ルートヴィヒ・ベヒシュタイン編著
『ドイツ伝説集』
(一八五三)試訳(その七)
鈴
木
滿
訳・注
*凡例 1. ル ー ト ヴ ィ ヒ・ ベ ヒ シ ュ タ イ ン 編 著『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 一 八 五 三 )( 略 称 を D S B と す る ) の 訳・ 注 で あ る 本 稿 の 底 本 に は 次 の 版 を 使用。 Deutsches Sagenbuch von Ludwig Bechstein. Mit sechzehn Holzschnitten nach Zeichnungen von A. Ehrhardt. Leipzig, Verlag vonGeorg Wigand. 1853. ; Reprint. Nabu Press.
初版リプリント。因みに一〇〇〇篇の伝説を所収。 2.DSB所載伝説の番号・邦訳題名・原題は分載試訳それぞれの冒頭に記す。 3.ヤーコプとヴィルヘルムのグリム兄弟編著『ドイツ伝説集』 (略称をDSとする)を参照した場合、次の版を使用。 Deutsche Sagen herausgegeben von Brüdern Grimm. Zwei Bände in einem Band. München, Winkler Verlag. 1981. Vollständige
Ausgabe, nach dem Text der dritten Auflage von 1891.
因みに五八五篇の伝説を所収。 なお稀にではあるが、DSの英語訳である次の版(略称をGLとする)も参照した。 The German Legends of the Brothers Grimm. Vol. 1/2. Edited and translated by Donald Ward. Institute for the Study of Human
Issues. Philadelphia, 1981. 4. D S B 所 載 伝 説 と D S 所 載 伝 説 の 対 応 関 係 に つ い て は、 分 載 試 訳 冒 頭 に 記 す D S B の 番 号・ 邦 訳 題 名・ 原 題 の 下 に、 ほ ぼ 該 当 す る D S の 番 号・ 原 題 を 記 す。 た だ し、 D S B 所 載 記 事 の 僅 か な 部 分 が D S 所 載 伝 説 に 該 当 す る 場 合 は こ こ に は 記 さ ず、 本 文 に 注 番 号 を 附 し、 「DS***に詳しい」と注記するに留める。 5. 地 名、 人 名 の 注 は 文 脈 理 解 を 目 的 と し て 記 し た。 史 実 の 地 名、 人 名 と の 食 い 違 い が 散 見 さ れ る が、 こ れ ら に つ い て は 殊 更 言 及 し な いことを基本とする。ただし、注でこれが明白になる分はいたしかたない。 6. 語 ら れ て い る 事 項 を、 日 本 に 生 き る 現 代 人 が 理 解 す る 一 助 と な る か も 知 れ な い、 と、 訳 者 が 判 断 し た 場 合 に は、 些 細 に 亘 り 過 ぎ る 弊 が あ ろ う と も、 あ え て 注 に 記 し た。 こ う し た 注 記 に お け る 訳 者 の 誤 謬 へ の ご 指 摘、 お よ び、 こ の こ と に つ い て も 注 記 が 必 要、 と い っ たご高教を賜ることができれば、まことに幸いである。 7.伝説タイトルのドイツ語綴りは原文のまま。 8.本文および注における〔 〕内は訳者の補足である。 『ドイツ伝説集』試訳(その一) 一
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六〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第一・二号一一七〜二三五ページ、 平成二十四年十一月 『ドイツ伝説集』試訳(その二) 六一─
九〇 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第三号四六三〜二三五ページ、平 成二十五年二月 『ドイツ伝説集』試訳(その三) 九一─
一三四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十四巻第四号七五〜一七六ページ、平成 二十五年三月 『ドイツ伝説集』試訳(その四) 一三五─
一八四 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第一・二号一五七〜二八五ページ、 平成二十五年十一月 『ドイツ伝説集』試訳(その五) 一八五─
二二五 所収「武蔵大学人文学会雑誌」第四十五巻第三・四号九五〜一八〇ページ、 平成二十六年三月 『 ド イ ツ 伝 説 集 』( 一 八 五 三 ) 試 訳( そ の 六 ) 二 二 六─
二 八 八 所 収「 武 蔵 大 学 人 文 学 会 雑 誌 」 第 四 十 六 巻 第 一 号 二 〇 九 〜 三 三 〇 ページ、平成二十六年十月*本分載試訳(その七)の伝説 二八九 鉄 アイゼンベルク 山 の話 Vom Eisenberg. 二九〇 ヴェッター 城 ブルク Wetterburg. 二九一 シェルピルモント Schellpyrmont. *DS109 Hessental. 二九二 九 きゅうちゅうぎ 柱 戯 の 黄 こ が ね 金 の 柱 ピ ン
Der goldene Kegel.
二九三 五本の 柏 アイヒェ の下に出る物の 怪 け
Spuk unter den fünf Eichen.
二九四
ハーメルンの子どもたち
Die Kinder von Hameln.
*DS245 Die Kinder zu Hameln.
二九五 聖 ザンクト ウィトゥスの贈り物 St. Viti Gaben. 二九六 天使と 百 ゆ り 合
Engel und Lilien.
*DS264 Die Lilie Kloster zu Colvey.
二九七 ヴィルベルクの乙女 Das Fräulein von Willberg. *DS159. Die Nußkerne. / *DS315 Das Fräulein vom Willberg. 二九八 池から出て来た馬
Gaul aus dem Pfuhl.
二九九 巨 ヒ ュ ー ネ ン 人たち Die Hünen. 三〇〇 ア ア ー メ ル ン ゲ ン ーメルング一族 Amelungen. 三〇一 小 ツヴェルク 人 の揺り 籠 か ご Die Zwergen-Wiege. 三〇二 許 ブラウト シ ュタイン 嫁の石 Der Brautstein. 三〇三 泣 ヴェークラーゲ き女 Die Wehklage. 三〇四 塩の 牝 めすいのしし 猪 Die Salz-Sau.
三〇五
剥 む
きだしの鏡
Der nackte Spiegel.
三〇六 ブレーメンのローラント Bremer Roland. 三〇七 神の戦 Gottes Krieg. 三〇八 七つの足跡
Die sieben Trappen.
三〇九 薔 ヒ ル デ ・ シ ュ ネ ー 薇の雪 Hildeschnee. 三一〇 帽 ヒ ュ ー ト ヒ ェ ン 子小人 Hütchen. *DS75 Hütchen. 三一一 イルメン 柱 ゾ イレ Irmensäule. 三一二 ハインリヒ 獅 デア・レーヴェ 子 公 の話
Von Heinrich dem Löwen.
*DS526 Heinrich der Löwe.
三一三 死んだ 許 いいなずけ 嫁
Die todte Braut.
三一四
コールベックの踊り手たち
Die Tänzer von Kolbeck.
*DS232 Die Bauern zu Kolbeck.
三一五 クレッペル Die Kröppel. *DS154 Der Zug der Zwerge über den Berg / *DS155 Die Zwerg bei
Dardesheim. / *DS156 Schmied Riechert.
三一六
焔 ほのお
に包まれた伯爵
Der Graf im Feuer.
三一七 ハ ッ ケ ル ン ベ ル ク と ト ゥ ー ト ・ オ ー ゼ ル
Der Hackelnberg und die Tut-Osel.
*DS311 Des Hackelnberg
Traum. / *DS312 Die Tut-Osel.
三一八 底 グルントロース 無し Das Grundlos. 三一九 巨人の血 Hünenblut. *DS326 Das Hünenblut. 三二〇 人 ヴェーアヴォルフ シ ュタイン 狼 の 石 Wärwolfstein. *DS215 Der Werwolfstein.
三二一
クロッペンシュテットの蓄え
Der Croppenstädter Vorrath.
*DS583 Der Kroppenstedter Vorrat.
三二二 クヴェードル Quedl.
*DS488 Quedl, das Hündlein.
三二三 エ エ ル ブ ユ ン グ フ ァ ー ルベの乙女 Die Erbjungfer. *DS60 Die Erbjungfer. 三二四 マクデブルクの建設 Magdeburgs Erbaung. 三二五 戦争の前兆 Kriegs-Vorzeichen.
*DS145. Verkündigung des Verderbens.
三二六 魔術の目 眩 く ら まし Zauberverblendung. 三二七 カピストラーヌスの 最 カルディナールスビルネ 上 梨 Capistranus Cardinalsbirne. 三二八 ヴォルミーアシュテットの名 Wolmirstätts Name. 三二九 イーゼルン・シュニッベ Isern-Schnibbe. 三三〇 ソリス・ヴェルテ Solis-welte. 三三一 杖に詰まったドゥカーテン金貨
Stock voll Dukaten.
三三二
テッツェルと騎士
Tetzel und der Ritter.
三三三
月の中の糸紡ぎ女
Die Spinnerin im Mond.
三三四 アーレントゼー Arendsee. *DS112 Arendsee. 三三五 教 ム ッ タ ー 母 エメレンツィア Mutter Emerentia. 三三六 オスターブルクの災厄 Osterburger Pech. 三三七 赤 ロ ー テ ・ フ ル ト い浅瀬
Die rothe Furth.
