Title
沖縄における乳牛の泌乳量について
Author(s)
松田, 祐一
Citation
琉球大学農家政工学部学術報告 = The science bulletin of
the Division of Agriculture, Home Economics & Engineering,
University of the Ryukyus(11): 45-51
Issue Date
1964-12
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12000/19210
沖縄 における乳牛 の泌乳量について
松
田
祐
一*
YuichiMATSUDA: StudiesonmilkproductionbytheHolstein eowsinOkinawa.
Ⅰ 緒
冒 乳牛の飼養頭数は,沖縄においても,漸次増加 しつつあるが,沖縄は高温多湿の地で,しかも,気温 の較差が小 さいので,耐暑性 の弱い といわれ る乳牛の飼育には,気候的に不利であることが考えられ る。戦後, 日本本土においては,乳牛飼養頭数の急激な増加があったにかかわ らず,沖縄においては, 飼養頭数が,僅かに800頭内外で,遅遇 として増加 しない一因は,気候的な制約によるもの と考えら れない こともない。なお,乳牛は良質の牧草が栽培利用せ られてい る諸国において飼育改良せ られて きたのであるが,沖縄では,牧草 として僅かにネピアグラスが栽培せ られてい るのみで,他の牧草の 栽培はほ とん どみ られず, したが って,乳牛に給与する粗飼料は,ススキ,チガヤ,ハ イキビな どの 禾本科の野草が多 く,冬季の製糖期には,甘庶梢頭部が,野草 と共に利用せ られてい る現状である。 本調査 の行なわれた琉球大学農場において も,耕地が狭 く,僅かにネ ピアグラスが,小面積に栽培 されてい るに過 ぎず,乳牛に必要 とする粗飼料は,主 として野草 と甘庶梢頭部の利用に依存 してい る 状況である。 著者は,粗飼料を野草 と甘庶梢頭部に依存 してい る状況で,ホルスタイン種の泌乳量 を調査 しので; -その結果 を報告 し,併せて乳量 に影響をお よぼ した と考えられ る2
,3
の事項について考察 したい。Ⅰ
Ⅰ 調査牛および飼育法
本調査に用いた乳牛は,琉球大学農場で飼育 したホルスタイン種6頭で,いずれ も血統登録牛であ る。乳牛1号は,1955年 7月生の農林省福島穣畜牧場産で,1955年 10月か ら本学農場で飼育 し, 初産次 と2産次の乳量 を調査 したが,196.0年春病死 した。2号は,1956年 4月生の鹿児島塵で, 1957年 2月か ら本学農場で飼育 してい る。_3号は,1954年 12月生 の鹿児島産で,1957年 2月か ら本学農場で飼育 してい る。乳牛4号は,1号の仔,5号は,2号の仔,6号は,3号の仔で,いず れ も本学農場産である。 ・飼料の給与に当っては,所要養分量に不足 をきたさない よう注意 した。粗飼料は,4
月か ら10月 までは;ネ ピアグラスと野草 (主 としてススキ,チガヤ,- イキビな どの禾本科野草) を給与 した。 この時期は,草の成長が早いので,牛の噂好や革質の点か らは不十分であ っても,量的に大体不足 しないよ うに与えた。 しか し,それで も青草の摂申量は良質の牧草 を給与 した場合に比べて少い。 ま た 11.月か ら翌年の3月頃 までは,草の成長おそ く,.かつ硬化 し特に台風後には,粗飼料の不足が深 刻にな ふたと.ともある。.12月以後の製糖期に'なると,甘庶梢頭部 を利用することができるので,粗飼 * 琉球大 学農家政 工学部畜産 学科46 琉球大 学鹿家政 工学部 学術 報 告第11号 (1964) 料 の不足 は緩 和 せ られ た。