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生体インピーダンスによる妊婦の体水分と妊娠·分娩期の異常との関連:パス解析を用いた検討

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原  著

*1国際医療福祉大学(International University of Health and Welfare) *2聖路加国際大学(St. Luke's International University)

2015年8月12日受付 2016年1月26日採用 日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 30, No. 1, 78-88, 2016

生体インピーダンスによる妊婦の体水分と

妊娠・分娩期の異常との関連:パス解析を用いた検討

Path analysis of relation between maternal hydration status shown

by bioelectrical impedance analysis and pregnancy outcome

中 田 かおり(Kaori NAKADA)

*1

堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)

*2 抄  録 目 的  生体インピーダンスによる妊婦の体水分と関連のある妊娠・分娩期の異常(切迫早産,妊娠高血圧症 候群(PIH),低出生体重等)を探索し,関連を検討する。 対象と方法  妊娠26週から29週の健康な単胎妊婦を対象とした。データ収集は,妊娠26∼29週と妊娠34∼36週の 妊娠中2回と,分娩終了後に実施した。生体インピーダンスの測定には,マルチ周波数体組成計を使用 した。妊婦の体水分と関連のある生理学的検査値と妊娠・分娩経過に関するデータは,質問紙と診療録 レビューにより収集した。変数間の関連は,パス解析により検討した。 結 果  研究協力の承諾を得られた340名の内,332名を分析対象とした。生体インピーダンスとの関連性が示 唆された妊娠・分娩期の異常は,「切迫早産およびその疑い(妊娠26∼29週の測定後から妊娠34∼36週 の測定まで)」(p<0.01),「妊娠期の血圧上昇(妊娠34∼36週の測定後から分娩まで)」(p<0.05),「低出生 体重」(p<0.01)であった。「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」はレジスタンス(R)が高く体水分 が少ないことが示唆され,「妊娠期の血圧上昇」はRが低く体水分が多いことが示唆された。パス解析の 結果,「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」,「妊娠期の血圧上昇」の全てにRあるいはヘモグロビ ン値(Hb)からのパスを描くことができた。「切迫早産およびその疑い」と「低出生体重」は,Rあるいは Hbが高く体水分と血漿量が少ない可能性が示唆され,「妊娠期の血圧上昇」ではRが低くHbが高い,つ まり体水分は増加しているが血漿量は増加していない,という可能性が示唆された。 結 論  体水分をあらわす指標と生体インピーダンスおよび,特定の妊娠・分娩期の異常との関連性が示唆さ れた。しかし,異常の予測につながる指標の組み合わせは特定できなかった。今後,妊婦の生活やリス ク発見後の対応を考えながら,妊娠期の健康につながる体水分評価指標の組み合わせや基準値を探索す る,基礎研究が必要である。

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キーワード:パス解析,生体インピーダンス,妊婦,体水分,妊娠・分娩期の異常

Abstract Purpose

To explore how maternal hydration status relates to negative pregnancy outcomes that includes preterm labor, pregnancy induced hypertension, and low birth weight using bioelectrical impedance analysis based on path analy-sis.

Methods

Participants were healthy women with a singleton pregnancy between 26 and 29 weeks of gestation. During two prenatal visits at 26-29 weeks and 34-36 weeks, clinical data were collected by self-reported questionnaire and medical chart review. In addition, bioelectrical impedance measurements were performed using a tetrapolar multi-frequency impedance analyzer. Data on pregnancy outcomes were collected by self-report questionnaire and medi-cal chart review. The relations among the variables are discussed, using path analysis.

Results

Data from 332 of 340 participants were analyzed. Negative pregnancy outcomes that correlated with signifi-cant differences in mean bioimpedance values were "preterm labor and suspected preterm labor" (SPTL) (p<0.01), "elevated blood pressure after measurement at 34-36 weeks of gestation until delivery" (EBP) (P<0.05), and "low birth weight" (LBW) (p<0.01). Higher resistance (R) values, suggestive of lower hydration status, were found in the SPTL and LBW groups, and lower R values, suggestive of higher hydration status, were found in the EBP group. In the path analysis, statistically significant paths were drawn from R or hemoglobin level to each of the three negative pregnancy outcomes. The results suggest that lower body water and/or plasma volume were related to SPTL or LBW, and that higher body water and lower plasma volume were related to EBP.

Conclusions

Possible correlations were found between bioimpedance values and negative pregnancy outcomes, mediated by maternal hydration status. However, combinations of indices for assessing the risks of negative pregnancy out-comes were not identified. Further studies are needed to identify indices for evaluating maternal hydration status leading to healthy pregnancy outcomes taking into consideration women's lifestyles and possible future clinical im-plications.

Key Words: path analysis, bioimpedance, pregnancy, body water, negative pregnancy outcome

Ⅰ.緒   言

1.研究の背景  妊婦の循環血液量・体水分量の増加は,母体の重要 な生理的適応の一つであるが,妊娠にともなって発 症する合併症のリスクも上昇させる(Blackburn, 2013, p.216)。この生理的変化への適応を促進し正常に保つ ことができれば,妊娠にともなって発症する合併症の リスクを低減し,健康な妊娠経過の促進につながるの ではないか,と考えた。しかし現在のところ,「妊婦 の体水分」と「妊娠経過・予後」との関連を検討した先 行研究は限定的である(中田,2010,p.199-202)。コク ランのシステマティックレビュー論文では,妊婦に対 する補液の治療効果として「羊水量の増加」を認めて いるが,「切迫早産」と「分娩期母体ケトーシス」への 治療効果は認めていない(Hofmeyr, Gulmezoglu, 2002, p.4; Stan, Boulvain, Pfister, et al., 2002, p.5; Toohill,

