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戦略的創造研究推進事業 CREST
研究領域「先進的統合センシング技術」
研究課題「脳に安全な情報環境をつくるウェアラブ
ル基幹脳機能統合センシングシステム」
研究終了報告書
研究期間 平成19年10月~平成25年3月
研究代表者:本田 学
'(独)国立精神・神経医療研究センター
神経研究所 疾病研究第七部 部長(
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§1 研究実施の概要
'1(実施概要 情報環境と脳との不適合によって発生する特異なストレスは、生命活動を制御する基幹脳'脳 幹・視床・視床下部などからなる生命の基幹的機能を担う脳部位(の機能異常を導き、情動・自律 神経系や内分泌・免疫系の不調を介して様々な現代病の原因となる。しかし、脳深部に位置する 基幹脳の活動をモニタするためには、従来は大規模な医療画像装置を必要としてきた。本研究で は、安全・安心な情報環境の創出に資するために、脳波計測を中核とする小型軽量で高確度なウ ェアラブル基幹脳機能センシング技術を創成し、日常生活空間で簡便に基幹脳の活性状態をモ ニタできるシステムの開発を目的とした研究を遂行してきた。そのために各研究グループが有機的 に連携して4つのサブテーマにとりくみ、以下の成果を上げた。 1.基幹脳活性指標再構成技術の開発: 頭皮上の限定された電極から記録されたシグナルをも ちいて、ポジトロン断層法または磁気共鳴機能画像といった医療用の大規模画像装置をもちいて 計測された基幹脳の活性と相関の高い基幹脳活性指標'Fundamental Brain Activity index: FBA-index(を開発した。磁気共鳴画像-脳波同時計測システムを構築して、人間を対象としたデ ータを収集し、基幹脳活性指標を再構成するために必要な、頭皮上自発脳波と基幹脳活性との時 間的関連性を検討した結果、後頭部から記録された脳波α波パワーの 25 秒以上のゆっくりとした 周期をもつ変動が、特異的に基幹脳活性を反映することを明らかにした。 2.ウェアラブルセンサシステムの開発: 日常生活環境において日常的な活動を妨げることなく、 FBA-index の 計 測 が 可 能 なセ ン サ シス テム を開 発 した 。 生 活 環 境 下 で 取 得 す る 脳 波 か ら FBA-index を導出するため必用な雑音除去技術および装着の容易なドライ電極に発生する雑音 除去技術を開発するとともに、それを組み込んだ 2.4GHz 帯無線伝送用チップをもちいた小型低 電力 RF-EEG 送受信モジュールとデータ欠損部分の補完技術を開発した。臨床試験用 ES 品とし て、これらの要素および電源を搭載したスタンドアロン型のウェアラブル脳波センサー'ヘッドバンド 型、カチューシャ型(を開発した。加えて、FBA-index の導出アルゴリズムを搭載したソフトウェアを 開発し、クラウドを利用した携帯端末による基幹脳活性呈示システムを試作した。簡易センサシス テムをシリアルバス接続することによりウェアラブルな多チャンネル脳波システムへと拡張するように デザインし、医療応用も視野に入れた開発をおこなった。 3.システム校正・臨床評価用シミュレータを用いたシステム校正とフィードバック: 基幹脳活性を 上昇または低下させる視聴覚情報の信号構造の複雑性をフラクタル構造や情報エントロピー密度 をもちいて定量的に記述するとともに、周波数帯域の違いによる基幹脳活性変動効果の違いを明 らかにした。それらを用いた視聴覚コンテンツを作成するとともに、日常生活空間で生理計測が可 能な基幹脳活性変動シミュレータを構築した。加えて、被験者を拘束することなく脳活性を計測す ることが可能な小型軽量のポジトロン断層撮像装置'PET-Hat(を開発した。その結果、視聴覚情 報コンテンツにより導かれる基幹脳活性の変動を、開発したセンサシステムと FBA-index が良好に 反映していることを明らかにした。 4.臨床試験の実施: 開発した FBA-index の臨床的意義を明らかにするために、ストレスの程度 を鋭敏に反映すると考えられる心理検査'STAI(の状態不安尺度との相関を検討した結果、両者 の間に強い負の相関があることが見いだされた。これにもとづき、FBA-index の要注意範囲を定義 することが可能になった。 以上の成果に基づき、協力企業との間で開発したシステムの社会実装に向けた調整を進めて いる。 '2(顕著な成果 1.基幹脳機能を計測するウェアラブル脳波センサーの試作- 3 - 概要:研究成果の特許'特願 2009-113547、2010-177666(に基づき、いつでもどこでも簡便に装 着可能な超小型ウェアラブル脳波センサーを試作し、日常生活空間の中での基幹脳活動の簡便 な提示が可能であることを実証した。試作機は国際フロンティア産業メッセ 2012 で展示し、民間企 業とクラウド型サービスを前提とした実用化試作の共同開発を進めている。 2.基幹脳活性変動効果をもった空気振動の信号構造の同定 概要:脳幹・視床などの基幹脳の活性を上昇または低下させる空気振動の信号構造の複雑性をフ ラクタル指標および情報エントロピー密度を用いて定量化するとともに、32kHz 以下の超高周波成 分は基幹脳活性を低下させ、それ以上の成分は上昇させることを発見。その成果は、特許出願し、 一件は日本と米国で特許査定された。 3.低拘束開放型ポジトロン断層撮像装置 PET-Hat の開発 概要:被験者を装置に固定するのではなく、被験者頭部に超小型検出器を装着する全く新しい頭 部用 PET 装置を発明し試作した。その成果は、論文発表・特許査定されるとともに、2009年6月北 米核医学会の会長講演 Highlights Lecture で紹介された。
§2.研究構想
'1(当初の研究構想 【研究のねらい・コンセプト】 人間情報センシングの一環として、人間の心身の健康に直結し、ストレス性病理の元栓となる基 幹脳の機能をモニタすることが可能になれば、情報環境不適合によって発生するストレスを低減し、 心身の病理を未然に防ぐことが可能になり、安全・安心・健康・快適な情報環境を創出する上で、 大きく貢献することが期待される。一方、安全・安心な情報環境を創出するには、いわばポータブ ル血圧計のように、日常の生活空間の情報環境において、日常的生活行動をとる人間の基幹脳 機能を、簡便かつ正確にセンシングする技術が不可欠である。しかし、医療目的に開発された従 来技術そのままでは、それを実現することは難しい。 この研究では、日常的な情報環境の中で日常的行動をとる被験者から基幹脳機能を簡便かつ 正確に捉えるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステムを開発する。具体的には、まず脳波 記録手法の再開発により、日常生活環境で簡便に脳波を記録・伝送・保存することを可能にする。 次に、この手法を用いて記録される 1 ないし 2 チャンネルの限定された脳波データを用いて、基幹 脳活性を再構成する実用的指標を開発する。さらに、日常生活空間をモデル化した環境下で、開 発するウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステムの高確度校正をおこなう。この研究計画の ゴールとして、上記のセンシングシステムをもちいて代表的ストレス性疾患を対象とした臨床試験を 実施し、社会還元のためのスキームを確立する。 【研究項目】 1.基幹脳活性指標再構成技術の開発 本研究の中核となる要素技術である。頭皮上の限定された電極から記録されたシグナルに必要 に応じて心拍変動や皮膚抵抗などのヴァイタル・シグナルを加味し、数理的手法により再構成して、 ポジトロン断層法または磁気共鳴機能画像をもちいて同時計測された基幹脳の活性と相関の高い 基幹脳活性指標'Fundamental Brain Activity index: FBA-index(を求める解析技術を構築する。2.ウェアラブルセンサシステムの開発 日常生活環境において日常的な活動を妨げることなく、脳波、心拍変動、皮膚抵抗などを同時 に計測することが可能なセンサシステムを開発する。 3.システム校正・臨床評価用シミュレータを用いたシステム校正とフィードバック システム校正と臨床評価のために必要なヴァイタル・シグナルや脳血流などの生理指標を計測 することが可能でありながら、日常生活環境をシミュレートできるモデル空間を構築し、開発したシ
