II.災害発生時の状況:なぜ地域連携が必要か
1 災害発生時の状況の概要
災害時に発生した状況と地域内の関係機関との連携が必要となった状況との対応関係を 整理したものが下表です。各項目で地域連携が必要となる状況が発生しており、平時から 関係機関と顔の見える関係を構築しておくことの重要性がわかります。2 特別養護老人ホーム施設内の状況
2-1.施設及び設備等ハード面の被害状況 (1)施設・施設周辺の被害 東日本大震災では津波による被害が甚大であり、高台等に立地している場合等を除き、 沿岸部から約3キロ以内に立地している施設の多くでは、津波により建物が全壊する等の 被害のほか、浸水やがれきの流入による1階部分の機能喪失、周辺地域でのがれきの散乱、 地割れ等による施設の孤立化等の被害がみられます。 一方、津波被害は免れた場合でも、地震の衝撃によって屋内配管が損傷したり、地中に 埋設された上下水管が破損する等の被害もみられます。 本章では、東日本大震災における被災事例をもとに、災害時における特別養護老人ホーム の被災状況について整理しています。(2)外部設備等の被害 ボイラー、貯水タンク、受水槽、浄化槽等の外部設備については、津波で流出するといっ た被害のほか、タンクにひびが入ったり、浸水や押し流されてきたがれきによって破損す るといった被害も発生しています。このため、入浴や洗濯・炊事ができなくなった例が多 くみられました。このほか、1階部分に設置していた配電盤が津波被害によりショートし 発火するなど、電気設備の損傷被害も報告されています。 また、非常用の自家発電設備が津波被害に遭い、使用不可能となったケースでは、電気 の復旧がままならず、ケアの継続に影響を来す例が複数施設においてみられました。
2-2.職員の安否確認や参集状況・就業状況
(1)職員の安否確認状況 東日本大震災発生時は各施設とも混乱を極め、職員全員の安否確認に3週間近くを要す る例があったほか、連絡網による安否確認体制を採用していた施設の多くでは、停電や輻 輳により固定電話・携帯電話がともに長期にわたりつながりにくい状態となり、ほぼ機能 しなかった等、職員の安否確認体制については課題が多くみられています。 (2)職員の参集状況 東日本大震災は3月 11 日(金)の午後2時過ぎに発生し、平日の通常勤務時間帯であっ たことから、職員の参集状況に関して課題となった点は特に報告されていませんが、被災 施設では、夜間時等、職員数が不足した状態での発災を想定し、事前対策を検討すべきと の意見が多く出されています。 (3)職員の就業状況 2-1.(1)で述べた施設孤立の状況や地域避難者の受入等、業務が多忙を極めたこと等に より、職員が継続勤務せざるを得ない状況や自宅の被災等に伴う泊まり込み勤務が長期化 したことから、発災から1か月は特に厳しい就業状況となったことが報告されています。 また、施設が使用不可となり、別施設に間借りするかたちで避難した施設では、施設を 自由に使えないといった不自由さ、肩身の狭さ等が予想された以上に職員のストレスとな り、多数の職員の退職につながった例もありました。 遠方から通勤していた職員がガソリン不足の影響で出勤できなくなるケースなど、通勤 上の問題も指摘されています。 また、職員も家族を亡くしたり、自宅を失ったり等、自身も被災者となるなかで勤務を 続けるケースがほとんどであり、非常時の緊張感と相まって、個々にかかる精神的・肉体 的負荷は相当なものとなっており、結果、職員の辞職が続出するといった例も複数施設においてみられました。 一方、こうした状況のなか、早期に職員が不安やストレスについて話し合い、共有する 場を設け、職員の心のケアに努めた例もあります。
2-3.ライフライン及び備蓄物資等の状況
(1)ライフラインの状況 東日本大震災時、ライフラインは、電気、ガス、上下水道、通信のほぼすべてが停止し、 多くの施設で機能停止に陥っています。こうしたなか、大型自家発電機や燃料備蓄を有す る施設では、停電時でも自力でのケアの継続が可能な例もありました。また、オール電化 導入施設では、電気の停止によりあらゆる機能が停止しました。 (2)備蓄物資等の状況 各施設では、備蓄物資は事前に準備されていたものの、施設の津波被害や浸水被害を考 慮した配置がなされておらず、いずれも施設1階部分や外部の平屋倉庫に保管されていた ことから、浸水・流失といった被害により物資そのものが利用できなくなるといったケー スが多く見られました。一方で、備蓄物資を2階に保管していた施設では、かろうじて津 波被害を免れた例もあります。 また、備蓄物資の対象や内容について、多くの施設では利用者分のみを想定し備蓄物資 が準備されていたため、職員分の飲食料・その他生活用品の慢性的な不足が続いたほか、 女性職員が多いことから、女性用の日用品や生理用品等が不足し支障を来していました。 地域によっては、職員は発災から一定程度時間が経過しても1日2回と限定的に食事を取 らざるを得ない状況もありました。さらに、冬場であったことから、毛布など暖を取るた めの備蓄品が不足しました。 さらに、施設の孤立状況が続いたり、外部からの支援が届く見通しが立たなかったこと 等から、職員自ら外部機関に飲食料を調達しに出向いたケースもあります。2-4.利用者の安全確保・避難誘導・受入施設の検討等の状況
(1)利用者の安全確保・避難誘導の状況 利用者の安全確保・避難誘導の状況について、浸水被害や津波被害を想定し、日常的に 利用者の上下階移動を伴う避難訓練を実施していた施設では、スムーズに避難誘導、安全 確保が実施できました。 一方、特養利用者については避難に時間を要し、津波到来までに間に合わず逃げ遅れる といったケースや、避難場所への搬送中に津波に巻き込まれるケースのほか、連絡体制の 不備により利用者が中庭に取り残されるケース、平屋建ての施設では、特に自力で動けな い利用者が避難する場所が無く、多数の利用者、職員が津波にのまれ亡くなられた例もあるなど、安全確保・避難誘導面での課題が多く指摘されました。 (2)受入施設の検討状況 災害により施設の継続利用が困難となった場合には利用者の受入施設を迅速に検討する 必要があります。東日本大震災により施設が継続困難となったケースでは、入所先の選定 についてはほぼ施設長・理事長の個人的な関係やつながりに依存しており、法人間、施設 間のネットワークを活用した広域での調整機能の欠如が課題となりました。また、平時か ら相互受入に関する覚書きや協定等を締結しておく必要性についても指摘されています。 また、受入施設の検討段階において、家族の同意は得たものの、利用者本人の承諾まで 得る余裕がないなどの問題もあります。