三三八
同時に二人の妻
三三九 乙女ローレンツ Jungfrau Lorenz. 二八九 鉄 アイゼンベルク 山 の話 ヴ ァ ル デ ッ ク 領 に は 高 山 が 聳 そ び え て い て、 そ の 頂 き に は 城 が あ っ た。 山 も 城 も 同 じ 名 で 鉄 ア イ ゼ ン ベ ル ク の 山 で あ る。 こ の 山 は 鉄鉱石を豊富に内蔵、城には遠い昔雄雄しきヴァルデック伯爵家が君臨していた。この高貴な一族の多くがこの城 で生まれ落ちたのである。もっともアイゼンベルクは鉄のみならず黄金も産出、山中では長い間並並ならぬ生産量 の黄金採掘場が稼動していた。しかしその後城は 廃 は い き ょ 墟 と化し、かつての栄華は今いずこ、採掘場は放棄された。 ある日のこと、一人の羊飼いが人気のない山の高みで羊群の番をしていた。真昼時、体を休めよう、と 接 に わ と こ 骨木 の 樹の下で横になったが、目を覚ますと辺りはもう薄暗くなり始めていた。羊たちはおとなしく周りに寝そべってい たが、群れを先導する 牡 お 羊が見当たらなかった。するとこの牡羊が哀れっぽくめええと 啼 な くのが聞こえたので、忠 実な獣の声のする方へ向かった。するとなんと、古城の崩れた穴蔵の丸天井からきらきらする光が漏れ、地下室に 牡羊が立っており、その 傍 そ ば に古いターラー銀貨をぎっしり盛った 大 お お な べ 鍋 があるではないか。羊飼いはすぐさま穴蔵へ 下り、 鷲 わ し 摑 づ か みにして 隠 ポ ケ ッ ト し という 隠 ポ ケ ッ ト し 、それから 被 か ぶ っていた帽子に銀貨を詰め込んだ。それから牡羊を優しくこづい て「 お め え っ て や つ は ま あ、 と ん で も ね え ど 畜 生 だ あ よ う 」 と 声 を 掛 け た。
─
こ う 口 に 出 し た 途 端、 穴 蔵 の 上 の開口部に髪も 髭 ひ げ も真っ白で、血のように赤い縞の入った白い長上衣を着込んだ老人が立ちはだかり、 白 し ろ が ね 銀 の角笛 を口に当てると、なんとも激しい音色で吹き鳴らしたので、木木は突風に 遭 あ ったようにどうどうとざわめき、穴蔵 は 轟 と ど ろ と ど ろ 轟 と 鳴 り ど よ も し、 大 地 は 震 動 し た。 こ の 恐 ろ し い 響 き に 羊 飼 い は 目 も 眩 く ら み 耳 も 聞 こ え な く な り、 取 っ た 金 ( ) 1を 悉 ことごと く 投 げ 出 し、 途 方 も な い 怯 き ょ う だ 懦 恐 怖 に 包 ま れ、 失 神 し て 老 人 の 足 元 に く ず お れ た。 そ う し て 長 い こ と 倒 れ て い たが、意識を取り戻すと真っ昼間で、地面の上にいた。持ち物は 傍 そ ば に散らばっており、羊の群れも同じく傍に寝そ べっていた。 失 な くなった物は何もなかった。ただし例の金、例の穴蔵、例の鍋は影も形も見えず、穴蔵への崩れ落 ちた入口さえ消え失せていた。 二九〇 ヴェッター 城 ブルク ヴ ァ ル デ ッ ク 領 に は あ の 古 き ヴ ェ ッ タ ー 城 ブルク も 聳 そ び え て い る。 こ の 城 の か な り の 部 分 は 残 っ て い て、 ま だ 人 の 住 め る状態である。ヴェッターブルクはかつてヴァルデック伯フィリップ二世 の居城であり、伯爵はマインツ大司教ア ルブレヒト
─
鉄の手の騎士ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン と 私 フ ェ ー デ 闘 状態にあった─
と同盟を結んでいた。そ こでゲッツは、ヴァルデック伯を引っ 攫 さ ら おう、と思いつき、手の者を従えて幾つもの地方を抜けヴェッターブルク に近づき、城からダールハイム〔修道院〕 に通じる道の 傍 そ ば に 潜 ひ そ んだ。ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンがそうやっ て 待 ち 伏 せ し て い る と、 た ま た ま 羊 飼 い が 一 人 羊 群 の 番 を し て い る の が 目 に 入 っ た。 す る と な ん と─
突 然 森 の 中 か ら 五 頭 の 狼 おおかみ が 跳 び 出 し て、 群 れ に 襲 い 掛 か っ た の で あ る。 こ の 光 景 を 見 聞 き し て─
ゲ ッ ツ 自 身 の 語 る と こ ろ に よ れ ば─
彼 の 荒 く れ た ド イ ツ 騎 士 魂 は 歓 喜 し、 彼 は 狼 ど も の 幸 運、 そ れ か ら 自 ら の 幸 運 を も 祈 っ て「 首 尾良くやれい、仲間たち。首尾良くやれい、いずれにおいてもな」と狼に向かって叫んだ。こうした吉兆が示され た時、ヴァルデック伯フィリップがヴェッターブルクから下りて来たので、ゲッツはパーダーボルンの地で伯爵を 襲 撃、 捕 虜 に し、 そ れ か ら ま ず ケ ル ン 大 司 教 領、 次 い で 伯 爵 自 身 の 所 領、 そ れ か ら ヘ ッ セ ン 方 ラ ン ト グ ラ ー フ 伯 領、 そ こ か ら ( ) 2 ( ) 3 ( ) 4 ( ) 5 ( ) 6更にヘルスフェルト大司教領、そこからフルダ、ヘンネベルク伯爵領、更にザクセンの邦とヴュルツブルク大司教 領 と バ ン ベ ル ク を 通 り、 ニ ュ ル ン ベ ル ク 辺 マ ル ク グ ラ ー フ 境 伯 領 と バ イ エ ル ン 領 プ フ ア ル ツ に 入 り、 と う と う ヴ ァ ル デ ッ ク 伯 の 拉 ら ち 致 連行先である場所、すなわち、神に 愛 め でられしシュヴァーベンの邦にある自城に 辿 た ど り着いた。さてここに落ち 着 い た ゲ ッ ツ・ フ ォ ン・ ベ ル リ ヒ ン ゲ ン は、 遠 征 に 起 因 す る 多 額 の 経 費 お よ び 捕 虜 に 掛 か っ た 飲 食 宿 泊 代 を 計 算。 「伯爵殿がこれを償還なされば、再び解き放って進ぜよう。さよう、旅費はたんだ百グルデンでようござる、して、 こ れ に 加 え て 更 に 八 千 グ ル デ ン 頂 ち ょ う だ い 戴 い た せ ば 」
─
ヴ ァ ル デ ッ ク 伯 フ ィ リ ッ プ 二 世 を 自 由 の 身 に す る、 と 言 っ た もの。伯爵の忠実な同盟者マインツ大司教アルブレヒトは伯爵釈放のため 鐚 び た 一 い ち も ん 文 出そうとしなかったし、さりとて ゲ ッ ツ 攻 略 の 軍 を 催 す こ と な ど 思 い も 寄 ら な か っ た。 そ こ で 虜 と り こ 囚 は 己 お の が 白 し ら が 髪 を 一 房 切 り 取 り、 子 息─
同 名 フ ィ リ ッ プ─
に 手 紙 を 書 き、 身 代 金 を 届 け て く れ る よ う、 切 切 と 訴 え た。 子 息 は 金 を 支 払 い、 老 父 を 迎 え 取 り に コーブルク─
ゲッツはそこまで捕虜を護送させた─
まで出向いて、父君を涙ながらに抱き締めた。伯爵は二 十週間に及ぶ拘留 後も捕らわれた時と同じ上衣を着ていたが、 有 う い 為 転変は世の習い、幸運は移ろうもの、雨降って 地固まり、悲しみあれば 歓 よろこ び 来 き た る、等等といった金言で子息を慰めた。 ヴ ェ ッ タ ー ブ ル ク を 訪 れ た 旅 人 は こ こ か ら ヴ ェ ス ト フ ァ ー レ ン の 赤 き 大 地 の 美 し い 一 部 を 展 望 す る こ と が で き る。 こ の 地 で は か つ て 聖 デ ィ ー ・ ハ イ リ ゲ ・ フ ェ ー メ な る 結 社 が 峻 し ゅ ん れ つ 烈 な 判 決 を 下 し、 執 行 し た。 特 に 知 ら れ て い る の は 往 昔 の 結 フ ェ ー メ 社 法 廷 の 町 フォルクマールゼン である。ここの郊外の「 葦 あ し は ら 原 に皇帝秘密裁判の畏敬すべき王立法廷」 が設置され「真正なる秘 密陪席判事らと聖なる秘密検察官八人」 が裁きの座に着いたものである。こうしたなんともぞっとする話は騎士道 小 説『 ク ル ト・ フ ォ ン・ デ ア・ ヴ ェ ッ タ ー ブ ル ク あ る い は 目 に 見 え ぬ 上 長 た ち 』 で 読 む こ と が で き る。 も っ と も、 何もかも本当というわけではない。なにしろフォン・デア・ヴェッターブルクと名乗った、もしくは書かれた騎士 ( ) 7 ( ) 8 ( ) 9 ( ) 11 ( ) 11 ( ) 12 ( ) 13は存在したことがないのだから。この城の古い穴蔵には 結 フ ェ ー メ 社 裁判官を主題にした情緒たっぷりな言い伝えなどなく て、 火 ブ ラ ン ト ヴ ァ イ ン 酒 の 樽 た る の 恰 か っ こ う 好 を し た 極 め て 散 文 的 な お 化 け が 出 る、 と い う 話 が あ る だ け。 た だ し こ や つ は ご く 性 悪 で 危 険な妖怪である。 二九一 シェルピルモント 華 や か な 温 泉 地 ピ ル モ ン ト を 去 る こ と 一 時 間 の と こ ろ に シ ェ レ ン 山 ベルク が 聳 そ び え て い る。 こ の 山 の 頂 き に は か つ て 大 層 古 い 城
