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C M Y K Kinmei

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キス キャスリン・ハリソン 岩本正恵訳 旅の終わりの音楽 エリック・F・ハンセン 村松潔訳 アンジェラの灰 フランク・マコート 土屋政雄訳 ケンブリッジ・クインテット ジョン・L・キャスティ 藤原正彦・藤原美子訳 穴掘り公爵 ミック・ジャクソン 小山太一訳 巡礼者たち エリザベス・ギルバート 岩本正恵訳 ネヴァーランドの女王 ケイト・サマースケイル 金子宣子訳 アムステルダム イアン・マキューアン 小山太一訳 スコットランドの黒い王様 ジャイルズ・フォーデン 武田将明訳 ジャイアンツ・ハウス エリザベス・マクラッケン 鴻巣友季子訳 花粉の部屋 ゾエ・イェニー 平野卿子訳 グアヴァ園は大騒ぎ キラン・デサイ 村松潔訳 あなたが最後に 父親と会ったのは? ブレイク・モリソン 中野恵津子訳 地獄のコウモリ軍団 バリー・ハナ 森田義信訳 ブルーミング スーザン・アレン・トウス 斎藤英治訳 コールドマウンテン チャールズ・フレイジャー 土屋政雄訳 天使の記憶 ナンシー・ヒューストン 横川晶子訳 愛の続き イアン・マキューアン 小山太一訳 最後の晩餐の作り方 ジョン・ランチェスター 小梨直訳 ホワイト・ティース上・下 ゼイディー・スミス 小竹由美子訳 パイロットの妻 アニータ・シュリーヴ 高見浩訳 逃げてゆく愛 ベルンハルト・シュリンク 松永美穂訳 最後の場所で チャンネ・リー 高橋茅香子訳 石のハート レナーテ・ドレスタイン 長山さき訳 その腕のなかで カミーユ・ロランス 吉田花子訳 アルネの遺品 ジークフリート・レンツ 松永美穂訳 アンジェラの祈り フランク・マコート 土屋政雄訳 直筆商の哀しみ ゼイディー・スミス 小竹由美子訳 あなたはひとりぼっちじゃない アダム・ヘイズリット 古屋美登里訳 いつか、どこかで アニータ・シュリーヴ 高見浩訳 遺失物管理所 ジークフリート・レンツ 松永美穂訳 ナターシャ デイヴィッド・ベズモーズギス 小竹由美子訳 黄金の声の少女 ジャン=ジャック・シュル 横川晶子訳 遠い音 フランシス・イタニ 村松潔訳 最後の注文 グレアム・スウィフト 真野泰訳 【現在品切の本】 空高く チャンネ・リー 高橋茅香子訳 大統領の最後の恋 アンドレイ・クルコフ 前田和泉訳 サフラン・キッチン ヤスミン・クラウザー 小竹由美子訳 睡蓮の教室 ルル・ワン 鴻巣友季子訳 ナンバー9ドリーム デイヴィッド・ミッチェル 高吉一郎訳 ガラスの宮殿 アミタヴ・ゴーシュ 小沢自然・小野正嗣訳 バーデン・バーデンの夏 レオニード・ツィプキン 沼野恭子訳 ふくろう女の美容室 テス・ギャラガー 橋本博美訳 博物館の裏庭で ケイト・アトキンソン 小野寺健訳 時のかさなり ナンシー・ヒューストン 横川晶子訳 ディビザデロ通り マイケル・オンダーチェ 村松潔訳 極北で ジョージーナ・ハーディング 小竹由美子訳 リリアン エイミー・ブルーム 小竹由美子訳 ボート ナム・リー 小川高義訳 夜と灯りと クレメンス・マイヤー 杵渕博樹訳 奪い尽くされ、焼き尽くされ ウェルズ・タワー 藤井光訳 無限 ジョン・バンヴィル 村松潔訳 002 003 contents せめて無害な道楽とでも言いましょうよ

トム・ハンクス

──2 聞き手 マーク・メドリー 子どもを産むこと、小説を生み出すこと

ミランダ・ジュライ

──10 聞き手 エリザベス・デイ 翻訳者から 岸本佐知子──18 interviews 「心の中で思うこと」

トム・ハンクス

──39 小川高義 訳 story 海外文学のない 人生なんて──22 角田光代×小川高義×松家仁之 discussion ミランダ・ジュライ 『あなたを選んでくれるもの』と僕──19 矢部太郎 manga 『両方になる』アリ・スミス/木原善彦──34 『八つの山』パオロ・コニェッティ/関口英子──36 coming soon デビュー50周年記念。処女短篇集を翻訳刊行!

アリス・マンロー

──20 小竹由美子 topics 新潮クレスト・ブックス わたしの3冊──47 book guide 新潮クレスト・ブックスのベスト20──31 ranking 新潮クレスト・ブックス 全点カタログ1998-2018──56 catalog アントワーヌ・ロラン/吉田洋之───30 ソナーリ・デラニヤガラ/佐藤澄子───38 エマヌエル・ベルクマン/浅井晶子───45 ベルナルド・アチャガ/金子奈美───46 モーシン・ハミッド/藤井光───55 columns ただいま翻訳中 ! 2018年8月25日 発行所 株式会社新潮社 〒162-8711 東京都新宿区矢来町 71 電話 編集部 03-3266-5411    営業部 03-3266-5111    広告部 03-3266-5211 印刷・製本 錦明印刷株式会社 ©2018 SHINCHOSHA 法律で許可された場合以外に 本誌からの無断転載、コピーを禁止します。 Publisher 私市憲敬 Editor in Chief 須貝利恵子 Editors 前田誠一 田畑茂樹 佐々木一彦 加藤木礼 Sales 佐藤和弘 岩﨑百合 Art Director 島田隆 Cover Work 今井麗 Photographers 坪田充晃(書影) 広瀬達郎(座談会) Special thanks to : 内田有佳 武政桃永 望月玲子 小荒井淳子

海外文学のない

人生なんて

Shincho Crest Books 20th Anniversary Booklet

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〈新潮クレスト・ブックス〉は、1998年5月のシリーズ創

刊から、おかげさまで20周年を迎えました。この間に

お届けしてきた小説・ノンフィクション作品は、147作

にのぼります。8月末には、小説家トム・ハンクスのデ

ビュー作『変わったタイプ』

と、

ミランダ・ジュライの初

めての長篇『最初の悪い男』

という新たな2作が加

わって149作に。この二人の作家のインタビューを

中心に、

これまでのクレスト・ブックスとこれから刊行を

予定している作品への読書案内として、小さなブック

レットをつくりました。創刊以来、20年のご愛読にあ

らためて感謝いたします。

新潮クレスト・ブックス編集部

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Shincho Crest Books

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トム・ハンクス

interview by Mark Medley

マーク・メドリー

・聞き手

photograph by American Buffalo Pictures

interview

アカデミー賞主演男優賞を2度、 ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を4度も受賞した アメリカの国民的俳優トム・ハンクス。 無類の読書好きで、タイプライターの コレクターでもあるハンクスが、小説を書きはじめ、 あの「ニューヨーカー」に掲載された。 さらに書きためた全17篇が、老舗の名門文芸出版社 クノッフから『変わったタイプ』として刊行された。 俳優の余技とは到底思えない、味わい深い 短篇小説はどのようにして書かれたのか。 (『グローブ・アンド・メール』紙 2017年10月13日より転載) 小川高義・訳

