日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-80
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-Ideal Body Stereotype Scale - Revised日本語版の作成と信頼性・妥当性の検討
上田 紗津貴1)、栗林 千聡1,2)、武部 匡也3)、○稲岡 優衣葉6)、山宮 裕子4)、Stice Eric5)、佐藤 寛6) 1 )関西学院大学大学院文学研究科、 2 )日本学術振興会特別研究員、 3 )立正大学心理学部、 4 )テンプル大学ジャパン、 5 )オレゴン研究所、 6 )関西学院大学文学部 【問題】 摂食障害の予防において重要な概念の 1 つに痩身理 想の内面化がある。痩身理想の内面化とは,社会的に 魅力があるとされている痩身を理想化することであ る。Stice et al. (2001) は, Dual Pathway Model of Eating Pathology (食行動異常の二過程モデル) を作成し,痩身理想の内面化が食行動異常に影響を及 ぼすことが示されている。このモデルでは,痩身理想 の内面化が,自己像不満を高めることで,ダイエット 行動やネガティブな感情を誘発させ,食行動の異常が 引き起こされる。 痩 身 理 想 の 内 面 化 を 測 る 尺 度 の 1 つ と し て, Sociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-4 (SATAQ-4) 日本語版 (Yamamiya et al., 2016) が挙げられる。SATAQ-4は痩身理想の内面 化とともに体脂肪率の低さの内面化を測定できること が特徴的な信頼性・妥当性が示された尺度である。ま た,Stice et al.(2004)は,痩身理想の内面化を測 定する尺度であるIdeal Body Stereotype Scale - Revised(IBSS- R )を作成した。IBSS- R ではプレッ シャーを与える対象についての言及はなく,包括的な 対象から影響を受けた痩身理想の内面化に特化して測 定することが可能である。また,脚の長さや胸の大き さといったさまざまな身体のパーツについて言及して いる点は特徴的であるといえる。そこで本研究は, IBBS- R の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を 検討することを目的とする。 【方法】 調査対象者 近畿圏の大学に所属する388名の女子 大学生を対象に実施された。記入漏れなどが認められ た回答を除き,372名 (平均年齢19.84歳,標準偏差= 0.92歳) が分析の対象となった。372名全員がIBSS- R 日本語版に回答し,うち55名には妥当性の検討のた め,SATAQ-4日本語版「痩身理想の内面化」と「筋肉 質理想の内面化」にも回答を求めた。また,372名の うち71名には再検査信頼性の検討のため, 2 週間の間 隔を空けて 2 回の調査を実施した。 調査材料 ( 1 ) IBSS- R 日本語版 日本語版の翻訳にあたって, 原版著者から日本語版作成の許可を得て,以下 の手続きが実施された。まず,研究目的につい て熟知しない外部のバイリンガルに原版質問紙 の和訳を依頼した。さらに和訳手続きには関与 しなかった外部のバイリンガルに,和訳手続き で作成されたもののバックトランスレーション を依頼した。和訳およびバックトランスレー ション版について,原版著者と臨床心理学を専 門 と す る 大 学 教 員 2 名 が 合 議 し, 最 終 的 な IBSS- R 日 本 語 版 を 決 定 し た。 以 上 の 過 程 に よって作成されたIBSS- R 日本語版を本研究で用 いた。IBBS- R の原版は, 8 項目から構成されて おり, 5 件法 (「 1 : 強く反対」〜「 5 : 強く賛 成」) で回答を求める。IBSS- R 日本語版におい ても,同様の手続きで回答を求めた。
