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北朝鮮による地下核実験に対する

大気拡散予測の対応活動

Activities on Predictions of Atmospheric Dispersion of Radionuclides

for Nuclear Tests by North Korea

石崎 修平 早川 剛 都築 克紀 寺田 宏明 外川 織彦

Shuhei ISHIZAKI, Tsuyoshi HAYAKAWA, Katsunori TSUDUKI, Hiroaki TERADA and Orihiko TOGAWA

安全研究・防災支援部門 原子力緊急時支援・研修センター

Nuclear Emergency Assistance and Training Center Sector of Nuclear Safety Research and Emergency Preparedness DOI:10.11484/jaea-technology-2018-007

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より発信されています。

This report is issued irregularly by Japan Atomic Energy Agency.

Inquiries about availability and/or copyright of this report should be addressed to Institutional Repository Section,

Intellectual Resources Management and R&D Collaboration Department, Japan Atomic Energy Agency.

2-4 Shirakata, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki-ken 319-1195 Japan Tel +81-29-282-6387, Fax +81-29-282-5920, E-mail:ird-support@jaea.go.jp

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 研究連携成果展開部 研究成果管理課

〒319-1195 茨城県那珂郡東海村大字白方 2 番地4

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JAEA-Technology 2018-007

北朝鮮による地下核実験に対する大気拡散予測の対応活動

日本原子力研究開発機構 安全研究・防災支援部門 原子力緊急時支援・研修センター 石崎 修平※、早川 剛、都築 克紀+、寺田 宏明+、外川 織彦 (2018 年 6 月 25 日 受理)  北朝鮮が地下核実験を実施した際、原子力緊急時支援・研修センターは、原子力規制庁 からの要請に基づき、国による対応への支援活動として、原子力基礎工学研究センターの 協力を得て、WSPEEDI-II システムを用いて放射性物質の大気拡散予測計算を実施し、予 測情報を原子力規制庁に提出する。  本報告書は、北朝鮮による地下核実験に対する国及び日本原子力研究開発機構の対応体 制を説明するとともに、平成28 年 9 月及び平成 29 年 9 月に実施された 5 回目及び 6 回目 の地下核実験を主たる対象として、原子力緊急時支援・研修センターが実施した大気拡散 予測に関する一連の対応活動を記述する。さらに、予測計算に使用した計算プログラムシ ステムの概要について説明するとともに、北朝鮮地下核実験対応における今後の計画と課 題を記述する。 原子力緊急時支援・研修センター:〒311-1206 茨城県ひたちなか市西十三奉行 11601-13 + 原子力基礎工学研究センター 環境・放射線科学ディビジョン ※ 技術開発協力員

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JAEA-Technology 2018-007

Activities on Predictions of Atmospheric Dispersion of Radionuclides

for Nuclear Tests by North Korea

Shuhei ISHIZAKI※, Tsuyoshi HAYAKAWA, Katsunori TSUDUKI+, Hiroaki TERADA+

and Orihiko TOGAWA

Nuclear Emergency Assistance and Training Center Sector of Nuclear Safety Research and Emergency Preparedness

Japan Atomic Energy Agency Hitachinaka-shi, Ibaraki-ken

(Received June 25, 2018)

When North Korea has carried out a nuclear test, by a request from Nuclear Regulation Authority (NRA), Nuclear Emergency Assistance and Training Center (NEAT) predicts atmospheric dispersion of radionuclides by WSPEEDI-II system in cooperation with Nuclear Science and Engineering Center (NSEC), and submits the predicted results to NRA as the activity to assist responses by the Japanese Government.

This report explains frameworks of the Japanese Government and Japan Atomic Energy Agency (JAEA) to cope with nuclear tests by North Korea, and describes a series of activities by NEAT regarding predictions of atmospheric dispersion of radionuclides in response to the 5th and 6th nuclear tests carried out by North Korea in September 2016 and September 2017. Future plans and issues to be solved for responses to nuclear tests are also described in this report, together with an outline of a computer program system used in the predictions.

Keywords: Nuclear Test, Prediction of Atmospheric Dispersion, WSPEEDI-II system

+ Environment and Radiation Sciences Division, Nuclear Science and Engineering Center

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目次

1. はじめに... 1 2. 北朝鮮による地下核実験の対応体制 ... 3 2.1. 我が国における対応 ... 3 2.2. 原子力機構における対応 ... 4 3. 北朝鮮による地下核実験対応に備えたシステム... 7 3.1. WSPEEDI-II システム ... 7 3.2. WSPEEDI-II 自動計算システム ... 10 3.3. 支援ツールの構築 ... 22 4. 北朝鮮による地下核実験への実対応 ... 29 4.1. 5 回目の地下核実験 ... 29 4.2. 6 回目の地下核実験 ... 32 5. 今後の計画と検討課題 ... 35 5.1. WSPEEDI-II 自動計算システムの移管・整備 ... 35 5.2. 検討課題 ... 37 6. おわりに... 38 謝辞 ... 40 参考文献 ... 41

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Contents

1. Introduction…….………..1

2. Frameworks of responses to nuclear tests by North Korea………..……3

 2.1. Responses in Japan………..………3

 2.2. Responses in JAEA...………...………...4

3. Preparation of systems for nuclear tests by North Korea..………7

 3.1. WSPEEDI-II system………..………7

 3.2. WSPEEDI-II automatic calculation system……….10

 3.3. Development of support tools………..………22

4. Responses to nuclear tests by North Korea..………..………29

 4.1. The 5th nuclear test by North Korea.…..……….29

 4.2. The 6th nuclear test by North Korea………32

5. Future plans and Issues to be solved………..………35

 5.1. Transfer and preparation of WSPEEDI-II automatic calculation system..35

 5.2. Issues to be solved……….………..37

6. Conclusions…….………38

Acknowledgements………..………..40

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1. はじめに

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構という)は、災害対策基 本法(以下、災対法という)及び武力攻撃事態対処法(以下、事態対処法という)におい て指定公共機関に指定されており、国内で原子力事故等が発生した際には、原子力緊急時 支援・研修センター(以下、支援・研修センターという)が中心となり、国や地方公共団 体に対して、原子力機構の専門家の派遣、防災資機材の提供、事故の評価・解析等の技術 支援等を実施することとしている。さらに、国外における核実験や原子力事故等に伴う我 が国への放射線影響評価に関する協力要請に対しても、従前より積極的な支援を行ってき た。  北朝鮮は、北東部の豊渓里(プンゲリ:北緯41.3 度、東経 129.2 度)に建設された核実 験場において、平成18 年 10 月から平成 29 年 9 月まで全 6 回の地下核実験を実施した。地 下核実験の場合には、実験坑道を覆う岩板等に亀裂がなく坑道が完全に閉鎖されている状 況で実施されるため、一般的に放射性物質が大気中に放出されることは想定されないが、 我が国として万全を期す観点から、モニタリングの強化という対応措置が講じられた。こ の措置を効果的かつ効率的に行うための参考資料として、原子力機構は、2 回目の核実験対 応から 4 回目を除いて現時点まで文部科学省または原子力規制庁から、放射性物質の一定 単位放出率を仮定した大気拡散予測計算を実施することを要請された。  平成28 年 9 月に実施が発表された北朝鮮による 5 回目の地下核実験に対して、支援・研 修センターは、原子力基礎工学研究センター(以下、基礎工センターという)が開発した WSPEEDI-II(Worldwide version of System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information-II:世界版緊急時環境線量情報予測システム第 2 版)1)-4)の北朝鮮地下核 実験対応に特化した自動計算システムを用いた大気拡散予測計算結果を原子力規制庁に提 供した。この予測結果は、防衛省の航空自衛隊機による高空の大気浮遊じん等の試料採取 計画策定の参考資料として用いられた。  平成29 年 9 月には、北朝鮮による 6 回目の地下核実験実施の報道を受け、5 回目の対応 の場合と同様に、支援・研修センターは基礎工センターの協力を得て、放射性物質の大気 拡散予測計算を行い、予測結果を原子力規制庁に提供した。この予測結果は同様に防衛省 の航空自衛隊機による試料採取計画策定に活用された。  本報告書では、北朝鮮による地下核実験に対する国及び原子力機構の対応体制を説明す るとともに、5 回目及び 6 回目の地下核実験を主たる対象として、支援・研修センターが実 施した大気拡散予測に関する一連の対応活動を記述する。さらに、予測計算に使用した計 算プログラムシステムの概要について説明するとともに、北朝鮮地下核実験対応における 今後の計画と検討課題を記述する。 なお、本報告書では関係各省庁名は対応当時の名称で記載しているが、平成25 年 4 月を もって、放射線モニタリングに係る所管は文部科学省から原子力規制庁に移管された。こ