Tom Hanks

せめて無害な

道楽とでも言いましょうよ

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  意外な面持ちで眉を上げた人も少なくなかったことだ ろ う。 「 ニ ュ ー ヨ ー カ ー」 二 〇 一 四 年 十 月 二 十 七 日 号 に トム・ハンクスという名前が出ていた。といってアカデ ミー賞を二度も受賞した俳優、映画監督のプロフィール ではなく、また最新映画のレビューでもなく、載ってい たのは短篇である。アリス・マンロー、J・D・サリン ジャーのような錚々たる作家が名を連ねていた、いわば 文芸の聖地たるスペースに、その作品が登場したのだっ た。 題 し て「 ア ラ ン・ ビ ー ン、 ほ か 四 名 」。 そ の 名 の 由 来となったアラン・ビーンは、月面に歩を運んだことの ある数少ない宇宙飛行士の一人である。だが、この短篇 は、四人の仲間がDIYで製作した宇宙船で、月まで往 復するという冒険旅行の話だった。 「いままでに何人もストーリーテラーとして優れた人を 見てきたので、あやかりたいという気持ちもあって、自 分 の ス ト ー リ ー を 語 り た く な っ た 」。 当 時 の 彼 は そ の よ うに同誌に語っていた。   それからきっかり三年後に、初の短篇集となる『変わ ったタイプ』 が刊行された。既発表の「アラン・ビーン、 ほか四名」に加えて、同じメンバーが登場するものが二 篇、また無名だった役者がいきなり脚光を浴びる「光の 街 の ジ ャ ン ケ ッ ト 」、 子 持 ち の 女 が 離 婚 し て か ら 生 活 を 立 て 直 そ う と す る「 グ リ ー ン 通 り の 一 カ 月 」、 あ る 男 が タイムトラベルで何度も一九三九年の万博を訪れる「過 去 は 大 事 な も の 」、 と い っ た よ う な 全 十 七 篇 が 収 録 さ れ ている。穏やかな魅力をたたえて、どこかしら過去にこ だわりのある作品群であるのだが、さらに共通テーマと してタイプライターが出てくる。ハンクスには、もう何 十年も、タイプライターを集める趣味がある。   先 頃、 マ ー ク・ メ ド リ ー が、 「 グ ロ ー ブ・ ア ン ド・ メ ール」紙の記者として、ハンクスにインタビューを行な った。新刊の著書について、また映画監督・脚本家だっ た ノ ー ラ ・ エ フ ロ ン ( 一 九 四 一 ― 二 〇 一 二 ) に つ い て 、 ノ ス タ ル ジ ア に つ い て 、 そ し て タ イ プ ラ イ タ ー へ の 中 毒 ― ― い や、 関 心 と 言 お う ― ― に つ い て、 ハ ン ク ス の 話 を 聞 く ことができた。   なぜ短篇小説を書きはじめたのか ――「 ン・ ン、 ら、 す。 時、 ー」 ラ・ て、

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と、 が、 事情が変わったのでしょうか?   ペンギン・ランダムハウスに「もっと書きたくないで す か 」 と 言 わ れ た ん で す よ。 そ れ だ け。 「 だ っ た ら、 い く つ?」 っ て 話 に な っ て、 編 集 担 当 に な っ た ピ ー タ ー・ ゲザーズが「どうでしょうね、十五くらい?」なんて言 う ん で、 「 お い、 正 気 か?」 と 叫 ん じ ゃ っ た。 で も、 だ ん だ ん そ の 気 に な っ て、 考 え て み た い テ ー マ と い う か、 タイトル、 アイデアなんてものをメモするようになって、 やってるうちに、ええと、十五どころか、十七になって いた。そうなると今度は「どうして?」なんて言われる よ う に な っ た。 「 ど う し て こ ん な こ と し た、 こ れ だ け 書 いた意図は何だ」ってことなんだけども、そんなものあ りゃしない。もともとストーリーテリングに関わって生 きてる。映画でも役作りをする場合は、その人物の背景 と な る ス ト ー リ ー を、 じ っ く り 突 き 詰 め て 考 え ま す よ。 あ る 瞬 間 を ス ク リ ー ン に 映 せ る よ う に 作 る と な っ た ら、 その瞬間がどういう背景から出たことなのか。ちゃんと わかってないといけない。人には言いませんけどね。と くにメモするとか、打ち合わせするとか、監督と相談す るとか、そんなこともなし。ただ自分一人で、その人の ストーリーを考えてる。 ―― て、 に、 す。 ラ・ が「 から」とはどういうことでしょう?   その昔、雑文を書くようになって、よく書いてる途中 でノーラに送って見てもらった。 「どうにかなってる?」 って聞くと、 「まあね、どうにか」という答えがあった。 「 こ れ っ て エ ッ セ ー な の よ ね。 ま ず 最 初 に 何 を 言 い た い のかわからせるのがいいかな。で、ちゃんと話をしてか ら、その話をしたんだとわからせて締めくくる。このへ ん直しとこうか」なんてね。そんなわけで「ノーラがい たから」と書いた。何かしら思い立つと、とりあえずノ ーラに聞いてみた。しかし、それは僕だけじゃないだろ う な。 も の を 書 く 人 は た く さ ん 知 っ て る け ど も、 「 こ の あいだ本を出したら、ノーラ・エフロンからランチに誘 われた」 なんて言ってる人がいくらでもいた。ノーラは、 相手が誰であれ、 そういうことをしたんだ。有名人にも、 それほどでもない人にも、よく声を掛けた。   現在への不満があるってことだと思う ―― て、 は、 すね。 過去の時代に設定された話が多いですし、 昔はどうだっ

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す。 る。 えでしょうか?   ちょっと違うかな。そう言うと安っぽいみたいで、ぐ ちゃぐちゃした感じもあって、たとえば「ああ、子供の 頃 に 見 た テ レ ビ が 懐 か し い 」 な ん て い う よ う な ― ― ど う せ つ ま ら な い 番 組 だ っ た ん だ け ど ね ― ―。 だ か ら、 ノ ス タルジアと言っても、また過去に戻って暮らしたいとい う の で は な く、 現 在 へ の 不 満 が あ る っ て こ と だ と 思 う。 た ぶ ん、 突 き 詰 め て 言 え ば ― ― タ イ プ ラ イ タ ー を 面 白 が っ て る 精 神 も そ う な ん で ― ― そ れ な り に 永 続 す る も の、 正統であるものを求めるってことかな。しっかり頑張っ て残るもの。なくならないもの。一瞬で消えるようなも の で は な く て ― ―。 も し 家 族 が 飛 行 機 で 旅 を し た ら、 一 応、機内での出来事が記憶になるだろうけども、家族が 三日がかりで車を走らせた旅だったら、その記憶は心に 刻まれて、ずっと消えにくいものになるでしょ。じんわ り深く染み込んで、 DNAにまで届くような。もっとも、 いまどきの旅なら、みんなスマホにかじりついてたりす るから、どうかわからないね。ともかく過去がどうだっ た と か い う 憧 れ っ て こ と で も な く て ― ― そ ん な の は 時 間 の無駄になるだけで、それよりは不満、じゃなくて困惑 かな、どうして世の中がこんなになってるままなのかと いう― ―。

photograph by The New Y

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ただのノスタルジア

とはちょっと違う。

それなりに永続するもの、

正統であるものを求める

ってことかな。

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  弾かないピアノが何台もあるみたいな ――「 は、 す。 で、 た。 すか?   友だちから譲られた一台が最初でしたね。そいつがオ リヴェッティの新品を買ったんで、いらなくなったガラ クタみたいなのを僕にくれた。あれは一九七三年のこと で、たぶんスミス・コロナじゃなかったかと思うけれど も、どうだったか。ほぼプラスチックの製品だった。短 篇のほうは、僕が初めて本物の一台を手に入れた話がも とになってる。ヘルメス2000といって、あれは世界 一の名品だった。 ―― 在、 と、 かに書いてありました。   い や、 い ま は そ う で も な く て、 や っ と 百 八 十 く ら い。 だって、ほら、死んだあとのことを考えると、子供たち に迷惑かけるから、少しずつ減らしてるんだ。使いもし ないタイプライターが大量にならんでるだけ、なんての は困るだろうからね。弾かないピアノが何台もあるみた いな。だから徐々に削減している。最終的な願望として は、三十台くらいでいいから、どこにでも行った先に置 いてある、なんていうのがいいね。そもそも自分用に一 台 持 っ て る 理 由 だ っ て あ ん ま り な く な っ て る ん だ か ら、 三台、四台……なんて必然性はあるわけがない。もう余 剰兵力としか言えない。とうの昔から余剰になってる。 ――それが趣味から中毒に変わったのは、いつごろです?   中毒ってことはない。せめて無害な道楽とでも言いま し ょ う よ。 「 な く て も い い タ イ プ ラ イ タ ー を 買 い た く な ったのは、いつのことか」と聞いてくれたら、もっと面 白い質問になる。のめり込んだと言えるのは、たしかヘ ル メ ス 3 0 0 0 を 手 に 入 れ た あ た り。 そ の 頃 だ っ た か、 「このeBayってのは、どうすればものが買えるんだ」 なんて言いながら、早い話が、その一回だけで十二台は 買ってた。どうかしてるよ。オーストラリアからも何台 か買ってる。現地から発送してもらうんだけど、送料が 八十五USドルで、 機械そのものが五ドルだったとかね。   たまらなく病みつきになってる ――その短篇の中で、 ある女性がタイプライターについて 「い 使 す。 は、 と、

