京都府立海洋センター研究報告 第 31 号,2009
イワガキ早期種苗生産のための親貝加温飼育の有効性(短報)
田中雅幸,今西 裕一,藤原正夢
Rearing of Adult Iwagaki Oyster, Crassostrea nippona, Under Thermal Condition in Early Seed Production
Masayuki Tanaka, Yuichi Imanishi and Masamu Fujiwara キーワード:イワガキ,早期産卵,加温飼育,親貝 京都府におけるイワガキCrassostrea nippona の 種 苗生 産は, 京 都府栗田湾の養 殖イワガキの産卵 期である7 ~ 9 月( 藤原,1998) にかけて行ってい る。この時期は夏季の高水温期とも重なり,飼育時 期が後半になるにしたがって,幼生の生残率が急激 に低下する事例が高頻度に認められる(京都府立海 洋センター,2001)。安定した種苗生産を行うために は, 飼 育水温 が低く幼生 飼 育が比較 的 順 調である 6 ~ 7 月に種苗生産を開始することが望まれる。イ ワガキの種苗生産では,十分成熟した良質な卵が大 量に必 要であるが,6 ~ 7 月は本 種の産卵早 期( 藤 原,1998)であることから,未成熟卵などが原因と 考えられるふ化率の低下がしばしば見られる。そこ で,産卵早期の採卵でも良質な卵を大量に安定確保 するため,イワガキ親貝の加温 飼育試験を行い,そ の有効性を検討した。 試 験は2007 年 6 月 1 日から 6 月 13 日までと 2008 年 5 月 22 日から 5 月 29 日まで の2 回実施した。供試貝は,栗田湾に設置されてい る当センター海面養殖施設(以下,養殖施設とする) の水 深6 m 層で, 試験開始までの 1 ~ 3 年間, 丸 籠(直径70 cm ×高さ 20 cm,網の目合い 3 cm)に 収容して育成した個体である。加温飼育試験の供試 貝は,室内の長円形 FRP 製水槽(幅150 cm ×長さ 199 cm ×深さ 89 cm ,有効水量 2,000 l)に収容し, イワガキ生殖腺の成熟と密接な関係があると推測さ れている水温25℃(道家ら,1998)の加温海水を約 1,000 l/h の水量で掛け流しながら飼育した。飼育 期間中の餌には,培養したChaetoceros sp. ( 長軸 の長さ約6 μm,餌料濃度約 3×106 cells/ml)を用い, 1 日に 1 回,約 5 ~ 20 l を与えた。以上の試験区を 加温区とし,2007 年および 2008 年の試験をそれぞ れ加温区1 および加温区 2 とした。なお,飼育水温 の急激な上昇を防ぐため,加温区1 では 3 日間,加 温区2 では 2 日間の馴致期間を設け,飼育水温を徐々 に設定水温まで上昇させた。