氏 名 生原 雅貴 学 位 の 種 類 博士(工学)
学 位 記 番 号 都市環境博 第
132
号 学位授与の日付 平成26
年9
月30
日 課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 名
Studies on oxygen reduction reaction in ionic liquids(イオン液体中
の酸素還元反応に関する研究)論 文 審 査 委 員 主査 教 授 金村 聖志 委員 教 授 川上 浩良 委員 准教授 梶原 浩一
【論文の内容の要旨】
火力発電時に排出される
CO
2などの温出効果ガスにより地球温暖化問題が深刻になって いる。この問題の解決のためクリーンなエネルギーシステムの一つとして燃料電池に注目 が集まっている。特に電解質に固体高分子材料を用いた固体高分子形燃料電池は室温から80
˚C 付近での作動が可能であり、小型電子機器から家庭用まで幅広く応用ができる。今 後、自動車や他の大型機器への応用のために中温(約150
˚C)無加湿の環境下で使用できる 材料の一つとしてイオン液体が期待されている。イオン液体はアニオンとカチオンで構成 される室温付近で液体の塩であり、高イオン伝導性、不燃性、液体でありながら蒸気圧が ほぼ無いといった優れた特性を有する。しかし、水系電解質と比較して、酸素還元反応(ORR) の進行が遅く、過電圧が高いことが問題である。そのため、過電圧が低く、ORRの進行が 早いイオン液体の探索が求められる。我々はこれまでの研究でイオン液体の構造と酸素還 元反応の関係について注目し、N,N-ジエチルメチルアミン[dema] カチオン源と、ビス(フ ルオロスルホニル)イミド [FSI]、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド [TFSI]、ト リフルオロメタンスルホン酸 [TfO] の1
種類のカチオン源と3
種類のアニオン源から[dema][FSI]、[dema][TFSI]、[dema][TfO]の 3
種類のイオン液体を合成し、一般的な燃料 電池用触媒である白金を電極とした、白金電極-イオン液体電解質界面の挙動を赤外分光法( insitu-FT-IR )により解析を行った。その結果、イオン液体中のアニオンの白金表面での吸
脱着挙動がORR
活性に大きく影響することを見出した。特にフルオロアルキル鎖の有無が 白金に対する吸脱着挙動に影響していることがわかった。この結果から、白金電極への吸 着能が低い、あるいは電位を印加することで白金表面から容易に脱離するアニオンを含む イオン液体がORR
に適していると考えられる。そこで本研究ではフルオロアルキル鎖長に着目し、フルオロアルキル鎖長が酸素還元反 応に及ぼす影響について調べた。まず、フルオロアルキル鎖長の異なる
5
種のアニオン源、[TfO]、 ペンタフルオロエタンスルホン酸[PfO]、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸 [HfO]、[TFSI]、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[BETI]と、カチオン源であ
る[dema]を中和させて、5 種類のイオン液体[dema][TfO]、[dema][PfO]、[dema][HfO]、[dema][TFSI]、 [dema][BETI]を得た。すべてのイオン液体の熱分解温度は 300˚C
以上であ り、150 ˚Cの中温域での重量減少は2 %以下であった。また、粘度、イオン導電性を測定
した結果、[dema][TfO]がこれらのイオン液体の中で最も粘度が低く、イオン導電性が高か った。粘度は温度が増加するにつれて減少し、130 ˚Cでの5
種類のイオン液体の粘度の差 は小さかった。120 ˚C における[dema][TfO]のイオン伝導性は52 mS cm
-1であった。さ らに、酸素雰囲気下での5
種類のイオン液体中で白金電極のサイクッリクボルタメトリ-測定を行った結果、アニオンにイミド基をもつ[dema][TFSI]と[dema][BETI]の酸素還元電 位が他の
3
種類のスルホ基をもつものより卑であった。このことから、イミド基よりもス ルホ基をもつアニオンの方が、ORRに適していると考えられる。そのため、スルホ基を有 する3
種類のイオン液体に絞り、温度を変化させた時、フルオロアルキル鎖長の長さがORR
にどのように影響するのかを回転電極を用いたリニアスイープボルタメトリ-とハイドロ ダイナミッククロノクーロメトリー測定により詳細に調べた。3 種のイオン液体の30
˚C から120
˚Cまでの温度における酸素の溶解度と拡散係数を算出した結果、酸素の溶解度は フルオロアルキル鎖長が長くなるほど大きくなり120
˚C では[dema][HfO]中が最大で10.5 mmol cm
-3となった。また、酸素の拡散係数は逆にフルオロアルキル鎖長が長くなるほど小さくなり
120
˚Cでは[dema][TfO]中が最大で55.4×10
-6cm
2s
-1となった。これらの 結果を踏まえて、中温付近でのさらに詳細なORR
を調べるためにチャンネルフロー2重電 極を作製し、測定を行った。その結果、120 ˚Cにおける拡散に依存しない活性化支配電流( I
k)は[dema][PfO]中が最も高い値になった。また検出電極では、酸素の 2
電子還元によ り生成した過酸化水素の酸化反応は[dema][TfO]中の酸素の2
電子反応と4
電子反応を合わ せた全反応の2 %程度であり、 [dema][PfO]、 [dema][HfO]中では 1 %未満であった。また、