粗 飼料 の質的 ,畳 的 不足 を補 うため に,濃厚 飼 料 は,乳量 の1/3あ るい は それ以 上給 与 す る よ うに したが ,生理 的 な条 件や経 済 的 な点 か ら乳 牛 の泌 乳量 に応 じた養分所 要量 を 満 たすほ どに濃厚 飼 料 を多給 す る こ とは で きなか った。 すなわ ち搾 乳期 間 中 に牛が や せ てい るこ とが 目立 ってい た。 育成時 に も放牧 は で きなか った ので,約200坪 は どの運動場 に 出 して運 動 させ る よ うに した。 成 年 にな ってか らも, 同一運 動場 で,5-6時 間運 動 を させ るこ とに した。 搾乳 回数 は,普通1日3回 と し,1日の泌 乳量 が 10kg以下 にな った ら2回搾乳 に した。 ⅠⅠⅠ
成績ならびに考察
調査 牛 の産 次別 泌 乳量 は, 第1表 の とお りであ る。 第1表 個体 別 塵次別泌 乳 塁 名 称 也 第1表 に示 され る よ うに,305日間 の平 均乳量 は, 年令 に よる補 正 をせ ず に,4148.5kgであ った 。 3号 の2産 次 には, 乳 房 炎 o?た め,250日で搾乳 を中止 した ので,平均乳量 の算 出か らは除外 した. 泌乳量 につい ての 考 察 第2産 次 の泌乳量 は,初 産 次 のそれ に比 べ て増 加 す るのが普通 であ るが, 本 調査 で は1号,2号 共 に減 少 してい る。 すなわち1号 では 159kg,2号 で は 269kg,2産 次 の泌松田: 沖縄 にお け る乳牛 の泌 乳量 につ い て
4
7
乳 量がそれぞれ減 じてい る。2号 の 3塵次の乳量は増加 してい るが,これ も6才型に補正 した場合は, 初産次の乳量 よ りも減少 とい うことになる。 適 当な栄養が給与 されていて,かつ次期分娩前 60日以上の乾乳期間 をお く場合は,その間に泌乳 期間に消耗 した栄養 を恢復 し,次期泌乳に対する体力の蓄積がなされ るもの と考えられ るが,本調査 の 場合には,乾乳期が 60日以上あったけれ ども,この時期が,8月か ら1月までの野草の少い時期 で,粗飼料の不足 を補 うために,濃厚飼料の多給に努めたのであるが,それで もなお,次期 の分娩, 泌乳に対 する体力の蓄積が十分にな されず,そのため初産次に比べて2産次の泌乳量減少 とな った も ・の と考察せ られ る。 しか し4号は,2産次の乳量が増加 してい るが,これは初産次の乳量が非常 に少 か ったので,初産次泌乳中の体力の消耗が少 く,乾乳期間に栄養の恢復 もできて,2
産次泌乳が順調 であったのではないか と考える。 なお,泌乳期間中に,栄 養のバ ランスが とれなか った と考え られ る1因は,第1図お よび第2図の 泌乳曲線に示 され るように,分娩後最高乳量に逮するまでの 日数が短 く, また最高乳量 に適 した後の / 日 の凍
れ
号均
q
lLL
5
O55
0O
-初産
次
ヘ
2
.産
吹
一
∫ ∫ ■ヽ
ヽヽ --.一■-
4
耶l
8 7月∫8
∫
∫sF
ヽ
I
v
-
I
I
■■● ●■ー-
-
一
■
ヽ
一
■
ー■ 、●●一ヽ
一
一一 7/Oa日
数
. 第1
図 乳牛1
号泌 乳 曲線3
0
-
-2
つ可
2〇
ざ
・
J
i
# 1
@L
I
5
O
官
・
%
5
初産 ・
久
l l
2,
産
>
久
∫
∫′■-■一一一ヽヽ-_′
●
ヽ
胡
J 8 J再′Id I 一 / 2u
A.
I+ヽ
-
■
■
l
l
l
J
、ヽ ♂一
拍
一∫ a-
ヽ
ヽ
\ ヽ -I■■ヽ
ヽ
一
■
一
■
0
28
4
0
6o
gO
l
o
o
I∬ Ml
bO/
80
2o
O
ヱ袖34
026
0
.
