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Vol. 20 No. 1 口唇 口蓋裂の基本治療シリーズ Ⅱ 片側性唇顎口蓋裂の初回形成手術 坂下英明 重松久夫 Primary repair of unilateral cleft lip and palate Hideaki SAKASHITA, Hisao SHIGEMATSU Key wo

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Academic year: 2021

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は じ め に

口唇裂の形成術は口唇および外鼻変形に対する 形態修正を目的としてさまざまな検討がなされて きた1 ). これらの報告は静的形態の修正に関する

皮弁を中心とした記述であり, とりわけ三角弁法 (Tennison 法 1952, Cronin 法 1966, Randall 法 1958, Skoog 法 1969)と回転進展法(Millard 法 1958)に ついては, さまざまな改良が加えられ, 今日に至っ ている. そうしたなかで, 回転伸展法, すなわち Millard 法は A 皮弁と B 皮弁の縫合線が人中稜のカ モフラージュに役立つこと, そして, 口唇上部の陥 凹変形が比較的少ないことを特徴とする. さらに, 赤唇縁における小三角弁の追加により, Millard 法 の欠点とされた縫合部赤唇の上方へのつりあがり傾 向が改善されている2 ). また, 白唇部に横に走る瘢 痕についてもさまざまな改良が検討されてきてい る3〜 5 ). これらは皮切を中心とした静的形態の修正 について議論されたものであり, 動的形態の再建, すなわち, 筋の機能再建については, 1969年 Pennisi ら6 )の報告まで, その重要性をあえて強調したもの はほとんどなかった. Pennisi ら6 )は, Le Mesurior (1949), Brown-Mc-Dowell(1950), Tennison(1952), Skoog(1958), Millard(1958), Davies(1965)の各 方法で行った場合の口輪筋の走行について検討し, 回転伸展法が最も形態的・機能的再建方法であると 結論付けている. 以後, 多くの施設で, 筋の機能再 建を前提とした口唇裂手術としてさまざまな工夫と 検討が繰り返されてきている. 著者らは, 片側性唇 顎口蓋裂の初回手術に対しては口輪筋再建を念頭に 直線法に近い Millard 変法(直線法 + 小三角弁法) に上唇結節形成法7 )を併用して適応していること から, 本稿ではその術式の概略について述べること とする. Ⅰ.解  剖 唇裂手術に当たっては, 口唇・外鼻周辺の解剖8 ) を熟知していなければならない. 1 .口唇の表面解剖(名称) 口唇形成術では人中, キューピット弓, 上唇結節, 赤唇縁など口唇の重要な輪郭としてこれらをどのよ うに再現するかが問題となる(図 1). 赤唇縁はさら

片側性唇顎口蓋裂の初回形成手術

坂 下 英 明 ・ 重 松 久 夫

Primary repair of unilateral cleft lip and palate

Hideaki SAKASHITA, Hisao SHIGEMATSU

Key words: unilateral cleft lip(片側口唇裂), rotation advancement method(回転伸展法), philtrum(人中), labial tubercle(上唇結節), orbibularis oris muscle(口輪筋)

We need to accomplish not only esthetic restoration of the deformity of the lip, but also functional reconstruc-tion of the orbicularis oris muscle. Many procedures have been developed and modified to result in the best out-comes of cleft lip repair. Among several procedures, the rotation advancement method is personally preferred because it discards a minimal amount of tissue.

The authors have been performing surgery by the rotation advancement method, which results in a nearly straight scar to improve the outcome of philtrum plasty. We have been using Mimura’s design in the vermillion to repair the labial tubercle. We have also been applying the muscle suspension method, which entails suturing the nasal and nasolabial muscle bundles to the anterior nasal spine for functional reconstruction. This report describes our techniques and points out important details.

明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学第 2 分野(主任:坂下英明 教授)

Second Division of Oral and Maxillofacial Surgery, Department of Diagnostic and Therapeutic Sciences, Meikai University School of Dentistry