Soong, Flenady, 2008, p.5)。また,妊婦健康診査や家 庭で一般的に実施可能で,標準化された妊婦の体水 分の評価方法はみつかっていない(中田,2010,p.200-202)。  「妊婦の体水分」と「妊娠経過・予後」との関連を検 討した研究では,生体インピーダンス法を用いて妊婦 の体水分の状態を評価しようとする研究が国内外で報 告されている(中田,2010,p.202)。生体インピーダ ンス法は,生体に微弱な高周波電流を通じ伝導部位の 電気抵抗(インピーダンス:Impedance)値を測定し て,その変化から体構成成分を測定する方法で,現在, 体脂肪計として一般家庭にも普及している。インピー ダンスは,電気良伝導体としての細胞内液,細胞外液 を反映するレジスタンス(以下,R)と細胞膜のキャパ シタンス量の尺度であるリアクタンス(以下,Xc)の 2成分からなる。水分・電解質をほとんど含まない脂 肪組織ではインピーダンス値が高く,7割以上水分・ 電解質で構成される除脂肪組織では,インピーダンス 値が低くなる(西澤・佐藤・池田,2007,p.159)。そ

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の測定値は,年齢や人種,気温などさまざまな要因 の影響を受けやすく,数値の標準化はされていない (Chumlea, Sun, 2005, pp.82-83)。しかし,非侵襲的で 簡便な測定方法として,栄養状態の評価や,体組成・ 体水分量評価への適用が検討されている。周産期でも 妊婦を対象とした適用が,子宮内胎児部分や母体浮腫 などによる測定値への影響を考慮しながら検討されて いる(中田,2010,p.202)。  生体インピーダンス法を用いて妊娠アウトカムとの 関連を検討した研究では,合併症の有無による妊婦の 循環動態・体液量の変化とその特徴の違い,出生体重 との関連などが報告されている(中田,2010,pp.201-202)。例えば,妊娠高血圧症候群(PIH)あるいは浮腫 を発症した妊婦では,発症しなかった妊婦よりも生 体インピーダンス(電気抵抗)が有意に減少した,つ まり測定部位の体水分,おそらく間質液が有意に増 加したことを示唆する結果が報告された(da Silva, de Barros Leite Carvalhaes, Hirakawa, et al., 2010,

pp.360-364;上田・丸尾・足高,2002,pp.801-808)。妊婦の体

水分量と出生体重を比較した研究では,生体インピー ダンス法によって算出した体水分量と出生体重との間 に正の相関があり,算出された妊婦の体水分量,おそ らく胎児への循環血液量が多いほど,出生体重が大き いことが報告されている(Sanin Aguirre, Reza-Lopez, Levario-Carrillo, 2004, pp.57-58)。 中 田(2013, pp.102-104)は,小規模な前向き縦断的調査(対象数30名)を 実施し,生体インピーダンスおよび妊婦健康診査で測 定される生理学的検査値と妊娠アウトカムとの関連性 を示唆する報告をしている。  先行研究では妊婦の体水分と妊娠経過との関連性は 示唆されているが,妊娠・分娩経過中の異常やトラブ ルの発症,あるいは症状の悪化と体水分管理との因果 関係や基準値を具体的に示した研究は見当たらない。 そこで,妊娠期の健康につながる妊婦の体水分管理の あり方を検討するためには,妊婦の体水分を間接的に あらわす複数の指標と妊娠・分娩期の異常がどのよう に関連しているかを具体的に検討する必要があると考 えた。 2.研究の目的  本研究は,生体インピーダンスを中心に,妊婦の体 水分への関連や影響が考えられる因子・指標と妊娠 ・分娩期の異常(切迫早産,妊娠高血圧症候群(PIH), 低出生体重等)を探索し,それらがどのように関連し ているのかを検討する,基礎研究である。パス解析を 用いて,異常の予測につながる評価指標の組み合わせ を検討する。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン  研究デザインは,対象者を妊娠期から分娩終了まで 追跡する,前向き縦断的研究である。 2.対象  調査の対象は,測定値への影響を考慮し,第1回目 の測定時に以下の条件,①研究協力施設で出産(経腟 分娩)予定,②血液検査が予定されている妊娠26週か ら29週の単胎妊娠,③日本語に習熟した東アジア人女 性(生体インピーダンスの測定値は人種による体型や 体格の違いの影響を受けるため),④現在治療中の医 学的合併症がない,⑤子宮・卵巣に器質的合併症がな い,⑥ペースメーカーなど体内機器を装着していない (生体インピーダンス測定による電流の影響が考えら れるため),⑦本研究に参加することによる対象への 明らかな不利益が予測されない,を満たす妊婦とした。  リクルート対象の妊婦は,予め産科外来の健康診査 予約票から抽出し,対象者が妊婦健康診査で来院した 際にリクルートを実施した。口頭と文書にて調査目的 を説明し,書面による同意を得られた妊婦を対象に調 査を行った。生体インピーダンスは正常と異常の境と なる基準値が推定されていないため,基準値に基づい た対象数の計算はできなかった(Sun, Chumlea, 2005, pp.155-156)。そのため,先行研究の異常の発症頻度 や欠損率を参考に全体の対象数を設定したが(中田, 2013,pp.107-108),データ収集の過程で異常の発症率 や欠損率を確認しながら修正し,最終的に340名とし た。データ収集は,研究協力に同意を得られた,地域 周産期母子医療センターとしての機能を有する1施設 で実施した。 3.データ収集の時期と期間  データ収集期間は,2012年2月から同年11月までの 約10ヶ月間であった。妊娠期間中のデータ収集は2 回,妊娠26∼29週と妊娠34∼36週の妊婦健康診査後 に,研究協力施設における妊婦健康診査の血液検査日 程に合わせて外来診療区域内で実施した。分娩に関す るデータは,対象の分娩後1週間以内に産科病棟で診

