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マダガスカル共和国における伝統的産婆の世話と女性の受け止め

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長野県看護大学(Nagano College of Nursing)

2010年6月9日受付 2010年10月28日採用

原  著

マダガスカル共和国における伝統的産婆の

世話と女性の受け止め

Perspectives of women receiving traditional birth

attendant care in the Republic of Madagascar

塩 澤 綾 乃(Ayano SHIOZAWA)

清 水 嘉 子(Yoshiko SHIMIZU)

抄  録 目 的

 マダガスカル共和国における伝統的産婆(Traditional Birth Attendants,以下TBAとする)の世話に対 する認識,世話を受ける女性の受け止めを明らかにする。 対象と方法  マダガスカル共和国アンチラベ市郊外のA村に研究者が2ヶ月間滞在し,現在活動しているTBA4名, TBAより現在または過去に世話を受けている女性11名に対し,TBAの世話の内容と世話に対する考え, 世話を受ける女性の受け止めに関する半構成的面接を行った。さらに,1名のTBAに同行し世話の場面 の参加観察を行った。得られたデータは質的に分析を行い,分類し検討した。 結 果  TBAは妊娠中の世話,分娩時の世話,産後の世話を行っていた。世話に対するTBAの考えでは,子 どもの位置を確認,お産を早く進める,褥婦が寒さを感じることが大切などがあった。TBAより世話を 受けた女性の受け止めでは,疲れが取れる,お産についてよく知っていて頼りになった,分娩時に力を 貸してくれるなどであったが,一方でTBAは何もしないと受け止めていた。TBAの世話に対する考え と女性の受け止めでは,語られた内容の半数に認識の差異があった。認識の差異には母親が分娩中の世 話を記憶していないこと,TBAの指導は経験や言い伝えを基にしており,具体性に欠け内容が薄いこと などが影響していると考えられた。 結 論  TBAのドゥーラとしての役割は女性に評価されており世話の必要性は高い。その役割を継続すること に加え,世話の課題として,女性のニーズに対応した世話ができるよう知識を補う必要があると考えら れた。そのためには,地域の助産師が専門職者としてのプライドという垣根を越えて,TBAの世話や考 え方を理解した上で,研修を開催するなどの具体的な行動が期待される。 キーワード:マダガスカル共和国,伝統的産婆,世話,受け止め,ドゥーラ

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Abstract Purpose

To examine traditional birth attendants (TBAs) and their care in the Republic of Madagascar through an analy-sis of care and perceptions from TBAs and women who receive their care.

Method

The researcher spent two months in the village of A on the outskirts of the city of Antsirabe in the Republic of Madagascar. Four TBAs and 11 women who received TBA care currently and in the past participated in semi-structured interviews. Interviews covered care and perceptions of TBAs and the evaluations of women receiving their care. In addition, a TBA accompanied the researcher while observations at a TBA care site were conducted. Data were qualitatively analyzed, sorted, and discussed.

Results

TBA activities included physical examinations during pregnancy, care during delivery, and home visits follow-ing birth. Fundamental objectives at the core of TBA care were to check the position of the child, promote labor progression, and regulate body temperature of the mother. Women who received care reported that TBAs relieved fatigue, served as a source of childbirth knowledge, and provided strength during delivery. In contrast, the women felt that TBAs did very little following the birth. Perspectives on TBA care from the women who received care agreed with that of TBAs themselves close to 50% of the time. Differences in perspectives may have arisen from the fact that the women did not remember the care they received during delivery, and because the guidance was pro-vided based on experience and traditions and thus lacked detailed substance.

Conclusion

Results showed that TBAs need to supplement their knowledge in addition to fulfilling their valued role as doulas in order to meet women's needs. To this end, effective training practices are needed in conjunction with ini-tiative to overcome barriers such as tribal status and pride as medical workers. Performance of practical actions to enhance their understanding of TBA care will enable them to fulfill their valuable support role more effectively. Key words: Republic of Madagascar, traditional birth attendants (TBAs), care, perspectives, doulas

Ⅰ.緒   言

 開発途上国では,出産の約3分の1が伝統的産婆 (Traditional Birth Attendants:以下TBAとする)を含 む無資格者や正規の教育による助産技術を持たない医 療専門職者の介助と推定されている状況から(国際協 力機構,2005),TBAによる妊産婦への世話などの支 援は続くものと考えられ,開発途上国においても共通 の問題があると推察される。本研究で扱っているマダ ガスカル共和国においても,妊産婦死亡率550と先進 国の妊産婦死亡率13の40倍以上を示し,「難産」が主 な死因の一つになっている。その背景にはハイリスク 妊娠の発見の遅れがあり,医師や看護職者など有資格 者のケアを受けた場合でも,緊急時には施設や人材が 対応できず手遅れになることも多い。分娩ケアにおい て,有資格者による出産の立会いを受ける割合は国全 体で51%と少ない。農村部では更にその割合が少なく, 半数以上の女性がTBAの立会いのもとで出産すると いわれている(United Nations Children's Fund, 2007; Gouvernement Madagascar, 2004)。マダガスカル共和 国では医療従事者は都市部へ集中し,助産師数0.12人

/人口1000(World Health Organization, 2007)と少な く,農村部への配属と維持は困難になっている。さら に農村部ではTBAの影響が大きいこと,医療施設へ の物理的・経済的アクセスが困難なこと,有資格者に よるケアの重要性についての啓発活動の不足などが推 測される。女性の地位が低く,教育を受ける機会に恵 まれないことも多いため,有資格者を増やすには困難 がある。本研究調査地においても産科救急医療システ ムが整っている病院数は6と少なく,いずれも市の中 心部に集中している。  現在,TBAに関する研究は,TBAの活動内容や存在 意義を明らかにしたもの(Jordan, 2001;Hunt, Glantz & Halperin, 2002;松岡,2003;宮園・牛之濱,2003; Barclay, Aiavao & Fenwick, et al., 2005;Mathole, Lind-mark & Ahlberg, 2005),清潔で安全なお産と異常の早 期リファーを目指したTBAトレーニングに対する評価 (柳澤,2006;中尾・門司・大石,2004;松尾,2003; Walsh, 2006;Bailey, Szaszdi & Glover, 2002;Good-burn, Chowdhury & Gazi, et al., 2000; 三 砂,2007), 出産介助における問題点(国際協力機構,2005)に着目 したものが多い。TBAの活動の問題点として感染拡大,

