産婦人科救急
産婦人科 早田 裕
平成29年4月13日
はじめに
• 女性急性腹症患者の約17%が産婦人科疾患 • 40歳以下に限定すると・・産婦人科疾患は45% • 産婦人科救急疾患では、大量出血→命にかかわる急性 腹症症例がある • 妊娠の有無、バイタルのチェックが重要女性の下腹部痛の診断手順
• バイタルサインの測定、全身状態の観察 • 最終月経の確認、妊娠の有無について確認 • 性器出血の有無、疼痛部位と程度の確認 • 腹部の診察で腹膜刺激症状をチェック • エコーで腹腔内出血の有無をチェック Shock index(SI)=心拍数÷収縮期血圧 SI= 1.0→1.0-1.5Lの出血 = 2.0→2.0-2.5Lの出血産婦人科救急の鉄則
『女性の腹痛をみたら必ず妊娠の有無を確認する!』
※患者さんの「妊娠していない」は間違っている可能性がある! その理由として・・・ ①数週間前に月経があったから ②ここ1か月ほど性交していないから ※ただし・・・以下の場合は信じてもよいでしょう ①閉経している(1年以上月経がない)場合 ②性交歴がない場合 ③ここ1年ほど性交渉がない場合 ⇒妊娠初期の出血かも? ⇒すでに妊娠しているかも? 可能なら尿検査で妊娠反応をチェックしましょう!主な産婦人科急性腹症
1.異所性(子宮外)妊娠 2.(切迫)流産 3.卵巣腫瘍茎捻転 4.卵巣出血 5.PID(骨盤腹膜炎) 6.月経困難症下 腹 部 痛 妊 娠 反 応 ( + ) 妊 娠 反 応 ( - ) 子宮内に胎嚢(+) 子宮内に胎嚢(-) 卵巣腫瘍(+) 卵巣腫瘍(-) ・流・早産 ・胎盤早期剥離 おもに腹腔内出血 ・異所性妊娠 おもに外出血 ・流産 ・卵巣腫瘍破裂 ・卵巣腫瘍茎捻転 腹腔内出血(+) ・卵巣出血 腹腔内出血(-) ・PID ・月経困難症
主な産婦人科急性腹症鑑別の注意点
妊娠中にも起こる!主な産婦人科急性腹症の特徴
下腹部痛の性状 下腹部痛以外の症状 腹腔内出血 緊急度 異所性妊娠 (子宮外妊娠) 破裂前は徐々に増強 破裂後に激痛 少量の不正性器出血 (+)~(+++) ◎ (切迫)流産 徐々に増強 流産後は軽減 徐々に増量する 月経様出血 (-)~(+) △ 卵巣腫瘍茎捻転 突然起こる激痛 なし(感染兆候なし) (-) ○ 卵巣出血 突然 なし(感染兆候なし) (+)~(++) △ 骨盤腹膜炎 徐々に増強 感染兆候 (高熱、炎症反応高値) (-) △ 月経困難症 徐々に増強 月経様出血 (-)~(+) ▲主な産婦人科急性腹症の検査
妊娠検査薬 内診 CT MRI 腹部エコー 経腟エコー 異所性妊娠 (子宮外妊娠) 陽性 △ △ ○ △ ○ (切迫)流産 陽性 ○ × × △ ◎ 卵巣腫瘍茎捻転 陰性~陽性 ○ ○ ○ △ ○ 卵巣出血 陰性~陽性 △ ○ ◎ △ ◎ 骨盤腹膜炎 陰性 ○ ▲ ▲ ▲ △ 月経困難症 陰性 ○ × × ▲ △ 腹部エコーでは腹腔内出血と骨盤内腫瘍の確認を!妊娠反応陰性の産婦人科急性腹症
〜妊娠反応が陰性であれば・・・〜
• 異所性(子宮外)妊娠は否定できる。 ⇒緊急を要する症例は、卵巣腫瘍茎捻転ぐらい • 経腹エコーだけでなくCTも行えるので腹腔内出血や 卵巣腫瘍の有無も確認しやすい。The CIBA Collection of
