スギ生葉に生息する、PestαZotioPsis糸状菌の培養特性
篠山浩文*
はじめに
春をむかえると、スギ花粉情報がメディアで頻繁に取り上げられ、日本の至る所でスギが 植林されていることを改めて知らされる。スギは古来より日本人に親しまれてきた樹種であ り、利用性の広さ、生長の速さなどの利点から各地で植林されてきた。しかしながら、政府 による林業政策の転換が主要因となり、間伐・枝打ちなどの手入れがなされないまま放置さ れたスギ林が多く存在する。また、製材所等で産出する背板など、以前は燃料等に利用され てきたスギ資源も有効活用されないまま放置されている(図1)。この「スギ問題」の現状
欝㌘㌔㌫㌫こミ\㌧.、㍍、
「木の文化」を考えていくことは 不可避であるといっても過言では ないように思われる。以上の背景 から、著者らは各地のスギ林業地 を調査、技術開発の立場からスギ 問題解決の糸口を模索し、これま でに「カビ酵素を利用した木材成 分からの配糖体(有用物質)合成 法」「スギ林内に生息するきのこ
(スギエダタケ・s励1…パ
okshi7nae)によるスギ資源の利 図1製材所で放置されているスギ背板 用法」に関する調査結果を報告した1)〜15)。
一方、偶然にも、上記検討過程でペスタロチオプシス(PestalotioPsis)と呼ばれる糸状菌
(カビ)群が各地の健全なスギ生葉から高頻度で分離されることを発見した。生葉に生息す る微生物の大部分は、これまで、たまたま空気中に漂っているものが付着した程度に捉えら れ、微生物利用を目的とした研究対象にならなかった菌群である16)。しかしながら、著者が 出会ったPestalotioPsis糸状菌群は、健全な生葉から分離されたにもかかわらず、生育が速 く、我々人間のペースに合わせてくれる特徴を有していた。さらに、本菌群の生態・培養特 202 性を詳細に調査した結果、以下の知見を得るに至った。
(19)
* 一般教育(自然分野) 教授 農藝論
明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第17号2009年
12QO 456
7
各地のスギ生葉にPestαlotioPsis糸状菌が生息する
PestalotioPsls糸状菌は醸造菌として知られる黒コウジカビとほぼ同等な生育を示す Pestalot oPsis糸状菌は各種炭素源を利用し、特に多糖類を資化したときは多糖類分解 酵素を生産する
PestalotloPS{S糸状菌はスギ生葉破砕抽出物に対する耐性および利用性を有する 1)estalotioPsis糸状菌はスギおがくず培地で生育しキシラン分解酵素を生産する Pestalot{oPsis糸状菌が生産するキシラン分解酵素群はフェノール類に対する配糖化能
を有し、有用物質の合成に応用できる
PestalotioPsis糸状菌は牛排泄物(牛スラリー)臭を軽減する
本稿は、千葉大学小林義弘氏、津浦正史氏、小林菜穂子氏、伊波暁子氏;畜産・草地研究 所斉藤雅典氏;(株)千葉林材井上五男氏との共同研究により得た上記知見を編集したもの
である。
1 各地のスギ生葉にPestαlotioρsis糸状菌が生息する
日本各地(北海道大学槍山演習林、秋田県阿仁町、岩手県雫石町、新潟県長岡市、群馬県 沼田市、茨城県高萩市、茨城県美里村、千葉県鴨川市、千葉県山武町、千葉県八街市、千葉 県松戸市、千葉県千葉市、埼玉県狭山市、東京都青梅市、長野県栄村、京都市右京区、熊本 県松島町、熊本県三角町、熊本県甲佐町、沖縄県琉球大学演習林)からスギ生葉を採取し、
特に表面殺菌などの処理をせずに馬鈴薯寒天(PDA)平板培地に置床後、25℃にて2〜3日 間培養したところ、図2のように 優占的に生育する糸状菌群が観察 された。本糸状菌群が形成する胞
〆F
t
/
ノ
考・
き 蒙らら
▼︳ t
/\ノ
n
ゾ
r
い三〜 :−
Sgメ1了、、
》・1
∵ξ
叢、疇
≡㌔z r
、 一唱挿}、t ...ミ
宍、夢 ,]
・…亭 t ピ㌧
.k− e
図2PDA培地にスギ生案を置床したときに生育が認められる糸 状菌群
子の形態観察(図3)、菌糸から 抽出したリボソームDNA Inter−
