宇宙開発利用に関する基本方針について
(改訂版)
防 衛 省
宇宙開発利用推進委員会 平 成 2 6 年 8 月 2 8 日
目 次 1.改訂の趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.宇宙開発利用の特性、意義及び課題・・・・・・・・・・・・・・・・1 3.昨今の防衛省の取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 4.防衛省の宇宙開発利用に関する基本方針・・・・・・・・・・・・・・3 ⑴ 宇宙空間に対する考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 ⑵ 「統合機動防衛力」の構築に資する宇宙開発利用のあり方・・・・3 ⑶ 今後の重点的な取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 ア.3つの視点に係る取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 ①「活動空間」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 ②「基盤空間」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 ③「対処空間」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 イ.宇宙空間の安定確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 5.宇宙政策推進に当たっての共通の課題・・・・・・・・・・・・・・・8 ⑴ 体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 ⑵ 費用対効果の最大化など・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 ⑶ 宇宙産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 6.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1 1 改訂の趣旨 防衛省・自衛隊では、平成 20 年の宇宙基本法の成立を受け、宇宙開発利 用推進委員会を設置し、平成 21 年 1 月に策定した「宇宙開発利用に関する 基本方針について」(以下、「基本方針」という。)において、安全保障分野 での新たな宇宙開発利用について、従来の一般化理論の枠組みを超えた検討 を推進することとした。 その後、平成 24 年には、独立行政法人宇宙航空研究開発機構法(以下、「JAXA 法」という。)改正により、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」 という。)の目的規定における平和利用に関する記述が宇宙基本法と整合的 なものに変更され、JAXA における安全保障目的の研究開発が可能となった。 また、平成 25 年に閣議決定された国家安全保障戦略では、国際協調主義 に基づく積極的平和主義を我が国が掲げる理念とし、宇宙空間については、 宇宙空間の安全保障上の重要性が著しく増大している一方、宇宙ゴミ(スペ ースデブリ)の増加や対衛星兵器の開発の動きを始めとして、持続的かつ安 定的な宇宙空間の利用を妨げるリスクが存在しているとの認識の下、我が国 がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチの一つとして「宇宙空間の安 定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進」を掲げ、宇宙空間の活用 を推進するとともに、宇宙空間の状況監視体制の確立を図ることとしている。 国家安全保障戦略とあわせて閣議決定された「平成 26 年度以降に係る防 衛計画の大綱」(以下、「防衛大綱」という。)では、初めて新たに宇宙空間 に関する項目を立て、人工衛星を活用した情報収集能力や指揮統制・情報通 信能力を強化するほか、宇宙状況監視の取組等を通して衛星の抗たん性を高 めることなどを自衛隊の体制整備に当たっての重視事項の1つとして位置 付けている。 