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そ の 起 源 は ド イ ツ 先 史 時 代 の ご く 初 期 に 遡 さかのぼ る─
が あ っ た。 伝 説 に よ れ ば、 こ こ に は ケ ル ス キ 族 の ヘ ル マ ン の 妻 ト ゥ ス ネ ル デ が 住 ん で い た、 と の こ と。 ト ゥ ス ネ ル デ は 人 語 を し ゃ べ れ る 小 鳥 を 一 羽 飼 っ て い た。 この小鳥は国中を飛び回って来ては、彼女に 新 ニ ュ ー ス 情報 を伝えた。さて、ある日のこと、いつものように飛んで戻って 来た小鳥は、こう叫び続けた。 「 ヘ ヘ ッ セ ン タ ー ル ・ ブ ラ ン ク ッセン谷ピッカピカ ! ヘ ヘ ッ セ ン タ ー ル ・ ブ ラ ン ク ッセン谷ピッカピカ !」 こ う し て、 ロ ー マ 軍 が ヘ ッ セ ン 谷 タール を 行 軍 中 で あ る こ と を 告 げ た の だ。 ロ ー マ 兵 の 甲 か っ ち ゅ う 冑 と 武 器 が 谷 を 燦 き ら め か せ て い たので。そこでトゥスネルデは、夫の指揮する軍勢が接近中の敵軍を迎え撃つ準備を調えられるよう、すぐさまヘ ルマンの 許 も と に何人も急使を送った。 後 世 シ ェ レ ン 山 ベルク は ペ レ モ ン ト 伯 爵 家 の 所 有 と な っ た。 こ の 山 が 領 内 に 位 置 し た 伯 爵 一 族 の 名 は〔 ラ テ ン 語 で 〕 ( ) 14 ( ) 15 ( ) 16 ( ) 17 ( ) 18ぺ ペ ト リ ・ モ ー ン ス とるすノ山 、フランス語でピエール・モンに由来、これが結局ピルモントになったそうだ。フリードリヒ 赤 バ ル バ ロ ッ サ 髭帝 が ケ ル ン 大 司 教 フ ィ リ ッ プ に ヴ ェ ス ト フ ァ ー レ ン の こ の 地 方、 も し く は 全 ヴ ェ ス ト フ ァ ー レ ン を 封 土 と し て 与 え、 大 司 教 は シ ェ レ ン 山 ベルク に 新 た に 堅 固 な 要 よ う さ い 塞 を 築 き、 使 徒 ペ ト ル ス を 讃 た た え て こ の 城 に ぺ ペ ト リ ・ モ ー ン ス と る す ノ 山 な る 名 を 付 け た か ら だ、 と。 こ れ を 信 じ る 信 じ な い は ど な た も ご 自 由。 た だ し、 ハ レ、 エ ア フ ル ト そ の 他 の 近 郊 に ペ ー タ ー 山 ベルク は た くさんあるが、そのいずれからもピルモントという名の者が出た 例 た め しは知らぬ。シェルピルモントの 廃 は い き ょ 墟 は御多分 に 洩 も れず宝物探しどもの掘り返すところとなったが、特筆すべき物は何も見つかってはいない。 二九二 九 きゅうちゅうぎ 柱 戯 の 黄 こ が ね 金 の 柱 ピ ン ア エ ル ツ ェ ン 近 郊、 ピ ル モ ン ト と ハ ー メ ル ン の 間 に、 リ ュ ー ニ ン グ ス 山 ベルク が あ る。 山 頂 の 美 し い 緑 な す 芝 生 の 上 で は 、 夜 に な る と 白 装 束 の 妖 精 た ち が 黄 こ が ね 金 の 球 ボール と 黄 こ が ね 金 の 柱 ピ ン で 九 柱 戯 遊 び を し た 。 ゴ ロ ゴ ロ リ ン リ ン 鳴 る 音 に し ば し ば小鳥たちは夢を覚まされ、森の獣たちはやって来て、興味 津 し ん し ん 津 、 繁 し げ みの中から頭を突き出して 覗 の ぞ いた。もっとも 人間はあえて近づこうとしなかった。なにしろそんなことをしようものなら、なんとも知れぬ恐怖に取り 憑 つ かれた からである。それでもとうとうある向こう見ずな織物職人が勇気を奮い起こして、 黄 き ん 金 の 柱 ピ ン は木でできた 機 は た 織り台 なんかより値打ちがあらあ、と考え、妖精たち相手に運を試してみようとした。ある暖かい夏の宵、職人はリュー ニングスベルクに登り、森に踏み込み、例の妖精の芝生に近づいた。すると小さな白装束の山の精たちが九柱戯に 熱 中 し て い た。 柱 ピ ン 立 て 係 の 男 の 子 連 な ん ぞ は 不 要。 と い う の も 球 ボール は ひ と り で に 戻 っ て 来 た し、 柱 ピ ン も ひ と り で に む っ く り 起 き 上 が っ た の で。 球 ボール は 矢 の よ う に 早 く 唸 う な り を 挙 げ て 転 が り、 柱 ピ ン は チ リ ン カ ラ ン と 倒 れ、 獣 た ち は ち ら ( ) 19 ( ) 21
ちら覗き見し、小鳥たちは枝の間でぶらんこ遊び。ひゅっと弾かれた 柱 ピ ン が一本、びくびくわなわな繁みの中に伏せ ていた織物職人の方へ勢いよく転がって来た。若者はこれをぱっと手に取るやいなや、もう無我夢中、体を起こし て逃げ出した。 柱 ピ ン が一本 失 な くなるのを見た精たちはすぐさま泥棒の跡を追い掛ける。こちらはいち早く山裾の野原 を越えて一目散。と、そこにはフンメ川が流れていて、一本の丸太が岸から岸へと橋代わりに横たわっていた。織 物職人がぼろぼろの木の幹に足を乗せた時、精たちがもうすぐ後ろに迫っているのに気付いたので、泡を 喰 く って踏 み誤り、 ざんぶと小川に転落した。するとわやわやこう叫ぶ声。 「きさまあ運の好いやつだ。おれたちは水の中じゃ あ何もできん。地面の上で追いついてたら、きさまの 頸 く び を 捻 ひ ね ってやったのに」 。
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そうしてふっふっと消え去っ た。若者はと申せば 柱 ピ ン をしっかと抱え込み、無事に家へ帰り着き、 柱 ピ ン の黄金で家を買い、可愛いあの 娘 こ に結婚を申 込 み、 幸 せ に な っ た。 水 車 小 屋 導 水 路 の 畔 ほとり に い ま だ に そ の 家 が あ り、 家 の 前 に は 大 き な 科 リ ン デ の 木 が 聳 そ び え て い る。 リューニングスベルクにはこれまたいまだに山の精たちの九柱戯場が残っている。ただし妖精たちが九柱戯遊びを することはもうない。なにしろ九本目の 柱 ピ ン が盗まれてしまったので。 二九三 五本の 柏 アイヒェ の下に出る物の 怪 け ア エ ル ツ ェ ン 近 郊 に ゼ ル ク セ ン な る 村 が あ る。 村 の 傍 そ ば に 昔 五 本 の 柏 アイヒェ の 老 樹 が 聳 そ び え て い た。 今 な お 残 っ て い る の は 三 本 だ け。 し か し 住 民 は 相 変 わ ら ず「 五 本 の 柏 アイヒェ の 下 」 と 呼 ぶ。 そ こ に は 夜 毎 不 気 味 な 物 の 怪 が 徘 徊・ 跳 ち ょ う り ょ う 梁 す る。 鎖 を じ ゃ ら じ ゃ ら 引 き ず る、 皿 の よ う に 大 き く 燃 え る 目 の 巨 犬 数 頭、 三 本 脚 の 野 兎 うさぎ が 何 匹 も、 近 く の 死 ト ー テ ン ベ ル ク 人 山 か らふわふわやって来た絞首台野郎ども、真っ黒けな 大 おおがらす 鴉 が何羽か、 梟 ふくろう のようにでっかい 蝙 こ う も り 蝠 の数数、 こういっ ( ) 21 ( ) 22た 輩 やから が 入 り 乱 れ て 走 っ た り、 這 は っ た り、 翔 と ん だ り。 お ぞ ま し い 容 姿 の 素 っ 裸 の 娘 ら が 踊 る の を 見 掛 け る こ と も あ る。 あ る 時 二 人 の 若 者 が 仕 事 先 の グ ロ ー セ ン ベ ル ケ ル か ら ゼ ル ク セ ン へ 帰 っ て 来 た と こ ろ、 五 本 の 柏 アイヒェ の 下 で 妙 ち きりんな化け物に出くわした。そやつには頭も無ければ手足も無く、彼らの方へふらふらやって来て、ううっと 呻 う め き 声 を 発 し た の だ。 若 者 の 一 人 は 思 い 切 っ て 立 ち 向 か お う と し た が、 幸 い も う 片 方 が 引 き 戻 し た。
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夜 遅 く 患 者 の 往 診 を 済 ま せ た ア エ ル ツ ェ ン の さ る 老 外 科 医 が 五 本 の 柏 アイヒェ の 傍 を 通 り 掛 か る と、 道 端 に 一 羽 の 白 い 家 兎 が い た。 そ こ で 外 科 医 は 捉 つ か ま え て 外 科 道 具 囊 ふくろ に 入 れ、 担 い で 歩 き 続 け た。 と こ ろ が 進 む に 連 れ て 囊 は ど ん ど ん 重 く な り、最後にはもう担げなくなったので、下ろして開いた。すると 鬼 き た い 胎 のような、途方もなく 厭 い と わしい代物が中から にゅうっと出現、ふうっと 啀 い が み掛かったので、外科医は走れるだけ走って逃げ、囊は中の一切合切ともども置いて き ぼ り に し た。─