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れにより、放射能対策連絡会議に規定された文部科学省の役割等の多くを現在は原子力規 制庁が担うこととなった。

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2. 北朝鮮による地下核実験の対応体制

2.1.㻌 我が国における対応  我が国において、原子力施設における災害や放射性物質に係る災害が発生した場合には、 その発災原因に応じて、災対法、原子力災害対策特別措置法(以下、原災法という)、事態 対処法及び武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(以下、国民保 護法という)に基づいた対応がなされる。原子力機構は、災対法及び事態対処法において 指定公共機関に指定されており、これらの災害が発生した際は、緊急時モニタリング等の 支援活動を行う。  一方、国外で発生した原子力事故等への対応については、前述の法律には明確には記載 されておらず、広く緊急事態全般を対象とした「緊急事態に対する政府の初動対処体制に ついて(平成15 年 11 月 21 日閣議決定)」5)に基づき、官邸対策室の設置や緊急参集チーム の召集が行われる。特に、放射性物質の影響が想定される事象については、内閣官房副長 官を議長とする放射能対策連絡会議による対応が行われる。なお、国外の原子力事故等に おける当該国等への支援については、国際原子力機関(IAEA)の緊急時対応援助ネットワ ーク(RANET:Response and Assistance Network)6)に基づき、原子力機構等の事前に

登録された機関が対応する。  放射能対策連絡会議は、「放射能対策連絡会議の設置について(平成15 年 11 月 21 日内 閣官房長官決裁)」7)に基づき内閣官房に設置されており、緊急事態に至らない場合も含め、 我が国に放射性物質または放射線による周辺環境への影響または社会的影響を及ぼす恐れ のある原子力関係事象について、放射能(線)測定・分析の充実、人体に対する影響に関 する研究の強化、放射能に対する報道・勧告・指導、その他放射能対策に係る諸問題につ いて、関係機関の相互の連絡・調整を緊密に行う。  放射能対策連絡会議では、「国外における原子力関係事象発生時の対応要領(平成17 年 2 月23 日)」8)を定めており、この中で、対象とする事象を「国外で発生する原子力関係事象 であって、我が国に放射性物質または放射線による周辺環境への影響または社会的影響を 及ぼすおそれのあるもの。」とし、放射能対策連絡会議の対応について以下のように分類し ている。 (1) 緊急事態と判断される事象 政府として緊急事態へ対応する。放射能対策連絡会議は以下の対応を行う。 ・内閣危機管理監等より指示のあった場合は、モニタリングの強化等の必要な対応を 講じる。 ・必要に応じて、適宜、放射能対策連絡会議またはその幹事会を開催し、フォローア ップ等を行う。 (2) 放射性物質または放射線による周辺環境への影響または社会的影響から対応が必要と 判断される事象

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必要に応じて、放射能対策連絡会議またはその幹事会を開催し、以下の通り対応する。 ①原子力関係事象が異常事象であると想定される場合 ・必要に応じて、国内においてモニタリングの強化を実施 ・必要に応じて、対応方針を決定 ②原子力関係事象が警戒事象であると想定される場合 ・情報の集約、状況の把握等を実施  上記の対応のうち、モニタリングの強化については、「国外における原子力関係事象発生 時の「モニタリング強化」の実施について(平成17 年 2 月 23 日)」9)を別途定め、文部科 学省(平成25 年 4 月以降は原子力規制庁)によるモニタリング強化の結果についての取り まとめや関係各省庁の役割分担について示している。この中で、文部科学省(平成25 年 4 月以降は原子力規制庁)の役割の1 つとして、「必要に応じて、日本原子力研究開発機構等 に大気浮遊じん等の放射能の測定を依頼するなど、モニタリング強化への協力を要請する ものとする。」と規定されている。  平成18 年 10 月から平成 29 年 9 月まで北朝鮮により 6 回の地下核実験が実施されたが、 これら核実験の都度に放射能対策連絡会議またはその幹事会が招集され、上記の「モニタ リング強化」の取決めに従って「当面の対応措置」が議論・決定された10)-15)。地下核実験 の場合は、一般的に放射性物質が大気中に放出されることは想定されないが、万全を期す 観点から、モニタリングの強化、関係各国等からの情報収集、広報体制の強化といった措 置が講じられた。  モニタリングの強化のうち、防衛省による航空自衛隊機を用いた高空の大気浮遊じん等 の採取・測定では、試料採取の大凡の領域と高度を決めるため「モニタリング実施の参考 情報として、(国研)日本原子力研究開発機構において、単位量の放射性物質の放出を仮定 した拡散計算を行う。」こととされた。6 回の地下核実験のうち、平成 25 年 2 月に実施され た 3 回目の核実験以降、大気拡散予測計算の実施とその位置付けが「当面の対応措置」に 明記された。 2.2.㻌 原子力機構における対応  平成18 年 10 月から平成 29 年 9 月まで北朝鮮により 6 回の地下核実験が実施されたが、 原子力機構は文部科学省または原子力規制庁から、「モニタリング強化」の取決めに記述さ れた環境試料の採取・分析や空間放射線量率の測定を要請されたことはこれまでになかっ た。一方、1 回目と 4 回目の核実験を除いたすべての核実験対応において、原子力機構は文 部科学省または原子力規制庁から、放射性物質の一定単位放出率(1 Bq/h)を仮定した大 気拡散予測計算を実施することを要請された。各核実験対応において、予測計算の実施は 核実験実施日から開始され、放射能対策連絡会議による「当面の対応措置」が解除され平 常体制に戻るまで、1 週間から 10 日間程度継続された。4 回目の核実験では、原子力規制 庁からの委託により(公財)原子力安全技術センターが対応した(詳細は本節に後述)。

