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平成 28 年度質の高いインフラシステム海外展開促進調査事業 ( ミャンマー等官民連携ファイナンス検討調査事業 ) 最終報告書 平成 29(2017) 年 2 月 受託者 : 株式会社日本総合研究所 協力会社 : 株式会社三井住友銀行 株式会社大和総研

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平成28年度 質の高いインフラシステム海外展開促進調査事業

(ミャンマー等官民連携ファイナンス検討調査事業)

最終報告書

平成

29(2017)年 2 月

受託者:株式会社日本総合研究所

協力会社:株式会社三井住友銀行、株式会社大和総研

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目次 序論 ... 1 第1章 調査の背景・目的 ... 1 1-1 調査の方法 ... 2 1-2 調査実施体制... 2 1-3 調査スケジュール ... 2 1-4 ミャンマーにおける産業発展とインフラ整備 ... 3 第2章 産業発展とインフラ整備の重要性 ... 3 2-1 ミャンマー政府の経済政策とインフラ開発方針 ... 3 2-1-1 現政権のインフラ整備方針 ... 9 2-1-2 公的資金の制約による民間資金導入の必要性の裏付け ... 12 2-1-3 今後のインフラ整備の方向性 ... 15 2-1-4 ミャンマーの資本市場を通じた資金調達の可能性 ... 15 2-1-5 インフラ整備の現状整理 ... 17 2-2 援助機関の援助方針と支援状況 ... 17 2-2-1 民間資金の導入状況 ... 21 2-2-2 ミャンマー以外の諸外国の事例 ... 23 第3章 フィリピンの官民連携 ... 23 3-1 法制度・体制(体系、法律、各種ガイドラインの内容、実施体制) ... 23 3-1-1 官民連携によるインフラ開発の動向 ... 28 3-1-2 フィリピンの官民連携の発展経緯、現状を踏まえたミャンマーへの示唆 ... 32 3-1-3 経済特区開発を含むタイのインフラ開発 ... 34 3-2 法制度・体制(体系、法律、各種ガイドラインの内容、実施体制) ... 34 3-2-1 官民連携によるインフラ開発の動向 ... 35 3-2-2 資本市場及びインフラファンドを活用したインフラ開発事例 ... 40 3-2-3 タイの官民連携、SEZ 開発の現状を踏まえたミャンマーへの示唆 ... 44 3-2-4 カンボジア官民連携 ... 45 3-3 カンボジアの概況とインフラ整備状況 ... 45 3-3-1 法制度・体制(体系、法律、各種ガイドラインの内容、実施体制) ... 54 3-3-2 官民連携によるインフラ開発の動向 ... 61 3-3-3 カンボジアの官民連携の発展経緯、現状を踏まえたミャンマーへの示唆 ... 62 3-3-4 本調査のまとめ ... 63 第4章 参考 インフラファンドとは ... 65

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図表リスト 図表 1-1 本事業の全体像 ... 1 図表 1-2 本調査の内容と方法 ... 2 図表 1-3 本調査の実施体制 ... 2 図表 2-1 ベトナムとミャンマーの1人当たり GDP の経年比較 ... 4 図表 2-2 ベトナムとミャンマーの正味外国投資流入量の経年比較... 4 図表 2-3 日本の国際協力機構(JICA)によるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 .... 5 図表 2-4ADB によるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 ... 7 図表 2-5 WB グループによるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 ... 7 図表 2-6 国際ドナーの支援によるミャンマーの主要なインフラ開発計画文書 ... 8

図表 2-7 ミャンマー政権与党(NLD:NATIONAL LEAGUE FOR DEMOCRACY)が 2015 年 11 月の 総選挙で掲げた選挙公約のうち、経済・インフラに直接関連するもの ... 9 図表 2-8 ミャンマー新政権の経済政策(2016 年 7 月 29 日発表) ... 10 図表 2-9 ミャンマー新政権の投資政策(2016 年 12 月 21 日発表) ... 11 図表 2-10 インフラ投資需要に関する過去の文献の比較(単位:10 億ドル) ... 13 図表 2-11 2014 年以降のミャンマーへの外国投資額の推移(単位:100 万ドル) ... 14 図表 2-12 2014 年以降のミャンマーの国内投資額の推移(単位:100 万ドル) ... 14 図表 2-13 ヤンゴン証券取引所の上場企業 ... 16 図表 2-14 世界銀行による対ミャンマー融資契約金額推移(年度別) ... 17 図表 2-15 対ミャンマー貸付内訳(案件数) 図表 2-16 対ミャンマー貸付内訳(金額) ... 18 図表 2-17 対ミャンマー貸付金額内訳(インフラ案件のみ、分野別) ... 18 図表 2-18 我が国の対ミャンマー援助形態別実績(年度別) ... 20 図表 2-19 主要ドナーの対ミャンマー経済協力実績(支出総額ベース) ... 21 図表 2-20 ミンジャンガス火力発電所案件の事業ストラクチャー... 22 図表 3-1 国家事業向け PPP マニュアルの構成 ... 23 図表 3-2 PPP センターの機能 ... 24 図表 3-3 PPP センター組織図および 6 つの部署概要 ... 25 図表 3-4 PPP 理事会構成メンバー(2017 年 1 月時点) ... 25 図表 3-5 PPP 事業のプロセス ... 26 図表 3-6 PPP プロジェクト概要(2017 年 1 月時点) ... 29 図表 3-7 民間出資者が決まっている国家 PPP プロジェクト(2017 年 2 月時点) ... 30

図表 3-8 DANNG HARI ROAD PPP 事業の官民リスク分担 ... 31

図表 3-9 PPP マスタープラン(2015-201) ... 34 図表 3-10 PISU ACT に従った PPP 事業のプロセス ... 35 図表 3-11 SEZ 開発地域 ... 36 図表 3-12 SEZ 開発地域 位置 ... 36 図表 3-13 SEZ の推進スキーム ... 37 図表 3-14 SEZ の開発スキーム ... 37 図表 3-15 SEZ 開発の進捗状況 ... 38 図表 3-16 SEZ への予算配分 ... 39 図表 3-17 タイ SEZ と周辺国 ... 39 図表 3-18 タイと周辺国の賃金比較 ... 40 図表 3-19 アセアン 8 カ国のインフラ資金需要(2010-2020)... 41 図表 3-20 タイのインフラファンドの制度概要 ... 41 図表 3-21 タイの上場インフラファンドの概要 ... 42 図表 3-22 BTSC の乗客数、運賃収入推移(左)と、駅での風景(右) ... 43

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図表 3-27 改善された飲料水へのアクセス率(2015 年) ... 47 図表 3-28 電気へのアクセス率(2012 年) ... 47 図表 3-29 一人当たり電力消費量(2013 年)(注 1)図表 3-30 電力損失率(2013 年)(注 2). 48 図表 3-31各国における舗装道路と未舗装道路距離(2014 年)(注 1)図表 3-32 舗装されている道 路の割合(2014 年)(注 3) ... 48 図表 3-33 コンテナ数量 図表 3-34 航空旅客数 ... 49 図表 3-35 携帯電話契約数(2015 年) 図表 3-36 固定電話契約数(2015 年) ... 49 図表 3-37 カンボジアの対外債務残高推移(2007~2015 年) ... 50 図表 3-38 各国におけるインフラへの公的資金流入額(2001~2014 年) ... 50 図表 3-39 世界銀行による対カンボジア融資契約額の推移 ... 51 図表 3-40 対カンボジア貸付内訳(案件数) 図表 3-41 対カンボジア貸付内訳(金額) ... 51 図表 3-42 対ミャンマー貸付金額内訳(インフラ案件のみ、分野別) ... 52 図表 3-43 我が国の対カンボジア援助形態別実績(年度別) ... 53 図表 3-44 主要ドナーの対カンボジア経済協力実績(支出総額ベース) ... 54 図表 3-45 経済財政省内の体制 ... 59 図表 3-46 直近(IMMEDIATE)の政策措置で記載されている優先分野 ... 60 図表 3-47 中期的(MEDIUM-TERM)な政策措置で記載されている優先分野 ... 60 図表 3-48 ADB による対カンボジア PPP 関連支援事業 ... 61 図表参考- 1 インフラファンド投資への投資金額(コミットメントベース) ... 66 図表参考- 2 インフラファンドの組成状況(コミットメントベース) ... 66 図表参考- 3インフラファンド投資の地域別アロケーション(コミットメントベース)(2015 年 6 月) ... 67 図表参考- 4 アジア向けファンドの金額規模上位 5 ファンド ... 67 図表参考- 5 インフラ分野別アロケーション ... 68 図表参考- 6 インフラ投資(再生可能エネルギーも含む)の実施状況 ... 69 図表参考- 7 インフラ投資へのスタンス ... 69 図表参考- 8 インフラ投資の種類・形態(複数回答可) ... 69 図表参考- 9 現在投資しているインフラ施設の種類(複数回答可) ... 70 図表参考- 10 インフラ投資の地域別選択状況(複数回答可) ... 70 図表参考- 11 為替リスクがヘッジできると仮定したときのインフラ投資の希望地域(複数選択可) ... 71 図表参考- 12 インフラ投資の際に重視する項目 ... 71

