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Microsoft Word - str_bt_grundlage2015_04堕胎罪・遺棄罪.docx

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(1)

個人的法益に対する罪 人の生命に対する罪(危険犯)

04 堕胎罪・遺棄罪

(遺棄罪の類型と遺棄概念)

到 達 目 標 □人の始期(出生の意義)との関係に留意しつつ、堕胎の意義を明らかにせよ。 □遺棄罪の保護法益と法的性質をどのように理解するべきか。 □具体例を挙げて、遺棄、移置、置去り、不保護の各概念を整理しなさい。作為形態と不作為形態とに留意すること。 □刑法 218 条にいう保護責任は、遺棄罪の作為義務を基礎づけるか(保護責任の法的性質)。 □遺棄概念に関する諸説を整理しなさい。

1.堕胎罪(刑法 212 条~216 条)

人の生命・身体の安全に対する危険犯。 1.1.堕胎の意義 出生により人となる以前の生命体(生成中の生命体:ヒト)を 胎児といい、人と区別される。堕胎罪の客体としての胎児とは、 母体内において受精卵が子宮内に着床した後、出生に至るまでの 生命体(生成中の生命体)である。したがって、着床以前の受精 卵は、ヒトとしての保護の対象とはならない。 堕胎とは、胎児を、自然の分娩期に先立って人工的に母体外に 分離・排出させ、または母体内で殺害することをいう(大判明治 42 年 10 月 19 日・刑録 15 輯 1420 頁、大判明治 44 年 12 月 8 日・ 刑録17 輯 2183 頁)。排出された胎児が死亡したか否かを問わな い。 1.2.堕胎罪の類型 ①行為主体(妊婦〔=妊娠中の女子〕自 身であるか第三者であるか)。 ②妊婦の同意の有無。 ③身分(医師等の業務者)による区別。 ┌自己堕胎罪(212 条) │ └第三者堕胎─┬同意堕胎─┬単純同意堕胎罪(213 条) │ │ │ └業務上堕胎罪(214 条) │ └不同意堕胎罪(215 条) │ └不同意堕胎致死傷罪(216 条) 1.3.堕胎罪の保護法益 胎児(第一次的)および母体(第二次的)の生命・身体の安全。 1.4.人工妊娠中絶 堕胎行為は、母体保護法(昭和23 年 7 月 13 日法律第 156 号) により、一定の要件(母体保護法2 条 2 項、同法14 条 1 項 1 号・2 号)のもとで、医師会の指定する 医師によって行われる場合(同法14 条 1 項 柱 書)には、人工妊娠中絶として許 容されている。

(2)

「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続す ることのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体 外に排出することをいう。」(母体保護法 2 条 2 項)。 (1)時期の限定(母体保護法 2 条 2 項:妊娠週数満22 週未満)。 (2)①身体的理由による母体の医学的適応(母体保護法14 条1 項 1 号前段)。 ②経済的理由による母体の医学的適応(母体保護法14 条1 項 1 号後段)。 ③倫理的適応事由(強姦による妊娠)(母体保護法14 条1 項 2 号)。 1.5.自己堕胎罪(刑 法 212 条) ○妊婦自身が胎児に対して行う堕胎行為。母体の安全との関係で は一種の自損行為。 ○妊婦の自己決定の尊重から、本罪の改廃が必要か。 ○堕胎行為を他人に実施させる場合。 (a)自己堕胎罪説(通説):「その他の方法」は、第三者に実施 させる場合を含む。 (b)自己堕胎教唆罪説(曽根威彦・西田典之):刑法65 条 2 項の準用。 (c)自己堕胎罪共同正犯説(判例):共同正犯が成立し、妊婦 は自己堕胎罪に、第三者は同意堕胎罪に該当する(大判大 正8 年 2 月 27 日・刑録 25 輯 261 頁)。 1.6.同意堕胎罪(刑法 213 条 前 段)・同致死傷罪( 刑法 213 条 後 段) 1.7.業務上堕胎罪(刑法 214 条 前 段)・同致死傷罪( 刑法 214 条 後 段) ○業務者(医師・助産師・薬剤師・医薬品販売業者)による不真 正身分犯。本罪に関与した非身分者については、65 条 2 項によ り同意堕胎教唆・幇助罪が成立する。 1.8.不同意堕胎罪(刑 法 215 条) ○女子(妊婦)の嘱託・承諾を得ないで堕胎させた場合(刑法215 条1 項)。6 月以上 7 年以下の懲役。なお、法文の「又は」は「か つ」の意味に解する。 ○未遂を罰する(刑法215 条 2 項)。 1.9.不同意堕胎致死傷罪(刑 法 216 条) ○不同意堕胎行為により女子を死傷させた場合には、傷害の罪と 比較して、重い刑により処断される(不同意堕胎致死傷罪:刑 法216 条)。不同意堕胎罪・同未遂罪の結果的加重犯。 ○「重い刑により処断する」とは、法定刑を比較して、上限・下 限ともに重い法定刑により処断する趣旨と解すべきである。