- 4 - ステムの校正を行う。システムの校正のためには、実際に薬剤を用いずに視聴覚情報によって被 験者の基幹脳機能を変動させてデータをサンプリングし、情報入力に対する基幹脳の応答特性を 捉える必要がある。そこで提案者らがこれまでに蓄積してきた医学・生理学的知見と技術を活かし て、基幹脳機能を活性化するための情報環境制御システムを構築する。 4.臨床試験の実施 上記の研究開発の成果を用いて、健常者およびストレス性疾患患者を対象として、有用性・信 頼性の検討を行う。国立精神・神経センター内に構築した上記シミュレータを活用し、同センター が中心となって実施する。また、国立精神・神経センターで進行中の情報医療プロジェクトと連携し て、臨床的効果判定上の有用性を検討する。 【研究の進め方】 研究開発計画全体は、大まかには下記の通りのマイルストンに従って進める。 '2(新たに追加・修正など変更した研究構想 中間評価において、「今後の研究においては、ウェアラブルセンサー実用化に向けた効率的な 体制を構築しなおす必要があると思われる。」との助言をいただいた。そこで、最終成果に向けて、 実用化に向けたセンサー開発に研究資源を再配分し体制を強化するとともに、下記の追加開発を おこなった。 <多人数同時脳波計測システムの開発> 日常生活空間下ではメディア情報のみならず人と人との間のコミュニケーションによって発生す る情報により大きなストレスを誘発することが精神科領域の臨床試験により判明した。このため複数 の被験者から同時測定が可能な多人数同時脳波計測システムを開発した。 <高信頼多元移動体無線接続技術の開発> 臨床試験/信 頼性試験の実 施 ES品完成 システムの 校正終了 センサを含め たシステム中 核部の開発完 了 限定されたバ イタルシグナ ルから基幹脳 活性指標再構 成完了 基礎計測 システム 確立 マイルストン 基幹脳活性指標 再構成技術 臨床試験 システム校正 ウェアラブルセ ンサシステム 最終年度 5年度 4年度 3年度 2年度 初年度 年度 研究項目 臨床試験/信 頼性試験の実 施 ES品完成 システムの 校正終了 センサを含め たシステム中 核部の開発完 了 限定されたバ イタルシグナ ルから基幹脳 活性指標再構 成完了 基礎計測 システム 確立 マイルストン 基幹脳活性指標 再構成技術 臨床試験 システム校正 ウェアラブルセ ンサシステム 最終年度 5年度 4年度 3年度 2年度 初年度 年度 研究項目 校正・評価用シミュレータの構築 非拘束PETを用いたモデル空間でのシステム校正 臨床試験/信頼性 試験の実施 データ伝送手段/ 表示機能等実装 センサ最適配置法の検討 雑音除去技術の開発 最適化設計 小型・省電力化 fMRI/PET-脳波-バイタル シグナル同時計測 ES品試作 再検討 再検討 バイタルシグナルから基幹脳 活性指標再構成手法を開発 電極意匠の開発
- 5 - 試験領域を実社会に拡張するため、多人数に分散配置したセンサーを遠隔で制御する高信頼 多元移動体無線接続技術およびそれに基づくシステムの開発を試みた。開発したこれらのシステ ムは多数の人を対象とするバイタルセンサーネットワークの基盤となり、多様なサービスの提供が可 能なクラウド型の基幹脳活動指数提示システム'最終年度完成予定(に発展させた。 <簡易装着のための静電容量結合型ドライ電極の検討> 本研究成果の社会実装を加速するため、日常生活空間で簡易に脳波センサーを活用するため の必須課題である導電性ジェルを使わないドライ電極を組み込んだウェアラブル脳波センサーを 開発した。
§3 研究実施体制
本研究は、基幹脳機能統合センシングシステムの開発のために必要とされる前述の 4 つの研究 サブテーマに対して、縦割りで研究機関を割り当てるのではなく、それぞれの研究機関が複数の サブテーマを同時に担当し、すべての研究参加機関が有機的に連携して研究を遂行する体制を とった。 '1(国立精神・神経医療研究センター 本田グループ ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 本田 学 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 部長 H19.10~ 森本 雅子 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 第二研究室長 H19.10~H24.11 花川 隆 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 第一研究室長 H19.10~ 上野 修 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 特任研究員 H19.11~ 小俣 圭 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 浜松医科大学医学部 流動研究員 助教 H20.1~H23.3 H23.4~ 設楽 仁 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 研 究 生 ' 博 士 課 程 学生( H19.10~H22.3 細田 千尋 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 ATR 脳情報研究所 研 究 生 ' 博 士 課 程 学生(、流動研究員 専任研究員 H19.10~H23.12 H24.1~ 田中 智子 '独(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第七部 流動研究員 H23.4~ ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステムの開発と臨床評価 ・基幹脳活性指標構成法の開発 ・ウェアラブルセンサーの開発'情報通信研究機構グループと共同( ・システム校正・臨床評価用シミュレータの情報環境制御システムにおける音響呈示装置 製作'アクション・リサーチグループと共同( ・基幹脳機能シミュレータをもちいたシステム校正'全グループと共同( ・臨床試験/信頼性試験の実施'全グループと共同(- 6 - '2(情報通信研究機構 片桐グループ ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 片桐 祥雅 (独)情報通信研究機構・未来 ICT 研究センター 専攻研究員 H19.10~ 相田 和夫 静岡大学・システム工学科 教授 H20.1~ 長嶋 祐二 工学院大学・電子工学科 教授 H20.1~ 田中 秀吉 (独)情報通信研究機構・未来 ICT 研究センター 主任研究員 H19.10~H23.3 横山 士吉 九州大学・先導物質科学研究所 教授 H19.10~ 金子 俊一 北海道大学・情報科学研究科 教授 H21.4~ 竹内 晃一 (独)情報通信研究機構・未来 ICT 研究センター グループリーダ H21.2~H22.3 関 啓子 神戸大学・保健学研究科 教授 H23.4~ 川又 敏夫 神戸大学・保健学研究科 教授 H23.4~ 植野 彰規 東京電機大学大学院先端科学技術研究科 准教授 H24.4~ ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステムの設計と試作 ・センサー基本技術の開発'雑音除去技術・データ伝送システム等( ・基幹脳活性指標再構成技術の実装 ・システムの最適化設計 ・多人数同時計測システムの試作 ・最適意匠の設計・製作 ・臨床試験用 ES 品試作'支援( '3(国際科学振興財団 大橋グループ ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 大橋 力 財団法人国際科学振興財団 主席研究員 H19.10~ 河合 徳枝 財団法人国際科学振興財団 主任研究員 H19.10~ 八木 玲子 財団法人国際科学振興財団 東京成徳短期大学 専任研究員 准教授 H19.11~H24.3 H24.4~ 仁科 エミ 放送大学 教授 H23.4~ ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータにおける基幹脳活性化統合ソ フトウェア構築 ・基幹脳活性化ソフトウェア設計 ・基幹脳活性の変動効果をもった情報源の高忠実度収集 ・システム校正用音響映像統合ソフトウェアの制作 ・臨床評価用音響映像統合ソフトウェアの制作 ・脳波センサーの電極意匠の設計'情報通信研究機構グループと共同( ・臨床試験の実施'国立精神・神経医療研究センターグループと共同( ・臨床評価用映像ソフトウェアの制作と運用 ・臨床試験におけるデータ解析'国立精神・神経医療研究センターグループと共同( なお、研究開始時点では下記の放送大学 仁科グループがあったが、主たる共同研究者の他 研究費との重複制限により、平成 23 年度以降、大橋グループと統合した。
