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恒久的ペースメーカーの感度調整を行うことで,自転車エルゴメータでの心肺運動負荷試験で運動処方が行えた一例

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 190 45 巻第 3 号 190 ∼ 196 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 症例報告. 恒久的ペースメーカーの感度調整を行うことで, 自転車エルゴメータでの心肺運動負荷試験で 運動処方が行えた一例* 中 屋 雄 太 1)2)# 赤 松 正 教 1) 片 山 訓 博 3) 大木元明義 4) 北 岡 裕 章 5). 要旨 【目的】恒久的ペースメーカー留置後に不適切な心拍応答が生じた肥大型心筋症を基礎疾患にもつ症例を 担当し,心肺運動負荷試験を行うことで適切な運動処方での有酸素運動を提供することができたので報告 する。 【症例と経過】70 歳男性,労作時に著明な息切れを生じていた。第 3 病日より有酸素運動とレジス タンストレーニングを中心に訓練を進めた。【結果】第 30 病日,自転車エルゴメータを使用した心肺運動 負荷試験にて,変時不全の影響で突然死リスクが高い状態であることが示唆された。そこで,恒久的ペー スメーカーの加速度センサーを鋭敏に変更した。翌日の心肺運動負荷試験にて,心拍応答の改善,突然死 リスクの減少,適切な運動処方での有酸素運動が可能となった。【結語】自転車エルゴメータを使用した 心肺運動負荷試験においても,恒久的ペースメーカーの調整を行うことで,適切な運動処方が行える可能 性が示唆された。 キーワード 恒久的ペースメーカー,肥大型心筋症,心肺運動負荷試験,心臓リハビリテーション. はじめに  肥大型心筋症は心筋肥大をきたす遺伝性心筋症であ る. 1). 。肥大型心筋症では,病態進行に伴い,元々の拡張. る. 2)3). 。これらは突然死に強く関連している。したがっ. て,肥大型心筋症に対する心臓リハビリテーションは安 全面が優先され,今まで積極的には推奨されていなかっ 4) た 。. 機能低下に加え,冠動脈拡張予備能の低下,左室流出路.  変時不全(Chronotropic Incompetence:以下,CI)は. 圧較差の増強,心筋虚血,末梢血管異常反応などにより,. 活動量の増加に対し,心拍応答の低下した状態と定義. 運動時に心室性不整脈や異常血圧反応を生じることがあ. され,心不全患者に生じた場合,生命予後を悪化させ. *. A Case in which Exercise Prescription could be Performed in a Cardio Pulmonary Exercise Test on a Bicycle Ergometer by Adjusting the Sensitivity of a Permanent Pacemaker 1)市立宇和島病院リハビリテーション科 (〒 798‒8510 愛媛県宇和島市御殿町 1‒1) Yuta Nakaya, PT, Masanori Akamatsu, PT: Department of Rehabilitation, Uwajima City Hospital 2)高知大学大学院医科学専攻老年病・循環器内科学分野 Yuta Nakaya, PT: Medical Science Graduate School of Kochi University 3)高知リハビリテーション学院理学療法学科 Kunihiro Katayama, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Kochi Rehabilitation Institute 4)市立宇和島病院循環器内科 Akiyoshi Ogimoto, MD, PhD: Department of Cardiology, Uwajima City Hospital 5)高知大学医学部老年病・循環器内科学 Hiroaki Kitaoka, MD, PhD: Department of Cardiology and Geriatics, Kochi Medical School, Kochi University # E-mail: y.nakaya.pt@gmail.com (受付日 2017 年 8 月 15 日/受理日 2018 年 2 月 9 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 4 月 18 日]. る. 5‒7). 。これは,心肺運動負荷試験(Cardiopulmonary. Exercise Test:以下,CPX)を利用することで評価す 8) ることが可能と報告されている 。.  今回,肥大型心筋症患者で,恒久的ペースメーカー留 置後に自転車エルゴメータを使用し CPX を施行。その 際,運動負荷に伴う心拍応答の不良ならびに低心拍出症 候群を主とした CI を認めた。またこの病態背景に対す る心臓リハビリテーションの報告はない。CPX を使用す ることで,CI への対処,突然死リスクの評価,適切な心 拍 応 答 が 得 ら れ, 嫌 気 性 代 謝 閾 値(Anaerobic Threshold;以下,AT)を利用した適切な有酸素運動の 実施が可能となった症例を経験したので報告する。.