このように、宇宙政策をめぐる環境の大きな変化を踏まえ、今般、防衛省・ 自衛隊では、宇宙開発利用推進委員会において、「統合機動防衛力」の構築 に資する宇宙開発利用のあり方の検討を行った。 その結果を踏まえ、防衛省・自衛隊として、防衛大綱など政府の長期的な 指針の下、宇宙開発利用に関する各種施策を計画的かつ現実的に推進してい く観点から新たな方向性を基本方針の改訂版として取りまとめたものであ る。 2 宇宙開発利用の特性、意義及び課題 宇宙空間は、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国
2 家活動を律する原則に関する条約」(いわゆる宇宙条約)において、国家に よる取得の対象とはならず、全ての国家が国際法に従って自由に利用可能で あるとされていること、また、天候の影響を受けにくいことなどから、人工 衛星を活用すれば地球上のあらゆる地域へのアクセスが可能である。このよ うな特性を活かし、各国では、防衛分野において、例えば、航空機や艦船な どではアクセス困難な他国領域における軍事動向などの偵察、遠隔地からの 迅速で精確な指揮統制・情報通信、ミサイルの誘導精度の向上などの装備品 の性能発揮のために人工衛星が活用されている。他の分野においても、測位、 気象観測、通信・放送、陸域海域観測など様々な用途で活用され、社会、経 済、科学分野などの重要なインフラとして浸透している。 このように、人工衛星等による宇宙開発利用は、各国の防衛力、経済力、 技術力、ソフトパワー等の維持・向上に寄与する国力の重要な構成要素とし ての意義を有している。 こうした宇宙開発利用の特性及び意義を踏まえ、人工衛星の打上げ国等は 年々増加している。それに伴い、運用を終えた人工衛星、ロケットの部品や 破片など地球を周回する宇宙ゴミが増加し、これとの衝突により人工衛星の 機能が喪失する危険性が増大している。 また、地上から人工衛星に向けて発射するミサイル、衛星攻撃衛星(キラ ー衛星)、レーザー光線などの指向性エネルギー兵器、電波妨害(ジャミン グ)や電磁パルスを利用した兵器といった対衛星兵器の開発が進展しており、 これらが使用されれば、我が国の安全保障上重要な宇宙の利用が阻害される おそれがあるだけでなく、対衛星兵器の種類等によっては宇宙ゴミがさらに 増加するおそれがある。一般に人工衛星は、攻撃を受けることを想定した防 護能力を備えていないため、人工衛星を安易に攻撃の対象とする誘因となる おそれもある。 こうした状況は、国際社会にとって安定的な宇宙開発利用に対する重大な 脅威であることから、宇宙開発利用に関する国際的な秩序や規範の重要性を 高めていくための議論が行われている。 3 昨今の防衛省の取組 防衛省・自衛隊は、気象衛星や商用画像衛星など社会的に普及しているも のを中心に人工衛星の利用を拡大している一方、その大半は、外国政府や企 業等が保有している人工衛星であり、現時点で防衛省・自衛隊は人工衛星を 保有していない。
3 現在、部隊運用上重要な指揮統制・情報通信に使用している民間 X バンド 通信衛星3機のうち、設計寿命を迎える2機の後継機については、防衛省・ 自衛隊が、自らの通信所要に即した初の防衛省保有の衛星として整備中であ り、平成 28~29 年頃にかけて運用を開始する予定となっている。 このほか、宇宙監視のあり方に関する調査研究を行うなど宇宙ゴミの増加 の問題等を踏まえた取組を進めている。 また、日米間及び日米豪3ヵ国間で安全保障分野における宇宙協議を定期 的に開催しているほか、平成 24 年の JAXA 法改正を踏まえて技術研究本部と JAXA の間で包括協力協定を締結している。 4 防衛省の宇宙開発利用に関する基本方針 ⑴ 宇宙空間に対する考え方 防衛省・自衛隊が、今後も多様な任務を効果的かつ効率的に遂行してい くためには、地球上のあらゆる地域へのアクセスが可能な人工衛星の特性 を活かした宇宙空間の利用の推進、及び宇宙空間において我が国に対する 弾道ミサイル等の飛来などの各種事態に対処するための宇宙空間の利用が 極めて重要である。 宇宙空間は、現在の防衛省・自衛隊による宇宙利用の目的ごとに大別す れば、①人工衛星を用いた情報収集等の諸活動を行うための「活動空間」、 ②人工衛星を用いた自らの通信の中継、測位に必要な信号の送受信等によ り、地球上における活動の指揮統制・情報通信を支えるための「基盤空間」 と位置付けることができる。