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療録より収集した。 4.調査内容とデータ収集方法  対象の基礎データおよび妊婦健康診査の項目の内, 妊婦の体水分に関連のあるデータは,母子健康手帳 あるいは診療録より収集した。生体インピーダンス は,妊婦健康診査後に測定した。生体インピーダン スの測定には,日本人向けに開発され,測定値の信 頼性が確保されているマルチ周波数体組成計(タニ タ体組成計MC-190EM)を使用した(西澤・佐藤・池 田,2007,p.159-161)。測定電流300μA以下,周波数 5kHz,50kHz,250kHzで,それぞれの生体インピーダ ンス(RとXc)を測定した。測定条件は,①飲食から2 時間以上経過している,②測定前に排泄をすます,③ 平熱である(測定前に腋窩体温を測定),④座位(下肢 挙上)で10分間休憩した前後に測定する,⑤測定時間 を午前9時から16時の間とする,とした。生体インピー ダンスに影響すると考えられる排泄,飲食の時間,活 動に関する情報は,作成した自記式質問紙に記載して もらった。水分摂取については,前日に摂取した飲料 のおおよその種類(水,緑茶など)と量を思い出して, 1杯200mLとして質問紙に記載してもらった。その際, 摂取量の目安となるよう,目盛のついたカップを使用 した。妊娠・分娩期の異常として,妊娠経過中の異 常・治療の有無(切迫早産,妊娠高血圧症候群,婦人 科感染の既往など),妊娠経過中のマイナートラブル (便秘,浮腫など),および分娩アウトカム(出生時体 重,分娩経過中の異常など)について情報を収集した。 妊娠経過中の情報は,質問紙と診療録レビューにより, 分娩アウトカムに関する情報は,診療録レビューによ り収集した。 5.分析  妊婦の体水分に関連する因子・指標と妊娠・分娩期 の異常との関連について探索的に分析を進めた。妊娠 ・分娩期の異常の有無2群間で,「妊婦の体水分」に関 連や影響があると考えられる因子・指標の平均値と発 生頻度の比較を行った。統計的な有意性がみとめられ たアウトカムの中から,生体インピーダンスの平均値 に統計的な有意性がみとめられたアウトカムを特定 し,これらのアウトカムとの関連性が示唆された「妊 婦の体水分」への関連や影響が考えられる因子・指標 (変数)を,各変数間の相関係数も参考にしながら選 定した。そしてこれらの変数とアウトカムとの関連を 検討するため,パス解析を行った。統計分析には,統 計ソフトSPSS(Statistical Package for Social Science)

ver.19.0と,Amos(Analysis of Moment Structures)

ver.21.0を使用した。 6.倫理的配慮  研究参加への同意を得る際に,口頭と文書で研究目 的と方法を説明し,研究への参加が自由意思に基づく ものであり,同意した後であっても,研究への参加を とりやめることができ,研究への不参加あるいは参加 のとりやめによって不利益を被ることがないことを 説明した。また,研究データの使用目的と管理,守 秘義務の遵守について説明した。研究参加への同意は 同意書への署名によって確認した。本研究は,聖路 加看護大学研究倫理審査委員会(承認番号11-076)お よび国立国際医療研究センター倫理委員会(承認番号 NCGM-G-001075-00)の承認を得て実施した。

Ⅲ.結   果

1.記述統計  リクルート期間は2012年2月から8月の約6ヶ月間で, リクルート対象者395名中,340名から研究協力の承諾 を得た(承諾率86%)。研究協力の承諾が得られた340 名の内,搬送・転院等の理由により妊娠34∼36週(2 回目)の測定と分娩時のデータ収集両方が実施できな かった8名を除外し,332名(84.1%)を本研究の分析対 象とした。 1 ) 対象の基礎データ  対象妊婦の年齢の平均値は,31.7(SD=4.9)歳,非妊

時body mass index(体重(kg)/身長(m)2,以下BMI)

の平均値は,20.6(SD=2.9)であった。初経産の内訳は, 初産婦172名(51.8%),経産婦160名(48.2%)であった。 2 ) 生体インピーダンス  本研究では,先行研究でもっとも多く検討されて おり,家庭用の体組成計にも使用されている周波数 50kHzで得た,羊水などの胎児部分の影響が少ないと 考えられる両足間インピーダンスの値を分析した。測 定した生体インピーダンス(R, Xc)の内,特に細胞内 液・細胞外液の状態を反映するRの結果を表1に示す。 妊娠26∼29週(1回目)と妊娠34∼36週(2回目)の測 定平均値の差を検定した結果,休憩前の値は,妊娠 26∼29週(1回目)513.2(SD=62.2)Ω,妊娠34∼36週(2 回目)475.3(SD=65.0)Ω,休憩後の値は,妊娠26∼29