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拠。世話を受ける女性には属性,TBAから受けた世話 の内容,世話を受けた時の気持ちや受け止めを自由に 語ってもらった。面接はマダガスカル人の日本語ツ アーガイドを介して,研究者の日本語での質問をマダ ガスカル語に,研究協力者のマダガスカル語での語り を日本語に訳した。また,面接の内容は研究協力者の 同意を得て録音した。 4.データ分析方法  録音された面接の内容は,現地で通訳者と内容を確 認しながら逐語録としてデータ化した。逐語録,フ ィールドノートのデータからTBAの世話を項目ごと に分類し,世話の意義とその根拠,女性の受け止め について,文脈に従って分類した。世話の項目ごとに TBAおよび女性の考えに近い表現でカテゴリー名とし て命名した。2名の研究者の協議を経て抽出されたカ テゴリーに矛盾が無いかを吟味し,信頼性の確保に努 めた。 5.倫理的配慮  本研究は平成19年度長野県看護大学倫理委員会で の承認を得た(審査承認番号#33)。プライバシーの 保護遵守,研究参加の自由意志と途中辞退の権利の保 障,得られた情報は学術研究目的以外には使用しない ことを文書と口頭で説明し同意を得た。また,研究通 訳者には守秘義務について説明した。

Ⅲ.結   果

1.研究協力者の概略 1 ) TBA(表1)  TBAの平均年齢は59.7 3.2歳(最小56歳,最大65歳)。 経験年数は9年から47年,TBAになった理由は1名が 自ら進んで,3名が祖母や母の後を継ぐ世襲であった。 教育背景は小学校卒業が2名,中学校卒業1名,小学 校3年で中退1名,4名中3名読み書きができ,1名は読 めるが書けなかった。3名が研修を受けており,内容 は医療機関での妊婦健診の必要性や妊産婦の栄養およ び母乳栄養についてであった。TBAの世話に対する報 酬は全員金額を決めておらず,女性の払える額(最低 100MGA,最高額不明)または農作物などの現物,あ るいは無報酬であった。TBA以外の職業は3名が農業 であった。 異常時の対応ができないことやマッサージ,薬草の処 方などの根拠や効果が明らかにされていないという報 告がある。TBAの活動に対する女性の評価では,アク セスが容易で安価なケアを提供してくれる,TBAは親 しみやすく経験もあり,医療施設で働くスタッフより も技術が高いという報告があるが,自身の世話に対す る認識や女性のTBAの世話に対するニーズに着目し た研究は少ない。そこで,本研究はマダガスカル共和 国におけるTBA自身の世話に対する認識,その世話 に対する女性の受け止めを明らかにすることを目的と した。本研究によって明らかにされる結果は,開発途 上国における妊産婦ケアの質の向上の一助となると考 える。

Ⅱ.研 究 方 法

1.調査地と研究協力者 調査地:マダガスカル共和国アンチラベ市郊外A村と その近郊である。今回調査を行ったA村は,首都ア ンタナナリヴより南へ167km,標高約1550mの高原 地帯に位置するアンチラベ市の中心部から約7km 北西にある。人口1402人,主要産業は農業(トウモ ロコシ,大豆,米)である。村に医療施設はなく,2 時間歩いて中心部の病院または診療所に受診する。 研究協力者:現在活動しているTBA4名とした。また, TBAより現在または過去に世話を受けている女性 11名とした。 2.調査期間  平成20年4月∼平成20年6月。 3.調査方法と内容  調査対象となる村の基礎データを収集しながら集団 に馴染むための予備的滞在期間を2週間とした。デー タ収集方法は参加観察と半構成的面接法である。1名 のTBAに参加観察と半構成的面接,3名のTBAと11名 の女性に半構成的面接を行った。参加観察ではフィー ルドノートを用い世話の場所,妊産褥婦および出生直 後の児に対する世話,コミュニケーションの取り方, 世話を受ける女性の反応,世話提供に要する時間を観 察した。  半構成的面接は,事前に相談し研究協力者が指定す る場所および日時に実施した。TBAには属性および妊 産褥婦,新生児に対する世話の内容,世話の意義と根

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2 ) TBAより世話を受けた女性(表2)  協力者の平均年齢は25.9 5.3歳(最小19歳,最大35 歳)であり,妊娠分娩歴は初産婦が1名,他は全員経 産婦で出産回数は1回から5回であった。TBAより世 話を受ける理由は,「TBAが好き」,「病院へ行けなかっ た」,「マッサージをしてもらう」,「病院へ行くお金が 無い」などである。職業は農業が7名,主婦が4名であり, 収入は日給を得ている者が3名であった。教育背景は, 小学校中退が1名,小学校卒業が5名,中学校卒業が5 名で,小学校卒業以上の学歴の者は読み書きができた。 2.TBAの世話の内容  参加観察と半構成的面接で明らかになったTBAの 世話は妊娠中の世話,分娩時の世話,産後の世話であ った。【 】は世話の項目のカテゴリー,〔 〕は用語の 説明,( )内はケース記号を示す。 1 ) 妊娠中の世話  妊婦に対するTBAの世話は,主としてココナツオ イルまたは食用油を使用し,手技は子宮底から子宮の 左右側腹部に沿って恥骨の方向に手を滑らせながら下 ろす【マッサージ】(ア,イ,ウ,エ)であった。所要時 間は約15秒から5分であり,施行場所はTBAの家で行 われることが多い。マッサージ施行時に食事の助言, 表1 TBAの概略