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略語集

略語 正式名称 日本語訳

ABPIF AMATA B. GRIMM POWER POWER PLANT INFRASTRUCTURE FUND AMATA B. GRIMM POWER POWER PLANT INFRASTRUCTURE FUND ADB Asian Development Bank アジア開発銀行

AIIB Asian Infrastructure Investment Bank アジアインフラ投資銀行 BOI The Board of Investment of Thailand タイ投資委員会

BOT Build-Operate-Transfer 建設・運営・譲渡方式

BRT Bus Rapid Transit バス高速輸送システム

BTSGIF BTS Rail Mass Transit Growth Infrastructure Fund BTS Rail Mass Transit Growth Infrastructure Fund CDC The Council for the Development of Cambodia カンボジア開発評議会

CEN Country Engagement Note カンボジア支援支援戦略 CIB Cambodia Investment Board カンボジア投資委員会

COBP Country Operations Business Plan Country Operations Business Plan CPF Country Partnership Framework 国別支援フレームワーク CPS The Country Partnership Strategy 国別支援戦略文書 DICA Directorate of Investment and Company Administration 投資企業管理局

DIF Digital Telecommunications Infrastructure Fund Digital Telecommunications Infrastructure Fund DOF Department of Finance 財務省

DOH Department of Health 保健省 DOTr Department of Transportation 運輸省

DPWH Department of Public Works and Highways 公共事業道路省

EGATIF NORTH BANGKOK POWER PLANT BLOCK 1 INFRASTRUCTURE FUND, ELECTRICITY GENERATING AUTHORITY OF THAILAND

NORTH BANGKOK POWER PLANT BLOCK 1

INFRASTRUCTURE FUND, ELECTRICITY GENERATING AUTHORITY OF THAILAND

F/S feasibility study 事業可能性調査

FIT Feed-in Tariff 固定価格買取制度

FMI Farst Myanmar Investment Farst Myanmar Investment 社 GATT General Agreement on Tariffs and Trade 関税及び貿易に関する一般協定 GPIF Government Pension Investment Fund, Japan 年金積立金管理運用独立行政法 ICC Investment Coordination Committee 投資調整委員会

ICPS Interim Country Partnership Strategy 暫定国別支援戦略 IEAT Industrial Estate Authority of Thailand タイ工業団地公社 IFC International Finance Corporation 国際金融公社 IMF International Monetary Fund 国際通貨基金

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INFRASTRUCTURE FUND INTERNET

INFRASTRUCTURE FUND JBIC Japan Bank for International Cooperation 国際協力銀行

JETRO Japan External Trade Organization 日本貿易振興機構 JICA Japan international Cooperation Agency 国際協力機構 LLDC the Least among less Developed Countries 後発開発途上国 LNG Liquefied Natural Gas 液化天然ガス METI Ministry of Economy, Trade and Industry 経済産業省

MIC Myanmar Investment Commission ミャンマー投資委員会

MJTD Myanmar Japan Thilawa Development Ltd MJ ティラワ・デベロップメント MOI Ministry of Interior 内務省

MOU Memorandum of Understanding 覚書

MSEC Myanmar Securities Exchange Centre ミャンマー証券取引センター MTSH Myanmar Thilawa SEZ Holdings Myanmar Thilawa SEZ Holdings 社 NAIA Ninoy Aquino International Airport ニノイアキノ国際空港 NLD National League for Democracy ミャンマー国民民主連盟 NEDA National Economic and Development Authority 国家経済開発庁

NESDB National Economic and Social Development Board タイ国家経済社会開発庁 NSDP National Strategic Dveloment Plan 2014-2018 国家開発計画

O&M Operation and Maintenance 維持管理、運用および整備 ODA Official Development Assistance 政府開発援助

OMERS Ontario Municipal Employee Retirement System オンタリオ州公務員年金基金(カナダの年金基金) PDF Project Development Fund Project Development Fund PDMF Project Development Monitoring Facility Project Development Monitoring Facility

PISU Private Investments in State Undertakings 国家事業に対する民間投資(新PPP 法) PPA Power-Purchase Agreement 電力買取契約

PPP Public-Private Partnetship 官民連携

PQ Pre-Qualification 事前入札資格審査

SEPO State Enterprise Policy Office タイ国営企業政策局 SET The Stock Exchange of Thailand タイ証券取引所 SEZ Special Economic Zone 経済特区

UNESCAP United Commission for Asia and the Pacific Nations Economic and Social 国際連合アジア太平洋経済社会委員会

VFM Value For Money バリュー・フォー・マネー

VGF Viability Gap Funding Viability Gap Funding

WB World Bank 世界銀行

WBG World Bank Group 世界銀行グループ

WTO World Trade Organization 世界貿易機関

YCDC Yangon City Development Committee ヤンゴン市開発委員会 YESB Yangon Electricity Supply Board ヤンゴン電力供給公社

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序論

第1章

調査の背景・目的 1-1 2011 年の民主化以降、ミャンマーは急速な経済成長を成し遂げ、これに伴うインフラ整備のニー ズが増大している。また、外国企業の進出や投資が拡大する中で、電力や交通網の整備はミャンマー のみならず我が国をはじめとする諸外国企業にとっても、同国で製造業をはじめとする事業を円滑に 行うための喫緊の課題となっている。 他方、ミャンマー政府は、その財政状況が脆弱であるため、インフラ整備に必要な資金を税収等に よる自己財源から拠出できない。また、債務負担能力も不十分な状況にあるため、政府開発援助(ODA) をはじめとする対外債務の受入れに対して多くの場合慎重なスタンスを保持している。 そのような状況において、今後のミャンマーの経済発展を実現していくうえでは、インフラ整備が、 製造業、中小企業、農業等の産業全体の発展にとっても、また、国民生活の向上を含む国家全体の発 展にとっても重要なものであることと、適切なインフラ整備を効果的かつ効率的に実施していくこと が必要不可欠であることをミャンマー政府に対して示すことが必要である。 また、適切なインフラ整備を行うには、ミャンマー政府による資金調達のみでは不十分な状況にあ る中、官民が連携して必要な資金調達のあり方を検討し、計画を策定していくことが必要である。 このため、「平成 28 年度質の高いインフラシステム海外展開促進調査事業(ミャンマー等官民連 携ファイナンス検討調査事業)」(以下「本事業」という。)では、産業発展のためのインフラ整備の 重要性を示すとともに、インフラ整備に向けた官民の役割分担や官民連携のあり方などに関する調査 分析を実施した。また、国の経済発展度合いや地政学的位置等を考慮して、特にミャンマーと類似の 特徴を持つ諸外国における官民連携のあり方についても、合わせて調査・考察した。 図表 1-1 本事業の全体像 出所:調査団作成 本事業の上位目標 産業発展のためのインフラ整備の重要性やインフラ整備に向けた官 民連携のあり方等に対するミャンマー政府の基礎的な理解の獲得 本事業の目標  産業発展のためのインフラ整備の重要性に対するミャンマー政 府の理解を促す情報を整理すること  ミャンマー政府の対外債務の受入れに対する慎重な姿勢、民間企 業のミャンマーでのインフラ投資におけるリスク忌避の姿勢を 踏まえた、双方合意可能な官民連携のあり方を導出すること

