関する比較分析や中国の国有企業 と日本の高度成長期の同業種の上場企業との比較分析の結果、国有株式会社の利潤分配には、

実質私営株式会社の利潤分配との違いは見出せず、中国の国有株式会社の利潤分配に対して 資本主義経済における利潤分配との差異を見出すのは困難なことが明らかになった。

第 5章では、第4章と同時期の株式上場企業の労働生産性と資本の効率について考察し た。第 4 章にて考察した株式会社を対象に、労働生産性と資本の効率(または利潤率)に 関する国有株式会社と実質私営株式会社との比較分析や、日本の高度成長期の同業種の個 別企業との比較分析を通じて、考察対象の企業の多くでは、変化の要因の基礎には資本の 有機的構成の高度化が存在し、それに伴って売上高利益率やROA(総資産利益率)が低下 する傾向が見られたこと、他方で、一部の売上高利益率やROAが低下しない、または低下 の程度が小さい企業では、労働生産性の上昇が見られたことが、確認された。さらに、こ の事例研究では、国有株式会社と実質私営株式会社との間で、労働生産性、資本の効率、

資本の有機的構成の高度化など基本的な諸指標に関して大きな違いは確認されなかった。

また、社会主義市場経済の主体である公有制経済のなかの国有株式会社と、実質私営株式 会社ともに労働生産性、資本の効率、資本の有機的構成の高度化などの諸指標には、『資本 論』に記されている資本主義経済の特徴が表れていることが明らかとなった。

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終章では、これまでの考察をまとめた上で、国有企業(広義の国有企業、国有及び国有 株支配企業)は、資本主義的生産方法によって顕著に発展し、中国の経済を主導しているだ けでなく、国有株式会社は実質私営株式会社や資本主義(日本の高度成長期)の株式会社と 同様の様相を現わしていることという帰結を確認した上で、今後の課題について述べている。

【論文審査結果の要旨】

1. 審査結果

本論文は、現代中国の経済構造、特に鉱工業部門の国有企業を考察することによって、

21世紀初めの社会主義市場経済の現状を明らかにした。本論文の学術上の貢献は、一次資 料の分析や先行研究文献の精査に基づいて、21世紀初頭から 2010 年前後までの国有企業 の実態を明らかにした点である。第一に、国有企業に関する統計の区分、統治、利潤分配、

労働生産性、資本の効率についての分析は、既存の研究の想定や主張、国有企業は生産力 の発展に対して十分な対応していない、という説明に対して説得的な批判を展開し、鉱工 業部門の国有企業と非国有企業の類似性を明らかにした。第二に、本論文では、中国企業 の所有・支配・経営の関係について、参照先の原典や一次資料にさかのぼり先行研究を再 検討しながら、一次資料の分析を加えて、上場企業である国有株式会社には、所有と経営 の分離は存在するが所有と支配の分離は存在せず、一般的な株式会社企業と大きな相違が ないことについて、具体的な企業の所有や支配の制度の提示も含めて明らかにしたことは、

研究史上の大きな貢献である。

しかしながら、本論文に対していくつかの課題を指摘せざるを得ない。第一に、中国経 済学界の整理として、本論文は、新左派と新制度派を区分して後者の研究を重点的に再検 討しているが、前者の研究史上の位置づけについてより明快に行う必要がある。第二に、

上部構造の分析を行わない本論文の制約があるとはいえ、本論文が明らかにした21世紀初 頭の中国企業の構造と中国における社会主義市場経済のシステムの結びつきに関する考察 が望まれる。第三に、特に4章や 5章で展開した中国企業の生産性や資本の効率に関する 分析をふまえて、より精緻な剰余価値や特別剰余価値に関する考察が求められるが、その 理論的考察は十分成されていない。しかしながら、これらは本論文の貢献度に比べれば些 細なものであり、その価値を損なうものではない。

2. 合否判定

本審査委員会は,学位申請者である村上裕に対して,平成28年2月4日に本論文について 公開審査を実施した。その結果、申請者が博士学位を取得するにふさわしい学識を有してい ることが確認できた。よって、本審査委員会は申請者村上裕に対して、首都大学東京博士(経 済学)の学位を授与することが適当であると判定する。

以上

参照

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