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一票の格差をどう考えるか

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関西学院大学 総合政策学部

長峯ゼミ 都市政策パート

柴谷友香 浅野里奈 司城史果

山越千夏 山下恵里 米田嵩央

一票の格差をどう考えるか

~憲法が要請する完全是正は必要か~

2012 年度 公共選択学会

第 15 回 学生の集い

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目 次

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3

1 章 一票の格差問題の重要性・・・・・・・・・・・・・p.4

1-1 一票の格差とは 1-2 なぜ一票の格差が問題なのか 5 1-3 一票の格差問題が解決しない理由 1-4 一票の格差が是正されたらどうなるか

2 章 現在の日本の選挙制度・・・・・・・・・・・・・・p.8

2-1 総選挙(衆議院)の流れ 2-2 通常選挙(参議院)の流れ 10 2-3 選挙制度改革の困難性

3 章 様々な問題が内在する現在の投票方式・・・・・・・p.14

3-1 なぜ一人一票なのか 3-2 一票の重さの不平等 3-3 投票率の低下 15 3-4 投票結果の信憑性 3-5 死票の問題

4 章 選挙の実態と国民の政治に対する意識・・・・・・・p.18

4-1 衆議院議員選挙 4-2 参議院議員選挙 20 4-3 統一地方選挙 4-4 有権者が関心のある選挙 4-5 若者の選挙行動への啓蒙 4-6 選挙に関するデータから分かる問題と今後の課題

5 章 諸外国の選挙制度・・・・・・・・・・・・・・・・p.30

25 5-1 各国の選挙制度 5-2 各国の投票義務と有権者の年齢 5-3 各国と日本の政治教育の比較 5-4 各国の一票の格差 5-5 まとめ 30

終章 本論文の結論とまとめ・・・・・・・・・・・・・・・p.38

参考

URL・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.39

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.40

参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.40

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序章

図表1 は 10 月 18 日付の神戸新聞に掲載されていた、参院選最高裁判決の経過をまとめ たものである。しかし、2010 年の参院選の一票の格差が最大 5.00 倍だったことを違憲とし て、二つの弁護士グループが選挙無効を求めて訴訟の上告審判決で最高裁大法廷は10 月 17 5 日に違憲状態だと判断されたと2012 年 10 月 18 日付の各紙新聞で報じられた。1992 年選 挙をめぐっての96 年の大法廷判決以来、参院選の違憲状態と判断されたのは二度目である。 しかし、私たちは一票の格差を是正するには、小手先の是正には限界があり、根本的な 問題を見直さなければならないと考える。そこで、私たちは日本の選挙実態を改めて見直 し、各国の選挙制度を比較しながら、その一票の格差がどう社会に影響を与えているのか 10 を言及する。そして最後にどのように一票の格差という問題に向き合っていくのか明確に したいと思う。 都市部の住民の一票は、地方部の一票より軽い。このいわゆる選挙区ごとの一票の格差 は長らく問題とされ、そのつど選挙区割りや定数配分の改正によって対応してきたため、 根本的な解決策はとられてこなかった。 15 図表1 参議院最高裁判決の経過(2012 年 10 月 18 日付神戸新聞) 20 25 30

参議院議員選挙法(現公選法)制定

選挙区間の最大格差

2.62倍

参議院選挙、格差訴訟で初最高裁判決

62年選挙(最大格差4.09倍)を合憲と判断

1996年9月11年

92年選挙(6.59倍)を違憲状態と判断

1998~2006年

95、98、01、04選挙(4.97~5.13倍)を合憲

と判断

2009年9月30日

07年選挙(4.86倍)を合憲としつつ「選挙

自体の見直しが必要」と言及

2010年7月11日

第22回参院選(

5.00倍)

