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エンパワーメントと記憶の操作--コーチングを用いたコンセンサスマップの改変-香川大学学術情報リポジトリ

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  エンパワーメントと記憶の操作

∼コーチングを用いたコンセンサスマップの改変∼

−j刀−

宮 脇 秀 貴

       I はじめに  人の想いは,伝えたい人にどれだけ届くのだろうか。伝える側にはその人な りの想いから描かれる物語が存在し,伝えられる人にも,その人なりの受けと め方やそれを解釈したその人なりの物語が存在する。普通に生活する私たちに 限らず,組織という場面に目を向けると,組織内で上。に立,つ人々は,彼らなり の物語を描き,そして,経営理念や経営方針に洽って,経営目標を達成するた めの行動を組織成員に求めている。あるいはもっと小さい耶位で君うと,部や 課の目標を達成するような行動を組織成員に求めている。しかし,企業や管理 者の働きかけは,どれほど組織成員に浸透しているのだろうか,あるいは影響 を与えているのだろうか。また,エンパワーメントの研究の中で,この問題は どのように取り扱われてきたのだろうか。  筆者は,これまでのエツパワー・メントの研究成果から,エンパワー・メントを 球状に表し,図1のように示している。まず,エンパワーメントは内面と外面 に区分できる。続いて,外面は,ハードな側面とソフトな側面から構成される。  従来の研究では,図1の外面にあたるエンパワーメントのハードな側面やソ フト,な側面を整えることに焦点が当てられてきた。つまり,組織成員の心理面 (内面)は所与として,組織成員が自発的・自律的な行動を引き起こすことが できる条件整備に焦点を当ててきたのである。組織成員はエンパワーされれば 自発的・自律的に行動するという前提から,例えば,ハヽ-ドな側面では,フ ラットな組織階層で権限を現場に委譲し,自発的な活動を促すエンパワーメン ト型の会計情報などを整備したり,ソフトな側面では,見える化,コーチング

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−j?− 香川大学経済学部 研究年報 48 図1 エンパワーメントのハードな側面,ソフトな側面および内面 ハードな側面 ソフトな側面 即認 およびオフサイトミ・-ティングによって,組織階層の上下・左右の組織成員間 のコミュニケーションの質を向上したりするなど,組織成員がエンパワ・-・され 白発的・自律的に行動しやすい環境を整えることに注力してきた。一方,同じ ようにエンパワーされても自発的・・白律丿的に行動しない組織成員の存在への疑 問から,宮脇(2008 b)では,エンパワ・−メントによって組織成員白体が自ら をいかに白発的・自律的に行動させるかに焦点を絞り,内発的動機づけの観点 から,エンパワ・-メントの内面を探求し,自律的支援の連鎖が組織成員の内発 的動機づけを高め,彼らの自発的・自律的な行動を促すことを明らかにした。  以上,の内容を,エンパワ・-する側である企業・管理者の視点とエンパワ・-・さ れる側である組織成員の視点という2つの視点から分類すると,下記の表1の ようになる。なお,エンパワ・-される側の組織成員とは,組織階層に関係な く ,エンパワーメントを受ける組織成員としておく。 表1は,エンパワ・-・メントの側面(外面と内面)をエンパワ・−する側とエン パワーされる側から分類したものである。上記の通り,従来,議論されてきた 組織形態や会計情報の整備あるいは組織内のコミュニ・ケーションの質の向上な

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エンパワ・-メントと記憶の操作 表1 エンパワーメントの側面とエンパワーする側/される側 −jぶー エンパワーメントの    側 面 企業・・管理者の視点 (エンパワ・-する側)  組織成員の視点 (エンパワーされる側) 外 面       ○ (ハードな側面・・ソフトな側面) (別 稿) 内 面

言尚

  ○(内発的動機づけ) どのエンパワーメントの外面はにエンパワーする側の視点から組織成員をいか に白発的・自律的に行勤させるかを検討するものであり,表1の左上にあたる ものである。また,組織成員が白らに対していかに働きかけるかを考察した組 織成員の内発的動機づけの問題は,エンパワーされる側の組織成員の内面ある いは心理プロセスを対象としており,表1の右下にあたる。そこで,本稿で は,表1の左下にあたる「エンパワ・-する側の内面」に焦点を当て,企業や管 理者が,エンパワーメントによって,組織成員の内面あるいは心理,面に,いか に働きかけ,経営理念や経営方針に沿った自発的・自律的な行動を促そうとし ているのかを,zaltm。(2003)の「心一脳一体一社会」の相互詐用プロセス の視点を用いて考察していく。また,その中でコーチングがエンパワーされる 側の組織成員の自発性を引き出すだけでなく,エンパワーする側にも,新たな 用途で活用できるこ,とを明らかにする。なお,表1の右上にあたる「エンパワ ー・される側の外面」は,エンパワーされる側の組織成員から,組織設計の変更 や会計│青報の新しい活用を模索・提案レていく場面であり,別の機会に論じる ことにしたい。  以上のように,本稿は,エンパワーする側の立賜からエンパワーメントの内 面に焦点を当て,企業や管理者が,エンパワーメントを用いて,組織成員の内 面に働きかけるメカニズムを考察していく。これによ,って,エンパワーメント の影響力のプロセスを明らかにし,エンパワーする側の立賜から,エンパワー メントの内面のしくみを解明できるであろう。また,組織成員の内面に働きか けるプロセスの中で,エンパワーメントのハードな側面に位置するエンパワー メント型会計情報が,いかに利用あるいは運用されるかを示すことができるで

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−j河− 香川大学経済学部 研究年報 48 2008 あろう。  以下では,まず,本稿に必要な限りで,富永(2006)をもとに,最新の脳科 学で分かっている脳のしくみを理解し,次に,zaltman(2003)の「心一脳− 体一社会」の相互詐用プロセスを検討し,題織内の分析に援用できるように Zaltman(2003)のフレームワークを解釈しなおしていく。そして,このフレ ームワークを用いて,コーチングのケー・スを分析し,エンパワ・-する側の企業 や管理者が,どのように組織成員の内面に影響し,彼らの行動に影響を与える ことができるかを明らかにするとともに,エンパワーする側でのコーチングの 新しい可能性を見出していく。最後に,エンパワーする側からのエンパワーメ ントの影響力を支援するであろうエンパワーメント型会計清報の意義や活用方 法を提示したい。       n 脳による情報と記憶の再構成  この節では,本稿に必要な限りで,富永(2006)をもとに,現在分かってい る脳科学のうち,人間の脳の構造と働き,意識や無意識および記億について整 理していく。 1.人間の脳の構造と働き  脳は大きく分けると,大脳,小脳および脳幹からなる(盲永2006,p。115)。 まず,大脳は,言語や思考という高度な知能恬動,感覚,記億および本能など をつかさどる部位である。火に,小脳は,全身の筋肉のコントロール,姿勢や バランスを保つ働きをしている。最後に,脳幹は,別名,生,きていくための中 枢とも言われており,呼吸や血液,体温などの調整を行っている。この3つの 中でも,大脳が意識や無意識,記億などに関連しており,特に重要な部位である。  大脳は左岫2つに分かれており,左右の脳は脳梁によって結ばれている。左, 右の脳は,巡携することで,素晴らしい威力を発揮する。大脳は,その働きに よって,大脳皮質,大脳辺縁系および大脳基底核の3つに分けられる(富永 2006,ppユ16-117)。以下では,意識や無意識,記憶に主に関連する大脳皮賀 と大脳辺縁系について述べていくことにする。なお,大脳基底核は,体がスム