また、宇宙空間での弾道ミサイル攻撃への対 応をはじめとする宇宙利用に関しては、③早期警戒を含め、宇宙空間にお いて各種事態に対処するという観点から「対処空間」と位置付けることが できる。 さらに、昨今の宇宙ゴミの増加や対衛星兵器の開発の進展といった宇宙 空間の安定的利用に対する重大な脅威が存在していることを踏まえれば、 今後の防衛省・自衛隊の「活動空間」、「基盤空間」及び「対処空間」とし ての宇宙空間の利用を図る上で、④「宇宙空間の安定確保」が必須の前提 となることに留意する必要がある。 ⑵ 「統合機動防衛力」の構築に資する宇宙開発利用のあり方 我が国を取巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、今後、防衛省・自 衛隊が、各種事態に適時・適切に対応し、国民の生命・財産と領土・領海・ 領空を確実に守り抜くためには、平素から常続監視による情報優越を確保
4 することにより、各種兆候を早期に察知し、シームレスかつ機動的に対応 することが重要である。このような情報優越の確保のために宇宙空間を「活 動空間」として利用することにより、防衛省・自衛隊の ISR(注1)機能 を補強することができる。 また、宇宙空間を「基盤空間」として利用することにより、統合運用の 下での迅速な情報共有、機動的な部隊行動、装備品等の自己位置の測定な どの点において、防衛省・自衛隊の指揮統制・情報通信を支え、C4(注2) 機能の一部を確保することができる。 このような宇宙利用に際して、防衛省・自衛隊の要求水準に即した人工 衛星システムを活用することは、効果的かつ効率的な ISR 機能の補強と、 C4 機能の一部の確保に資する。 さらに、弾道ミサイル攻撃への対応に関して、弾道ミサイル発射に関す る兆候を早期に察知し、多層的な防護態勢により、機動的かつ持続的に対 応することができるなど、宇宙空間を、早期警戒を含めた「対処空間」と して利用することにより、各種事態に実効的に対応することができる。 すなわち、宇宙開発利用は、「統合機動防衛力」を支える C4ISR(注3) 機能を補強・確保するとともに各種事態に実効的に対処する上で極めて重 要な手段である。 以上の認識と、宇宙開発利用を確保するための宇宙空間の安定確保の重 要性を踏まえ、今後、防衛省・自衛隊は、「防衛省・自衛隊のニーズを反映 した安定的な宇宙開発利用」の実現に向けてイニシアティブを発揮してい く。 他方、宇宙開発利用は、一般にその事業規模やリスクが大きく、求めら れる技術の専門性が高いことから、「防衛省・自衛隊のニーズを反映した安 定的な宇宙開発利用」は、政府全体における検討への参画や関係府省及び 同盟国等との連携にも重点をおいて進めることが重要である。
(注1)ISR: Intelligence, Surveillance, Reconnaissance の略で、「情報、監視、偵察」の総称 (注2)C4: Command, Control, Communication, Computer の略で、「指揮、統制、通信、コンピュータ」
の総称 (注3)C4ISR:C4 と ISR の総称 ⑶ 今後の重点的な取組 ア 3つの視点に係る取組 今後は、以下の視点に留意しつつ、「活動空間」、「基盤空間」、「対処 空間」としての宇宙空間の利用を進めていく。
5 ① 「活動空間」の視点 人工衛星を用いて宇宙空間を「活動空間」として利用することは、 継続的かつ広範囲での情報収集に効果を発揮することから、防衛省・ 自衛隊の ISR 機能を補強し、情報優越の確保に資する。 人工衛星は、地球上のあらゆる範囲にアクセスすることが可能であ る一方、航空機(無人機を含む。)などは、アクセスできる範囲は限 定されるものの、人工衛星よりも任意のタイミングでアクセスするこ とが可能であるといった特性を有することから、ISR 機能全体の向上 に際しては、人工衛星の利用と航空機などの装備品の取得や能力向上 とを適切に組み合わせてバランスさせることが重要である。 防衛省・自衛隊では、こうした考え方を踏まえ、ISR 機能を確実な ものとする観点から、様々なセンサを有する人工衛星により得られる 画像を重層的に取得し、宇宙空間を「活動空間」として積極的に利用 していく。