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か、 す。 は、 か?   いや、そんなことない。タイプライターは輝かしくて ロマンのあるもので、これに夢中になることは全然おか しくない。小さい子だって、ぽつぽつと文字が打てれば 大喜びするに決まってる。機械を動かしてる感覚がいい んだろうね。タイプライターには、うれしくなるような 感 性 が あ る。 一 つ の こ と に 特 化 し て ― ― 書 く だ け の も の なんだな。時刻の表示は出ない。絵も映らない。電動で なければプラグを突っ込むまでもない。 一日の終わりに、 こいつに向かうのが、もうたまらなく病みつきになって る。車でも、飛行機でも、ギターでも、そういう趣味に 走ってる人いるでしょ。僕はタイプライター。そんなに 大きくなくて、どうにか持ち運べる。 ――今度の作品を、タイプライターで書いたってことは?   ま さ か。 「 グ リ ー ン 通 り の 一 カ 月 」 っ て い う 話 は、 冒 頭の数ページだけ、アトランタで買ったタイプライター で書いたけども。まあ、ご冗談でしょ。新聞のコラムを タ イ プ ラ イ タ ー で 書 い た り し ま す? で き っ こ な い よ ね。 頭おかしくなっちゃうよ。この本を書いたのは、ラップ トップのパソコン。 c 小川高義訳 590151-6 2592円 ●本作収録の短篇をP.39〜44に掲載 Uncommon Type Tom Hanks

変わったタイプ

トム・ハンクス

1956年、カリフォルニア州コンコード生ま れ。シャボット・カレッジで演劇を学んだあ と、カリフォルニア州立大学サクラメント校 に編入。アカデミー賞主演男優賞を2度、 ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を4度 受賞したアメリカの国民的俳優。読書好き でタイプライターのコレクターとしても知られ る。2014年に初めての小説「アラン・ビ- ン、ほか四名」が「ニューヨーカー」に掲載さ れる。本書が初の小説集。

Tom Hanks

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photographs by ELIZABETH WEINBERG/ The New York Times/Redux/Afl o

interview

西山敦子・訳

Miranda July

ミランダ・ジュライ

Interview by Elizabeth Day

エリザベス・デイ

・聞き手 大学を中退してアーティストとなり、 映画監督としても、小説家としても、 比類のない名声を得たミランダ・ジュライ。 フェミニストとしても注目される彼女が 初めて発表した長 小説は、 女性どうしの暴力から始まり、愛情、家族、 死をも射程に入れた、「驚くべき」作品である。 (『ガーディアン』紙 2015年2月8日より転載)

子どもを産むこと、

小説を生み出すこと

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ュ ー ヨ ー ク の タ ク シ ー の 後 部 座 席 に い る ミ ラ ン ダ・ ジ ュ ラ イ は、 タ ー ト ル ネ ッ ク の 上 に 大 き な サ イ ズ の パ ー カ を 着 て い て、 フ ー ド に つ い た フ ァ ー が 顔 の 輪 郭 と カ ー リ ー な ボ ブ ヘ ア を縁取っている。スカイプごしに話していると、ときど き日の光が窓から車内に差し込んでくる。そのたびごと に彼女は目を細め、話を中断して顔を横に向ける。まる で頭のなかで考えを組み立て直し、再びまとめているか のようだ。その瞬間に画面に現れている光景は、彼女の 映画からそのまま取り出してきた一場面のようだ。オフ ビートな女性の主人公が物思いにふけっている。その表 情からは、彼女の内部で何かしらの対話が交わされてい ることがうかがえる。   この連想も、まったくの見当はずれということではな いだろう。というのも彼女の長篇映画デビュー作である 『 君 と ボ ク の 虹 色 の 世 界 』 で は、 ジ ュ ラ イ 本 人 が 脚 本 を 書き、 監督し、 主役を演じているのだから。オンライン・ セックスと離婚がはびこる時代の孤独と愛を描いた作品 だ。批評家からは「チャーミングでオフビート」と評価 され、二〇〇六年にカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール を受賞した。   け れ ど、 現 在 四 十 歳 ( イ ン タ ビ ュ ー 当 時 ) の ジ ュ ラ イ は 型にはまってしまうことを恐れている。それまでの彼女 は、パフォーマンス・アーティストとして名をはせてき た。自身が「ライブ映画」と呼ぶマルチメディアのイン スタレーションを制作し、ロンドンのICA (現代複合芸 術センター) を含む世界中の会場で公演を行なった。   最初の長篇映画で成功を収めたあと、ジュライは短篇 小 説 集『 い ち ば ん こ こ に 似 合 う 人 』 を 発 表 す る。 二〇〇七年のフランク・オコナー国際短篇賞を鮮やかに かっさらい、審査員長からは「独創的な才能にあふれた 一冊」と評された。   そしていま、世界各地で苦悩する作家やアーティスト たちのもらす実存的危機のうめき声に拍車をかけるよう に、 ジ ュ ラ イ は 長 篇 小 説 ま で 書 き 上 げ て し ま っ た。 『 最 初 の 悪 い 男 』 は す で に レ ナ・ ダ ナ ム( 「 驚 異 的 」) 、 A・ М・ホームズ( 「必読の一冊」 )、デイブ・エガーズ( 「忘 れがたい作品」 )らによる賞賛の声に彩られている。   こ の 本 の プ ロ モ ー シ ョ ン で 英 国 を 訪 れ る ジ ュ ラ イ に、 私は伝えてみた。どんなことにも万能な人を手放しで賞 賛 す る 習 慣 は、 こ こ で は 浸 透 し て い な い。 作 家 は 書 き、 映画監督は映画を監督し、アーティストはアートを作る こ と が よ し と さ れ て い る。 「 で し ょ う ね。 い え、 ア メ リ カ で も 同 じ だ か ら 」 と 彼 女。 「 正 直 に 言 う と、 私 自 身 も

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そういう偏見を持っていると思います。すべての分野で そ の 人 を 本 格 的 な 作 り 手 と 捉 え る の は、 確 か に 難 し い。 あるひとつのことにだけ専念して、そこで飛び抜けてい てくれるほうが、 その人が本気なんだと信じられるから。 ただ言えるのは、さまざまな媒体を行き来しながらアー トを作るのが、私にとって自分らしいやり方だというこ とです。とにかく最初からずっとそうなので」 「ジュライ」 になるまで   ジュライはカリフォルニア州バークレーで育った。彼 女の両親、リンディとリチャードのグロッシンガー夫妻 はオルタナティブな健康法やスピリチュアルなテーマの 本を扱う独立系の出版社を経営していた。 家庭のなかで、 彼女と兄のロビンは自分たち自身で楽しみや遊びを作り 出 す よ う に 育 て ら れ た。 「 兄 が 裏 庭 に 私 た ち だ け の 小 さ なお家を作ってくれました。二階建てで、水の設備もあ っ て 」 彼 女 は 思 い 出 す。 「 ふ た り で 一 緒 に 家 を 建 て て、 家具をデザインしたんです。そのおかげで、どんなもの でも自分たちで作れるんだ、と思うようになって。両親 は買い与えてくれなかったから、とにかく何でも自分た ちで作る方法を考えました」   その後ジュライはカリフォルニア大学サンタクルーズ 校に入学するも二年で中退し、オレゴン州ポートランド に移り住んでパフォーマンス・アーティストとして活動 を 開 始 し た。 こ の と き、 「 自 ら を 再 構 築 す る 」 フ ェ ミ ニ スト的行為として姓を〈ジュライ〉に変えている。友だ ちと作ったファンジンに登場させたキャラクターからと って、自分自身に新しい名前をつけたのだ。 『君とボクの虹色の世界』が成功を収めたころ、彼女は 不安に苛まれていた。それ以前にやってきたこと、これ からやろうとしていることがこの成功の影にかすんでし ま う の で は な い か。 「 み ん な が 私 の こ と を 映 画 監 督 だ と 思っている状況に、どこか居心地の悪さを感じていまし た。だからこそ短篇小説集をすぐに出版して、この認識 を払いのけなければ!   と考えて」彼女は少し皮肉っぽ く 笑 い、 そ し て 心 か ら の 思 い を つ け 加 え る。 「 別 の 見 方 をしてもらうためには、実際に別の何かになるしかない でしょう」   短篇集の出版のあとに続いたのが、新しいプロジェク ト『ウィー・シンク・アローン』だ。著名な友人たちを 巻き込み、過去に送ったEメールを十万人の登録者と共 有するという試み。参加したのは女優のキルステン・ダ ンストや作家のシェイラ・ヘティ、そしてレナ・ダナム