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 平成21 年 5 月に、北朝鮮による 2 回目の地下核実験が実施された際、文部科学省からの 要請により原子力基礎工学研究部門(基礎工センターの前身組織:以下、基礎工部門とい う)では、環境動態研究グループが開発したWSPEEDI-II システム(詳細は 3.1 節に記述) を用いて放射性物質の大気拡散予測計算を実施し、文部科学省に予測結果を報告した。こ の核実験に対する予測結果は文部科学省のホームページ(以下、HP という)を通じて毎日 公開された 16)。その後、北朝鮮による地下核実験対応については、原子力緊急時対応に関 する指定公共機関として国や地方自治体からの支援要請を受信・調整する役割を担う支 援・研修センターが対応窓口となり、WSPEEDI-II システムの開発部署である基礎工部門 と連携して実施することとなった。  平成24 年 4 月に、北朝鮮による 3 回目の地下核実験の実施可能性が高まったとの報道を 受け、支援・研修センターでは基礎工部門と連携して、夜間・休日を含めた24 時間の対応 体制を構築し、平成25 年 3 月までの約 11 か月に渡って同体制を維持・継続した。この間、 北朝鮮による3 回目の地下核実験が行われたとされる平成 25 年 2 月 12 日から 22 日まで、 支援・研修センター及び基礎工部門では、WSPEEDI-II システムによる放射性物質の大気 拡散予測計算を実施し、文部科学省に予測結果を報告した。予測結果は文部科学省の HP を通じて毎日公開された17)  上記の体制構築の当初では、文部科学省からの予測計算の要請に対して、担当者が WSPEEDI-II システムを使用して手動で予測計算を実施した。しかし、北朝鮮核実験対応 をより短期間で効率的に実施し、かつ担当者の負担を軽減するため、基礎工部門では北朝 鮮核実験対応に特化したWSPEEDI-II 自動計算システム(詳細は 3.2 節に記述)を構築し た。自動計算システムでは、これまでの北朝鮮核実験対応の経験に基づいて、計算領域、 計算条件、入力パラメータ、出力パターンなどが予め最適化・設定されている。ここでは、 毎正時を放出開始とした24 時間放出を想定した予測計算を定期的に実行し、必要な予測結 果図の作成までしておくことにより、核実験が実施された場合には迅速に予測結果をまと めた資料を作成することができる。WSPEEDI-II 自動計算システムの概要については、 WSPEEDI-II システムとともに第 3 章に記述する。平成 24 年度以降における上記一連の体 制構築と実対応については、「北朝鮮による地下核実験に備えた放射性物質の拡散予測体制 の構築と実対応(JAEA-Technology 2013-030)」18)にまとめられている。  平成25 年 4 月に北朝鮮核実験対応が文部科学省から原子力規制庁へ移管された後、原子 力規制庁は原子力安全技術センターへの委託により、基礎工部門の協力の下で同センター にWSPEEDI-II システムの運用体制を構築した。その際、それまでの北朝鮮核実験対応へ の原子力機構の貢献に対して原子力規制庁から「感謝状」が送られ(平成26 年 4 月 25 日 付)、以後の北朝鮮核実験対応に対する原子力機構の関与は一旦なくなった。平成 28 年 1 月に北朝鮮による4回目の地下核実験実施に伴い、原子力安全技術センターがWSPEEDI-II システムによる放射性物質の大気拡散予測計算を実施した。予測結果は原子力規制庁のHP を通じて毎日公開された19)

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 平成28 年 1 月末に原子力規制庁が原子力安全技術センターへの委託を終了したため、以 降の北朝鮮核実験実施に際しては、原子力規制庁からの要請文書(平成28 年 4 月 25 日付) に基づいて支援・研修センターが再び対応することとなり、本対応の位置付けを再確認す るとともに対応体制を再構築した。支援・研修センターでは、原子力規制庁から大気拡散 予測計算の緊急要請を受けた際には、国内における原子力緊急事態に関する指定公共機関 としての初動対応を定めた「原子力緊急事態及び武力攻撃事態等における初動対応」に準 じて対応することとした。気象庁が地震波から推定した核実験の実施日時と実施地点を原 子力規制庁から受信した後、計算条件や出力パターン等が予め最適化・設定されている WSPEEDI-II 自動計算システムを用いた放射性物質の大気拡散予測計算結果から、報告資 料の作成を実施する。核実験対応には迅速性と正確性が求められるため、担当者全員が迅 速かつ正確に対応できるように、「報告資料作成ツール」と、核実験実施翌日以降の計算条 件に切替えるための「計算モード切替ツール」という2 つの支援ツールを別途構築した(詳 細は3.3 節に記述)。  平成28 年 9 月に北朝鮮による 5 回目の地下核実験実施を受け、支援・研修センターでは 基礎工センター(基礎工部門の後継組織)の協力の下、9 月 9 日から 15 日にかけて WSPEEDI-II 自動計算システムによる放射性物質の大気拡散予測計算を用いて、原子力規 制庁に予測結果を報告した(詳細は4.1 節に記述)。予測結果は原子力規制委員会の HP を 通じて毎日公開された20)  平成29 年 9 月に北朝鮮による 6 回目の地下核実験が実施され、支援・研修センターでは 基礎工センターの協力を得て、9 月 3 日から 11 日にかけて WSPEEDI-II 自動計算システム による放射性物質の大気拡散予測計算を用いて、原子力規制庁に予測結果を報告した(詳 細は4.2 節に記述)。予測結果は原子力規制委員会の HP を通じて毎日公開された21)

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3. 北朝鮮による地下核実験対応に備えたシステム

3.1.㻌 WSPEEDI-II システム

 日本原子力研究所(現・原子力機構)は、1979 年に発生したスリーマイル島原子力発電 所事故(米国)を契機に、緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI:System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information)の開発を開始し、1984 年に基本システ ムを完成させた22)SPEEDI は、国内の原子力施設等の事故により環境中に放出された放 射性物質の拡散状況や被ばく線量を迅速に予測計算するシステムであり、日本で初めて開 発された緊急時のための大気拡散計算システムである。1986 年に文部科学省の委託により SPEEDI の原子力安全技術センターへの移管及び運用が開始され、その後、日本原子力研 究所によりSPEEDI は機能向上等の改良が進められた。1999 年の東海村 JCO 臨界事故を 受け 2000 年に施行された災対法に基づく原子力災害対策マニュアルにおいて、SPEEDI は国の原子力防災対策を支援する中核的システムとして正式な位置付けが確立した23) SPEEDI の基本システムの完成後、1986 年にチェルノブイリ原子力発電所事故(旧ソ連、 現ウクライナ)が発生した。この事故により環境中に放出された放射性物質は、国境を越 えて非常に広範囲に拡散し、ウクライナやロシア等に留まらず、我が国にまで及んだ。 SPEEDI は、事故地点を含む約 100km 四方までの計算領域を想定しているため、このよう な非常に広範囲に及ぶ拡散状況を予測することはできない。このチェルノブイリ原子力発 電所事故を契機に、広域にわたる放射性物質の拡散を迅速に予測する必要性が認識される ようになり、日本原子力研究所では世界の任意地点における原子力施設等の事故に対応可 能な世界版SPEEDI(WSPEEDI:Worldwide version of SPEEDI)の開発を開始し、1997 年に世界版緊急時環境線量情報予測システム第1 版(WSPEEDI-I)が完成した。

WSPEEDI-I は気象モデルと大気拡散モデルで構成されており、質量保存風速場モデル WSYNOP と粒子型大気拡散モデル GEARN から構成されている。WSYNOP は、日本原子 力研究所で開発され、その後検証・改良が進められた気象モデルであり 24)GEARN も同 様に日本原子力研究所で開発された大気拡散モデルである25)WSPEEDI-I の完成により、 地形の影響による放射性プルームの分岐や山越えなど、複雑な拡散現象の計算を可能にし た。WSPEEDI-I は、チェルノブイリ原子力発電所事故への適用により計算性能が検証され た他、スペインのアルヘシラスでの137Cs 誤焼却事故における大気拡散解析に使用された。 これらの使用経験から、大気渦による拡散過程や降雨による湿性沈着過程の再現精度、使 用する気象データの精度が気象予測計算に大きく依存することによる局地的な拡散計算の 精度、緊急時対応システムとして重要となる放出源の推定機能の必要性など、WSPEEDI-I における課題が明らかになった。日本原子力研究所ではこれらの課題を解決するための研 究が進められ、原子力機構となった2009 年 2 月に世界版緊急時環境線量情報予測システム 第2 版(WSPEEDI-II)を完成させた1)-4)