また、関係府省等が推進するリモートセンシング政策に積 極的に関与し、防衛省・自衛隊のニーズを反映することにより、ISR 機能の補強に資するリモートセンシング基盤を育成する。さらに、情 報収集衛星群(コンステレーション)の能力強化にも引き続き積極的 に関与する。 このほか、状況に応じて情報収集の効果を一層高める必要が生じた 場合でも、弾力的かつ安価に ISR 機能を補強し得る即応型小型衛星シ ステムに関する調査研究等を行う。その際、民生分野における研究開 発の成果の効果的な取り込みについても十分に配慮する。 なお、人工衛星を利用した 海洋の監視(MDA:Maritime Domain Awareness)については、安全保障のみならず、経済・環境など様々 な海洋に係る活動等を効率的に監視することを目的とした取組であ ることから、そのあり方については引き続き同盟国などと議論を重ね つつ政府全体における検討に寄与する。 ② 「基盤空間」の視点 宇宙空間の「基盤空間」としての利用形態には、通信衛星、測位衛 星の利用があげられる。 a 通信 通信衛星は、自衛隊の運用や災害時の抗たん性の観点から他の装 備品等では代替困難な重要な通信インフラであり、昨今は装備品等 の高性能化に伴い通信所要が増加しているため、その重要性は一層
6 高まっていくことが見込まれる。 特に X バンド通信衛星は、部隊運用上極めて重要な指揮統制・情 報通信に使用していることから、民間運用の現行衛星2機が設計寿 命を迎えることを受けて、それらの後継を、防衛省・自衛隊の通信 所要に即した初の防衛省保有の衛星として、PFI(Private Finance Initiative)方式により整備している。 さらに、平成 32 年頃には、自衛隊が利用する残りの1機の民間 衛星(スーパーバード C2 号機)のサービス期間が終了する予定と なっている。このため、統合運用の下での迅速な情報共有、機動的 な部隊行動を支える C4 機能の確保の観点から、当該後継衛星の必 要性があることを踏まえ、平成 26 年度から取得形態のあり方や衛 星技術の動向に関する調査研究を実施している。今後、防衛省・自 衛隊が、平成 28 年度から当該後継衛星を主体的に整備することを 前提に、PFI 方式により契約手続等を実施する場合に必要となる部 外専門家による支援を得るなど、具体的な検討を進める。 b 測位 衛星測位機能を有する装備品等は着実に増加しており、防衛省・ 自衛隊では、現在、多数の装備品に GPS 受信端末を搭載して衛星測 位機能を確保し、精度の高い自己位置の測定、誘導弾の誘導精度向 上など高度な部隊行動を支援する重要な手段として活用している。 昨今、GPS 信号を電子的に妨害する安価な器材が世界に拡散して おり、これに対して、米国は高精度かつ抗たん性の高い次世代 GPS 衛星を平成 27 年度以降打上げる予定であることなども踏まえつつ、 防衛省・自衛隊としては、GPS 衛星を通じた衛星測位機能を引き続 き保持していく。 他方、我が国では、GPS 衛星を補完・補強する観点から準天頂衛 星システムの整備が進められている。本システムは、産業の国際競 争力強化、産業・生活・行政の高度化・効率化、アジア太平洋地域 への貢献と我が国プレゼンスの向上、日米協力の強化及び災害対応 能力の向上等広義の安全保障に資するものである。防衛省・自衛隊 としては、今後の衛星測位機能のニーズや本システムの利用に必要 となる費用等を踏まえ、費用対効果に優れる場合は、利用を推進す る。 ③ 「対処空間」の視点
7 防衛大綱では、北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上を踏まえ、我が国の 弾道ミサイル対処能力の総合的な向上を図ること、弾道ミサイル防衛シ ステムについては、我が国全域を防護しうる能力を強化するため、即応 態勢、同時対処能力及び継続的に対処できる能力を強化することとして いる。 かかる取組の一環として、宇宙空間から我が国に飛来する弾道ミサイ ル発射の兆候や発射情報等をより早期に察知・探知する可能性について 研究するため、技術研究本部が開発した高性能 2 波長赤外線センサを文 部科学省・JAXA で計画中の「先進光学衛星」に相乗り(ホステッドペイ ロード)することにより、宇宙空間での実証研究を行い、センサの衛星 搭載・運用及び赤外線衛星画像の解析手法に関する技術的な知見を蓄積 する。 