2
卿30
0
8日
数
第2図 乳牛2号 泌 乳 曲線48 琉 球 大 学 戯家 政 工 学 部 学 術 報 告 第11号 (1964) 泌乳曲線が,此較的急な下降線 をえがいてい ることか ら,乳牛の能力を,十分発揮せ しめ得 るほ どの 飼料の給与が,な されなか ったのではないか と考え られ る。 もちろん,泌乳量 は給与飼料に よって影 響 され るのみでな く,暑熱に よる影響 も考 え られるべ きであるが, このことについては後に述べ る。 第3図に示 され る4号 の泌乳曲線は,最高乳量に連 するまでの 日数が初産次,2産次 ともに約60日 で,その後の泌乳曲線 も約 90日間は綬憤な下降線であるが,その後は急激に下降 してい る。 これは 栄養 と暑熱 と両方の影響のよ うに考 えられ る。
1
日
の
,%
乳
首
加
は
仲
th
bd
0
あ -た一
-
一- 之産′ I
-
■ 一
′
-
■
一
一
ヽ 、
ー
●
ヽ.
I
t
-
●
ヽ
胡F
t
∫
4
∫
月8
ヽ
ヽI
ヽ --
ヽ
a
-.
%
即
F伽
a
日 L4LH6
0
1
即
2L
X
)
220
抑
2b02かS
O
08
数
第3図 乳牛 4号泌乳曲線 泌乳 と暑熱についての考轟 乳牛の泌乳適温は,概ね 10-15oCO)とされてい る。 ホルスタインは 気温 23oCが臨界で,気温が上昇す るにつれて体温の増加がみ られ,体温の顕著な上昇がみ とめ られ るようにな る臨界気温は,28oCであるといわれ る2)6)0 一日
の
解
れ
旦
里
n y rつ
フ J之
劫
け
伯
tLI
F
Q■
午
3
t
9
丸
i
?くブ2
中
】
≠
碓
l
6.R23日■
●
一
■
■ ヽ■ヽ ■■●一A■ヽ
I
Z
■
-
q
.ヽ
●
一
ー
●-
-
J
′`●● I一2′ワ8■_-
--ー
■
_
4 2
1 ill.Iq/lβ9
4
2
2
ヽ/
/ヽ
/
O
●、 ,● 第4図 泌 乳 曲 線 琉大農場で調査 した室内温度 と体温の関係 は,第 2表 の とお りにな ってい る。松 田 :沖縄 における乳牛 の泌乳量について 49 測定時は,毎 日牛後2時-3時 の間で1カ月を上, 中 ,下旬 に分け,10日間の平均温度 を示 してあるが, ヰ 体温は,午後 2時 よりも,夕方に高 くな るといわれ るか ら,牛体温 の最高は, この表に示 され る温度 より も高か った こ とも考えれ る。 2号,3号では,冬季の体温が 38.6oC前後であ る が ,気温が 27oC以上にな ると体温が 39oC以上に上 昇 し,気温が30oC以上になると体温 も40oCあるい は それ以上に上昇 した ことがみ られ る。 気温 の上昇につれて,乳量 の減少が考え られ る。第
一
1
図の1
号 の泌乳曲線 をみ ると,4
月下旬頃か ら乳量 が 減少 し,7月上旬 には急に下降 してい る。 第 2図の 2号では,初産次は 6月中旬か らか ら乳量 ・の減少がみ られ,2産次では 5月か ら急激な下降 を し てい るが, これは,暑熱の影響のみでな く,乳房炎の 影響が大 きか った と考 える。第 3 図の 4号お よび第 4図の5号において も,4
月末 あ るいは5月上旬か ら 乳量 の減少がみ られ る。第4図の6号の場合 は,7月 末の酷暑期 に分娩 し,僅か 2週間で最高乳量に達 した がその後 は,1日の乳量が 10kg乃至 15kgで,乳 量 の下降は非常 に緩慢 であるが, これは泌乳初期に乳 量 の上昇がなか ったためで, この場合 も,暑熱の影響 と考 え られ る。 上述 の結果か ら考察 すると,沖縄 では,4月末頃か ら暑熱のために乳量 の減少がみ られ,7月の酷暑期に もっとも影響が大 き く,かつ暑熱の影響は,気温か ら ・みて 10月頃 まで続 くもの と考え られ る。Ⅰ
Ⅴ
摘
要
琉球大学農場 で飼育 した ホルス タイン穐6頭につい て ,10泌乳期間に亘 って,泌乳量 を調査 し,併せて泌 乳量 に影響 を与 えた2
,3