2010年11月17日

2011年2月28

10年選挙をめぐり、全国14の高裁・高裁支

部で判決。合憲

4件、違憲状態9件、違憲3件

と判断が分かれる

2012年9月12日

最高裁大法廷で弁論

2012年10月17日 10年選挙を「違憲判決」とする統一判断

1947年2月24日

1964年2月5日

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第1章 一票の格差問題の重要性

1-1 一票の格差とは

一票の格差とは、主に国政選挙において有権者の投じる一票に生じた「価値」の差のこ とである。つまり一票の重みの不平等である。このように選挙区の人口数と、選挙される 議員数との比率を見たとき、選挙区ごとに格差が生じている状態を指したことばで、議員 5 定数不均衡問題と言い換えられる。議員一人を当選させるための票数が選挙区によって異 なるが、この差が間接的に一票の格差だと簡単に説明されることもある。 議員一人当たりの有権者数が選挙区によって違う、言い換えると選出される議員一人当 たりの人口(有権者数)が選挙区によって異なるため人口(有権者数)が少ない選挙区ほ ど有権者一人一人の投じる一票の価値が重くなり、反対に人口(有権者数)が多い選挙区 10 ほど一票の価値は軽くなる。 例えば 2010 年 6 月 24 日総務省が発表した参院議員一人当たりの有権者数を比較すると 選挙区間の「一票の格差」は最大で 5.01 倍(参院議員一人当たりの有権者数が一番多いの が神奈川県で 122 万 1336 人、逆に参院議員一人当たりの有権者数が一番少ないのが鳥取県 で 24 万 3947 人)であった。これは神奈川県の有権者の一票の価値が鳥取県の有権者の一 15 票の価値の約 5 分の 1 であることを指す。 こういった選挙区間で議員数や有権者数が異なることによって生まれる票の価値の差を 一票の格差と呼ぶ。 図表 2 各都道府県の一票の価値(鳥取県を1とする)1 20 25 30 1 出典http://livedoor.blogimg.jp/hardthink/imgs/f/a/fa5b7a18.png

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1-2 なぜ一票の格差が問題なのか

朝日新聞

2012 年 9 月 8 日土曜日の「意見広告国会議員の多数決≠国民の多数

憲法」の記事では以下のことを指摘する。「一人一票」論は元来、統治論、即ち「正当な 選挙」論)と憲法の最高法規性論(即ち憲法上の要請<「投票価値の等価値」>は法律上の要 請<都道府県などを基準とする選挙区割り>に優越する)の二つの考えから重要視されていた。 5 これまで一票の格差裁判での議論は法の下の平等論から展開される傾向が強かった。 しかし 2009 年以降の裁判での主張のそれより前の法の下の平等論とは明確に区別され、 柱は統治論となった。日本が議制民主主義の体制を取っていることから考えると、代議制民 主主義は①主権者は国民である②正当な選挙③国会議員の多数決の三本柱で成り立ってい る。代議制民主主義を根幹とする憲法では②の正当な選挙こそが投票の仕組みの命綱だと言 10 える。なぜならば②の正当な選挙は①主権者は国民と③国会議員の多数決とを直結させる連 結器だからである。正当な選挙は国民が主権者として参加し、国民の多数決が国会議員の多 数決と等価値あるいは、同等になるための唯一の手段であると言い換えられる。もしこの正 当な選挙が行われなければ、主権者は国民でなく、国会議員になってしまう。人口に比例し ていない投票により選ばれた国会議員では、国民の「最大多数の最大幸福2」を実現出来な 15 い。それは単なる「国会議員の最大多数の最大幸福」にしかならない。そもそも国会議員の 多数決という概念は「議員一人当たり登録有権者数が同数であること」が大前提である。 また朝日新聞憲法は国会議員の多数決が国民の多数決と等価であることを要求している。 なぜならば、国会議員の多数決と主権者の多数決が矛盾すると、その瞬間に「国民主権の統 治の仕組み」が崩壊するからである。憲法は主権者である国民が国会議員を通して、多数決 20 で立法、行政、司法を支配するような「国のかたち」を想定していないし、少数の有権者が 必ず多数の国会議員を選出することになることが問題の「一票の格差」は国民の国会議員を 通じて国民の多数決で三権を支配できるという保障を失うのだから、憲法はこれを許しては いけない。 正当な選挙が行われなければならない事は当然だが、正当な選挙とは国民の多数が国会議 25 員の多数を選ぶ選挙のことを言う。その正反対に位置する、国民の少数が必ず国会議員の多 数を選び、国民の多数が国会議員の少数を選ばざるを得ない今の日本の選挙の仕組みが認め られてはいけない。 国会議員の観点から見ていても、今の選挙のあり方が不条理であることは明らかである。 国会議員は国会議員の立場、地位自体は正当性を主張する根拠に成りえない。憲法は、主権 30 者は国会議員と定めていない。国会議員の国会での一票が等価であることの根拠は「国会議 員を選出した選挙区の議員一人当たりの有権者(主権者)の数が、同数であること」に求め 2 イギリスの哲学者・経済学者・法学者であったジュレミ・ベンサム(1748~1832)によるイギリス功利 主義の理念。幸福とは個人的快楽であり,社会は個人の総和であるから,最大多数の個人がもちうる最大 の快楽こそ,人間が目指すべき善であるとする。

