漁業者との共創
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.26-2 No.100. そのため、当地では、定置網に魚群探知機を設置して網内の状況を知るこ とが行われてきた。魚群探知機とは、発射した超音波が対象物に反射して 戻ってくるまでの時間や信号の強弱から、水中の魚群や海底の状況を画像と して視覚化することのできる機器である。パートナーの漁業者は、これを、 定置網内の魚群の通り道に1箇所、さらに最終的に魚群の滞留する箱網と呼 ばれる部位にもう1箇所の、合計2箇所に設置していた。その当時にパート ナーが用いていたシステムでは、この2箇所の魚群探知機から得られた信号 が、数 km 離れた陸上にある事務所施設へ無線で送信され、そこで魚群探知. 機の画像を確認できるようになっていた。1箇所の魚群探知機の画像は、感 熱ロール紙を用いたプリンターと CRT が左右に並べられて一組になった表. 示装置に出力される。この表示装置が2組あり、それを上下に並べることに よって、2箇所の魚群探知機の画像が、時間軸を同期させて見比べられるよ うに工夫してある(図1)。パートナーは出力された画像を以下のように活 用していた。. 図1 感熱ロール紙プリンター(左上)と CRT(右上)およびその配置(下). ・画像に出現する、エコーの形状や強度、水深などのパターンの推移を判別 し、例えば「イワシが10 t 入っている」というように、箱網内に滞留する. 魚種の推定や漁獲高の予測を行う。また、時間軸の同期した2箇所の画像 を見比べることで、魚群の来遊速度や方向などを推測する。 ・特徴的なエコーパターンについては、感熱紙のプリントアウトをファイリ. 73.
(3) 74. 特集:共創・当事者デザイン. ングし、魚種の推定や漁獲高の予測の際にいつでも参照できるように、事 務所施設内において管理する。プリントアウトには、どのエコーパターン がどのような魚種を表しているか、その時にどれくらいの漁獲高があった かなどを書き込む(図2)。. 図2 エコーパターンのプリントアウト. 3.アプリケーション立案 3.1. パートナーの抱える課題と解決策. 無線技術に関する法改正や、感熱ロール紙の入手困難などによって、数年. 後には、当時のシステムを使用することができなくなるため、別の方式を用 いたシステムに更新する必要があった。このことは、パートナーの抱えてい る懸念として調査を行う以前から明らかであった、そのため、本事業では、 定置網内の2箇所に設置された魚群探知機の画像情報をやり取りするため に、無線の代わりに携帯電話の通信回線とサーバーを用いることが技術的な 要件として検討されており、そのための要素技術の開発が行われてきた。 また、サーバーに蓄積された画像情報を閲覧する手段として携帯電話回線 に接続できるタイプの iPad を用い、そのためのアプリケーションを開発す. ることも想定されていた。当時パートナーの利用していたシステムでは、無 線や表示手段などの制約から、定置網の状況を知るために事務所施設まで赴 く必要があった。しかし、このアプリケーションがあればパートナーをその 制約から解放することができる。定置網内の魚群の状況を「いつでも、どこ でも、誰でも」確認できるようになり、事業運営の柔軟性を高めることがで きる。この点については、調査時の聞き取りの際にも、パートナーの言葉に 期待として現れることがあった。. 3.2. アプリケーション立案の枠組み. 以上のことがらを踏まえ、アプリケーション立案を具体化するプロセスに. 入った。ここで述べるアプリケーション立案とは、要求仕様を設定し、具体 的な GUI にまとめるまでのプロセスのこととする。このプロセスにおいて、 ワイアフレームスケッチのような試行錯誤の検討段階からパートナーに助言 を求め、スケッチの修正を行いながら機能仕様を定めていった。特に、これ までのパートナーへの聞き取りから、定置網内の状況を知るための魚群探知.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.26-2 No.100. 機の画像情報の表示手段と配置方法、得られた画像の活用方法等が理解でき た。そこで見られた工夫は、これまでにパートナーが経験的に積み上げてき たものであり、合理的な裏付けのあるものであった。そのため、本アプリ ケーションの基本的な情報構造においてもそれを踏襲することとし、ワイア フレームスケッチや、より詳細なスケッチなどを用いてパートナーと共有を 図った。. 3.3. UI デザイン. 以上のプロセスを経て、最終的にフィックスした UI スクリーンを図3に. 示す。以下の基本方針に則り、デザインした。. 図3 アプリケーションの UI スクリーン. ・ユーザが魚群探知機の画像情報に集中できるために UI 上から余計な情報. となるような要素を排し、どういう状況でも確実に操作できるように、学 習しやすく、記憶が容易で、エラーの起こりにくい直感的な UI にする。. ・ランドスケープモードで使用するアプリケーションとすることにより、限 られた UI 面積の中でも魚群探知機の画像の表示比率が高まる UI レイアウ トにする。. ・通信及び描画処理の負担とならないような UI 表現とレイアウトにする。. この UI の機能配置を図4に示す。UI は大きく魚群探知機画像表示部と操. 作部に分かれる。. 75.