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エンパワーメントと記憶の操作 −ズに動くように調節する役割を担っている。 −j万−  (1)大脳皮質  大脳皮質は,大脳表面の,いわゆる脳のしわの部分であり,言語や思考な ど,人間に特有の高度な知能活動をつかさどっている。大脳皮賀は,大きく4 つの領域に分かれており,まず,おでこの辺りから,こめかみ,頭のてっぺん 辺りに広がっているのが前頭葉であり,最も広く,大脳皮質の約33%を占め ている。この前頭葉は思考,学習および推論といった高度な精神的機能や体の 動きを担当している。次に,前頭葉の後ろに広がるのが頭頂葉であり,頭頂葉 は空間認識や触覚などの感覚を担当している。そして,頭頂葉の左,右,ちょう ど耳の辺りが側頭葉であり,側頭葉は顔や形の認知,聴覚および昧覚などを担 当している。最後に,後頭部にあるのが後頭葉であり,後頭葉は主に視覚に関 わっている。なお,大脳皮質内では,犬脳皮質内のいくつかの領域が,その 鎖域間で情報のやり取りを行っており,それらを連合野と呼んでいる(富永 2006,p. 136)。この中でも,前頭漣合野が,思考,創造,推論,意欲および情 操といった人間ならではの行為の源,さらに自我や意識などの根源とも考えら れている。  (2)大脳辺縁系  大脳辺縁系は,左右の大脳をつないでいる脳梁を取り巻くように配置されて いる(富永2006,p。118)。同じ犬脳でも,大脳皮質は,思考や学習などの知 的な慟きを担う新皮賀と言われ,「人間ならではの脳」とも言われるのに対し て,大脳辺縁系は古い皮質あるいは旧皮。質と言われ,「動物の脳」とも言われ るものである。大脳辺縁系は,進化の古い過程で出来上がった脳であり,食欲 や性欲などの本能および怒りや恐れといった原始的な感情に関係している。大1 脳辺縁系は,扁桃体,帯状回および海馬などの部位から構成されている。ま ず,扁挑体は,本能的な快・不快や恐怖を感じる部分でありごアーモンド(扁 挑)に似た形状をしていることからこの名前が付けられた。次に,帯状回は, 大脳皮質の最も近くに位置し,扁挑体などから発せられる快や不快の欲求など

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−1761−        香川大学経済学部研究年報48 を犬脳皮質に伝える役割を拒っている。最後に,海馬は, り,特に近時記億1)に関わっている。 勿認 記億に関わってお 2.脳細胞の役割  ここでは,脳絹胞の役割を説明するために,まずバ1)で,脳絹胞がニ。ューロ ンとグリア絹胞から構成されていることをに次に,(2)で,ニューロン内および ニ,ューロン問で情報がどのように伝達されるかを述べていく。  困 二。−ロンとグリア細胞  人体は,脳に限らず,全てが細胞から構成されており,ぞの数は60兆個と 言われている。その串でも,特に脳を作る細胞は,ニューロン(神経細胞)と グリア細胞の2種顔である(富永2006,pp。138-139)。ニ。−ロンが主役で, グリア細胞が脇役と言われている。  まず,ニ,ューロンは,中心が星型で核を1つ持っている神経細胞体であり, あちこちに枝を伸ばしている。イ中びている技は2稽類あり,1本だけある長い ものが軸素(神経線維)と呼ばれ,他のニューロンに情報を伝達するのに対し て,上下左右に広がる短いものは樹状突起と呼ばれ,情報を受け取る役目を果 たレている。  大脳の中には,ニ。−ロンが約140億個もあり,複雑に連結し合っている。 1つのニュ・−ロンの軸索(神経線維)が他のニューロンの樹状突起へと伸び, 結合することで,情報の受け渡しが行われる「場」が設定される。この結合部 は,シナプスと呼ばれるが,シナプスは1つのニューロンに平均1万個あると 言われている。このようなニューロンの複雑なネットワークは,脳の中で情報 処理を行う最小単位となり,人の思考2・3)を支えている。  次に,脇役のグリア細胞は,脳の各所で様々な役割を果たし,例えば,血管 とニュ・-・ロンの間に入り,血液中のブドウ糖をニ,ューロンに送ったりしている。 1)近時記億とは,数日間覚えているような記億である。詳しくは,nの3。の(2)を参照せ  よ。

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      エンパワーメントと記億の操作         −j匹−  (2)ニ。ューロン内およびニューロン間の情報伝達  ニューロン内の情報は,電気信号として伝わっていく(富永2006,p。142)。 問題は,ニューロンとニューロンの間,すなわちシナプスの部分である(p。 144)。なぜなら,結合すると上述したが,実際は,20から30ナノメー・トル離 れており,わずかな隙間があることで,電気信号が届かないからである。そこ で,シナプスでの情報のやり取りには,例えば,グルタミン酸やドーパミンな どの神経伝達物質を用いた化学信号が使われている吉)なお,1つの二。−ロン には1種顔の神経伝達物質しか入っていない。 3.記憶の種類と分類  人間の記憶は全て,上記2.で述ぺた脳内のニュー・ロンの結び付きのパター ンによると考えられている(富永2006,p。171)。この記億は,記億の内容や 記憶の期間によって,いくつかに分類できる(pp,168-173)。ここでは,大き く記憶の内容と期間の2つに分けて説明していくR)  田 記憶の内容による分類  記憶を記憶の内容で分類すると きく分けられる。 記憶は「手読き記憶」と「陳述記憶」に大 2)Zaltman(2003)は,異なるグル・-・プの二。ュ・-・ロン,つまり思考は,相互。に行き来しな  がら伝達を行っていることをあげている(p,41,訳pp,63-64)。ニューロンの恬動は,  音,触感,動作,ムードおよぴ感情などによって刺激を受け,例えば,ビ・-ルのCMが  ニュ・−ロンを活性化したとすると,友人と居酒屋で飲んだ経験や初めてビ≒-ルを飲んだ  時の苦い経験,さらには彼女とデ・-トした経験など,異なる種類の他のニュ・-・ロンと相  互に関連し,ニュ・-・ロン間の活性化を引き起こすことになる。また,zaltman(2003)は,  同時に活発化するニュ・-・ロンはつながり合い,ニューロン群とな・って思考を形成し,異  なるニューロン群がつながることにより,思考のシステムが作られると述べている(p,  147,訳p。176)。 3)Ha 「s(1998)では,思考が脳内のニューロンの情報のやり取りで生まれることに加  えて,例支。ぱ,私たちは生まれてから両栽や親戚,地城の人たち,あるいは社会規範や  文化に囲まれて成長することから,社会環境の影響(剌激)を受けながら,脳が思考を  生成することも指摘している(p,153,訳p,193)。 4)詳細は富永(2006)の144-145ページを参照せよ。

