様々な災害において、その最前線で活躍する消防士。でも「消火」 だけが仕事ではありません。救急車で駆けつけての「救急」や、事故 が起きた際の「救助」、さらには現場の仕事を支える「総務」や災害 を未然に防ぐための「予防」なども、消防士が担う大切な業務です。 また、消防の仕事は、女性一人ひとりの個性に合わせて、様々な業 務で活躍することができる職場であり、女性消防士の数は年々増加し ています。 今回は、新潟県内の各市町村で活躍する4名の消防士の皆さんに集ま ってもらい、消防の意外な仕事や日々の訓練、そこから生まれるやり がい、また消防士に向く人物像などを語っていただきました。
坂井 洋一郎
長岡市消防本部 長岡消防署 川崎出張所 【2006年入職】関根 汐理
三条市消防本部 三条市消防署 【2009年入職】中村 徹
柏崎市消防本部 消防総務課 【2012年入職】峯島 賢
新発田地域広域事務組合消防本部 新発田消防署 紫雲寺出張所 【2013年入職】座談会参加メンバー
消防の仕事はチームワーク。地域の方々の「ありがとう」が支えです。
*最初に、皆さんの仕事について教えてください。 峯島:基本的に消防士は24時間体制の勤務です。前日の勤務者から出動事案や点検などの業務を引き継ぎ、その 後、車両や資機材の異状がないかを確認します。日中は主に防火広報活動へ。ほか地水利(地理および消火栓の 水利)の点検、放水訓練や事業所への立入検査なども実施します。夜間は事務作業や書類整理などを行うことが 多いですね。関根:今年から三条市消防署で初めての女性警防隊員となり、火災が起きたときは現場に出動して消火活動に務 めています。それ以外の時間は、峯島さんと同様に、消火栓の手入れや防火広報活動に出かけます。また管理営 繕係を兼務しているので、請求書の処理や消防車両の点検や修理に関わる仕事も担当しています。 坂井:消防隊と救助隊を兼ねているので、火事が発生したら消防隊として駆けつけて消火活動を行い、交通事故 により車に閉じ込められた人や狭所から動けなくなった人からの要請が入れば、救助隊として現場へ向かいま す。また、災害を想定した訓練も消防士の大切な仕事の一つ。私が勤務する出張所には長岡市消防本部の訓練施 設を備えているので、各部隊が集まり、合同や単隊で訓練を行っています。 中村:私は皆さんのように24時間体制ではなく、日勤で総務の仕事全般を担当しています。具体的には、職員の 福利厚生や研修などにまつわる管理、人事のサポート、各種委員会に関する事務、またホームページや市の広報 紙などに掲載する記事の作成など、その内容は多岐にわたります。 坂井:入職前は消防士ってとにかく体を動かす仕事だと思っていましたが、意外にデスクワークが多いんですよ ね。夜間はだいたい机に張り付いています(笑)。報告書をはじめ、様々な書類を作成することが多いのでパソコ ンができないと苦労するかもしれません。 関根:事務仕事は本当に多いですね。ほかにも意外な仕事としては、三条市の場合、一人暮らしの高齢者を訪問 して状況を確認することにも努めています。その人からの緊急要請があったときの連絡先などを把握し、その情 報を全員で共有できるようにしているんです。 峯島:地域の情報の共有は大切ですね。例えば道路工事が行われる際は、それによって緊急車両が通行できなく なる場合があるため、その届け出を受け付け、事前に情報を共有しておくのも私たち消防士の仕事です。 *この仕事のやりがいは何でしょう。 坂井:こちらは消防士として当然のことをしているだけなのに、それに対して「ありがとう」「ごくろうさま」 と声をかけてもらうとき、市民の方々に頼りにされていることへのやりがいを感じると同時に頑張ろうと思いま す。また私の勤務先はショッピングモールに近いこともあり、週末になると子どもたちが消防車を見に来ます。 時間があると乗せてあげることもあるのですが、後日、親御さんから「子どもが大変喜んでいました。坂井さん ありがとう」というメールをもらったことがありました。