年齢 TBAとしての経験年数 月間分娩介助件数 TBAになった理 由 教育背景 読み書き TBA研修受講経験 TBAとしての収入 参加観察 半構成的面接

ア 56歳 30年 2∼11人 村に病院がなくお産を手伝う人が必 要だから 小学校卒業 無報酬か女性が 払える額または 農産物等の心付 けを貰う ○ ○ イ 65歳 47年 0∼4人 祖母の後を継いで人を助けたいから ウ 59歳 9年 不明 実母の後を継いで女性のお産を手伝 いたいと思った 小 学 校3年 で中退 読めるが書けない 無 エ 59歳 42年 現在は出産を取り扱っ ていない 祖母,実母の後を 継いで(世襲) 中学校卒業 可 有 ケース 表2 TBAより世話を受けた女性の概略 ケース 年齢 妊 娠分娩歴 分娩場所 世話を受けた TBA 世話を 受けた 時 期 世話を受けた理由 家族形態 職業 収  入 学 歴 読み書き a 21歳 2回経産 自 宅 ア 現在 夜中に陣痛が始まり病院へ行けな かった 夫,子2人 主婦核家族 な し 中学校 中 退 可 b 35歳 3回経産 マッサージをしてもらうため 夫,子3人 農業核家族 小学校 卒 業 c 34歳 6回経産 病院が遠いから 核家族 夫,子6人 主婦 d 27歳 4回経産 夫,子4人核家族 農業 e 19歳 初 産 自宅で分娩予定 TBAを信頼しているから 両親,兄核家族 弟8人 1日 1700MGA(日 本円で100円程度) f 27歳 2回経産 自宅 過去 この地域の習慣だから 夫,子2人核家族 な し 小学校 中 退 不可 g 21歳 1回経産 自分の家族の習慣アが好きだから 夫,子1人核家族 主婦 中学校卒 業 可 h 27歳 3回経産 1人目は病院2人目以降自宅 夜中に陣痛が始まり病院へ行けなかった 夫,子3人核家族 i 25歳 1回経産 自宅 イ 病院へ行くお金がないから 夫,子1人核家族 農業 1日 1000MGA(日 本円で60円程度) 小学校卒 業 j 30歳 5回経産 イが好きだから 核家族 夫,子5人 1本円で80円程度) 中学校日 1300MGA(日 卒 業 k 19歳 1回経産 現在 夫,子1人核家族 な し

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疲労や腰痛予防,適度な運動や休息の必要性などの 【生活指導】(ア,イ,ウ,エ),妊婦に対して病院で健康 状態の確認や異常の発見を促しマッサージ中に確認を 行う【病院健診の勧めと確認】(ア,イ,ウ,エ),分娩時 や産後に女性が使用する布や衣類,児のオムツ等を清 潔にする【分娩の準備】(ア,イ,ウ)を行っていた。 2 ) 分娩時の世話 (1)分娩第Ⅰ期の世話  産婦が病院での分娩を希望し,病院まで歩いて行け ると判断した場合,【産婦を病院へ連れて行く】(ア)た めにTBAは産婦に同行していた。産婦に砂糖水を飲 ませる(ア,イ,ウ),分娩を促進するための薬草処方 と腹部のマッサージを行う(イ)【スムーズな分娩進行 の手伝い】,内診により児頭下降度および破水の有無 を確認する【分娩進行状態の確認】(ア,イ,ウ)を行っ ていた。 (2)分娩第Ⅱ期の世話  産婦が怒責をしなくても児頭が下降する場合を除い て,児娩出時に産婦の子宮底を押し児娩出を早めてい た(ア,イ,ウ)。参加観察時TBAは産婦の膝の間に座り, 子宮底の位置を自分の方に引き寄せるように押してい た。また,新生児の爪が指端に達しているか否かで世 話の要,不要を判断する(ア),【児娩出の介助と児の 健康状態の判断】を行っていた。異常分娩では横位の 場合,産婦の子宮の中にお湯につけた手を挿入し,胎 位を矯正して分娩させる(ア),腹部をマッサージし〔外 回転術のような手技〕胎位を矯正して分娩(イ)させる 【横位,骨盤位分娩の介助】を行っていた。骨盤位は そのまま分娩させていた。 (3)分娩第Ⅲ期の世話  TBAは児娩出後胎盤の自然剥離を待ち,軽く子宮底 を圧迫して娩出させていた。臍帯切断は胎盤娩出後, 新生児側から約5cmの場所を木綿糸で結紮,剃刀で切 断し,消毒液がある時は断端面を消毒し,臍帯をガー ゼで包み包帯で体幹に固定する【胎盤娩出および臍帯 処置】を行っていた(ア,イ,ウ)。剃刀は産婦が準備し た新しいものを毎回使用していた。 (4)分娩第Ⅳ期の世話  胎盤娩出後スブカ*1の予防に冷水を飲ませ,出血 の予防に砂糖を与える【スブカ,出血の予防】を行っ ていた(ア,イ,ウ)。水,砂糖の量はそれぞれのTBA が独自で判断していた。またスブカ予防では褥婦がよ り寒さを感じ取るように,冷水を飲ませた後,更に冷 水で手を洗わせていた(イ,ウ)。 3 )産後の世話  病院で注射をしてもらう,または月経終了日から 10日前後の性交を避ける,帯下の変化に気をつける (ア),起床時冷水を飲む(イ)などの【避妊指導】をして いた。出産に立ち会った女性の家の訪問時や女性が TBAの自宅に訪問した場合,【児の臍の観察】をしなが ら,女性との会話で健康状態を確認していた。育児 については,【母乳栄養の勧め】として授乳の回数につ いて助言していた。マダガスカル共和国では粉ミルク は高価な上,不衛生な水や器具の使用,与え方の間違 い等で乳幼児の下痢や死亡に繋がるため母乳栄養を推 進している。研修で教えられたことを忠実に実行する (ア),伝統的な地域の習慣を重んじる(イ)などに基づ いた指導をしていた。産後に食べてはいけないものを 指導する【食事指導】も行っていた(ア)。 3.世話に対するTBAの考えと女性の受け止め  半構成的面接で明らかになったTBAの世話に対す る考えと女性の受け止めのカテゴリーを【 】で示す (表3)。協力者の語りは   で示し,〔 〕内は言葉を 加えた用語の説明,語りの最後の( )内の文字はケー ス記号である。以下世話の項目に沿って述べる。 1 )マッサージ  TBAはマッサージにより【子どもの位置を確認】し, 問題なく出産できるかを判断していた。 お腹の大き い人は最後に下のほうに何があるか確認する。〔お腹 の上の方は〕頭かお尻か,横に何があるか,横位じゃ ないかみているの(ア)。同時に,TBAはマッサージ による刺激で胎動をより活発にし,胎児の成長と健康 を促すものと考え【子どもの発育と健康の確認】をし ていた。 子どもがいろんな動きができるようになる から大きくなる(ア), もし子どもがすごく動けば健 康だし,あまり動かなければ健康じゃない。マッサー ジすればすぐわかるのよ(イ)。女性が問題なく出産 するには正常な胎位が重要と捉え,【子どもの位置を 直す】ためにマッサージが自然な胎位矯正に繋がると 考えていた。 子どもの頭が下にある時はちょっと痛 いかも知れないけど,マッサージで頭が上に上がる *1アンチラベ近郊の農村部で言い伝えられている病気で,全身に風が入り高熱が出て死ぬと考えられている。褥婦が飲水し, 全身で寒さを感じ取ることにより予防できると考えられている。医療従事者は産褥期の感染症と捉えている。