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一丿窓− 香川大学経済学部 研究年報 48 即認  ①手続き記憶  手苔き記億とは,いわゆる体で覚える記憶であり,例えば,自転車の乗り 方や楽器の演奏の仕力など,一度覚えてしまうと忘れないことが特徴である。  ②陳述記憶  陳述記憶とは, きる記憶である。 ことができる。 頭で覚える記憶であり,言葉や絵などにして示すことがで 陳述記億は,「エピソード記億」と「意昧記憶」に分ける エピソード記億  エピソード記億は,ト・を覚えていますか?」という質問の答えにな るもので,例えば,先週の日曜日に彼女と食事・をしたことなどである。 意昧記憶  意昧記億とは,「∼を知っていますか?」という質問の答えとなるも ので,例えば,平・成元年は1989年であるなどのものである。  陳述記憶には,言語で言い表せるものばかりでなく,非言語的記憶もある。 例えば,「子供の頃に食ぺた,祖母の手作りお焼きの昧」は,非言語的なエピ ソード記憶となり,「奈良の大仏のイメ・-ジ」は,非言語的な意昧記憶となる。 5 )  その他には,ワーキングメモリーという記億とプライミングという記憶がある(富永 2006,pp‥178-179)。 ‥ワーキングメモリ・-とは,買い物で簡耶な暗具をする時などに,頭の隅にちょっと置  いておくような記憶のことである。なお,短期記億は,場合によっては長期記憶へと  変わる可能性があるが,ワ・-キングメモリーは,その場で消滅する。 ‥プライミングとは,意識しないうちに覚えてしまう記億のことであり,人間の行動に  重大な影響をもたらすものである。富永(2006)の例では,あらかじめ歌手の藤圭子  の話題を持ち出しておき,数分たって,もう藤圭子の話は忘れてしまった頃に,「何  でもいいから,花の名前を5つあげてみて」と賀問すると,花の名前の中に「藤」が  含まれる可能性が高いことをあげている。もちろん答えた本人は,藤圭子の話をした  ことや自分が藤を答えたことが関連レているとは思っていないが,無意識の記憶が,  質問の答えに影響したのである。

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      エンパワーメントと記憶の操作 (2)記憶の期間による分類 記億を記億の期間で分類すると,大きく4つに分けられる。 −j汐−  ①感覚記憶  感覚記億とは,目や耳といった感覚器が捉えた外界の様子をごく一瞬保持 する記憶である。例えば,紙に書かれている数字をパッと見た時,人は反射 的にそれを覚えることができる。なぜなら,脳内では複数のニューロンが連 結しパター・ンを作るからである。しかし,この感覚記億は,視覚が1秒弱 で,聴覚が4秒くらいですぐに失われてしまう。  ②短期記憶  短期記億とは,感覚記億より長く覚えていられる記憶だが,それでも20 秒から1分程度の記億のことである。例えば,視覚の感覚記憶によって一瞬 覚えた数宇が,好きな異性の電話番号であるというような,強い興昧を引く 情報だった場合には覚えようという努力によって,感覚記億は短期記憶とな る。他の例では,本の崇引を見て該当ページを開くまでのような,一時的に 覚えているような数字の記億が短期記億である。 ③近時記憶 近時記億とは,数日間覚えているような記億のことである。  ④長期(遠隔)記憶  長期記憶とは,上記の近時記億が脳内に定着し,忘れることができなく なった記億のことである。  以上のような記憶は,大脳皮。賀のいろいろな部分と接している海馬に格納さ れると考えられており,特に海馬は近時記憶に関係レていると言われている (富永2006,pp,172-173)。

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−jg一         香川大学経済学部 研究年報 48       2S 4.意識と無意識  ここでは,意識と無意識の違いや,なぜ無意識が重要なのかを説明してい く。まず,(1)で,意識とは何かについて,そして,(2)で,無意識とは何か,そ して無意識に潜む無限の可能性について述ぺていく。 り (1)意識とは 現代では。意識や心は,物質である脳が生壽出すという考え方が主,流とな ,中でも上記2.で述べた脳の中にあるニ,ューロン(神経線維)の働きに伴っ て,意識6)は生じていると考えられている(富永2006,p,16)。つまり,意識 は脳に宿り,その物質基盤はニ・ューロンだと考えられている(P,17)。  ニ。ューロンは,化学物質が作用することで興奮し,他のニューロンに情報を 伝えるという,比軟的単純な細胞である(富永2006,p。38)。1つ1つのニュ ーロンには意識のかけらもないが,ニ。ューロンは束になることで意識を生むの である。つまり,ニ,ューロンが意識を生むためには,ニ,ュー・ロンが何段階もの 束になる必要がある。  人間以外の多くの動物はエピソ・−ド記憶を持たず,自分の行為などを意識す る必要がない(富永2006,pぺ6)。なぜなら,習性洸して子供を育てるからで あり,その時の記憶を思い出したりはしないからである。エピソード記億を持 たないということは,自分の行動をすぐに忘れていくことになるので,自分が 行った行為を意識する必要もなくなることになる。  一方,人間のように,他者との関係を記憶に残し,様々な社会制度や文化文 明を築くためには,エピソード記憶や過去の記億が不可欠となる(富永2006, pp‥46-47)。しかし,全身から1秒間に数百万ビットの情報が脳に集まるので, その全てを記憶するわけにはいかず,必然的に情報の取捨選択が行われ,さら に,記憶の要・不要・を判断する機能が必要となる。これが意識である。 6)脳が意識を生み出すしくみには,大別すると,意識を生,み出す機構が計算によってシ  ミュレーション可能だとする説と不可能だとする説がある。詳細は,富永(2006)の22  ペ・-ジを参照せよ。

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エンパワ・-・メントと記憶の操作 −j&−  (2)無意識とは  視覚情報,嗅覚情報および体性感覚情報などを合わせて,全身から脳に伝え られる情報は1秒間に数百万ビット」もあるが,意識にのぼる情報はわずか40 ビットであり,0.001%に過ぎないと言われている(富永2006,p。41)。裏を 返せば,意識にのぼらない情報,つまり無意識の情報が99.999%もあること を示している。また,どの情報を意識にするかという取捨選択のプロセスには 約0.5秒を必要・としており,ほんの少しのタイムラグが生,まれることになる が,脳は,意識に対して,空間も時間も巧みに加工恚ドっじつまを合わせて提 示することによって,リアルタイムで感じているように意識を錯覚させている (p。44)。例えば,歩くという動作も殆ど無意識であり,コップの水をこぼさず □に運ぶのも無意識であるが,動かそうとする判断は自由意志で行っている, あるいは少なくともそのつもりでいるがづp,45),どんな行動でも,決断より も前に,つまり無意識のうちに,すでに準備は行われているのであるIふ)した がって,無意識の領域は意識の領域よりも格殴に広く,無意識の部分はただ岸 に意識にのぼらないだけで,無意識がいろいろな考えや行動の主な原動力に なっていると言えるのである。 5.情報の再構成と記憶の再構成  ここでは。上記1.から4.までを踏まえて,脳は事実をそのまま伝えるので はなく,情報を修正士て意識に伝えていること,そして,記億は睡眠中に再構 成されていることを説明していく。まずバ1)で,人は感覚情報を脳で修正,ある いは補正することで情報の再構成を行って,意識の上に表していることを述 べ,次に,(2)で,記憶は睡眠中に海馬でリプレイされる時に記億の修正,あるい は袖正,が行われ,記億も再構成されるものであることを示していく。 7)人間の行動は無意識のうちに行われていて,意識はそれほど役に立っておらず,意識  が自分をコントロづレレているというのは,錯覚であり,思い込みであると考えるのが  ユーザーイリュ・-ジョン説である。詳細は,富永(2006)の40-47ページを参照せよ。