そのときは、つくづく消防って良い仕事だなと思いま したね。子どもたちが憧れる職業の一つでもあるので、できることはしてあげたいし、見られている分、もっと しっかりしなくてはとも思います。 関根:119番に通報してきた人は、大きな不安や困りごとを抱えています。それらを少しでも取り除くことがで きればという思いで接しているので、坂井さんが言ったように、そのことに対して感謝されるとこの仕事の素晴 らしさとやりがいを実感しますね。また救急搬送後のことはなかなか把握できないのですが、重傷だった傷病者 が回復し、自力で通院する姿をたまたま見かけたことがあり、そのときは元気になって良かったと心から思いま した。 峯島:私も地域の方々に「ありがとう」や「おかげで大事に至らず済みました」という声をかけていただいた り、救急搬送された方のご家族が「先ほどはありがとうございました」とわざわざお礼に来てくださったときな どに喜びを感じます。中にはわざわざ手紙をくださる方もいて、微力でもお役に立てて良かったと改めて思いま す。また、県内外で災害対応を行う消防士を見ると誇りを感じますね。 坂井:私たちの目的は、市民の生命、身体、財産を守ることで、それは全国の消防に共通しているんですよね。 勤務する場所は違っても志を同じくして活動できる点も、この仕事ならではの誇りであるように思います。 *逆に大変さを感じるのはどんな時ですか? 中村:仕事柄、職員を相手にする場合が多いのですが、この書類をつくってください、これを書いておいてくだ さい、と文書でお願いをしても想像以上に伝わらない(笑)。自分が言いたいことを分かりやすく文章にするのは とても難しいですね。 関根:男性との体力やパワーの差を感じたときですね。上にある重いものを取るときなど、それだけで少し遅れ をとってしまうこともあります。でもその際に大切なのは、それぞれの力量を自分でも隊でも把握しておくこ と。本来、全員が同じくらいの技力を持っていれば活動はスムーズですが、誰かが苦手なものをほかの人がフォ ローすれば問題ないと思っています。消防の仕事はチームワークが命ですから。 峯島:年間を通して防火広報活動を行っても火事はなかなかゼロにはなりません。住宅用火災警報器の訪問調査 の際、設置していない方に理由を尋ねると「煙草を吸わないから大丈夫」と答える方もいて、防火意識の低さを 実感します。大切な命や家をなくして悲しむ人がなくなるように啓蒙していきたいのですが、それを伝えるのは なかなか難しいですね。 坂井:生死に関わる仕事だし、先輩に叱られながら厳しい訓練に臨むことも。消防の仕事には大変さがつきもの ですが、その分、良いチームワークを発揮して適切な活動ができたときは喜びも倍増します。苦労とやりがいは 表裏一体じゃないでしょうか。
*日々、どのような訓練を行っていますか。 関根:救急隊は救急現場の訓練、私たち警防隊は火災の想定訓練を行います。火事が起きた、出動する、救助隊 と一緒に現場へ向かう、ホースを何本伸ばす、放水する、要救助者がいたので救助隊に知らせる、と少しずつ負 荷を加えながら、実際に火事が起きたときのシミュレーションをしています。 中村:柏崎市は海岸線が長いため、水難救助の訓練も行います。また、私が勤務する柏崎消防は管轄内に原子力 発電所があることから、原子力災害を想定し、東京電力と連携して定期的に訓練しています。訓練に土地柄があ るかもしれませんね。
現場を経験するごとに「考える力」の大切さを実感