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SPEEDI 及び WSPEEDI における特徴の比較をまとめたものを表 3-1 に示す。 WSPEEDI-II は、気象モデルとしてペンシルバニア州立大学(PSU)及び米国大気研究セ ンター(NCAR)で開発された MM5 を導入しており、大気拡散モデルは WSPEEDI-I で 採用していたGERAN を MM5 の出力に対応できるよう改良したモデルが導入されている (図 3-1 参照)。新たに導入された MM5 で計算される 3 次元気象場計算では雲生成過程や 降水過程等が詳細に考慮されており、より高精度な乱流拡散や湿性沈着が計算できるよう になっている。局地的な拡散計算における課題については、MM5 及び改良版 GEARN に実 装されているネスティング機能により解決されている。ネスティング機能とは、局地的な 領域について効率的かつ高解像度で計算する機能である。格子間隔の大きい広域計算領域 の中に詳細格子の局地計算領域を設定し、領域間の大気及び放射性物質の流出入の整合性 を考慮して計算することで、局地的な領域における拡散計算の精度を向上させるだけでな く、計算コストが削減され迅速な影響評価が可能となった。またWSPEEDI-II ではモニタ リングポスト情報から放出源の推定が可能となっており、放出点、放出開始時刻、放出継 続時刻、放出量の 4 つの放出条件を推定対象としている。その他、国外システムとの間で 予測結果の比較検討ができる国際予測情報交換機能や、MM5 の計算で使用される全球数値 予報データ(GPV データという。詳細は 3.2.4 で後述する。)を GPV 配信機関から WSPEEDI-II に自動転送する機能や、Web ベースの GUI によるシステム操作機能などが 実装され、より利便性の高いシステムとなった。出力機能については、大気中濃度(Bq/m3 地表沈着量(Bq/m2、空気吸収線量率(μGy/h)、外部被ばく線量(mSv)、吸入摂取によ る内部被ばく線量(mSv)について計算結果を描画出力することができ、出力時間間隔は 任意に設定できる。 WSPEEDI-II は、欧州における広域野外拡散実験データやチェルノブイリ原子力発電所 事故時の137Cs データを用いたモデル検証等により、WSPEEDI-I と比較して高解像度化に よる精度向上や高度な物理過程の考慮による再現性の向上が実証されており、福島第一原 子力発電所事故の大気拡散解析や、北朝鮮地下核実験の大気拡散予測で使用された実績が ある。また、中国大陸から下層ジェット気流により日本に輸送されるイネウンカ類と呼ばれ る害虫の飛来予測にも適用されており、原子力以外の分野においても実績を残している26)

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表 3-1 SPEEDI 及び WSPEEDI における特徴の比較

計算コード SPEEDI WSPEEDI-I WSPEEDI-II

気象モデル 大気力学モデル (PHYSIC) 質量保存風速場モデル (WSYNOP) 大気力学モデル (MM5) 質量保存風速場モデル (WIND21) 大気 拡散モデル 粒子拡散モデル (PRWDA21) 粒子型大気拡散モデル (GEARN) 粒子型大気拡散モデル (GEARN) 計算領域 事故地点周辺 (25km~100km 四方、鉛直2000m) 狭域を除く 地球上の任意の領域 (水平百km~数千 km、鉛直 10km) 地球上の任意の領域 (水平数十km~数千 km、鉛直 10km) 最小 解像度※ 水平 250m 10km 程度 1km 程度 鉛直 10m 20m 程度 20m 程度 格子数※ 水平 100×100 100~200 程度 100~200 程度 鉛直 20 層 20~30 層程度 20~30 層程度 図 3-1 WSPEEDI-II の計算モデル ※ 最小解像度及び格子数はユーザによって設定するパラメータであり、ここでは典型的な設定範囲を記述 している。

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3.2.㻌 WSPEEDI-II 自動計算システム  北朝鮮による地下核実験対応の体制を構築した当初は、WSPEEDI-II システムに計算領 域、気象条件、放出条件、出力パターン等を手動で設定し、拡散予測を実施していた。し かし、不測のタイミングで実施される地下核実験の突発性や、10 日前後にわたる対応の継 続性を考慮し、基礎工センターは地下核実験対応に特化したシステムとして、WSPEEDI-II 自動計算システムを構築した。本節では、WSPEEDI-II 自動計算システムに設定されてい る計算条件や、システム概要、自動計算システムを利用した対応について記述する。 3.2.1. 計算条件の設定  WSPEEDI-II 自動計算システムでは、原子力機構と原子力規制庁の協議の下、地下核実 験時の放射性物質の拡散状況を把握するために最適と考えられる計算条件が予め設定され ている。計算条件の中でも、計算領域や放出核種のように基本的に毎回の核実験において 固定的な計算条件と、放出位置や放出開始時刻のように変動的な計算条件がある。固定的 な計算条件については、自動計算システム内で自動設定されており、変動的な計算条件に ついては担当者によって適宜変更可能となっている。  地下核実験における放射能拡散予測の計算内容を表 3-2 にまとめた。計算条件の設定理 由18)について下記に示す。 (1) 放出位置  放出位置は、核実験場が建設されている北朝鮮北東部の豊渓里(プンゲリ:北緯41.3 度、 東経 129.2 度)として事前予測計算を実施している。放出点座標の詳細については原子力 規制庁から送付される要請文書に記載されており、気象庁が観測した地震波の震源情報に 基づき決定される。放出位置が事前設定と異なる場合は、担当者によってWSPEEDI-II 自 動計算システムの設定を適宜変更している。 (2) 放出高度  核実験場から放射性物質が漏れ出す場合、地表から放出されると想定できる。そのため、 自動計算システムでは、放出高度を地上高さ1m に設定している。 (3) 計算範囲  計算範囲は、豊渓里にある核実験場から放出された放射性物質による日本への影響範囲 を確認できるように、日本全域及び放出位置にあたる北朝鮮を含む 3000km 四方に設定さ れている。

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(4) 水平格子数及び水平解像度  WSPEEDI-II では計算領域を格子で分割し、各格子について計算を行っており、格子数 が多いほど計算時間が長くなる。WSPEEDI-II 自動計算システムでは、計算精度と計算時 間を考慮し、水平格子数を150×150、水平解像度を 20km に設定している。 (5) 対象核種 対象核種は、131I(ヨウ素 131)、133Xe(キセノン 133)、137Cs(セシウム 137)の 3 核種 の放出を想定し設定されている。希ガスである133Xe は核実験時に放出しやすい核種であり、 降水による湿性沈着がないことから他の核種に比べて拡散範囲が広くなると予測され、航 空機モニタリングの実施場所の選定に適していると考えられるため、設定された経緯があ る。131I 及び137Cs については、原子力規制庁が実施する地上での大気浮遊じんの採取にお ける核種分析の対象であるため、設定されている。 (6) 放出量  地下核実験により放出される放射性物質の量を推定することは困難であるため、一定連 続による単位放出率(1Bq/h)と仮定した。 (7) 出力高度  拡散予測結果の出力高度は、地上、上空1000m、上空 2000m、上空 3000m とした。地 上については、地上での大気浮遊じん等の採取・測定の参考情報として設定している。上 空1000m 及び上空 2000m については、鉛直方向における放射性プルームの動きを確認で きるように設定している。上空3000m については、過去に実施した拡散予測において、放 射性物質の到達高度が上空3000m 程度であったことから、出力高度を上空 3000m に設定 した経緯がある。 (8) 放出開始時刻及び放出継続時間  放出開始時刻及び放出継続時間は、過去の計算条件を参考に設定している。  初日は、核実験実施時刻に近い正時を放出開始時刻としており、その後24 時間放射性物 質の放出が継続するという仮定の下で拡散予測を実施する。正式な放出開始時刻について は、地下核実験実施後に原子力規制庁から送付される要請文書に記述されており、気象庁 が地震波を観測した時刻に基づき推定している。2 日目は、初日に設定した放出開始時刻及 び地下核実験実施2 日目の 0 時を放出開始時刻とした 2 ケースを想定し、それぞれ 24 時間 放出として拡散予測を実施する。3 日目以降については、計算実施日の前日 0 時及び計算実 施日0 時を放出開始時刻とした 2 ケースを想定し、いずれも 24 時間放出とした。これは地 下核実験が実施されてしばらく時間が経過した後に放射性物質が漏れ出すことを考慮した ためである。