nal transcribed spacer(ITS)領 域塩基配列による解析結果などか ら、採取した全てのスギ生葉に PestatotioPsis糸状菌が生息する ことが明らかとなった。表現を変 えれば、地域を問わず、スギ生葉 を採取してPDA平板培地に置床 すれば、簡単にPestαlotioPsis糸 状菌を得ることができるのである。
21)estalotioPsis糸状菌は醸造菌として知られる黒コウジカビとほぼ同等な生育を示す 1で得られたPestα10tioPsis糸状菌群を用い、その栄養菌糸の生育を醸造菌として知られ201
(20)
る黒コウジカビ(AsPergUlzzS ltiger)およびスギ林内でスギ枝 から発生するスギエダタケ(Stro−
bilurus ohshimae) と比較した。
なお、供試したPestalotioPsis糸 状菌群は、以下の試験においてほ ぼ同等な結果を示したため、本稿 では、特に断らない限りPestaio−
tioPsis糸状菌群のうち、千葉県八
街市のスギ生葉より分離した YK−3株の結果をPestαiotioPsis 糸状菌の代表的な結果として記述 することとした。
まず、PDA平板培地における
覧☆
ぺ
F〆 ㌧
σy︑
一
〔 シ
ニ
,
C\︑ 竃 ︵i
璽
flこ㌧
/∠)
㍉≒へ〆 ・ 志tb/ ・
図3 PestαlotioPsis糸状菌の胞子
栄養菌糸の伸長速度を3菌株それぞれのコロニー直径を経時的に調べることにより測定した。
AsPergillus?nlger RE Strobilurus ohshimaeと比較して、 PestalotioPsis糸状菌の伸長が最も速 かった(図4(A))。さらにグルコースを炭素源とした液体培地における生育量を経時的に 測定したところ、.PestalotioPsis糸状菌は4日から6日で生育がほぼ最大に達し、 AsPergil−
lus nigerとほぼ同等な生育を示した(図4(B))。
(A)PDA medium (B)Glucose liquid medium
ハリ コ クふ
⌒E∈︶﹂Φ一Φ∈m一p Auo100
0
Cultivation time(days)
図4 Time courses of mycelial gro ths of the fungi
10 12 14
(aur oN/B︶毒Φ∋﹀も躍︒﹀Σ
2 1 1 0 o o o o o
3 PestaletioPsis糸状菌は各種炭素源を利用し、特に多糖類を資化したときは多糖類分解 酵素を生産する
単糖類、二糖類、糖アルコールを炭素源としたときのPestalotioPsis糸状菌の生育を検討 した(図5)。本菌は供試した単糖類、二糖類、糖アルコール全てに対し利用性を示し、特 に、アラビノース、マルトース、ソルビトールで生育が良好だった。
次に多糖類(デンプン、セルロース、キシラン)を炭素源としたときの生育を検討したと 200ころ、3種の多糖類に対して良好な生育を示した。さらに、それぞれの培養液を回収し、ア (21)
明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第17号2009年
0.4窪書
、o・3
ご
工.⊆P
Φ≧O.2
三
・9,.1
Φ9
Σ
O
ABCDEFGHIJKLMNCPCR
Carbon source
図5 Mycelial groWths of Pestalotioρsis sp. in liquid medium con−
taining various carbon sources.
Legend:a:none, b:arabinose, c:xylose, d:fructose, c:galac・
tose, f:glucose,9:mannose h:cellobiose, i:lactose, j:maltose,
k:sucrose l:trehalose, m:arabitol, n:xylitol, o:mannitol, p:
sorbitol, q:glycero1, r:methylβ・glucoside.