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6 ざるを得ない。国会議員の国会での投票権の正当性は国民の投票価値と同価値であって初め て、根拠となるのだ。憲法の根幹が「主権者は国民」である以上、国会議員の投票権の等価 性の根拠は「選出選挙区の国会議員一人当たりの主権者の数」が同数である事以外にない。 重要な国政問題が僅差の国民(主権者)の多数決によって決まることはまれではない。例 えば 2012 年のフランスの大統領選挙でオランド氏は 51.6%、サルコジ氏は 48.4%を得票し 5 た。50%を基準とすると、オランド氏は 50%からわずか+1.6%しか上回っていない。一票 対 0.9 票の「一票の格差」があったと仮定すると、この選挙結果は逆転していた。この例か ら見られるように、民主主義国家では重要な国政問題について、国民の意見が僅差で二分化 されることは少なくない。「人口比例選挙」であるとすると僅差であっても国民の多数は国 家権力を支配する。しかし日本のように非「人口比例選挙」では、国民の多数が国家権力を 10 支配するという保障にならない。「一票に格差」がおこり得る選挙制度では、以上で述べた とおり、「国民の最大多数の、国民の最大幸福」という「民主主義国家」の仕組みを破壊す る。 先にフランス大統領選挙で例を挙げたが、2010 年の日本の参院選挙区制度で考えてみる。 一票対 0.2 票(最大の差が出た鳥取県と神奈川県の数字)の「住所差別選挙」のため、全 15 登録有権者の 33%が全参議院選挙選出議員の 51%を選び、全登録有権者の 67%がその 49% を選んだことになる。これは明らかに不条理である。 また憲法の要請は法律の要請に優越すると憲法 98 条(憲法の最高法規性)に記されてい る一方で、「投票価値の等価値」は憲法の要請である。他方で都道府県を基準とする選挙区 割りは公職選挙法の要請でしかない。したがって憲法 98 条により憲法の要請である「投票 20 価値の等価値」は公職選挙法の要請である都道府県を基準とする選挙区割りによって滅殺さ れない。よって憲法上の要請である「投票価値の等価値」を実現するためには都道府県の県 境を越えてでも投票価値を実現できる選挙区割りが設けられなければならない。 憲法は「主権者は国民」と定め、「国民が正当な選挙(即ち人口比例選挙)」を通じて国 会議員を選出し、国会議員を通じて多数決で立法、行政、司法の三権を支配すること」を定 25 めている。それにもかかわらず主権者は「正当な選挙」を定める公職選挙法が存在しないた め「国会議員を介して有権者の多数決で三権を支配する保障」を得ていない。これは憲法に 照らして考えると最高裁判所裁判官が非「人口比例選挙」という憲法違反の責任の大半を負 っていると言わざるを得ない。第一に、最高裁判所裁判官は、憲法立法審査権(即ち究極の 国家権力)を有すると定めている。次に、憲法第 99 条は、最高裁判所裁判官は憲法尊重擁 30 護義務を負うと定めている。第三に、現行公職選挙法は選挙の定める通りの「正当な選挙」 を定めていない。最後に、最高裁判所裁判官は違憲立法審査権に基づいて「現行選挙法が憲 法の要求する人口比例選挙を定めていないから、意見である」と明確に判決を下すことを怠 っている。以上 4 点の理由から、最高裁判所は憲法 99 条違反の責任を負う。 一票の格差は「法の下平等」論から問題だと裁判で議論されてきた。しかし 2009 年以降 35 一人一票の裁判での選挙人の主張の柱は「法の下平等」論とは明確に区別される「統治論」