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(ア), 妊婦が働いて疲れるとポジションが悪くなり 横位になりやすいが,いつものマッサージで子どもが 動いて横位が直る(ウ)。また,TBAはマッサージが 子宮の位置に働きかけ分娩所要時間を短縮する,子宮 が納まるべき正常な位置から逸脱している場合,マッ サージで子宮を正常な位置に保つことで【お産が問題 なく早く進む】と考えていた。〔マッサージすると〕子 どもが生まれる時早く生まれる(エ), 子宮の位置が 悪いと子どもが外に出れない。手術が必要になるから, それを避けるためにマッサージをする(イ)。  さらに,TBAは妊娠期の女性のマイナートラブルの 除去も必要と考えており,早朝から夕方まで農作業を する女性をいたわり,病院では解決できない【疲れを 取る】こと, 疲れを取るのと,子どもが気持ちよくな るためにやる(ア), 病院ではマッサージしないから 疲れは解決できないのよ(エ),妊婦の胃部や腹痛等 【腫れや痛みを取る】ことが必要と考えていた。 心配 事がある時や怒っている時など胃の辺りが腫れる。マ ッサージをすると無くなる(ア), お腹が痛い時にこ こに来てマッサージすると痛みが取れるの(ウ)。  女性はTBAのマッサージにより活発な胎動を感じ 【子どもの生存を感じる】, マッサージをしてもらう と子どもがすごく動くの(a,b,c), 子どもが元気で 強くなる感じがする(a,b),妊娠中期に胎位が横位 だった女性は,前回妊娠時の胎動と違う感覚を不安に 思い,難産になることを懸念していたが,TBAによる マッサージで胎位が正常に戻ったため,【子どもの位 置を直してくれる】と受け止めていた。 アはマッサー ジで子どもの横位を直すことができる。前はお腹の右 と左が蹴られた。今は下のほうが動く感じよ(b),マ ッサージで子どものポジションを直してくれたことに 感謝している(c)。また,女性はマッサージにより気 分が良くなり体が軽くなる,胎児の健康状態に直接的 な効果があると感じ【疲れが取れる】,〔マッサージを 頼むのは〕子どもが健康になるためと,疲れを取るた め(b)マッサージにより腰背部痛や太腿のクランプ 〔引きつり〕など妊娠に伴う身体の疼痛を改善でき【痛 みが取れる】と受け止め,世話に対するTBAの考えと 一致していた。 腰の痛みや太もものクランプを取っ てもらいました。痛い時にマッサージしてもらって良 くなった(a), 彼女に世話してもらうとそれだけで 頭の痛みが取れるのよ(c)。 表3 世話に対するTBAの考えと女性の受け止め 世話の内容 世話に対するTBAの考え 女性の受け止め 妊 娠 中 【マッサージ】 【子どもの発育と健康の確認】 【子どもの位置を直す】 【疲れを取る】 【腫れや痛みを取る】 【子どもの位置を確認】 【お産が問題なく早く進む】 【子どもの生存を感じる】 【子どもの位置を直してくれる】 【疲れが取れる】 【痛みが取れる】 【楽しくなる】 【生活指導】 【足の腫れ,腰痛,クランプを治す】【ちょうど良い大きさの子どもにするため】 【運動と休息が必要】 【言われたらそのまま受けるもの】 【不快症状を治してくれるのは医者】 【病院健診の勧めと確認】 【健康状態の判断と病気の治療】【妊婦の義務】 【病院健診の必要性はわかっている】 【分娩の準備】 【清潔なお産のため】 【TBAの指導は守るもの】 分 娩 時 【スムーズな分娩進行の手伝い】 【お産を早く進める】【産婦の体力を保持する】 【お産を早めてくれた】【お産について良く知っていて頼りになった】 【痛い時に世話をしてくれた】 【産婦を病院へ連れて行く】 【産婦と子どもの安全を守る】 【分娩進行状態の確認】 【お産の時期の確認】 【児娩出の介助と健康状態の判断】【お腹を押して娩出を助ける】【月足らずだったら世話が必要】 【分娩時に力を貸してくれた】 【横位,骨盤位分娩の介助】 【横位,骨盤位でも問題ない】 【難しいお産は無理】 【スブカ,出血の予防】 【褥婦が寒さを感じることが大切】【出血で病気にならないために砂糖が必要】 【自分もスブカを怖い病気だと思うのでTBAに従う】【予防にTBAは必要な存在】 産 後 【避妊指導】 【子どもが増えるとお母さんが大変】 【家族計画を勧めてくれる】 【児の臍の観察】 【臍を見ながら話を聞く】 【TBAは何もしない】【臍を見てくれる】 【母乳栄養の勧め】 【医者が勧めることだから】【母乳栄養はあたりまえのこと】 【母乳の回数を指導する】【育児について教えてくれる】 【食事指導】 【腹痛の予防】 【スブカの予防】 【 】は世話および世話に対するTBAの考えと女性の受け止めのカテゴリー名