- 7 - ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 仁科 エミ 放送大学 教授 H19.10~H23.3 福島 亜理子 東京大学大学院工学系研究科 研究補助'博士課程学生( H20.4~H23.3 ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータの視覚情報環境構築と運用 ・視覚情報呈示システム設計 ・システム校正用映像ソフトウェアの制作と運用 '4(アクション・リサーチ 前川グループ ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 前川 督雄 (株)アクション・リサーチ研究開発部 部長 H19.10~ 谷島 公子 (株)アクション・リサーチ研究開発部 研究員 H19.10~ ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステム校正・評価用シミュレータ構築 ・校正・評価用シミュレータのシステムデザイン ・PET 装置非拘束化開発'神戸高専グループと共同( ・システム校正用シミュレータの構築'国立精神・神経医療研究センターグループと共同( ・シミュレータの運用と臨床評価のための調整 '5(神戸工業高等専門学校 山本グループ ① 研究参加者 氏名 所属 役職 参加時期 山本 誠一 神戸市立工業高等専門学校電気工学科 名古屋大学医学部保健学科 教授 教授 H19.10~H24.3 H24.4~ ② 研究項目 基幹脳機能統合センシングシステム校正用 PET の非拘束化設計と運用 ・PET 非拘束化実施設計'アクション・リサーチグループと共同( ・PET 非拘束化組立ての監督指導 ・非拘束化 PET の運用とメンテナンス
§4 研究実施内容及び成果
本研究では、研究内容を研究機関ごとに縦割りにするのではなく、基幹脳機能統合センシング システムの構築に向けて、複数の研究機関が有機的に連携して研究を実施する体制をとったため、 それぞれの研究機関が強みを活かして複数のサブテーマに関わっている。こうした研究実施体制 の特徴を反映するため、研究実施内容及び成果については、§2.研究構想に述べた4つのサブ テーマ毎にまとめて述べ、その中の研究項目ごとに、担当した研究機関を明記した。 4.1 基幹脳活性指標再構成技術の開発(国立精神・神経医療研究センター 本田グループ) (1)研究実施内容及び成果 頭皮上の限定された電極から記録されたシグナルに必要に応じて心拍変動や皮膚抵抗などの- 8 -
ヴァイタル・シグナルを加味し、数理的手法により再構成して、ポジトロン断層法または磁気共鳴機 能画像をもちいて同時計測された基幹脳の活性と相関の高い簡易基幹脳活性指標'Fundamental Brain Activity index: FBA-index(を求める解析技術を構築することを目標とした。
<fMRI−脳波同時計測計の構築> まず、基幹脳活性指標算出の基盤となるデータを収集するために、時間分解能の比較的良好 な磁気共鳴機能画像と多チャンネル頭皮上脳波とを同時に計測するシステムを構築し、データ収 集を開始した。磁気共鳴画像装置は急速に変動する傾斜磁場を発生させることにより画像を得る ため、画像装置内に設置した脳波電極には電磁誘導によって大きなノイズが混入する。一方、この 撮像法は核磁気共鳴現象を利用するため、磁場変化が時間的に厳密に制御されており、磁場が 大きく変動する区間とそうでない区間とが明瞭に分けられる。そこで、磁気共鳴画像装置を制御す るクロックを用いて脳波データをサンプリングする A/D コンバータを外部制御し、磁場が大きく変化 しない区間で脳波データをサンプリングすることにより、電磁誘導によって発生するノイズを著しく 軽減することが可能になる'Stepping Stone Sampling 法(。またノイズが混入した場合にも、画像装 置と脳波データサンプリング装置を同一のクロックで制御することによりノイズ波形が一定となるた め、記録されたデータからノイズ波形を加算平均したテンプレートを差し引く'Template Subtraction 法(ことにより、ノイズ除去の精度が上昇する。そこで Stepping Stone Sampling 法の原理を開発した 国立精神・神経医療研究センター武蔵病院の穴見公隆博士との共同研究により、本プロジェクトで 使用する高磁場磁気共鳴画像装置において上記のノイズ除去法を実現するためのシステムを構 築した。その結果、高磁場磁気共鳴画像装置が誘導する非常に大きな電磁誘導ノイズもきれいに 除去され、実用水準の SN 比で自発脳波を記録することが可能になった'図1(。 <基幹脳活性を反映する脳波指標の抽出> ウェアラブルセンサーから時々刻々と計測される脳波をもちいて、基幹脳活性の代用指標をリア ルタイムで導くために、頭皮上の後頭部から記録される自発脳波α帯域成分と fMRI によって記録 される基幹脳活性との間の時間的関係に着目して解析をおこなった。 fMRI との同時計測により後頭部'国際 10-20 法における O1 および O2 の位置(から導出された 自発脳波について、3 秒ごとにα帯域'8-13Hz(成分のパワーを算出し、その 20 分間のα成分 時系列の中にどのような変動成分が含まれているかを周波数解析した。 その結果、α帯域成分の時間的な変動は、概ね 0.04Hz 以下のゆっくりした変動成分と、0.04Hz 以上の速い成分に分けられることが示唆された。そこで、脳波α波パワーの変動を、その周期に応 じて、0.04Hz 以下の遅い変動と 0.04Hz 以上の速い変動に分離し、それぞれの変動成分と正の相 関を示す脳活動を fMRI から抽出した。 図 1 磁気共鳴画像撮像中に頭皮上後頭部から同時記録された脳波 O1 O2 Oz t t O1 O2 Oz 処理前 処理後 O1 O2 Oz t t O1 O2 Oz 処理前 処理後
- 9 - その結果、fMRI によって計測された視床、脳幹など基幹脳の活性は、後頭部から記録されたα 波の時系列のうち、0.04Hz 以下の変動成分、すなわち 25 秒よりも長い周期でゆっくりと変動する成 分に対してのみ、選択的に正の相関を示すことが示された'図 2(。 さ ら に 、速 い 変 動 成 分 と 遅 い 変 動 成 分 と の 境 界 を 明 ら かに す る た め に 、 Empirical Mode Decomposition 法をもちいてデータに基づいてα成分時系列を周波数帯域ごとに分割し、各成分 と fMRI 信号との相関を検 討した。その結果、EMD 法 によって抽出された第 1 お よび第 2 の速い変動成分 は視床の外側部と相関を 示すのに対して、第 3 成分 以降の遅い変動成分は視 床内側部および脳幹の信 号と相関を示した。また第 2 成分と第 3 成分との境界は 0.04Hz に相当していた。 情報入力に対して瞬時 に反応する感覚運動系と は異なり、脳幹部に高密度 で含まれるモノアミン系神 経などの情動神経系は、 情報の入力に対して反応の立ち上がりも消失も数秒から数十秒くらいの遅れをもつことが知られて いる。今回の検討によって得られた結果は、脳波α波から基幹脳活性指標を再構成するにあたっ ては、モノアミン神経系の活動を反映する周期 25 秒以上のゆっくりとした変動成分に注目して指標 化する必要があることを示している。そこでこの指標を簡易基幹脳活性指標'Fundamental Brain Activity Index: FBA-index(と定義した。
<心拍・呼吸などのヴァイタル・シグナルと脳活動との相関の検討> 呼吸や心拍など簡便に記録 可能なヴァイタルデータは、自律 神経系の活動を反映すると言わ れてきている。そこで、これらの 指標を統合することによって基 幹脳活性のより正確な推定が可 能になる可能性がある。この点 について検討するために、呼吸 及び心電図の位相および振幅 データが脳のどの部位の活性と 相関するかを上述した同時計測 システムを用いて検討した。その 結果、呼吸および心拍の位相成 分は、脳の中の髄液の信号と、 また振幅成分は、ほぼ脳実質全体の信号と非特異的に相関することが示された'図 3(。このことは、 通常の相関解析における説明変数として単に心拍や呼吸のデータを組み込むことは、脳全体の 活性を反映する点では有効であるものの、脳のどこか特異的な部位、特に基幹脳の活性をピンポ イントで特定するには適していないことを示している。したがって、呼吸や心拍変動などのヴァイタ ル・シグナルについては、基幹脳活性の推定には直接的に寄与せず、今回の手法を用いた場合 には、むしろその影響をできるだけ排除した方が、推定精度が上昇することが示された。 図 2 脳波α帯域成分の変動と基幹脳活性との相関 図 3 呼吸・心拍のヴァイタル・シグナルと相関する脳活動