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一召2−         香川大学経済学部 研究年報48      政巡  (1)情報の再構成  人には外界を感知する視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮府感覚,さらには内臓の 感覚や平衡感覚など,様々な能力が備わっている(富永2006,p。152)。ふつう, 人は,視覚は目で感じ,聴覚は耳で感じ,昧覚は舌で感じていると思っている が,実際は,これ。らを認識し,感じているのは脳である。だからこそ,目で見 たり耳で聞いたりしなくても,風景や音楽を感じることができるのである。  ただ,脳が外の世界の有様を,目や耳という感覚器から受け取って,それを 忠実に昇現レているかと言えば,再現はレておらず,その代わり,脳は外界か らの刺激を勝手・に解釈して,世界を創造レているのである。例えば,人間が赤 や青と感じるのは,光の波長の違いから起こるものだが,もともと光は人間が 感じるような色というものを本澗的に持っているわけではない(富永2006,pp。 152-153)。つまり,人間が感じる光の色の感覚や音の高低の感覚は,光や音の 本質とは全く関係がなく,ぞのような感覚は人間の脳によって生,み出されてい るのであるS)  したがって,人の感覚は脳が創造したものとなるのだが,外界をきちんと投 影しているように思えるのは,脳が恣意的に情報を書き換えて,私たちが自我 と呼んでいるものにそれを見せているからである。この脳による情報の再構成 がないと,光源が変わることによる色の認識ができなくなったり,物体の遠近 を素早く判断できなくなったりレてしまう(富永2006,p。158)。再構成され る感覚は,視覚だけでなく聴覚や嗅覚,昧覚の場合も同じであり,こ,れらの感 覚も脳によっで再編されたものを,私たちは感じ取っているのである(p。160)。 このような再構成のミスが錯覚として現れるのである。 (2)記憶の再構成 上記1.の(2)で述べたように,記憶は海馬に格納される。特に海馬には短期 記憶を集める働きがある(富永2006,p。174)。 8)人間以外の大半の動物は,入澗のように色を感じてはいないと考えられている(富永  2006,p 153)。

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      エンパワーメントと記億の操作         一丿紹−  目や耳などの感覚器から取り込まれた情報は,まず大脳皮質に入り,頬期記 憶となるが,この短期記億は,視覚情報,聴覚情報および皮府情報などのよう に分かれており,海馬がこれ。らの情報を集めて1つのまとまったエピソードに する。ハイキングの例(富永2006,p,174)では,「雲・取山に登って,標高2,017 メートルという標識と,紅,葉の景色を眺めながら,おにぎりを食べた」という 経験の場合,足腰の疲労感,標識の2,017メートルの文字,紅,葉の景色および おにぎりの昧といった短期記億は,犬脳皮質の別々の場所で処理されるが,海 馬にこれ。らが集められ,統合される。短期記億は海馬によって結び付けられる ため,忘れられにくく,近時記億となるが,そのままでは近時記憶もやがて忘 れ去られることになる。  ところが海馬は,近時記億の中でも印象的なものに限って,睡眠中に勝手に 何度もリプレイし,リプレイが繰り返されることによって,いつも同じパター ンで活動するニぃ。−ロンの集団が生まれ,長期記憶に変わるのである(富永 2006,p‥174パ)例えば,上記の例では,「足腰の疲労感」,「標識の文字」,「紅 葉の俎色」および「おにぎりの昧」などが単独でリプレイされることはあまり なく,1つのまとまったエピソードあるいは物語(ストーリー)としてリプレ イされる。なぜなら,物語としてリプレイされる方が記憶に残り,再・びリプレ イされる確率が高くなるからである。また,このようなエピソードの経験時に は,多くの場合,感情の高ぶりを伴うので,神経伝達物質が多く分泌され, ニュー・ロンのパターンがより強く作られ,記憶に残りやすいのである(p。175)。  以上のように,海馬が体験したことを何度も繰り返しリプレイすることで, その経験は定着することになる(富永2006,p。176)。しかし,海馬がリプレ イした記億は,「事実」とは言えないのである。なぜなら,上,記田でも述べた ように,人間の感覚は,脳が作ったイリュージョンであり,感じている時点で 脳の検閲を受け,手が入っており,その感覚も,受けた人の心理状態や判断で 犬きく変わるからである。例えば,興昧のあることは,はっきりと,かつ誇張 されて脳に刻まれるが,巡に見たくないことや嫌なことは,都合の良いように 9)長期記億となるまでには約2年を必要としている(富永2006,p,174)。

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−j狗− 香川大学経済学部 研究年報 48 歪められて記憶される。つま ら記憶されるのである。 り 2008 上記田で述べたように情報は再構成されてか  さらに,海馬が記恒をリプレイする時にも,記億の改変が行われる(富永 2006,p。 176)。例えば,様々な記億の断片がつなぎ合わされたり,空白部分を 何かで埋めたり,あるいは「あの時こうしていれば良かった」という思いから 生,まれた空想が入り込んだりしながら,何度も何度も海馬によってリプレイさ れることによって,最終的に,それが本当の記億となってしまうのである。         m「心一脳一体一杜会」の相互作用プロセス  本節では,上述したnの脳科学の知識を基に,zaltman(2003)の「心一脳 一体一社会」の相互イ乍用プロセスを検討し,管理者が組織成員の内面にいかに 慟きかけるかを明らかにする。具体的には,管理者が,組織成員の無意識にど のように働きかけ,経営理念や経営力針,組織目標という犬きいベクトルやも う少し小さい各セクションの目標という小さいベクトルに,どのように組織成 員を向かわせるのかを考察する。 zaltman (2003)ではノマーケティング担当 者と消費者の関係から,マーケティング担当者がいかに消費者に働きかけるか が記述されている。これを,組織内に置き換えて考えると,マーケティング担 当者が管理者にあたり,消費者が組織成員にあたることになる。管理者は,い ろいろな方法で組織目標の達成のために組織成員に働きかけている。また,組 織成員は管理者から物は購入しないが,組織成員にとって組織成員の目標(例 えば,やりがいのある仕事を与えてもらったり,給斜をもらったりすることな ど)の実現をサポートレてくれるのが管理者である。このような関係は,消費 者ニーズの実現を目的としているマーケティング担当者と消費者の関係に似て いるものであり,両者が協力してより良いものを創造していこうとする関係と して捉えるならば,同じ意味合いを持つと言ってもよいと思われる。したがっ て,本稿では,Zaltman(2003)のマーケティング担当者と消費者の関係を, 組織内の管理者と組織成員の関係として捉えなおし,理解していくことにした い。  そこで,まず,Zaltman(2003)の「心一脳一体一社会」の相互詐用プロセ

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      エンパワ・-メントと記億の操作         −j硲− スの3つの着眼点を示し,次に,意識ではなく無意識に焦点を当てる理由と無 意識を顕在化させるメタファーを説明し,そしで,無意識の記億への働きかけ 方を探り,最後に,物語と記億の関係を用いて,組織成員の無意識の思考を図 示できるコンセンサスマデプの活用の仕方を考えていく。 1.Zaltmanの着眼点  まず,本稿では,Zaltman(2003)の着眼点を,次の3点に絞って述べてお きたい。なぜなら,彼は一賃して,既存のマーケティング活勣だけでは,消費 者のニ,−ズをつかむことができない理由を説明しており,彼の着眼点は,管理 者が胡織成員を理解できない理由の解明につながると考えたからである。ま た,特に下記の①と③は,従来のエンパワーメントの研究の中では取り扱われ ておらず,エンパワーを「する側」がエンパワーを「される側」にいかに働き かけるかのしくみを解明する大きなヒントになると考えたからである。なお, ②については,宮脇(2007&2008 a ・b)でコ・−チングを取り扱った時に,管 理者が組織成員の無意識の中に潜む能力を引き出すというところで取りあげて いるが,今回は,引き出すというよりもむしろ再構成するという意味合いで捉 えなおすので,②もポイントとした。以上のことから,Zaltman(2003)の着 眼点は火の3点となる。 ①「心一脳一体一社会」のつながり ② 人の無意識の重澗性 ③ 記億の変容性  田「心一脳一体一社会」のつながり  Zaltman(2003)は,これまでは,「心一脳一体一杜会」の4つの構成要・素の うち,どれか1つにしか注目レておらず,消費者から誤った情報を引き出し, それを正恚く解釈することができなかったと述べている(p 29, 訳pp,49-50)。 彼は,例として,私たちの脳は周囲の社会的・物理的な世界と相互イ乍用し,肉 体はこの関係を仲介しており,そして,体は外界に関する情報を感じ取り,感

