報 告
化膿性腸腰筋炎の 12 歳女児例
東京女子医科大学東医療センター小児科 コ タ ニ ミドリ アズマ ノリヒコ シ ダ ヨ ウ コ ス ズ キ ヨ ウ コ スギハラ シゲタカ 小谷 碧・東 範彦・志田 洋子・鈴木 葉子・杉原 茂孝 (受理 平成 29 年 3 月 8 日)A Case of Suppurative Iliopsoitis in a 12-year-old Girl Midori KOTANI, Norihiko AZUMA, Yoko SHIDA,
Yoko SUZUKI and Shigetaka SUGIHARA
Department of Pediatrics, Tokyo Women s Medical University Medical Center East
We report herein on the diagnosis of a case of suppurative iliopsoitis based on the early specific symptoms of a young girl s posture and gait.
A 12-year-old girl presented at our hospital with complaints of pain in her right coxa and fever for 5 days. She walked with a right limp and her right coxa was slightly crooked caused by pain. We diagnosed her illness as sup-purative iliopsoitis because the inflammatory responses were high and plain CT images revealed a low absorp-tion region around the right iliopsoas muscle coupled with a high density area around the right iliac muscle and psoas major muscle in a pelvic examination with short tau inversion recovery (STIR) MRI. Intravenous mero-penem, 1 g/day divided, for 14 days soon achieved improvement. We could not identify what the causative bacte-rium was because the patient s blood culture was negative.
Suppurative iliopsoitis occurs commonly through hematogenic infection with Staphylococcus aureus, and vere cases require surgery. Early intervention using antibiotics affected a cure for this patient without any se-quelae. It is important we should make a diagnosis suppurative iliopsoitis with the use of imaging tools and start medication immediately if we suspect this disease, based on the patient s symptoms.
Key Words: iliopsoitis, psoas position, Staphylococcus aureus, MRI
緒 言 腸腰筋は大腰筋と腸骨筋および小腰筋からなる腰 椎と大腿骨を結ぶ筋肉群の総称である.腸腰筋炎は, アジアやアフリカなどの熱帯地方で好発し,本邦で の小児における報告は比較的稀とされている1) .我々 は本疾患を早期に疑い画像検査を行うことで早期に 診断し治療を開始できた化膿性腸腰筋炎の 12 歳女 児例を経験したので報告する. 症 例 患者:12 歳,女児. 主訴:発熱,右股関節痛. 既往歴:特記事項なし,外傷歴なし,先行感染なし. アレルギー:アトピー性皮膚炎,バナナ,ラテッ クス. 家族歴:特記すべき事項なし. 生活歴:日常生活での激しい運動は行っていな い.ペットなし. 現病歴:2013 年 5 月上旬より 38.0 度の発熱と右 股関節から右大腿内側にかけて疼痛が出現した.第 5 病日に症状が続くため近医整形外科を受診した. 化膿性股関節炎は否定的と診断され,東京女子医科 大学東医療センター小児科を紹介受診し精査加療目 :小谷 碧 〒116―8567 東京都荒川区西尾久 2―1―10 東京女子医科大学東医療センター小児科 Email: [email protected] ! # $ 東女医大誌 第 87 巻 臨時増刊 1 号 頁 E129∼E133 平成 29 年 5 月 " # %
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Table 1 Laboratory findings <Blood cell counts> <Blood chemistry study>
WBC 14,500 /μl TP 7.00 g/dl Na 135 mEq/l Seg 84.3 % Alb 3.90 g/dl K 4.0 mEq/l Lymp 11.1 % CRP 7.03 mg/dl Cl 98 mEq/l Eosi 0.50 % AST 50 IU/l
RBC 458×104/μl ALT 47 IU/l <QFT> Hb 12.4 mg/dl LDH 276 IU/l negative Ht 35.6 % CK 56 IU/l
Plt 31.5×104/μl ALP 451 IU/l <Blood culture> T-bil 0.50 mg/dl negative <ESR> BUN 6.30 mg/dl
30 32 mm Cre 0.47 mg/dl 60 85 mm
This was the laboratory findings on admission. The inflammatory reaction was high such as white blood cell count, CRP and ESR.
Fig. 1 Plain CT of pelvis
The arrow in the plain CT scan indicates an isoabsorp-tion region in the right iliac muscle and right iliopsoas muscle. These appear more swollen than the left side.