ミラーゼ、セルラーゼ、キシラナ
ーゼ活性を測定したところ、アミ ラーtf O.03 U/ml、セルラーゼ 0.24U/ml、キシラナーゼ0.98 U/
mlであった。
一方、生育に及ぼす培地の初発 pHの影響をグルコースを炭素源 とした液体培地を用いて検討した ところ、pH 3〜11で生育が認め られ、特にpH 4〜10といった広 領域で最大の生育を示した。
41)estαlotioρsis糸状菌はスギ生葉破砕抽出物に対する耐性および利用性を有する
99
⑫
iIく
PestalotioPsis糸状菌は、スギ生葉に生息していることから、スギ生葉に含まれる成分に 対する耐性や利用性の高さなど他の菌類に比べて特異な機能を有していることが予想される。
そこで、PestalotioPsis糸状菌の生育に及ぼすスギ生葉抽出成分の影響について、 AsPergil一 litS llige7 と比較検討した。まず、0.2%のスギ生葉破砕抽出物あるいはスギ生葉メタノール 抽出物を含むPDA寒天平板培地に上記2種を植菌し、その栄養菌糸の伸長速度を比較した
._.1 00 (図6)。その結果、 PestalotioPsis
邑 糸状菌はスギ生葉破砕抽出物の影
o o o パリ コ 96 le1leoK∈Φ≧;eleu
o
t〆
Pestalotiopsis Aspergillus
図6 Myce[ial growths of Pestαlotiof)sissp, YI{−3 and A sl}ergit!εts ?liger on eacll potato dextrose agar medium containing sugi ぴヨロバてぼ
Lcgend:■:without sugi extractives,%:with water sol・
ub!e extractlves,[コ:syith methanol soluble extractives.
に対し、、4sPergillus痂gεγはその 影響が大きかった。また、スギ生 葉メタノール抽出物については、
両菌株ともにその影響を受けたが、
PestαlotioPsis糸状菌の力がその 影響が小さかった。
次に、PestalotioPsis糸状菌の スギ生葉抽出成分に対する利用性 について検討した。すなわち、ス ギ生葉抽出成分を1.0%含む液体 培地におけるPestalotioρsis糸状 菌の生育量を1.0%グルコースを
唯一の炭素源とする培地における生育量を100%として比較検討した。図表では示さないが、
スギ生葉破砕抽出物を唯一の炭素源とした培地では、生育量は35%程度にとどまったが、
スギ生葉メタノール抽出物を唯一の炭素源とした培地では、80%程度の生育を示した。一 方、スギ生葉抽出成分と10%グルコースを共存させた培地においては、グルコースを唯一 の炭素源とした培地よりもその生育量は120〜140%に増加した。
5PestαlotioPsis糸状菌はスギおがくず培地で生育しキシラン分解酵素を生産する
スギ資源の有効利用へ発展させるために、スギ生葉、スギおがくずを炭素源としたときの 本菌の生育とキシラナーゼの生産性を液体培養、固体培養両者において検討した。
5−1液体培養
凍結乾燥したスギ生葉、スギ生葉破砕抽出物回収後の残さを凍結乾燥したもの(生葉残 さ)、スギおがくず、キシランをそれぞれ2%含む液体培地における生育を比較したところ、
全てにおいて生育が認められ、特にスギ生葉培地において良好な生育が認められた。また、
それぞれの培養液中のキシラナーゼ活性は、キシラン培地で0.9 U/mlであったのに対し、
凍結乾燥スギ生葉で1.0 U/ml、生葉残さで0.9 U/ml、スギおがくずで0.2 U/mlとなり、ス ギ生葉培地においてキシラン培地と同等なキシラナーゼ生産性が示された。
5−2 固体培養
生葉残さまたはスギおがくずと米ぬかを5:1(v/v)で調製した固体培地に植菌し、25℃、
10日間培養したところ、両培地において、良好な生育、すなわち、培地全体に菌糸の蔓延 が認められた。なお、図7にスギおがくずにおける生育を示した。さらに、培養物に蒸留水 20mlを添加し、ガーゼを用いて圧搾濾過することにより得られた濾液中のキシラナーゼ活 性を測定したところ、両培地で、
10〜15U/20 ml生産していた。
5−3 キシラナーゼの精製とその 酵素学的諸性質
PestalotioPsis糸状菌が生産す るキシラナーゼを精製した。陽イ オンおよび陰イオン交換カラムク ロマトグラフィー、さらにゲル濾 過クロマトグラフィーにより、電 気泳動的に単一なキシラナーゼ精 製標品を得た。本酵素の分子量 25,000、等電点は9.5、比活性は 231μmol/mil1/mg、至適温度は 50℃、至適pHは6.0、 pH安定性 は1〜12であった。また、キシロ ビオースやキシロトリオースには 作用しなかった。