一方,養殖施設で飼育 を継 続したものを対 照区とし,2007 年および 2008 年の試験をそれぞれ対照区1 および対照区 2 とした。 各試験に用いた供試貝の個体数と平均殻高および全 重量をTable 1 に示した。試験期間中の飼育水温を 把握するため,加温区では水槽の中心付近の水深約 45 cm に,対照区では養殖施設の水深 6 m に RMT 水温計(離合社製)を設置し,1 時間に 1 回のインタ ーバルで水温を測定して日平均水温を求めた。加温 区の平均水温については,馴致期間のデータを除い て求めた。 供 試貝に対 する産 卵 誘発には, イワガキ雌 雄の 生殖腺漏出液を産卵刺激とする産卵誘発法(田中ら, 2009)を用いた。産卵誘発は,加温区 1 および対 照区1 については試験開始 7 日目と 13 日目に行い, 加温区2 については試験開始時と試験開始 7 日目, 対照区2 については試験開始時と試験開始 8 日目に 行った。 試 験は供試貝をポリプロピレン製容器( 縦 123 cm ×横 77 cm ×深さ 21 cm)に収容し,加温 区では約25℃に保った海水,対照区では自然水温の 㪫㪸㪹㪼㫃㩷㪈㩷㩷㩷㪛㪼㫋㪸㫀㫃㫊㩷㫆㪽㩷㫊㪿㪼㫃㫃㫊㩷㫌㫊㪼㪻㩷㫀㫅㩷㪼㫏㫇㪼㫉㫀㫄㪼㫅㫋㫊㩷㪸㫅㪻㩷㫉㪼㫊㫌㫃㫋㫊㩷㫆㪽㩷㩷㫊㫇㪸㫎㫅㫀㫅㪾㩷㫀㫅㪻㫌㪺㫋㫀㫆㫅 㶎䋱䇭㪤㪼㪸㫅㫧㪪㪅㪛㪅 㶎㪉䇭㪠㫅㪻㫀㫍㫀㪻㫌㪸㫃㩷㫅㫌㫄㪹㪼㫉㩷㫆㪽㩷㫊㫇㪸㫎㫅㫀㫅㪾㫊㩷㪏㩷㪿㫆㫌㫉㫊㩷㪸㪽㫋㪼㫉㩷㫀㫅㪻㫌㪺㫋㫀㫆㫅㪅 㪥㫌㫄㪹㪼㫉㩷㫆㪽 㪪㪿㪼㫃㫃㩷㪿㪼㫀㪾㪿㫋 㪮㪼㫀㪾㪿㫋㩷㫆㪽㩷㫎㪿㫆㫃㪼 㪩㪼㪸㫉㫀㫅㪾㩷㫎㪸㫋㪼㫉 㪥㫌㫄㪹㪼㫉㩷㫆㪽 㪪㫇㪸㫎㫅㫀㫅㪾㩷㫉㪸㫋㪼 㫊㪿㪼㫃㫃㫊 㩿㫄㫄㪀 㪹㫆㪻㫐㩷㩿㪾㪀 㫋㪼㫄㫇㪼㫉㪸㫋㫌㫉㪼㩷㩿㷄䋩 㪪㫇㪸㫎㫅㫀㫅㪾㫊㩷㶎㪉 㩷㩿㩼㪀㩷 㪫㪿㪼㫉㫄㪸㫃㩷㪺㫆㫅㪻㫀㫋㫀㫆㫅䇭㪈 㪈㪎 㩷㩷㩷㩷㪈㪋㪍㫧㪈㪏㶎䋱 㪌㪏㪎㫧㪐㪏 㪉㪋㪅㪏㫧㪇㪅㪊 㪈㪋 㪏㪉 㪚㫆㫅㫋㫉㫆㫃㩷㩷㪈 㪈㪍 㪈㪊㪐㫧㪈㪌 㪌㪋㪇㫧㪎㪋 㪈㪐㪅㪊㫧㪇㪅㪎 㪇 㪇 㪫㪿㪼㫉㫄㪸㫃㩷㪺㫆㫅㪻㫀㫋㫀㫆㫅㩷㪉 㪌㪈 㪈㪊㪍㫧㪈㪊 㪋㪎㪉㫧㪈㪉㪇 㪉㪋㪅㪐㫧㪇㪅㪈 㪉㪏㩷㪤㪸㫐㪃㩷㪉㪇㪇㪏 㪉㪏 㪌㪌 㪚㫆㫅㫋㫉㫆㫃㩷㩷㪉 㪌㪇 㪉㪉㩷㪤㪸㫐㪃㩷㪉㪇㪇㪏 㪈㪋㪏㫧㪈㪍 㪍㪏㪊㫧㪈㪉㪏 㪈㪍㪅㪏㫧㪇㪅㪍 㪉㪐㩷㪤㪸㫐㪃㩷㪉㪇㪇㪏 㪇 㪇 㪈㩷㪡㫌㫅㪃㩷㪉㪇㪇㪎 㪛㪸㫋㪼 㪪㫋㪸㫉㫋 㪧㪼㫉㫀㫆㪻 㪈㪊㩷㪡㫌㫅㪃㩷㪉㪇㪇㪎 㪞㫉㫆㫌㫇 㪛㪸㫋㪼
Table 1 Details of shells used in experiments and results of spawning induction
※ 1 Mean ± S.D.