的に入院となった. 入院時現症:身長 158.6 cm,体重 44.5 kg,体温 38.0 度,心拍数 80/分,呼吸数 22/分,咽頭と胸部お よび腹部所見では明らかな異常所見は認めなかっ た.全身の皮膚はアトピー性皮膚炎のため乾燥して おり肘窩部に苔癬化があった.股関節の可動域制限 はないが,右股関節を伸展すると疼痛が生じるため 歩行時や臥位にて右股関節を軽度屈曲させた肢位 (腸腰筋肢位)をとっていた.右内鼠径部および右前 腸骨棘に圧痛を認めた.Patric sign は陰性であっ た. 検査所見:入院時血液検査(Table 1)では,白血 球数 14,500/μL(Seg 84.3 %),CRP 7.03 mg/dL,ESR 60 分値 85 mm と高値であった.その他明らかな異 常値はなく,結核菌 INF-γ 測定および血液培養は陰 性であった.第 5 病日に施行した骨盤単純エックス 線検査では関節裂隙の開大や軟部陰影の増強,臼蓋 部の変形はなく,右腸腰筋の腫脹は認めなかった. 骨盤部単純 CT 検査(Fig. 1)では,左側と比較し腸 骨筋および大腰筋周囲の腫大が示唆された. 入院後経過(Fig. 2):入院時(第 5 病日)の血液検 査で炎症反応が高値であったことから深部細菌感染 症が考慮された.同日に血液培養を採取し(第 11 病日に陰性と判明した),起因菌が不明であったこと から広域スペクトルの抗 菌 薬 と し て メ ロ ペ ネ ム (MEPM 1.0 g/日,1 回 0.5 g,1 日 2 回)の投与を開 始した.第 6 病日に施行した骨盤 MRI 検査(Fig. 3) で右腸骨筋内に T2 および STIR 高信 号 域 を 認 め た.また,大腰筋周囲に T2 および STIR 高信号域, T1 低信号域を認めたことから化膿性腸腰筋炎と診 断した.第 7 病日に解熱し,第 9 病日には白血球数 5,300/μL,CRP 1.48 mg/dL と炎症反応の改善を認め た.右股関節痛も徐々に消失し股関節の伸展や歩行 は可能となった. 第 19 病日に血液検査で白血球数 5,000/μL および CRP 0.06 mg/dL と炎症反応は陰性化しており骨盤 MRI 検査(Fig. 4)で画像所見の改善を認めたため, MEPM 投与を中止とした(合計 14 日間投与).以降 は外泊を行いながらの経過観察とし,第 27 病日の血 液検査で炎症反応の再増悪はなく,骨盤 MRI 検査で STIR 高信号域の縮小傾向を確認し同日退院した. 2016 年 12 月現在,再発はなく経過している. 考 察 化膿性腸腰筋炎は,腸腰筋群の周囲の深部軟部組 織感染症と定義されている.化膿性筋炎は多くがア ジアやアフリカなどの熱帯地域で発生しており,温
Fig. 2 Development after hospital admission
This was the development after hospital admission. After the administration of MEPM, the patient s symptoms such as fever and the right coxalgia pain disappeared immediately and the inflammatory reaction diminished. We verified the lesion was smaller on a pelvic MRI scan and biochemical examination after the end of medication, following which she was dis-charged. 帯地域である我が国での報告は少なく,小児での報 告例は比較的稀である.小児における股関節痛では, 化膿性股関節炎や単純性股関節炎が鑑別疾患として 挙げられることが多く化膿性腸腰筋炎の診断に苦慮 することがある.本症例は迅速な画像診断を行うこ とで,早期に診断治療が可能となり内科的治療のみ で治癒した症例であったと考えられた. 化膿性腸腰筋炎は原因によって原発性と続発性に 分類されており,原発性は遠隔部の感染巣からの血 行性またはリンパ行性感染である.一方,続発性は 隣接する臓器からの伝播または血行性感染によるも のを指しており,クローン病や脊椎炎および泌尿器 感染症などの基礎疾患を有する場合が多い2)3) .また, 一般に成人で続発性が多く小児では原発性が多いと されていたが,本邦における小児の化膿性腸腰筋膿 瘍で 68.2 %(22 症例中 15 例)について原因疾患が特 定できたとする報告もある4) .本症例は,MRI 検査上 は隣接する脊椎や泌尿器および消化管における異常 は指摘されず,前述のような基礎疾患は認めなかっ たことから原発性化膿性腸腰筋炎と考えられた.な お,明らかな遠隔部の感染巣は確認できなかったが, 本症例では軽度のアトピー性皮膚炎を認めていた. アトピー性皮膚炎では皮膚の防御機能が破綻してお り容易に細菌やウイルス感染を来すと考えられてい る.品川らの報告5) によるとアトピー性皮膚炎の患者 からは黄色ブドウ球菌が 58.9 %分離されている.腸 腰筋炎でも黄色ブドウ球菌が原因菌となることが多 く,また軽症アトピー性皮膚炎の既往のある患児に おいて化膿性筋炎を発症した症例の報告があったこ とから6) ,本症例でもアトピー性皮膚炎の関連が推測 された.しかし,血液培養は陰性で発症時点では湿 潤面や出血部位などの感染部位が特定できない状態 であり病原菌の検出には至らなかった. 化膿性筋炎の病期は侵入期,化膿期および晩期の 3 期に分けられる1) .侵入期は膿瘍形成がなく,CRP や白血球増多などの炎症反応は軽度である.化膿期 になると,発熱や局所の圧痛および腫脹が顕著にな り膿瘍形成を伴うことがある.そして,化膿期に診 断がなされなかったり無治療または抗菌薬不応例で あると晩期に移行する.晩期では敗血症性ショック や多臓器への転移性膿瘍を生じ,死に至ることもあ る.このため,化膿性筋炎では早期診断が重要とな る.本症例では発熱と局所の圧痛および炎症反応の 上昇を認めており,化膿期であったと考えられた. 化膿期では局所の腫脹を認めることがあるが本症例 では明らかでなかった.これは,腸腰筋が後腹膜に 位置しているためと考えられた.このように,化膿 性腸腰筋炎では病巣が深部に存在することから診断
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Fig. 3 Pelvic MRI scan
A (Coronal plane, T1 weighted image): A low intensity area is seen around the right psoas major muscle.