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などの面々だ。ダナムがアシスタントに返信したメール ― ― 二 万 四 千 ド ル の ソ フ ァ に つ い て「 や っ ぱ り 値 段 が 高 すぎると思う」――などが共有された。 『ウィー・シンク・アローン』は、現代の窃視症的な文 化のあり方について示唆的な考えを促す目的で作りださ れたものかもしれないが、結果的にジュライの周辺のネ ットワークの豊かさを提示することにもなった。ダナム とヘティは仲の良い友人だ。もうひとりの仲間であるポ ップスターのロードも、最近ツイッターで『最初の悪い 男 』 が い か に「 す ば ら し い 」 か を 三 百 万 人 ( 当 時 ) の フ ォロワーに向けて発信した(ジュライ自身にも五万九千 人という膨大な数のフォロワーがいるが、ツイートする の は「 身 が す く ん で し ま う 」 と 言 う。 「 昨 日 は 自 分 の ツ イ ー ト の な か の〈 it's 〉 の 使 い 方 が 正 し か っ た の か ど う か、思わず調べました。違ったんじゃないかと急に心配 になった瞬間があって。私にとっては、のびのびとした 気持ちでいられるメディアではないですね」 )。   それでもやはりツイッターなどのおかげで、フェミニ ス ト に な る に は い い 時 代 が 来 て い る と ジ ュ ラ イ は 考 え る。 「 何 よ り も 女 性 た ち が お 互 い を サ ポ ー ト し あ っ て い るし、ソーシャルメディアがそのつながりを強力なもの にしている。勢いみたいなものがあります。そしてみん な が そ の 威 力 に 気 づ い て い る。 〈 わ あ す ご い、 こ の 女 性 の人生に実際にこんなインパクトを与えることが、この 私 に で き た ん だ 〉 と 思 え る の は 本 当 に 嬉 し い で す よ ね。 誰かの書いた実験的な詩集が売れるようにすることだっ て、私にはできるんだ!   とか」   とはいえ、ジュライにもアンチはいる。彼女には、素 直 な 熱 心 さ ゆ え に タ ー ゲ ッ ト に な り や す い 側 面 も あ る。 ジ ュ ラ イ の 作 品 へ の 反 応 は 両 極 的 だ。 『 君 と ボ ク の 虹 色 の世界』で描かれる優しく不器用な人間関係に感嘆する 観 客 が い れ ば、 二 作 目 の 長 篇 映 画『 ザ・ フ ュ ー チ ャ ー』 ( 二 〇 一 一 ) に 登 場 し た 喋 る 猫 を、 ポ ス ト モ ダ ン 的 な 似 非 の深遠さの最悪の典型例と見て、おぞましいやり過ぎだ と感じる者もいる。 「へんてこ」 というレッテル   これまで、あまりに繰り返し「へんてこ」とか「不思 議ちゃん」と呼ばれてきたジュライはさすがにうんざり している。加えてこれらの形容は明らかに、女性たちを 上 か ら の 目 線 で 言 い 表 し た も の だ。 「 そ う、 確 か に〈 不 思議ちゃん〉なんていうのは矮小化を狙った言葉としか 思えない」私がそのことについて聞くと、ジュライはそ

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う 答 え た。 「 そ の こ と に つ い て の 質 問 は、 ま る で 自 分 に ついてゴシップ話をするようにと求められている気にも なります。自分についてのゴシップを自分で話すことを 求められるような状況こそ、女性特有のものかもしれな い。だから私はもう、その話はしたくないのかも」 『最初の悪い男』を形容する言葉はいろいろあるだろう が、それが「不思議ちゃん」的なものでないことだけは 明らかだ。物語の主人公はシェリル・グリックマン。ひ とりで暮らす四十代の独身女性で、護身術の慈善団体で 働く同僚に片思いしている。ある日、雇用主である夫婦 から彼らの二十歳の娘クリーを家に置いてやって欲しい と頼まれる。その日から、秩序と規律に満ちたシェリル の生活はカオスにおちいり始める。クリーは体格が良く セ ク シ ー で、 扱 い に く い( 「 ブ ロ ン ド と 小 麦 色 の 圧 倒 的 な物量という感じがした」 )。 やがてシェリルとクリーは、 肉体をぶつかり合わせて闘う習慣に身を投じるようにな り( 「廊下でクリーに口を押さえられて首をつかまれ」 )、 すぐにその関係は予想もしなかった気配を帯びるように なる。   お互いを叩きのめして良い、という暗黙の合意のうち にあるふたりの女性たちについて読むのは、まれな経験 だ。女性の肉体的な攻撃性が文学のなかで扱われること

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は あ ま り な い が、 ジ ュ ラ イ は そ れ を そ の 他 の 抑 圧 ― ― 文 化 的 な そ し て 性 的 な ― ― へ の 挑 戦 の メ タ フ ァ ー と し て 使 ってもいる。彼女は自らを「意識的なフェミニスト」と 称しているが、この作品では女性の身体性についての議 論を引き起こすことを、 意図的に試みているのだろうか。 「私自身も、若いころは暴力が絡むような経験が結構あ っ て 」 微 笑 を 浮 か べ な が ら ジ ュ ラ イ は 言 う。 「 外 に 出 か けて、どうしようもないことをしようとする男性がいた りすれば、殴り合いの喧嘩になることも、まったくあり えないことではなかった。そういう世界にいました」 「ある友だちが誰かの頭を思わず強く蹴りすぎて殺して しまった、と噂になったこともあったなあ。本当かどう かわからないけど」 自信なさ気に彼女はそうつけ加える。   ミランダ・ジュライへのインタビューが進む方向とし て、これは予想外だった。彼女はさらに「人を殴ったこ とがある」と認め、でもそれは「かなり前の話」だと言 う。また十一歳か十二歳のころ、当時の親友と向かい合 ってベンチの上に立ち「闘い」をしたことも話してくれ た。 「 す ご く 親 密 な 感 じ に な る こ と が で き た ん で す、 そ れ以外ではかなり女の子っぽいふたりの関係性のなかに その行為が織り込まれることで。 すごく満足感があった。 怒りを爆発させることで、お互いにすごく開放的な気分 になったことを覚えています」 妊娠、 出産、 そして執筆   主に頭のなかだけで生きているような人間(アーティ スト、作家、知識人)が、肉体を介したコミュニケーシ ョンに憧れを抱くのは、かなりよくあることだと彼女は 言 う。 「 や り 返 し た ら 気 持 ち が い い だ ろ う な、 と 妄 想 す ることはできますから。はり倒されるだろうけど。厳し いものですよね……もうひとつ情報をつけ加えると、こ れを書いているときは妊娠中だったんです。だからかつ て な い ほ ど、 〈 自 分 は こ の 体 の な か に い る 〉 と い う 感 覚 が強かった。そのあとに授乳の時期が続いたので、この 小説を書いている間じゅう、ホルモンに左右された九つ く ら い の 異 な る 状 態 が 入 れ 替 わ り 立 ち 替 わ り し て い て。 これは内面を描いた小説だけど、肉体的な要素もそこに 加わることが求められているような感じでした」   彼女の息子のホッパー(名前の元となったのはデニス で も エ ド ワ ー ド で も な い ら し い。 「 私 は ど ち ら も 好 き だ けど」とジュライ)は二〇一二年の二月に生まれた。ジ ュ ラ イ の 夫 で あ る マ イ ク・ ミ ル ズ も 映 画 監 督 だ。 彼 の 二〇一〇年の作品『人生はビギナーズ』は、彼の父親が