ま た 別 の あ る 時、 こ れ も 夜 更 け の こ と、 一 人 の ユ ダ ヤ 人 が や っ て 来 る と、 鵞 が ち ょ う 鳥 が 一 羽 い た。 「 お や ま あ 」 と ユ ダ ヤ 人 は 考 え た。 「 こ ん な 見 事 な 鵞 鳥 を 夜 中 こ こ に 放 り っ ぱ な し に し て お く 手 は な い て。 わ し が 貰 も ら って行って、太らせてやろう」 。けれども鵞鳥はすぐには捉まろうとせず、ギャアギャアシュウシュウ 啼 な き叫び、 ばさばさ激しく羽ばたきした。もっとも結局はユダヤ人が勝ちを占め、担いでいた背負い 籠 か ご に押し込んだ。しかし 歩 き 出 し て み て、 「 は て さ て、 ど う し て 鵞 鳥 が こ ん な に 重 い の か。 な ん と か う ち へ 持 っ て 帰 れ れ ば な あ 」 と 思 案 し た も の。─
が、 鵞 鳥 を 家 ま で 持 ち 帰 る こ と は な か っ た。 ど う に も 堪 た ま ら ず 立 ち 止 ま っ た と こ ろ、 背 負 い 籠 の 中 か ら こ う 叫 ぶ 声 が し た の だ。 「 と っ と と あ た し を 五 本 の 柏 アイヒェ の 下 ま で 担 い で 戻 ん な、 呪 わ れ た ユ ダ ヤ 人 よ う 」。─
や れ や れ、 哀 れ な 老 ユ ダ ヤ 人 は な ん と も ひ ど く 震 え 戦 おのの い た が、 な ん と も し よ う が な く、 言 わ れ た 通 り に せ ざ る を 得なかった。で、重荷をまた担いで引き返したが、ありがたや、前には一歩一歩重くなったのと反対に、今度は一 歩 一 歩 軽 く な っ た。 ユ ダ ヤ 人 が 柏 アイヒェ の と こ ろ ま で 辿 り 着 く と、 籠 か ら 這 は い 出 し て 来 た の は、 歳 を 取 っ た も 取 っ た も大 変 な 婆 ば あ 様 で、 紡 つ む 錘 の よ う に 痩 せ っ ぽ ち、 頭 は 髑 し ゃ れ こ う べ 髏 み た よ う、 目 は 赤 く、 肌 は 羊 皮 紙 さ な が ら。 そ し て「 ど う も ありがとさん、あたしを担いでくれてさ」と言うなり、がつんと顔に一発 喰 く らわせたので、こちらはふらふらっと ぶっ倒れた。すごすご立ち去る背後からおちゃらかしてこんな 戯 ざ れ 唄 う た を歌う声が聞こえた。 「鵞鳥を 盗 と ったで泥棒だけんど、 返してくれたでええ人さ」 お 蔭 か げ で死にそうな思いをした哀れなユダヤ人は、以後昼だろうと夜だろうと自分のものではない鵞鳥を捉まえて う ち へ 持 っ て 帰 ろ う な ど と い う 気 は 二 度 と 起 こ さ な く な っ た し、 五 本 の 柏 アイヒェ の 下 に 行 く の も 真 っ 平 ご 免 と あ い な っ た。 二九四 ハーメルンの子どもたち 一 二 八 四 年 の こ と、 色 と り ど り の 服 を 着 た、 風 変 わ り な 風 采 の 男 が ハ ー メ ル ン へ や っ て 来 た。 男 は 鼠 ねずみ 捕 り で、 ある金額を支払えば市全体から大鼠小鼠といった害獣を駆除する、と約束した。そこで市参事会と市民一同が料金 支 払 い を 男 に 保 証 す る と、 件 くだん の 男 は 小 笛 を 取 り 出 し、 今 日 少 な か ら ぬ 町 町 で 牧 人 や 夜 警 が や る よ う に
─
そ れ と い う の も 牧 ク ー ホ ル ン 笛 だ と 都 会 風 で は な い か ら だ が─
こ れ を 吹 き 鳴 ら し な が ら 小 路 と い う 小 路 を 歩 き 回 っ た。 す る と、 なんと、ありとあらゆる家家から大鼠小鼠が跳び出し、群れを成して男の後ろに 随 つ き従った。その昔マインツ大司 ( ) 23 ( ) 24教 ハ ッ ト ー を 追 い 掛 け た よ う に 。 こ う し て 小 路 を 悉 ことごと く 練 り 歩 い た 鼠 捕 り の 笛 吹 き 男 は、 灰 色 の お 伴 と と も に ヴ ェ ー ザ ー 門 トーア を 出 て 川 に 向 か い、 服 を た く し 上 げ る と、 流 れ に 足 を 踏 み 入 れ た。 大 鼠 小 鼠 は や み く も に 後 に 従 い、 紅 海 で の エ フ ァ ラ オ ジ プ ト 王 の 軍 勢 の ご と く 溺 れ 死 ん だ。 と こ ろ で 当 時 の ハ ー メ ル ン の 市 民 た ち は お っ そ ろ し く 利 巧 だ っ た。 今 こ ん に ち 日 現 在 と な る と ハ ー メ ル ン ば か り で は な い、 ど こ に だ っ て そ う い う の が ど っ さ り い る が
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。 さ て こ の 連 中、報酬の尺度を何に置いたかと申せば、人が持っている 伎 ぎ り ょ う 倆 や知識ではなくて、事をやってのけるのに要した労 役にだった。そこでこう語り合ったしだい。 「あの鼠捕りめが決めおった金額はこんなお手軽仕事には犯罪的じゃ。 そ り ゃ あ あ い つ が 家 毎 に 罠 わ な を 仕 掛 け、 毒 を 撒 ま い た と あ ら ば、 話 は 分 か る。─
だ が な あ。 そ れ に の う、 あ い つ が 鼠どもをヴェーザー川に誘い込んだのはあんまりではないか。魚が餌にしちまうわい。お他人様はヴェーザー川の 魚 を 喰 く い た き ゃ 喰 う が よ ろ し い。 わ し ら は ま っ ぴ ら ご 免 蒙 こうむ る。 そ れ か ら、 や っ こ さ ん が 一 件 を 片 づ け た 遣 や り 口 は どうだな。用いたのは 悪 サ タ ン 魔 の術ぞ。もしかしたらねっからまやかしに過ぎんかも知れん。やつが金を 貰 も ら っておさら ばした途端、鼠どもがわしらのところへ舞い戻るって寸法のなあ。半金だけ払って遣わそうではないか。それでお 気に召さぬとあらば、やつを魔法使いとして塔の牢屋に放り込んで、鼠どもが戻って来るか来ないか待つといたそ う」 。─
周到かつ賢明、加えてこの上もなく倹約家 揃 ぞ ろ いのハーメルンの市民並びに市参事殿たちはまずこのよう に談合、次いでその内容を逐一鼠捕りに並べ立て、半金を差し出し、塔云云で脅しつけた。技術者はといえばその 金 を 受 け 取 り、 む っ と し て 退 去 し た。 さ て そ れ か ら こ ん な こ と が 起 こ っ た の だ。 聖 な る 殉 教 者 ヨ ハ ネ と パ ウ ロ の 日 、すなわち 干 し ち が つ し草月 の二十六日に人人が教会に 詣 も う でていると、あの鼠捕りの男がハーメルンの通りに再び姿を現 し た。 た だ し 今 回 の 身 な り は 狩 か り ゅ う ど 人 の よ う、 顔 つ き は 恐 ろ し く、 赤 い 奇 妙 な 鍔 つ ば 付 き 帽 を 被 か ぶ り、 笛 を 吹 き 鳴 ら し な が ら 小 路 と い う 小 路 を 歩 き 回 っ た。 す る と 家 家 か ら 出 て 来 た の は 鼠 で は な く─
な に し ろ 駆 除 さ れ て そ れ っ き り ( ) 25 ( ) 26だったから
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子どもたち、四歳以上の男の子、女の子で、鼠捕りの跡をとっとこ追い掛ける。中には市長─
技 術 者 を 一 番 こ っ ぴ ど く 怒 鳴 り つ け 脅 し た の は こ の 人─