の事頃 について考察 して。 本調査期間中,粗飼料は, チガヤ, ススキ,ハ イキ ビな どの野草 を主 とし,夏季はネ ピアグ ラスを,冬 季 第2表 室温 と乳牛の体温 の関係 ほ 甘庶梢頭部を併用 したが,革質は良好 とはいえず,給与量 も,特 に冬 季は十分ではなか った。濃厚 飼 料 は,乳量 の1/3あるいはそれ以上与え,栄養のバ ランスを とるよ うに努めた。 本調査 の結果は,つ ぎの とお りであ った。 1・泌乳期305日間の平均乳量 は,4148.5kgであ った。・
2・
塵次別泌乳量お よび泌乳曲線か ら考察 して,粗飼料 を野草に依存 した場合 は,野草は一般 に良 質美味でないので喰下量が少 く,栄養の不足 を生 じ易 く,濃厚飼料 を多給す るよ うに努めて も, 乳量 に見合 う栄養 を充足 し,乳牛の能力を発揮 させ る七 とが困難 であると思考せ られた。50 琉球大学農家政工学部学術報告第11号 (1964) 3.沖縄 では,4月下旬か ら気温 の上昇 に伴 う乳牛体温 の上昇がみ られ るが,7,8月には,最高気 温 30oC以上,体 温 も40oC以上に連 す ることが多い。 その後気温,体温 ともに下降するが,10ノ 月頃 まで,体 温 の上昇がみ られた。
4.
気温 と体温の上昇 に よって,4
月下旬 か ら乳量 の減 少がみ られ,7
月の酷暑期 には,乳量 の減 少 も著 しくな る傾 向がみ られた。 文 戟 1)櫓垣繁光 1963 乳牛 の繁殖 に関す る諸問題・畜産 の研究,17:91・ 2)石井尚- 1953 暖地 におけ る夏 の乳牛管理.畜産 の研究,8:610-614・ 3)石井 尚一 ・犬童華人 ・岡本正三 1953 ホルス タイン種 に 及 ぼす 暑気 の影響 に関す る研究. 九 州農業試験場棄報,97. 4) 内藤元男1962 家畜 の育種. 5) 岡本正幹1950暖地酪鹿 の諸問題.畜産 の研究,4:329-332・ 6) 岡本正幹 1956 年 の耐暑性 に関す る諸問題・畜産学の進歩,400-409・ 7)岡本正幹 1961 九州 の酪農経営 と技術.畜産 の研究,15:262-268・ 8) 岡本 正幹1961 乳牛 の塵乳量 と季節 との関係・畜産 の研究,15:721-722・ 9)佐 々木滑綱 ・内藤元男 1958 家畜育種学・ 10) 山田信夫 ・樋渡公人 ・宮地万曽 ・藤井義臣 1958 暑熱 が乳牛 に及 ぼす影響・畜産 の研究,lo∑ 1217.-1219.ll) PeterSen
,
W.E.1950 DairySeienee(2nded)・Summary
StudieShavebeen eondueted toknow the amountofmilk produced by Holstein eowS whichhavebeenraisedonthefarm oftheuniversityoftheRyukyus
,
ndaa lsotoknowsome・ factorsatrectedthemilkproduction. SixHolsteincowswereusedforthestudies.Onaccountoftheuniversity hasno enough 1and to produce the meadow grass
,
wild grassessuchasmiscanthus,
imperatacylindricaandpanicum repenshavebeenfedchieay.In addition to thewild grass
,
napiergrassproducedintheuniversityfarm havebeen. usedinsummerandsugarCanetopsinwinter.●
Tofurnish●thenutrientrequlrementinadequateamount
,
theeoneentrateswereaddedto・theroughage.
TheresultsWereaSfollows:
1. Averagemilkproductionin305daysoflactationperiodwas4148.5kg.
2. Aswildgrasseswereunpalatableandpoorquality
,
theCowsdidnottaketheproper・ amountandthenitcausedpoormilkproduction.Considering theyieldofthemilkandtheperSistencycurves0flactations