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 一方で疲れを取るためにTBAのマッサージを受け ることは必要だが,病院でのケアの方が信頼できると 考えている者もいた。 体が軽くなった。腰がとても 気持ち良かった。疲れを取るためだけにイさんに頼ん だの。子どものことは病院で(i)。  また,女性はマッサージを受ける行為そのものを 【楽しくなる】と感じていた。マッサージが身体や胎 児に影響を及ぼすだけでなく,TBAの人柄が女性に活 力を与えていると言える。 アにみてもらうと楽しい し嬉しい。アは冗談を言ったり,面白い(e), 子ど もも私も元気になる感じが楽しかった。彼女は話好き で人を楽しませるのが上手だよ(f)。 2 )生活指導  TBAは足浴や温かいお湯で体を洗うことで足の浮腫 み,腰や足の痛みや引きつりの予防・緩和,トウモロ コシのひげがアルブミンを除去する作用があると考 え,妊婦の不快症状を取り除く工夫をしていることか ら【足の腫れ,腰痛,クランプを治す】と考えていた。 足は温かいお湯に自分でつけなさいって言う。クラ ンプの予防になるの(ア), アルブミンの薬としてト ウモロコシのひげを与えています。妊婦さんの足がむ くんでいたらアルブミンがあるということだからあげ ます(エ)。TBA全員が,母親の栄養不足は未熟児の 出産に繋がると考え,胎児の成長を促進する目的で食 事の量を増やすよう助言していた。一方で,栄養を摂 り過ぎて胎児が大きくなると分娩の進行に支障を来た すため,【ちょうど良い大きさの子どもにするため】の 食事指導をしていた。 子どもがとても小さい時,栄 養不足だからちゃんと食べてくださいと言います(イ, エ), 美味しい物を食べ過ぎると,子どもが大きく なってお産が大変になる(イ)。また,農作業による 妊婦の疲労への対処や,妊娠による運動量の低下に対 して,適度な【運動と休息が必要】と考えていた。 田 舎の人は良く働くので,疲れないように注意しなさい とか(ウ), 怠け者は子どもを産むのが大変になるか ら,朝早く起きて少し散歩をした方が良い(イ)。  一方で女性は,TBAより指導された生活指導の内容 について根拠や効果について深く考えず,【言われた らそのまま受けるもの】と素直に受け止め,出来る範 囲で実行していた。 生活指導は無いです。仰向けに なって休むことだけ教えてくれた。何故そう言ったか よく解らないけど,長い時間座っていると腰が痛くな るから,腰痛を防ぐため(a), 暑いときは太陽の下 に長くいないようにって,胎盤が背中の方にくっつく って。よく体を洗いなさいって(k)。また,女性は身 体的な問題をTBAに相談した時に病院受診を勧めら れたため,TBAは単に相談役であり【不快症状を治し てくれるのは医者】と受け止めていた。 静脈瘤につい てアに相談したら,病院へ行けと言われた。医者に行 って薬を買った(e), TBAは薬はくれませんが,私 に何か異常があったら病院へ行きなさいと言いました (f)。 3 )病院健診の勧めと確認  TBAは,マッサージだけで健康状態を判断すること の限界や,医療施設のない村での出産に備えてリスク を最小限にするために,異常がないことの確認が必要 と考え【健康状態の判断と病気の治療】のために,病 院健診の必要性を訴えていた。 時々病気があっても マッサージだけじゃわからないから,病院へも行った 方が良い(イ), ここの人たちは病院で産まないつも りだから,健康かどうか確かめるためだけに病院へ行 くの(イ)。また,マダガスカル共和国では妊娠中に4 回の妊婦健診を政府が義務付けているため,TBAは妊 婦健診を受けることを【妊婦の義務】と考え受診を指 示していた。 ここには何もありませんから。病院へ 行くのは義務だし,そうするべきです(ア), 妊婦健 診で妊娠中に薬を飲むでしょ,鉄剤は出血しないよう に,クロロキン〔マラリア予防薬〕は熱が出ないよう にするため(ア)。  女性は,病院健診で妊娠経過や健康状態を確認でき るため,妊娠期をより良く過ごすにはTBAの健診は 不十分と考え,【病院健診の必要性はわかっている】と 受け止め指導を守っていた。また,病院で健診を受け る傍らTBAのマッサージも必要と考えている者もい た。 アは私の健康に関してよく知らないと思う。マ ッサージしかしないもの。病院へ行けば,血圧を測っ てくれて私の状態を教えてくれる(d), 私は2種類の 健診をします。アはマッサージをしてくれる。病院で お産するとしたら,ちゃんと健診に行っておかなきゃ, 病院の人は私の状態がわからない(h)。 4 )分娩の準備  TBAは分娩時に使用する物品や水,身体の清潔がそ の後の女性の健康にも影響を及ぼすため,【清潔なお 産のため】に分娩の準備の指導をしていた。 女性は毎 日畑にいて埃まみれになっている。ここには清潔があ

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まりない(ア), 汚い水は使わない方が良い,お腹の 中にミクローブ〔細菌〕が入るでしょ?汚い水はスブ カの原因ではないけど,他の病気,子宮の病気の原因 になる(ア)。  女性はTBAより清潔について厳しく指導を受けて いるため,【TBAの指導は守るもの】と受け止めていた。 家の中を清潔にするように。出産の時に使うものは きれいに洗って,食事の前はよく手を洗ってと言われ た(f), 清潔なランバ〔布〕が不十分なら汚いランバ を使うことになるでしょ?(f)。 5 )スムーズな分娩進行の手伝い  TBAは分娩第Ⅰ期に産婦の体を温めることで【お産 を早く進める】と考えていた。分娩時間短縮に効果の ある薬草を煎じて飲ませ,マッサージしている者もい た。 分娩中はお湯で背中や陰部を洗います。出産が スムーズに行くようにするため(ア) 温かい物を飲む と子どもが早く出てくるの(ウ), もしお産が難しか ったらタンバービ〔薬草を使った民間療法〕を飲ませ て,マッサージして位置を直します(イ)。また,産 婦が適度な糖分の補給することで【産婦の体力を保持 する】と考え,砂糖入りの水またはお湯を与えてい た。 いきむ力をつけるために砂糖を入れた水を与え る(イ), 時間がかからないように温かいものをあげ ます。砂糖は力が出るように(ウ)。  女性は分娩第Ⅰ期,オイルを使って腹部をマッサー ジされたことで【お産を早めてくれた】と受け止めて おり,世話に対するTBAの考えの一つと一致していた。 アはお腹に油をつけてくれて,体が温かくなってお 産が早くなるの(d), お腹に油をつけて子どもの頭 が出てくるのを待って,引っ張った(j)。その他分娩 時の疲労により,TBAの世話についてほとんど覚えて おらず,【痛い時に世話をしてくれた】とのみ受け止め ていた。 彼女はよく世話をしてくれる。何かあると 色々手伝ってくれる(c), 痛い時にイさんはよく世 話をしてくれた。痛い時に砂糖を入れたお湯をくれた (i)。また,女性は夜中に陣痛が開始し病院へ行けな い場合,自分とその家族だけでは何をすれば良いかわ からないため,分娩に詳しいTBAの介助が必要と考え, 【お産について良く知っていて頼りになった】と受け 止めていた。 病院へ行くことができない時は彼女を 呼ぶの。彼女は何をすれば良いか良く解っているから (a), 私一人では出産できません。誰か手伝ってくれ る人が欲しいのでTBAに頼みました(f)。 6 )産婦を病院へ連れて行く  TBAは産婦が病院へ向かう途中分娩に至った場合に 備えて,【産婦と子どもの安全を守る】との考えから病 院まで付き添っていた。 彼女が道の途中でお産にな っても心配ないわ。私がお産を手伝って洋服の中で子 どもを包んで抱いていけばいいんだから(ア)。 7 )分娩進行状態の確認  TBAは分娩進行状況を把握するため,内診による 【お産の時期の確認】が必要と考えていた。 まだ破水 してないわ。少し寝なさい。もう少しかかるわよ。頭 がまだここにあるもの(ア)。 8 )児娩出の介助と児の健康状態の判断  TBAは分娩第Ⅱ期に産婦の体力が消耗し努責が弱く なるため,【お腹を押して娩出を助ける】ことで分娩時 間を短縮し,産道での児頭圧迫,羊水吸引を避けるこ とが必要と考えていた。 産婦は疲れているから自分 ではいきめない。女性もお腹を押すことを望んでい る(ア), こうやってお腹を押して下の方に子どもが 降りてくるのを手伝うの。そうすると早く生まれる し,子どもが血液や羊水を飲むのを避けることができ る。顎がひっかかるのを防げるでしょ?(ア)。また, 低出生体重児の場合,親は高い入院費を支払い,面会 に行くには生活や労働時間が拘束される。TBAは新生 児を入院させず村で生活させるために【月足らずだっ たら世話が必要】との考えで,新生児を保温し母体外 生活に適応させていた。 爪の長さが足りなかったら ビンに熱いお湯を入れて,布で包んで熱すぎないよう にして子どもと一緒に置く。それでもう大丈夫(ア), 私は子どもを生かさなければいけない責任があるの よ。子どもが冷たいのは奇妙なこと,月足らずで何も しないで,長くそのままにしておくのはだめよ(ア)。  これらの考えに対し,女性は児娩出時疲労が増す ため,TBAによる子宮底を押す手助けが必須であり, TBAは特別な存在,分娩が無事に終了したのはTBA の優れた介助技術のお陰だと考え【分娩時に力を貸し てくれた】と受け止めていた。 子どもを押し出すのを 手伝ってくれる。私が疲れすぎないように。子どもを 産むには力が必要でいきんだけど,もっと力が必要だ った。押さなかったら大変でしょう(a), 子どもが 早く生まれるから。お産の時お腹を押せるのはアだけ, 他の人はできない。お腹を押してもらわなければ,自 分で子どもを産むのはとても大変なこと(g)。