の か な り 大 き な 娘 も い た。 子 ど も た ち は 鼠 捕 り に 大 喜 びで随いて行き、互いに手を 繫 つ な いできゃあきゃあおもしろがった。目が見えない子が一人、口の利けない子が一人 いたが、この子たちでさえ行列の尻尾に付き、 啞 お し の子が 盲 め し い 目 の子の案内役。その後から赤児を 外 マ ン ト 套 にくるんで連れ ている子守り 娘 こ が続いたが、これは一体先行きどうなるのか見届けたい、と思ってのこと。猟師を先頭に立てた子 どもの群れはわいわいがやがやオスター 門 トーア 〔=東門〕 へ向かう狭い小路を練り歩いて、 そこから市の外へ出、 コッ ペ ル 山 ベルク に 向 か っ た。 山 が 口 を 開 け る と 笛 吹 き が 先 に 入 り、 子 ど も た ち が あ と に 続 い た。 目 の 見 え な い 男 の 子 を 連 れていた口の利けない少年だけが二人ながら外に取り残された。盲目の子がそんなに速く歩けないでいると、彼ら の 目 の 前 で 突 然 山 が ま た 口 を 閉 じ た の で。 子 守 り 娘 も 回 れ 右 し て 市 へ 引 き 返 し、 子 ど も た ち が コ ッ ペ ル 山 ベルク に 連 れ 込まれちゃったあ、と叫んだ。大恐慌が起こった。教会は閉ざされ、 怯 お び え上がった両親らが急いで山に 馳 は せ向かっ たが、僅かに徴として見つけたのは狭い割れ目がたった一箇所。百三十人の子どもたちがいなくなり、一人も帰っ て 来 な か っ た。 町 中 胸 も 張 り 裂 け ん ば か り の 懊 お う の う 悩 悲 嘆 の 声 で 一 杯 に な っ た。 改 め て 痛 ま し く も 明 ら か に な っ た の は、ろくでもない貪欲さと 莫 ば か 迦 らしいけち臭さこそあらゆる不祥事の原因だということ。ハーメルンの人人は行方 不 明 と な っ た 子 ど も た ち を 長 い こ と 嘆 き 悲 し み、 山 が 子 ど も た ち を 呑 み 込 ん だ 場 所 に 石 の 十 字 架 を 二 基─
男 の 子 た ち の た め に 一 つ、 女 の 子 た ち の た め に 一 つ─
建 立 し た。 最 後 に 一 行 が 練 り 歩 い た 通 り で は 二 度 と 再 び 太 鼓 の 響 き や 音 お ん ぎ ょ く 曲 が 聞 か れ る こ と は な か っ た。 こ こ で は 祝 婚 の 行 列 で さ え 鳴 り を 潜 め た。 そ こ で 今 日 に 至 る ま で も こ の 小 路 は 「 太 鼓 通 り 」 と 呼 ば れ て い る 。 こ こ で 太 鼓 を 叩 く こ と は 許 さ れ な い か ら 。「 光 が 漏 も れ な い か ら 森 も り 」〔 の 類 たぐい の 自己 撞 どうちゃく 着 だが〕 。 ( ) 27 ( ) 28 ( ) 29 ( ) 31この災厄の日はハーメルンの年代記に 禍 ま が ま が 禍 しいものとして書き留められた。市庁舎には石の碑文があって、その 思い出をかくのごとく 永 と こ し え 久 に銘記した。 キリストご生誕後一二八四年 ハーメルンにおいて、ここに生を受けし 子ら百余り三十人、ある笛吹きに連れ去られ、 ケッペンの山下へと消え失せたり。 〔 の ち に 市 庁 舎 の 〕 新 し い 門 扉 の 傍 ら に は 記 事 が ラ テ ン 語 で 石 に 刻 ま れ た 。 一 五 七 二 年 当 時 の 市 長 は こ の 奇 き た ん 譚 を 教 会の窓に彩色画法で絵物語として再現させたが、そうしたものがなくても話は口から口へと伝えられ、消滅するこ となく存続した。 更にこのような言い伝えがある。ハーメルンの子どもたちは地面の下を通ってジーベンビュルゲン に連れて行か れ、そこで再び地表に出、大人になってからは同地におけるザクセンドイツ系民族の起源になった、というのであ る。さて、残酷な鼠捕りにして悪魔の笛吹きの姿はまたと見られなかった。しかし神聖ローマ帝国の大鼠小鼠捕り の 男 た ち は そ の 後 い ず れ も 皆 彼 に 因 ち な ん で 狩 人 の 身 な り を す る よ う に な り、 か つ て 存 在、 あ る い は 現 在 も 存 在 す る 宮 カ ン マ ー ク ネ ヒ ト 廷使丁 、 宮 カ ン マ ー ボ ー テ 廷飛脚 、 あるいはその他の 宮 カ ン マ ー 廷 なる言葉の付く称号のごとく 宮 カンマーイェーガー 廷 猟 師 と自称した。 ( ) 31 ( ) 32 ( ) 33 ( ) 34
二九五 聖 ザンクト ウィトゥスの贈り物 ヴェーザー河畔なるヘクスター 近郊のコルヴァイ修道院には美しい伝説が 数 あ ま た 多 ある。この修道院はファイト聖者 に奉献されたもので、貧しくはあるが 敬 け い け ん 虔 な修道士たちを擁していた。彼らは年に一度だけ饗宴を催した。これは 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス の 祝 日 に、 こ の 守 護 聖 人 を 崇 敬 し て 行 わ れ た の だ が、 饗 宴 と い っ て も さ さ や か で 倹 つ ま し い も の。 な に せ 修 道 院 の 収 入 は 僅 か だ っ た か ら。 あ る 年 の こ と、 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス の 祝 日 が 近 づ い て 来 た が、 残 念 な が ら 修 道 院 に は祝宴に入用な魚とか猟鳥獣肉とか 葡 ワ イ ン 萄酒 などの品品がほとんどなかった。野菜だけは足りていた。坊様がたはど うやったら必需品なしに祝祭を挙げられるか頭を 捻 ひ ね ったが、もとよりどうしようもないこと。ところがなんと、修 道院の井戸でパチャパチャ音がしたと思ったら、中で大きな 鯉 こ い が二匹泳いでおり、修道院の中庭には二頭の素晴ら し い 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 が 出 現。 鹿 た ち は 肥 満 期 直 前 で た っ ぷ り 脂 が 乗 っ て い た。 い や も う 嬉 し い の な ん の っ て、 修 道 院 の 厨 ち ゅ う ぼ う 房 担 当 修 道 士 は 雀 こ お ど り 踊 り せ ん ば か り。 そ こ へ 顔 を 輝 か せ た 酒 蔵 主 任 の 修 道 士 が 大 き な 壺 つ ぼ を 二 つ 提 げ て や っ て 来 て、 〔 修 道 院 附 属 〕 教 会 の 祭 壇 裏 手 か ら 迸 ほとばし り 出 て い る 泉 で そ れ に 水 を 満 た し た と こ ろ、 泉 の 水 が 葡 ワ イ ン 萄 酒 に 変 わ っ た、 と 報 告 し た も の。 こ う し た い と も 崇 高 な 奇 き せ き 蹟 の 注 進 を 受 け た 修 道 院 長 は 言 っ た。 「 兄 弟 た ち よ、 神 と 我 ら の 守 護 聖 人 が お 授 け く だ さ っ た か よ う な 賜 物 は、 忝 かたじけ な く 謹 ん で 頂 ち ょ う だ い 戴 つ か ま つ り ま し ょ う ぞ。 な れ ど も 我 ら に は 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 一 頭、鯉一匹で充分、また銘銘二カンネ 以上の 葡 ワ イ ン 萄酒 はたしなまぬようにな」 。
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そこで修道士たちは異議を唱え ることなく 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 の片方を放し、魚も一匹はヴェーザー川に逃がしてやった。それでも 容 ジ ョ ッ キ 器 にたった一杯ではなく 少 な く と も 二 杯 の 葡 ワ イ ン 萄 酒 を 許 し て く れ た 寛 大 な 院 長 を 心 中 祝 福、 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス を 讃 た た え る 饗 宴 を 和 気 藹 あ い あ い 藹 と 催 し た。以来、毎年の祝祭日に聖者の喜捨が繰り返され、受ける側も最初の年と同様に処置した。けれどもとうとう善 ( ) 35 ( ) 36 ( ) 37 ( ) 38良で敬虔な院長が亡くなり、別の、これは豪儀で有名なのが院長に選出された。この人が神としてお仕えするのは 胃 袋 で、 崇 め る 聖 者 は 酒 バ ッ カ ス の 神 様 だ っ た。 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス の 祝 日 が ま た 巡 っ て 来 る と、 修 道 院 長 は 牡 ヒ ル シ ュ 角 鹿 を 二 頭 と も、 鯉 を 二 匹 と も 殺 さ せ、 葡 ワ イ ン 萄 酒 は 潤 沢 に 供 給、 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス に 敬 意 を 表 し て し た た か に 酔 っ 払 っ た。 次 の 年、 祝祭日は来たが、 牡 ヒ ル シ ュ 角鹿 も魚も姿を見せず、祭壇裏の泉から湧き出すのは昔に変わらぬまことに澄み切った淸水と あいなり、コルヴァイ修道院の 厨 ちゅうぼう 房 担当修道士は が シ ュ マ ー ル ハ ン ス りがりの痩せっぽち と 改名したしだい。 二九六 天使と 百 ゆ り 合 コ ル ヴ ァ イ 修 道 院 附 属 教 会 に は か つ て 毎 年
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疑 い も な く 聖 ザンクト フ ァ イ ト の 祝 日 に で あ ろ う─