*この仕事を志したきっかけは何ですか。 関根:困っている人を見捨てるような人間になりたくなかったので志望しました。例えば目の前で誰かが倒れた とき、何も知らなければ慌てることしかできないけれど、知識があれば手を差し伸べられると思ったんです。と は言え、当時の私は救急車は消防署ではなく病院にあるものだと思い込んでいました(笑)。救急救命士を目指し て専門学校に入り、みんなが消防署に就職するのを見て初めて事実を知り、改めて消防士になろうと決意しまし た(笑) 峯島:高校3年のときに東日本大震災がありました。倒壊した家から車椅子の人を助け出した消防士が、さらに 逃げ遅れる人がいないよう避難を呼びかけに行って亡くなったという記事を読んだのが大きなきっかけに。自分 も消防士になって大切な人や地域の方々を守りたいと、そのとき決心しました。この仕事に就いたことで、家族 や友人の防火意識が上がり、注意喚起につながっているように思います。 中村:大学進学により地元を離れたことで思いが強くなり、大好きな柏崎のために役に立ちたい、人助けができ るような仕事をしたいと思っていました。また、陸上の長距離で鍛えた体力や、新潟県中越地震や新潟県中越沖 地震での経験も、人のために生かすことができたらスゴイ!と思ったのも志望の動機です。 坂井:皆さんのように良い話はありませんが(笑)、私は親に勧められたのがきっかけです。体を動かすことが好 きだし、地元に残りたいという気持ちもありました。安定した公務員であることも決め手の一つでしたね。 *仕事を通じて成長した点はどこでしょうか。 坂井:最初の頃は現場に出ても「やらなきゃ」という思いが先走り技量が追いついていませんでしたが、成長す るにつれ物事を冷静に判断できるようになりました。残された人はいないか、どの部屋にいるのか、次に何が起 こりうるか、と考えながら動くことができるようになったのは成長の証だと思います。 関根:私も考える力がついたと思います。消防士になるまでは人の意見に流されやすいタイプでしたが、今は明 確な意志をもって一つひとつを決断しています。例えば救急隊で出動したときは、受け入れを依頼する病院の選 定も私の意思一つ。そして決断の理由を問われたときに、自分の意見をしっかりと伝えられることも大切だと思 っています。 峯島:やはり考える力ですよね。最初は与えられた仕事を行うことで精一杯でしたが、そのうち現場でどんな道 具が必要か、隊長はこれから何をするのか、などを常に予測して行動できるようになりました。疑問に思ったこ とも「何でだろう」で終わらせず、考えたり調べたりして理解につなげています。また公務員、消防人としての 責任を意識し、普段からそれにふさわしい行動を心がけるようになったのも成長の一つかもしれません。中村:問題への対応能力がついたと思います。総務の担当になったときは分からないことだらけで、そのたびに 周囲の人に質問していました。でも今はこうしてみようかなという選択肢の幅が広がり、自分の中に引き出しを 持てるようになりました。自ら考えて解決方法を見つけることで、その仕事をしっかり身につけられると感じて います。 *どのような人がこの仕事に向くと思いますか? 中村:礼儀正しく誠実であること。そういう基本がしっかりと身についているのは大事だと思います。そして根 底に、人の役に立ちたい、人を助けたいという気持ちがあり、常に努力できることは大切ですよね。 峯島:そうですね。現場では苦しんでいる人に接する場面が多いので、自分の価値観ではなく相手の気持ちにな って考えることが大事だと思います。また現場を振り返り「もっと違うやり方だったら作業はスムーズだったか もしれない」と失敗や反省に学び、次に生かすことのできる人は向くと思います。 関根:思いやりがあって一所懸命頑張れる人。そういう人なら、つらいときでも投げ出さずに最後まで仕事を全 うできるはずです。市民に思いやりを持つのは当然ですが、上司や部下、後輩などにも思いやりを持たないと良 い活動はできません。全ての人が思いやりを持って過ごせたら理想的ですね。 坂井:消防はチームで動いているので、和を大切にできる人。自己主張が強すぎても、逆に自分がなさすぎても ダメ。人対人の仕事なので、相手の望んでいることを常に考え、さっと行動できる人が適しているのではないで しょうか。気が利くことも大事です。先輩に先回りして必要な道具などを準備しておくと「やるじゃないか」と 評価が上がりますから(笑)
幅広い業務の中で自分の強みを生かしてください!