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(9) 出力時刻  拡散予測結果の出力は、過去の出力方法を参考に、放射性プルームの動きを確認できる3 時間間隔に設定している。  出力時刻は、計算実施日の翌日9 時、12 時、15 時及び 18 時としている。以前は、核実 験実施日において上記の出力に加え、核実験実施当日における放出開始時刻の3 時間後、6 時間後、9 時間後、12 時間後について出力していたが、核実験実施当日に拡散予測結果を 航空自衛隊機の航空ルートの参考資料とすることは難しいため、現在は上記の出力のみと している。 表 3-2 地下核実験における放射能拡散予測の計算内容 計算 実施日 対象核種 放出時間 ※1 出力結果※2 出 力 数 初日 131I 133Xe 137Cs <3 パターン> 計算開始時刻から 24 時間後まで 2 日目の 9、12、15、18 時 <4 パターン> 地上 上空1000m 上空2000m 上空3000m <4 パターン> 48 2 日目 131I 133Xe 137Cs <3 パターン> 初日の計算開始時刻 から24 時間後まで 3 日目の 9、12、15、18 時 <4 パターン> 地上 上空1000m 上空2000m 上空3000m <4 パターン> 48 2 日目の 0 時から 同日の24 時まで 48 3 日目 以降 131I 133Xe 137Cs <3 パターン> 計算実施前日の 0 時から 同日の24 時まで 計算実施翌日の 9、12、15、18 時 <4 パターン> 地上 上空1000m 上空2000m 上空3000m <4 パターン> 48 計算実施日の 0 時から 同日の24 時まで 48 ※1 放出条件は一定単位放出率(1Bq/h)を想定。 ※2 出力対象は大気中濃度(Bq/m3)である。 3.2.2. 計算モード  WSPEEDI-II 自動計算システムは、表 3-2 に示すように、各計算実施日によって放出時 間や出力パターンといった計算条件が異なるため、核実験実施当日用の計算モード、核実 験実施2 日目用の計算モード、核実験実施 3 日目以降用の計算モードの 3 つの計算モード

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が用意されている。これらの計算モードを以下、初日モード、2 日目モード、3 日目以降モ ードという。また、核実験実施当日用の計算モードには例外として初動モードという計算 モードが用意されており、前述した変動的な計算条件の1 つである放出点の設定を変更し、 再計算を実施する必要がある場合に使用する。これら 4 つの計算モードについての詳細説 明を以下に記述する。 (1) 初日モード  初日モードは、核実験実施当日の拡散予測計算に使用する計算モードである。平常時は 初日モードに設定されており、各正時において24 時間放出することを想定した予測計算を 毎日自動出力することで、核実験実施時においても迅速に対応することができる。初日モ ードにおけるWeb ページへの出力結果を図 3-2 に示す。なお、放出位置の設定を変更し再 計算を実施する必要がある場合は、後述する初動モードを使用する必要がある。 (2) 2 日目モード  2 日目モードは、核実験実施翌日の拡散予測計算に使用する計算モードである。2 日目の 計算では、初日の計算開始時刻(放出開始時刻)から24 時間放出すると仮定し、自動計算 システムで設定されている放出開始時刻を使用して拡散予測計算を実施している。前述の 通り、放出開始時刻は変動的な計算条件の 1 つであるため、正しく設定されていないと正 常な拡散予測結果が得られないことに注意する必要がある。 (3) 3 日目以降モード  3 日目以降モードは、核実験実施翌々日以降の拡散予測計算に使用する計算モードである。 3 日目以降の計算においては、表 3-2 に示すように計算条件に変更がないため、全て 3 日 目以降モードで対応する。 (4) 初動モード  初動モードは、核実験実施当日に再計算を実施する場合に使用する計算モードである。 通常、WSPEEDI-II 自動計算システムは、前回の地下核実験対応時に使用した放出位置が 設定されており、その放出位置で地下核実験が実施されることを想定し、毎日拡散予測計 算を実施している。しかし前述の通り、放出位置は気象庁が観測した地震波の震源情報に 基づいて推定されるため、前回の地下核実験と放出位置が異なる場合が考えられる。放出 位置が前回の地下核実験と異なる場合、WSPEEDI-II 自動計算システムに設定されている 放出位置を変更し、再計算を実施する必要がある。初日モードで再計算を実施すると、各 正時における24 回分の拡散予測結果を出力するが、初動モードでは設定した放出開始時刻 による拡散予測結果のみを出力するため、放出開始時刻が確定している場合には、最も適 した再計算モードである。

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図 3-2 WSPEEDI-II 自動計算システムにおける Web ページへの出力結果(初日モード) 3.2.3. WSPEEDI-II 自動計算システムによる地下核実験対応  WSPEEDI-II 自動計算システムを用いた地下核実験対応の流れを図 3-3 に示す。 核実験実施初日は、まず地下核実験が実施されると、原子力規制庁よりWSPEEDI-II に よる拡散予測計算の要請を受ける。要請文書には放出条件として放出開始時刻(すなわち 地下核実験実施時刻)と放出位置がそれぞれ記されている。提示された放出位置が WSPEEDI-II 自動計算システムで設定している放出位置と異なる場合、放出開始時刻及び 放出位置の設定を変更し、初動モードで再計算を実施する。再計算の終了後、出力された 拡散予測図を報告資料にまとめる。放出位置の変更の必要がない場合は、初日モードで出 力されている拡散予測図を報告資料にまとめる。担当者 2 人による報告資料のダブルチェ ックを行い、問題がないことを確認後、原子力規制庁へ送付する。その後、提示された放

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出開始時刻が設定されていない場合はそれを設定し、計算モードを 2 日目モードに変更す る。設定した放出開始時刻は、3.2.2 で記述の通り核実験実施翌日の 2 日目モードの計算に 使用される。 核実験実施翌日は、まず 2 日目モードの計算によって出力された拡散予測図を報告資料 にまとめる。担当者2 人で報告資料のダブルチェックを実施後、原子力規制庁へ送付する。 対応完了後、計算モードを3 日目以降モードに変更する。 核実験実施翌々日以降は、これまでと同様に 3 日目以降モードの計算により出力された 拡散予測図を報告資料にまとめ、担当者 2 人によるダブルチェック実施後、原子力規制庁 へ送付する。原子力規制庁からモニタリング強化体制終了の連絡を受けるまで、本対応を 毎日継続する。

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3.2.4. 気象予報データ

 気象庁では、全球数値予報モデルGSM(Global Spectral Model)により、GSM(全球 域)とGSM(日本域)の 2 種類の気象予報データを GPV(Grid Point Value)として GRIB2 形式と呼ばれるデータ形式で提供している。便宜上、GSM(全球域)及び GSM(日本域) の気象予報データをそれぞれ全球GPV データ及び日本 GPV データという。WSPEEDI-II システムやWSPEEDI-II 自動計算システムでは、全球 GPV データを初期条件及び境界条 件として用いて気象場のシミュレーション計算を行っている。以下では、全球GPV データ の概要及びWSPEEDI-II 自動計算システムへの使用について記述する。 (1) 全球 GPV データの概要 地下核実験対応では、全球GPV データを使用して拡散予測計算を実施しているため、こ こでは全球GPV データの概要について記述する。全球 GPV データの概要についてまとめ たものを表 3-3 に示す。 全球GPV データは、初期時刻に格納される初期解析値と、以降 6 時間間隔で格納される 予報値で構成されている。初期解析値とは、地上観測などで得られる観測データを数値シ ミュレーションモデルに取り入れるデータ同化という手法を用いて、より現実的な気象場 を再現した値である。 予報値は、初期解析値に基づき、全球数値予報モデルGSM を用いて気象場を予測計算し た値である。過去の解析計算などにおいては、初期解析値を使用することで精度の高い計 算結果が期待できるが、将来予測が求められる拡散計算では、計算期間を補うために予報 値を使用する必要がある。そのため拡散予測計算では、最新の全球GPV 予報データを使用 することで再現性を高める。