なお、我が国の方向へ発射される弾道ミサイル等に関する第1報とし て米国から受領している早期警戒情報は、引き続き確実な提供を受ける ことにより、弾道ミサイル防衛に万全を期すとともに、国民の安心・安 全の確保に資するよう努める。 イ 宇宙空間の安定確保 「活動空間」、「基盤空間」、「対処空間」としての宇宙空間の利用を進 めていく上で、宇宙空間の安定確保は必須の前提であるが、昨今の宇宙 ゴミの増加や対衛星兵器などの開発の進展を踏まえると、人工衛星と宇 宙ゴミの衝突の蓋然性が一層高まる可能性があるほか、人工衛星システ ムが、価値の高い攻撃目標として認識される可能性がある。 こうした脅威によって安定的な宇宙利用が阻害される状況が生起す れば、防衛省・自衛隊、ひいては我が国の宇宙活動の基盤が損なわれる。 こうした問題に対処するため、防衛省・自衛隊では、宇宙ゴミと人工 衛星との衝突を防止し、対衛星兵器などを用いた攻撃を抑止する観点か ら、宇宙状況監視(SSA:Space Situational Awareness)の能力を高め、 安定的な宇宙利用が阻害されることのないよう具体的な措置を講じてい く。 かかる観点から、防衛省・自衛隊が、宇宙ゴミや対衛星兵器などの宇 宙物体の精確な動きを把握する宇宙監視機能を新たに保持することを前 提に、宇宙物体を追跡するために必要なセンサや解析システムなどの整 備を目指して、内閣府及び文部科学省と連携して具体的な検討を進める。 その際、JAXA 等が保持する人工衛星等の追跡機能や技術的知見を活用
8 すれば、効果的かつ効率的な宇宙監視機能の確保が期待できるため、今 後の検討を進めるに当たっては、こうした知見等を最大限活用できるよ う関係府省等と連携する。 また、システム等の整備にあたっては、その効果を最大限発揮させる 観点から、世界各地にセンサを配置している同盟国などとの観測情報等 の相互共有を図るほか、我が国による安全なロケットの打上げの支援、 制御不能な人工衛星等の我が国領域への落下の監視への活用など国民の 安全・安心の確保にも配慮する。 このような取組にもかかわらず、万が一にも、安定的な宇宙利用が阻 害されるような状況が生起したとしても、容易に防衛省・自衛隊の能力 が失われることのないよう、人工衛星システムの残存性の確保と、軌道 上の人工衛星システムの機能の弾力性の確保の2つの視点から方策を検 討する。 残存性に関する方策としては、対衛星兵器の動向に関する情報収集・ 分析を進めつつ、人工衛星の防護や人工衛星に対する通信妨害対策に関 する調査研究等を通じて、効果的で効率的な方策を検討する。 また、弾力性に関する方策としては、軌道上の人工衛星が機能を失っ た場合の代替衛星としても利用し得る即応型小型衛星システムに関する 調査研究等を実施して知見を蓄積する。 5 宇宙政策推進にあたっての共通の課題 ⑴ 体制 今後、防衛省・自衛隊では、外国政府や研究開発機関等との交流や研修 への派遣を通じて人材育成を進めつつ、宇宙開発利用に関する政策、運用、 取得、技術部門の体制充実を図る。特に運用については、宇宙監視機能の 保持にあわせて、防衛省・自衛隊に宇宙監視を任務とする専従の組織を設 置できるよう検討する。 また、個別事業の管理に際しては、総合取得改革のなかで実施すること としているPM/IPT(Project Manager/Integrated Project Team) 体制によるプロジェクト管理手法の活用など、効果的かつ効率的な検討体 制の整備についても検討する。
さらに、政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関に位 置付けられている JAXA との協力を推進し、宇宙開発利用に関して必要とな る専門的な知見の蓄積に努める。