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七十五歳でゲイであることをカミングアウトした実際の 経験が元になっている。ジュライ一家はロサンジェルス に住んでいる。   短 篇 か ら 長 篇 へ の 移 行 は 挑 戦 だ っ た と ジ ュ ラ イ は 言 う。短篇を書くときは「ものすごく速くて、下書きもな し 」 だ っ た。 い っ ぽ う で こ の 小 説 は「 素 敵 な ひ ら め き 」 から始まりながらも、執筆自体は「拷問」だった。書き 終えた最初の原稿を読み返し、 辟易してしまったと言う。 「 と に か く ひ ど い 文 章 に 思 え て。 で も す ご く 良 か っ た の は、なんにせよ書き上げたからには物語の形をなしてい るものが手元にある、ということ。ただそこから書き直 していくだけでいいんですから。それが嬉しかった。私 からすれば、まるで映画の編集の段階でお金の心配など なしに何度でも撮り直しができるようなものに思えたん です。編集は大好き。映画を作る過程のなかでも楽しい 部分です」   息子を出産したあとは、授乳しながらそのときどきの 状 況 や 考 え を iPhone で 記 録 し た。 さ て 振 り 返 っ て み て、 産み出すのが大変だったのはどちらなのだろう

小説 か、 人 間 か?   彼 女 は 笑 っ て 答 え る。 「 人 間、 か な?   そ う 言 わ な い と、 た ぶ ん 許 さ れ な い で し ょ う ね。 で も、 すごく良い意味での〈大変〉さです。人間の赤ちゃんに は全身全霊で向き合わなくちゃいけないけれど、本を書 く の は ……」 彼 女 は い っ た ん 言 葉 を 止 め る。 「 結 局 は、 それほどたいしたことではない、というか。うまくいか なければがっかりだけれど、すぐに立ち直れる。けれど そう、愛情となると……純粋に愛の深さで測られるもの で、何かと比較できるわけでもない、でしょう?   息子 への愛は私をダメにしてしまう。言葉で説明することな んてとてもできません。それに比べれば、自分の書いた 本への愛を語るのは簡単。いまはとにかく書き上げられ たことを、誇りに思っています」 c 1974年ヴァーモント州生まれ。大学中退後、 ポートランドでアーティストとしての活動を開始し、 短篇映画も撮り始める。脚本・監督・主演を 務めた初の長篇映画『君とボクの虹色の世界』 が 2005年のカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール ( 新 人 監 督 賞 )を受 賞、大きな注目を浴びる。 2007年、初短篇集『いちばんここに似合う人』 でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2011 年、2作目の長篇映画『ザ・フューチャー』と2冊 めの著書『あなたを選んでくれるもの』を発表。 2015年発表の本作は初長篇となる。

Miranda July

"I had some rough episodes when I was younger": An Interview with Miranda July

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ラ ン ダ・ ジ ュ ラ イ の 三 作 め と な る 最 新 作 は、 自 身 初 と な る 長篇小説だ。   主 人 公 は 四 十 三 歳 独 身 の シ ェ リ ル。 女 性 向 け 護 身 術 D V D を 販 売 す る N P O 団 体 で 長 年 働 い て い る。 職 場 の 年 上 男 フ ィ リ ッ プ に 密 か に 恋 心 を い だ き、 九 歳 の と き に 出 会 っ た 運 命 の 赤 ん 坊 ク ベ ル コ・ ボ ン デ ィ と の 再 会 を 夢 見 る が、 ど ち ら も 成 就 の 道 のりは遠い。   シ ェ リ ル の 日 常 は 自 ら 考 案 し た 「 シ ス テ ム 」 に よ っ て 効 率 よ く 滑 ら か に 運 営 さ れ て い る。 食 事 は 皿 を 省 略 し て フ ラ イ パ ン か ら 直 接 食 べ る。 物 を 動 か す と き は 同 じ 方 向 の も の を い く つ か ま と め て。 本 は 本 棚 の 前 で 立 っ た ま ま 読 む、 い や い っ そ 最 初 か ら読まずに済ます……。   そ ん な シ ェ リ ル の 箱 庭 的 小 宇 宙 は、 上 司 夫 妻 の 二 十 歳 の 娘 が 転 が り 込 ん で き た こ と で あ っ け な く 崩 壊 す る。 金 髪 セ ク シ ー ダ イ ナ マ イ ト、 粗 野 で 粗 暴 で 衛 生 観 念 ゼ ロ、 美 人 だ け れ ど ビ ッ チ を 絵 に 描 い た よ う な ク リ ー だ。 ま さ に 水 と 油 の 二 人 が 一 つ 屋 根 の 下 で 暮 ら す う ち、 両 者 の 緊 張 は ついに臨界点に達し、そして― ―。   ミ ラ ン ダ・ ジ ュ ラ イ の 小 説 の 主 人 公 の 多 く が そ う で あ る よ う に、 シ ェ リ ル は 妄 想 の 世 界 の 住 人 だ。 現 実 世 界 と 自 分 の 間 に 用 意 周 到 に 壁 を 築 き、 " 生 き る " こ と か ら 逃 げ て い る。 ﹃ 最 初 の 悪 い 男 ﹄ は、 そ ん な 彼 女 が ク リ ー と い う 黒 船 の 到 来 に よ っ て 否 応 な し に 世 界 と 向 き 合 い、 真 の 人 生 を 取 り 戻 す ま で の 冒 険 物 語、 大 人 の 成長譚だ。   シ ェ リ ル の 冒 険 の 道 は 予 想 外 の 急 カ ー ブ や 断 崖 絶 壁 を は ら み、 思 い も 寄 ら な い 場 所 に 彼 女︵ と 読 者 ︶ を 連 れ て い く。 ク リ ー と の 関 係 は 敵 同 士 か ら ゲ ー ム の 共 犯 者、 恋 人 さ ら に は 疑似家族……と二転、 三転、 四転し、 ﹃ フ ァ イ ト ク ラ ブ ﹄ さ な が ら の 激 し い暴力さえも勃発する。   冒 険 の 果 て に シ ェ リ ル は 何 を 手 に 入 れ、 何 を 失 う の か。 最 後 の ペ ー ジ に た ど り つ い た と き、 彼 女 と い っ し ょ に 見 る 景 色 に 誰 も が 胸 ふ る わ せ る ことだろう。 c