Medical Illustrations より
異所性妊娠(子宮外妊娠)付着部位
*卵管妊娠が80%以上
*不妊治療後妊娠では卵管以外の異所性妊娠 の頻度が自然妊娠より多い。
参考
• 妊娠週数:最終月経の始まった日から計算。 • 妊娠反応陽性 → 妊娠3週後半~ • 超音波で胎嚢(GS)確認可能 → 4週後半~ • 妊娠6週で胎嚢はほぼ100%確認できる。 妊娠6週以降で子宮内に胎嚢を認めない場合 →異所性妊娠
、
流産
、
妊娠初期(排卵遅延)
の可能性を考える。異所性妊娠の診断と注意点
≪診断≫ 妊娠反応 エコー(子宮内に胎嚢が確認できない) 血中hCG値の測定(血中hCG:2000単位以上) ≪注意点≫ 患者さん自身が、異所性妊娠に伴う不正性器出血を 月経と勘違いすることあり。 ⇒妊娠していないと主張する。※妊娠を否定していても妊娠反応検査は必要
見逃してはいけない異所性妊娠
• 緊急手術が必要な異所性妊娠!
ショックバイタル、大量の腹腔内出血、 子宮の外に胎児心拍が見えるetc・・・
左卵管妊娠(経腟エコー)
子宮
卵管妊娠破裂(経腹エコー)
右卵管妊娠(未破裂)
子宮
右卵管妊娠(破裂)
←腹腔内の大量出血
左卵管妊娠(腹腔内)
2.流産
*激しい腹痛、大量出血で救急車で来院することもあり。 *完全に流産するまでは強い下腹部痛があるが、子宮
流産の原因
胎 児 側 因 子 染色体異常 トリソミー、モノソミー、三倍体 など 先天形態異常 遺伝性疾患 胎児付属物の異常 臍帯、胎盤の異常 母 体 側 因 子 子宮形態異常 子宮奇形、子宮筋腫、子宮頸管無力症、陳旧性頸管裂傷、アッ シャーマン症候群 など 感染症 後期流産では上行性の絨毛膜羊膜炎は子宮口の開大、破水をおこ し流産の一因となる 内分泌異常 甲状腺機能異常、副腎機能異常、糖尿病、黄体機能不全 など 全身状態 高熱、著しい疲労、栄養障害、外傷 など 免疫異常 抗リン脂質抗体症候群、自己免疫疾患 など その他 心・腎疾患、放射線被曝、精神的要因、妊婦の年齢 など 50-60%を 占める切迫流産の対応
• 妊娠12週未満の流産予防効果が確立された 薬物療法はない。 →基本的には安静が一番 流産が進行しても抑えようがない • 時間外受診は控えても問題なし。 →大量出血、激しい腹痛が続く場合は来院を3.卵巣腫瘍茎捻転
• 卵巣腫瘍の約10%で発症 • 95%が良性腫瘍 • 5cm以上で捻転を起こしやすくなる • 突然の腹痛で受診する例が多いが、数週間前より軽度 の腹痛や腰痛を認めていることも多い。 ※悪心・嘔吐を伴い急性胃腸炎と診断される場合も・・・卵巣腫瘍茎捻転の診断・注意点
≪診断≫ • エコー、造影CT、造影MRIで骨盤内腫瘍の確認および 腫瘍内の血流の有無の確認 ≪注意点≫ • 未婚、未経妊や挙児希望のある女性の茎捻転 ⇒極力早く診断し、治療を行う! ・・処置が早ければ卵巣の温存が可能 ・・処置が遅ければ卵巣が壊死するため卵巣摘出 ※5cm以上の卵巣腫瘍は通常経腹エコーでも診断可能!!卵巣腫瘍茎捻転 CT画像