全球GPV データでは協定世界時(Coordinated Universal Time:UTC)を採用してお り、初期時刻を00UTC、06UTC、12UTC、18UTC とし、1 日 4 回配信されている。基礎 工センターでは、(一財)気象業務支援センターから4 時(初期時刻 12UTC データ)、9 時 30 分(初期時刻 18UTC データ)、13 時(初期時刻 00UTC データ)、19 時(初期時刻 06UTC データ)の1 日 4 回全球 GPV データを受信している。計算実施時点で受信している最新の 全球GPV データを使用することにより、より精度の高い拡散予測計算を行うことができる。 全球GPV データの予報時間は、通常初期時刻から 6 時間間隔で 84 時間後までとなって おり、初期時刻が12UTC のデータに限り、その後の 96~264 時間までの 12 時間間隔の予 報値が格納されている。なおWSPEEDI-II 自動計算システムでは、96~264 時間後までの 予報データは使用していない。

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表 3-3 全球 GPV データの概要27) データの種類 GSM(全球域) 初期時刻 00UTC、06UTC、12UTC、18UTC(1 日 4 回) 予報時間 ・84 時間予報(初期時刻:00、06、12、18UTC)  6 時間間隔 ・96~264 時間予報(初期時刻:12UTC)  12 時間間隔 水平解像度 0.5 度(約 50km) 配信領域 全球 物理量 地上:海面更正気圧、地上気圧、風、気温、相対湿度、積算降水量、 雲量 気圧面:高度、風、気温、相対湿度、上昇流 (2) MM5 と全球 GPV データの使用理由  気象庁では、全球数値予報モデルGSM により全球 GPV データと日本 GPV データを提 供しているが、日本 GPV データの配信領域は、計算対象範囲全体を含んでいないため、 WSPEEDI-II 自動計算システムでは全球 GPV データを使用している。全球 GPV データは、 上述したようにデータ同化により現実的な気象場を再現しているが、表 3-3 に示すように 時間間隔が6 時間、水平格子間隔が約 50km であるため、時間的・空間的スケールの大き い気象データである。気象データは拡散予測計算をする上で大きく影響するため、拡散予 測精度を高めるためには全球GPV データよりも高解像度かつ高精度な気象データが必要と なる。また、配信されるGPV データには、拡散係数や雲や降水の 3 次元分布など拡散計算 に必要となる物理量が含まれていない。そこで、WSPEEDI-II システムでは高精度な拡散 予測計算を実現するために、気象モデルMM5 によって計算された気象場を使用している。 3.1 で記述したように、MM5 はネスティングの技術により水平解像度およそ 1km まで対応 しており、時間解像度においても 1 時間間隔の気象データを生成することができるため、 全球 GPV データと比較して非常に高解像度な気象計算を行うことができる。また、MM5 では標高、植生、土地利用等を含む地球規模地理データから計算領域の地形データを作成 しており、地形の起伏等の影響を考慮した気象シミュレーションを行っている。MM5 の気 象計算では、全球GPV データの格子点値を初期条件・境界条件として予報方程式を数値的 に解くことで気象予測を行っており、拡散計算に必要となる各種大気物理量を取得できる。 また、ナッジング法と呼ばれるデータ同化により予報方程式の数値解が全球GPV データの 格子点値を大きく乖離しないように計算することができる。以上のことから、WSPEEDI-II システムでより高精度な拡散予測計算を行うために、MM5 及び全球 GPV データが使用さ れている。

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(3) WSPEEDI-II 自動計算システムに使用される全球 GPV データ WSPEEDI-II 自動計算システムでは、拡散予測計算に必要な最新の全球 GPV データを自 動的に選択・使用し、毎日拡散予測計算を行うという一連の流れが自動化されている。こ こでは、全球GPV データがどのように WSPEEDI-II 自動計算システムに選択・使用され、 拡散予測計算が行われるのかを記述する。 WSPEEDI-II 自動計算システムの各種設定期間を図 3-4 に示す。なお、核実験実施時刻 を 12 時(03UTC)と想定している。WSPEEDI-II 自動計算システムでは、毎朝 5 時 30 分に拡散予測計算を開始し、表 3-2 に示す拡散予測結果を出力しているが、原子力規制庁 からの様々な要請を想定し、計算開始から 3 日後までの気象計算を実施している。気象計 算では、拡散計算に必要となる乱流、雲、降水等の予報変数を安定化するために、拡散予 測計算の開始時刻より前に数時間の助走期間を設ける必要がある。また、3 日目以降は前日 0 時(前々日 15UTC)からの放出の計算を実施するため、全ての計算モードにおいて計算 実行日の前々日21 時(前々日 12UTC)を初期値とした GPV データの初期時刻を気象計算 の開始時刻とし、4 日目 9 時(4 日目 00UTC)まで気象計算を行っている。また、計算開 始時刻におけるGPV データは初期条件として使用され、その後の計算終了時刻までの期間 については、6 時間毎の GPV データが境界条件に使用される。  3.2.4(1)で述べたように、全球 GPV データは初期解析値と予報値で構成されており、 WSPEEDI-II 自動計算システムの気象計算では、蓄積された GPV データの初期解析値が存 在する期間については各GPV データの初期解析値を使用し、それ以降の予測期間について は計算実施時点で最新の予報値を自動選択し使用している。WSPEEDI-II 自動計算システ ムで使用されるGPV データと、GPV データの受信時刻をまとめたものが表 3-4 である。 核実験実施 2 日目における拡散予測計算を例にして説明すると、計算開始時刻は核実験実 施2 日目 5 時 30 分(JST)であるため、初期時刻が核実験初日 21 時(12UTC)以前まで の GPV データは既に受信していることが分かる。気象計算開始時刻は核実験実施前日 21 時(12UTC)であるため、核実験実施前日 12UTC 及び 18UTC、核実験実施初日 0UTC、 6UTC、及び 12UTC を初期時刻とする GPV データについては、初期解析値を使用するこ とができる。そして、残りの核実験実施初日18UTC から核実験実施 5 日目 0UTC までの 期間については、予報値を使用して気象予測を行う。核実験実施 3 日目も同様に、核実験 実施2 日目に受信した 4 回分の GPV データの初期解析値と、核実験実施 3 日目の 4 時に受 信したGPV データの初期解析値及び予報値が使用される。

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㻞 㻠 㻜 㻥 4 日目 M M 5 計算 期間 (青) / 助走 期間 ( 橙) / 計算 実行 開始 時刻 ( 黒) G E A R N 計算 期間 放出期間① 放出期間① M M 5 計算 期間 (青) / 助走 期間 ( 橙) / 計算 実行 開始 時刻 ( 黒) 出力期間 放出期間② 出力期間 出力期間 放出期間② 前々 日( J S T ) 㻝 㻤 㻝 㻤 㻝 㻤 㻜 㻢 㻝 㻤 㻞 㻠 㻛 㻜 㻜 計算 実施 3 日目 ( U T C) 計 算実 施前 日 ( J S T ) 㻝 㻞 㻜 㻢 計算実施前々日( U T C ) 㻜㻟 㻜 㻥 㻝 㻡 㻞 㻝 㻝 㻡 㻞 㻝 㻜 㻟 㻜 㻥 㻝 㻡 㻞 㻝 㻜 㻟 計 算実 施2 日 目( J S T ) 計 算実 施3 日 目( J S T ) 㻝 㻞 㻞 㻠 㻛 㻜 㻜 㻜 㻢 㻝 㻤 㻜 㻢 㻜 㻢 M M 5 計算 期間 (青) / 助走 期間 ( 橙) / 計算 実行 開始 時刻 ( 黒) G E A R N 計算 期間 計算 実施 初日 ( U T C) 㻞 㻠 㻛 㻜 㻜 放出期間 計算 実施 前日 ( U T C) G E A R N 計算 期間 㻜 㻥 日 時 ( J S T ) 日 時 ( U T C ) 㻝 㻡 㻞 㻝 㻜 㻟 㻜 㻥 㻝 㻡 計 算実 施初 日( J S T ) 㻜 㻥 㻞 㻝 㻜 㻟 㻝 㻞 㻞 㻠 㻛 㻜 㻜 㻝 㻞 㻝 㻞 㻞 㻠 㻛 㻜 㻜 計算 実施 2 日目 ( U T C) 図 3-4   WSPEEDI-II 自動計算システムにおける各種設定期間(核実験実施時刻 12JST と想定)