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に赤唇稜, 移行帯, 赤唇彩縁を区別して, より正確 な基準点の設定を行う. また, 赤唇縁上方の浅いく ぼみは上口唇溝9 )と呼ばれ, 鬼塚は小三角弁作成 に当たっての重要な基準線になるとしている10). 2 .鼻の表面解剖および鼻腔の解剖 完全片側性唇顎口蓋裂の場合, 梨状口は健側に比 べ患側が外下方に偏位し, 前鼻棘は全体に健側に偏 位している. また, 患側鼻翼基部の外下方への下垂 が著明である. 口唇形成術に際しては, こうした患 者の解剖学的特徴を理解した上で, これらの修正が 必要となるが, とりわけ, 外鼻ならびに広い意味で の「鼻腔底」の形成が重要となる. この際, いわゆ る「鼻腔底」については鼻腔底と鼻孔底を区別して 対処する必要がある. すなわち, 鼻腔を形成する底 面が鼻腔底, その出口の口唇近くの一部が鼻孔底で ある. 鼻腔底の大部分は粘膜より構成され, 鼻孔底 は皮膚より構成される4 ). 第一次手術において, 鼻 腔底まで再建すべきであるか否かは議論のあるとこ ろであるが, 少なくとも鼻孔底は確実に再建し, 成 長後に偏位しない土台作りをすることが重要である. 3 .口唇周囲の顔面筋の解剖11)(図 2) 口唇裂の機能的再建には口輪筋ならびに上唇方形 筋(上唇挙筋, 上唇鼻翼挙筋)の再建が重要であり, 口輪筋を含めた, 口腔周囲の筋組織に関してその解 剖学的特徴を理解しておく必要がある. 口輪筋は口唇をすぼめる働きをもつ深層と口唇を 開く働きをもつ浅層に分けられる. 白唇部上部は口 輪筋浅層が主体であり, 白唇部下部は口輪筋浅層が 浅部に口輪筋深層が深部に位置し, 赤唇部は主に口 輪筋深層からなる5 ). 浅層はさらに nasal bundle と

nasolabial bundle に分けられる. 前者の nasal bundle は大頰骨筋, 小頰骨筋, 上唇挙筋, 上唇鼻翼挙筋, 鼻筋横部を起始として, 鼻翼深部を通って, 前鼻棘, 鼻柱隔前上顎靭帯, 鼻孔低隆起などに停止する. 後 者の nasolabial bundle は口角下制筋を起始として, 上口唇皮膚に入って停止し人中を形成する12). 完全片側性唇裂の場合, 患側では, 口輪筋線維は 口角から正中に向かって水平に走り, 深層は断裂し て終わる. 浅層は披裂縁に沿って上行し, nasolabial bundle は鼻孔や梨状口骨膜に付着し, nasal bundle は鼻翼外側に付着する12). 健側では, 口輪筋線維は 図 1 口唇・外鼻の名称 ③鼻 柱 ④鼻柱基部 ⑤内側隆起 ⑥鼻 限 ⑦鼻孔底 ⑧鼻前庭 ⑨鼻 翼 ⑩鼻翼基部 ⑬人中の人中窩 ⑭キューピット弓 ⑮赤 唇 ⑯上唇結節 ⑰赤唇縁 ⑱赤唇稜 ⑲移行帯 ⑳赤唇彩縁 図 2 口唇周囲の顔面筋の解剖 (胎児診断から始まる口唇裂口蓋裂−集学的治療の アプローチ 小林眞司編集, メジカルビュー, 東京, 2010, 28頁より引用11).一部改変)

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鼻中基部の下に終わり, その多くは上顎骨膜に付着 する. 健側の筋・血管の発達は不良で, 正中を越え た部分で成長抑制が起こっている. 健側の披裂縁側 の人中半分では, きわめて薄い筋層を認めるに過ぎ ない. なお, 完全裂・不完全裂を問わず, 患側での 筋・血管の発育は比較的良好であり, 口唇全体は筋 収縮による膨隆を認める13). Ⅱ.手術手技 1 . 基準点の設定と皮弁のデザイン(図 3-1, 2) 基準点を設定する前に, 両側の内・外眼角部の点 を基に顔面の水平線を決め, 次いで, 鼻根部中央点を 通る垂線をこの水平線に対し直角に下ろし, 顔面の 基準線とする. これらの基準線に基づき, 鼻柱や患 側鼻翼基部の偏位を評価し, その修正の参考とする. (1)健側白唇部の基準点 鼻柱基部正中を O, 鼻柱内側隆起と鼻孔底との境 は健側を X, 患側を X’, 同様に鼻翼基部をそれぞれ Y, Y’とする. 健側キューピット弓の頂点(健側人中 陵を参考に決める)を 1, キューピット弓の中点 (上唇小帯の位置を参考に決める)を 2 とし, 1-2 = 2-3 となる点 3 を設定する. ついで, 1-2 と平行に 3 から 1〜1.5mm の点を P とする(3-P は小三角弁 に対応するが, 基本的に人中の中点を越えないこと を原則とする). (2)患側白唇部の基準点 患側赤唇部の最も厚い部の赤唇稜に点 4 を設定し, 点 4 から白唇部へ向かって垂直に 1〜1.5mm の点を 5 とし 4-5 を底辺とする一辺が 1〜1.5mm の小三角 弁を形成する. X’-3 = X’’-5 となる点 X’’を赤唇稜 の延長線上に設定する. ただし, X’’が鼻孔底に入 り込まないように注意する. 術後は X-Y = X’’’-Y’ となる. なお, Y’-4 は Y-1 の 90%程度ぐらいを目 安とする. 2 .皮弁のデザイン(図 4-1, 2) 前述の各点を結んで, 各 flap をデザインする. (1)健側の flap A-flap:まず健側白唇部に, 点 X’から点 3 に向け た直線に近い弧状の線を描いて A-flap をデザインす る. 次いで, 患側の小三角弁挿入部に相当する線と して, 点 3 から点 P まで 1〜1.5mm の線を加える. 図 3 基準点の設定 33 XX QQ 22 1 3 6 54 P Y XO QX’ Y’ 2 X’’ X’’ X’’ XX QQ Y’Y’ 1 654 3 P OX’ Q Y’ 2 X’’ X 図 4 皮弁のデザイン 1 1 2 2