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9 )横位,骨盤位分娩の介助  TBAは病院へのアクセスの悪さや経済状況から女性 が自宅での出産を希望した場合,横位,骨盤位の介助 も行っていた。介助例数を重ねることで慣れ,【横位, 骨盤位でも問題ない】と特別なリスクを背負っている という考えはなかった。 今まで問題は全然無かった し,痛みも無いのよ。胎位を直して分娩させることは おもちゃで遊ぶみたいな感じよ(ア)。  一方で女性は,専門的な教育を受けていないTBA に異常分娩の介助は出来ないと推測し,【難しいお産 は無理】と受け止めていた。 易しいお産なら彼女はで きると思うけど,多分難しいお産はできないと思う (h)。 10)スブカ,出血の予防  TBAはスブカ予防のために適切な時期を判断し冷 水を与え【褥婦が寒さを感じることが大切】と考えて いた。 外に出ると寒くなるからスブカにかかりやす い。冷たい水を飲むとそれは大丈夫。耳から風が入る の。スブカは注意しないことでなるの。お産の傷や不 潔にすることは関係ない(ア), 私がいる時だったら 家族が褥婦に砂糖と水をやっても良いけど,私がいな い時他の人はわからないからあげちゃダメ(ウ)。また, 胎盤娩出後に出血が多ければ子宮の病気や死に繋がる ため,【出血で病気にならないために砂糖が必要】と考 え,出血予防薬として砂糖を使用していた。 出血が 沢山あるのは,お腹の中が汚いから。胎盤が中に残っ たりして病気になるの(ア), スブカと出血は死ぬん だから。でも,冷たい水と砂糖を食べれば大丈夫(イ)。  女性もスブカや出血についてTBAと同様に恐怖心 を持っていた。TBAの行う世話に半信半疑の者もいた が,分娩直後は特にスブカにかかりやすく,何らかの 対処をしなければならないと考え,【自分もスブカを 怖い病気だと思うのでTBAに従う】とTBAの世話を受 け止めていた。 それが大事かどうか良く解らないけ ど,私は深く考えない。でも,スブカは気をつけな きゃいけない(a), 良く解っている上手な人がする ことだから,何も考えたことがない。信用しているか ら(a)。また,スブカ及び出血予防を行うのは胎盤娩 出後であり,そのタイミングを判断できるのはTBA だけである。そのため【予防にTBAは必要な存在】と TBAを信頼し任せていた。 アがいないと水と砂糖を 飲むことはできません。胎盤が出てないとそれをやっ ちゃいけないの。私一人じゃ,胎盤が出たかどうか解 らない(f), この田舎でスブカを避けるのはとても大 切なこと。砂糖と水を与えることができるのはアだけ (g)。 11)避妊指導  TBAは妊娠出産による体力低下や労働負担の増加 を心配し,【子どもが増えるとお母さんが大変】と考え 避妊指導を行っていた。しかし,実際に女性が行っ ている避妊法は病院でのホルモン注射が一般的であ り,TBAの指導は普及しないことに頭を悩ませていた。 子どもがたくさんいるので女性は体力が落ちるし, 妊娠をやめさせたいと思うの(ア), 女性が10日数え ることがわからないと他の方法を教えます。体を洗っ た時にオリモノが粘っていたら気をつけてと言います。 女性はそれをどうやって知るの?と言うのよ。彼女た ちにどうすれば良いか私にもわからないわ(ア)。  女性はTBAの指導について【家族計画を勧めてくれ る】と受け止めていたが,内容について理解できない, 避妊に積極的になれない等の理由でTBAの勧める方 法を実践していなかった。 日にちを数えるのはでき ないから,多分注射をしなきゃいけない(d), アは家 族計画について私たちに教えたけど,良く解らなかっ たので使っていません。私は家族計画をしたいので教 えてくれる人が必要です(g)。 12)児の臍の観察  TBAは母児の異常の有無を判断するには【臍を見な がら話を聞く】ことが必要と考えていた。 子どもの臍 が大丈夫か見ます。産婦の身体は見ません。話をして 大丈夫かどうかわかります(ア)。  TBA-アは産後の訪問時,新生児の臍の観察はせず 会話するだけのため,【TBAは何もしない】と女性は受 け止めていた。 アは毎朝来て話していくよ。子ども の臍は見ない(a, b, g)。一方でTBA-イは,新生児の 臍を観察するため【臍を見てくれる】と受け止めてい た。 臍を見てくれる。昨日もここに来て臍を見てく れました(j)。 13)母乳栄養の勧め  TBAによっては,研修で学んだ授乳回数を母親に伝 えることが自分の役割,【医者が勧めることだから】と の考え, 母乳栄養を勧めることは研修の時に教えら れたの(ア)。地域の習慣で母乳が新生児に与えられ てきたことから,【母乳栄養はあたりまえのこと】との