text by Kishimoto Sachiko

岸本佐知子

翻訳者から photograph by Tsubota Mitsuteru

ゲンジツまでは何マイル

――ミランダ・ジュライ初の長 小説

ミランダ・ジュライ

『最初の悪い男』

The First Bad Man Miranda July

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〇 一 三 年 に 「 短 篇 の 名 手 」 と し て カ ナ ダ 人 初 の ノ ー ベ ル 文 学 賞 を 受 賞 し た ア リ ス ・ マ ン ロ ー は 、 一 九 三 一 年 、 オ ン タ リ オ 州 の 小 さ な 町 ウ ィ ン ガ ム の は ず れ の 、 春 先 に は 川 が 氾 濫 す る 低 地 の 農 場 で 、 毛 皮 獣 の 飼 育 を 生 業 と す る 父 と 元 教 師 の 母 の 第 一 子 と し て 生 ま れ た 。 上 昇 志 向 の 強 い 母 は 娘 を 町 の 学 校 へ 通 わ せ た 。 貧 困 家 庭 の 多 い 低 地 か ら 町 中 ま で の 長 い 通 学 の 道 の り は 、 観 察 眼 が 鋭 く 空 想 癖 の あ る 少 女 を の ち の 作 家 と す る 一 助 に な っ た よ う だ 。   や が て 母 が パ ー キ ン ソ ン 病 を 発 症 、 同 じ 頃 父 の 毛 皮 獣 の 事 業 が 潰 え 、 生 計 の た め に 奮 闘 す る 父 を 助 け て 、 十 代 の は じ め か ら 母 の 介 護 や 家 事 、 弟 妹 の 世 話 を 担 う よ う に な っ た 。 そ し て 二 年 間 の 奨 学 金 を 得 て 大 学 へ 進 学 。 学 内 誌 に 短 篇 を 投 稿 し て 注 目 を 浴 び な が ら も 学 費 が 続 か ず 学 業 を 断 念 、 同 窓 で 二 歳 年 上 の ジ ェ ー ム ズ ・ マ ン ロ ー と 二 十 歳 で 結 婚 し 、 夫 が 職 を 得 た バ ン ク ー バ ー で 新 婚 生 活 を 始 め た 。   都 会 の 裕 福 な 家 庭 出 身 で あ る 夫 と の 考 え 方 の 違 い に 悩 み な が ら も 、 マ ン ロ ー は そ の 後 の 十 五 年 間 で 四 人 の 娘 ( 二 番 目 は 生 後 す ぐ 死 亡 ) を 産 み 育 て た 。 長 女 シ ー ラ に よ る と 、 子 供 に 匙 で も の を 食 べ さ せ る よ う に 本 を 与 え る 母 親 で 、 シ ー ラ は 十 三 歳 の と き に 作 中 の 少 女 が 同 年 齢 で あ る 『 ロ リ ー タ 』 を 薦 め ら れ た と い う 。 家 事 や 育 児 の 合 間 の 細 切 れ の 時 間 に マ ン ロ ー は 短 篇 を 書 き 続 け 、 ラ ジ オ や 雑 誌 に 採 用 さ れ る よ う に な っ た 。   夫 婦 は や が て ビ ク ト リ ア に マ ン ロ ー 書 店 を 開 業 、 忙 し い 毎 日 に 書 店 の 仕 事 が 加 わ っ た 。 四 女 出 産 の あ と 、 マ ン ロ ー は そ れ ま で 発 表 し た 作 品 か ら 選 ん だ も の に 新 た な 三 篇 を 書 き 加 え 、 一 九 六 八 年 、 初 の 短 篇 集 『 幸 せ な 霊 た ち の 踊 り 』 を 刊 行 、 権 威 あ る 総 督 文 学 賞 を 受 賞 し 、 一 躍 注 目 を 集 め た 。 だ が こ の 頃 か ら 夫 婦 の 亀 裂 は 深 ま り 、 離 婚 。 マ ン ロ ー は オ ン タ リ オ 州 へ 戻 り 、 大 学 で 同 窓 だ っ た 地 図 ・ 地 理 学 者 の ジ ェ ラ ル ド ・ フ レ ム リ ン と 再 会 し て 再 婚 、 自 身 の 実 家 に も 近 い 夫 の 実 家 に 移 っ た 。   久 々 に 戻 っ た 故 郷 を マ ン ロ ー は 新 た な 目 で 観 察 し て 短 篇 を 執 筆 、 ニ ュ ー ヨ ー カ ー に 掲 載 さ れ る よ う に な り 、 国 外 で も 注 目 さ れ は じ め た 。 自 分 に

Alice Munro

処女短篇集を

翻訳刊行!

デビュー 50周年記念。 2013年、カナダ人初のノーベル文学賞を受賞。授賞 理由は「現代短篇小説の名匠であること」。「ブリッジ はできません。テニスもしません。ほかの人たちが習 い覚えるそういったことをいいなあとは思うのですが、 どうも時間がなくて。窓から外を眺める時間ならあるの ですが」(ニューヨーカー誌のインタビューより) 『幸せな霊たちの踊り』(仮) は1968年刊行のデビュー作。 2018年11月、 小竹由美子訳で刊行予定。

text by Kotake Yumiko

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は 短 篇 が 向 い て い る と 自 覚 し た マ ン ロ ー は 短 篇 の み を 書 き 続 け 、 国 内 外 の 賞 を つ ぎ つ ぎ と 受 賞 。 二 〇 〇 九 年 に は 国 際 ブ ッ カ ー 賞 を 受 賞 し 、 二 〇 一 二 年 、『 デ ィ ア ・ ラ イ フ 』 が 刊 行 さ れ た 翌 年 、 八 十 一 歳 で 引 退 を 宣 言 、 同 年 ノ ー ベ ル 賞 を 受 賞 し た 。 今 の と こ ろ 宣 言 ど お り 、 そ の 後 新 た な 作 品 は 一 切 発 表 さ れ て い な い 。   市 井 の 人 々 、 と り わ け オ ン タ リ オ 州 の 田 舎 町 に 暮 ら す 女 性 を 主 人 公 と し た 作 品 が 多 く 、 自 身 の 過 去 も よ く 題 材 と し て 使 う マ ン ロ ー の 作 風 が 窺 え る イ ン タ ビ ュ ー の 一 節 が あ る ( 二 〇 〇 一 年 、「 ニ ュ ー ヨ ー カ ー 」) 。「 物 事 ︱ 物 事 の 内 側 の 物 事 ︱ の 複 雑 さ は き り が な い よ う に 思 え ま す 。 と い う か 、 簡 単 な も の な ど 何 も な い 、 単 純 な も の な ど 何 も な い の で す 」   こ の 言 葉 ど お り 、 マ ン ロ ー は 何 気 な い 日 々 の 暮 ら し に 目 を 凝 ら し 、 そ の 奥 で 人 知 れ ず 展 開 す る 驚 く べ き ド ラ マ を 描 き 出 す 。 心 の 機 微 を 簡 潔 な 表 現 で 浮 き 彫 り に す る 一 見 平 易 に 見 え る 文 章 に は 、 緻 密 な 企 み が 凝 ら さ れ て い る 。 物 語 は 往 々 に し て 現 実 と 記 憶 、 過 去 と 現 在 が 自 在 に 移 り 変 わ り な が ら 進 み 、 一 篇 に 流 れ る 時 間 の 長 さ と 内 容 の 濃 密 さ に 、 読 後 呆 然 と し て し ま う 。 ジ ュ ン パ ・ ラ ヒ リ を は じ め 、 マ ン ロ ー の テ ク ニ ッ ク を 激 賞 す る 作 家 は 多 い 。   デ ビ ュ ー 短 篇 集 『 幸 せ な 霊 た ち の 踊 り 』 が 、 刊 行 後 五 十 年 目 に 当 た る 今 年 、 新 潮 ク レ ス ト ・ ブ ッ ク ス か ら 拙 訳 で 刊 行 さ れ る 。 育 児 と 家 事 と 書 店 で の 仕 事 に 忙 殺 さ れ る な か で 編 ま れ た こ の 短 篇 集 は 、 驚 く ほ ど 完 成 度 が 高 い 。 意 表 を 突 く 展 開 、 登 場 人 物 や 情 景 を リ ア ル に 立 ち 上 げ て 、 出 来 事 の 断 面 だ け で は な く そ の 背 後 の 奥 行 ま で 描 く 筆 力 は 、 初 期 の 頃 か ら の も の だ っ た 。「 デ ィ ア ・ ラ イ フ 」 の 最 後 の 哀 切 な 言 葉 へ と 連 な る 、 母 の 葬 儀 に 出 席 し な か っ た 娘 の 子 連 れ 帰 省 を 描 く 「 ユ ト レ ヒ ト 講 和 条 約 」、 「 雇 わ れ さ ん 」 (『 林 檎 の 木 の 下 で 』 収 録 ) と 同 じ 要 素 を 持 つ 「 日 曜 の 午 後 」 な ど 、 の ち の 作 品 に 繫 が る モ チ ー フ も 散 見 さ れ る 。   田 舎 の 農 場 で の 子 供 時 代 に 始 ま り 、 さ ま ざ ま な 困 難 を 乗 り 越 え な が ら 短 篇 作 家 と し て 世 に 出 る ま で の 、 マ ン ロ ー の 原 風 景 が 広 が る 一 冊 だ 。 c