(2) 恒久的ペースメーカーの感度調整により運動処方が行えた一例. 191. 図 1 入院時 12 誘導心電図,胸部写真および心エコー所見 正常洞調律.左房負荷,Ⅰ度房室ブロック,不完全右脚ブロック,左軸偏位,四肢誘導にて低電位,前胸部誘導に て高電位所見を認めた.胸部写真では胸水の貯留は認めなかった . 心エコーでは心室中隔および左室後壁厚の肥厚を 認めた.. 表 1 血液検査所見. 症例紹介. 第 1 病日. 第 42 病日. 0.8. 0.4. 1.現病歴. T-bil(mg/dl).  37 歳時に外傷による右変形膝性関節症,67 歳時に虚. BUN(mg/dl). 14.0. 12.0. 血性心疾患(右冠動脈# 2 ‒ 3,左前下行枝# 6 ‒ 7 にス. Cr(mg/dl). 0.80. 0.89. テント留置),発作性心房細動に対してカテーテルアブ. RDW(%). 11.8. 11.5. レーションが施行された。69 歳時より肥大型心筋症で. Hb(g/dl). 13.6. 14.0. 加療されていた。今回 2 ヵ月前より全身倦怠感が出現し,. CONUT. 1. 1. 2,373. 1,351. 精査目的に入院となる。第 2 病日に冠動脈造影施行,有 意狭窄は認めず。第 3 病日より心臓リハビリテーション 開始となる。 2.入院時身体所見. NT-proBNP(pg/ml). NT-proBNP は高値ではあるが,第 42 病日に低下を示 した. T-bil: Total Bilirubin, BUN: blood urea nitrogen, Cr: creatinine, RDW: red cell distribution width, Hb: hemoglobin, CONUT: controlling nutritional status, NT-proBNP: N-terminal pro-B-type natriuretic peptide.  70 歳,男性。171.4 cm,体重 56.1 ㎏,BMI;19.1 ㎏ 2 /m 。安静時血圧;118/56 mmHg,脈拍 56 bpm,頸静. 脈怒張なし,心音収縮期雑音あり(Levine 分類Ⅱ度) 。. 6.心エコー検査(図 1)  左房径 34.1 mm,左室拡張末期径 / 左室収縮末期径. 3.第 3 病日の理学療法評価. 43.4/29.4 mm,左室拡張末期容量 / 左室収縮末期容量.  等尺性膝伸展筋力体重比;最大 0.48 kgf/㎏,Barthel. 85.1/33.4 ml,心室中隔 / 左室後壁厚 14.4/13.3 mm,左. Index;80 点(減点項目;入浴 0,歩行 10,階段昇降 0) 。. 室 駆 出 率(Simpson)57.3 %,E/A 1.6,E 波 減 速 時 間. 肺音ラ音なし,末梢浮腫なし。New York Heart Associ-. 297 ms,E/e’ 28.8,僧房弁逆流:trivial,三尖弁逆流:. ation 分類Ⅲ,息切れにて連続 50 m 歩行で中止。. trivial。左室流出路の狭窄は認めなかった。. 4.心電図所見(図 1). 7.血液検査(表 1).  正常洞調律。左房負荷,Ⅰ度房室ブロック,不完全右.  NT-proBNP の高値を認める。腎機能障害や貧血は認. 脚ブロック,左軸偏位,四肢誘導にて低電位を認めた。. めず,栄養状態も正常であった. 5.胸部レントゲン(図 1). 8.服薬状況.  心胸郭比 59%,肺うっ血なし,胸水なし。.  クロピトグレル 75 mg,イソソルビド 40 mg,ニコ. 9‒12). 。. ランジル 15 mg,ビソプロロール 5 mg,ベラパミル.