9 ⑵ 費用対効果の最大化など 防衛省・自衛隊にとって宇宙開発利用を通じて得られる能力は極めて重 要であるが、宇宙開発利用は、一般にその事業規模やリスクが大きく、ま た、求められる技術の専門性が高い一方、人工衛星システムの設計寿命が 数年から 15 年程度と他の装備品等に比べて短い。昨今の防衛省・自衛隊の 厳しい財政事情を踏まえると、これら能力強化の方策をあまねく防衛省・ 自衛隊による人工衛星の開発・整備等に結論付けることは困難である。 そのため、今後、防衛省・自衛隊が、自らのニーズを反映した宇宙開発 利用を推進していくためには、事業の費用対効果を最大化させることが必 要不可欠である。 具体的には、人工衛星システムの研究開発にあたっては、技術研究本部 と国内の研究開発機関等との共同研究開発などを通じて、これらの機関が 蓄積している技術的知見を活用することを視野に入れ、研究開発の費用対 効果の最大化に努めるものとする。 その際、防衛分野から民生分野への技術波及効果など、国内の機関等に とってのメリットを考慮して、共同研究等のインセンティブを高めること に配慮する。 また、人工衛星システムの整備・運用にあたっては、関係府省等や民間 企業等の器材との相乗り(ホステッドペイロード)や共用(デュアルユー ス)による、整備経費等の負担軽減を図るほか、民間の能力を活用する PFI などの取得スキームを採用して費用対効果の最大化を目指す。 このほか、打上げ失敗といった人工衛星特有のリスクについては、必要 に応じて防衛省・自衛隊が宇宙保険に加入することなどによって、不測の 事態においても国の費用負担を最小限に抑制することに配慮する。 ⑶ 宇宙産業 平成 25 年に宇宙開発戦略本部が決定した宇宙基本計画では、宇宙産業は 国民生活の質の向上、経済社会の発展、安全保障の確保、科学技術の向上 等に必要不可欠なものであり、自律的に宇宙活動を行うための基盤と位置 付けられている。 今後、X バンド通信衛星の整備のように、防衛省・自衛隊のニーズに即 した衛星システムの整備等が進展すれば、我が国の宇宙産業が、防衛生産・ 技術基盤としての位置付けを高め、潜在的な抑止力としての効果及び対外 的なバーゲニング・パワーの維持・向上をもたらすことになり得る。 平成 26 年に防衛省が策定した防衛生産・技術基盤戦略においても、防衛
10 省の宇宙開発利用に係る方針と連携しつつ、我が国の防衛の観点から、将 来的に必要とされる防衛生産・技術基盤の在り方を検討していくこととし ている。 一般に宇宙産業は、その特性として、衛星バスや搭載センサ、地上シス テム等のデュアルユース化が固有の防衛装備品等と比べて容易であるため、 防衛と民生といった目的ごとの区別が困難である。そのため、防衛省・自 衛隊では、今後、宇宙産業の現状や産業構造、相対的な比較優位がある分 野(強み・弱み)等の実態把握などを進めるに際しては、宇宙基本計画に 示された産業振興の取組も踏まえつつ、このような分野に知見を有する関 係府省等との連携を図る。 さらに、これまで主に技術の獲得に重点を置いて取り組まれてきた我が 国の宇宙開発利用において培われた技術シーズと、防衛省・自衛隊のニー ズを適切にマッチングさせて、C4ISR 機能に取り込むことによって、「統合 機動防衛力」の構築に大きな効果が期待されることから、かかる観点から の関係府省等との連携も十分に配慮する。 また、宇宙基本計画で、宇宙産業の維持・強化の方策の一環として示さ れている、宇宙利用の拡大や産業化の視点からの研究開発や、衛星開発に おける官民連携、補助金、需要保障などの政策手法の活用に際して、防衛 省・自衛隊のニーズにも則した費用対効果の高い産業競争力を保持するこ とができれば、C4ISR 機能等の向上や安全保障の主体性確保と、産業化の 進展との間で新たな好循環を生み出すことが期待されることから、かかる 観点についても関係府省等との連携に十分配慮する。 6 おわりに 防衛省・自衛隊にとって、宇宙開発利用によって得られる能力は、「統合 機動防衛力」を支える C4ISR 機能を補強・確保する上で極めて重要である。 同時に、宇宙空間の脅威の増大を踏まえれば、こうした能力を確保するため の宇宙空間の安定確保があわせて重要である。その際、宇宙開発利用の特性 として、固有の防衛装備品等と比べて防衛と民生の垣根が低いことを踏まえ、 政府全体における検討への参画や、安全保障分野のみならず民生分野を含む 関係府省等との連携も進めつつ、「防衛省・自衛隊のニーズを反映した安定 的な宇宙開発利用」を効果的かつ効率的に推進していく。 なお、今後、政府の宇宙政策に関する新たな基本指針が示された場合は、 必要に応じて基本方針の改訂を行うものとする。