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−j溺− 香川犬学経済学部 研究年報 48 2008 情や思考を作り出す化学的・物質的な反応を生成し,脳の命令を受けて作動す ることをあげている(pp。27-28,訳p。48)。また,脳の活勤はそれを知覚する か否かに関係なく,私たちの心を生み出すことから,心とは脳が恬動すること であるとしている抑このように,「心一脳一体一社会」の4つの要素は相互,に 影響し合っているのである。  これを胡織内に置き換えると,これまで管理者は,題織成員の行動や発言な どを「心一脳一体一社会」のつながりで捉えることはなく,また,発話された 内容や目に見える行動のみを,管理者自身の解釈で判断してきたのではないだ ろうか。  (2)マーケティング担当者と消費者の無意識の相互作用  Zaltman(2003)は,マーケティング担当者・と消費者の心あるいは無意識の 相互葬用のプロセスに注目している。例えばノマーケティング担当者が無意識 に持つ前提や期待は,消費者がマーケティング担当者に提供する情報や提供し ない情報を規定するだけでなく,消費者の無意識のプロセスも,マー・ケティン グ担当者の質問に対する消費者の反。応に影響を与えることをあげている(p, 32,訳p。53)と1) 10)Dennett(1996)によれぱ,人類学者の間では,道具の利用が始まった時に,それに付   随して知性が飛躍的に発達したと考えられており,道具の使用は次の2つの意味で缶│生   のしるしを表しているという(pp,99-1〔〕1,訳pp,173-176)。まず,道具を道具として認   識し,保持するには知性が必要であること,そして,道具は幸運にもそれを手に入れた   ものに知性を与えるとともに,よくできている道具ほど,利用者により多くの漕在的な   知性を与えることがあげられている。つまり,人間にとって,優れた道具。の1つが,思   考や言葉などの「心の道具」なのである。また,人は,環境から心的道具を取り込むこ   とで,新たな道具。を生み出したり,そのテストを行・っているのである。 11)例えば,Bazelman(1998)は,次のような無意識のバイアスが,相手の考えや行動に   影響を与えることを述べている(pp,73-76,訳pp102-108)。   ・・知覚バイアス……最初の決定に対するネガティプな情報よりもポジティブな情報に気づ       く傾向が強くなる。   ・・判断バイアス……これまで選択した行動方針を継統する方向に判断をシステマティック       に歪める。   ・・印象操作……他人の印象を操作することが,これまでに選択した行動方針へのコ       ミッ}・メントに向かわせる。

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エンパワ・-・メントと記億の操作 一認Z−  マーケティング活動での消費者の意志決定に関する多くの知識は,例えば, インタビューやアンケートなどの言葉を介した方法を通じて収集した情報に基 づいており,そうした情報は,消費者が自身の経験を振り返ったものや意識し た事柄に基づいていることを,zaltmanは指摘レている(p40,訳p 62)。つ まり,Hの4.の(2)で述べたように,意識にのぼる情報は全体の0.001%に過ぎ ず,上記のようないわゆるインタビューやアンケートなどの方法から得られる 情報は,氷山の一角にあるものを収集しているだけで,他の多くの情報は無意 識の中にあると考えられる。また,Zaltmanは,話し言葉と思考が必ずしも一 致しない点を強調している墜34,訳p。55)F)Hの2。の冊で述べたように, 思考とはニ。−ロンの束であり,言語で思考が行われるのではないのである。 すなわち,上記のような調査方法で得られた情報は,思考が言葉によって成り 立,ち,それが消費者の思考を表しているという前提で行われているものである が,言葉が思考の全てを表しているとは限らないことの方が多いことを, Zaltmanは指摘しているのである。  以上のことを胡織内に置き換えると,管理者は,組織成員からインタビュー やアンケート調査を用いて,様々な情報を得ようとしても,組織成員の無意識 へは踏み込むことができないので,組織活性化の手がかりを得ることが難しく なってしまうのである。そこで,Zaltmanは,メタファー13)を用いて暗黙的な 知識の表出化を行‘おうとしたのである。  (3)記憶の変容性  zaltman(2003)も,上記nの5.の(2)で述べた記憶の再構成のプロセスに着 目し,記憶を,既に現像された写真を見るようなものではなく,思い出す度に 再生されるものとして捉える必要があることを述べている(p,43,訳p。65)。 そして,企業のマーケティング活勁は,消費者の記億の生成や再生,に大きな影 12)思考はニューロンの集まりであり,言語で思考が行われるのではない(富永2006,p  98)。なぜなら,思考が言語で行われるのなら,思考が速くて言葉が追いつかず,もどI  かしい経験をすることはまずないからである。 13)メタファー・とは,何かに喩えることであり,詳しくは,後述のⅢの3。を参照せよ。

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−7紹一         香川大学経済学部 研究年報 48       即卵 響を与えることができる点を強調レている。これ。を観織内に置き換えると,管 理者は,胡織成員との様々なコミュニ・ケーションの手殴を通して,組織成員の 記憶を再構成するように働きかけることができるのである。 2.無意識と無意識な行動のメカニズム  ここでは,上記Hの4.に加えて,意識と無意識に関して,まずバ1)で,意 識と無意識の相互作用の仕方を検討し,次に,(2)で,無意識のうちに行われて しまう脳のメカニズムを示し,人の言動や行動の源となる無意識の重要性を述 べていくことにする。  (1)意識と無意識  上記nの4.に加えて,zaltman(2003)は,意識と無意識を次のように捉え ている。まず,彼は,自己認織と自己反省を行う人間の性向こそが,他のあら ゆる生物と人間とを区別するものであるとし,この能力を「高位意識」あるい は「意識」と呼んでいる(p,49,訳pp 70-71)。また,Lakoff&,lohnson(1997) は,氷山を例に用いて,氷山の一角が意識的思考であり,その下に広がる部分 を無意識的思考と捉え14)全ての思考のうち少なくとも95%は無意識的思考で 起こり,多くともたった5%だけが意識的思考となることを述べている脈 13,訳p。24)。また,彼らは,この95%の無意識的思考が,5%の意識的思考 を形作り,構造化しているとも述ぺている。これらのことから,意識的な思考 に至るまでに無意識的な思考が無限に存在する中で,どの無意識的思考を意識 的思考とレて浮かび上がらせるかを決定するプロセスそのものが無意識的思考 で行われていると考えることができるのである(Zaltman 2003, p。51,訳pp。73 -74)評つまり,nの4.の(2)でも示したように,意志決定は,意識レて行われ る前に,無意識のうちに起こっているのである。  zaltman(2003)は,例として,以前にヘビを目撃した場所を歩いている時, 14)Edelman(1992)は,意識を高次の意識と原,意識に分け,原意識の上に高次の意識が   存在すると述べている(p 112, 訳p,132)。なお,高次の意識とはzaltman(2003)の徊   う高意識あるいは意識のことであり,原,意識とは無意識のことである。