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週(1回目)511.5(SD=62.4)Ω,妊娠34∼36週(2回目) 472.4(SD=64.7)Ωであり,休憩前,休憩後のRの平均 値は,妊娠26∼29週(1回目)よりも妊娠34∼36週(2 回目)の方が低くなっていた(p<0.01)。Rは細胞内液 ・外液を反映するインピーダンスの一成分であること から,妊娠26∼29週(1回目)の測定よりも妊娠34∼ 36週(2回目)の測定の方が,測定部位の水分が多くな っていることが示唆された(表1)。 3 ) 妊娠中の生理学的検査値・計測値  週ごとの体重増加量の平均値は,非妊時体重から 妊娠26∼29週(1回目)の測定までが0.22(SD=0.10)kg, 妊娠26∼29週(1回目)の測定から妊娠34∼36週(2回目) の測定までが0.32(SD=0.16)kgであり,非妊時BMI普 通(BMI18.5以上25.0未満)の妊婦に推奨される体重 増加の範囲内であった。血圧の平均値は,妊娠期間 を通して収縮期血圧(以下,SBP),拡張期血圧(以下, DBP)とも初診時より下降した(p<0.01)。Hb・Hctの 平均値も初診時より下降した(p<0.01)(表2)。 4 ) 水分摂取  妊婦が思い出して記載した,前日一日の総水分摂取 量の概算は,一人平均1500∼1600(最頻値1400,最小 値200,最大値4800)mLであった。もっとも摂取量が 多かった飲料は2回の調査とも,麦茶やハーブティー などの「ノンカフェイン飲料」,次いで「市販の水」,「緑 茶」,「味噌汁・スープ」,「水道水(浄水器の水を含む)」 であった(表3)。 5 ) 妊娠・分娩期の異常  本研究の対象が経験した妊娠中の異常・マイナート ラブルを表4に示す。本研究では,胎児心拍モニター 上規則的な子宮収縮と子宮頸管長の短縮がみとめら れたため入院加療となった対象のほか,外来で子宮 頸管長の短縮はみとめられなかったが不規則な子宮 収縮がみとめられ,子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン 製剤内服薬)を服用していた対象を「切迫早産および その疑い」として分析した。「切迫早産およびその疑 い」のあった対象は,妊娠26∼29週(1回目)の測定後 から妊娠34∼36週(2回目)の測定までがもっとも多 く,42名(13%)であった。今回の調査では,妊娠高 血圧症候群(PIH)を発症した対象はなかった。そのた め本研究では,正常高値血圧の基準値とされている, 130/85mmHg(日本高血圧学会,2008)を,収縮期ある いは拡張期のいずれか1回でも越えたことのある対象 を「妊娠期の血圧上昇」として分析した。「妊娠期の血 圧上昇」をみとめた対象は,妊娠全期間を通じて10∼ 表1 レジスタンス(R)の測定値(下肢挙上10分間休憩前後)* N 休憩前 休憩後 t検定の結果休憩前後 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 妊娠26∼29週 (1回目) 332 513.2 62.2 511.5 62.4 (331)=5.1t p<0.01 妊娠34∼36週 (2回目) 休憩前 319休憩後 318 475.3 65.0 472.4 64.7 (317)=8.17t p<0.01 測定間 t検定の結果 (318)=13.62t p<0.01 (317)=14.18t p<0.01 *測定周波数50kHz,両足間の測定値 表2 対象の生理的検査値 結果 N=332a 初診時b 妊娠26〜29週(1回目) 妊娠34〜36週(2回目) 分娩後2時間値 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 体重(kg) 51.7 7.9 57.7 7.7 60.2 7.8 SBP(mmHg) 114.2 11.7 110.1 10.6 110.7 10.2 118.7 12.2 DBP(mmHg) 67.7 8.2 64.8 7.6 65.4 8.3 67.2 9.0 Hb(g/dl) 12.5 1.0 11.1 0.9 11.0 0.8 Hct(%) 37.9 2.8 34.6 2.6 35.1 2.3 各項目測定間 平均値の差 p<0.01(t検定) ただし,SBP,DBP,Hbの妊娠26∼29週(1回目)と妊娠34∼36週(2回目)の測定平均値の差 n.s.

SBP(systolic blood pressure)=収縮期血圧,DBP(diastolic blood pressure)=拡張期血圧,Hb=ヘモグロビン値,Hct=ヘマトク リット値