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型に返り, 基部が顎堤にある四角形の粘膜弁(X-flap) をデザインする. 上唇結節の設計:最後に, 健側赤唇部断端(X-flap の前方)部に上唇結節形成のため 1.5〜2 mm の切開 線を加える. この切開線の長さは嵌め込む組織量に よって決定するが, 多くの場合筋層は正中近くまで 切開が及ぶこととなる. (2)患側の flap B-flap:点 5 から点 6 を通り点 X’’にいたる 5-X’’ と X’’-Y’を 2 辺とする B-flap をデザインする. こ のとき B-flap の頂点 X’’が鼻孔底に入り込まないこ とを確認する. B-flap が鼻孔底に及ぶと, 最終的に 鼻孔が狭窄する恐れがある. D-flap:小三角弁(D-flap)は, 底辺を 1〜1.5mm とし, 一辺が 1〜1.5mm の三角形を基本とする. Y-flap:赤唇部については, 点 4 から赤唇部に切 開線を設定し, コの字型に返り, 基部が顎堤にある 粘膜弁(Y-flap)をデザインする. 上唇結節の設計:最後に, 上唇結節形成のため, 赤唇部断端に適切な大きさの三角弁の設計を加え る. 三角弁は筋層を含む弁であり, 健側口唇部に補 う組織量によって筋層の大きさを決定することにな るが, 赤唇上での設計は一辺を 1.5〜2 mm とする. 3 .局所麻酔 20万倍アドレナリン加 0.5%リドカインを 2 ml 注 射し, 5 分間待つ. これにより術野の止血が得られ, 筋肉の同定も容易となる. 4 .切開・flap の形成 (1)健側白唇部の切開・剥離 口唇を保持し, 止血をコントロールするとともに 組織に適度の緊張を与え, 切開しやすくする. 切開 は健側白唇部より始める. ①P-3を11番メスにて切開することからはじめる. ②次いで, 赤唇(点 3)から鼻柱基部(点 X’)に向 かって切開し, A-flap を作成する. A-flap の鼻柱基 部の筋層, 粘膜層を確実に皮切と一致して切開する ことが rotate down する上で大切である. ③C-flap の外下端を赤唇稜に沿って鼻孔底(点Q) まで切開し, C-flap を作成する. ④赤唇稜の点 3 から垂直(赤唇の溝と平行)に粘 膜を切開し, 上唇小帯の手前でコの字型に返り遠心 とする四角形の粘膜弁(X-flap)を作成する. ⑥X-flap の正中側から小型の形成用剪刀を挿入し, 上顎骨膜上で健側口唇組織を鼻翼下まで顔面壁より 慎重に剥離する. ⑦健側の梨状口下縁から骨膜下に入り鼻腔底の剥 離をすすめ, 前鼻棘を明示したうえで, 骨膜下に両 側から鼻中隔軟骨を露出する. ⑧鼻中隔前端で鼻中隔軟骨と前鼻棘とを 5〜10 mm の長さで切離する. 我々は, この際, 5 mm を大 きく超えないように注意している. (2)患側白唇部の切開 ① 11番メスにて台形に基部を広く取るように小 三角皮弁を形成した後, 点 X’’まで皮膚切開を進める. ②さらに, この切開を鼻腔へ向かって梨状口縁の 鼻腔粘膜まで延長する. ③次いで, 患側赤唇部に 1.5〜2 mm の三角形の粘 膜弁を作成するとともに, 基部が顎堤にある粘膜弁 (Y-flap)を作成する(図 5-1). Y-flap を作成する際 には, 粘膜のみを剥離し, 粘膜下組織はできるだけ 温存する(図 5-2). ④赤唇部において作成した 1.5〜2 mm 粘膜弁に筋 束をつけて切り出す. この際, 粘膜と筋肉とが剥離 しないよう注意する. ⑤ 口腔内では歯肉頰移行部に沿って第 1 大臼歯 部まで切開を伸ばし上方へ向けて Back cut をいれる (Pocker incision)こともあるが, この切開はできる だけ加えない. ⑥ Y-flap の基部から鼻翼下部まで患側口唇組織 を骨膜上で顔面壁から慎重に剥離する. すなわち, 鼻翼基部と上唇挙筋や上唇鼻翼挙筋を始めとする周 囲の軟組織を上顎骨から切離して可動性を与え, 鼻 翼基部を中心とする軟部組織が上内方に自由に移転 できることを確認する. ⑦X’’-Y’に筋層を含めた全層切開を加え B-flap を 作成する. ⑧その後, 鼻柱基部を患側鼻翼基部と緊張感なく 寄せることができることを確認する. 5 .筋層の縫合 筋層を粘膜, 次いで皮膚より剥離するが, 著者ら は, 筋層を皮膚から大きく剥離しない方針を採って いる. 皮膚側ならびに, 赤唇部の剥離は縫合時のの りしろ程度(1 mm)とする.