三井住友銀行

・ミャンマー等におけるインフラ開発の課題整理及びファイナンス方法の検討

・諸外国事例調査(フィリピン官民連携)

大和総研

・ミャンマーにおける産業発展とインフラ整備の重要性の整理

・ャンマー等におけるインフラ開発の課題整理及びファイナンス方法の検討

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調査の方法 1-2 本調査は、既存資料等による文献調査、また関係者へのヒアリング調査により実施した。 図表 1-2 本調査の内容と方法 調査内容 方法 ミャンマーにおける産業発展とインフラ整備 の重要性の整理  既存資料等による文献調査  国内有識者、援助機関、民間企業へのヒアリ ング調査 ミャンマーにおけるインフラ開発の現状整理  既存資料等による文献調査  援助機関、民間企業へのヒアリング ミャンマー以外の諸外国の事例の分析 (フィリピン、タイ、カンボジア)  既存資料等による文献調査  援助機関、民間企業へのヒアリング ミャンマー等におけるインフラ開発の課題整 理及び官民連携のあり方等の検討  上記調査に基づく分析・検討 出所:調査団作成 調査実施体制 1-3 本調査は、株式会社日本総合研究所が受託し、一部の業務については株式会社三井住友銀行、株式 会社大和総研が実施した。 図表 1-3 本調査の実施体制 出所:調査団作成 調査スケジュール 1-4 本調査は、2016 年 8 月から 2017 年 2 月まで実施した。 【日本総合研究所】 ・総括 ・ミャンマーにおけるインフラ開発の現状整理 ・ミャンマー等におけるインフラ開発の課題整理及び官民連携のあり方の検討 ・諸外国事例調査(タイ経済特区開発) ・諸外国事例調査(カンボジア官民連携) 【三井住友銀行】 ・ミャンマー等におけるインフラ開発の課題整理及び官民連携のあり方の検討 ・諸外国事例調査(フィリピン官民連携) 【大和総研】 ・ミャンマーにおける産業発展とインフラ整備の重要性の整理 ・ミャンマー等におけるインフラ開発の課題整理及び官民連携のあり方の検討

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ミャンマーにおける産業発展とインフラ整備

第2章

産業発展とインフラ整備の重要性 2-1 ミャンマーのような経済成長の端緒・途上にある国にとって、その成長を維持・加速するための不 可欠な前提が、各種のインフラの整備である。インフラ整備の重要性については各所の発表や文献で 言及されているが、改めて具体的にその効果・役割を考えることで、ミャンマーにおけるインフラの 重要性を再確認し、本報告中のこの後に続く議論の前提を明確にしたい。 まず、インフラとは通常、発送電施設、道路、通信施設、上下水施設、灌漑設備、港湾、鉄道施設 等の、公共性を有する資産及びそれを利用したサービスを指す。これら公共財・サービスが中間財と して利用できる利点には、大きく分けて、経済成長と国民の生活水準向上の二つの側面がある。 経済成長への寄与では、インフラの整備は生産性の向上とコストの削減をもたらす。電力の安定供 給は機械化及び長時間の生産活動の継続を可能とし、道路、鉄道、港湾等の整備は輸送コストの削減 をもたらす。通信環境の整備は、情報伝達の迅速化を通じて事業機会や収益の増大につながり、上下 水道の整備は原材料としての水の確保や、衛生的で良好な生産環境の維持に寄与する。もし、これら のインフラ供給が不充分な場合、事業者は劣悪な生産条件を強いられるか、代替するサービスを、独 自に、かつ、多くの場合はより高価な支出を甘受して、購入せざるを得ない。例えば、不安定な電力 供給は、自家発電機及びその燃料の購入、繊細な電子/電気設備への損害、非効率な人力作業への依 存、生産の遅れによる事業機会の逸失等をもたらしうる。道路の未整備は、輸送時間の増大により人 件費を伴う輸送費の上昇に繋がるほか、輸送品の損傷を引き起こす。そして、これらインフラ不足の 影響は製造、運輸、サービス等の広範な産業分野に及ぶため、国全体で生産・サービスの停滞が引き 起こされる。 国民の所得及び生活水準に与えるインフラの影響もまた大である。電力は、電気器具の活用を通じ て家庭内労働の軽減、活動時間の延長を促し、所得生産機会の増大をもたらす。衛生的な水の供給は 生活用水の確保に要する時間と労力を大幅に削減し健康状態を改善するだけでなく、煮沸処理を不要 とすることで熱エネルギーを節約する。発達した通信網や交通インフラは情報収集と活動範囲の拡大 を通じて雇用、教育、健康等の増大に寄与し、間接的に個人の生産性の向上につながる。 上記に挙げた様々な具体例は、現在進行形で実際にミャンマーだけでなく日本を含む多くの国々で 観察される事実であり、産業発展と国民生活水準の向上にあたって各種インフラの整備が死活的に重 要であることは論を待たない。それでは、ミャンマーのインフラはこれまでどのような発展経過を辿 り、今後どのような開発方針のもとにあるのかを、次項以下で手短に論じたい。 ミャンマー政府の経済政策とインフラ開発方針 2-1-1 ミャンマーは、1962 年に発足した軍事政権の社会主義的な政策により、企業は国有化され、貿易・ や投資が制限されるなど、特に外国との経済的交流が、ほとんど遮断された状態が長らく続いた。 1988 年になって、軍政は社会主義を放棄し、市場経済に復帰したものの、1990 年に実施された総 選挙で軍事政権側が大敗し、選挙に圧勝したはずのアウンサンスーチー氏率いる民主化勢力への抑圧 を開始した。この動きは、欧米諸国を中心とした諸外国 の経済制裁を招き、それによって、外国と の経済交流は再び停滞。ミャンマーが経済面で世界と再び本格的につながり、本格的な発展段階に入 るには、2011 年の民主化を待たなければならなかった。 この長く孤立した政治・経済状態により、ミャンマーは主に外国からの投資と国際市場の確保に苦 しみ、結果として、資源、人口等の要素からは不釣り合いなほど、周辺国に比して経済的に遅れをと った。その経過は、1990 年代当初ミャンマーとほぼ同程度の GDP/人であったベトナムが、1980 年

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図表 2-1 ベトナムとミャンマーの1人当たり GDP の経年比較