(3) 192. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 図 2 CPX 1 回目:0 ∼ 3 分 ; 安静,3 ∼ 7 分 ; ウォームアップ,7 分以降;ramp 負荷 ˙ O2/HR,V ˙ E/V ˙ O2 の急落,AT までの不十分な心拍数の増加(CI)を認める. ウォームアップ後半に V. 120 mg,ロスバスタチン 2.5 mg に加え,左室圧較差を 減弱するシベンゾリン 300 mg を内服していた. 13). 。. 術施行。Boston Scientific model J177 を使用。DDD-R モード,初期設定は 70 ∼ 130 ppm,分時換気量センサー オフ,加速度センサーの反応時間は 30 秒であった。. 説明と同意  本誌掲載にあたり本人,ならびに家族に対し十分な説. 2.恒久的ペースメーカー留置後から CPX 実施まで. 明を行い,同意を得た。.  第 14 病日より心臓リハビリテーション再開。同日に 歩行距離は 100 m へ延伸できたが,自転車エルゴメー. 臨床経過および心臓リハビリテーションの内容. タは 10 Watt,10 分と変化なく,朝に有意の疲労感,.  本症の経過を心臓リハビリテーション開始から恒久的. および運動開始時の息切れが出現した。訓練時間を午後. ペースメーカー留置までの期間,恒久的ペースメーカー. に変更,第 15 病日に分時換気量センサーを追加し,心. 留置後から CPX 実施までの期間のふたつに分けて説明. 拍数を 70 ppm から 60 ppm に変更した。第 22 病日に. する。. 200 m 歩行を達成するが,運動開始時の息切れは残存し て い た。 第 30 病 日 に 自 転 車 エ ル ゴ メ ー タ を 使 用 し,. 1.心臓リハビリテーション開始から恒久的ペースメー カー留置まで. ウォーミングアップ 10 Watt,10 Watt/ 分のランプ負 荷で CPX 施行となる。.  本症は心臓リハビリテーション開始時より著明な運動 耐容能低下に加え,80 歳代の下肢筋力値. 14). を示した。. ˙ E/V ˙ O2  しかし,ウォーミングアップ後半から 3 回の V ˙ 急落,VO2/HR の低下,AT ポイントまでの心拍数増加. そこで,歩行および自転車エルゴメータを使用した有酸. と減少の繰り返しによる心拍応答の不良,AT 後の分時. 素運動に加え,レジスタンストレーニングを中心に治療. 換気量センサーの作動による急激な心拍数の立ち上がり. プログラムを組んだ. 15)16). 。. を認めた(図 2)。また,ウォーミングアップ後半から.  有酸素運動ではボルグスケールを使用し,胸部 / 下肢. AT ポイントまでの呼吸困難感を訴えた。上記所見より. がそれぞれ 13 以下になるように管理を行った。自転車. 加速度センサーの応答不良による CI と診断された。. エルゴメータは 10 Watt,5 分より開始し,第 7 病日よ.  恒久的ペースメーカー設定の変更として,運動開始時. り 10 分へ延長した。. の心拍応答を改善するため,主治医により加速度セン 17). を. サーの反応時間を 10 秒に短縮し,活動閾値を medium. 参考に,1 Repetition Maximum 30%の負荷量より開始. Low の比較的鋭敏な設定とした。これにより,座位で. し,耐性が得られれば 40 ∼ 60%まで増加した。等尺性. のわずかな体動でも加速度センサーが反応できる設定と.  レジスタンストレーニングは Piepoli らの報告. 膝伸展筋力値から 1 Repetition Maximum を算出 初回は 1.5 ㎏重錘を用い,おもに大. 18). し,. 四頭筋を中心に実. なったと考える(図 3,4)。. 施。第 7 病日より 2.0 ㎏重錘へ増やした。Calf raise,ス.  第 31 病日に CPX 再検。前日に認めた CI は認めず, ˙ E vs. 適切な心拍応答が得られ,AT 到達時間の延長,V. クワットはそれぞれ 10 回× 2 セットより開始した。ま. ˙ O2 と AT には ˙ CO2 スロープの改善を示した。Peak V V. た自主訓練として,ベッド上でのセラバンドを使用した. 変化はみられなかった(図 5)が,ウォーミングアップ. レジスタンストレーニングを指導した。. から AT までの呼吸困難感は改善した。第 32 病日より,.  第 10 病日に洞不全症候群による失神を伴う症候性徐. 30 Watt,10 分× 2 セットでの有酸素運動開始となる。. 脈が生じたため,緊急で恒久的ペースメーカー埋め込み.  第 42 病日の最終評価にて,等尺性膝伸展筋力体重比.