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7 に移っていった。そのように議論されるようになった今、本来の正当な選挙を求める姿勢に 加え、最高裁判所の体制、責任についても同時に追求していく必要がある。

1-3 一票の格差問題が解消しない理由

民主主義を謳う国で一票の格差が 2 倍以上ある国は日本以外にない。一票の格差が社会問 5 題だと言われるようになってから約半世紀たつが、いまだに一票の格差問題は解決の糸口を 見出さない。それどころか人口都市集中傾向が強まり、格差が広がる一方である。このよう に一票の格差がいつまで経っても是正されない理由は人口が変動している以外の理由では 3 点あげることが出来る。 まず一つ目は党利党略である。一票の格差を是正すると次の選挙で有利に働く党と不利に 10 働く党がでてくる。不利になるのは自民党である。自民党が支持率以上に多数をとっている のは、一つには支持率の高いいわゆる農村部の議席配分が高いからである。したがって自民 党は真面目に抜本的な格差是正をする気が他政党に比べ薄いと思われる。 次に制度上の問題が挙げられる。格差を是正するのは国会つまり国会議員が行うものである。 一票の格差是正のための策として議席の削減が第一に考えられることも少なくない。自分の 15 議席が危うくなるような是正を国会議員が進んでやるとは考えにくい。憲法では選挙に関す る事項は法律で定める、つまり国会議員が自ら決めることになっているので国民は今の体制 のままではどうすることもできない。 最後の三つ目は2節でも述べた最高裁判所の態度である。憲法の法の下に平等の原則にて らして、これまでの状況は明らかに違憲であるにもかかわらず最高裁判所ははっきりと違憲 20 判決を下してこなかった。明確に違憲判決をくださないことにも格差是正が促進されない理 由がある。

1-4 一票の格差が是正されたらどうなるのか

これまで述べてきたように、一票の格差問題とは事実問題であり、改善できていない現 25 状においてその問題が解決されるよう努めるべきである。最高裁判所裁判官が明確に違憲 判決を下さない事によって一票の格差問題があやふやにしか問題視されず、実質的な政策 がほとんど取られてこなかった。このことに一票の格差がいつまでたっても縮まらない理 由があるともいえるが、一票の格差が縮まらない事で都市部と地方部の様々な格差拡大が 抑制されているともいえる。人口割合から見た地方部の議員数は「一票の格差」という言 30 葉で表わされるように、都市部の他県に比べると確かに多数の国会議員を選出している。 しかし比率的に多いからと言って人数が多いということではない。例えば2010 年 6 月 の参議院選挙で一票の重さが一番重い鳥取県から選ばれた国会議員数は1人だった。反対 に鳥取県の約5分の1の一票の重さとなった神奈川県の国会議員数は 3 人だった。今の日

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8 本の選挙制度から、人口が少ないから議員数も比例して少なくなるのは当たり前であり、 むしろ一票の格差から、比例して少ないというわけではないが自県から代表として送る国 会議員が少なければ、自県が暮らしやすくなる政策や制度が議会で通りにくくなるという のも事実である。もし最高裁判所裁判官がきっぱり違憲だとし、それに伴って政策を打ち だすことに躍起になられると、地方部は自分たちの代表が減る危険性を持つことになるの 5 で思わしくないし、実際都市部と地方部では暮らしやすさという点においての格差は一段 と広がることになるだろう。最高裁判所最高官が明確に違憲判決を下さないことによって、 都市部と地方部の間の生活の格差問題が広がることが抑えられているとも言い換えられる。 すなわち、一票の格差を是正することは都市部地方部間の生活の格差を広げることにつ ながる可能性があるが、そうしてまであえて是正すべき問題なのか。また、一票の格差が 10 問題だと叫ぶ前に、日本の選挙実態や選挙に対する有権者の意識に問題はないだろうか。