- 10 - (2)成果の位置づけと今後期待される展開
古典的な神経診断学の分野では、古くから後頭部から記録される自発脳波にα帯域の周波数 成分が現れ、時間とともに増減することが知られており、Waxing and Waining と呼ばれてきた。その 一方で、脳波α波は快適性の指標として、たとえばニューロマーケッティング分野などで広く応用 されている。しかし、α波と脳活動との詳細な関係については、不明のままブラックボックス的な指 標として使われていることが多い。α波が脳深部の神経組織の活動と正の相関を示すことは、1995 年に私たちの研究グループが世界ではじめての脳イメージングと脳波の同時記録をもちいて発 見・報告して以来、世界中の研究室で追試が行われてきた。しかし、脳波学の教科書に掲載される ようなα波の Waxing and Waining 現象の基盤となる神経メカニズムと、快適性の指標としてのα波 との間には大きな距離があった。今回の私たちの発見は、Waxing and Waining のように周期の短い α波の変動は、視床の外側核と大脳皮質とのループ回路の活性に依存しているのに対して、α波 が出やすい状態、出にくい状態といった周期の長い変動は、快適性と関連の深い基幹脳を中心と する脳の報酬系の活動と特異的に関連することを示した。これは、快適性の指標としてのα波の有 用性をはじめて神経基盤として明らかにしたものであり、脳機能センシングを社会実装していくうえ での学術的基盤として、重要な知見と考えられる。 また、今回のアプローチは、脳波のもつ時間的分解能のよさや脳全体の包括的な活動状態を反 映するという特徴を活かしながら、空間解像度に务るという短所を、正反対の特徴をもった MRI と組 み合わせることによってカバーし、簡便に計測可能な脳波の成分が、脳のどこの活動を反映する かを明らかにするというアプローチであった。脳機能計測手法の多くは、医療分野で発達してきた ため、大規模な計測装置を必要とするなど一般社会で応用することが困難なことが多い。今回、私 たちが用いた同時計測によってあらかじめ脳波成分の基盤となる神経活動を明らかにしたうえで、 簡便な代用指標として脳波をもちいるというストラテジーは、健康産業を含む人間センシングに広く 発展応用可能であると考えられる。 4.2 ウェアラブルセンサシステムの開発(情報通信研究機構 片桐グループ) (1)研究実施内容及び成果 ウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステムを開発するにあたり、医学・生理学的領域で明 らかとなった知見に基づいて、実際にセンサーから得られる脳波やヴァイタル・シグナルから基幹 脳活性指標を算出するとともに、それらの情報を日常生活で利用可能なように工学的に処理する システムを構築する必要がある。本研究では、ウェアラブルセンサーから得られる信号の伝送・保 存・計算処理・結果表示といった情報処理システムの設計・開発およびウェアラブル化を担当する とともに、システムの試作を行った。設計と試作にあたっては、片桐グループが中心となり、本田グ ループならびに協力企業との密接な打合せを行いつつ、前項で述べた FBA-index の開発ならび に次項で述べるシステム校正と有効性の確認からのフィードバックをうけつつ遂行した。 <雑音除去技術の開発> 医 学 ・ 生 理 学 的 領 域 で 明 ら か と な った 知 見 に 基 づ き 、生 活 環 境 下 で 取 得 す る 脳 波 か ら FBA-index を導出するため必用な雑音除去技術の開発を実施した。 i) 周波数弁別による電極雑音の除去 一般に頭皮上に発生する微弱な電位を高入力インピーダンス'~109Ω(の計装アンプ'同相雑 音抑圧比~100dB(で検出する脳波センサーでは、頭皮とセンサーの電気的接触が不十分である 場合、体動による接触抵抗変動による雑音や電源雑音が脳波信号に重畳する。しかし、頭部上で 信号検出を行いデジタル化して無線で記録装置にデータ伝送を行うワイヤレス脳波センサーでは、 臨床で供される脳波計と比較してこのような電極雑音が大幅に小さくなることが明らかとなった'図 5(。これは電源からの完全な隔絶及び体動に影響を受けにくいコンパクトな頭部上配線によるもの と考えている。なお、脳波信号には眼電、筋電および心電といった脳波以外の電気生理現象が一 般に重畳する。しかし、FBA index が対象とする脳波帯域はα律動を含む 8~13Hz 帯域であるた め、心臓の胸郭前面と後面に配置した複数の電極信号の相関により心電信号をキャンセルする
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Balanced noncephalic electrodes(BNE)法の適用を必用とすることなく、周波数空間で弁別する単 純な雑音除去で対処できる。なお、BNE は脳波と心電とが共通のボディアースを必用とすることか ら、雑音除去という点においてはワイヤレスでの脳波単独センシングよりも不利である。 ii) ドライ電極に発生する雑音の除去 簡便に脳波モニタが可能なワイヤレス脳波計測システムは日常生活空間のみならず院内外医 療における生体管理にも有望である。臨床の場で実用化するためには、測定精度を务化させず装 着簡易性を大幅に向上することが必要である。このため臨床用脳波計測システムの超小型・ワイヤ レス化とともに、ジェルを使わずに脳波計測が可能なドライ電極の検討を行った。当初、ドライ電極 では電気的コンタクトが通常の脳波計測で使用するウェット型電極'導電性ジェル使用(から务化 することで発生する雑音が懸念されたが、周波数弁別による雑音除去法により meta data から脳波 が抽出可能であることを実験的に明らかにした。図 6 は頭髪の影響を受けにくいマルチピンタイプ の電極を用いてヘアバンド型脳波計を構成しての検討した結果であり、デジタル信号処理のみで 脳波抽出が可能であることを示している。 <データ伝送システムの設計・試作> 日常生活でシステムを活用するための小型・低消費電力のデータ伝送システムの設計・試作を 実施した。 i) 2.4GHz 帯無線伝送用チップによるウェアラブル脳波センサー基板の設計・試作 ・プロトタイプ試作 モバイル通信機器の浸透にも伴いギガヘルツ帯高速無線デジタル伝送技術が成熟して様々な 通信チップが利用可能となっている。そこで、これらのチップを用いワイヤレス脳波センシングシス テムの設計・試作を行った。試作した脳波センサー基板はボタン電池搭載でも 30g 程度と小型であ り、またボタン電池1個で数日の連続動作が可能を可能となるなどの低消費電力の実現も果たした。 このような小型・低消費電力の特徴からヘアバンド型脳波計を実現することができた(図 7)。 図 5 ワイヤレス脳波センサーの構成と検出信号例(後頭部双極誘導、電極 Ag/AgCl 導電性ジェル使用) 100 102 104 106 0 500 1000 eeg2( μ V) Time(s) Time(s) Potential 0 10 20 30 40 50 60 70 0 100000 200000 300000 400000 強度 周波数 受信モジュール 送信モジュール 基準電極 探査電極1探査電極2 探査電極3 探査電極4 送信ユニット (A) (B) 図 6 マルチピン型ドライ電極による脳波検出例 120 121 122 123 124 125 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 eeg4( μ V) Time(s) 120 121 122 123 124 125 -1000 -500 0 500 1000 high cut Time(s) 2 - 50 Hz バンドパス fft filter of "filtered CH4"
Meta data
Bandpass: 2-59Hz
Fig. 2 EEG extraction from noisy signals of multi-pin-type dry electrodes by using an appropriate band-pass filters.