二 人、 あ る い は それ以上の天使が現れて、合唱隊席の少年たちが 栄 グ ロ ー リ ア 光の讃歌 を歌うたび、ファイト聖者の墓の傍らからこよなく素 晴 ら し い 声 で 応 お う し ょ う 誦 を 繰 り 返 し た。 と こ ろ が あ る 時 副 修 道 院 長 が 天 使 な ど 信 じ ず、 ま た し て も 天 界 の 歌 声 が 聞 こ え る と、 聖 ザンクト ウ ィ ト ゥ ス の 碑 に ず か ず か 歩 み 寄 り、 尊 大 な 口 調 で「 「 お ま え た ち、 こ こ で 何 を 歌 っ て お る。 お ま え た ちは何者だ。いずれより参った」と 詰 な じ ったもの。─
天使たちは 唄 う た でこう応じた。 「来たれ、我ら再び 主 し ゅ の 御 み 許 も と に 赴 か ん。 主 を 求 め る 者、 主 を 讃 え ん 」 と。─
そ れ 以 来 天 使 の 歌 声 が 修 道 院 附 属 教 会 に 響 き 渡 る こ と は 絶 え て 無 く な っ た。 三 百 年 こ の か た ず っ と 続 い て い た の に。 そ し て 修 道 院 は 凋 ち ょ う ら く 落 し、 遍 あまね く 知 ら れ て い た そ の 名 声 の 星 は 消 えた。 リューベック大聖堂で死を予告する 薔 ば ら 薇 と僧ラブンドゥスの一身に起こったこと と全く同じ役割をコルヴァイ修 道院では百合が果たした。教会の内陣に青銅の輪が一つ吊されており、輪の中に百合が一輪あった。修道士のだれ ( ) 39 ( ) 41かに死が迫ると、いつもこの百合が不思議なことに下に降りて来て、死ぬ定めの修道士の椅子に三日前から横たわ る の だ っ た。 す る と そ の 修 道 士 は 粛 然 か つ ひ っ そ り と 告 別 の 心 準 備 を し た の で あ る。 こ の 奇 蹟 は 数 百 年 顕 現 し た が、ある時一人の若い修道士が他の者より早く内陣に来て、自分の席に百合があるのを見つけ、震え上がって考え た。 「 わ た し は こ ん な に 若 い の に も う 死 な な け れ ば な ら な い の か。 順 番 に 従 っ て ま ず 老 年 の 人 た ち が そ う な る 方 が 理 の 当 然 で は あ る ま い か。 若 い 者 ら が 年 を 取 る だ け の 時 間 が 与 え ら れ る よ う に 」 と。
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そ こ で 百 合 は 若 い 修 道 士 の 手 か ら 最 年 長 の 僧 侶 の 椅 子 に 置 か れ た。 や が て や っ て 来 た こ の 坊 様 は 百 合 を 目 に し て 死 ぬ ほ ど 仰 天─
な に せ高齢に達すると死ぬのはまことに好ましくない。ごく年老いた者にしてみれば人生はいかにも麗しく、ほんの片 時 に し か 思 え な い の だ か ら─
し、 病 気 に な っ た。 け れ ど も 死 に は し な か っ た。 三 日 後、 死 の 予 告 で あ る 百 合 を 拒もうとした例の若い修道士は急死、冷たく硬くなって棺に納まっていた。 二九七 ヴィルベルクの乙女 三つの村ゴッケルハイム 、アメルンクセン 、オットベルゲン がヘクスターの最寄りでアア川が貫流する三角形を 作 っ て い る。 ゴ ッ ケ ル ハ イ ム の 正 面 に ヴ ィ ル ト 山 ベルク 、 あ る い は ヴ ィ ル 山 ベルク な る 山 が あ る。 山 頂 に は 不 気 味 な 気 配 が 漂 っ て い る。 昔 こ こ に は 巨 人 た ち が 棲 み、 近 く の ブ ル ス 山 ベルク の 巨 人 た ち と 数 ツ ェ ン ト ナ ー も の 重 さ の 石 球 を た く さ ん投げ合った。谷の真ん中に今日なお深い穴が一つ開いているが、 これは投げ損なったそういう石球が掘ったもの。 ヴ ィ ル ベ ル ク の 麓 に は 乙 女 が 一 人 さ す ら い 歩 い て お り、 時 時 姿 を 現 し て、 人 間─
ち ゃ ん と し た 連 中 な ら だ が─
に何かを授けてくれることがある。 ( ) 41 ( ) 42 ( ) 43ヴ ェ ー レ ン の 二 人 の 若 者、 名 を ペ ー タ ー と ク ニ ッ ピ ン グ と い う の が、 鳥 の 巣 探 し で 森 に 入 っ た。 片 方
─
こ れ は ペ ー タ ー─
は 大 変 な 怠 け 者 で、 木 の 下 に 横 に な っ て 寝 入 っ て し ま っ た。 ク ニ ッ ピ ン グ は 森 で 夢 中 に な っ て 巣 を 探 し て い た。 と こ ろ が ペ ー タ ー の 耳 を 引 っ 張 る も の が あ る。 目 を 覚 ま し て 辺 り を 見 た が、 何 も な い。 怠 け 者 の ペーターが再び寝込むと、またしてもきゅっ。これが三度に及んだ。さしものペーターもこんな落ち着けない場所 で 眠 り 続 け る わ け に は 行 か ず、 の ん び り 熟 睡 で き る も っ と 静 か な と こ ろ を 探 そ う と 起 き 上 が っ た。 す る と な ん と、 目 の 前 を 白 衣 の 乙 女 が 歩 い て い て、 胡 く る み 桃 を 割 っ て は 中 の 核 さ ね を 地 面 に 投 げ、 殻 を 袋 に 入 れ て お り、 や が て 消 え た。 ペーターは胡桃の核を拾い集め、 むしゃむしゃ食べて、自分で殻を割るという苦労をせずに済んだのを嬉しがった。 なにしろもうこれだけでも彼にとっては大仕事だったので。それからペーターはクニッピングを見つけ、どんなこ とがあったか話し、 彷 さ ま よ 徨 う乙女が姿を消した場所を教えた。その後二人は幾つか目印を付けるともう二、三人仲間 を連れて来て、そこを掘った。そしてありがたいことに皆が 隠 ポ ケ ッ ト し に詰め込めるだけたくさんの金貨を発見した。彼 らは翌日、もっと持ち帰ろう、とやって来たが、何もかも消え失せていた。ペーターは全く幸せになった。授かっ た金貨で豪勢に眠れる家を建てたのである。 これはまた別の中年男だが、やはりヴェーレンの者で、アメルンクセンの水車小屋で穀物を 挽 ひ いてもらおうと出 掛 け た。 帰 り 道、 ラ ウ の 池 の 畔 ほとり で ち ょ っ と 足 を 休 め た。 す る と ヴ ィ ル ベ ル ク の 乙 女 が 彼 の 前 に 現 れ て、 こ う 言 葉 を 掛 け た。 「 お 願 い、 手 て 桶 お け に お 水 を 二 杯、 ヴ ィ ル ベ ル ク の 洞 穴 ま で 運 び 上 げ て く だ さ い な 」 と。 そ こ で 男 が 桶 二 杯 の水を山の頂きまで持って行ってやると、乙女いわく「明日オッテンベルゲン へいらっしゃい。そしてあの村の羊 飼 い を 捜 し て、 帽 子 に 飾 っ て い る 花 束 を 貰 も ら い、 今 と 同 じ 時 間 に こ こ に 来 る の で す 」。 男 は 言 わ れ た 通 り に し た が、 羊 飼 い は そ の 花 束 を な か な か 手 放 し た が ら な か っ た。 こ れ は ど こ か の 綺 麗 な 女 の 子 が く れ た も の だ っ た の で。 ( ) 44 ( ) 45─
もっとも羊飼いは花束をどう使ったらいいものか分かりはせず、くれたのは他ならぬヴィルベルクの乙女で、 そ れ が ど ん な 錠 前 で も 閂 かんぬき で も 開 け て し ま う 不 思 議 な 花 束 だ と い う こ と を 知 ら な か っ た の だ。 〔 な ん と か 貰 い 受 け た 〕 男 が 花 束 を 持 っ て 山 頂 の 乙 女 の と こ ろ に 辿 た ど り 着 く と、 こ れ ま で 一 度 も 目 に し た こ と の な い 青 銅 の 扉 が あ っ た。 そ し て 花 束 を 扉 の 錠 に 押 し つ け る と、 扉 は ば た ん と 開 い た。 中 の 洞 ど う く つ 窟 に は ひ ど く 年 取 っ た 白 し ら が 髪 の 小 人 が 坐 っ て お り、 そ の 髯 ひ げ は 卓 テ ー ブ ル 子 を 貫 い て 伸 び て い た。 周 り に は 数 数 の 宝 物 が 山 の よ う に あ っ た。 黄 き ん 金 で で き た 王 冠 型 燭 し ょ く だ い 台 が 卓 テ ー ブ ル 子 の 上 に 吊 り 下 が っ て い た。 さ あ、 男 は 隠 ポ ケ ッ ト し に 財 宝 を 詰 め 込 み 始 め、 両 手 を 使 え る よ う に 花 束 を 卓 テ ー ブ ル 子 に 置 い た。 すると乙女が「一番大事な物を忘れないで」と言った。そこで男が黄金の燭台に手を掛けると、白髪の小人が片手 を挙げ、男の横っ面をぴしゃりと引っぱたいた。いやもう男はびっくり仰天、さっと逃げ出し、乙女が「一番大事 な 物 を 忘 れ な い で 」 と 繰 り 返 し 叫 ぶ の に 耳 を 貸 さ ず、 花 束 を 置 き 去 り に し た。 逃 げ 出 し た 男 の 背 後 で 洞 窟 の 門 は 轟 ご う ぜ ん 然 と 閉 じ た。 山 を 下 り、 ゴ ッ ケ ル ハ イ ム を 目 の 当 た り に し た 男 は お 宝 を 数 え よ う と し た。─