出所:IMF World EconomicOutlook データより調査団作成

図表 2-2 ベトナムとミャンマーの正味外国投資流入量の経年比較

注1:(V)はベトナム、(M)はミャンマーでの出来事を指す

注2:ベトナム、ミャンマーの外国投資法改正はそれぞれ 2000 年、2012 年 注3:ミャンマーは、WTO の前身である GATT に 1948 年に加盟済み

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この経済的停滞の間に、ミャンマー国内のインフラ開発も当然ながら資金と技術の不足により停滞 に陥った。工業団地は開発されたものの、電力や交通等の基本的な環境の整備は遅れ、周辺他国に見 られる現代的な機能は実現しなかった。通信分野は軍事政権の厳しい管理・規制下に置かれて発展は 阻害され、電話の普及率は固定、携帯とも1%程度にとどまった。鉄道や水道も当初の敷設以降は細々 とした維持管理が行われるだけで、老朽化と性能の劣化が深刻化した。 その中で、経済制裁に苦しむミャンマーに対して数少ない支援者の一つが中国であった。1990 年 代以降、急速に政治と経済で発展する中国は、資源調達経路及び調達源及としてミャンマーに着目し、 資源開発や電源開発、各種の大規模なインフラ開発等に関与することになる。この中国との蜜月の名 残は、主要な幾つかの発電所、首都ネピドーの空港などに見ることができる。 一方、インフラ開発資金不足の解決を目指して、官民連携の端緒とも言える事例も見られた。特に 道路分野では、2012 年までに 85 路線、総延長約 1 万 km の主要道路が BOT(Build-Operate-Transfer) 方式で敷設・改良された。代表的なものには、ヤンゴンとマンダレーを結ぶ幹線道路、マンダレーか ら中国国境のムセを結ぶ総延長約460km の道路、タイ国境のミャワディに繋がる幹線道路などがあ る。しかし、その実態は不完全な事業計画と不透明な事業者選定に基づき、かつ、事業リスクを民間 事業者に一方的に負わせる強引な方式が採用されたため、民間事業者の自由で活発な参画を駆動力と したインフラ開発を促すものではなかった。 2011 年、軍事政権を引き継いだテインセイン政権は、政治・経済面での大胆な改革を次々と実施 し、国内市場の自由化と外国への経済の開放を全面的に推進した。民主化の推進することで欧米との 関係を好転させ、2013 年 1 月には日本を含む主要債権国との間で約 60 億ドル(当時の為替レート で約5,400 億円に相当)の債務免除を獲得し、外国や国際機関による新たな支援の受け入れに道筋を 開いた。この結果、インフラ開発の面でも、日本や各国政府、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行等 から大量の資金支援と技術援助が流れ込んだ。それら主要ドナーによる2012 年以降のインフラ支援 だけでも、以下の図表2-3に示す多くの例が挙げられる。 図表 2-3 日本の国際協力機構(JICA)によるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 (2012 年以降のみ、色付きは無償支援) 契約 分野 案件名 金額 (億円) 2012 保健医療 中部地域保健施設整備計画 12.56 防災 エーヤーワディ・デルタ輪中堤復旧機材整備計画 11.60 水資源 中央乾燥地村落給水計画 6.29 情報通信 通信網緊急改善計画 17.10 2013 保健医療 病院医療機材整備計画 11.40 防災 気象観測装置整備計画 38.42 防災 第二次気象観測装置整備計画 2.31 水道 ヤンゴン市上水道施設緊急整備計画 19.00 道路 カレン州道路建設機材整備計画 7.59 水上交通 ヤンゴン市フェリー整備計画 11.68 空港 全国空港保安設備整備計画 12.33 情報通信 中央銀行業務ICT システム整備計画 51.00 電力 バルーチャン第二水力発電所補修計画 66.69

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2014 保健医療 カヤー州ロイコー総合病院整備計画 19.45 保健医療 シャン州ラーショー総合病院整備計画 15.10 保健医療 ヤンゴン市内総合病院医療機材整備計画 9.78 橋梁 新タケタ橋建設計画 42.16 鉄道 鉄道中央監視システム及び保安機材整備計画 40.00 道路 ラカイン州道路建設機材整備計画 7.38 情報通信 通関電子化を通じたナショナル・シングルウィンドウ構築及び税関近代化計画 39.90 鉄道 ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業フェーズI(第一期) 200.00 水道 ヤンゴン都市圏上水整備事業 236.83 道路 ティラワ地区インフラ開発事業フェーズⅡ 46.13 灌漑 バゴー地域西部灌漑開発事業 148.70 2015 水資源 第二次中央乾燥地村落給水計画 12.42 水道 マンダレー市上水道整備計画 25.55 道路 カチン州及びチン州道路建設機材整備計画 27.40 情報通信 港湾近代化のための電子情報処理システム整備計画 17.20 電力・ガス 全国基幹送変電設備整備事業フェーズⅠ 246.78 情報通信 通信網改善事業 105.00 電力 ヤンゴン配電網改善事業フェーズⅠ 61.05 電力・港湾 ティラワ地区インフラ開発事業フェーズI(第二期) 147.50 鉄道 ヤンゴン環状鉄道改修事業 248.66 電力 全国基幹送変電設備整備事業フェーズⅡ 411.15 橋梁 東西経済回廊整備事業 338.69 2016 (通報) 保健医療 マグウェイ総合病院整備計画 22.81 水上交通 経済社会開発計画(ラカイン州における水上交通) 10.00 電力 地方主要都市配電網改善計画 48.56 橋梁 バゴー橋建設計画 310.51 鉄道 ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業フェーズI(第一期) 250.00 水道 ヤンゴン都市圏上水整備事業フェーズⅡ(第一期) 250.00 電力・橋梁・ 道路・水道 貧困削減地方開発計画フェーズⅡ 239.79 上記無償案件総計 557.12 上記有償案件総計 3,799.87 上記総計 4,356.99 注)具体的なインフラ施設の建設や関連物品の購入を伴う案件のみを抽出 出所:JICA、外務省発表資料

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図表 2-4ADB によるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 案件 承認 分野 案件名 拠出額 (百万 米ドル) 2013 電力 Power Distribution Improvement 60.00 2014 道路・通信 道路 Maubin-Phyapon Road Rehabilitation 80.00 Connectivity Infrastructure Development 100.00

2015

通信 Nationwide Telecommunications 151.00 道路 Greater Mekong Subregion East-West Economic Corridor Eindu to Kawkareik Road Improvement 100.00 水道 Mandalay Urban Services Improvement 60.00 電力 Power Transmission Improvement 80.00 電力 Myingyan Natural Gas Power 42.20 2016 灌漑 Irrigated Agriculture Inclusive Development 75.00

上記総計 748.20

注)具体的なインフラ施設の建設や関連物品の購入を伴う案件のみを抽出

出所:ADB Web site (www.adb.org/projects/myanmar) 図表 2-5 WB グループによるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容 (色付きは、IFC による融資/出資案件) 承認 分野 案件名 拠出額 (百万 米ドル) 2012 道路・水道 電力・ National Community Driven Development Project 480.00 2013 電力 Electric Power Project 140.00 2015

情報通信 Ooredoo Myanmar 150.00

電力 National Electrification Project 400.00 灌漑 Agricultural Development Support Project 100.00 2016 電力 Myingyan IPP 75.00 港湾 Myanmar Port 80.00 情報通信 Irrawaddy Towers 52.50 上記総計 1477.50 注)具体的なインフラ施設の建設や関連物品の購入を伴う案件のみを抽出

出所:WB web site(http://documents.worldbank.org/curated/en/docsearch/country/82551)、IFC web site(https://disclosures.ifc.org/#/enterpriseSearchResultsHome/myanmar) また、この時期には、インフラ自体の建設だけではなく、日本や国際機関による基礎調査や法制度 等整備の面での支援により、ミャンマーの将来の経済社会発展を見据えた電力、交通、エネルギー、 都市インフラ等の各種インフラの総合開発計画が策定された。代表的なものには、JICA の策定した 電力マスタープラン、全国交通マスタープラン、ヤンゴン都市圏交通マスタープランのほか、ADB によるエネルギーマスタープラン、WB の支援による全国電化計画等がある。これらは、安定かつ安 価な電力供給のための熱源構成、国内外との連結強化のための幹線道路網の特定とその整備の優先度 の示唆等、インフラの種類に応じた改善指針を示しており、テインセイン政権はそれらを参考として

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図表 2-6 国際ドナーの支援によるミャンマーの主要なインフラ開発計画文書

発表 分野 支援 機関 文書名称 主な提言

2013 都市 開発 JICA A Strategic Urban Development Plan ヤンゴン都市圏開発マスタープラン of Greater Yangon

 都心機能の同心円状の 分散

 南北緑地帯の保全

2014

電力 JICA National Electricity Master Plan 国家電力マスタープラン  国内エネルギーの活用  発電エネルギー多様化 運輸

交通 JICA

全国交通運輸マスタープラン Myanmar’s National Transport

Master Plan  国土を東西南北に延び る幹線道路と、中国・ タイとの接続道路の優 先整備 運輸 交通 JICA ヤンゴン都市圏交通マスタープラン Yangon Urban Transport Master Plan