7 mm
- 12 - ・改良試作による高速逐次データ伝送技術の検討 民生技術により実現されている 2.4GHz 帯トラン シーバは大容量のデータを一方向にリアルタイム で伝送する用途を目的に開発されたものではない ため、高速逐次データ伝送ではいくつかの問題が 発生することが判明している。具体的には、通信品 質を保障するためのパリティチェク機能や Cyclic Redundancy Check(CRC)によるエラー検出機能で あり、受信感度変動やマルチパスによるフェイジン グ等が原因で発生するビットエラーにより伝送パケ ット破棄が生じるため、データ欠損量が著しく増大 し信号解析に影響を及ぼす。従来このような通信 エラーに対しては自動再送制御(Automatic Repeat Request, ARQ) や 誤 り 訂 正 (Forward Error Correction, FEC)が適用されているが、リアルタイ ム性を阻害するために適用範囲に限界があった。そこで、新たにビットエラーを前後のデータで補 完する仕組みを伝送システムに実装することを試みた'図 8(。その結果、この補完法は突発的な 通信エラーに対して十分に機能し、脳波解析上も問題がないことを確認した。なお、長時間のパケ ット欠損についてはバッテリー低下などシステム保守を示唆するものであるとして別途警告する仕 組みの組込を試みている。図 9 はパケット欠損部補完機能を有する伝送システムを試作した例で ある。 ii) 多人数同時測定システム オフィスなど多人数が同一空間を占有する生活環境では、ストレス感受性の個人差の評価や人 と人との相互作用により発生するストレス等、多様なストレスの影響を多人数で同時に測定・評価す ることにより、ストレス性疾患の本質的な原因を探る必用がある。このため、多人数同時測定システ 図 7 ギガヘルツ帯トランシーバ(2.4GHz)を用いたワイヤレス脳波センサー 基板とそれを組み込んだヘアバンド型脳波センサー(プロトタイプ) 受信モジュール 送信モジュール 基準電極 探査電極1探査電極2 探査電極3 探査電極4 送信ユニット (A) (B) 図 9 試作した 8 チャンネル対応のセンサー基板および送受信基板の外観 センサー基板 送信基板 受信基板 データ欠損部分 CRCエラー検出 パケット破棄 クロック再生 エラー前後のデータから欠損データを補間 欠損データの埋め込み 図 8 パケット破棄の補償
- 13 - ムの開発を行った。図 10 はプロトタイプ(4 チャンネル基板搭載)の脳波センサーの送信周波数を多 重化して 4 人同時に計測することが可能なシステムの構成である。 <FBA-index 再構成法の実装> 機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)や陽電子放射断層撮像法(PET)による基幹脳のヘモダイナミク ス計測と脳波の同時測定から得られる相関成分から、基幹脳の活動を表す脳波の特定の成分を 抽出することが可能となった。この知見に基づき、ウェアラブル脳波センシングシステムに基幹脳の 活動度をリアルタイムで示す FBA-index 算出アルゴリズムの組込を試みた。図 11 に 4ch 脳波計測 データから FBA-index を算出するアルゴリズムと臨床応用のために試作したリアルタイムモニタ画 面の構成例を示す。FBA-index は基幹脳におけるモノアミン神経活動の長周期のリズムを反映す るもので、脳波の α 成分に重畳する。このため、ここでは双極誘導で取得した 4 チャンネルの脳波 から各々独立に α 成分のスペクトルパワーを抽出し、さらに低域通過フィルタ'LPF(により基幹脳 の神経活動成分を抽出し、適当なチャンネル間を加算平均することにより FBA-index を導出した。 なお、このアルゴリズムの各過程において、計測が適切に進行しているか確認するためのモニタ機 能を付与しており、4ch 脳波の同時時間波計表示、FFT による 1 秒毎のスペクトル表示'1 チャンネ ルを選択(、α パワー(α 帯域でスペクトル波形を二乗加算したもの)モニタ'FFT と同じチャンネル( 図 10 多人数同時計測システム 開発した超小型ワイヤ レス4ch脳波センシン グデバイス 32mm 試作した超高感度アンテ ナ内蔵USB接続受信機 多人数(4人)同時脳波測定システム 特願2009-113547 特願:2010-177666 基準電極 探査電極1探査電極2探査電極3 探査電極4 送信ユニット 基準電極 探査電極1探査電極2探査電極3 探査電極4 送信ユニット 基準電極 探査電極1探査電極2探査電極3 探査電極4 送信ユニット 基準電極 探査電極1探査電極2探査電極3 探査電極4 送信ユニット 標準脳波測 定システム ウエアラブル脳波センシング技術 基幹脳活性指標構成法のプログラ ミング/雑音除去技術 ・スペクトル上雑音除去法の実装 ・FBA-index計算・表示機能の実装 ・時間-周波数複合多重化伝送技術 早期臨床試験 検討のため ヘアバンド型 脳波計として切り出し (報道発表対象) 標準12誘導心 電測定システム 多チャンネル生体計測 システムとして成果を活用 前 左 右 Fp1 Fp2 F7 F3 Fz F4 F8 T3 C3 Cz C4 T4 T5 P3 PzP4 T6 O1 O2 A1 A2 GND 時間管理ユニット 送信モジュール 1 2 3 Modules 4 5 6 7 8 9 Com 図 11 FBA-index をリアルタイムモニタするためのアルゴリズムと表示画面
- 14 - が FBA-index とともにリアルタイムでモニタが可能となっている。加算平均処理では、基幹脳にお ける神経活動がどのチャンネルに最も強く反映するのか臨床的な知見から最適化できるように加 算処理をするチャンネルを選択できるようにした。 <FBA index 提示システムの構築> リアルタイムに表示された FBA index からユーザが基幹脳の活動度を知り、さらに活動度を高め るように自らの行動を調整するニューロフィードバック法は、有効なストレスマネージメント法の一つ と考えられる。この方法を広く普及させるためには、脳波解析や FBA index 算出のための計算機リ ソースをデータセンターが集約的に担務するクラウド型の FBA index 提示システムが郵送である。こ のようなクラウド型システムの採用 はユーザの経済的・技術的負担を 大幅に軽減しさらにシステム更新 の容易性を担保する。 そこで、実用ネットワーク上の仮 想サーバを使ってプロトタイプのシ ステムを構築し、商用サービスを受 けている携帯端末'スマートフォン( によりリアルタイムでクライアントが 自分自身の FBA index をモニタで きることを実証した'図 12(。この実 証実験によりグリッド化によるデー タセンターへの集中アクセスの回 避など実用ネットワーク運用上の課 題はあるものの、ウェアラブル脳波 計を用いた FBA- index の自己モニ タリングサービスが実用可能である との見通しを得た。 <臨床試験用 ES 品試作> i) 改良型ドライ電極を搭載する脳波センサー ウェアラブル脳波センシングシステムを構築する上で簡便な装着を可能とするドライ電極は必須 であるが、マルチピン型電極は転倒に伴う頭部打撲により頭蓋骨貫通の危険性があることからより 安全なドライ電極の実現が望まれている。そこで、脳外科・心臓外科領域で使用されている電気生 理計測用プローブの先端凹凸構造を採用する脳波電極の設計・試作を試みた。この電極の凹凸 の高さは血管のある真皮に到達しないように厳密に高さ制御されており、安全性の確保を確保して いる。また、ナノインプリント技術による大量生産可能による経済化により、ディスポーザブルな電極 チップ供給も可能である。 ii) 臨床用ウェアラブル脳波センサーの試作 ・カチューシャ型 高速逐次データ伝送可能な改良型脳波センサー基板と硬質プラスチックに導電性炭素繊維を 分散させて形成した小型ドライ電極を用い、臨床試験への適用を目的としたカチューシャ型の脳 波センサーの設計・製作を試みた。センサー基板と送信基板'35×40mm(とカメラ用小型バッテリ '充電可能(から成る簡易な構成でありながら 16bit、256Hz サンプリング/チャンネルで 8 チャンネ ルの脳波測定が可能となっている。総重量は約 80g'腕時計 2 個分(である。電極-回路基板間配 線は透明基板に張り付けたリード線によるものであり、機械的変動の影響が極めて小さい実装形 態の実現を可能としている。カチューシャ直下での電極実装という制限の下では計測対象となる電 極も制限される'Cz, C3, C4, T3, T4, A1, A2 など(ものの FBA-index の導出は可能であることが、 国立精神・神経医療研究センターでの検討により明らかになっている。 インタ―ネット 脳波解析 ツール ウェアラブル 脳波センサー サーバー (データセンター) URL:・・・・ 脳波メタデータ FBA index FBA index表示