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① 4-0 白ナイロンを用い, 鼻翼基部が上下左右対 称となるように患側の口輪筋(浅層), 上唇挙筋, 上 唇鼻翼挙筋ならびに周囲組織を前鼻棘へ直接牽引す るよう縫合固定(muscle suspension 法)する. これに より, 鼻翼基部ならびに鼻柱基部の修正を行う. な お, この縫合が強すぎ, 鼻孔の狭小化の原因となる 場合には, 健側顎裂の骨膜に牽引する場合もある. ②白唇部では, さらに, 患側口輪筋断端を健側口 輪筋束下(上顎骨膜)に引き寄せて縫合する. これに より, 皮膚に余裕をもたせて人中形成をしやすくす るとともに, 鼻孔底の形成をより確かなものとする. ③赤唇部の筋束(口輪筋深層)を縫合する. なお, D-flap は皮弁とともに筋束を移動し縫合す るため, 筋層単独での縫合は行わない. 6 .鼻孔底の形成 筋層縫合と前後して, 鼻孔底の形成を行う. 鼻腔 側の再建は鼻翼基部から梨状口縁にかけての組織を 用いて行う. 口腔側は両側の口唇破裂縁に沿って形 成した X-flap と Y-flap を用いて閉鎖する. ①剥離した鼻腔側の皮膚粘膜を縫合し鼻孔底を再 建する. ②Y-flap の中間を把持し前方へ軽く牽引した状態 で, 中央から先端部を後方へ U ターンさせ, 弁の縁 どうしを縫合する. ③X-flap は基部から後方へ反転・固定し, Y-flap と縫合する. これにより, 口腔側が閉鎖される. ④顎裂幅がさほど広くない場合には, Y-flap のみ で口腔側の閉鎖が可能であり, X-flap は患側の口腔 前底最深部に向けて反転・縫合し, 切除することな く保存する. この場合, X-flap は, 患側口腔前庭部 に団子状に保存することとなる. 7 .口唇部皮膚・粘膜の縫合(図 6) 上口唇の皮膚は口輪筋を縫合してあるため, すで に密着した状態となっており, atraumatic に緊張な く寄せることができる. 各 flap を当初の設計に準じ て鼻翼基部より順次縫合する. この際, ①C-flap の縫合:C-flap の皮膚は適宜トリミング し, できるだけ皮下組織を残して患側鼻翼部に充填 する.(鼻孔底部の陥凹防止となる.) ②真皮縫合:5-0 もしくは 6-0 ナイロン糸を用い, 鼻柱基部に近い部位で真皮深層に真皮縫合を行う. ここの部位で皮膚を寄せることが, 上方の人中の形 成において重要である. 次いで, 赤唇稜と人中稜に 真皮縫合を行う. ③皮膚縫合:赤唇稜の部位から 6-0 または 7-0 ナ イロン糸を用いて皮膚縫合を開始する. D-flap の縫 合では虚血にならないよう 3 点縫合を行うなど注意 を払う. ④粘膜側の縫合:上唇結節を形成するため, 4-0 バイクリルを用い赤唇部の三角形の粘膜弁を基部と した円錐形の筋束を健側粘膜下に嵌め込むように マットレス縫合する. 粘膜の縫合は 5-0 ないし 6-0 バイクリルを用いて縫合する. 図 5 切開・flap の形成 1 2 図 6 縫 合