*職場はどのような雰囲気ですか。 中村:150名を超える職員の内、半数近くが30代以下の若い職場なので、話しやすく、悩みなども気兼ねなく相 談できる雰囲気です。たとえ訓練で分からないことがあっても、親身になって教えてくれる先輩ばかりです。 坂井:常時4人の出張所なので、雰囲気は悪くなりようがないのですが(笑)。一緒にいる時間が長く、ともに日常 生活を営んでいるようなものなので家族的な感じです。訓練は真剣ですが、普段は和やか。メリハリのある職場 だと思いますよ。 峯島:うちも3人なので同じような雰囲気です。緊張感が必要な仕事ですが、常にピリピリしているわけではな く、趣味やプライベートな話もしますしね。自分が悩んでいると声をかけてくれたり、分からないことを丁寧に 教えてくれる先輩がいるので、とても働きやすい環境です。 関根:消防の人は面白い人が多くて楽しいですね。一緒に過ごす時間も長いので和気あいあいとしていますが、 災害が起きると張りつめた空気に一変します。私が拝命されたとき、数少ない女性職員は救急隊か総務の選択肢 しかありませんでした。でも「自分たちで動かなくては変わらない」と、私たち女性職員にも警防隊の仕事をさ せてもらえるよう訴えかけ、今年から警防隊に入ることができました。施設面の課題も含め、今後さらに働きや すい環境へと改善していけたらと思っています。 *今後の目標は何でしょう。 関根:入職8年目となって後輩も増え、教えてもらう立場から教える立場に。人に指導するのは大変な仕事だと 実感しているところですが、まずは自分の知識や技術をレベルアップし、それをしっかり伝えられる人になりたいです。また女性の傷病者に「女性の隊員さんがいて良かった」と言われた経験から、そのような安心感を与え られる存在としても、適所で貢献したいです。 峯島:年に一度ある救助技術大会で勝ち抜き、上の大会に進むことが目標です。また若い職員が多いため、あと 数年したら自分が隊長になることも考えられます。そのときになって困らないよう、多くの知識と技術を身につ け、市民の方々や職員のニーズに応えたいと思っています。 中村:目標は何でもできるようになることです。柏崎消防では隊を兼務することが多いため、仕事を選り好みせ ず、消防、救助、救急、予防、指令といった消防業務全般の能力を身につけたいと考えています。 坂井:これまで、新潟県中越沖地震も東日本大震災も応援に行きました。自然災害の場では、一般の皆さんが消 防士と聞いてイメージする消火業務だけでは到底対応できません。それ以外の訓練もどんどん増えているので、 幅広い分野の勉強が必要です。なるべくモチベーションを保ちながら、常に目的を持って技術を高め、与えられ た現場でしっかりと働きたいですね。 *これから就活する人にメッセージをお願いします。 峯島:高校時代に消防士を志したものの、勉強もトレーニングもどのようにしたら良いのか全く分からず、不合 格となりとても悔しい思いをしました。専門学校に進み、同じ道を目指す仲間ができて、一緒にトレーニングし ながら様々な情報を共有できたのは有効だったように思います。それによって小さな不安も解消できるので、皆 さん、同じ夢を志す友人とのつながりを大切にしながら頑張ってください! 関根:就活は大変だと思いますが、就職先を決めることをゴールにしてほしくありません。たとえ第一希望の職 場じゃなくても、そこで自分がどう頑張るかで今後の仕事人生は大きく変わります。自分はこの職に就いてどん なことを頑張りたいのか、じっくり考えてみてください。また、今置かれている環境への感謝も忘れずに。毎日 学校に通わせてくれたり、お弁当をつくってくれる家族がいることに「ありがとう」の気持ちを持ってほしいな と思います。 中村:消防の仕事は学生時代の部活動や趣味など、あらゆることが役立ちます。しかもそれが人命救助につなが るのです。ぜひ、あなたの長所を生かすことのできる職場として、消防を選択肢に加えてみてください。 坂井:消防には「救急」「救助」「消火」「総務」さらには「予防」など多くの分野があります。その中には、 中村さんが言うように自分の強みを生かせる場が必ずあるでしょう。想像の何倍も奥深いのが消防の仕事です。 これも何かの縁なので、少しでも興味を持ったら、まずは行動を起こしてください。ぜひ、一緒にやりがいのあ る仕事をしましょう! *本日はありがとうございました!