(4) 恒久的ペースメーカーの感度調整により運動処方が行えた一例. 193. 図 3 反応時間:10 秒はもっとも早く設定心拍数に達することができる 写真提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社.縦軸;心拍数, 横軸;秒.. 図 4 各動作の活動閾値のイメージ:鋭敏な設定である medium Low は座 位でも加速度センサーの作動が可能 写真提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社.Activity Threshold:活動閾値.. 図 5 CPX 2 回目:0 ∼ 3 分;安静,3 ∼ 7 分;ウォームアップ,7 分以降:ramp 負荷 AT までに緩やかな心拍数の増加を認める.. は 最 大 0.59 kgf/kg と 同 年 代 の 筋 力 14) に 回 復, 連 続 歩行距離 200 m,New York Heart Association 分類Ⅰ,. 考   察. Barthel Index;100 点と改善した(表 2) 。.  CI を伴う肥大型心筋症の症例に対し,CPX 評価に基.  退院時,CPX 結果より AT ポイントである 11.2 ml/. づき恒久的ペースメーカーの設定を変更することで,運. min/kg ( = 3 METs)を加味した生活指導,1 日 10 分,. 動負荷に伴う適切な心拍応答を獲得し,適切な AT ポ. 3 セットの歩行訓練,セラバンドを使用したレジスタン. イントでの有酸素運動を提供することができた。. ストレーニングの指導を行った。注意事項として,ボル.  ガイドライン上,肥大型心筋症は CPX の相対的禁忌. グスケールを使用して運動強度が「ややきつい」を超え. に該当している. ないこととし,運動頻度は週 3 回から 5 回まで徐々に増. 19) れており,実施する意義が高いとされている 。なか ˙ E vs. V ˙ CO2 スロープ >31 は,肥大型心筋症の でも,V. やすようにプリントに図示して指導を行った。. 19). が,近年,安全性と有効性が報告さ.

(5) 194. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 表 2 理学療法評価 第 3 病日. 第 42 病日. A:Dry & Warm. A:Dry & Warm. Ⅲ. Ⅰ. 肺音. ラ音(‒). ラ音(‒). 等尺性膝伸展筋力体重比:右 / 左(kgf/㎏). 0.45/0.48. 0.45/0.59. 連続歩行距離(m). 50. 200. Barthel Index(点). 80. 100. Nohria-Stevenson 分類 New York Heart Association 分類. New York Heart Association 分類,等尺性膝伸展筋力値,歩行距離,Barthel Index の改善 を示した.. 表 3 CPX 結果 CPX 1 回目 AT(ml/min/kg) AT 到達時間(min) ˙ O2(ml/min/kg) Peak V ˙ E vs. V ˙ CO2 slope V ˙ Δ VO2/ Δ WR(ml/min/watt). CPX 2 回目. 10.2. 11.2. 8 分 48 秒. 9 分 57 秒. 14.0. 13.3. 33.7. 30.6. 3.11. 3.10. ˙ O2: peak CPX: cardiopulmonary exercise test, AT: anaerobic threshold, Peak V ˙ E: minute ventilation, V ˙ CO2: carbon dioxide output, WR: watt oxygen uptake, V. 突然死リスクが増加するカットオフ値とされている 20)。 ˙ E vs. V ˙ CO2 スロープ 本症は,初回の CPX において,V. し,活動閾値の設定を座位でも反応可能な鋭敏な設定と. が 33.6 を示し,カットオフ値の >31 を上回っていた。. が反応できるようになったものと考える。これにより,. 心不全患者では不十分な一回拍出量に対し,心拍数の増. 低心拍出症候群を伴うことなく,AT ポイントでの安全. 加で大きく補っている。デュアルチャンバ型の恒久的. な有酸素運動が行えるようになった(図 5) 。. ペースメーカーは運動に対する心拍応答として,加速度.  一般的に,ペースメーカー植え込み患者はトレッドミ. センサーが運動開始と終了時に応答し,分時換気量セン. ルでの CPX が推奨されるが,当院の CPX は自転車エ. 21). したことで,自転車エルゴメータ上でも加速度センサー. 。本症では,ウォーミ. ルゴメータのみとなっているため,加速度センサーの評. ングアップ時と運動強度の増加に対し,加速度センサー. 価に対してトレッドミルより精度が下がる可能性は否定. の応答が不十分なことにより有効な心拍出量が得られ ˙ O2/HR の低下から低心拍出症候群を呈していると ず,V. できない。しかし,心拍応答の不良と呼吸症状が CPX. 診断された。これらの指標は CPX を実施することでは. 車エルゴメータを使用した有酸素運動が実施可能となっ. じめて明らかとなった。そこで,運動開始時の加速度セ. た。トレッドミルを使用した CPX との直接的な比較は. ンサーの応答を高めるため,加速度センサーの反応時間. できないが,当院の限られた環境において,安全で適切. の短縮と活動閾値をより鋭敏に変更した。