B (Coronal plane, STIR): A high intensity area can be seen around the right psoas major muscle.
C (transverse plane, STIR): A high intensity area is demonstrated in the right iliac muscle (arrow 1) and around the right psoas major muscle (arrow 2).
A B C 1 2 が困難となることもあるため,局所の腫脹がない場 合でも化膿性腸腰筋炎を疑った場合は,MRI 検査な どによる画像評価を迅速に行う必要があると考えら れた. 治療法については抗菌薬による内科的治療と切開 排膿といった外科的治療に分けられる.腸腰筋炎の 起因菌は黄色ブドウ球菌が約 60 %を占めると報告 されている7) .また,松田らの腸腰筋膿瘍の本邦報告 例8) によると,黄色ブドウ球菌が 9/17 例(53 %)と 多く,その中には MRSA の検出の報告(2/17 例)も みられた.本症例では MEPM が奏功していたこと を考慮すると,起因菌は MRSA ではなく,メチシリ ン感受性黄色ブドウ球菌や嫌気性菌などであった可 能性がある.起因菌の同定には至らなかったため抗 菌薬の de-escalation はできなかったが,起因菌を特 定できた場合には抗菌薬は薬剤感受性に応じて変更 すべきであると考えられた. 結 語 12 歳女児の化膿性腸腰筋炎の症例を経験した.化 膿性腸腰筋炎は早期診断および早期治療を行えば予 後の良い疾患であるため,特異的な肢位や疼痛部位 等から本症例を疑った場合には,MRI 検査などの画 像検査を用い迅速に診断し,治療を開始する必要が あると考えられた.
Fig. 4 Change in the pelvic MRI before and after medication
The left figure was taken on the day following admission and the right figure was taken on the day 27 of illness before discharge. The high intensity area (shown with the white ar-rows) has decreased in size after medication.
D a y 27 D a y 6 本論文の要旨は第 45 回日本小児感染症学会総会・学 術集会において発表した. 開示すべき利益相反状態はない. 文 献 1)清水正樹,黒田文人,山田直江ほか:化膿性股関節 炎 と 思 わ れ た 化 膿 性 筋 炎 の 1 例.小 児 臨 58: 1589―1593,2005 2)平林 茂:化膿性腸腰筋炎.「今日の整形外科治療 指針 第 6 版」(国分正一,岩谷 力,落合直之ほか 編),pp682,医学書院(2010) 3)矢ケ崎英晃,佐野史和,黒田 格ほか:敗血症を 伴った原発性化膿性腸腰筋炎の小児例.山梨中病年 報 36:54―56,2010 4)星野真由美,平野隆幸,後藤博志:鼠径部腫瘤を契 機に発見された原発性腸腰筋膿瘍の乳児例.日小外 会誌 51:839―844,2015 5)品川洋一,大国寿士,飯倉洋治ほか:アトピー性皮 膚炎児における皮膚細菌叢と食物アレルギーにつ いての検討.日小児アレルギー会誌 9:6―13,1995 6)清水雄太,大石 強,鈴木大介ほか:小児に発症し た化膿性筋炎の 2 例.中部整災誌 55:1435―1436, 2012 7)山田裕三,河井秀夫:原発性腸腰筋炎の 2 例.臨整 外 35:801―805,2000 8)松田 諭,矢内俊裕,済陽寛子ほか:小児の原発性 腸腰筋膿瘍の 1 例.日小 外 会 誌 51(1):64―68, 2015