このチャンネルフロー2重電極を用いて、白金以外のニッケル、金についても
ORR
を調査 した。その結果、ニッケルは1.1 V
付近から酸化反応が起こり、ORR活性も低かった。金 は副反応も観察されず白金には劣るもののORR
活性を示した。【学位論文審査の要旨】
火力発電時に排出される二酸化炭素により地球温暖化問題が深刻になっている。この問 題の解決のためクリーンなエネルギーシステムの一つとして燃料電池に注目が集まってい る。特に電解質に固体高分子材料を用いた固体高分子形燃料電池は室温から
80 °C
付近で の作動が可能であり、小型電子機器の電源から家庭用の電源まで幅広く応用されている。今後の自動車用電源を含む大型燃料電池の応用を拡充するために、中温(約
150 ˚C)無加湿で
の作動が求められている。このような環境下で使用できる電解質材料の一つとしてイオン 液体が期待されている。イオン液体はアニオンとカチオンで構成され室温付近でイオン解 離している液体であり、高いイオン伝導性、不燃性、液体でありながら蒸気圧がほぼ無い といった優れた特性を有する。しかし、水系電解質と比較して、酸素還元反応(ORR)の進行 が遅く、過電圧が大きいことが問題となっている。そのため、過電圧が小さく、ORRの進 行が早いイオン液体の探索が求められる。これまでの研究報告からN,N-ジエチルメチルア
ミン[dema]と、ビス(フルオロスルホニル)イミド [FSI]やビス(トリフルオロメタンスルホ ニル)イミド [TFSI]やトリフルオロメタンスルホン酸 [TfO]を組み合わせ3
種類のイオン 液体、[dema][FSI]、[dema][TFSI]、[dema][TfO]を合成し、燃料電池用触媒である白金を 電極として用い、白金電極-イオン液体電解質界面の挙動を解析してきた。これらの先行研 究の結果から、イオン液体中のアニオンの白金表面での吸脱着挙動がORR
活性に大きく影 響することが見出された。特にフルオロアルキル鎖の有無が白金に対する吸脱着挙動に影 響していることが示された。したがって、白金電極への吸着能が低いアニオンを使用した イオン液体、あるいは電位を印加することで白金表面から容易に脱離するアニオンを含む イオン液体がORR
に適していると考えられた。そこで本研究ではフルオロアルキル鎖長に着目し、フルオロアルキル鎖長が酸素還元反 応に及ぼす影響について種々の電気化学的な手法などを用いて調査し、得られた結果を基 にして酸素還元反応に有利なイオン液体の設計指針について議論している。
フルオロアルキル鎖長の異なる
5
種のアニオン源、[TfO]、 ペンタフルオロエタンスルホ ン酸[PfO]、ヘプタフルオロプロパンスルホン酸[HfO]、[TFSI]、ビス(ペンタフルオロエタ ンスルホニル)イミド[BETI]と、カチオン源である[dema]を中和し、5 種類のイオン液体[dema][TfO]、 [dema][PfO]、 [dema][HfO]、 [dema][TFSI]、 [dema][BETI]を合成している。
これらのイオン液体を用いて以下のことを明らかにしている。
すべてのイオン液体の熱分解温度は
300 ˚C
以上であり、150 ˚C
の中温域での重量減少は2 %以下であった。粘度およびイオン伝導性を測定した結果、[dema][TfO]がこれらのイオ
ン液体の中で最も粘度が低く、イオン伝導性が高かった。粘度は温度が増加するにつれて 減少し、130 ˚C での5
種類のイオン液体の粘度の差は小さかった。120 ˚C における[dema][TfO]のイオン伝導性は 52 mS cm
-1であった。さらに、白金電極を使用し、酸素雰 囲気下において5
種類のイオン液体を用いてサイクリックボルタンメトリ-測定を行った結果、アニオンにイミド基をもつ[dema][TFSI]と[dema][BETI]イオン液体中での酸素還元 電位が他の
3
種類のスルホ基を有するイオン液体よりもより卑な値となった。このことか ら、イミド基よりもスルホ基をもつアニオンの方が、ORRに適していると考えられる。そ のため、スルホ基を有する3
種類のイオン液体に絞り、温度を変化させた際にフルオロア ルキル鎖長の長さがORR
にどのように影響するのかを回転電極を用いたリニアスイープボ ルタンメトリ-とハイドロダイナミッククロノクーロメトリー測定により詳細に調べた。3 種のイオン液体中の30 ˚C
から120 ˚C
までの温度範囲における酸素の溶解度と拡散係数を 算出した結果、酸素の溶解度はフルオロアルキル鎖長が長くなるほど大きくなり120 ˚C
で は[dema][HfO]中での溶解度は10.5 mmol cm
-3となった。一方、酸素の拡散係数は逆にフ ルオロアルキル鎖長が長くなるほど小さくなり120 ˚C
では[dema][TfO]中での拡散係数が 最大となり、55.4×10-6cm
2s
-1となった。これらの結果に加えて、120 ˚でのORR
をより詳 細に調べるためにチャンネルフロー二重電極を作製し、ORR
反応の中間体の検出を行った。その結果、
120 ˚C
における拡散に依存しない活性化支配電流は[dema][PfO]中が最も高い値 になった。また検出電極では、酸素の2
電子還元により生成した過酸化水素の酸化反応は[dema][TfO]中の酸素の 2
電子反応と4
電子反応を合わせた全反応の2 %程度であり、
[dema][PfO]、[dema][HfO]中では 1 %未満であった。
これらの結果から、中温域ではフルオロアルキル鎖長の長さが長くなると活性化支配電 流が上昇し、拡散限界電流は減少することがわかった。これらの結果を基にして、本論文 では