在宅医療への適用 診療外来 履歴 WiFi 病院 計測⇒index生成⇒Web⇒クライアントのイメージ EEG indexList 計測日時 http://test1 201009121000~ http://test2 201009181330~ http://test3 201009201200~ 201009181330~ 10分 30分 60分 180分 ・任意のクライアント一 台から見える ・遅延1-2分程度の 擬似リアルタイム表示 ・URLはレンタルサーバ のモノでOK DBイメージ 10分 14:30 Now 14:20 14:24 14:27 スマホ側イメージ いずれかのデータ を選択⇒画像生 成開始 デフォは10分、 他が選択され たらWebサーバ 側で画像を生 成開始? ・指定時間数分 のグラフを表示 ・最右はNow ・毎分リロード 時間経過 図 12 データセンターを活用するクラウド型の基幹脳活動指数提示 システムおよび院内外でのデータの活用モデルとその実証
- 15 - ・その他の意匠 意匠による適用範囲の限定を回避するため、ヘアバンド型を発展させた小型のメガネ型脳波計 の検討を進め、そのプロトタイプを実現した。電極には簡易型のドライ電極が組み込まれている。 頭皮上での電極の固定圧がメガネ装着感に干渉するものの、通常の執務室空間内で問題なく脳 波の常時モニターが可能であることが実験的にも示された。 (2)成果の位置づけと今後期待される展開 当サブテーマで開発したウェアラブル脳波センシングシステムは、後頭部に出現する脳波から 脳深部に位置する基幹脳の活性を簡易にセンシングできる世界で唯一のシステムとなっている。 近年、脳科学分野でブレイン・マシン・インタフェースやブレイン・コンピュータ・インタフェース技術 が進展するのに伴い、様々な簡易脳波センサーを組み込んだ玩具が今日リリースされている。そ れらの多くは前頭部あるいは中心部に出現する律動をターゲットとしており、主に大脳皮質局所の 活動を反映している。また、それらのシステム使用されている電極は毛髪のない前額部への装着を 前提として開発されたドライ電極であり、後頭部を含む毛髪を問題とする領域への適用は困難であ る。 今後、ウェアラブル脳波センサーと臨床脳波計との互換性を確保することにより、健康増進から 遠隔医療まで様々な用途に脳波センシングを日常生活の中で活用することができるよう展開して いくことが期待される。特に、発症時の脳波を捉えることが診断のキーポイントとなるてんかんの診 断においては、日常生活で気軽に計測できるモバイル型多チャンネルのウェアラブル標準脳波セ ンサーのニーズも高まりつつある。本研究で開発したウェアラブル脳波センサーは、シリアルバス 接続によりデータリレーを行うアドホック型のシステムアーキテクチャを採用しているため、容易に多 チャンネル標準脳波センサーへ拡張可能である'図 13(。 また、多チャンネル化に伴う脳波キャップ装着性の务化については、ドライ電極の採用により大 幅に軽減できることを確認した。図 14 にプロトタイプのウェアラブル脳波センサー'4 チャンネル(を 2 台組み込んだ 8 チャンネルの脳波キャップ'マルチポール型ドライ電極を使用(によるフィージビリ ティ確認実験の結果を示す。8 チャンネル EEG のセットアップ時間は約 10 秒程度'キャップをかぶ せて電極の位置を微修正する時間(であり、従来の EEG のセットアップ時間を大幅に短縮できるこ とを確認した。 加えて、様々なアプリケーションを収容するためのスマートフォンやタブレット型コンピュータなど が急速に普及する中、クラウド型ヘルスケアシステムビジネスの展開が見込まれている。このような ビジネスは、本研究が当初想定していた個人のストレスマネージメントにとどまらず、遠隔医療、遠 図 13 多チャンネル脳波センシングシステムにおける脳波解析の画面。脳波の 時間波形および1秒毎のデータブロックを用いたスペクトルおよび FBA- index がすべてのチャンネルに組み込まれリアルタイムで表示されている。
- 16 - 図 15 技術移転による商用化展開 隔リハビリテーション、及び遠隔心理カウ ンセリングをも対象とするものである。本研 究で開発したウェアラブル脳波センシング システムは、このようなビジネスの展開を 加速するものとして期待される。 図15 は現在具体的に本研究において 具体的に進めている技術移転のスキーム である。基幹脳活動指数を使ったビジネ スを統括するセットメーカを中心に、脳波 センサーを製造し OEM 供給するためのメ ーカ体制を記載している。基幹脳活動指 数を活用するアプリケーション開発に係る ライセンスはセットメーカのみならず脳波 センサーを製造するメーカにも提供し、ビ ジネスが広範囲に拡張できるようにしてい る。 4.3 システム校正・臨床評価用シミュレータを用いたシステム校正とフィードバック(国際科学振 興財団 大橋グループ、アクション・リサーチ 前川グループ、神戸工専 山本グループ、国立精 神・神経医療研究センター 本田グループ) (1)研究実施内容及び成果 ウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステムの開発にあたっては、薬物でなく視聴覚情報 によって発生する基幹脳活性の変動が、実際に開発したセンシングシステムによって評価可能で あるかどうかを検証し、フィードバックをする必要がある。そこで、基幹脳変動効果をもった視聴覚 情報の信号構造を明らかにし、それに基づいて視聴覚コンテンツを設計・制作した。また、被験者 の拘束度を著しく低減した開放型のポジトロン断層撮像装置を開発した。加えて、システム校正と 臨床評価のために必要なヴァイタル・シグナルや脳血流などの生理指標を計測することが可能で ありながら、日常生活環境をシミュレートできるモデル空間を構築し、実際に開発したシステムおよ び指標の有効性を検討した。 <基幹脳活性変動効果をもつ音響映像コンテンツの設計と制作>(国際科学振興財団 大橋グ ループ) 図 14 ドライ電極によるマルチチャンネル脳波センサー キャップの簡易装着 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch 1 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch2 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch3 Tim e(s) 2 - 40 H z バンドパス fft filter of "eeg3(μV )" 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch5 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 c h4 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 c h6 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch 7 Tim e(s) 180 181 182 183 184 185 -1000 -500 0 500 1000 ch 8 Tim e(s) Ch1 Ch2 Ch3 Ch4 Ch5 Ch6 Ch7 Ch8