水平断 前額断 矢状断 腫瘍 子宮 子宮 腫瘍 腫瘍 ※茎捻転する卵巣腫瘍の大部分は 5cm以上あるため、CTでもあきらか に確認ができることが多い! つまり微妙な大きさの卵巣であれば 茎捻転の可能性は低い・・・かも。卵巣腫瘍茎捻転の術中写真
←卵巣腫瘍
4.卵巣出血
• 黄体期(月経が始まる前の2週間以内)に多い。 • 主な原因は
卵巣の黄体内に出血⇒卵巣が破裂し腹腔内へ出血。 • 典型例は黄体期の性交渉後におこる腹痛。
• 超音波検査でecho free spaceと卵巣付近に不正な凝血塊を 認める。
• 大部分は安静と止血剤投与などの保存的加療。 大量出血例は緊急手術となることがある。
右卵巣黄体内の出血
排卵前の右卵巣
緊急対応を要する症例
• 大量の腹腔内出血があり、ショックバイタルとなっ ているもの。
• 進行性の貧血があるもの。
5.PID(骨盤腹膜炎)
• 起因菌は大腸菌、ブドウ球菌、淋菌、クラミジア、バク テロイデスを含む嫌気性菌が多い。 • 腟→子宮→卵巣→骨盤内とひろがる上行感染。 • 炎症が上腹部に波及し肝周囲におよぶことがある。 →Fitz-Hugh-Curtis 症候群 • 抗生剤による保存的加療が第一選択。 • 膿瘍形成しない場合は画像所見に乏しい。 →内診(双合診)がわりと有効、腹膜刺激症状(+)。 • 膿瘍形成する場合はCT、MRI、エコーで確認可能PIDの注意点
• 虫垂炎と鑑別が困難な場合あり。 • PIDは緊急手術となる症例はほとんどないが、虫垂 炎は時期を逸すると重症化。 ⇒まずは虫垂炎を除外すること。 • 膿瘍を形成し再燃繰り返す場合は手術考慮。PID(左卵巣膿瘍)
経腟エコー
6.月経困難症
• いわゆる月経痛。 • 生殖可能年齢の約10%に発症。 • 年齢に伴い悪化し、閉経すると当然症状消失。 • 痛みが強く救急車で受診する場合がある。 • 痛みの強さのわりに全身状態は良好。 →バイタル安定、感染兆候なし月経困難症の1st治療
• 第一選択はNSAIDs
市販薬、ロキソニン、ボルタレンなど。 時間外の対応は上記で十分。
産科救急
• 初期:重症妊娠悪阻、切迫流産、子宮外妊娠
• 中期:頸管無力症、切迫早産、
子宮筋腫変性、水腎症
• 後期:常位胎盤早期剥離、前置胎盤
妊娠高血圧症候群、子癇、HELLP症候群
胎児機能不全
妊婦の出血・腹痛⇒産婦人科へコンサルトを
子宮筋腫茎捻転
• 子宮筋腫は通常は痛みを伴わない良性腫瘍。 • 筋腫内の変性を起こして疼痛を来す場合あり。 • 筋腫の茎が細い場合は捻転して強い痛みを伴う
子宮筋腫茎捻転 MRI画像
T2WI T1造影
摘出標本
卵管腫瘍捻転
• 卵管腫瘍は卵巣腫瘍に比べ稀な疾患。 • CT、MRIでも卵巣と卵管の区別が困難な場合がある。 • 卵巣腫瘍とは異なり腫瘍の輪郭があいまい? • 先日、卵管腫瘍の捻転を初めて経験したが・・・ 初見では診断が難しいと思われる。卵管腫瘍捻転のCT画像
単純CT 造影CT 卵巣腫瘍とは異なり、右付属器がやや腫大している程度 幸い事前に卵管腫瘍を疑っていたため早く診断できた 子宮 右付属器卵管腫瘍捻転の解除時
子宮