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      エンパワ・-メント,と記億の操作         一召9− 突然,路上にぐるぐる巻きの物体を見つけたとすると,瞬間的な防衛行動のた めに扁挑体が,無意識に,歩くことを止めたり後退したりといった行動を引き起 こすことをあげ,この歩くことを止めたり後退したりという行動を取ったこと を認諭するのは,それが起こった後であることをあげている(p。56,訳p。79)。  また,Zaltman(2003)は,無意識の判断が,意識的な判断に先立って起こ るだけでなく,誘導も行うことを指摘している(pJ5,訳p。78)。先ほどの例 で言えば,人はもし出くわした物体を園芸用ホースよりもヘビに似ていると思 えば,危険なヘビに対処するための本能的な反応を行い,もしその物体が回芸 用ホ・-スであると気づいたら,どう反応するかを意識的に判断する前に,すで に意識は無意識のうちに展開し,海馬に格納されたヘビに関する様々なイメー ジを取り出し,比較・評価レて,歩くことを続けているのである。  このように,私たちが意識レて到達する結論の「あのヘビは危険である」は, 既に私たちの無意識の中で起こっており,そうした認識は,それまで行ってい たことを続けても大丈夫か否かという「内なる声という形式」で現れ,その内 なる声が,私たちが意識的に意志決定を行ったのだという幻想を作り出すので ある(Zaltman 2003, p。56,訳p。79)。つまり,意識とは,認識レていること を認識することなのである評  以上のことからも,意識して行われることや発話される内容も犬切である が,それ以上に無意識の部分に焦点を当て,人の無意識を理解することが非常 に重要であることが分かる。 15)Edelman&Tononi(2000)は,たった1つの意識が,意識として成立するためには,  異なる結論を持つ他の何十億の意識が排除されていると指摘レており(p 33),彼らが  君うところの排除された何十億の意識というのが「無意識」に当たり,たった1つの意  識を選択するのは無意識が行っていると考えられるのである。 16)Hobson(1999)は,人間とは,意識によって考えやイメージ,印象を心に描くことで,  反射に依存していた時代から解放されたのであり,意識があるゆえに,無意識を認識で  き,葛藤に立ち向かい,じっくりと考え,決断したり妥協したりして,問題を解決する  ことが可能になったことを述べている(p 218, 訳p 129)。

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−j卯一         香川大学経済学部 研究年報 48       即卵  (2)無意識に脳が行うメカニズム  Zaltman(2003)は,無意識の心で慟くメカニズムとして,プライミング, そこにない情報を追加する,およびそこにある情報を捨象するの3つをあげて いる(Pp。64-71,訳厚,87-95)。  ①プライミング  プライミングとは,注5)で説明したように,意識しないうちに覚えてし まう記憶のこと,あるいは覚えさせる手段のことであり,人間の行動に重大 な影響をもたらレている。事薗に歌手の藤圭子の話をしでおき,忘れてし まった頃に,花の名前をいくつかあげさせると,花の名前の中に「藤」が含 まれる可能性が高いという例からも,無意識の記億は,質問の答えに影響す るのである評プライミングは,無意識の思考に重要な影響を与え,プライ ミングを通じて,人に自分が思ってもいない思考や行勤を引き起こさせるこ とができるのである。  ②そこにない情報を追加する  nの5.の(1)で述べたように,脳は情報の再構成を行っているが,これが 裏目に肝てしまうのが情報の再構成を失敗した錯覚である。図2は,富永 (2006ドで紹介されているハーマン格子と言われる図である屈159)。この 図2を・見てもらうと,本当は格子の交差する部分は白なのにグレーに見えて しまう。しかも,交差点に見えるグレー・の形は丸く見える。このように,私 たちは,ある物事に関する判断を作り出す際に,無意識のうちにそこにはな い情報を追加しているのである。しかも,ハーマン格子の交差点には何もな いと分かった後でも,依然としてグレー・の丸い形が見えてしまうのである。 無意識のプロセスは,意識的な知識に相反し,それを凌駕する経験を生成し 17)Zaltman(2003)はレプライミングのマイナス面として「誘因効果」を・あげている(pp,  64-65,訳p,88)。例えば,禁煙キャンペーンは,しばしば喫煙者の喫煙を促進させると  いった逆効果の結果につながってしまうことなどをあげ,情報が時として望まざる行勣  や思考をプライミングしてしまうと述べている。

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エンパワ・-メントと記憶の操作 図2 ハーマン格子       (出所)富永(2006),159ペ・-ジ。 続けることになるのである(Zaltman 2003, p,66,訳p,90)。 −j男−  ③そこ,にある情報を捨象する  Zaltman(2003)によれば,私たちは実際よりも多くの情報を受けとめて いると思い込みがちであるが,目に入るはずの情報が目に入らないなど,私 たちの脳は情報を捨象レてしまうことがあると指摘している(pp,68-69,訳 p。 93)。なぜなら,人が経験の詳細の捨象を行うのは,意識して注意を払え る情報の量には限りがあり,もし,ある課題をうまくこなしたいと思えば, その課題に直接関わりを持たない剌激に捉われてはいられないからである。 これは,nの4.の(2)で述べたように,人の意識にのぼる情報は全体の0.001% に過ぎないことからも当然の現象と言える。  以上の巾と(2)から,意識にのぼる荊の無意識が,私たちの考えや行動を引き 起こす重要な要素として存在しでおり,私たちは,この無意識に働きかけるこ とができれば,人の考えや行動に大きな影響を与えることができるのである。 つまり,人の無意識を把握できれば,その人の考えや行動に影響を与えること ができる可能性が大きくなるのである。次の3レでは,メタファーを用いた方 法が,人の無意識を顕在化させることを示していく。 3.無意識を顕在化させるメタフアー  ここでは,メタファ・-が人の無意識を顕在化させる手段であることを明らか

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−j,9− 香川大学経済学部 研究年報 48 勿硲 にする。そのために,まず,(1)で,メタファ・−とは何かを説明し,次に,(2)で, なぜ,メタファーが無意識を顕在化できるのか,そして,(3)で,コアメタファ ーの構造を述べていく。以上を通して,メタファー・が人の無意識と意識を橋渡 しする手段であり,これが人の考えや行動に影響を与える犬事な基本要素であ ることを示レていく。  田 メタフア・一・とは  メタファーとは,一般的に,ある事柄を別の事柄で表現する方法である。メ タファーは,私たちを取り巻く環境の中で,私たちが知覚したものを解釈し, 世界そのものを知覚することを助けてくれるものである(Zaltman 2003, p, 38,訳p。59)。メタファーによって,新しい概念を理解し,経験を解釈し,新 しい経験から新しい意味を導き出すことが可能になるのである(Miller 2000)回zaltman(2003)は,「メタファー」という用語を広く定義し,シミリ ー(直l喩),アナロジー(類比),アレゴリー(寓喩)およびプロバーブにと わざ)などの全てを含むものとレている(p,77,訳p,101)。このようなメタ ファーは,言葉それ自体が持つ以上の認知プロセスを表現する手殴であるがゆ えに,言葉だけでは表現しきれない,あるいは全く捉えることができない重價 な思考を据り起ごすことが可能となるのである(p。77,訳p。101)。  (2)メタフアーが無意識を顕在化できる理由  上記(1)で述ぺたように,メタファ・−は,言葉だけでは表現しきれない,ある いは全く捉えることができない重l要な思考を据り起ごすことによって,無意識 を明らかにできるのである評では,なぜ,メタファーが重凄な思考を掘り起 こすことができるかというと,Plinz(2002)によれば,人は思考をする時に, 思考の「代理もしくは代役」の役割を担うコンセプトを必要・とレており(p, 18)Millel・(2000)は,科学がどのように進歩レてきたかを調査することによって,科学  が進歩する時には,メタファーが,利学を前進させるような新しい概念を人に理解させ  たり,新しい経験を解釈させたりするとともに,新しい経験の中から新しい意昧を導き  出させたりすることを可能にしたと述べている(pp 217-262)。