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表 3-4   WSPEEDI-II 自動計算システムにおける GPV データ受信時刻と使用 GPV データの関係

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3.3.㻌 支援ツールの構築  北朝鮮による地下核実験対応では、決められた時間の範囲内で拡散予測図を報告資料に まとめ、原子力規制庁へ送付する必要がある。しかし報告資料を作成するためには、 WSPEEDI-II 自動計算システムで作成された拡散予測図を Word に貼付し体裁を整える等、 多大な労力を要する。また、状況に応じて計算モードや放出条件の設定・変更が求められ るが、Linux サーバ上での操作を必要とするため、担当者全員が対応することは難しい。そ のため、核実験対応における担当者全員が迅速かつ正確に対応可能とするために、これら の対応作業を支援するツールとして、「報告資料作成ツール」と「計算モード切替ツール」 を作成した。 3.3.1. 報告資料作成ツール (1) 開発までの経緯  支援・研修センターでは、役員の承認の下で北朝鮮による地下核実験の対応が実施され るため、役員への連絡・調整を行う必要がある。また、核実験対応は当直体制の下で実施 しており、当直担当者との業務調整も必要になる。その他、前述したように放出位置が前 回と異なる場合、放出位置の設定を変更し再計算を実施する必要がある。このように、核 実験対応は報告資料の作成作業だけでなく、上述のような準備対応がある。しかし、支援・ 研修センターでは、3 回目の地下核実験において、報告資料を手動で作成し対応にあたって おり、作業負担や作業効率の面で課題が残されていた。 手動での報告資料の作成フローを図 3-5 に示す。手動で報告資料の作成にあたる場合、 まずWSPEEDI-II 自動計算システムで Web ページ上に出力された拡散予測図をダウンロ ードし保存する。表 3-2 で示したように、拡散予測図は指定された 4 時刻における131I、133Xe、 137Cs を対象に地上、上空 1000m、上空 2000m、上空 3000m での大気中濃度を予測した図 であり、報告資料1 式につき 48 枚にのぼる。図 3-6 及び図 3-7 のように 1 ページ毎に拡 散予測図を 2 枚ずつ貼付し、拡散予測図全てに「対象日時、出力高度、出力物理量、対象 核種」を明記したヘッダーをつけ、ページ下部には注釈ラベルを添える。その他、拡散予 測実施日、原子力機構のクレジットタイトル、表題、仮定計算条件、出力内容を明記した 表紙を作成する等、原子力規制庁のプレス発表用に体裁を整える必要がある。報告資料を 作成後、計算条件や出力内容の誤表記、拡散予測図の貼付に間違い等がないかを複数名で チェックする。この一連の作業を経て、報告資料が完成する。この一連の作業を手動で行 うのは非常に手間がかかり、報告資料を手動で作成するには少なくとも 1 時間程度要する ほか、拡散予測図の貼付ミス等のリスクもあり、作業者の負担が大きかった。これを受け て、報告資料作成用のWord マクロを作成及びマニュアル化する等の工夫がなされたが、使 いこなすためには自動計算の出力についてよく理解し、マクロの仕様を熟知する必要があ るなどの課題が残った。  上述のように、報告資料の作成には多くの作業時間を要し貼付ミス等によるリスクを伴

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うため、作業者はWSPEEDI-II 自動計算システムの概要や拡散予測図の要請内容を熟知し ている必要があり、対応できる人員は限られていた。そこで、作業時間や貼付ミス等によ るリスクを低減するために、報告資料を自動で作成するツールの開発に至った。

図 3-5 手動による報告資料の作成フロー

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(2) ツールの概要  報告資料作成ツールの設定画面及び処理画面を図 3-8 及び図 3-9 に示す。報告資料作成 ツールは、表 3-5 に示す入力情報を入力することで、WSPEEDI-II 自動計算システムによ ってWeb ページに出力された拡散予測図から必要な図のみを抽出し、体裁を整えた報告資 料を作成するツールである。報告資料作成ツールを使用することで、図 3-10 で示すように 拡散予測図の保存から体裁調整までを一括で自動処理することができる。手動による作成 作業と比較すると、作業工程が簡単化され作業時間も大幅に短縮されることがわかる。確 認・修正の工程を設定しているが、プログラム処理による作成であるため、情報入力の誤 りや拡散予測図が出力されているWeb ページの問題等がなければ、誤表記や誤貼付のリス クも大幅に低減される。そのため、入力すべき情報を把握し、報告資料作成ツールの操作 方法を習得していれば、報告資料を迅速に作成することができる。報告資料作成ツールの 操作方法についてはマニュアル資料を作成しており、関係者に向けた教育を実施している。 図 3-8 報告資料作成ツールの設定画面

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表 3-5 報告資料作成ツールにおける入力情報 入力情報 説明 モード設定 拡散予測計算が実施された際の計算モードを選択。 放出核種 拡散予測計算の対象核種を入力。 放出量 各核種の放出量。通常、単位放出率で拡散予測を実施している ため、「1Bq/h」と入力。 放出場所 放射性物質の放出場所の緯度経度を入力。

Web ページ URL WSPEEDI-II 自動計算システムにより拡散予測図が出力され

たWeb ページの URL を入力。 画像保存先 拡散予測図の保存先を入力。 ファイル出力先 作成した報告資料の保存先を入力。 図 3-10 報告資料作成ツールを用いた報告資料の作成フロー 3.3.2. 計算モード切替ツール (1) 開発までの経緯  3.2.2 で詳述したように、WSPEEDI-II 自動計算システムでは計算内容にあわせて 4 つの 計算モードを設定・変更することができる。同じく3.2.1 で記述したように、放出条件(放 出位置及び放出開始時刻)についても、変動条件として適宜設定・変更することができる。 計算モード及び放出条件はWSPEEDI-II 自動計算システムを導入している Linux サーバ内 の設定ファイルで管理しており、設定・変更をするためにはLinux の操作コマンド等の基 礎知識が必要となる。業務等で普段からLinux サーバを使用している者であれば、難しい 操作は要求されないが、Linux に関する知識のない者が本作業にあたるのは非常に負担がか かる。また、操作を誤るとWSPEEDI-II 自動計算システムに影響を来たす可能性も考えら れるため、非常にリスクの高い作業となる。そこで、Linux に関する知識のない者でも計算 モード及び放出条件の設定・変更作業が容易となるツールを開発した。

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(2) ツールの概要 計算モード切替ツールは、WSPEEDI-II 自動計算システムで設定されている計算モード 及び放出条件を、Windows 上で設定・変更することを目的として開発したツールである。 上述の通り、本来計算モード及び放出条件を設定・変更するためにはLinux サーバにアク セスする必要があるため、Linux 上の操作が必要となる。しかし、計算モード切替ツールを 使用することにより、リモートログオンクライアントを使用せずGUI 上の操作のみで計算 モード及び放出条件の設定・変更をすることができる。計算モード切替ツールを使用する 上で必要となる入力情報を表 3-6 にまとめた。また支援機能として、現在設定されている 計算モード及び放出条件を確認する機能を実装している。報告資料作成ツールと同様に、 操作方法についてはマニュアル資料を作成しており、関係者に向けた教育を実施している。 表 3-6 計算モード切替ツールで必要な入力情報 入力情報 説明 IP アドレス WSPEEDI-II 自動計算システムを導入しているサーバの IP アドレスを入力。 ユーザ名及びパスワード サーバへログインするためのユーザ名及びパスワードを入 力。 モード設定 設定したい計算モードを選択。 核実験実施時刻 放射性物質の放出開始時刻(核実験実施時刻)を入力。 東経・北緯 放射性物質の放出位置を入力。 図 3-11 計算モード切替ツールの設定画面