a妊娠34∼36週(2回目)のSBP,DBP,分娩後2時間値は、N=330 b体重は,初診時ではなく非妊時

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15名であった。  分娩データの収集が可能であった対象は,330名 であった。その内,分娩時に出血多量や微弱陣痛な ど,なんらかの異常がみとめられたかあるいは異常へ の対応・予防のための処置が実施された対象は,229 名(69.0%)であった。330名の内,37週未満の早産7名 (2.1%)以外は,すべて正期産であった。出生した新 生児330名の出生体重の平均値は,3069(SD=321.9)g で,出生体重2500g未満の低出生体重児は14名(4.2%), 4000g以上の巨大児は2名(0.6%)であった。 2.生体インピーダンスと妊娠・分娩期の異常との関連  分析対象を妊娠・分娩異常の有無でサブグループに 分け,反復測定の分散分析を行ってRの平均値の差と 変化を検討した。妊婦健康診査や家庭での簡便な利用 可能性を考え,10分間の休憩前に測定したRの分析結 果を述べる。Rの平均値の差に統計的な有意性がみと められた妊娠期の異常は,「切迫早産およびその疑い (妊娠26∼29週(1回目)の測定後から妊娠34∼36週(2 回目)の測定まで,以下「切迫早産およびその疑い」)」 と「妊娠期の血圧上昇(妊娠34∼36週(2回目)の測定 後から分娩まで,以下「妊娠期の血圧上昇」)」,分娩 期の異常は,「低出生体重」であった。  「切迫早産およびその疑い」の有無でRの平均値の 差と変化を分析した結果,「切迫早産およびその疑 い」あり群(n=39)のRの平均値(妊娠26∼29週(1回 目)=531.4(SD=67.6)Ω,妊娠34∼36週(2回目)=515.4 (SD=74.1)Ω)の方がなし群(n=272)のRの平均値(妊 娠26∼29週(1回目)=509.0(SD=60.3)Ω,妊娠34∼36 週(2回目)=469.0(SD=61.9)Ω)よりも有意に高く,測 定部位の水分量が少なくなっていた(F(1, 309)=12.0, p<0.01)。  「妊娠期の血圧上昇」の有無でRの平均値の差と変化 を分析した結果,「妊娠期の血圧上昇」あり群(n=15)の Rの平均値(妊娠26∼29週(1回目)=500.1(SD=63.5)Ω, 妊娠34∼36週(2回目)=425.9(SD=62.3)Ω)は,なし 群(n=302)のRの平均値(妊娠26∼29週(1回目)=512.0 (SD=61.5)Ω,妊娠34∼36週(2回目)=477.7(SD=64.4) Ω)よりも有意に低く,測定部位の水分量が多かった (F(1, 315)=4.2, p<0.05)。また,交互作用が統計的に 表3 妊婦の水分摂取の実態 量(mL)と内訳(杯)* 妊娠26〜29週(1回目) N=328 N=328妊娠34〜36週(2回目)N=316 一日の水分摂取量(mL) 中央値1500 最頻値1400 最小値400 最大値3600 中央値1600 最頻値1400 最小値200 最大値4800 摂取した人数 総摂取量 最大値 摂取した人数 総摂取量 最大値 (内訳) n (%) (杯) (杯) n (%) (杯) (杯)  ノンカフェイン飲料  市販の水  緑茶  味噌汁・スープ  水道水 213 110 132 187 82 64.9 33.5 40.2 57.0 25.0 681 363 309 243 203 10 10 12 3 8 232 104 95 160 83 73.4 32.9 30.1 50.6 26.3 982 335 264 207 200 10 15 10 3 10 *値は,対象が一日(測定日前日)の水分摂取を思い出して記載したもの。1杯=約200mL 表4 妊娠中の異常・マイナートラブルの発症数 N=324* 今回の妊娠初診 〜妊娠26〜28週(1回目) 妊娠26〜28週(1回目)後〜妊娠34〜36週(2回目) 妊娠34〜36週(2回目)後〜分娩 n % n % n % 異常・マイナートラブルあり 内訳(重複あり)  切迫早産およびその疑い  妊娠中の血圧上昇†  妊娠糖尿病(GDM)  貧血(妊娠性)  婦人科感染の既往  胎位異常  便秘  むくみ感 249 29 12 1 135 40 66 109 19 76.9 9.0 3.7 0.3 41.7 12.3 20.4 33.6 5.9 232 42 10 3 145 32 29 51 24 71.6 13.0 3.2 0.9 44.8 9.9 9.0 15.7 7.4 175 8 15 3 112 20 13 22 ̶ 54.0 2.5 4.6 0.9 34.6 6.2 4.0 6.8 ̶ *子宮筋腫合併妊婦除外後収縮期血圧130mmHgあるいは拡張期血圧85mmHg以上

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有意であり(F(1, 315)=10.4, p<0.01),「妊娠期の血圧 上昇」あり群はなし群に比べ,妊娠末期にRが低下す る傾向が強く,測定部位の水分の増加が大きいことが 示唆された。「妊娠期の血圧上昇」群15名の内,妊婦健 康診査で下肢の浮腫がみとめられ,むくみ感の自覚が あった対象は1名であった。  出生体重に影響があると考えられる子宮筋腫合併 と早産の対象を除外して,「低出生体重」の有無でRの 平均値の差と変化を分析した結果,「低出生体重」あり 群(n=11)のRの平均値(妊娠26∼29週(1回目)=564.5 (SD=69.8)Ω,妊娠34∼36週(2回目)=511.4(SD=64.4) Ω)は, な し 群(n=294)の Rの 平 均 値(妊 娠26∼29週 (1回目)=510.2(SD=60.9)Ω,妊娠34∼36週(2回目) =474.1(SD=65.0)Ω)よりも有意に高く,測定部位の 水分量が少ないことが示唆された(F(1, 315)=4.2, p<0.05)。 3.「体水分に関連する因子・指標」と妊娠・分娩期の 異常との関連  反復測定の分散分析で特定された,「切迫早産およ びその疑い」,「妊娠期の血圧上昇」,「低出生体重」を アウトカムとして,Rを含む体水分に関連する因子・ 指標がどのように影響しているか,パス解析を行って 検討した。この分析では,妊娠26∼29週(1回目)と 妊娠34∼36週(2回目)の測定データそれぞれを用い た2通りのモデルを作成した。 1 ) 妊娠26∼29週の体水分に関連する因子・指標と 妊娠・分娩期の異常との関連  妊娠26∼29週の妊婦の体水分に関連する因子・指 標の内,〈対象の属性〉,〈生理学的検査値〉,〈水分摂取〉, 〈妊娠経過中の異常〉の中から,算出した各変数間の 相関係数を参考に変数を選択し,妥当性を考えなが ら「切迫早産およびその疑い」と「妊娠期の血圧上昇」, 「低出生体重」の発症に有意なパスが描ける組合せを 検討した(図1)。選択した変数は,〈対象の属性〉の中 から「BMI群(非妊時BMI18.5未満,18.5以上25.0未満, 25.0以上の3群)」と「出産回数」,〈生理学的検査値〉の 中から「週体重増加量」と「Hb」,そして周波数50kHz で休憩前に測定した「R」の5項目であった。パス解析 の結果,「切迫早産およびその疑い」へは,「出産回数」, 「週体重増加量」,「Hb」,「BMI群」の4項目からの直接 効果が示された。モデル適合度指標であるGFIは0.986, RMSEAは0.014であり,作成したモデルは適合してい ると判断された。作成したパス図からは,非妊時の BMIが18.5未満で出産回数が多く,体重の増加量が少 なく,Hbが高い人は,妊娠34∼36週までの「切迫早 産およびその疑い」のリスクが高くなる,という結果 が読み取れた。「R」から「切迫早産およびその疑い」へ の有意なパスは描けなかった。しかし「R」は,「Hb」, 「BMI群」との有意な相関がみとめられた。「妊娠期の 血圧上昇」へ描けたパスは「Hb」のみであった。また, 「低出生体重」へ描けたパスも,「R」のみであった。3つ のアウトカムの間で相関はなかった。 2 ) 妊娠34∼36週の体水分に関連する因子・指標と 妊娠・分娩期の異常との関連  妊娠26∼29週(1回目)の分析と同様に妊娠34∼36 週の妊婦の体水分に関連する因子・指標の中から変 数を選択し,妥当性を考えながら「切迫早産およびそ の疑い」,「妊娠期の血圧上昇」および「低出生体重」の 発症に有意なパスが描ける組み合わせを検討した(図 2)。選択した変数は,〈生理学的検査値〉の中から「Hb」, 〈妊娠経過中の異常〉の中から「婦人科感染の既往」, 〈水分摂取〉の中から「緑茶摂取」,と「R」の4項目であ った。モデル適合度指標であるGFIは0.972,RMSEA は0.033であり,作成したモデルは適合していると判 断された。パス解析の結果,「切迫早産およびその疑 い」へは「R」と「婦人科感染の既往」の2項目からの直 変数名:【週体重増加量】=非妊時体重から妊娠26∼29週(1回目)の測定までの週体重増加量(kg)     【BMI群】=非妊時BMI:[18.5未満],[18.5以上25.0未満],[25.0以上]     【Hb】=妊娠26∼29週(1回目)の測定Hb値(g/dl)     【R(50kHz,休憩前)】=妊娠26∼29週(1回目)のR(Ω)     【切迫早産およびその疑い】=妊娠26∼29週(1回目)の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の         測定までの「切迫早産およびその疑い」の有無     【血圧上昇(130/85mmHg以上)】=妊娠34∼36週(2回目)の測定後から分 までに収縮期・         拡張期いずれか130/85mmHg以上の血圧上昇の有無 GFI =0.986 AGFI =0.97 CFI =0.993 RMSEA =0.014 図1 妊娠26〜29週の体水分に関連する因子・指標と妊娠・ 分娩異常との関連パス図