お や ま あ、 ど の 隠 ポ ケ ッ ト し にも入っていたのは紙切ればかり。紙切れにはそれぞれなんだか紋章と金額が記されていたが、男はそこに書 かれている字が読めなかったものだから、紙をアア川に投げ込み、川は男の幸運を流し去った。これは最初の紙幣 だったのだけどね 。 二九八 池から出て来た馬 ダ ッ セ ル 近 傍 の 池 に は テ ュ ー リ ン ゲ ン の シ ュ ネ ー コ プ フ 山 上 の 悪 魔 の 環 わ や レ ー ン 山 地 の 黒 沼 に 纏 ま つ わ る の と 同 様 の 伝説がある。つまり底無しで、悪魔の 棲 す み か 処 にして遊び場だ、というのである。ロイトホルスト の農夫ですこぶる強 ( ) 46 ( ) 47 ( ) 48欲 な の が そ の 池 の 畔 ほとり に 畑 を 一 枚 持 っ て い た。 土 曜 日 に こ れ を 耕 し て い た が、 終 業 時 間 に な っ て も 埒 ら ち が 明 か な か っ たので、 犁 す き 返しを続けた。 祈 き と う 禱 の鐘が打たれても知らん顔で、九回厳かに鳴り響いている最中、他の者のように立 ち 止 ま っ て 帽 子 を 取 り 敬 け い け ん 虔 に 主 フ ァ ー タ ー ウ ン ザ ー の 祈 り を 唱 え る ど こ ろ か、 犁 を 牽 ひ く 馬 た ち に こ う 怒 鳴 り つ け た。 「 は い よ う、 こ の ど 腐 れ 馬 ど も め え。 好 い 加 減 で 片 が 付 く よ う、 悪 魔 み て え に 引 っ 張 ら ね え か 」。
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男 は 息 子 も 連 れ て 来 て い て、 馬たちの傍を歩かせ、叩いたり、 駈 か り立てたりさせていたのだが、とうとう己の手で狂ったように馬たちや息子に 笞 む ち を振るい、どいつもこいつも地獄に行きゃあがれ、と罵った。辺りはもう薄暗くなっていた。すると、池の中か ら大きな漆黒の馬が静静と姿を現した。これを目にした農夫は、加勢が手に入る、と喜んで、息子に向かって「あ の 馬 を と っ 捉 つ か ま え て 来 い。 そ れ で な、 あ り と あ ら ゆ る 悪 魔 の 名 に か け て あ い つ に 犁 を 引 っ 張 ら せ る ん だ。 そ う す りゃこの 糞 く そ 忌忌しい畑を端っこまで耕せらあ」と叫んだ。責め立てられ、笞を 喰 く らった哀れな息子は泣きわめいた が、結局言われた通りにし、黒馬を 輓 ば ん ば 馬 の先頭に繋いだ。すると、おやまあ、なんともすごい、犁の刃は畑に切り 通しの路みたいな溝を掘り、農夫はもう犁の柄にしがみついて、走って 随 つ いて行かねばならなかった。さて、畑の 端まで行き着いた農夫はそこで向きを変えようとしたが、馬はそうさせず、元気一杯ぐいぐいずんずん、前へ前へ と 引 っ 張 り 続 け、 と う と う 畑 か ら 出 て 池 の 汀 みぎわ ま で 来 る と、 農 夫 も 犁 も 馬 た ち も 全 部 一 緒 く た に 池 の 中 へ 引 き ず り 込んだ。そして何一つ戻っては来なかったのである。 同じこの悪魔の池には黄金の鐘も沈んでいる。これはもともとポルテンハーゲン の教会の鐘楼にあったもの。こ の鐘は大層楽しげに鳴り響いたので、逆らえる者は一人としておらず、申さば魔法に掛けられたようにだれもが教 会 に お 詣 ま い り し た( 遺 い か ん 憾 な が ら か よ う な 鐘 は こ の 節 あ り は せ ぬ )。 そ こ で 怒 り 狂 っ た 悪 魔 が 攫 さ ら っ て 来 て、 こ の 池 に 投 げ込んだのである。かつてある男が、もしかしたら鐘を引き揚げられるかも、と池に潜った。見たのは緑なす草原 ( ) 49に置かれた 卓 テ ー ブ ル 子 が一つ。 卓 テ ー ブ ル 子 の上には鐘が載っていた。ところが 卓 テ ー ブ ル 子 の下に黒犬の 恰 か っ こ う 好 をした悪魔が寝そべってい て、 焰 ほのお の よ う な 目 で 男 を ぎ ら ぎ ら 睨 に ら み つ け、 腕 ほ ど の 長 さ の 焰 の 舌 を 男 に 向 か っ て 突 き 出 し た。 そ の 傍 ら に は 緑 色の人魚もおり、 「まだ時期じゃない、 まだ時期じゃない」と叫んだ。
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そこで男は急いで水面に浮かび上がり、 以来再び黄金の鐘を目にした者はいない。 この古いダッセル伯爵領にはコーエンハウゼン という村があるが、この村の教会の鐘楼に、その響きには雷雨を 追い払う力がある、と民衆が固く信じ込んでいる鐘が下がっている。この鐘にはシラーの鐘の詩 でも読むことので きるかの名高い銘が記されている。いわく、 我は招く、生ける者を、 我は悼む、死せる者を、 我は 祓 は ら う、稲妻を。 二九九 巨 ヒ ュ ー ネ ン 人たち ヘクスター、コルヴァイ、ブラーケル 周辺およびヴェストファーレンの諸地域ではヒューネン、ホイネン、ある いはリーゼンと呼ばれる巨人たち に関する言い伝えが多く語られている。いや、それどころか、こうした伝説は更 に 北 方 へ と 拡 ひ ろ が り、 リ リ ュ ー ネ ブ ル ガ ー ・ ハ イ デ ュ ー ネ ブ ル ク 曠 野 を 越 え て ブ レ ー メ ン の ゲ ー ス 地 域 、 沼 マ ル シ ュ 沢 地 域 へ 延 び て い る。 巨 ヒ ュ ー ネ ン グ ラ ー プ 人 の 墓 、 巨 ヒ ュ ー ネ ン ベ ッ ト 人 の 寝 台 、 巨 ヒ ュ ー ネ ン シ ュ タ イ ン 人 の 石 、 巨 ヒ ュ ー ネ ン ケ ラ ー 人 の 穴 蔵 、 巨 ヒ ュ ー ネ ン ブ ル ク 人 の 城 の 数 数 が こ の 地 方 に 散 ら ば っ て お り、 民 衆 は、 力 持 ち で 雄 大 な る ( ) 51 ( ) 51 ( ) 52 ( ) 53 ( ) 54 ( ) 55 ( ) 56体 た い く 軀 の 逞 たくま し い 種 族 が か つ て 蟠 ば ん き ょ 踞 し て い た 証 拠 だ、 と 見 な し て い る。 も っ と も こ の 他、 妖 怪 変 化、 白 衣 の 乙 女、 黒 犬 な ど が 数 知 れ ず 活 躍 し た り、 小 ツ ヴ ェ ル ク 人 や 家 コ ー ボ ル ト の 精 が 単 独 で、 あ る い は 群 れ を な し て 人 間 の 前 に 現 れ る、 固 有 か つ 不 思 議 な 伝 説 も あ り は す る。 ご く 僅 か な 例 外 だ が、 巨 ヒ ュ ー ネ ン 人 族 が 登 場 も 活 躍 も せ ず、 昔 か か る 存 在 が あ っ た と し て、 そ の 強 ご う り き 力 の 痕 跡 を 示 し、 ま た、 彼 ら が 棲 み、 遊 び、 闘 い、 球 や 槌 ハンマー を 人 間 が 歩 け ば 数 時 間 も 掛 か る 彼 方 か ら 投 げ た 場 所 を名指しているだけ、というものも。かつて巨人族の名はさまざまな集落に残っていたが、現在ブラーケルを見下 ろ す 高 み に ヒ ン ネ ン 城 ブルク が あ る。 近 隣 の 村 の リ ー ゼ ル と レ ー ツ ェ ン( デ ィ ル ブ ル ク 近 郊 ) は 巨 リ ー ゼ ン 人 を 示 唆 し て い る よ う だ。 ゲ ッ テ ィ ン ゲ ン 地 域 の ド ラ ン ス フ ェ ル ト 近 く に は フ ン ネ ン 山 ベルク な い し ヒ ュ ー ネ ン 山 ベルク が 聳 そ び え て い る。 山 中 で 巨 人を見た、と言う者がいる。アルテンハーゲンの村の上方にはやはり 巨 ヒ ュ ー ネ ン ブ ル ク 人の城 がある。その最後の住人は城を打ち 砕き、最大の石を墓の覆いとして自らの上に転がした。リュッボウ村近郊のザルツヴェーベルに向かう道筋には巨 大 な 巨 ヒ ュ ー ネ ン シ ュ タ イ ン 人 の 石 が あ る。 こ れ は あ る 異 教 の 神 の 祭 壇 で、 毎 年 降 ク リ ス ト ナ ハ ト 誕 祭 前 夜 、 鶏 鳴 暁 を 告 げ る と、 不 興 の あ ま り ご ろ り と 引 っ 繰 り 返 る。 リ ン ゲ ン 下 ニーダー 伯 グ ラ ー フ シ ャ フ ト 爵 領 の フ レ ー レ ン の 近 く に も 巨 大 な 巨 ヒ ュ ー ネ ン シ ュ タ イ ン 人 の 石 が 立 っ て い て、 そ こ に は 豊 か な 墳 墓 が 幾 つ か あ る。 