イワガキ早期種苗生産のための親貝加温飼育の有効性 海水を約36 l/h で掛け流しながら行った。産卵誘発 後には,供試貝の放卵放精の有無を8 時間後まで観 察した。また,試験中のイワガキ生殖腺の熟度を把 握するため,加温区2 および対照区 2 と同じ条件で 飼育した別の個体を用い, 道 家ら (1998) の方法に 従い軟体部横断面の短径と生殖腺横断面の短径(軟 体部 横断面の短径-消化盲嚢部 横断面の短径) を 測定して生殖腺指数(生殖腺横断面の短径/軟体部 横断面の短径×100)を計算した。生殖腺指数の計 算には,試験開始時に22 個体,加温区 2 では試験 開始6 日目に 25 個体および対照区 2 では試験開始 8 日目に 21 個体を供した。 加温区1,2 および対照区 1,2 の放卵放精結果を Table 1,試験期間中の飼育水温を Fig. 1 に示した。 飼育期間中の平均水温は,加温区1 および対照区 1 が24.8 ± 0.3℃および 19.3 ± 0.7℃で,飼育水温の 差は5.5℃であった。試験開始 7 日目に両区の産卵 誘発を行い8 時間観察したが,両区とも放卵放精は 見られなかった。 試 験開始13 日目に再び両区の産 卵 誘発を行い8 時間観察した結果,加温区 1 では 17 個体のうち 14 個体(放卵放精率 82%)で放卵放 精が 確 認された(Table 1)。一方,対照区 1 でも産 卵誘発を行ったが,8 時間経過しても 16 個体全てで 放卵放精は見られなかった(Table 1)。加温区 2 お よび対照区2 の平均水温は 24.9 ± 0.1℃および 16.8 ± 0.6℃で,飼育水温の差は 8.1℃であった。試験開 始時に両区とも産卵誘発を行い8 時間観察したが放 卵放精は見られなかった。試験開始7 日目に加温区 2 について産卵誘発を行ったところ,8 時間後には 51 個体のうち28 個体(放卵放精率 55%)で放卵放精 が確認された。試験開始8 日目に対照区 2 で産卵誘 発を行ったが,8 時間経過しても 50 個体全てで放卵 放精は見られなかった。なお,対照区1,2 について は,産卵誘発24 時間後に放卵放精の有無を調べた が,両区とも放卵放精は認められなかった。 加温区と対照区の生殖腺指数をTable 2 に示した。 試 験開始時の生殖腺 指数は28.1 ± 6.2 であった。6 日間加温飼育した供試貝の生殖腺指数は33.7 ± 6.5 で,自然水温で8 日間飼育した供試貝は 36.2 ± 6.9 であった。 今回の結果から,水温25℃の加温飼育が放卵放 精を促進させるためには効果的であることが明らかと なった。道家ら(1998)は生殖腺の組織学的な研究 を行い, 生 殖 腺 指数10 ~ 30 は発達期で,生殖腺 指数50 以上で成熟に達して放卵放精を行うと報告し た。しかし,加温区のイワガキ生殖腺指数は33.7 で あり, 生殖腺 指数50 に達していないにも関わらず, 産卵誘発8 時間後には 55%の個体が放卵放精した。 これは産卵早期のイワガキを加温 飼育することによ り,発達過程にある生殖腺の一部が急 速に成熟し, 放卵放精を行ったのではないかと考えられた。 さら に,田中ら(2009)は,親貝の加温飼育で得た卵は 良質で異常発生率が低く,親貝1 個体当たりの放卵 量も多いことを報告した。したがって,イワガキ親貝 の加温飼育は産卵早期の種苗生産において,良質な 卵を大量に安定確保できる手法であると考えられた。
Fig. 1 Daily changes in water temperature under thermal condition and control. Open arrows indicate spawning induction.
Solid arrow indicates spawning.
10 15 20 25 30 1-J un 2-J un 3-J un 4-J un 5-J un 6-J un 7-J un 8-J un 9-J un 10-J un 11-J un 12-J un 13-J un 14-J un W a te r te m p e ra tu re ( ℃ ) Thermal condition Control Experiment 1 (2007) 10 15 20 25 30 22-M a y 23-M a y 24-M a y 25-M a y 26-M a y 27-M a y 28-M a y 29-M a y 30-M a y W a te r te m pe ra tu re (℃) Thermal condition Control Experiment 2 (2008)
Fig. 1 Daily changes in water temperature under thermal condition and control.
Open arrows indicate spawning induction. Solid arrow indicates spawning.
Table 2 Gonad index and details of shells used in experiments
※1 Mean±S.D.
※2 Gonad index = (Thickness of gonad / Diameter of soft tissue) ×100
Sampling Number of Shell height Thickness of Diameter of
date shells (mm) gonad (mm) soft tissue (mm)
Start 22 May, 2008 22 137±14※1 7.5±2.1 26.4±2.8 28.1±6.2
Thermal condition 27 May, 2008 25 137±14 8.8±2.7 25.6±4.3 33.7±6.5 Control 29 May, 2008 21 153±20 10.6±2.7 28.8±2.8 36.2±6.9
Gonad index ※2 Group
Table 2 Gonad index and details of shells used in experiments
※ 1 Mean ± S.D.
京都府立海洋センター研究報告 第 31 号,2009 文 献 道家章生,宗清正廣,辻 秀二,井谷匡志.1998.若 狭湾西部海域におけるイワガキの生殖周期.栽 培技研,26: 91‐98. 藤原正夢.1998.栗田湾における養殖イワガキの産卵期 について .京都海洋セ研報,20: 20‐24. 京都府立海洋センター.2001.平成 12 年度新養殖技術 開発事業報告書(イワガキの種苗量産技術開発), 1-15. 田中雅幸,今西裕一,藤原正夢.2009.イワガキ種苗 生産における産卵誘発法について.京都海洋セ 研報,31: 11‐14.