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接効果が示された。作成したパス図からは,「婦人科 感染の既往」があり「R」の値が高いほど,「切迫早産お よびその疑い」のリスクが高くなる,という結果が読 み取れた。妊娠34∼36週(2回目)の測定データの分 析では,妊娠26∼29週(1回目)の測定データの分析 で「切迫早産およびその疑い」への直接効果を示した 「出産回数」,「週体重増加量」,「Hb」,「BMI群」の4つ の項目からは,いずれもアウトカムへのパスは描けな かった。「BMI群」,「週体重増加量」と「Hb」の3項目か らは,「R」との相関のみ有意なパスが描けた。「出産回 数」からは,「Hb」との相関のみ有意なパスが描けた。  「妊娠期の血圧上昇」へ描けたパスは,「R」,「Hb」, 「緑茶摂取量」の3項目であった。作成したパス図から は,妊娠34∼36週の「R」が低く,「Hb」が高く,「緑茶 摂取量」が多いほど,「妊娠期の血圧上昇」のリスクが 高くなる,という結果が読み取れた。今回の分析で, 3項目の説明変数が「妊娠期の血圧上昇」に対して直接 影響する程度を示す標準化係数はほぼ同じで,「R」と 「Hb」はそれぞれ-0.17と0.17,「緑茶摂取量」は0.15で あった。  「低出生体重」へ描けたパスは,「Hb」と「緑茶摂取量」 であった。作成したパス図からは,妊娠34∼36週の 「Hb」が高く,「緑茶摂取量」が多いほど,「低出生体重」 のリスクが高くなる,という結果が読み取れた。この モデルでも,3つのアウトカム間の相関はなかった。

Ⅳ.考   察

1.生体インピーダンス(R)と妊娠・分娩期の異常と の関連  本研究で,生体インピーダンスと統計的な関連性が みとめられた妊娠・分娩期の異常は,妊娠26∼29週(1 回目)の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の測定まで の「切迫早産およびその疑い」,妊娠34∼36週(2回目) の測定後から分娩までの「妊娠期の血圧上昇」と「低出 生体重」であった。Rの平均値を比較したところ,「切 迫早産およびその疑い」あり群(n=39)の方がなし群 (n=272)の平均値よりも有意に高かった。Rは,測定 部位の水分が多いと低くなり,水分が少ないと高くな るという特徴があることから,今回測定したRが体水 分量を反映しているとすれば,「切迫早産およびその 疑い」のあった群はなかった群よりも体水分量が少な い,と解釈することができる。このことは,古くから いわれている,体水分量あるいは循環血液量が減少す ると子宮筋への血液の供給が不足し,虚血状態が続く ことによって子宮筋が攣縮し正期産前の子宮収縮を誘 導する,という説(Guinn, Goepfert, Owen, et al., 1997, p.818; Stan, Boulvain, Pfister, et al., 2002, p.3)を支持す る結果と言える。切迫早産の発症機序は未だ解明され ていないが,子宮胎盤循環の虚血が切迫早産を誘発す る一要因であるとの報告がある(Romero, Kusanovic, Chaiworapongsa, et al., 2011, pp.316-325)。先行研究で は,妊婦の補液および生体インピーダンスとの関連は 示されていない(中田,2010,p.199-202)。今後,Rに よって妊婦の体水分量や循環血液量を推定できるのか, 特にRと子宮胎盤循環血液量との関連に着目した検討 が必要である。  「妊娠期の血圧上昇」があった群(n=15)のRの平均 値は,なかった群(n=302)のRの平均値よりも有意に 低かった。また,「妊娠期の血圧上昇」群はなかった 群に比べ,妊娠末期にRが低下する傾向が強くなって いた。正常妊婦と妊娠高血圧あるいは浮腫の2群間に おける生体インピーダンスの変化を分析した研究で は,いずれも妊娠26∼28週以降に妊娠高血圧症候群 あるいは浮腫を発症した妊婦のインピーダンス値が有 変数名:【BMI群】=非妊時BMI:[18.5未満],[18.5以上25.0未満],[25.0以上]     【週体重増加量】=妊娠26∼29週(1回目)の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の測定までの         週体重増加量(kg)     【R(50kHz,休憩前)】=妊娠34∼36週(2回目)のR(Ω)     【Hb】=妊娠34∼36週(2回目)の測定Hb値(g/dl)     【緑茶摂取量】=妊娠34∼36週(2回目)の測定前日に飲んだ緑茶の量(杯=約200ml)     【婦人科感染の既往】=妊娠26∼29週(1回目)の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の測定ま         での「婦人科感染の既往」の有無     【切迫早産およびその疑い】=妊娠26∼29週(1回目)の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の         測定までの「切迫早産およびその疑い」の有無     【血圧上昇(130/85mmHg以上)】=妊娠34∼36週(2回目)の測定後から分 までに収縮期・         拡張期いずれか130/85mmHg以上の血圧上昇の有無 GFI =0.972 AGFI =0.954 CFI =0.921 RMSEA =0.033 図2 妊娠34〜36週の体水分に関連する因子・指標と妊娠・ 分娩異常との関連パス図