 ヤンゴンの都市交通を 管轄する機関の新設  BRT(Bus Rapid

Transit)の導入 電力 WB National Electrification Plan  電気料金の再検討

 民間資金の導入促進

2015 エネルギー ADB Myanmar Energy Master Plan

 最大限の天然ガス活用  固体バイオマスエネル ギー(木材等)の利用 比率削減  再生可能エネルギーの 利用推進 出所:JICA、ADB、WB、ミャンマー政府発表資料より調査団作成 しかし、テインセイン政権の後半には、  インフラ需要の膨大さから、一旦解消された対外債務が再び数千億ドル規模で積み上がる 懸念がミャンマー政府内で指摘された  2015 年 11 月の総選挙を前に、地方と都市との経済格差の拡大が政権与党の地方での集票 力を弱める懸念があった 等の事情により、都市部のインフラに集中しがちな外国からの支援の受け入れを躊躇する傾向が 見られ始めた。 上記のようなインフラ投資資金の不足に対する有力な解決手段の一つとして期待されたのが、官民 連携(PPP:Public-Private Partnetship)による民間資金の調達である。それまでのミャンマーには、 道路建設分野で先述のBOT のような官民連携事例は既に存在したほか、電力分野でも既存法律に従 って民間事業者が参入する例は存在した(代表例:2013 年に運転を開始した Ahlone 地区での Toyo-Thai による IPP 事業)。しかし、事業破綻の際のミャンマー政府側の対応等、主要契約項目の 内容が個別の案件交渉に依存して一貫性に欠けるうえ、その記述も不明確であるなど、大規模投資と しての予見性と透明性に乏しいことが民間銀行等からの資金調達を妨げ、結果として民間企業の参 入・出資は活発とは言えなかった。 この事情を受けてテインセイン政権は、2014 年から ADB 等の国際機関の支援により、国際水準 の官民連携制度の整備に着手した。電力開発分野におけるその最初の適用例となったのが、ADB と IFC の支援による国際的な慣例に準じた入札手続き及び電力買い取り契約等を採用した、ミンジャ ンのガス火力発電所の建設計画である。この結果、2015 年末にはシンガポールの Sembcorp を中心 とした企業連合が本案件を落札し、2016 年 3 月 29 日(テインセイン政権の最終日に該当)にはミ ャンマー政府との間で22 年間の長期電力買い取り契約(PPA:Power-Purchase Agreement)が締結 された。

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しかし、上記制度の整備と普及の努力も膨大なインフラ需要の時間的な要請には到底追い付けず、 その一方で、民間経済は2011 年の民主化以降は好調を継続して電力消費や自動車台数が急増したた め、ヤンゴンやマンダレーでは渋滞が深刻化したほか、国際的な支援などで一時は改善されつつあっ た電力事情も再び悪化し始めた。

そして2015 年 11 月の総選挙では、さらなる民主化を求める国民はアウンサンスーチーが率いる NLD(National League for Democracy)を圧倒的多数で選択した。この結果、多くの課題を抱えた ままの経済・インフラに関する政策の舵取りは、2016 年度以降、NLD 主導の新政権に引き継がれた。 現政権のインフラ整備方針 2-1-2 2016 年 3 月末に発足した NLD を中心とするミャンマー新政権は、選挙マニフェストの中で経済 への言及はしていたものの具体性を欠き、政権発足後も経済政策への関心が明確ではなかった。2016 年7 月末になって、アウンサンスーチー国家顧問から 12 項目の経済政策方針が発表されたが、おお まかな原則的方針を示したのみで、個別具体的な開発計画や施策への言及はなく、国内外の経済界か らは懸念の声が漏れた。その後、同年10 月後半にも、各国大使や主要財界人に向けて、経済政策へ の注力姿勢、主要財閥との和解、投資関連法制の改善等を強調し、同年12 月後半には投資政策の概 要を示した「Investment Policy」を発出した。だが、これら累次の発言や発表文書の内容には、新 政権による一貫した考え方は示されているものの、独自の具体的な経済/インフラ開発政策は未だに 明示されておらず、国内外の経済界には更なる詳細の発表を求める声が強い。

図表 2-7 ミャンマー政権与党(NLD:National League for Democracy)が 2015 年 11 月の総選挙 で掲げた選挙公約のうち、経済・インフラに直接関連するもの 内容 4-i 経済 1. 公共の金融制度を効果的に活用し、国家歳入の最大限の、かつ、秩序立った徴収を 可能とするため、透明性があり、適正な財政支出を保証し、かつ財務基準に沿った 公的財務管理制度を構築する a. 納税を通じて税制を支えたいという意欲が国民に芽生えるような、税の徴収制 度の整備を図る。税収の裾野を広げるために、税率を引き下げる。また、秩序 立って、かつ、法に従って、不動産およびその他の資産の売買益、もしくは譲 渡益からの税の徴収を行う。一般国民が税金の使途を把握できるよう、税制の 透明性を確保する b. 財政の中央集権的管理を低減させるために、財政問題に関する権限と責任を連 邦、州/管区政府の間で適切に分担させる。同時に、州/管区間での公平な財 政配分を確保するために対話を進める 2. a) 国家の発展に必要な資本、技術、資金の調達を可能にするための金融市場およ び金融機関の構築を奨励する b) 中央銀行に対して、真正なる独立権限を与える。通貨の安定、ならびに地場産 業の事業主、中小企業の事業主、起業家、および農家等の資本投資資金の融資 要請に応えられる金融制度の整備に尽力する 3. 国際的にも最高水準の外国投資をさらに呼び込むために、投資・被投資国の双方に

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5. 現代的な農業部門の発展、農地をめぐる紛争の公正な解決、農地所有権の保証の確 立、ならびに農地の保全と移転に関する法令・規則に則った透明性の向上に取り組 む。農業部門および農村部の発展のために必要となる投入資材と資金が十分に入手 できる仕組みを実現する。土地なし及び非定住労働者向けの生計支援プログラムが 活用できる仕組みを整える。農業部門の発展を通じて、産業、サービス分野の発展 と、輸出の増加を図る 6. 天然資源の採掘と利用を行う場合、環境および生態系の被害を回避するためのよう な適切手段を計画する。採掘プロジェクトは国民に周知され、透明性を伴って計画 されるよう取り組む。上記のようなプロジェクトの収益が国の長期的発展の目的で 利用されるよう、専用の基金を創設する。 4-vii エ ネ ル ギー ミャンマーは、多くのエネルギー源を有している i. 地下資源(a.石油、b.天然ガス、c.石炭) ii. 水力 iii. 太陽光 iv. 風力 v. 地熱 vi. バイオガス vii. バイオ燃料 1. 地下資源には限りがあり、かつ、程度の違いはあるにしろ環境に害を及ぼしうる。 地下資源は最も活用しやすいエネルギー源だが有限であり、それゆえ、エネルギー 政策を考えるにあたっては将来の世代を考慮することが重要である 2. 水力発電のために必要な大規模ダムの建設は、環境に深刻な害を与える。ゆえに、 水力発電には既存の水力発電設備を活用するほか、より効率的な発電の実現のため、 既存のダムの修理と維持管理を行う 3. 家庭用の発電目的には、太陽光、バイオガス、籾殻燃料、小規模水力発電のような 小規模な民間エネルギー事業者の秩序だった発展を促す 4. 都市、農村を含む全土で電力供給を確立するよう尽力する 4-xii 都市 1. ヤンゴンやマンダレーのような大都市で、できるだけ速やかに公共交通システムを 発展させる 2. 現在破損状態にある、都市の既存の水道、電力、下水設備を刷新する 3. 樹木や植生破壊の問題に対応するため、都市の緑化プログラムをできるだけ速やか に確立する 4. 自然災害、経済的事情、および土地の接収により都市に流入してきた、定住先のな い移住労働者の再定住プログラムをできるだけ速やかに確立する 5. 公共の娯楽、スポーツ、及び健康的な運動のために元々供されていた空間を再生さ せる 出所:NLD 2015 Election Manifesto を翻訳 図表 2-8 ミャンマー新政権の経済政策(2016 年 7 月 29 日発表) 政策内容 1. 透明、良質、強靭な、公的金融監督機構により、財源を増やす 2. 公営事業をより成功裡に実施するため、民営化できる分野では民営化を行うほか、経済を向上させる中小企業を支援する 3. 現代的で発達した経済の構築に寄与する人材を育成するとともに、学術及び職業分野を多様化する 4. 電力、道路、港湾等のインフラ開発を優先的に行い、データ府戦略、電子政府システムを設立する ID カードシステム、デジタル政