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エンパワ・-メントと記憶の操作 −j沼− 149),このようなコンセプトは抽象的なため,メタファーによって語られ,整 理・形成されることで理解できるようになることから(p。172),深層に隠れた 思考や思考のつながりを引き出すためには,メタファーを使用することが効果 的と考えられるからである肺つまり,思考自体が思考の中身を説明するため にメタファ・一を必要としているのである。  このようなメタファーを会話からうまく引き出し,解釈することができれ ば,表面的に考えている半柄だけでなく,心の奥底で考えている事柄も据り起 こすことができるのである(Zaltman 2003, p。78,訳p。103)。ただし,あるメ タファーがどのような意昧を有するかは,メタファーを使用する人が置かれた 社会状況や文化環境によって異なってくる(p,77,訳R,101)。  (3)メタフアーの構造とコアメタファー  Zaltman(2003)は,メタファーの対象となる思考や感情と同様に,メタファ ー自体にも,表層的・明示的なものもあれば,より深層的,暗黙的および無意 識的なものもあるとしている(p 93, 訳pp 121-122)。このうち,深層レペル のメタファーをコアメタファーと呼び,これを活用することによって,マーケ ティング相当者は消費者の消費行動に影響を与える重晏であるが隠れた要・素を 見つけることができると述べている。つまり,組織内に置き換えれば,コアメ 19)Zaltman(2003)は,メタファー・を使う側も,聞く側も,メタファー・を使っていること   自体や,メタファ・-がもたらす表現の重要性に気づかないことが多いが,メタファーは   思考や感情の表現の基本であり,視覚,触覚および嗅覚など,様々な種類のイメ・−ジ   を,言語を介することなく呼び起こすとともに表現することができるものと捉えている   (p99,訳p,129)。 20)メタファ・-を用いる問題点として次の2つをあげることができる。まず,Zaltman(2003)   は,メタファーに関して暗黙のうちに抱く思考を形式的に表出化し,メタファーの効果   をいかに引き出すかが難しい点,をあげている(pp,77-78,訳p 102)。例えば,ただ単に   消費者や組織成員が話レている面白そうなメタファーを拾い集めるだけでは意昧がな   く,また,メタファーがどのように機能するかを理解しなければメタファーの効果を引   き出せないと述べている。次に,Cytowic(2002)は,メタファー・が対象となるものの   ある側面を強調する時には,別の側面を覆い隠すことになる点をあげている(p 276)。   つまり,メタファー・は,特定の思考や感情を効果的に表現できる反面,別の思考や感情   を覆い隠すことにもなるのである。

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−j,何一         香川大学経済学部 研究年報 48      J認 タファーを活用することによって,管理者は,組織成員の行動に影響を与える 見えない要素を見つけ出すことが可能になるのである。  また,zaltman(2003)は,顧客の思考の中身なら,彼らの行動をよく観察 すれば分かると主張するマーケティング担当者や管理者を例に出し,確かに顧 客を観察することによって重要な知見を得られることもあるが,それは,マー ケティング担当者や管理者自身の提え方によって,消費者のどのような思考が 彼らのどういった行動となって表れているかを解釈しているに過ぎないと強調 レている(p,130,訳p。162)。すなわち,消費者の意識的な発言や行勁の結果 をドマーケティング担当者や管理者は,自分たちの解釈で理解しようとしてい るのであり,この時点で2つの過ちを犯レていることになるのである。 1つ は,個人の解釈で理解しようとすることであり,もう1つは,無意識ではなく 意識的な発言や行動を基に判断している点である。したがって,これを組織内 に置き換えれば,管理者が自分の思考に基づいて,胡織成員の目に見える行勣 や発話された言葉を解釈していたのでは,岨織成員が取った行動や発話した内 容の隠れた意昧を理解することはできなくなるのである。  以上の田から(3)を通して,メタファーが徊葉では表すことのできない,ある いは言葉にできないような無意識の思考を顕在化させ,人の無意識を解き明か す手段となることを示し,このようなメタファーがエンパワーする側の管理者 にとって,組織成員に影響を与える方法となることを明らかにレてきたレで は,人の無意識の思考を顕在化させることができるとして,無意識の何に働き かけることで,人の考えや行動に大きく影響を与えることができるのだろう か。次の4レでは,人の無意識を顕在化し,その無意識の奥に潜む記憶に慟き かけることで,人の考えや行動に影響を与洸ることができることを示していく。 4.無意識の記憶への働きかけ  上記3.で述べたように,人の考えや行動に影響を与よるためには,無意識 の思考を顕在化するとともに,無意識の奥に潜む記憶に働きかけなければなら ない。なぜなら,人間にとって最も影響力の大きい記憶,つまり消費者の行動

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      エンパワーメントと記億の操作         一j,侭− を最も左右する記憶は,往々にして私たちの無意識の奥深くに埋もれているか らである(Zaltman 2003, p,173,訳p 207)晰そして,Zaltman(2003)は,手 続き記憶や意昧記億,エピソード記憶を,顕在記億と潜在記憶に分けて,無意 識の奥にある記億を捉えようとしている(pp。172-173,訳pp。206-207)F)顕在 記億とは,自発的に想起することができる記億であり,潜在記億とは,私たち の思考や行動に強い影響を与えているにもかかわらずドすぐに,あるいは自発 的に想起することのできない記億である。  ここでは,まず,(1)で,記憶の作られ力を説明し,次に,(2)で,記億を脳に 刻み込み定着させるプロセスである記億の記銘・貯蔵のプロセスについて,ぞ 21)Schactel&Cunan(2000)は,無意識の記億のメカニズムと誤った記億(決して起こっ  たことのない出来事を意識的に思い起こしたもの)のメカニ。ズムの違いをごプライミン  グや誤った認識の例を用いて示し,無意識の記億の重要性を述べている(pp 829-836)。 22)Wilson(2000)は,記憶とは,その人自身の中にあるものだけでなく,その人を取り  巻く,環境の中にもあることを述べている(p,41)。例えば,身の周りの環境の中には,  キュ・-(合図)となるような,記憶することや思い出すことを助けるものが存在してお  り,その人が属する文化もその1つであると述べている(p,42)。また,Enge1(1999)は,  私たちの考え方や行動は,私たちが育ち,私たちの考え方や行動を使用してきた社会環  境でのみ意昧を持つとして,私たちが記億として認識しているものは,内(私たち自身)  と外(社会環境)のダイナミックな相互,作用によって生成されると述べている(p,10)。  このように,記億とは,その人自身の個人的なものであると同時に,社会的なものでも  ある。 Zaltman(2003)は,例えば,私たちは,無意識のうちに他者の行勣を観察し,模  倣することにより,自らの経験についての「何」や「なぜ」などの多くの意味知識を狽  得したり,学校教育や職業経験などを通じても意昧知識を身に付けたりすることから,  他者の存在や社会の制度は,私たちの意昧記憶やエピソ・-ド記億の形成に影響を及ぼす  ゲート・キ・-パー(門番)の役剖を果たすと述べている(p,196,訳p,231)。記億がいっ  たん形成されると,その内容は他者や制度,文化を通じて変容し,社会的記憶として蓄  積され,杜会的記憶は,掴語,ダンス,音楽,神話,物語,儀式,祭日,芸術,記念切  手,映画および教育機関などの中に宿り,意昧記憶ヤエピソード記億の維持や新たな創  造のために用いられる。共有された価値観や信念を通して,その社会では何が正,しく,  人は何を覚えておくべきかが定義されることになる。このように,記憶とは,個人的な  ものであると同時に社会的なものでもあり,私たちは記憶を個人的に体験する一方で,  記億の内容は,社会規範やアイコン(ブランド名やロゴなど)などの,私たちの周りの  至るところにも蓄積されることになる(pp,209-210,訳pp 244-245)。さらに,私たち  が記憶レていることとは,個人的に意味のある社会的・文化的なイベントを表象したも  の,つまりメタファ・-に他ならず,こうした記億は物語という形式で伝達され,社会的  に蓄積されるのである。メタファ・-は,様々な物語や記憶をつなぎ合わせる役割を持っ  ているのである。