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〈新潮クレスト・ブックス〉の既刊マンロー作品。右から日本での刊行年順に。全米批評家協会賞最終候補作『イラクサ』、父 方のスコットランド系ルーツをたどる自伝的作品集『林檎の木の下で』、伝記的作品を含む『小説のように』、「最後の本」である 『ディア・ライフ』、全米批評家協会賞『善き女の愛』、ギラー賞受賞作にしてアルモドバル監督が映画化した『ジュリエット』。

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  こ れ か ら 「 海 外 文 学 の な い 人 生 な ん て 」 と い う ち ょ っ と 挑 戦 的 な テ ー マ で お 話 し す る わ け で す が 、 私 に は 当 て は ま る 定 義 な の で 異 存 は あ り ま せ ん ( 笑 )。 角 田 さ ん 、 小 川 さ ん は 、 読 者 と し て ど の よ う に 海 外 文 学 と 出 会 わ れ た の で し ょ う 。     私 ぐ ら い の 世 代 で す と 、 子 ど も の 頃 、 ご く 普 通 に 絵 本 や 童 話 で 海 外 の も の が 身 近 に あ っ て 、 ど の 国 の 物 語 と い う こ と は あ ま り 意 識 し な い で 楽 し ん で い ま し た 。 た だ 、 中 学 生 ぐ ら い に な っ て 、 ち ょ っ と 厚 め の 海 外 文 学 を 読 む よ う に な る と 、 「 グ レ イ ビ ー ソ ー ス 」 の よ う な 知 ら な い 言 葉 が 出 て く る 。 そ う す る と 、 い ち い ち そ こ で 立 ち 止 ま っ て し ま う 子 だ っ た の で 、 中 学 、 高 校 ぐ ら い の 頃 は 、 実 は あ ま り 海 外 も の を 読 ま な か っ た 記 憶 が あ り ま す 。   グ レ イ ビ ー ソ ー ス で 食 わ ず 嫌 い に な っ て し ま っ た 。 角田   そ う な ん で す 。 松家   意 外 で す け ど 、 な る ほ ど で す ね 。 小川   「 海 外 文 学 が な け れ ば 生 き て い け な い 」 と い う の は 、 実 は 私 に 一 番 該 当 す る 言 葉 な ん で す よ ね 。 な ん と い っ て も 「 メ

海外文学

のない

人生なんて

角田光代×小川高義

×松家仁之

新潮クレスト・ブックス創刊20年を記念して、 名優トム・ハンクスのデビュー作『変わったタイプ』と、 ミランダ・ジュライの初の長篇『最初の悪い男』が 同時刊行されます。作家の角田光代さんと 翻訳家の小川高義さん、クレスト・ブックスの 創刊編集長で現在は小説家の松家仁之さんに 海外文学のたのしみについてお話しいただきました。 今井麗・絵

photographs by Hirose Tatsuro

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シ の 種 」 で す か ら 、 な け り ゃ 本 当 に 生 き て い け な い ( 笑 )。 ま あ 、そ れ は と も か く 、 な ぜ 海 外 文 学 か と い う と 、 大 学 受 験 に 一 回 失 敗 し て 、 で も 予 備 校 に 行 く の も な ん と な く 嫌 で 、 ず っ と 家 に い た ん で す よ 。 ま だ 町 の 普 通 の 本 屋 で も 海 外 の ペ ー パ ー バ ッ ク を 売 っ て い た 時 代 で し た の で 、 受 験 英 語 が 嫌 に な る と 、 ペ ー パ ー バ ッ ク を パ ラ パ ラ 読 む こ と で 勉 強 の 代 わ り に し て い た ん で す よ ね 。 そ こ が 出 発 点 。   そ う い え ば 私 が 「 小 説 新 潮 」 の 編 集 部 に い た こ ろ 、 柴 田 元 幸 さ ん の 翻 訳 で バ リ ー ・ ユ ア グ ロ ー の 連 載 を 担 当 し て い た ん で す ね 。 柴 田 さ ん と 若 手 翻 訳 者 の 話 に な っ た と き 、「 小 川 高 義 さ ん が い い 。 う ま い で す 」 と 太 鼓 判 を 押 さ れ て い た の を 覚 え て い ま す 。 柴 田 さ ん と は 大 学 院 が 一 緒 だ っ た そ う で す ね 。   え え 、 大 学 院 の 同 期 で 、 同 じ 授 業 に 出 た り 、 食 堂 で メ シ を 一 緒 し た り と い う 仲 で し た 。 大 学 院 を 出 た あ と 、「 翻 訳 の 仕 事 が あ る け ど 手 伝 わ な い ? 」 と 声 を か け ら れ た の が き っ か け で 、 こ の 道 に 入 っ た と こ ろ も あ り ま す よ ね 。   角 田 さ ん が い ま の よ う に 旺 盛 に 海 外 文 学 を 読 ま れ る よ う に な っ た の は 、 何 か き っ か け で も あ っ た の で し ょ う か 。

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い う 意 識 が あ ま り な い ん じ ゃ な い か と 思 う ん で す 。 原 文 を 読 む こ と で 、 ま ず そ の 現 場 の イ メ ー ジ み た い な も の を 受 け 取 る 。 で も そ の 段 階 で は ま だ 言 葉 で は な い ん で す よ 。 翻 訳 に 限 ら ず 、 文 章 を 書 く と き は み ん な そ う だ と 思 い ま す け ど 、 ま ず 言 葉 で は な い も の が 頭 に あ っ て 、 そ れ を 言 葉 に す る 。 翻 訳 も そ う で な け れ ば と 思 う ん で す 。 翻 訳 を 特 殊 な 文 章 だ と 思 い た く な い 。 頭 の 中 に 絵 を つ く っ て お い て 、 そ の 絵 を 見 て 書 く 、 と い う 感 覚 で す か ね 。 角田   そ う な ん で す か !   深 い で す ね 。   小 川 さ ん の よ う な 翻 訳 の あ り 方 が あ ら わ れ た こ と は も ち ろ ん で す け ど 、 角 田 さ ん が お っ し ゃ る 九 〇 年 代 は 、 ア メ リ カ を 中 心 に 若 い 新 し い ス タ イ ル の 作 家 が つ ぎ つ ぎ 登 場 し た 時 代 で も あ り ま し た ね 。 た と え ば 、 自 己 啓 発 本 の 文 体 を 揶 揄 し て 使 い な が ら 、 微 妙 に 揺 れ る 恋 愛 心 理 を 描 い た り す る ロ ー リ ー ・ ム ー ア と か 。 角田   で は 、 翻 訳 文 の 問 題 と い う よ り も 、 文 学 の シ ー ン に お い て 代 替 わ り が あ っ て 、 面 白 い 時 代 に な っ た の が 、 九 〇 年 代 と い う こ と で す か ? 松家   翻 訳 が 出 る ま で の 時 差 が あ る の で 、 八 〇 年 代 後 半 か ら 九 〇 年 代 に 入 っ た あ た り で 潮 流 の 変 化 は あ っ た と 思 い ま す 。   高 校 生 か ら 大 学 生 に な る 頃 、 八 〇 年 代 半 ば の 話 な ん で す け ど 、 当 時 は 翻 訳 小 説 が 世 に 溢 れ て い た ん で す ね 。「 よ し 、 読 む ぞ 」 と 思 っ て 手 に 取 る ん だ け ど 、 な ん だ か ゴ ツ ゴ ツ し て 読 み づ ら く て 、 ま す ま す 遠 ざ か っ て し ま っ た 。 九 〇 年 代 に 入 っ て か ら 、 た ま た ま 手 に 取 っ た い く つ か の 翻 訳 本 が す ご く 面 白 く て 、 小 川 さ ん が 翻 訳 さ れ た 、 ポ ー ル ・ ラ ド ニ ッ ク の 『 こ れ い た だ く わ 』 と か 、 青 山 南 さ ん が 翻 訳 さ れ た 『 世 界 は 何 回 も 消 滅 す る   同 時 代 の ア メ リ カ 小 説 傑 作 集 』 が 震 え る ほ ど お も し ろ か っ た 。『 シ ャ ン プ ー ・ プ ラ ネ ッ ト 』 の ダ グ ラ ス ・ ク ー プ ラ ン ド に も は ま り ま し た 。 九 〇 年 代 前 半 に そ う し た 文 章 が ス ー ッ と 頭 に 入 っ て く る よ う な 翻 訳 書 に 続 け ざ ま に 出 会 え て 、 そ れ で 無 事 戻 っ て こ ら れ た ん だ と 思 い ま す 。 小川   す ご く 嬉 し い で す ね 。   私 も 今 日 、 初 め て 小 川 さ ん に お 目 に か か れ て 、 翻 訳 書 の 世 界 に 戻 し て く だ さ っ て あ り が と う ご ざ い ま し た 、 と お 礼 を 言 い た い 気 持 ち な ん で す 。   小川   お そ ら く 私 の 世 代 だ と 、「 訳 す 」 と   あ る い は 、 新 し い 文 学 の 流 れ に 翻 訳 者 が 対 応 し 始 め た の か も し れ ま せ ん 。 私 は そ も そ も 翻 訳 と い う 仕 事 は 、 原 作 が あ っ て 、 そ れ を 一 種 の 台 本 の よ う に し て 、 訳 者 が 一 人 芝 居 を し て い る よ う な も の と 思 っ て い る ん で す ね 。 そ れ で 昔 か ら よ く 言 う の が 「 訳 者 は 役 者 」。 松家   ( 笑 ) う ま い 。   ダ ジ ャ レ な ん で す け ど 、 我 々 に と っ て 、 何 を 翻 訳 し た か と い う こ と は 、 俳 優 が ど の 監 督 と 、 誰 の 脚 本 で 演 じ て き た か と い う 経 歴 と 一 緒 な ん で す よ 。 何 を 訳 し て き た の か が 、 訳 者 の 個 性 に と て も 大 き な 影 響 を 与 え て い る と 思 い ま す 。 角田   な る ほ ど 。   つ い で に 言 い ま す と 、 役 者 も 訳 者 も 世 間 に 出 る 場 所 、 つ ま り 「 舞 台 」 が な い と 仕 事 が で き な い 。 そ の 意 味 で 、 こ の 〈 新 潮 ク レ ス ト ・ ブ ッ ク ス 〉 と い う シ リ ー ズ が あ る こ と が す ご く 嬉 し い ん で す 。 い わ ば 「 ク レ ス ト 座 」 と い う す ご く い い 劇 場 が あ る の で 、「 こ ん ど の 舞 台 で そ こ に 出 る か ? 」 と 言 わ れ た ら 、 役 者 な ら ぬ 訳 者 の 私 と し て は 、 も う 嬉 し く て 、「 よ ろ こ ん で ! 」 と い う 感 じ で す 。 あ と 二 十 年 ば か り 続 い て く れ た ら 、 私 も 寿 命 で し ょ う か ら 、 あ と は お ま か せ し ま す が ( 笑 )。