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5. ミャンマー国内に居住する、または、外国から帰国するすべてのミャンマー国民のため雇用の機会を創出し、大規模な雇用を創出する事業に高い優先度を与える 6. あらゆる分野を進歩させ、食糧生産と輸出を増大させるために、農業と工業が均衡を維持し共に向上していく経済環境を確立する 7. 市場経済の原則に従って、民間部門を改善するために別個に政策を策定するほか、すべての 国民に対して、望む事業を自由に行うことを認め、外国投資を増加させる。また、著作権を 保護し、法の支配を維持する。 8. 金融分野の安定を図るため、家計、農家、事業の長期的な発展を促す金融機構を活用する。 9. 環境保護と共存する街を建設し、公共サービスを拡大し、公共施設を増やし、文化遺産を保護する 10. 国の税収増大のために効率的で公平な税制を確立し、法と手続きを制定することで市民権及び個人が資産を保有する権利を保護する 11. 革新と先進技術に関する能力を向上させるため、知的所有権を支援する技術と手続きを採用する 12. 偉大な知恵に基づいて産業を確立するために、アセアン及び他地域において変動しやすい事業環境を見極める 出所:現地新聞Mizzima 英語記事(2016 年 7 月 30 日)より抜粋・翻訳 図表 2-9 ミャンマー新政権の投資政策(2016 年 12 月 21 日発表) 政策内容 1. 責任ある、相互利益をもたらす外国投資は歓迎する 2. ミャンマー投資委員会(MIC)及び関連する政府機関は、透明、明確、迅速な手続きを通じて外国投資を必ず円滑にする 3. あらゆる投資家にとって円滑に機能する経済インフラを確立するため、マクロ経済的な安定性、法の支配、信頼のおける紛争調停手続き、信頼できる金融機構への支援環境を整える 4. 国民の発展にとって外国投資は死活的に重要であるため、連邦共和国政府は以下を行う。 a. 国内と外国の企業を無差別に取扱う、予見可能な規制環境を確立する b. 論争の原因になりやすい接収措置から企業を保護する c. 税の支払い、及びその他の義務や支払義務を果たした後は、法に従った利益の移転やその他の帰還・送還の権利を保護する d. 承認された投資に対して、長期土地借用の権利を法に従って与える 5. 国内及び外国の投資家は、環境資源や自然資源に関する事項を含む責任ある投資及び事業行為の原則に、常に平等かつ無差別に従わなくてはならない 6. 外国人は、国家の安全保障や文化・社会事情に関わる特定の事業は行うことができない。これらの制限された事業は、公的に実施される。 7. 次に示す事業への投資を歓迎し、推奨する a. 生産性向上をもたらし付加価値の高い農業を基盤とした産業を支援する投資事業で、地域及び世界の供給網と連関したもの b. 技術移転と国内生産を可能とする投資事業 c. 中小企業の発展支援を可能にする投資事業 d. インフラの迅速な開発のための投資事業 e. 雇用の創出と、職業訓練、技能向上訓練、能力開発の提供を可能にする投資事業 f. 経済的に開発の遅れた地域での投資事業

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また、新政権は環境社会配慮を重視し、大規模水力発電と石炭火力等化石燃料を熱源とする火力発 電を避ける意向を選挙マニフェスト等で類似にわたって明確に表明している。これは、前政権のもと で作成された電力開発マスタープランやエネルギーマスタープランに大幅な変更を迫るものであり、 エネルギー源の確保及びそのコスト負担等を大幅に再検討する必要が生じる。電力は、ほぼあらゆる 産業の機械化、効率化等に必須のインフラであるため、政権の理念を優先した方針変更に伴う電力開 発の遅れは、具体的な経済政策の不在とあいまって、産業発展の障害となりかねない。現に、国内で 最も先進的なインフラ設備を有し、販売が好調なティラワ経済特区(SEZ)でも、高付加価値な輸出 志向産業の進出が期待ほどでない大きな理由の一つとして、電力供給への不安が挙げられている。 その一方で、新政権の方針には堅実な側面もあり、各省庁の官僚をそのまま留任させて行政実務の 連続性の確保を図り、前政権の国際合意に基づく経済政策やインフラ開発計画は、既出のティラワ開 発やミンジャン発電所建設計画を含め、おおむね踏襲されている。インフラ投資を含めた投資環境整 備に関する課題であった新投資法の制定と会社法の改正も前政権から引き継ぎ、2016 年 10 月には 無事に新投資法が制定された。また、前政権時代に一度中止となったヤンゴン地域の緊急電源整備計 画を独自に修正して実施したり、前政権が消極的だったバゴー橋(通称)の新規建設の円借款要請を 決定したり、世界銀行の支援でLNG 受け入れ基地の調査を進めるなど、新政権独自の検討と判断に 基づく個別案件も徐々にではあるが現れ始めている。インフラ開発への民間資金導入についても、前 政権の電力分野での取り組みを継続するだけでなく、新たな動きとして、2017 年 2 月に運輸交通分 野でのPPP に関する戦略・事業アドバイザリー契約を ADB との間で結んだ。これにより今後 ADB は運輸交通分野において、PPP 制度の整備のほか、PPP 計画の立案、優先順位付け、事業者選定、 資金調達等にわたって幅広く政府に助言する立場に立つ。この契約に先立つ2016 年 7 月に ADB が 発表したミャンマーの運輸交通分野でのPolicy Note では、喫緊の優先案件として、ヤンゴン環状線 の改修、タイと中国へ繋がる幹線道路の改良、ヤンゴン-マンダレー間の高速道へのトラック乗り入 れ許可、エーヤワディ川を利用した河川交通の活用等が挙げられており、これらの内容が今後の運輸 交通インフラ政策に反映されていくことが考えられる。 公的資金の制約による民間資金導入の必要性の裏付け 2-1-3 資金上の制約によりミャンマー政府が民間資金導入を進めていることは既に述べたが、その必要性 は過去の調査報告等の数字から客観的かつ明白に理解できる。2013 年に発行された McKinsey Global Institute の報告書(Myanmar’s moment: Unique Opportunities, major challenges)は、2010 年時点から起算して2030 年までに(仮定:年 8%の GDP 成長の継続)ミャンマーのインフラ開発には 不動産開発や行政・公共サービス等の制度インフラ整備も含めて総額で3,200 億ドル規模の資金が必 要であり、うち都市部での電力、上下水道、道路、交通等の開発だけで約 300 億ドルが必要と試算 した。2014 年には ADB が独自の試算結果を発表し(MYANMAR UNLOCKING THE POTENTIAL COUNTRY DIAGNOSTIC REPORT 2014)、2014 年から起算して 2030 年までに、電力、道路、鉄 道、通信インフラの4 分野での全土のインフラ開発で約 390 億ドル以上が必要と述べた(試算の仮 定:運輸通信部門の平均GDP 成長率が年 5%、発電設備部門の平均 GDP 成長率が 12%)。2016 年 7 月発表のADB の運輸交通分野 Policy Note でも、運輸交通分野のインフラだけで全土で 450-600 億 ドルが必要と試算されている。そのほか、インフラ需要の試算結果をいくつかの文献から抽出して比 較すると、以下のようになる。

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図表 2-10 インフラ投資需要に関する過去の文献の比較(単位:10 億ドル) McKinsey 2013 (2010-2030) ADB 2014 (2014-2030) 低成長シナリオ JICA 2014E (2014-2030) JICA2014TN (2014-2030) ADB 2016 (2016-2030) 電力 30 (都市部のみ) 15.2 60.8 - - 運輸交通 全般 11.4 - 27.5 45-60 通信 12.5 - - - 総需要額 30 (都市部のみ) 39.1 60.8 (電力のみ) 27.5 (交通のみ) 45-60 (交通のみ) 年平均 需要額 1.5 (都市部のみ) 2.4 3.8 (電力のみ) 1.7 (交通のみ) 2.6-3.8 (交通のみ) 出所:McKinsey 2013: Myanmar’s moment: Unique opportunities, major challenges (2013, McKinsey Global Institute) , ADB 2014: Myanmar Unlocking the Potential (2014, ADB), JICA 2014E: National Electrification Master Plan (2014, Ministry of Electric Power), JICA 2014TN: ミャンマー国全国交通プログラム形成準備調査ファイナルレポート(2014, JICA, ADB 2016: Myanmar Transport Sector Policy Note(2016, ADB)