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考えがあった。 母乳栄養を勧めることは医者が言っ たことじゃなくてフンバ〔習慣〕(イ)。  TBA-アより指導された女性は,【母乳の回数を指導 する】とのみ受け止めていた。 生まれたらすぐに母乳 を与えなさい。1日10回まで与えなさいって言う。技 術的なことは無いよ(f), 母乳を頻繁にあげなさいっ て。毎日8回はあげなさいって(g)。TBA-イより具 体的な育児技術も指導されていた女性は,【育児につ いて教えてくれる】, アは私と子どもの健康について 色々教えてくれる。例えば,母乳をあげたらオムツが 濡れていないか子どもをよく見なさいとか(a)と受け 止めていた。 14)食事指導  TBAは自らの出産後の経験を基に【腹痛の予防】の ために食事指導を行っていた。 自分が出産した時ラ ミレバカ〔葉野菜の一種〕と魚を食べてお腹が痛くな ったので,経験上皆にそう伝えている(ア)。  女性は指導された内容から【スブカの予防】と受け 止めており,TBAの考えとは相違があった。 お産の 後に冷たい水を飲んだり,冷たい物を食べないでくだ さいって言われた。私の体がまだ温かいうちに冷たい 物を食べたらスブカになるから(k)。

Ⅳ.考   察

1.世話に対するTBAの考えと女性の受け止め  世話に対するTBAの考えと女性の受け止めをみる と,認識の共通点と相違点がほぼ半分の割合であるこ とが明らかになった。TBAと女性の認識が共通してい る世話のカテゴリーは,マッサージ,病院健診の勧め と確認,分娩の準備,スムーズな分娩進行の手伝い, 児娩出の介助と健康状態の判断であった。相違して いるカテゴリーは生活指導,横位・骨盤位分娩の介助, 避妊指導,母乳栄養の勧め,食事指導である。互いの 認識の共通の割合は妊娠中の世話が最も多く,次いで 分娩時の世話となり,産後の世話が最も少ない。TBA の世話のカテゴリーでの共通点は,マッサージやス ムーズな分娩時の世話など直接ケアにあたる世話,病 院健診の勧めや分娩の準備にみられるように,出産 に直結している。女性は胎位や胎児の健康を確認しな がら,疲れや痛みを取るという明確な目的でマッサー ジを受けており,医療機関では解決できない問題を TBAに求めていると考えられる。病院で健診を受ける ことは,TBAの世話よりも更に詳しく健康状態を確認 できるとTBAも女性も理解しているため認識が共通 している。分娩時の世話では,TBAも女性も分娩所要 時間が短いことが良いこと,児娩出時,女性はTBA に腹部を押して手伝ってもらうことは当然のことと受 け止めていた。また,古くから伝えられているスブカ という病気や出血に対する恐怖心から,TBAも女性も 予防しなければならないという考えが共通し,村での 分娩事情に詳しいTBAを女性は必要としていると考 える。  世話に対するTBAの考えと女性の受け止めが相違 したことの原因としては,分娩中は痛みに耐えるのが 精一杯で世話の内容を記憶していないことが影響して いると考えられた。産後の訪問では,ほとんどの女性 は何もしないと受け止めていたことから,訪問時話を するだけで世話は行われていない可能性が高い。TBA は自らの経験や言い伝えを基に指導しているが,妊娠 中の食事指導では摂取量のみの助言,母乳栄養の勧め では回数のみの指導など,全て具体性に欠け内容の薄 いものである。避妊指導も女性にとって理解できず使 いづらい。さらに,「TBAは私の健康に関してよく知 らないと思う」「(TBAは)多分難しいお産はできない と思う」と女性が受け止めているように,女性は専門 的な教育を受けた医療従事者を信頼している傾向がみ られた。女性は健診結果に基づいて指導をしてくれる 医療機関との比較を行い,TBAの行う健診を低く評価 していると考えられた。  しかし,互いの認識の相違点で注意をひくのは,女 性がマッサージにより楽しくなるとの受け止めであ る。女性はマッサージ中の会話を楽しんでおり,TBA の親しみやすい人柄を高く評価していた。つまり,マ ッサージで胎児の健康が確認でき,疲れや痛みが取れ, 且つユーモアを交えた会話をすることでマッサージそ のものを楽しいと感じ,日常の農作業や家事から解放 される癒しのひと時となっていると考えられる。関島, 石倉(2002)は,ユーモアを看護介入として用いた場 合,ナースと対象者間の治療的関係が強化され,関係 性に希望や楽しみが生じることを通して,対象者のウ ェルビーイング感の強化につながる。ナースが職務に ユーモアを用いた場合,仕事環境や仕事満足感の改善 がされると報告している。TBAはマッサージ中に冗談 を言ったり楽しませることを無意識に行うことで女性 を健康にし,結果として自身の活動の支えにもなって いると考えられる。また,女性は妊娠中の不快症状を