反応時間は設. かつ効果的な有酸素運動が実施可能になったことは,自. 定上限心拍数への到達時間,活動閾値は加速度センサー. 転車エルゴメータを使用しての CPX が本症に対し有益. が作動する体動の大きさを調整している。翌日の CPX. であったと考える。. 再検査では,加速度センサーの応答が得られたことで,.  Hamada らは,当院が位置する宇和島市において肥大. ランプ負荷開始から AT ポイントまでのスムーズな心拍. 型心筋症患者を 20 年追跡し,肥大型心筋症患者のおも. 数の上昇,分時換気量センサーの切り替えによる心拍数. な死因は突然死ではなく,心不全(突然死の約 5 倍)で. の急落なく設定上限の 130 ppm まで達した。これより,. あったとはじめて報告した. 適切な心拍応答が得られたと考える。その結果,呼吸困. は,運動耐容能に密接に関連している. 難感の改善,AT 到達時間の延長,低心拍出症候群の改 ˙ E vs. V ˙ CO2 スロープも 30.6 と改善を示し,突然 善,V. 心筋症患者においても運動耐容能の改善は不可欠であ. 死リスクのカットオフ値を下回ることができた(表 3) 。. 酸素運動を中心とした心臓リハビリテーションを実施す. これは,反応時間を短縮することで心拍数が素早く反応. ることで,運動耐容能の改善と New York Heart Asso-. サーは運動中に応答している. を通してペースメーカーを調整することで改善し,自転. 22). 。心不全患者の生命予後 23). ため,肥大型. る。Klempfner らが症候性肥大型心筋症患者において有.

(6) 恒久的ペースメーカーの感度調整により運動処方が行えた一例. ciation 分類の改善が得られたと報告 24)し,Saberi らは 肥大型心筋症患者に対し,中等度の運動強度で心臓リハ ˙ O2 の改 ビリテーションを行うことで,小さいが Peak V 善が得られたと報告した. ˙ O2 は 。 本 症 の Peak V. 25). 13.3 ml/min/㎏と生存予後のカットオフ値 14 ml/min/ kg. 26). を下回っているため,退院後に運動療法を継続し,. 運動耐容能のさらなる向上を図る必要がある。そこで, 週 3 ∼ 5 回の実施を目標に,AT ポイントである 3 METs を加味した普通速度での歩行訓練とレジスタンストレー ニングを指導した. 19). 。山崎 27) は自宅での運動を継続. するためには口頭説明でなく,具体的に教示することが 重要としている。そこで,プリントに図示して説明を行 い,外来受診時には自宅での運動状況を確認するように 配慮を行うことで,運動の継続が維持できると考える。  本症は入院時より下肢筋力が低下していたため,早期 からレジスタンストレーニングを開始した。結果,左下 肢筋力の増強を認めたが,変形性膝関節症に罹患してい る右下肢筋力には変化が見られなかった。筋出力には疼 痛や機械的ストレスなどの因子. 28). が影響するため,右. 下肢には筋出力に影響を及ぼす因子が存在した可能性が 考えられる。今回,上記因子の収集が行えていないため, 筋力値が変化しなかった原因を説明することはできない。 しかし,変形性膝関節症は下肢筋力の低下とともに歩行 能力も低下するため,下肢(特に大. 四頭筋)筋力の維. 持が歩行能力の維持に重要であると報告されてい る. 29)30). 。数値上の改善は認めなかったが,CI により十. 分な有酸素運動が行えない中で下肢筋力の低下を予防し, 歩行距離も延伸できたことは,早期からのレジスタンス トレーニングによる効果が認められたものと考える。  本稿は 1 症例のみの報告であり,自転車エルゴメータ を使用して加速度センサーを調整した報告が見られない ため,今回のアプローチがもっとも有効な方法であった か検証することができない。しかし,加速度センサーを 調整することで,自転車エルゴメータでの有酸素運動が 行えるようになったことは,限られた環境の施設,また トレッドミルが使用できない症例においても実現できる 可能性が示唆される。 結   語  本症は自転車エルゴメータを使用しての CPX の施行 により,CI や突然死リスクの評価,加速度センサーの 調整を経て,自転車エルゴメータ上で恒久的ペースメー カーの適切な心拍応答を獲得した。そして,AT ポイン トを参考にした運動処方による安全な有酸素運動実施に 至るまでの心臓リハビリテーションが提供できた。本稿 は急性期の治療に限定した症例報告であるが,CI を伴 う肥大型心筋症に対し,自転車エルゴメータを使用した CPX においても,恒久的ペースメーカーの調整を行う. 195. ことで,適切な運動処方が行える可能性が示唆された。 利益相反  開示すべき利益相反はない。 文  献 1)Semsarian C, Ingles J, et al.: New perspectives on the prevalence of hypertrophic cardiomyopathy. J Am Coll Cardiol. 2015; 65: 1249‒1254. 2)Gimeno JR, Tomé-Esteban M, et al.: Exercise-induced ventricular arrhythmias and risk of sudden cardiac death in patients with hypertrophic cardiomyopathy. Eur Heart J. 2009; 30: 2599‒2605. 