(A) (B)
図7 スギおがくず培地におけるPestαlotioPsisの生育
(A)、未接種;(B)、接種後10日間培養 98
紗
vく
明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第17号2009年
6PestalotioPsis糸状菌が生産するキシラン分解酵素群はフェノール類に対する配糖化能 を有し、有用物質の合成に応用できる
本稿はじめにで述べたように、著者らは、これまでに「カビ酵素を利用した木材成分から の配糖体合成法」を確立している(図8)。本合成法で使用したカビ酵素は土壌由来の黒コ
原料(キシラン等)
輸・鷲・
原料(アルコール等)
CH3−[CH2】erOH
l馳◎:1
培養液 (配糖化)
H OH H OH 図8 酵素法による配糖体の合成
ウジカビ (AsPergKlzzS 11 iger)や
青カビ(Peiiicilliuin)のキシラ ン分解酵素群であった。本酵素群 はアルコール類やフェノール類を 配糖化する能力を有し、特にアル コール類を配糖化したアルキルキ シロシド類の合成に有効であった。
しかしながら、フェノール類を配 糖化したフェニルキシロシド類の 合成に関しては収率が低く、より 有効なキシラン分解酵素群の発見 が望まれていた。そこで、今回分 離した1)estalotioPsis糸状菌群が 生産するキシラン分解酵素群の配 糖化能を、スギ生葉に含まれるフェノール類の一つであるカテコールを受容体として検討し た。分離菌株のおよそ90%がカテコールを配糖化し、カテコール以外のレゾルシノール、
ハイドロキノン、ピロガロール、プロトカテク酸といった植物の代謝関連フェノール類も配 糖化した。PestalotioPsis糸状菌のキシラン分解酵素群は、これまでに検討したAsPergillus 7iiger ・〈 Penicilliannに比べ、医薬品、化成品等の原料となるフェニルキシロシド類の合成 に優れていることが示唆された。
7 PestalotioPsis糸状菌は牛排泄物(牛スラリー)臭を軽減する
畜産業の規模拡大にともない、家畜排泄物に由来する悪臭に対する近接住民からの苦情が 深刻な社会問題となっている。そこで、微生物を利用した家畜排泄物臭の軽減を目的とした PestalotioPsis糸状菌の悪臭軽減能力の有無を検討した
7−1糸状菌培養物への牛の排泄物(牛スラリー)添加時の悪臭の軽減
PestalotioPsis糸状菌をはじめ、植物の生葉や土壌より分離した各種糸状菌を馬鈴薯液体 (PDB)培地において培養後、フラスコ内の培養物に直接牛スラリー原液を添加し、悪臭の 変化を嗅覚およびガス検知管により検討した。
Pestα10tioPsis糸状菌、植物生葉由来Altenaria alternata、ケカビの仲間Mucor a〃n biguus、
青カビの仲V・9 Penicillittm brasilianu〃r由来の培養物において牛スラリーの悪臭がほぼ完全 に消失していた。特にアンモニァ成分は20分で約5%にまで減少していた。これに対して、
197 有用菌として知られている黒コウジカlt・、AsPergUlus〃igerなどは悪臭軽減能力が低いもの
(24)
であった。
7−2 牛スラリー消臭効果の高いPestalotloPsis糸状菌菌株の選抜
PestaletioPsis糸状菌群の中で、牛スラリー消臭効果の高い株の選抜を試みた。すなわち、
スギ生葉より分離したPestalotiopsis糸状菌群についてPDB培地(100 ml容三角フラスコ)
において25℃、7日間振とう培養したもの(50ml)に対して、牛スラリー10 mlを添加し、
1時間後と24時間後についてその消臭効果を官能的に調べた。
菌株により、消臭効果を示すもの、においの質を変化させるもの、ほとんど効果を示さな いものと様々だったが、No.15, No.16, S. T株の3株は強い消臭能を有していた。
7−3 選抜株の消臭能評価
7−2で選抜した選抜菌3株(No.15, No.16, ST)について、その消臭能を検知管レベルで 検討した。PDB培地(100 ml三角フラスコ)において25℃、7日間振とう培養したもの
(50ml)に、牛スラリー20 ml添加後、消臭効果をガステック社製の検知管(アンモニァ系、
硫化水素系、メルカプタン系)を用いて1時間後と24時間後について牛スラリーの消臭効 果を数値化した。
硫化水素系およびメルカプタン系成分については、牛スラリーにおける含量が低く、評価 対象とならなかったが、アンモニァ系成分については、3菌株とも1時間経過した段階で、
コントロールに対して、半減しており、アンモニア系成分の減少が、消臭効果に関連してい ることが示唆された。また、24時間経過したものについては、1時間経過時の値とほとんど 変化せず、逆に悪臭が増すようなことはなかった。