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治してくれるのは医者と受け止めているが,病院受診 の前にTBAに相談したり,お産についてよく知って いて頼りになった。分娩時一人では分娩できないとい う理由でTBAに頼っている。女性が妊娠分娩に関し て信頼を置いているのは,夫やその他の家族ではなく TBAだといえる。TBAと女性は良好な人間関係が形成 され,TBAの世話が必要とされていることから,TBA の行う世話は一方的なものでは無く,女性のニーズに 応えている部分があると考える。 2.TBAの活動の課題  本研究により,TBAの世話の実態,世話に対する考 えと女性の受け止めが明らかとなり,TBAの活動の課 題に対する示唆を得ることができた。それは,TBAの 行っている世話の中で現在女性に評価されている世話 に加え,さらに女性のニーズに対応した世話ができる よう知識を補うことである。  WHOは,「TBAは決して専門の助産師の代替物とみ なされるべきではない」と明言しているが,現状では 医療機関へ容易に行けない女性にとって,TBAは医師 や助産師に代わる存在といえる。Robertson(2007)は, 「助産師の役割とは,妊娠出産という旅の途上にいる 女性に伴走し,彼女が新生児に慣れるまで助けとなる パートナーになること。その役割には多くの側面があ り,個々の女性やその人のニーズに合わせて臨機応変 に対応することが求められる」と述べている。本研究 では,TBAは女性の妊娠中から産後まで常にそばで世 話をし,相談にのっていることが明らかになった。女 性は病院までのアクセスの不便さから自宅分娩を強い られるという現状があるものの,TBAが頼られるのは 出産に精通しているだけでなく,日常生活の関わりで の信頼関係が成立しているため,いわばドゥーラ(出 産前,出産中,出産後の母親を身体的にも情緒的にも 継続して支援し,情報を提供する,出産経験のある女 性のこと;Klaus, Kennell & Klaus, 1996)のような役 割を担っているからと考える。この女性に安心感を与 え,周産期をサポートするドゥーラとしての立場の継 続は必要と考える。  しかし,1980年代後半よりフランスをはじめとした 諸外国の援助を受け,西洋医学がマダガスカルの医療 の主流となっている現在,TBAの世話は女性にとって 疑わしい内容も含まれており,行われている世話を継 続することには課題があるといえる。TBAには世襲や 人を助けたいという思いからTBAという立場を選択 した背景があるが,地域の人々に貢献したいという思 いは全員に共通している。今後も女性の健康を守るた めの世話を継続するには,今回明らかにされた世話に 対する考えと女性の受け止めの相違点を共通点に変え る必要がある。そのためには,TBA自身が自らの価 値観にとらわれず新しい知識を取り入れ,個々の女性 のニーズに柔軟に対応するための専門職者による教育 が必要である。家族計画について教えて欲しいという 女性のニーズは,現在の指導では理解できない,積極 的になれないという女性の受け止めが背景にあると考 える。TBAは研修で学んだ家族計画法を指導している が,TBA自身も 彼女たちにどうすれば良いか私にも わからない と頭を悩ませていた。この背景には,女 性にとって理解が難しいだけでなく,忙しい,面倒, 夫の協力が得られないなどの理由がある。TBAは女性 に対して理解,実践しやすい指導方法を身につけると ともに,女性が自身の健康を守るために必要なことは 何かを理解し,学校では教えられていない,身体に関 する基本的な知識を与えることも必要と考える。  また,アンチラベ市の病院に勤務する助産師は TBAは医学的な知識が無いためリスクに対処できず, 感染の拡大がある。TBAは分娩を扱うべきではなく, 女性は病院で出産するべき と語っていた。研究者が 分娩時の観察を行った際も衛生状態が悪く,感染のリ スクが極めて高い状況であった。分娩時の薬草処方に ついても,植物が分娩進行を促進する効果の根拠は不 明であり,産婦と児の安全を守る手段がない自宅分娩 では非常に危険な行為といえる。スブカ・出血の予防 では,古くから伝わる迷信に対する独自の対処法を大 切にしていたため,その価値観を否定せず,他の対処 法についても周知する必要があると考える。地域の助 産師はTBAの行っている根拠の不明な世話を根拠の ある世話に変え,女性に受け入れられるように,TBA に対して感染防止や技術の向上,健康教育に関する 知識を増やす機会を持ち,協働していく姿勢が必要 と考える。Bannerman, Burton & Ch'en(1995)は,「医 療従事者や知識階級の人々は,伝統助産婦(TBAと同 義)を迷信に凝り固まった無知な人間とみなし,その 技術も危険視している。その意識が教育プログラムの 進展を妨げ,TBAとの共同も実現しない。医療人員の 不足とプライマリー・ヘルス・ケアの普及を考えれば, TBAは重要な人的資源である。TBAと正規の医療シス テムとのつながりを拡大するためには,TBAの技術を 変えようとするのではなく,医療従事者たちが態度を

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変え,現在の教育方式も修正する必要があるだろう」 と述べている。本研究においても市の助産師への面接 時,専門職者としてのプライドの高さが伺えた。1990 年以降,TBAへの教育は妊産婦死亡の改善に効果が無 いとして,国際機関や政府は教育から手を引いている (Costello, Azad & Barnett, 2006)が,TBAは農村部に おいては重要な役割を担っており,TBAに不足してい る知識を教育するには現地の助産師の協力が必要不可 欠と考える。  医療機関でケアを受けられないこの地域の女性は, TBAの世話に助けられている。また,TBAの世話には 否定的なものばかりではなく,たとえばマッサージに よる胎児の位置の確認はレオポルド触診法に類似して おり,TBAなりのフィジカルアセスメントを行ってい ると考える。さらにマッサージは皮下や筋肉の血行を 改善し疲労を取り除く作用がある。腰痛予防のための 保温は知覚神経の感受性を低下させ鎮痛作用を高める 働きがあり(吉沢,2008),母乳栄養の勧めでは母乳栄 養の確立を促すなど,現代の医学や助産学において根 拠が示されている世話と考えられる。助産師自身の意 識を変えるのは難しいことであるが,同じく女性と子 どもの健康を守る立場にある者として,専門職者とし てのプライドによる垣根を越えなければならないだろ う。そしてTBAの世話の内容や考え方を理解し,エ ビデンスが示されている世話はその世話の継続を支え ながら今後の課題を共に考え,TBAができる範囲で女 性のニーズに応じた世話ができるよう支援することが 必要と考える。

Ⅴ.結   論

 本研究により,マダガスカル共和国におけるTBA の世話の実態を明らかにすることが出来た。その上で 世話に対するTBAの考え,世話を受ける女性の受け 止めについてその一部を知ることができたことは新た な知見といえる。TBAのドゥーラとしての役割は女性 に評価されており,世話の必要性は高い。その役割を 継続することに加え,世話の課題として,女性のニー ズに対応した世話ができるよう知識を補う必要がある と考えられた。また,女性に受け入れられる知識の普 及をするためには,地域の助産師が鍵を握っていると 考えられた。TBAが今後女性のニーズに対応した世話 をしていくためには,地域の助産師が専門職者として のプライドという垣根を越えて,TBAの世話や考え方 を理解した上で,研修を行うなどの具体的な行動が期 待される。 謝 辞  本研究にご協力いただいた研究協力者の皆様に心よ り感謝申し上げます。  なお,本研究は平成20年度長野県看護大学大学院 看護学研究科修士論文に加筆・修正したもので,内容 の一部は第29回日本看護科学学会学術集会において 発表した。 引用文献

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参照

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