- 17 - 自然音源に由来する高複雑性の非定常なゆらぎをもった音響成分を有するとともに、基幹脳活 性の増大あるいは低下をある程度任意に導くことが可能な周波数構造を有し、かつ、内容の反復 なしに基幹脳機能をモニタするのに十分な時間長をもった基幹脳活性変動効果をもった音響コン テンツの設計と制作を行った。 基幹脳活性変動コンテンツを設計するにあたり、まず、基幹脳活性の変動を導くために空気振 動情報がどのような特性を備えているべきか検討した。人間の可聴域上限をこえる超高周波成分 を豊富に含む空気振動情報が、基幹脳を強力に活性化するのに対して、ホワイトノイズなど人工的 な信号を超高周波成分として可聴周波数範囲の振動成分である可聴域成分とともに聴取者に呈 示した場合には、超高周波成分が十分に含まれていても、基幹脳活性を低下させることが知られ ている。したがって、基幹脳活性変動効果をもつ超高周波空気振動成分は、固有の複雑性を有し ていると考えられえる。そこで、基幹脳活性を変動させる空気振動の複雑性を定量的に記述するこ とを試みた。 まず、超高周波成分の周波数構造の複雑性を定量化するために、振動信号の 20kHz をこえる 成分の三次元パワースペクトルアレイのフラクタル性を検討した。三次元パワースペクトルアレイを 曲面と見なし、フラクタル次元局所指数を用いて評価した。ここで、フラクタル次元局所指数が一定 であることは、よりフラクタル性が高いことを示す。 その結果、基幹脳活性化効果をもつ振動の 20kHz をこえる成分の三次元パワースペクトルアレ イのフラクタル次元局所指数は、それを計測する基準尺度となる「時間周波数構造指標」ST-index が 2-1~2-5の範囲で変化しても、常に、面状の図形がもつ位相次元の次元数 2 より大きな 2.2 以 上 2.8 以下の値をとり、かつ、その変動幅は 0.4 以内に収まっていることが示された'図 16(。一方、 ホワイトノイズ、ピンクノイズ、サイン波など基幹脳活性を低下させる振動は、これらの条件を満たさ ないことが明らかとなった'図 17(。 次に、空気振動の時間構造に注目し、信号の不規則性の指標である「情報エントロピー密度」を もちいて、基幹脳活性変動効果との関連を検討した。 その結果、基幹脳活性上昇効果をもつ信号は、情報エントロピー密度が、常に-5 以上 0 未満の 範囲内の値をとり'図 18(、時間的変化が大きく、その分散である EV-index'エントロピー変動指標( が 0.001 以上の値をとることが明らかとなった。これに対して、基幹脳活性低下効果をもつ振動のう ち、ホワイトノイズは常に情報エントロピー密度が 0、サイン波は常に-5 以下の値をとるとともに'図 19(、しかも時間変化が見られず平坦であり EV-index が 0.001 未満の値をとることを明らかにした。 本成果は、特許出願済であり、既に日本と米国において特許査定されている。 図 17 基幹脳活性低下効果をもつ超高周波空気振動の 三次元スペクトルアレイのフラクタル次元局所指数 図 16 基幹脳活性上昇効果をもつ超高周波空気振動の 三次元スペクトルアレイのフラクタル次元局所指数
- 18 - 図 18 基幹脳活性上昇効果をもつ超高周波空気振動の 情報エントロピー密度とその時間変化 図 19 基幹脳活性低下効果をもつ超高周波空気振動の 情報エントロピー密度とその時間変化 つぎに、空気振動の基幹脳活性の増大あるいは低下効果について、周波数帯域構造の観点か ら検討を試みた。可聴域上限を超える超高周波帯域を細かい周波数帯域に分割して被験者に呈 示し、先行研究で基幹脳活性と正の相関が明らかとなっている後頭部7電極から記録されたα波 ポテンシャルの平均値を FBA-index として用いた。すなわち、16kHz 以上の超高周波成分をほぼ 8kHz 帯域ごとに分割して、可聴音とともに呈示した。図 20 は、そのときの標準化した FBA-index の 値 と 、 可 聴 音 を 単 独 で 呈 示 し た と き の 標 準 化 FBA-index の 値 の 差 分 を示 し て い る ' Δ FBA-index(。その結果、32kHz よりも低い帯域では基幹脳活性の低下が、32kHz よりも高い帯域 では基幹脳活性の上昇が認められた。統計検定の結果、24-32kHz の超高周波を付加した条件で は、[可聴音のみ]よりも FBA-index が統計的有意に減尐した'p<0.05(。一方、80-88kHz の帯域と 88-96kHz の帯域をそれぞれ付加した実験では、FBA-index が統計的有意に上昇した'それぞれ p <0.01、p<0.05(。これらの結果から、基幹脳活性の増大と低下は、呈示する超高周波振動の周 波数帯域に依存し、可聴音に隣接した比較的低い周波数帯域の超高周波成分は基幹脳活性を 低下させる可能性があることが示唆され、基幹脳活性変動効果をもつコンテンツを設計する上で非 常に有用な知見が得られた。本成果は、特許出願済'日本(であり、原著論文投稿中である。 図 20 [可聴音] に対する [可聴音+超高周波成分]の FBA-index の変化量 * p<0.05 ** p <0.01 -0.08 -0.06 -0.04 -0.02 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 ** * * 16-24k 24-32k 32-40k 40-48k48-56k 56-64k 64-72k72-80k 80-88k 88-96k 96-112k 112k-Δ F B A -in dex ( [可聴音+超高周波成分 ] - [可聴音 ] ) n o rma liz e d po te n ti al (n=7) (n=9) (n=7) (n=9) (n=9) (n=7) (n=8) (n=10) (n=10) (n=9) (n=10) (n=9)
- 19 - これらの知見をもとに、基幹脳活性の変動効果をもっ た音響情報源の高忠実度収集を行った。基幹脳活性を 強力に活性化する効果をもった複雑に変容する超高周 波成分は、熱帯雤林環境や一部の文化圏の楽器音な どに豊富に含まれる。そこで、基幹脳活性上昇効果をも った超高周波成分を豊富に含む音源を収録するため に、マレーシア・ボルネオ島ダナンバレー国立公園なら びにカメルーン・ジャー国立公園にて熱帯雤林環境音 収録を実施した。特に人類の遺伝子が進化的に形成さ れたと考えられているアフリカ熱帯雤林の自然環境音 は、可聴域上限をこえる超高周波成分が非常に豊富に 含まれており、150kHz を超え 200kHz に達することが明 らかになった'図 21(。 一方、基幹脳活性低下効果をもつ音環境として駅環 境音、電車内騒音を収録した。 上記で収集した音源ならびに、上記検討に基づく固 有の複雑性と周波数帯域を有する人工合成音を用い て、基幹脳活性変動効果をもった音響コンテンツを制 作し、放送大学で制作した映像コンテンツと統合した。 <視覚情報呈示システムの設計と映像コンテンツの制作>(放送大学 仁科グループ、平成 23 年度から大橋グループと統合) 本研究では、国立精神・神経医療研究センター内に構築するシステム校正・臨床評価用シミュ レータにおいて映像情報を呈示するにあたり、現在一般的に利用可能なフォーマットを具えた映 像機器を用いて、シミュレータの限られた大きさのスペースの中で基幹脳活性を変動させることが 可能な呈示条件を明らかにする必要がある。そこで、すでに一般的に普及しているハイビジョンフ ォーマットの映像機器を用いてシミュレータ内で呈示可能な条件の下で、空間密度を変えることに より基幹脳活性がどのように変動するかを検討した。 先行研究において制作した映像素材をもちいて、それを異なる空間密度で呈示したものを視聴 中の被験者の脳波を計測した。基幹脳活性の指標として、先行研究で基幹脳活性と正の相関が 明らかとなっている後頭部7電極から記録されたα波ポテンシャルの平均値を指標として用いた。 