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−j,%− 香川大学経済学部 研究年報 48 2008 レて,(3)で,記億を思い出すプロセスである記憶の想起のプロセスについて検 討レていく。これらを通して,無意識の奥に存在する記億が定着する,あるい は想起されるプロセスの中で,記億の改変と再構成が行われることを示し,こ の無意識のメカニズムに慟きかけることで,企業や管理者がエンパワ・-メント を行う際に,組織成員の考えや行勣に影響を与えることができることを明らか にしでいく。  (1)記憶の作られ方  Hの3.でも説明したように,出来事や経験は脳に記憶される。その時,物 理的には脳細胞上で電気化学的に刻み込まれることとなり,この刻み込まれた ものをエングラムと呼ぶ(Zaltman 2003, p。167,訳p。201)。エングラムは, Hの3.の(2)で説明したように,近時記憶から短期記億へ,そレて長期記億に なる場合もあればならない場合もある。長期記憶とレて残るものは,nの5. の(2)でも述ぺたように,特別な感情を抱いたものが多くなる。つまり,ある出 来事を脳に記億する時,すなわち記銘する時と想起する時には,感情やムード が影響を与えており,その感情やムードは,それらが起こったコンテクストに 関係している(pユ83,訳pp。218-219)。  このように,記億するためには,脳にエツグラムを刻み,それを海馬で何度 もリプレイしながら定着させることが不可欠となる。また,海馬でのリプレイ のために,人間の脳は複雑なデー・タペースのように,記憶をデータの小片とし て保存し,検索し,再集結レているのである(Zaltman 2003, p。171,訳p。205)。  さらに,Zaltman(2003)は,記憶の定着(貯蔵)に関して,記億の貯蔵あ るいは記銘は,記憶の想起と実質的には分離不可能であると捉えることで,記 億の定着(貯蔵)あるいは記銘のされ方が,記憶の想起に影響を受けることを 述べている(pp,174-175,訳p,209)。例えば,学習と記億の関係が,学習を 通じて新しい情報を獲得し,記憶を通じてその新しい情報を後で取り出す時の ために保存するという密接な関わりを持つプロセスであることからも(p。171, 訳p,205),記億の記銘あるいは貯蔵は,記憶の想起の仕方に影響を受けると 考えられる。

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      エンパワーメントと記億の操作         −j,卯−  以上のように,記億という行為は,感情やムードなどのコンテクストに影響 を受けながら,想起することを念頭において記銘あるいは貯蔵されるのである。  (2)記憶の記銘・貯蔵の仕方  zaltman(2003)は,記憶の記銘プロセスでは,私たちが見,聞き,嗅ぎ, 昧わい,触れ,考え,そして感じたことがエングラムとして脳細胞に送られる こととなるが,ある出来事・や事実をどのように記銘したかは,後にそれを思い 起こすかどうかを大きく左右するとレでいる(pp,174-175,訳p。209)。なぜ なら,想起しようとする意志が強くとも,実際に想起できるとは限らないから であり,ある情報を長期記億として貯蔵するには,徹底的に深く記銘すること が必要・となるのである[p]75,訳p。209)。  記憶の記銘の深さに関レては,刺激を様々なレペルで分析する「処理のレベ ル」に関する理論がある(zaltman 2003, p。175,訳p。209)。例えば,浅いレ ベルでは,紅瀧の色などを認識する場合のように,物理的あるいは感覚的な特 徴を認識し,深いレペルでは,紅,や黄の葉を見れば,秋の深まりを意昧し,寒 い冬がやって来ると認識する場合のように,人は,その色を見ればその物理的あ るいは感覚的な特徴がどのような意味を持っているかを分析するという理論で ある。したがって,刺激やキュー(合図)23)を浅いレペルで処理した場合には, その結果物としてのエングラムは長期保存されず,逆に,深いレペルで処理し た場合には,そのエングラムは長期保存され,思い出しやすくなるのである。  また,Pillemel(1998)は,視覚,聴覚,嗅覚および触覚など,知覚を剌激 するイメージを用いて表現することが,記億に現実味を付加し,まさに「再体 験」しているような感覚を引き起こすと述べている(p。50)。例えば,TVの コマーシャルで,お湯を注ぎたてのコーンスープをスプーンで掻き混ぜなが ら,その香りを嗅いでいる姿を見せることによって,視聴者に同じような感覚 を喚起することができるのである。このような知覚の刺激に関するイメージや 23)キューとは「合図」のことで,脳に刻まれたエングラムを活性化させる刺激である。   つまり,ある記億を呼び起こす,あるいは思い起こすための刺激のことである。例え   ば,紅葉の例で徊えば,葉の色や落ち葉などがキュー(合図)となり得るのである。

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−j卵− 香川大学経済学部 研究年報 48 即認 感情などは,記憶の記銘や記億を長期記憶にするために必要な要素となる紗  以上のような記億の記銘が行われた後は,想起されるまでの間に,nの5。 の(2)で述べたように,海馬で何度もリプレイされ,記憶が定着することになる のだが,このリプレイ中には,様々な記憶の断片がつなぎ合わされるなどの補 正が行われることで,記億が改変され,最終的に,それが本当の記憶となるの である。  (3)記憶の想起の仕方  nの5。の(2)で述べたように,記憶は,睡眠中に海馬でリプレイされること で再構成されている。この睡眠中の再構成に加えて,記憶は,新たな経験を通 じてそれを思い起こす度に変容する特徴も持っている(Zaltman 2003, p。165, 訳p。199)。つまり,記億は,新しい出来事や経験を通して思い起こす度に, 再構成されるものなのである茫)例えば,Rosenfield(1988)は,私たちが思い 出すことを,「現在」,この場面(コンテクストドで行っていることから,記憶 が記億となるのは,現在というコンテクストの中でのみ可能であり,現在とい うコンテクストの中で,記憶は構成され,意昧を持つと述べている(p。75,訳 24)Zaltman(2003)は,情報が長期記億に結び付くかどうかを左右する10個の要因を,   次のように例示している(p 176,訳p,210)。   ・自分にとって意昧がある(私らしいと思える物や事など)   ‥ムードに合っている(嬉しい気分の時には,嬉しい体験を記億し,想起する)   ・感情とつながっている(強い感情が絡んでいる)   ・・行動を伴う(望ましい行動結果が得られる)   ・・既存の概念と一貫性がある(既存の概念に組み込むことができる)   ・重大な結果をもたらす(誤解を招き不利益が生じる)   づ也とは異なる経験である(初めて経験するようなもの)   ・・驚くような経験である(考えや期待の域を超える)   ・・物語に発展する(記憶の中にある他の事柄を想起させる)   i・頻繁に起こる(反復的である) 25)Rosenfield(1988)は,知覚,経験,そして,その場のコンテ‘クストが渾然一体となっ   て「記億」を形成すると述べている(p 141, 訳p 157)。また,1つの絵を見た時に,   私たちの持つ文化的背景などの経験が,私たちの知覚の仕力に深く影響すること(p,   135,訳p 149),ある出来事が起こった時の情動が,出来事に重要性を持たせ,記億の   生成に影響すること(p,72,訳p 71),および想起しようとした時の巡想した感情が,   想起の仕方に影響すること(p,72,訳p 71)を・述べている。

参照

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