( 2 ) SATAQ-4日本語版 (Yamamiya et al., 2016) 摂食障害に影響を及ぼす社会文化的要因を測定 する尺度であり, 5 因子から成る。本研究では 「内面化 (痩身/体脂肪率の低さ) 」の 5 項目と 「筋肉質理想の内面化」の 5 項目,計10項目を使 用し, 5 件法で回答を求めた。 倫理的配慮 調査への参加は自由意志であること, 個人が特定されることはないこと,そして,調査への 参加の有無が成績などには影響しないことを口頭で説 明し,同意が得られたものに対して調査を実施した。 本研究は筆頭演者の所属先の大学内研究倫理委員会の 承諾を得て実施した。 【結果】 1 )因子分析 探索的因子分析 (最尤法,プロマックス回転) を 行った結果,スクリープロットの固有値落差や各項目 の 因 子 負 荷 量 の 状 況 か ら, 1 因 子 構 造 と 判 断 し た (Table1参照)。また,IBSS- R 日本語版の 8 項目が分 析結果と同様の 1 因子構造であることを証明するため 確認的因子分析を行った。修正指数の改善度が0.1以 上の誤差間に共分散を仮定した。共分散は図表からは 除外した。再度分析を行なった結果,適合度指標は GFI=.99, AGFI=.98,CFI=1.00,RMSEA=.001となり, 十分なモデル適合度が得られた(Figure1参照)。 2 )妥当性 構成概念妥当性の検討の結果,IBSS- R 日本語版と SATAQ-4日本語版「痩身理想の内面化」の間に有意な 正の相関がみられたが (r =.47, p <.001),IBSS- R 日本語版とSATAQ-4日本語版「筋肉質理想の内面化」 の間には相関がみられなかった(r =.07, p =.63)。
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-80 457 -また,SATAQ-4の「痩身理想の内面化」と「筋肉質理 想の内面化」の間には中程度の有意な正の相関がみら れた(r =.40, p =.003)。 3 )信頼性 信頼性分析の結果, 1 回目と 2 回目の間で有意な正 の相関が見られた (r = .69, p <.01)。このことか ら,IBSS- R 日本語版の再検査信頼性が認められた。 また,Cronbach の α 係数の値から十分な内的一貫性 が確認された (α=.82)。 【考察】 本研究の目的は,IBBS- R の日本語版を作成し,そ の妥当性と信頼性を検討することであった。その結 果,本尺度は原版と同様の 1 因子構造であり,十分な 妥当性と信頼性を有していることが明らかにされた。 本研究では,IBSS- R と SATAQ-4「痩身理想の内面 化」において,有意な正の相関が認められたことから 収束的妥当性が,IBSS- R とSATAQ-4「筋肉質理想の内 面化」が無相関であったことから弁別的妥当性が示さ れた。妥当性検討の結果から,IBSS- R は女性的な身 体に対する痩身理想の内面化に特化した尺度であると 言える。 さらに因子分析の結果から,本尺度は測定したサン プルにおける理想体型の特徴を推定することができる と言える。本邦では,「すらっとしている」「スタイル がよい」女性が魅力的であるといった理想体型の特徴 が推測された。 以上より,本尺度は本邦での摂食障害の二過程モデ ルの基礎研究の発展に役立つことが期待される。本研 究の今後の展望としては,欧米のサンプルとの直接な 比較で因子構造をより詳細に検討することや,因子負 荷量を比較してそれぞれの地域での理想体型を探るこ となどが挙げられる。 【引用文献】
Stice, E. (2001). A prospective test of the d u a l - p a t h w a y m o d e l o f b u l i m i c p a t h o l o g y : Mediating effects of dieting and negative affect. Journal of abnormal psychology, 110 ( 1 ), 124-135.
Stice, E., Fisher, M. & Martinez, E. (2004). Eating disorder diagnostic scale: Additional e v i d e n c e o f r e l i a b i l i t y a n d v a l i d i t y . Psychological Assessment , 16, 60-71.
Yamamiya, Y., Shimai, S., Schaefer, L. M., Thompson, J. K., Shroff, H., Sharma, R. & Ordaz, D. L. (2016). Psychometric properties and validation of the Sociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-4 (SATAQ-4) with a sample of Japanese adolescent girls. Body Image, 19, 89-97.