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②白唇部の縫合は 4, 5 日目に抜糸し, 赤唇部なら びに鼻孔底は 6, 7 日に行う. ③抜糸後は, 4 か月間, テープで固定する. ④手を術創部にもっていかないよう肘関節の緩や かな固定による抑制を約 1 週間行う. ⑤ Hotz 床は継続する. お わ り に 1 .デザインについて (1)キューピット弓の形成と小三角弁について 現在, 口唇裂の手術については, 直線法, 三角弁 法, Millard 変法などさまざまな唇裂手術に関する報 告があるが, 赤唇縁上のキューピット弓をスムース にするため赤唇縁上に小三角弁を設定することにつ いては論をまたない. 小三角弁については, Millard 法14)における術後のキューピット弓の挙上変形の 改善のために, 鬼塚2 )が赤唇縁上に形成すること を提唱したのが始まりである. 鬼塚は, 当初この小 三角弁を赤唇縁に沿って挿入するとしていたが, 皮 弁の回転に無理があることから, 人中窩に入れると 改定し, 良好な結果を報告15)している. また, 小三 角弁をデザインするための基点となる「点 4」の設 定については, さまざまな議論がある. この「点 4」 は理論的には患側のキューピット弓の頂点というこ とになるが, 患側のキューピット弓は不明瞭であり 同定することが難しいことが多い. 口角からキュー ピット弓頂点までの距離は健側と患側とで等しく なるべきであるが, 一般に患側の赤唇が短く, 口角 からの距離は参考程度にしかならない. このため 「点 4」の設定にあたっては, 赤唇稜と赤唇彩縁が 区別できる点16), 赤唇彩縁の消失する点17), ある いはそれより約 1 mm 外側で裂側赤唇の最も厚い部 位18), 白唇隆線の終わる部位(すなわち赤唇稜と赤 唇彩縁が区別できる点)から 3 mm ほど外側19)など, さまざまな意見がある. 鬼塚10)は, 患側赤唇部の 最も厚い部の赤唇稜に設定するとしており, 我々も これに準じている. 小三角弁(D-flap)は, 一辺が 1.5mm の三角形を 基本とするが, デザインに際して一辺の長さは 1.5 mm に限定されるものではない. 1 mm20), 1.5mm3, 21), 2.5mm22)などの報告があり, ポイントは上口唇溝を 超えない範囲でその長さを調整することである10, 15). 小三角弁を小さく設定する必要がある場合には 1 mm 1 mm を越して設定するほうが望ましい. 人中稜の 長さの延長が必要な場合には, 小三角弁の上下幅を 大きめに設定することもできる5, 16). ただし, この 小三角弁が術後過成長して幅広くなり長期的には赤 唇縁の下垂を起こすことも報告21)されており注意 を要する. (2)健側 flap(A-flap, C-flap)のデザインについて A-flap の設定にあたって, Millard は当初, 切開線 を患側の鼻柱基部外側縁の点 X’から鼻柱基部正中 の点 O まで延長するとしていた. また, Asensio23) は必要に応じてさらに鼻柱基部正中の点 O から人 中溝の正中線上(尾側方向)に Back cut を入れると し20, 23), これにより, 鼻柱基部の延長と A-flap の ローテーションの改善を図るとしている. しかしな がら, こうした回転進展法における切開線について は, 白唇を斜めに横切る瘢痕が目立つ点が指摘され ている. これを改善するため, 保坂16)は A-flap の 切開において, 鼻柱基部外側縁(点 X’)に切開線を とどめることを提唱している. これにより, 斜めに 横切る瘢痕を回避するとともに, 患側の人中稜の形 態を健側の人中稜に合わせことができるとしてい る. ただし, この場合, 切開線の長さを確保するた めに, 切開線をできるだけ赤唇縁に沿わせ, 弧を描 くようにする等の工夫16, 18)が必要と指摘している. また, C-flap は鼻柱基部の内側に設計されることと なるが, これは必要に応じて切除するとしている. Millard+ 小三角弁法を採用するその他の報告のなか にも, 同様に, ある程度平均化した人中の位置に縫 合線がくるよう C-flap の切開を鼻柱基部辺縁まで にとどめる作図がよいとする報告は少なくない3〜5 ). 高戸ら3 )も, 正中部分を横切る創はいかに細くても 目立つとし, A-flap の切開を鼻柱基部外側縁(点 X’) にとどめ, C-flap は小さな三角弁として鼻限部に相 当する鼻柱基部に設定することを提唱している. こ の際, 患側の人中稜が短くなりやすい欠点が挙げら れるが, これは皮膚および筋肉を十分に剥離するこ とにより解決されるとしている. いずれにしても, 直線法+小三角弁法に近いデザインが提唱されてい る. また, 森口4 )は, 鼻柱基部正中(点 O)と鼻柱 基部外側縁(点 X’)との中間点 Z’を設定し, これに 基づいて flap を設計することを提唱している. この 際, 鼻孔底の再建にあたっては, C-flap を後内方に 引き寄せ, 鼻孔内に収めることにより, 術後の瘢痕