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4. 北朝鮮による地下核実験への実対応

4.1.㻌 5 回目の地下核実験 4.1.1. 初動対応 平成28 年 9 月 9 日 9 時 55 分、北朝鮮による地下核実験の可能性について報道された。 当日は平日(金曜日)であったため、その報道に伴い支援・研修センターでは緊急時体制 を立ち上げた。10 時に原子力規制庁より電話連絡があり、WSPEEDI-II による拡散予測計 算の要請を受けた。放出開始時刻については、3.2.1(8)で記述したように核実験実施時刻に 近い正時とするのが通例であるが、本核実験の実施時刻が9 時 29 分 57 秒であったことか ら、核実験実施直後に放射性物質が放出する可能性を想定し、9 時に指定した。また、放出 位置については気象庁からの震源情報に基づき北緯41.3 度、東経 129.2 度とするよう指示 を受けた。指示された計算条件に基づき、WSPEEDI-II 自動計算システムによる拡散予測 結果を報告資料にまとめ、15 時 26 分に原子力規制庁へ送付した。 4.1.2. 核実験実施翌日以降の対応  核実験実施翌日以降は、毎日WSPEEDI-II 自動計算を継続し、拡散予測結果をとりまと めた報告資料を原子力規制庁へ送付する体制を維持した。5 回目の地下核実験対応における 拡散予測計算の対応フローを図 4-1 に示す。土曜日及び日曜日については、担当者を 3 人 選定し両日とも2 人体制で対応にあたった。9 月 16 日、原子力規制庁よりモニタリング強 化体制を終了する旨の連絡を受け、支援・研修センターにおいても地下核実験対応が終了 し、通常体制へ移行した。なお、原子力規制庁へ送付した報告資料については、航空自衛 隊機による大気浮遊じんの採取における参考資料に活用され、プレスリリースとして原子 力規制委員会のHP にモニタリング結果とともに公開された20)

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図 4-1 5 回目の地下核実験対応時における拡散予測計算の流れ 4.1.3. 予測結果の考察  5 回目の地下核実験対応について、WSPEEDI-II 自動計算システムによる拡散予測結果 の一部を例に、風速場の再現性の観点から考察を行った。拡散予測図と同時刻における天 気図28)の比較を図 4-2 に示す。風速場についての考察を行うため、風速場の特徴を捉えて いる拡散予測図を選定した。気象庁によると、北海道北東にある低気圧は宮古島の近海で 発生した台風13 号が温帯低気圧に変化したものである29)。天気図を見ると、温帯低気圧付 近では等圧線が密集しており、非常に強い風が発生していることが示唆される。予測結果 図において北海道北東に注目すると、風ベクトルが半時計回りに長く伸びており、温帯低 気圧による風の強さや内部へ吹き込む様子が計算されている。また、日本海上にある高気 圧に着目すると、等圧線が比較的緩やかとなっており、予測結果図において小さな風ベク トルが時計回りに吹き出す様子が確認できる。これらより、平成28 年 9 月 10 日 9 時にお ける拡散予測計算では、風速場が精度良く再現されていると判断できる。

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4.2.㻌 6 回目の地下核実験 4.2.1. 初動対応 平成29 年 9 月 3 日 12 時 50 分、北朝鮮による地下核実験の可能性について報道された。 当日は休日(日曜日)であったが、支援・研修センターでは原子力総合防災訓練の対応中 であったため、本報道を受けて担当者は核実験対応体制へ移行した。その後、原子力規制 庁から連絡があり、WSPEEDI-II による拡散予測計算の要請を受けた。放出開始時刻につ いては、3.2.1(8)で記述したように通例核実験実施時刻に近い正時とするのが通例であるが、 本核実験の実施時刻が12 時 29 分 57 秒であったことから、核実験実施直後に放射性物質が 放出する可能性を想定し、12 時に指定した。また、放出位置については、核実験実施位置 については、前回の5 回目の地下核実験では北緯 41.3 度、東経 129.2 度であったが、本対 応では北緯41.3 度、東経 129.1 度と提示された。前回の地下核実験と放出位置が異なり、 初日モードの計算によって当日 5 時に出力されている拡散予測結果を使用することができ なかったため、WSPEEDI-II 自動計算システムで設定されている放出位置を北緯 41.3 度、 東経129.1 度に変更し、放出開始時刻を 12 時として初動モードで再計算を実施した。その 後、拡散予測結果を報告資料にまとめ、15 時 48 分に原子力規制庁へ送付した。 4.2.2. 核実験実施翌日以降の対応 核実験実施翌日以降は5 回目の核実験対応と同様に、毎日 WSPEEDI-II 自動計算を継続 し、拡散予測結果をとりまとめた報告資料を原子力規制庁へ送付する体制を維持した。6 回 目の地下核実験対応における拡散予測計算の流れを図 4-3 に示す。土曜日及び日曜日につ いては、担当者を3 人選定し両日とも 2 人体制で対応にあたった。 9 月 12 日、原子力規制庁よりモニタリング強化体制を終了する旨の連絡を受け、支援・ 研修センターにおいても地下核実験対応が終了し、通常体制へ移行した。なお、原子力規 制庁へ送付した報告資料については、航空自衛隊機による大気浮遊じんの採取における参 考資料に活用され、プレスリリースとして原子力規制委員会の HP にモニタリング結果と ともに公開された21)

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図 4-3 6 回目の地下核実験対応時における拡散予測計算の流れ 4.2.3. 予測結果の考察 6 回目の核実験対応について、WSPEEDI-II 自動計算システムによる拡散予測結果の一 部を例に、風速場の再現性の観点から考察を行った。 拡散予測図と同時刻における天気図30)の比較を図 4-4 に示す。風速場についての考察を行 うため、風速場の特徴を捉えている拡散予測図を選定した。  天気図から東北沖の太平洋に低気圧が発達しており、等圧線の間隔が比較的狭いことか ら強い風が発生していることが示唆される。予測結果図において東北沖の太平洋で半時計 回りに大きく渦巻く風ベクトルが確認でき、低気圧による強風が再現されている。また、 東北沖の太平洋の低気圧によって生じる寒冷前線に着目すると、北から吹き込む風と南西 風による前線の形成が計算されている。また、黄海に目を向けると高気圧が見られ、予測 結果図においても風ベクトルが時計回りに小さく渦巻いており、高気圧によって弱風が吹 き出す様子が確認できる。これらより、平成29 年 9 月 8 日 18 時における地下核実験対応 における拡散予測計算では、風速場が精度良く再現されていると判断できる。

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表   3-1 SPEEDI 及び WSPEEDI における特徴の比較
図   3-2 WSPEEDI-II 自動計算システムにおける Web ページへの出力結果(初日モード)  3.2.3. WSPEEDI-II 自動計算システムによる地下核実験対応   WSPEEDI-II 自動計算システムを用いた地下核実験対応の流れを図  3-3 に示す。  核実験実施初日は、まず地下核実験が実施されると、原子力規制庁より WSPEEDI-II に よる拡散予測計算の要請を受ける。要請文書には放出条件として放出開始時刻(すなわち 地下核実験実施時刻)と放出位置がそれぞれ記されている
図  3-3 WSPEEDI-II 自動計算システムを用いた核実験対応の流れ
表   3-3 全球 GPV データの概要 27) データの種類 GSM(全球域)  初期時刻 00UTC、06UTC、12UTC、18UTC(1 日 4 回)  予報時間  ・84 時間予報(初期時刻:00、06、12、18UTC)   6 時間間隔  ・96~264 時間予報(初期時刻:12UTC)   12 時間間隔  水平解像度 0.5 度(約 50km)  配信領域 全球 物理量 地上:海面更正気圧、地上気圧、風、気温、相対湿度、積算降水量、 雲量 気圧面:高度、風、気温、相対湿度、上昇流
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参照

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