各映像呈示時の後頭部脳波α波ポテンシャルは、映像を呈示せずに自然に目に入る視覚情報を 受容しているときが1になるよう標準化した。なお本検討では、基幹脳活性変動効果をもった呈示 条件を決定することが目的であるため、当プロジェクトにおいて開発中のシステムではなく、先行研 究において既に基幹脳の代用指標としての有用性があきらかになっている研究用の多チャンネ ル・テレメトリ脳波計測システムをもちいた。 その結果、高精細度映像試聴時'視覚 1 分あたり 0.8pixel(には低精細度映像視 聴時'視覚 1 分あたり 0.4pixel(あるいは 自然視覚像を受容しているときと比較し て、基幹脳活性の指標となる後頭部脳波 α波ポテンシャルが増強することが示さ れた'図 22(。 以上の結果に基づき、視覚 1 分あたり 0.8pixel の精細度をもつように、校正用シ ミュレータの映像呈示システムを最適化 するよう設計した。具体的には、映像ソフ トウェアは 1920×1080 のハイビジョンフォ ーマットとし、タイムコードにより音響呈示 図 21 ボルネオとカメルーンでの環境音収録 (上)。カメルーン熱帯雨林自然環境音の FFT による時間平均パワースペクトル(中)と最大 エントロピー法により求めた三次元パワースペ クトルアレイ(下) 図 22 精細度の違いによる基幹脳活性の変動 (後頭部脳波α波ポテンシャルを指標)
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装置と同期できる SONY HDW-500 を用いて再生した映像を HD プロジェクタ'Victor DLA-HD950( を使用して Stewart 社製 100 インチスクリーンに投影し、視覚精細度が 1 分あたり 0.8pixel 以上を 確保できるよう、画角とスクリーンからの視聴距離を調整した。 これまでの先行研究により、映像刺激により基幹脳活性を十分に変動させるためには、尐なくと も 20 分以上のソフトウェアの長さが必要であることがわかっている。同時に、信頼性を有する生理 学的評価のためには、同一被験者に対して適切に設計されたプロトコルに従って試料を反復視聴 させ、それを多数の被験者において反復し、得られた多量のデータについて統計検定をおこなっ てその有意性を導きだすことが必要となる。そこで、生理学的評価実験に使う呈示試料は、ストーリ ー性をもったドラマのように、繰り返し見る過程で感覚神経系と脳に及ぼす影響が、逐次変化する ものであってはならない。また、反復して見る意欲を喚起できないもの、あるいは反復して見ること に苦痛を伴うものであってもならない。そこで、これまでに収録した映像コンテンツライブラリから、 自然環境映像を中心に編集し、システム校正用および臨床試験用の映像コンテンツを制作した。 <非拘束型ポジトロン断層撮像装置 PET-Hat の開発> (神戸工専 山本グループ、アクション・リサーチ 前川グ ループ) アクション・リサーチグループおよび国際科学振興財団 グループが既に特許取得しているウェアラブルポジトロン 断層撮像装置のコンセプトに基づき、頭部用 PET 装置を、 脳幹部機能の測定において被検者を自然な状態で測定 可能にするよう実施設計と試作を行った。自然な状態での 測定を可能にするために、検出器リングを被検者が帽子 のように装着する構造'この構造を PET-Hat と呼ぶ(とした。 この構造により、座位での測定が可能になるとともに、検出 器リングが被検者とともに多尐動いても得られる断層画像 への影響を減尐させることが可能となる。図 23 に本構造の 模型によるテスト風景を、図 24 に概念図を示す。リングの 上部に PET 用検出器が 16 ブロック配置される。 本 PET 装置に用いるために検出器ブロックの改良試作 も行った。検出器ブロックは浜松ホトニクス製フラットパネ ル光電子増倍管'H8500(にテーパー状のライトガイドを介 して 4.9mmx5.9mm の GSOZ を 11x8 のマトリクスに配置し た。GSOZ は Ce 濃度が 1.5mol%と 0.4mol%のものを深さ方
向に積層し、2 種の GSOZ の発光減衰時間が違うことを利用して 2 層の深さ方向弁別を可能とした。 図 25 に検出器ブロックの写真を、また図 26 に Cs-137(662keV)ガンマ線に対する 2 次元位置応答 関数を示す。各 GSOZ のセルを弁別でき、エネルギー分解能も優れていることが確認できた。以上 より、被検者を自然な状態で測定可能にするための頭部用 PET 装置を設計できた。 図 24 低拘束度頭部用 PET の鳥瞰図 図 23 模型によるテスト 図 25 検出器ブロックの写真 図 26 検出器ブロックの 2 次元位置応答関数
- 21 - 上記設計に基づき、拘束度を低減した PET 装置を 開発した。ウェアラブルな装置を実現するために、図 27 に示すように、PET 装置の検出器リングを 2 重のカ ウンターバランス方式にし、ある程度自由に被験者が 動くことが可能な状態で PET 測定ができる。また装置 の計測、制御をノート型パーソナルコンピュータで可 能とし、被験者自身が測定制御を行うこともできる。こ の PET 装置の検出器部分が帽子'Hat(に似ているの で PET-Hat と命名した。 この装置の空間分解能は 4mmFWHM 程度、感度 は視野中心で 1%程度であった。また図 28 に示すよ うに、良好な画像を得ることができた。さらに装置の音響的騒音は 40dB 程度に抑え、市販の PET 装置と比較して 20dB 程度低くすることができた。機能測定における、聴覚刺激に対して効果的で あることが期待される。本 PET 装置は、特許出願をおこない既に特許査定されている。 <校正・評価用シミュレータの設計と構築>(株式会社アクション・リサーチ 前川グループ) システム校正を行うためには、薬剤を用いずに視聴覚情報によって被験者の基幹脳機能を変動 させてデータをサンプリングし、情報入力に対する基幹脳の応答特性を捉える必要がある。そのた めに、本研究グループが発見したハイパーソニック・エフェクト'人間の可聴域上限をこえる超高周 波成分を豊富に含む複雑な音が基幹脳を活性化する現象(を応用する。そこで可聴域上限をこえ る超高周波空気振動を呈示可能で、同時に基幹脳活性変動効果をもった映像情報を統御して呈 示することのできるシステム校正・臨床評価用シミュレータを設計し、実際に国立精神・神経医療研 究センター内にシミュレータ・ブースを構築した。 特に、超高周波空気振動成分による基幹脳活性変動効果を発揮するうえで重要となるシミュレ ータの音響特性については、すでに当グループが国際科学振興財団グループなどと共同で特許 出願している、音響パネルモジュール方式をもちいたスタジオ設計をおこなった。これは、ベニヤ 板の両面にグラスウールを貼りつけたパネルを、ブースの遮音壁に平行になるようレールに吊り下 げて可動化するものである。この方法では、まず、グラスウールによる吸音効果とともに、パネルそ のものの板共振による吸音効果が期待できる。また、パネルの大きさや配置を始めとする設計上の 自由度が高く、デザイン的にも優れ、設置後の移動、取付け、取外しが容易で、経費的にも安価で ある。また、PET-Hat を含む放射性同位元素を使用する脳イメージングとウェアラブルセンサーと の同時計測を行う場合や、模擬車両のように国立精神・神経医療研究センター外の施設の中に日 常生活をシミュレートする空間を一時的に仮設する場合には、可動性に優れた音響パネルモジュ ール方式がきわめて高い有効性を発揮する。 以上の設計に基づいて上記の基本性能を備えたブースを国立精神・神経医療研究センターに 構築した'図 29(。このブースは日常生活環境をシミュレートしつつ、同時に脳波やヴァイタル・シグ ナルなどの生理指標を計測することが可能であり、寛いだ状態の被験者から生理データを計測す 図 27 PET-Hat を被験者に装着した様子 図 28 PET-Hat で撮像した画像