2.遺棄罪(刑法 217 条~219 条)

【設例】母親Xは、生後3 ヶ月の乳児である自身の子Aを甲警察署の玄関前に置いて、警察官Bに拾 い上げられるのを確認してから、現場を立ち去った。 Xの行為について、何罪の成否が問題となるか。また、その犯罪は成立すると考えられるか。 (大判大正4 年 5 月 21 日・刑録 21 輯 670 頁参照)

(3)

遺棄とは、扶助を必要とする者(要扶助者)を、保護された状 態から保護されない状態に移行させることによって、その者の生 命・身体に危険を生じさせる行為をいう。 単純遺棄罪(刑法217 条) ⇒「遺棄」 保護責任者遺棄罪(刑法218 条) ⇒「遺棄」+「不保護」 2.1.遺棄罪の類型 ①単純遺棄罪(刑法217 条)。 ②保護責任者遺棄罪(刑法218 条前段)。 ③不保護罪(刑法218 条後段)。 ④遺棄等致死傷罪(刑法219 条)。 2.2.遺棄罪の保護法益 (a)個人的法益説(通説):要扶助者の生命・身体の安全。 (b)個人的法益+社会的法益説(大塚仁):要扶助者の生命・身体 の安全+社会の善良な風俗の保護。 (c)二分説(平野龍一・大谷實):①遺棄罪は要扶助者の生命の安全、② 不保護罪(刑法218 条後段)は要扶助者の身体の安全。 2.3.遺棄罪の法的性質 被遺棄者の生命・身体が現実に害されることまでは必要ではな く、生命・身体が危険な状態に置かれれば成立する(危険犯)。 (a)抽象的危険犯説(大塚仁・曽根威彦):法文上危険の発生が要求され ておらず、また被遺棄者保護の見地からも、抽象的危険犯 と解する。 (b)具体的危険犯説(団藤重光):遺棄概念が明確性を欠き処罰範 囲を限定する必要があることから、具体的危険犯と解する。 2.4.遺棄罪の客体 要扶助者:老年、幼年、身体障害、または疾病のために扶助を 必要とする者。

3.遺棄概念

3.1.遺棄概念の類型 ┌移置(狭義の遺棄) ┌(広義の)遺棄─┤ 遺棄─┤ └置去り │ └不保護(218 条後段) (広義の)遺棄:行為者と要扶助者(被遺棄者)との間に場所的 離隔を生じる場合。 移置(狭義の遺棄): 置去り: 不保護:行為者と要扶助者(被遺棄者)との間に場所的離隔を生 じない場合。 「こうのとりのゆりかご」(熊本市島崎:慈恵病院)

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3.2.「移置」と「置去り」の意義(遺棄の現象形態の問題) 【設例】Yは、自動車を運転中、誤って通行人Bを跳ね飛ばした。Yは負傷したBを病院へ運ぶつも りで自車に乗せて現場を離れたが、途中で事故の発覚を恐れて変心し、死んでしまうかもし れないと思いつつも、Bを人通りの少ない場所に放置して逃走した。遅滞なく適切な治療を 受けていればBは確実に助かったのだが、放置されていたために治療が遅れ、Bは死亡した。 Yの行為について、いわゆる道路交通法における「ひき逃げ罪」(救護義務違反罪[道路交 通法117 条 2 項・72 条 1 項前段]と報告義務違反罪[同法 119 条 1 項 10 号・72 条 1 項後 段])のみが成立するか。それとも、保護責任者遺棄致死罪(刑法219 条・218 条前段)、殺 人罪(刑法199 条)のいずれの犯罪が成立すると考えられるか。 なお、過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法(1)5 条)を問題としないものとする。 (1)「移置」の意義…要扶助者が位置を変更 要扶助者を危険な場所に移転させる行為。 要扶助者が、任意に危険な場所へと立ち去るのに任せておく行為。 (2)「置去り」の意義…要扶助者は同じ位置 要扶助者を危険な場所に遺留して立ち去る行為。 要扶助者が、保護者に接近するのを妨害する行為(接近の遮断)。 (3)「移置」と「置去り」の関係 (a)区別説(判例・多数説) 移置=作為 置去り=不作為 (b)同義説(有力説) 移置=作為+不作為 置去り=作為+不作為