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意に低下したことを報告しており(上田・丸尾・足高, 2002,pp.801-808),本研究でも同様の結果を得た。こ のことは,妊娠34∼36週以降に血圧の上昇がみとめ られる妊婦の,妊娠末期における体水分量の急激な増 加,あるいは下肢の間質液の貯留や静脈還流の状態を 示していることが考えられた。  「低出生体重」群(n=11)のRの平均値は,「低出生体 重」なし群(n=302)のRの平均値よりも有意に高かっ た。本研究の対象は,BMIや妊娠中の体重増加の値に 有意差がなかったことから,Rが体水分や循環血液の 状態をあらわす指標であるとすると,低出生体重児を 出産する妊婦は,妊娠末期に体水分や循環血液量が低 下している,あるいは生理的な血漿量の増加が不十分 であった可能性が考えられる。妊婦の循環血液量の増 加が十分でなければ,胎盤を通して胎児に供給される 血液量が減少し,胎児の発育に悪影響を及ぼすことが 考えられる。先行研究でも,生体インピーダンス法に よって算出した体水分量および生体染料を用いて測定 した血漿量,総血液量と出生体重との間に相関がみと められている(Sanin Aguirre, Reza-Lopez, Levario-Car-rillo, 2004, pp.57-58;植田,谷口,山村,1987,pp.193-194)。このことから,測定した生体インピーダンスが 低出生体重につながる血漿量・血液量の状態を反映し ている可能性が考えられる。 2.体水分に関連する因子・指標と「切迫早産および その疑い」,「妊娠期の血圧上昇」,「低出生体重」と の関連  本研究で生体インピーダンスと関連がある妊娠・ 分娩期の異常として特定された「切迫早産およびそ の疑い」,「妊娠期の血圧上昇」,「低出生体重」の発症 と,生体インピーダンスを含む妊婦の体水分に関連す る因子・指標との関連をパス解析で検討した結果,妊 娠26∼29週(1回目)と妊娠34∼36週(2回目)のデー タで作成したモデルでは,パス図や影響している因 子に異なっている部分があった。例えば,妊娠26∼ 29週(1回目)のモデルでは,「出産回数」,「週体重増加 量」,「BMI群」から「切迫早産およびその疑い」に直接 効果を示すパスを描けたが,妊娠34∼36週(2回目) のモデルでは,「出産回数」は「Hb」,「週体重増加量」 と「BMI群」は「R」とのパスのみで,アウトカムとの 直接効果を示すパスは描けなかった。また,妊娠26 ∼29週(1回目)のモデルには,〈水分摂取〉の項目は当 てはまらなかったが,妊娠34∼36週(2回目)のモデ ルには,「緑茶摂取量」が入り,「血圧上昇」と「低出生 体重」に対して,それぞれ標準化係数は0.15と0.13で はあるが,直接効果を示すパスを描けた。これらの違 いから,妊娠経過にともなう生理的変化によって,生 体インピーダンス値も低下するが,さらに体型や既 往,水分摂取などの因子による妊婦の体水分への影響 にも変化が生じていることが考えられる。このことか ら,同じアウトカムへのリスクを評価するのでも,妊 娠週数によって適切な指標の組み合わせや重要度が異 なるということが考えられる。妊婦の体水分を評価す る指標の組み合わせを検討する際には,測定時期を十 分に考慮する必要がある。また,生体インピーダンス は,体型の影響を受ける値であるが,今回作成した モデルでも,「BMI群」と「R」の標準化係数は,妊娠26 ∼29週(1回目)と妊娠34∼36週(2回目)のモデルで, それぞれ­0.44と­0.35であり,これらのモデルの中 でもっとも影響の程度が大きかった。またこの影響は, 妊娠経過とともに小さくなることが示唆されることか ら,妊娠週数に応じたBMIによる測定値への影響も 考慮する必要がある。  また,直接効果を示すパス係数は0.1代と弱いもの であるが,2つのモデルで上記3つのアウトカムに共通 する因子として,RあるいはHbの値が高い,すなわ ち血漿量の増加が少ない可能性が考えられた。Steer, Alam, Wadsworth, et al.(1995, pp.490-491)は,妊娠中 期のHbの低下は血漿量の増加が順調に進んでいるこ とを反映するもので,妊娠期間中にHbが低下しなか った場合,妊娠高血圧症候群,胎児の発育不良,早産 のリスクにつながると述べている。理由として,血液 の粘度が下がらず,子宮筋や胎盤への血流が阻害され ることが考えられている(Steer, Alam, Wadsworth, et al., 1995, pp.490-491; Yip, 2000, p.275S)。2つのパスモ デルで,Hbのパスをすべてのアウトカムに描くこと はできなかったが,Hbのパスを描けなかったアウト カムには体水分が少ないことを示唆するRのパスが描 けた。このことは,HbとRがこの分析モデルにおい て同様の現象,つまり体水分あるいは循環血液の状態 を示している可能性が考えられた。しかし,妊娠26 ∼29週(1回目)と妊娠34∼36週(2回目)それぞれの 測定データで解析した結果,いずれのモデルも,3つ の異常の間に相関はなかった。この理由としては,本 研究において異常群に分類した対象者の多くが,明ら かな異常を発症していない,外来で経過観察中の妊婦 であったことが考えられた。