7−4 スギおがくず培地で生育したPestalotioPsis糸状菌による検討
PestalotioPsis糸状菌をスギおがくず培地に生育させたのちに、その培地に直接牛スラリ
ーを添加した場合の消臭効果を検討した。すなわち、100 ml容三角フラスコにおけるスギ おがくず培地(スギおがくず5g、米ぬか1g)にて、選抜菌3株を25℃、3週間生育させ たものそれぞれへ牛スラリー添加後、アンモニア成分の減少を検知管により測定することに
より消臭効果を定量した。
牛スラリー添加20分経過時において、牛スラリーのアンモニァ系成分量を100とした場 合、PestalotiePsis糸状菌を生育させなかったスギおがくず培地においても16.1%とアンモ ニア成分の減少が認められたが、PestalotioPsis糸状菌を生育させたものについてはST株で 3.6%、No.15株で5.3%、 No.16株で5.3%となり、スギおがくず単独時よりもPestalotiop−
sis糸状菌が存在することにより消臭効果が高まることが示唆された。さらに、 Pestalotiop−
sis糸状菌をスギおがくず培地に生育させたものから、本稿5で検討したように酵素を抽出 した後の培地(いわゆる廃培地)を乾燥させたものに牛スラリーを添加した場合においても 消臭効果が認められた。
7−5PestalotioPsis糸状菌による牛スラリー消臭メカニズムの解析 PestalotloPsis糸状菌による牛スラリー消臭メカニズムの解析を試みた。
(a)酵素的作用による可能性
まず、消臭作用がPestalotioPsis糸状菌の生育に伴う、もしくは酵素的な作用によるもの かどうかについて検討した。すなわち、スギおかくず培地100m1容三角フラスコ(スギお 196 がくず5g、米ぬか1g)で25℃、3週間生育させたものを121℃、20分間加熱(オートク (25)
明星大学研究紀要【日本文化学部・言語文化学科】第17号2009年
レーブ)処理したものに牛スラリー40mlを添加し、処理しなかったものと、消臭能を比較
した。
加熱処理をしたものにおいても消臭効果は変化せず、PestalotioPs{s糸状菌による牛スラ リーの消臭作用は酵素的な作用によるものでなく、細胞壁への吸着のような物理的な作用に よるものであることが推定された。
(b)物理的作用による可能性
次に、菌体あるいは培養液による牛スラリーの消臭作用について検討した。すなわち、
PDB液体培地50 ml(100 ml容三角フラスコ)においてPestalotiopsis糸状菌を25℃、7日 間培養して得られた培養物について、菌体と培養液を分離し、それぞれの消臭能を検討した。
培養液のみに牛スラリーを添加した場合では消臭効果は認められなかったのに対し、
100m1三角フラスコに牛スラリー10 mlと菌体10 mlを混合してその消臭効果を確認したと ころ、牛スラリーのみのアンモニァ系成分量を100%とした場合、ST株により14.6%、 No.
15株により37.5%、No.16株により25.0%まで減少した。また、オートクレープ処理した 菌体についてもアンモニァ系成分が減少していた。さらに、乾燥菌体においても消臭効果が 認められたことから、菌体により牛スラリー臭が軽減することが明らかとなった。
しかしながら、菌体をホモジナイズ後、超音波破砕を2分間5回行ったものについて消臭 効果を調べたところ、破砕により消臭能が消失したことから、消臭能の発現には、菌体を形 成している何らかの構造の保持が必要と考えられた。
今後の展開
植物の生葉には、葉の表面に生息する葉面菌(エピファイト)および葉の組織内に生息す る内生菌(エンドファイト)が存在することは既に知られているが、その機能については不 明な点が多い。特に、本研究のように、薬理効果を持つ配糖体の合成に有効な配糖化能を有 するキシラナーぜを著量生産する菌群の存在に関する報告はなく、さらに、スギ生葉に生息 する菌類の生態、生理、機能を総合的に調べ、その特異機能をスギ資源の有効利用に活用し ようとした例はない。今後、1)estalotioPsis糸状菌のスギ生葉における生息メカニズムをス ギニ次代謝産物の生成と関連づけながら解明するとともに、スギ資源を原料としたPestalo−
tioPsis糸状菌による医薬品、化成品合成への応用を検討したい。
また、本研究の展開は、昨今放置されているスギ林の林地残材、製材所における背板等ス ギ資源の有効利用につながり、日本における林業復興に大いに貢献できるものと考えられる。
将来、日本の森林計画おいて、スギ人工植林地の一部を他樹種からなる環境保全林、景観林 などに移行させることが予想され、この移行時に多量に産出するスギ資源の有効利用にも活 用できるものと考えられる。