これらの報告・分析はミャンマーの潜在的経済成長力やインフラ需要を各々個別に想定しているた め試算結果は異なるが、その概算規模は概ね一致している。その結果を見ると、電力、各種の運輸交 通、通信の主要インフラの開発だけでも、今後2030 年までに総額約 400 億ドル(約 4-5 兆円)相当 以上が必要であろうという点では、見解に大きな相違はないと思われる。これは、2015 年のミャン マーのGDP 総額(約 639 億ドル:IMF 統計)の 6 割以上に達する規模であり、その負担の巨大さ が窺える。この結果、今後15 年程度にわたって年平均約 25 億ドル(約 3,000 億円相当、2015 年の ミャンマーGDP の約 4%)程度以上のインフラ開発資金が最低限必要となるが、上記に示した JICA、 ADB、WB の過去 5 年に渡る大規模なインフラ支援の総額でも総額約 60 億ドル、年平均で約 12 億 ドルにしか届かない。未だ脆弱なミャンマー政府の財政基盤を考えれば、この従来以上の勢いで外国 支援が増加するとは考えにくく、結果、外国支援を含む公的資金だけでは、上記の各報告・分析が想 定する経済成長の潜在力は到底発揮できないことになる。 そこで、民間資金で残りの13 億ドル/年以上の投資を補えるのかを検証してみる。DICA の発表し ている投資額の統計を見ると、外国投資が電力と交通運輸・通信だけで2014/2015 年度に約 16 億ド ル、2015/2016 年度には約 23 億ドル、政権交代後の 2016/2017 年度も 22 億ドル以上を確保しつつ あり、インフラ整備の代替財源となりうる規模を近年は安定的に維持している。一方で、国内投資を 見ると運輸・通信分野でそれなりの寄与はあるものの、電力や石油・ガス分野での貢献はほとんどな く、1 件あたり投資額も外国投資の数分の 1 程度にとどまる。実績のある分野の偏りやインフラに要 求される技術水準等を考え合わせても、今後大規模に推進されるべきインフラ開発の資金源としては、 国内勢への不安は拭えない。これだけの金額上の単純な比較検討からも、ミャンマー経済の潜在力を 開花させるためには、外資を最大限に誘致・活用してインフラ資金の需給ギャップを埋めることが最 も有力かつ現実的な手段の一つであることがわかる。

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図表 2-11 2014 年以降のミャンマーへの外国投資額の推移(単位:100 万ドル) 総計 製造業 電力 運輸・ 通信 石油・ ガス 不動産 開発 その他 2014/15 件数 211 141 1 8 26 6 29 金額 8,010.5 1,502.0 40.1 1,679.3 3,220.3 780.7 788.1 件平均 38.0 10.7 40.1 209.9 123.9 130.1 27.2 2015/16 件数 213 158 2 6 13 7 27 金額 9,481.3 1,065.0 360.1 1,931.0 4,817.8 728.7 578.7 件平均 44.5 6.7 180.1 321.8 370.6 104.1 21.4 2016/17 (2016 年 12 月ま で) 件数 81 57 2 9 0 2 11 金額 3,521.5 883.1 605.7 1,628.9 0 165.0 238.8 件平均 43.5 15.5 302.9 181.0 - 82.5 21.7 出所:DICA (http://www.dica.gov.mm/en/topic/foreign-investment-sector) 図表 2-12 2014 年以降のミャンマーの国内投資額の推移(単位:100 万ドル) 総計 製造業 電力 運輸・ 通信 ホテル・ 観光 不動産 開発 その他 2014/15 件数 66 25 0 3 20 3 15 金額 455.0 50.8 0 160.1 60.3 67.5 116.3 件平均 6.9 2.0 - 53.4 3.0 22.5 7.8 2015/16 件数 151 60 0 10 31 19 31 金額 3,190.3 725.3 0 1038.9 159.1 451.0 816.0 件平均 21.1 12.1 - 103.9 5.1 23.7 26.3 2016/17 (2016 年 12 月ま で) 件数 39 12 1 4 6 2 14 金額 512.6 55.3 6.5 282.4 22.6 51.0 94.8 件平均 13.1 4.6 6.5 70.6 3.8 25.5 6.8 出所:DICA (http://www.dica.gov.mm/en/topic/myanmar-citizen-investment-sector) インフラ開発への外資導入を考えた場合の最近の大きな追い風は、米国によるミャンマーへの経済 制裁が2016 年 10 月に完全解除されたことである。これまで、インフラを含むミャンマーへの投資 では、当該制裁措置が米国企業はもちろん日本を含む外国企業にとっても常に大きな不安要素であり、 外国投資拡大の大きな障害となっていた。この制裁解除措置を契機として、米企業をはじめ欧米諸国 や日本によるミャンマーへのインフラ投資も加速するものと期待される。

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今後のインフラ整備の方向性 2-1-4 ここまで述べてきたとおり、ミャンマー新政権のインフラ整備の方向性はまだ明示はされていない ものの、2017 年 2 月上旬までの実態と各方面からの情報を総合すると、現時点では大きく以下の 4 点に集約されると考えられる。 ① 前政権時代の国際的合意に基づく主要なインフラ整備計画の踏襲・継続 ② 政権の基本方針・公約に抵触する案件の修正・停止 ③ 政権が重要性を認めた案件の個別推進・検討 ④ ADB 等の外国・国際機関の支援を活用した官民連携制度整備によるインフラ開発への民間 資金の導入 今後も、明示的な開発方針の発表の有無にかかわらず、新政権による行政実績の蓄積につれてイン フラ整備の方向性も自ずと明らかになっていくと思われる。しかし、ミャンマー政府がインフラ開発 においてどのような方針を採用するにしろ、避けられない大きな課題の一つが先に述べた資金調達で あることに疑いの余地はない。 通常のインフラ建設資金を民間から調達する際の手法は、資本市場を活用するものと、民間からの 投資を活用するものに大別される。よって、次項ではまず、2016 年から本格的に始動したミャンマ ー資本市場を、今後のインフラ整備の資金源として活用する可能性について検討を試みる。また、次 節においてはミャンマーのインフラ開発の進展状況について情報を整理し、次章以降で展開される近 隣他国のインフラ開発及び官民連携事例との比較材料とする。 ミャンマーの資本市場を通じた資金調達の可能性 2-1-5 日本におけるインフラ整備のための資金提供者は、商社を中心としたエクイティ(株式)出資者や、 プロジェクト・ファイナンス(インフラ(直接)融資)を中心とした大手銀行が主体となっている。 これらはインフラへの「直接」投融資を基本としている。しかし、特に年金基金を中心とした機関投 資家による投資形態は、インフラへの「間接」投融資、すなわちインフラ事業の事業主体に対してデ ット(融資/債券)やエクイティにより資金供与を行うことを目的に設立されたインフラファンドへ の投資が多い(インフラファンドについては、巻末にて概要を記載する)。 本節では、このような多様な投資家の存在を念頭に、資本市場が急速に整備されているミャンマー において、現時点で(もしくは近い将来)どのような民間資金活用の方策が考えられるのか検討する。 ヤンゴン証券取引所の状況 (1) 2015 年 12 月にヤンゴン証券取引所が開設された。同取引所は 2012 年の大和総研、東京証券 取引所(現、日本取引所グループ)、ミャンマー中央銀行との覚書をもとに、開設準備が進めら れたものである。ヤンゴン証券取引所では、第一号上場の First Myanmar Investment (FMI) 社(2016 年 3 月上場)に続いて、ティラワ経済特区のミャンマー側の出資主体である Myanmar Thilawa SEZ Holdings (MTSH)(2016 年 5 月上場)、Myanmar Citizens Bank(2016 年 8 月 上場)、First Private Bank(2017 年 1 月上場)の 4 社が上場している。