リ リ ュ ー ネ ブ ル ガ ー ・ ハ イ デ ュ ー ネ ブ ル ク 曠 野 の ク ネ ー ゼ ン 地 区 に は か の 鶴 ピ ッ ケ ル シ ュ タ イ ン 嘴 石 が あ る が、 こ れ は ク レ ー ベ ス 山 ベルク か ら 巨 ヒ ュ ー ネ ン 人族 がここまで投げたもの。石には七つの十字架と一つの蹄鉄の形をした 窪 く ぼ みが見られる。これらの十字架はあ る軍勢の指揮者が 佩 は い け ん 剣 で刻み込んだもので、馬蹄 痕 こ ん はその乗馬が主人の勝利の徴として 捺 お した、 ということである。 昔 は こ の 鶴 ピ ッ ケ ル シ ュ タ イ ン 嘴 石 の 傍 ら で 周 辺 の 村 村 の 禁 猟 裁 判 が 開 か れ た 由。 ジ ー ヴ ェ ル ン の 在 に は ま だ 盗 掘 さ れ て い な い 巨 ヒ ュ ー ネ ン グ ラ ー プ 人 の 墓 が あ る。 ビ ュ ル ツ ェ ン ベ ッ ト と 呼 ば れ て お り、 様 式 も 大 き さ も 特 別 で あ る。 巨 ヒ ュ ー ネ ン グ ラ ー プ 人 の 墓 を 掘 っ て、 昔 埋 葬 された者の安息を妨げるのはよろしくない。ランメルスロー のある司教座聖堂参事がシュタインフェルト近傍の巨 人の遺跡を掘り返したところ、その夜三人の男
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内一人は隻眼だった─
が現れて 睨 に ら みつけ、異様な声音でい ( ) 57 ( ) 58 ( ) 59とも古めかしい頭韻詩を詠唱した。いわく、 我らこの地にて 誉れの死を遂げぬ。 我ら祖国のために 闘いて 斃 た お れぬ。 我らの塵を搔き乱さば 幸いの星の輝くことなし。 ランメルスローの聖堂参事は二度と掘り返したりしなかった。 三〇〇 ア ア ー メ ル ン ゲ ン ーメルング一族 この地方の伝説では 巨 ヒ ュ ー ネ ン 人たち と フ フ ン ネ ン ン族 の話が奇妙に溶け合っている。山や城に附いている名称の音韻が、果たし てカール大帝の時代より遙か以前この地域に棲んでいた原住民である巨人たちに帰せられるのか、それともドイツ に 侵 攻 し て ラ イ ン 河 に ま で 到 達、 『 ニ ー ベ ル ン ゲ ン の 歌 』 の 中 で は 褒 め そ や さ れ て い る エ ッ ツ ェ ル 王 配 下 の フ ン 族 を指すのか、区別するのはまことに難しい。エッツェルのフン族に ア ア ー メ ル ン ゲ ン ーメルング一族 と 呼ばれる三兄弟がおり、そ の名をヴァラミール、ヴィディミール、テオディミールと言った。彼らはいずれもフン族全軍きっての勇猛な英傑 ( ) 61 ( ) 61
だった。異様なのはヘクスター周辺地域にこの ア ア ー メ ル ン ゲ ン ーメルング一族 なる名の響きをうっすらと、あるいは強く思い起 こ さ せ る 村 落 が 連 な っ て い る こ と で あ る。 す な わ ち、 ア ー メ ル ン ク セ ン、 ア ー メ ル ン グ ス ホ ル ン、 ア ー メ ル ゼ ン、 ア ー メ ル ス ハ ウ ゼ ン な ど。 い や、 ハ ー メ ル ン や ハ ー メ ル シ ェ ン ブ ル ク も あ る い は こ れ を 示 唆 し て い る と 申 せ よ う か。さて他方、ボルントルプ、ピルモントと三角形を作るヒッデンハウゼンなる村落名はフリースラント地方の巨 人ヒッデを 偲 し の ばせる。この巨人はカール大帝の時代ブラウンシュヴァイク地方 に棲んでいて、カールからエルベ河 畔の幾つかの所領を受封され、ヒッデスアッカー〔=ヒッデの耕作地〕
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今日ヒッツアッカー と表記─
の町 を建設した由。 三〇一 小 ツヴェルク 人 の揺り 籠 か ご ある巨人がヒッデスアッカーないしヒッツアッカーを建設した、という伝承が行われているにも関わらず、当の ヒ ッ ツ ア ッ カ ー に は 巨 人 族 に 纏 ま つ わ る 話 は 全 然 と 言 っ て い い ほ ど 無 い。 け れ ど も 小 ツ ヴ ェ ル ク 人 の こ と と な る と 逆 に 随 分 あ る。 小人たちはかつてこの地で極めて頻繁に見掛けられたし、これはどの時代にも 亘 わ た っていた。けれども、とどのつま りどこかへ移住してしまったのである。だれかが土地を捨てる場合普通そうだが、小人族は自分たちが棲んでいた ところ─
山山、それからとりわけヒッツアッカーの城山─
が厭になったからなので。彼らは長い間土地の者 とうまく折り合っていた。そして、アーヘンのハインツヒェン のように人間から料理用具を借りたのではなく、反 対に人間たちが善良な小人族からそうしたものを借りた。 麦 ビ ー ル 酒 醸造鍋さえも。小人らはその見返りに何一つ要求し なかった。ただ、人間は貸してもらった 什 じ ゅ う き 器 を綺麗に洗って受け取った場所に戻し、醸造したての 麦 ビ ー ル 酒 一 ひ と つ ぼ 壺 と焼き ( ) 62 ( ) 63 ( ) 64上がったばかりの 麵 パ ン 麭 一塊を添えておけばよかった。ところがある時若造の旅職人が、返却するため置かれていた そうした鍋を見つけ、小人たちのための 麵 パ ン 麭 を横取りして 喰 く い、 麦 ビ ー ル 酒 を飲んでしまったばかりでなく、醸造鍋の中 に汚い物をし散らかした。そこで小人族はかんかんになり、 麦 ビ ー ル 酒 は自分たちの穴蔵で自身調達し、更にはまた自分 た ち の 子 ど も を〔 人 間 の 子 ど も と 〕 取 り 替 え た が る よ う に な っ た。 〔 ヒ ッ ツ ア ッ カ ー の 〕 市 長 ヨ ー ハ ン・ シ ュ ル ツ も
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母 親 が 産 さ ん じ ょ く 褥 で 赤 児 の 彼 に 添 い 寝 し て い た 折─
危 う く そ ん な 目 に 遭 う と こ ろ だ っ た。 夜 中 ふ と 目 覚 め た 産 婦 は 部 屋 の 中 に 一 群 の 小 人 た ち が 屯 たむろ し て い る の に 気 付 い た。 彼 ら は 取 替 え 子 を 抱 い て い て、 産 婦 の 子 ど も に 襲 い掛かった。けれども産婦は寝床にドステンとドラント を欠かさないようにしていたので、小人たちは彼女と子ど もに害を加えることはできなかった。もっとも一度は子どもに手を掛けはしたのである。ドステンとドラントは共 に 効 能 あ る 香 草 で、 ド ス テ ン は 安 ヴ ォ ー ル ゲ ム ー ト 楽 草 ( オ リ ガ ヌ ム ) と も 言 い、 床 に 敷 い て お く と 毒 蛇 を 近 づ け な い。 ド ラ ン ト の 方 は さ ま ざ ま な 香 草─
猫 カ ッ ツ ェ ン ミ ュ ン ツ ェ の 銭 、 小 さ な 獅 レ ー ヴ ェ ン マ ウ ル 子 口 、 羊 シ ャ ー フ ガ ル ベ の 穀 束 、 苦 ア ン ド ル ン 薄 荷 ( マ ル ビ ウ ム ) な ど─
の ど れ を も 指すが、最後のが本物である。さて小さい人人が〔ヒッツアッカーを〕立ち去る時、一人の渡し守がエルベ河を渡 し て や っ た。 小 人 族 は う よ う よ 艀 はしけ に 乗 り 込 み、 渡 し 守 は け っ こ う な 船 賃 を 貰 も ら っ た。 小 人 族 は ヒ ッ ツ ア ッ カ ー 近 傍 の 葡 ぶ ど う 萄 山に彼らの王子が使った黄金の揺り籠を置き去りにしたが、これは毎年一回 ヨ ヨ ハ ン ニ ス ナ ハ ト ハネ祭の夜 十二時から一時の 間 に 出 現 す る。 そ の 刻 限 に 葡 萄 山 に 登 る 勇 気 が あ っ て、 丁 度 そ の 場 に い あ わ せ れ ば 見 ら れ る。 焰 ほのお の よ う な 目 を し た黒犬が一頭揺り籠を守っている。揺り籠を持ち帰ろうとする者は口を利いてはいけない。また悪魔を恐れてはな ら な い。 か つ て 二 人 の 大 胆 な 若 者 が あ え て そ う し た 冒 険 に 挑 ん だ と こ ろ、 揺 り 籠 は あ っ た が、 犬 は 見 え な か っ た。 が、不意に彼らは絞首台の下にいるのに気付いた。そして絞首架の上には悪魔がうずくまり、絞首索をぶらぶらさ せて若者たちの 頸 く び に引っかけようとした。そこで二人は仰天して大声を挙げた。途端に揺り籠も、絞首台も、悪魔 ( ) 65 ( ) 66も消え失せた。 三〇二 許 ブラウト シ ュタイン 嫁 の 石 北 部 ド イ ツ の 広 こ う か つ 闊 平 坦 な 諸 地 域 に は 目 路 の 及 ぶ 限 り 始 原 岩 層 な ど 見 当 た ら な い が、 花 か こ う が ん 崗 岩 の 巌 が ん か い 塊