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 妊娠34∼36週(2回目)の測定データで,RとHb両 方のパスを描けたのは妊娠34∼36週(2回目)の測定 後から分娩までの「妊娠期の血圧上昇」であった。し かしここでは,Rが低くHbが高い,つまり直接効果 を示すパス係数はそれぞれ­0.17,0.17と弱い効果で はあるが,体水分量が増加していて血漿量の増加が乏 しいと血圧上昇のリスクが高くなる,という結果が示 唆された。血漿量が増えていないのに体水分量が増え ているということは,浮腫の原因である間質液など 血漿以外の水分増加が考えられる。武内,喜吉,安 田他(2001, pp.97-100)は,妊娠高血圧症候群の妊婦で は,浮腫を発症する2∼4週間前からインピーダンス 指数が高値を示したことを報告した。インピーダンス 指数とは身長(cm)の2乗をRで除したものなので,イ ンピーダンス指数の急上昇はRの急低下を示す。つま り,Rの急低下によって,浮腫の自覚よりも前にその 徴候を把握できる可能性があるということである。本 研究でも「妊娠期の血圧上昇」のあった対象15名のう ち,妊娠34∼36週(2回目)の測定で浮腫がみとめら れたのは1名のみであった。以上のことから,生体イ ンピーダンスが血圧上昇や浮腫などの予測指標になる 可能性が示唆された。しかし生体インピーダンスの値 が,血圧や体重のように,すべての人に共通して使用 できる数値の設定が可能なのか,今後検討をすすめる 必要がある。  妊娠34∼36週(2回目)の測定データのパス解析で は,「緑茶摂取量」が含まれており,血圧上昇群と低出 生体重群で緑茶の一日摂取量が多い傾向にあった。緑 茶摂取の背景には,嗜好,カフェインの摂取,生活行 動,ストレス等の影響も考えられる。本研究では,こ のような緑茶を飲む妊婦の背景について調査をしてい ないため,今後,水分そのものだけではなく,その水 分摂取にいたる行動の背景に関する調査と分析が必要 と考える。また,カフェインによる血管および血流へ の影響については,今後,カフェインの摂取量を含め た検討が必要と考える。 3.本研究の限界と課題  本研究では,明らかな異常を発症した妊婦が少数で あったことから,ほかの設定での本結果の適用につい ては,慎重に検討する必要がある。周産期の対象は主 に,健康な女性であるため異常の発症頻度は低い。今 後,十分な対象数を得られるようなデータ収集方法を 検討する必要がある。異常の発症と予測指標の因果関 係を明確にするためには,測定と発症時期を明確にし た詳細な検討が必要である。測定時期によって予測指 標の組み合わせや重要度が異なる可能性があることも 考慮した,測定時期の検討が必要である。現在のとこ ろ,生体インピーダンスが体水分の量と分布に関連し ていることは分かっているが,単独で,生体のどのよ うな生理学的現象を反映するのかは明確に示されてい ない。今後の研究成果を注視しながら,臨床への適用 可能性の検討を継続する必要がある。

Ⅴ.結   論

 本研究で,生体インピーダンスとの関連性が示唆さ れた妊娠・分娩期の異常は,妊娠26∼29週(1回目) の測定後から妊娠34∼36週(2回目)の測定までの「切 迫早産およびその疑い」,妊娠34∼36週(2回目)の測 定後から分娩までの「妊娠期の血圧上昇」,「低出生体 重」であった。パス解析の結果,この3つのアウトカ ムについて描かれたパス図は,妊娠26∼29週(1回目) と妊娠34∼36週(2回目)で異なっていた。このこと から,同じアウトカムへのリスクを評価をするのでも, 妊娠週数によって適切な指標の組み合わせや重要度が 異なる可能性が示唆された。また,本研究で生体イン ピーダンスとの関連性が示唆された3つのアウトカム には,RあるいはHbが影響している可能性が示唆さ れた。とくに「妊娠期の血圧上昇」では,Rが低くHb が高いと発症リスクが高くなる,つまり体水分量は増 加しているのに血漿量の増加が低いという妊娠高血圧 症候群の病態を示唆しており,RとHbの組合せが妊 娠高血圧症候群の予測指標となる可能性が示唆された。 しかし,異常の予測につながる評価指標の組み合わせ を特定することはできなかった。今後,妊婦の生活背 景やリスク発見後の対応も考慮しながら研究方法を精 選し,妊娠期の体水分評価指標の組み合わせや基準値 の探索を継続する必要がある。 謝 辞  本研究にご協力をいただきました妊婦の皆様,施設 の皆様,ご指導をいただきました,聖路加国際大学菱 沼典子教授,故柳井晴夫教授,故進純郎臨床教授に深 く感謝申し上げます。なお,本研究は,JSPS科研費 24234567の助成を受けたものです。

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文 献

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参照

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