インフラ開発主体のMTSH に注目すると、その取引は活況を呈しており、時価総額(上場株 式数ベース)は 1,712 億チャット(約 150 億円)、日々の売買代金は平均 1.5 億チャット(約 1500 万円、上場来平均)に達する(2017 年 1 月 20 日現在)。このように、インフラ開発のエク イティ投資主体として、証券取引所を通じて投資家を巻き込むことが可能になっている。

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図表 2-13 ヤンゴン証券取引所の上場企業

上場時期 時価総額

First Myanmar Investment (FMI) 2016 年 3 月 3,169 億チャット Myanmar Thilawa SEZ Holdings

(MTSH) 2016 年 5 月 1,712 億チャット Myanmar Citizens Bank 2016 年 8 月 946 億チャット First Private Bank 2017 年 1 月 840 億チャット

出所:ヤンゴン証券取引所 外国人投資家の参入課題 (2) 現在、ヤンゴン証券取引所の取引参加者はミャンマー国内投資家に限定されている。その主た る理由はミャンマー会社法にある。同法によると、外国人投資家が1 株でも保有すると当該企業 は外国企業に分類され、各種制約を受けてしまう。そこで、会社定款などで外国人による株式保 有を禁じている企業が多い。ミャンマー会社法は現在改訂作業中であり、2017 年 4 月を目標に 新会社法が施行されると言われている。新会社法では(業種などに依存するものの)35%までで あれば外国人が株式保有しても国内企業として定義される見通しである(2017 年 1 月 12 日付 Myanmar Times 紙)。 ヤンゴン証券取引所に外国人投資家が参加するためには、会社法改定後、関連法規取引所のル ールなどの変更が求められるものの、近い将来、外国人投資家が参加可能となることが見込まれ る。 取引所を通じた Exit プランの確立 (3) ティラワSEZ の開発主体である MTSH の上場は、初期投資家の株式持ち分の一部を売り出し たものである。すなわち、初期投資にかかる資本調達や、公募増資ではない。それでも、インフ ラプロジェクトの初期投資家に対して、Exit プランを提供できることとなった点は高く評価でき るだろう。また、インフラファンドに対してはブラウンフィールド案件を提供できるようになる 点もメリットである。 ただし、上場においては、①対象インフラが一定程度開発され、事業の予見性が高まること、 ②事業実態を伴うもの(テナントからの配当収入だけでは認められない)、などの条件をクリア することが求められる点に留意が必要であろう。 債券発行による資金調達 (4) なお債券発行の観点では、ベンチマークたる国債の流通量増加が必要な状況である。1996 年 のMyanma Security Exchange Centre (MSEC)の発足以降、国債売買が開始され、2011 年より ASEAN Bond Market Initiative の支援により国債市場は徐々に整備されているが、2016 年 9 月よりプライマリーのオークションマーケットが開始されたに過ぎず、セカンダリーマーケット は流動性が乏しい。

国債の流動性が高まった後の、次のステップとして地方債が検討されている。例えば、ヤンゴ ン市開発委員会(Yangon City Development Committee, YCDC)が起債する場合が想定される。 これと類似のケースとして、使途を限定した特別目的債といったアイデアもある。例えば、ヤン ゴン電力供給公社(Yangon Electricity Supply Board, YESB)などによる起債である。国債に 準じた信用力を保持する一方で、使途が特定されるため、国債への投資と比べてミャンマー人投 資家から選好される可能性がある。海外での事例としては、日本の公営企業債(水道事業や病院 事業など)や住民参加型市場公募債(使途の特定の制約は存在しないが、その多くが使途を特定 することで住民の関心を高めている)が挙げられる。IFC が 2014 年 11 月に発行したインドのイ

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ンフラ投資を目的とした債券発行や(100 億インドルピー、満期 10 年、格付け AAA)も同様の スキームと言えよう。いずれも発行団体の信用力によって低利で記載できることが特徴である。 ミャンマーにおける社債やプロジェクトボンドの起債・流通は、さらに後になってからの導入 となる。社債発行を妨げる法令は存在しないものの、改正会社法においても債権者保護に関する 規定が明記されていないため、債権者保護に関するルール作りが実務上求められる。加えて、こ れらが広く流通するためには格付けの普及も求められよう。 インフラ整備の現状整理 2-2 本項では、ミャンマーにおける経済成長を維持・加速するための不可欠な前提である各種のインフ ラの整備の現状について概観する。 援助機関の援助方針と支援状況 2-2-1

世界銀行グループ(World Bank Group; WBG) (1) 世界銀行は 2015 年、ミャンマー向けの初の包括的な支援戦略として”Country Partnership Framework”(以下、CPF)を策定した。CPF は世界銀行グループのグローバルな知識やファイ ナンス、サービスが、如何に極度の貧困の削減や幅広い繁栄の共有(shared prosperity)を通じ てミャンマーとその国民に貢献するのかを述べたものであり、2015~2017 年の三ヵ年を対象年 としている。しかしこの対象期間は様々な状況により延長の可能性もある。CPF では次の三つ‐ ①農村部における貧困削減、②人々および人々のための効果的な組織への投資、そして③雇用創 出のための民間セクターに対する支援、に焦点を当てている。 世界銀行による対ミャンマー支援動向を見てみると、貸付金額の累計は3,345 百万ドルである。 2015 年には過去二年間を大きく上回る 700 百万ドルとなっている。 案件の内訳を見てみると、件数ではこれまでに行われた貸付全体の半分強にあたる 29 件がイ ンフラ関連案件1となっている。他方、貸付金額ベースで見ると、全体の94%にあたる 3,156 百 万ドルがインフラ関連案件となっており、世界銀行による対ミャンマー貸付はほとんどがインフ ラ案件に対して行われていることがわかる。 図表 2-14 世界銀行による対ミャンマー融資契約金額推移(年度別) 出所:世界銀行ウェブサイト国別ページ (注)IBRD および IDA を含む世界銀行グループ全体としての貸付金額を示している。

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図表 2-15 対ミャンマー貸付内訳(案件数) 図表 2-16 対ミャンマー貸付内訳(金額) 出所:左右いずれも、世界銀行ウェブサイト国別ページ (http://www.worldbank.org/en/country/myanmar/projects/all)を基に調査団作成 インフラ関連案件を更に詳細に分野別に見ると、これまでに融資契約が締結された金額全体 (3,345 百万ドル)のうち、35%にあたる 1,179 百万ドルが上下水分野に、次いで 31%にあたる 1,040 百万ドルが電力分野に、その他、20%にあたる 680 百万ドルが道路分野の案件に対する貸 付である。この三分野で全体の9 割弱を占めている。 図表 2-17 対ミャンマー貸付金額内訳(インフラ案件のみ、分野別) 出所:世界銀行ウェブサイト国別ページ (http://www.worldbank.org/en/country/myanmar/projects/all)を基に調査団作成 インフラ関連 29 55% その他 24 45% インフラ関連 3,156.4 94% その他 188.54 6% 1,179 1,040 680 190 36 32 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 上下水 電力 道路 港湾 鉄道 通信 (百万ドル) 単位:百万ドル

図表  2-2  ベトナムとミャンマーの正味外国投資流入量の経年比較
図表  2-4ADB によるミャンマーへの主なインフラ開発支援の具体的内容  案件  承認  分野  案件名  拠出額 (百万 米ドル)
図表  2-6  国際ドナーの支援によるミャンマーの主要なインフラ開発計画文書  発表  分野  支援
図表  2-10  インフラ投資需要に関する過去の文献の比較(単位:10 億ドル)  McKinsey  2013  (2010-2030)  ADB 2014  (2014-2030)  低成長シナリオ  JICA 2014E (2014-2030)  JICA2014TN (2014-2030)  ADB 2016  (2016-2030)  電力  30  (都市部のみ)  15.2  60.8  -  - 運輸交通 全般  11.4  -  27.5  45-60  通信  12.5  -  -
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参照

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