4.保護責任と作為義務の関係

(a)違法要素説(保護責任=作為義務説) 保護責任(保護義務)は加重的違法要素なので、作為義務と同 じものである。したがって、単純遺棄罪(刑法217 条)は、作為 形態に限定される。 (b)責任要素説(保護責任≠作為義務説) 不作為犯の可罰性を基礎づける作為義務は違法要素であるが、 保護責任は加重的責任要素である。そこで、保護責任の認められ ない者であっても、作為義務が認められる場合には、その者の不 作為は不作為犯を構成する。したがって、単純遺棄罪(刑法217 条)は、不作為形態も含む。

5.不作為形態による単純遺棄罪の成否

(刑法 217 条の遺棄概念と刑 法 218 条の遺棄概念の異同) 【設例】Zは、金沢・能登を巡る観光旅行の途中、能登金剛の“ヤセの断崖”に来ていた。断崖絶 壁の縁に近寄っていく幼児Cを見つけ、転落の危険を察知しながらも、関わり合いになる のを嫌って見過ごしにしたところ、幼児Cは崖から転落して死亡した。 設例におけるZの行為について、何罪の成否が問題となるか。また、その犯罪は成立する と考えられるか。 (1) 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 (平成25 年 11 月 27 日法律第 86 号)。

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5.1.問題の所在 ①「移置」は、通常、作為形態であるが、不作為形態による場合 がありうるか。 ②「置去り」は、通常、不作為形態であるが、作為形態による場 合がありうるか。 ③刑法217 条は不作為犯を含むか。刑法 218 条に規定される保護 義務(保護責任)は、作為義務といえるか。 ④刑法217 条に規定される「遺棄」と刑法 218 条に規定される「遺 棄」を区別して理解する実質的な理由があるか。 5.2.消極説 単純遺棄罪(刑法 217 条)は、不作為形態を含まない。 刑法 217 条の遺棄と刑法 218 条の遺棄を区別するか? (a)区別説①(判例・通説) (最判昭和34 年 7 月 24 日・刑集 13 巻 8 号 1163 頁) 刑法217 条の「遺棄」 =移置(作為)。 刑法218 条の「遺棄」 =移置(作為)+置去り(不作為)。 (b)区別説②(有力説:大塚仁・福田平・青柳文雄) 遺棄概念を統一的に理解するが(移置=作為+不作為、置去 り=不作為+作為)、保護責任(=作為義務)を要求しない単 純遺棄罪は、不作為形態を処罰しない。 刑法217 条の「遺棄」 =移置(作為)+置去り(作為)。 刑法218 条の「遺棄」 =移置(作為・不作為)+置去り(作為・不作為)。 (c)同義説①(大谷實・町野朔・林幹人など) 刑法217 条の「遺棄」 =移置(作為)。 刑法218 条の「遺棄」 =移置(作為)。 ※不作為形態による場合は、すべて不保護(刑法218 条後段) にあたる。 5.3.積極説 単純遺棄罪(刑法 217 条)は、不作為形態を含む。 (d)同義説②(前田雅英・曽根威彦・山口厚・内田文昭・平野龍一など) 刑法217 条の「遺棄」 =移置(作為・不作為)+置去り(作為・不作為)。 刑法218 条の「遺棄」 =移置(作為・不作為)+置去り(作為・不作為)。 参考文献(より詳しく学びたい人の為に) □松原芳博「(ロー・クラス 刑法各論の考え方 3)遺棄罪」『法学セミナー』57 巻 1 号(2012.01)112-118 頁。 □佐伯仁志「(刑法各論の考え方・楽しみ方 5)遺棄罪」『法学教室』359 号(2010.08)94-102 頁。 □高山佳奈子「遺棄の概念」『刑法の争点〔新・法律学の争点シリーズ 2〕』(東京:有斐閣・2007.10)138-139 頁。 □平山幹子「保護責任の発生根拠」『刑法の争点〔新・法律学の争点シリーズ 2〕』(東京:有斐閣・2007.10)140-141 頁。 □山口厚「遺棄罪(犯罪各論の基礎 2)」『月刊法学教室』200 号(1997.05)103-109 頁。 □山中敬一「遺棄罪と危険概念(特集 刑法解釈の基礎・危険概念)」『法学セミナー』27 巻 1 号(1983.11)52-55 頁。

参照

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