一方、スギ資源分解糸状菌であるPestalotiePsis糸状菌1まそれ自身の牛スラリー消臭能に 加え、本菌群生育後の廃スギ資源培地、特に乾燥廃培地においても消臭効果が認められたこ とから、畜産業への実用化に寄与しうるものと思われる。今後は、農林畜産業の現場と密に 連携を図りながら、乾燥スギ資源廃培地・牛スラリー混合資材の完熟堆肥化、農業現場への 活用を試みたい。195
(26)
引用文献
1) H.Shinoyama, Y. Kamiyama, and T. Yasui.1988, Enzymatic Synthesis of Alkylβ一Xylosides from Xylobiose AppUcation of the Transxyl Reaction of.Aspergillus?ligerβ一Xylosidase. Agricultural and Biological Cheniis−
t7」㌧52(9):2197−2202
2)篠山浩文・神山由・安井恒男、1989、キシランの加水分解物からのアルキルーβ一キシロシドの酵素的合成、
日本農芸化学会誌、63(9):1479−1484
3) H.Shinoyama, A. Ando. T. Fujii, and T, Yasui,1991, The Possibility of Enzymatic Synthesis of a Variety of β一Xylosides Using the Transfer Reaction of Aspergillu∫11iger β一Xylosidase, Agrict ltzzral and Biological Chemistry,55 (3):849−850
4)篠山浩文・角谷順子・高木恭子・藤井貴明、1996、糸状菌の培養液によるキシランからのヘプチルβ一キシ ロシドの合成、日本汕化学会誌、45:67−70
5)篠山浩文・山崎隆之・鈴木玲子・藤井貴明・林 良興、1996、スギ林内リターに子実体を形成する菌類の分 離とそれらの培養条件下での特性、木材学会誌、42:901−905
6) 篠山浩文・角谷順子・藤井貴明、1996、AsPergillzイ∫eiiger LJ外に配糖化機能を有するβ一キシロシダーゼ産生 微生物は存在するか、千葉大学園芸学部学術報告、50:35−39
7)篠山浩文・鈴木正義・山沢明子・藤井貴明、1996、酵素法によりグリセロ糖脂質を合成することは可能か、
千葉大学園芸学部学術報告、50:41−47
8)篠山浩文・石上裕、1998、酵素を利用した配糖体、糖脂質の合成と改変、FRAGRANCE JOURNAL:26−32 9)篠山浩文・鈴木正義・林薫・藤井貴明、1998、キシロピオースを原料としたキシロピオシルグリセリンの 酵素的合成、木材学会誌、44:441−446
10) 篠山浩文、2000、木材成分の総合的利用と林業廃棄物の再資源化、千葉大学共同研究推進センター年報第5 号、99−101
11)本間裕人・篠山浩文・信田幸大・天知誠吾・藤井貴明、2005、スギ林にて発生する食用菌スギエダタケの栽 培化に関する予備検討、日本きのこ学会誌、13(4):205−−210
12) 本間裕人・篠山浩文・小林義弘・天知誠吾・藤井貴明、2006、スギ資源多段利用システムの構築を目的とし たスギ木粉廃培地による各種食用菌の栽培、食と緑の科学、60:75−78
13) H.Homma. H. Shinoyama, Y. Nobuta. Y. Terashima, S. Amachi and T. Fujii . 200Z Lignin−degrading activity of edible mushroom Strobilttrzts ohshimae that forms fruiting bodies on buried sugi(Ct lptomeria jaPoiiiCa)
twigs..], IMood Sc万53(1):80−84
14) 本間裕人、篠山浩文、天知誠吾、徳田宏晴、中西載慶、藤井貴明、2008、食用菌スギエダタケ(StrobilurUS oh∫hienae)のラッカーゼ生産性とそれを用いた各種フェノール性色素の分解、日本きのこ学会誌、16(2):93−
95
15) K,Chiku, J.Uzawa H. Seki, S. Amachi. T. Fujii and H. Shinoyama.2008. Characterization of a novel poly−
phenol−specific oligoxyloside transfer reaction by a family l l xylanase from Baciiltts sp. KT12. Biosci Biotech・
nol Biochent.72 (9):2285−2293
16) 柳田友道、1984、 微生物科学4 生態 、学会出版センター、東京、pp.334−335
94
鋤
41く