3)Heffernan KS, Maron MS, et al.: Relation of Pulse Pressure to Blood Pressure Response to Exercise in Patients with Hypertrophic Cardiomyopathy. Am J Cardiol. 2011; 107: 600‒603. 4)Dimitrow PP, Cotrim C, et al.: Importance of upright posture during exercise in detection of provocable left ventricular outflow tract gradient in hypertrophic cardiomyopathy. Am J Cardiol. 2011; 108: 614‒615. 5)Brubaker PH, Kitzman DW: Chronotropic incompetence: causes, consequences, and management. Circulation. 2011; 123: 1010‒1020. 6)Myers J, Tan SY, et al.: Comparison of the chronotropic response to exercise and heart rate recovery in predicting cardiovascular mortality. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2007; 14: 215‒221. 7)Phan TT, Shivu GN, et al.: Impaired heart rate recovery and chronotropic incompetence in patients with heart failure with preserved ejection fraction. Circ Heart Fail. 2010; 3: 29‒34. 8)Kindermann M, Schwaab B, et al.: Defining the optimum upper heart rate limit during exercise: a study in pacemaker patients with heart failure. Eur Heart J. 2002; 23: 1301‒1308. 9)Arenja N, Breidthardt T, et al.: Risk stratification for 1-year mortality in acute heart failure: classification and regression tree analysis. Swiss medical weekly. 2011; 141: w13259. 10)Passantino A, Monitillo F, et al.: Predicting mortality in patients with acute heart failure: Role of risk scores. World J Cardiol. 2015; 7: 902‒911. 11)van Kimmenade RR, Mohammed AA, et al.: Red blood cell distribution width and 1-year mortality in acute heart failure. Eur J Heart Fail. 2010; 12: 129‒136. 12)Hamaguchi S, Tsuchihashi-Makaya M, et al.: Anemia is an Independent Predictor of Long-Term Adverse Outcomes in Patients Hospitalized with Heart Failure in Japan ̶ A Report From the Japanese Cardiac Registry of Heart Failure in Cardiology (JCARE-CARD) ̶ . Circ J. 2009; 73: 1901‒1908. 13)Hamada M, Shigematsu Y, et al.: Antiarrhythmic Drug, Cibenzoline, can Directly Improve the Left Ventricular Diastolic Function in Patients with Hypertrophic Cardiomyopathy. Jpn Circ J. 2001; 65: 531‒538. 14)平澤有里,長谷川輝美,他:健常者の等尺性膝伸展筋力. PT ジャーナル.2004; 38: 329‒333. 15)Piña IL, Apstein CS, et al.: Exercise and heart failure: A statement from the American Heart Association Committee on exercise, rehabilitation, and prevention. Circulation. 2003; 107: 1210‒1225. 16)Braith RW, Stewart KJ: Resistance exercise training:.

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工事用車両が区道 679 号を走行す る際は、徐行運転等の指導徹底により