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が正面からみえず, また, 人中稜上部の形もよく出 るとしている. 著者らも人中稜上部の形態に配慮し た健側 flap の設計が重要と考え, 現在の設計を行っ ている. 2 .患側鼻翼基部の位置修正について Millard 法14)では患側鼻翼基部に切開線を加える ことにより, 患側鼻翼の正中への移動を容易にし, 外鼻変形を改善することができるとしている. しか し, 患側鼻翼基部への切開は, 目立つ瘢痕形成をみ ることが指摘されている. このため, 鼻翼基部への 切開を行わずに患側鼻翼基部を中心とする軟部組織 が上内方に自由に移動できるよう, B-flap の裂側面 の切開を鼻腔へ向かって梨状口縁の鼻腔粘膜まで延 長した上で, 口輪筋(浅部), 上唇鼻翼挙筋, 上唇挙 筋を始めとする軟部組織を上顎骨から一塊として切 離することが推奨される4, 5 ). 鬼塚10)は, 鼻翼基部 切開後の瘢痕を配慮し, 患側口輪筋の前鼻棘への直 接的牽引固定(muscle suspension 法)と鼻翼基部真 皮の前鼻棘への固定により, 同部への切開を回避し て, 鼻翼基部の位置の修正が可能であるとしている. この際, 広範な鼻翼皮下組織や軟骨剥離などは行わ ないとしている. また, Byrdら24)は, 鼻翼基部と前 鼻棘近くを縫合牽引し, さらに鼻軟骨と頰部の顔面 筋を固定するとし, 類似の方法を推奨している. 著 者らも, 患側鼻翼基部の切開や鼻翼皮下組織の剥離 は行わず, 鼻翼基部を中心とする軟部組織を上顎骨 から一塊として十分に剥離すること, ならびに, 鼻 中隔前端で鼻中隔軟骨と前鼻棘とを切離することに より, 患側鼻翼基部と鼻柱基部の形態修正を行って いる. また, C-flap にて鼻孔底の形成と引き締めを 行っている. 本来, C-flap は過緊張を和らげる働き があるが, 白唇部の縫合に際しては, ①muscle sus-pension 法, ②鼻翼基部真皮の前鼻棘への固定, なら びに ③患側口輪筋断端の健側口輪筋束下(上顎骨膜) への引き寄せての縫合, により皮弁に緊張が加わら ないよう心がけている. 顎裂口蓋裂を伴う口唇・口蓋裂患者では, 上顎骨 骨格異常を伴い, 口唇外鼻変形の度合いは唇裂単独 と比較して著しく大きい. こうした症例に対して は, 初回口唇裂手術時に鼻腔底形成と外鼻皮下剥離 を伴う外鼻形成を推奨する報告4, 25)が散見される. その一方で, 外鼻手術の侵襲から, 患側上顎の劣成 長に伴う外鼻変形やその術後再発ならびに外鼻発育 障害などを懸念する報告26)もある. 著者らは, 初回 唇顎口蓋裂手術時には, 鼻翼軟骨の剥離や鼻腔底形 成は行わず, 原則として外鼻形態修正は鼻翼基部の 位置修正と鼻孔底形成にとどめてリテーナーの装着 を行っている. 必要と考えられる場合には, 鼻孔内 切開を加え, ずり上げ縫合を行う27). 外鼻変形に対 する手術時期や術式については, 疑義のあるところ であり, 鼻形成術5, 16)・鼻腔底の再建術4 )に関す る詳細については他稿を参照されたい. 鼻孔底の形成について, 三村28)は, 鼻腔側の再 建を鼻翼基部から梨状口縁にかけての組織を用いて 行い, 口腔側の再建を両側の口唇破裂縁に沿って形 成した X-flap と Y-flap を用いて閉鎖するとしている. また, 顎裂の幅がさほど広くない場合には, Y-flap のみで対応可能としている. 二ノ宮ら26)も, Y-flap を梨状口縁部の延長に用い, X-flap は将来行う顎裂 部骨移植術時に使用するため可及的に患側の口腔 前庭最深部へ温存するとしている. X-flap の利用に ついては, 森口4 )も同様にその先端を患側口腔前 庭最深部に縫合することにより, 顎裂部の土台作成 に利用するとしている. 著者らも, 同様に X-flap, Y-flap の有効利用に努め, 無切り捨て法を採用して いる. 3 .筋層の再建について 皮切を中心とした静的形態の再建にくわえて, 動 的形態の再建, すなわち, 筋の機能再建が重要であ り, 三角弁法や回転進展法に口輪筋再建の概念を取 り入れたさまざまな方法が報告されてきている29). 難波30)は切開線とは別個に筋層の形成を行う方法 として, 三角弁法に筋層の形成法の概念を導入して いる. また, 上石27)は, 片側性唇裂に対する三角 弁法による口唇形成術に際し, 小三角弁から下方の 筋層の移動は皮膚と筋層を一体として移動し, 小三 角弁から上の部分では皮膚と筋層を分け, 筋層を鼻 柱隔前方に吊り上げ固定する方法を推奨している. 一方, Pennisi ら6 )は, 皮膚の切開線と一体となっ た筋層の形成を行った場合, 回転進展法が最も筋の 機能再建に合致した皮膚切開法であると結論付けて いる. 回転進展法に準拠して皮膚切開と一体となっ た筋層形成を行った場合, A-flap の下方への展開に 伴って筋束は一部展開され外下方へ回転する. また, 鼻柱基部に生じた欠損部に B-flap 中の筋肉が接近 して縫合される27). B-flap 部筋層の取扱いに際して は, 白唇部の上 1/2 部に相当する口輪筋浅層と上唇 挙筋, 上唇鼻翼挙筋を一塊として取り扱うことが推 奨される5 ). 著者らは, 縫合に際して, これらの筋を 一塊として前鼻棘へ直接的牽引固定する方法(muscle suspension 法)5, 10)を行うことにより, 患側鼻翼基 部の位置修正や鼻孔底の陥凹防止とともに, 理論的 な筋の再建につながると考えている. 白唇部下方 1/2 部分および赤唇部における筋層の構築は端々縫