(5) 76. 特集:共創・当事者デザイン. 図4 UI の機能配置. 魚群探知機画像表示部 ここには、これまでパートナーが用いてきたシステムの情報構造を踏襲 し、2箇所の魚群探知機から送られてくる画像を上下に並べて表示する。こ の上下の画像の時間軸は一致している。この画像は2つとも6秒ごとに更新 され、順に左へ1ピクセルずつ自動的にスクロールする。画面の右端が最新 の画像である。このエリア上で左右に画像をフリックした時に、あらかじめ バッファしてある前後の画像を表示することにより、過去に遡るなど時間を 行き来した魚群探知機画像を表示することができる。この時、上下の魚群探 知機画像は一緒に動くため、時間軸の同期は保たれるようになっている。な お、1つの魚群探知機画像の縦幅は256ピクセルになっている。これは魚群 探知機側が生成する画像サイズをそのまま用いているためである。これに よって、画像のスケーリング処理をする必要がなくなり、端末側の描画にと もなう負荷を低下させることができる。 また、上下それぞれの魚群探知機画像の左下には、通常はそれぞれの魚群 探知機設置箇所の海底の水深が表示されている。しかし、箱網に大量の魚群 が滞留しているような場合には、この水深の値が大きく変化するように表示 されることがあり、パートナーはこれを目安に出漁を判断することがある。 また潮流が早いと、定置網の底が持ち上がり、水深の値が変動することがあ る。これは、定置網の設置状況に影響を与えてしまうため、何らかの対処を 考慮する必要が出てくる。このように、パートナーにとってはこの水深の値 を確認することは重要である。そのため、GUI の中でも最大サイズのフォ ントを用いて水深の値を表示することにした。 操作部 ここには「画面キャプチャ」「リロード」「日付移動」の三つの操作ボタン が存在している。.
(6) デザイン学研究特集号 Vol.26-2 No.100. 画面キャプチャ機能は、現在 iPad 上に表示されている画面をキャプチャ. し、iPad 内の特定ディレクトリに保存するものである。パートナーが、将来. 的に参考にしたいような特徴的なエコーパターンを保存したいときに用い る。保存された画像は iPad の内蔵アプリケーションである「写真」で閲覧. することができる。また、キャプチャ時には、画像に、日時の情報に加えて 魚種名をタグ付けできる。このため、紙のプリントアウトを用いていた時よ りも管理の容易さや検索性を高めることができる。また、この機能は、出漁 前に最新の画面の状態をキャプチャしておくことで、回線の担保できない海 上でもオフラインで使用することを可能にする。 リロード機能は、操作中に通信が途切れるなど何らかの事情で、魚群探知 機画像表示部の画像に欠損が生じた場合、通信回線を介して、もう一度現在 表示中の魚群探知機画像表示部の画像を更新することができる。 日付移動ボタンは、魚群探知機画像表示部の画像を左右にフリックするこ. とによっても、過去やその後の魚群探知機画像を表示することができるが、 本ボタンを操作することにより、指定の日時を直接表示することができる。. 4.まとめ 「定置網モニタ」は、その後、対象フィールドにおいて長期運用試験がな され、ソフトウェアとハードウェアの両面において、製品化を想定した改良 が施された。そして、現在は、三重県尾鷲市、静岡県熱海市、富山県氷見市 など国内各地に運用地域が広がっている。 また、エコー画像に現れたパターンに対する、機械学習を用いた魚種判別 および漁獲量推定など、次の段階の研究へと発展している。これは、例え ば、漁獲制限のあるクロマグロの幼魚が定置網に入っていることが判明した 場合には、網を開放するか水揚げを行わないような判断をすることができる など、資源保護の観点での取り組みとしても注目されている。 このように、「定置網モニタ」の導入やその後の発展が順調に進んだ背景 には、アプリケーション開発の早い段階からパートナーとシステムイメージ を共有し、そこから得られた内容を開発にフィードバックしていく体制を持 てたことの効果が大きいと考える。これによって、パートナーを開発プロセ スから分断された受け身のユーザの立場に置くのではなく、開発プロセスの 当事者の一人として巻き込むことができた。その結果、現場のワークフロー にフィットし、かつ新たな体験価値を提供できる、発展性のあるアプリケー ションの開発につながった。さらに、パートナー自身がシステムへ精通する ことで現場への導入のハードルを下げることができたのではないかと考える。 【参考文献】 和田雅昭,マリンスターズ:マリン IT の出帆:舟に乗り海に出た研究者のお話,公立はこだて未 来大学出版会,2015.. Masaaki Wada, Shigeya Yasui, Ramadhona Saville, Katsumori Hatanaka,“The development of a remote fish , Proceedings of OCEANS - St. John’ s, Sustainable Fisheries Technologies finder system for set-net fishery”. 1, 6 pages in CD-ROM, 2014. 9.. 77.
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