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松家   い や 、 八 〇 代 半 ば で 現 役 の 翻 訳 者 、 横 山 貞 子 さ ん の よ う な 方 も お ら れ ま す 。 店 じ ま い を 考 え る の は 早 い で す ( 笑 )。 と こ ろ で 角 田 さ ん の グ レ イ ビ ー ソ ー ス の 呪 い は ど う や っ て と け た の で し ょ う ? 角田   克 服 し た と 思 う ん で す よ 。「 グ レ イ ビ ー ソ ー ス 」 が 何 で あ る か わ か っ た と こ ろ で 、 急 に 小 説 の 面 白 さ が 深 ま る わ け で は な い 、 と い う こ と を 、 身 を も っ て 知 っ た ん だ と 思 う ん で す 。 わ か ら な い 単 語 な り 地 名 な り が あ っ て も 、 そ こ に 注 意 を 持 っ て い く 読 み 方 を し な く な り ま し た 。 松家   い ま は 簡 単 に 検 索 で き ま す し ね 。     松 家 さ ん は 、 な ぜ ク レ ス ト ・ ブ ッ ク ス を 作 ろ う と 思 わ れ た ん で す か 。   翻 訳 書 を 出 し て い る 出 版 社 と い う こ と で 新 潮 社 を 志 望 し た の で す が 、 実 際 に 翻 訳 書 を 担 当 で き た の は 入 社 か ら 十 数 年 後 で し た 。 異 動 し て ま も な く 神 田 の 東 京 堂 書 店 の 二 階 に 行 っ て 、 新 潮 社 の 翻 訳 書 の 棚 を 見 て み た ん で す 。 な ん だ か と り と め が な い 並 び で 、 編 集 者 の 顔 が 見 え な い と い う か 。 し か も 日 本 で は 無 名 に 近 い 作 家 の 本 を 単 体 で 出 し て も 読 者 に は 届 か な い こ と が 多 い 。 ロ ー リ ー ・ ム ー ア も そ の ひ と り で し た 。   こ の 会 場 の la kagu ( 東 京 ・ 神 楽 坂 ) も そ う で し ょ う け れ ど 、 今 ま で 知 ら な か っ た 雑 貨 や ブ ラ ン ド が 発 見 で き る か も し れ な い と い う 期 待 を も っ て セ レ ク ト シ ョ ッ プ に 行 く わ け で す よ ね 。 そ の よ う な 海 外 文 学 の 新 し い シ リ ー ズ が で き な い か と 考 え た ん で す 。 で も 当 時 は 「 新 潮 ・ 現 代 世 界 の 文 学 」 と い う 叢 書 が あ っ た の で 、「 そ れ と 別 に 新 し い シ リ ー ズ な ん て や る 意 味 な い だ ろ う 」 と 担 当 部 長 に デ ィ ス ら れ た ( 笑 )。 私 は へ そ 曲 が り な の で 、 そ れ で 火 が 点 き ま し た 。 も う 絶 対 出 し て や る と 。   お か げ で 私 た ち が 出 る 場 が で き た の で 、 そ れ は あ り が た い ( 笑 )。   こ れ ま で ク レ ス ト ・ ブ ッ ク ス で 刊 行 さ れ た 一 五 〇 冊 の リ ス ト を 見 直 し て み た ら 、 移 民 系 作 家 が じ つ に 多 い ん で す 。 ク レ ス ト ・ ブ ッ ク ス の 特 徴 の ひ と つ か も し れ ま せ ん 。   移 民 が 新 し い 文 学 を も た ら す こ と は 、 ア メ リ カ の 歴 史 の 中 で は 決 し て 目 新 し い こ と で も な く て 、 昔 か ら や っ て い る こ と の 繰 り 返 し で す よ ね 。   な る ほ ど 。 イ ン ド 系 ア メ リ カ 人 の ジ ュ ン パ ・ ラ ヒ リ も 、 そ の 継 承 者 と い え る わ け で す ね 。

ジュンパ・ラヒリと私、

同い年なんです。だから

登場したときに

ものすごく興奮しました。

なかでも

『低地』は

すっごいところまで行って

しまったなと思ったんです。

かくたみつよ 1967年神奈川県生まれ。90 年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞。 『対岸の彼女』で直木賞、『八日目の蟬』で中央 公論文芸賞、『紙の月』で柴田錬三郎賞、『かな たの子』で泉鏡花文学賞、『私のなかの彼女』 で河合隼雄物語賞を受賞。著書多数。

参照

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日本語で書かれた解説がほとんどないので , 専門用 語の訳出を独自に試みた ( たとえば variety を「多様クラス」と訳したり , subdirect

12) 邦訳は、以下の2冊を参照させていただいた。アンドレ・ブルトン『通底器』豊崎光一訳、

「旅と音楽の融を J をテーマに、音旅演出家として THE ROYAL EXPRESS の旅の魅力をプ□デュース 。THE ROYAL

②上記以外の言語からの翻訳 ⇒ 各言語 200 語当たり 3,500 円上限 (1 字当たり 17.5

「1.地域の音楽家・音楽団体ネットワークの運用」については、公式 LINE 等 SNS

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英国のギルドホール音楽学校を卒業。1972

1 7) 『パスカル伝承』Jean Mesnard, La Tradition pascalienne, dans Pascal, Œuvres complètes, Paris, Desclée de Brouwer,