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で, 鼻唇溝まで広く剥離をするとする報告5, 16)と, 口輪筋の停止は皮膚であり一体となっているので剥 離すべきではないという報告18, 26)とがある. 著者ら は, 皮膚と口輪筋の広範な剥離は, 表情筋の停止部 を破壊し平坦な形態となる恐れがあることから, で きるだけ縫い代程度にとどめている. 皮膚との剥離 が必要な場合でも, 健側では反対側の人中の手前ま で, 患側では, 鼻翼基部の偏位の程度によって剥離 範囲を決定するが, 原則として鼻唇溝までとする16). 4 .赤唇部の形成について 三村7 )は良好な赤唇形態を得るため, 外側唇赤 唇部断端相当部にあらかじめ適切な大きさの三角形 の粘膜弁を形成し, 口輪筋の一部とともに, 健側赤 唇下縁に嵌め込むことにより, 自然な上唇結節の再 建が得られるとしている. 赤唇部の形成については, 顎裂を有する場合, 顎裂幅が狭くなるに従い, 赤唇 縫合部が下垂するなどの変化がみられることから, 後で修正するほうが安全とする報告もある16). 赤唇 部については, 単純に縫合し, 赤唇(dry lip)と赤唇 粘膜(wet lip)の幅の違いについてのみ, Z 形成術 にて修正するとの報告10)もある. しかし, 実際には, 術後の瘢痕拘縮から赤唇縁の挙上や自由縁のくびれ が起きた場合には Z 形成術が, 患側赤唇が薄くな る場合には健側自由縁部を切除して患側の赤唇にあ わせるなどの対応が必要となる症例は少なくない. また, 患側赤唇自由縁の下垂が認められる場合には, 膨隆部分を切除するなどの対応も必要となる. 著者 らは, こうした諸問題の改善策としても上唇結節形 成法が有用であると考えている. 口唇裂手術は第 1 に整容的に満足のいく手術でな ければならない. 瘢痕の少ない白唇, 人中と段差の ない赤唇縁, 左右対称で良好なキューピット弓の形 態, そして良好な外鼻の形態が要求される. また, 口腔前庭の保全も図られなければならない. そし て, 第 2 に機能的にも満足のいく手術でなければな らない. 術後の口唇突出時の口輪筋の運動性と, そ の際の審美性も評価対象となっている. これらの目 的を達成することを念頭に, 日々研鑽が必要と考え ている. 本稿では, 現在当科で行っている片側性唇 顎口蓋裂の初回手術について紹介した. 2 )鬼塚卓弥:唇裂形成術の経験. 第 1 報; Millard 法をめ ぐって. 形成外科 9: 268-276 1966. 3 )高戸 毅, 森本重之, 他:われわれの行っている口唇裂 治療. Hosp Dent 10: 2-12 1998. 4 )森口隆彦:鼻腔底の形成. 口唇裂・口蓋裂の治療 最近 の進歩. 波利井清紀 監修 克誠堂出版, 東京, 1995, 21-31頁. 5 )鈴木茂彦:〈片側唇裂〉口輪筋浅層と上唇挙筋, 上唇鼻 翼挙筋の再建を重視した片側唇裂初回手術. PEPARS 1: 23-29 2005.

6 )Pennisi,V.R., Shadish,W.R., et al.: Orbicularis oris mus-cle in the mus-cleft lip repair. Cleft Palate J 6: 141-153 1969. 7 )三村 保:口唇裂一次手術において良好な赤唇形態を得 るための方法. 日口外誌 29: 65-70 1983. 8 )安部正之:唇裂治療に必要な外科解剖. 形成外科 22: 269-274 1979. 9 )鎌田 聡:上口唇溝(仮称)と口輪筋に関する解剖学的 研究. 日形会誌 14: 208-215 1994. 10)鬼塚卓彌:著者の片側唇裂形成術を顧みて −Ⅱ. 片側唇 裂の手術法:特に白唇部の処理について−. 形成外科 44: 1059-1070 2001. 11)小林慎司:口唇形成術. 胎児診断から始まる口唇口蓋 裂−集学的治療のアプローチ. メジカルビュー, 東京, 2010, 114-117 頁.

12)Nicolau, P.J.: The oricularis oris muscle : a functional approach to its repair in the cleft lip. Br J Plast Surg 36: 141-153 1983.

13)秦 維郎:口唇形成術における筋層の形成(片側性・両 側性). 口唇裂・口蓋裂の治療 最近の進歩. 波利井清紀 監修 克誠堂出版, 東京, 1995, 32-42 頁.

14)Millard, D.R.Jr.: Radical rotation in single harelip. Am J Surg 95: 318-322 1958. 15)鬼塚卓彌, 小島和彦, 他:口唇裂の先天性奇形(その 6) われわれの片側唇裂形成術. 交通医学 24: 211-216 1970. 16)保坂善昭, 門松香一:〈片側唇裂〉R-A 法を改良した口 唇裂初回手術. PEPARS 1: 47-56 2005. 17)杉原平樹, 大浦武彦, 他:片側口唇裂に対する Randall 法の遠隔成績. 形成外科 31: 21-31 1988. 18)栗原邦弘, 丸毛英二:片側口唇裂に対する Millard 法に ついて. 形成外科 31: 50-60 1988. 19)長田充博: 4. 唇裂, 口蓋裂. 耳鼻咽喉科・頭頸部手術ア トラス(下巻). 小松崎篤監修 医学書院, 東京, 2000, 13-15 頁.

20)Millard, D.R.Jr.: Refinements in rotation advancement cleft lip technique. Plast Reconstr Surg 33: 26-38 1964. 21)山田 敦, 福田 修:小三角弁法から Millard 変法への

変遷. 形成外科 31: 12-20 1988.

22)鬼塚卓弥:唇裂形成術. 手術 28: 892-895 1974. 23)Asensio, O.: A variation of the rotation advancement for

repair of wide unilateral cleft lips. Plast Reconstr Surg 53: 167-173 1974.

24)Byrd, H.S. and Solomon, J.: Primary correction of the unilateral cleft nasal deformity. Plast Reconstr Surg

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106: 1276-1286 2000. 25)西尾順太郎, 足立忠文, 他:唇裂口蓋裂の総合治療. そ の 1. 片側唇裂初回手術. HospDent 11: 87-100 1999. 26)二ノ宮邦捻, 栗原邦弘:〈片側唇裂〉片側唇裂外鼻形成 術. PEPARS 1: 30-37 2005. 27)上石 弘: 1. 口唇形成術の進歩. 口唇裂・口蓋裂の治療 最近の進歩. 波利井清紀監修 克誠堂出版, 東京, 1995, 3-13 頁. 28)三村 保:破裂幅の広い唇顎口蓋裂の口唇形成手術にお ける顎裂部閉鎖のための一方法. 日口蓋誌 11: 70-77 1986. 29)奈良 卓:「4. 口唇形成術における筋層の形成(片側 性・両側性)」へのコメント. 口唇裂・口蓋裂の治療 最近の進歩. 波利井清紀監修 克誠堂出版, 東京, 1995, 41-42 頁. 30)難波雄哉:三角弁法とその変法. 図説臨床形成外科講座 3. メディカルビュー, 東京, 1987, 76-77 頁. 別刷り請求先: 明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学第 2 分野 坂 下 英 明 〒350-0283 埼玉県坂戸市けやき台 1-1

参照

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