2 章 現在の日本の選挙制度

本当に一票の格差を無くしたいのであれば、選挙を行う度に前もって議員定数の増減お 15 よび有権者数に応じた選挙区再編など選挙制度改革を行う必要があると考えられる。しか し、前章でも述べたように現在日本で採用されている選挙制度には一票の格差是正のほか にも見直すべき構造的欠陥があるのではないだろうか。この章においては、制度の流れを 振り返り、そこに隠された欠陥や問題を指摘し、制度を改めることの必要性について論じ ている。 20

2-1 総選挙(衆議院)の流れ

総選挙は衆議院の全員を選ぶための選挙で、小選挙区選挙と比例代表選挙が同じ投票日 に行われる。この総選挙は衆議院の任期満了(4 年)によるものと、衆議院の解散によって行 われるものの2 種類がある。現在衆議院議員の定数は 480 人で、そのうち 300 人が小選挙 25 区選挙、180 人が比例代表選挙により選出される。

2-1-1 小選挙区比例代表並立制とは

1994 年に日本の衆院に新たに導入された選挙制度は小選挙区比例代表並立制と呼ばれる。 この制度は、300 の小選挙区と 180 の比例代表区から構成される。比例区に関しては日本 全国を11 ブロックに分割しており(図表 4.参照)、有権者は2票投じ、うち一票を小選挙 30 区で候補者に、そしてもう一票を比例区で政党に投票する。小選挙区では各政党から一人 だけ出馬するので、同一政党内の候補者同士が表を奪い合う可能性はない。日本全国を 11 ブロックに分割された比例区では、各政党はそれぞれに候補者名簿を提出する。

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9 しかし、名簿に記載された各政党の候補者個人を有権者が選ぶことが現在違反となって いる地域別拘束名簿式比例代表制を採用しているため、比例区においても同一政党内の候 補者同士が有権者の票を求めて競い合う可能性はない。だからといって党内部の派閥間競 争が存在しないわけではなく、小選挙区の立候補者は当選するためにより有利な小選挙区 を希望し、比例区の立候補者はより上位の比例名簿順位を希望するインセンティブが存在 5 する。また党内派閥のリーダーにも、党の総裁になることを目指すためには、自分を支持 する派閥メンバーを 1 人でも多く増やそうとするインセンティブがあり、これら両者の利 害が一致すれば癒着が起りうる可能性も否めない。 加えて、この選挙制度では小選挙区に出馬すると同時に、立候補する小選挙区が存在す るブロックの比例区政党名簿に名前を掲載できるという「重複立候補」が可能である。こ 10 れは、重複立候補者が小選挙区で当選するとその候補者の名前は比例区の政党名簿から削 除され、名簿順位においてその候補者の下位にいる候補者の順位が 1 つ繰り上がるという 仕組みである。また、重複立候補者は小選挙区で落選した場合でも、比例区名簿の上位ラ ンクであれば、復活当選することが可能になる。 また、比例区名簿順位を配分する際に政党は必ずしも候補者 1 人につき 1 つのランクを 15 配分する必要はない。例えば、10 人の候補者中 4 人が小選挙区で当選した場合、この 4 人 の名前は比例区名簿から削除され、名簿には6 人が残る。小選挙区で落選した 6 人の候補 者たちは、それぞれが戦った小選挙区での惜敗率3を基準にしてランク付けされることとな る。このようにして小選挙区で落選した候補者であっても、小選挙区での当選者により近 い票数を得た候補者は、比例区で復活当選する可能性が残されている。重複立候補によっ 20 て、比例区で復活当選した議員は「ゾンビ議員」と呼ばれている。実際にも多くの議員が 復活当選しており、「一度落選したのに議員になるのはおかしい」といった反対意見もあり、 制度的な見直しが検討されている。 また、比例区では得票数によって政党が勝手に当選者を決めるため、候補者自体がどの ような人物であるか分からずに投票しなければならない、などといった問題も存在する。 25 30 3「当該候補者が獲得した票数」を「小選挙区の当選者が獲得した票数」で割った割合である。よって、小 選挙区の当選者の惜敗率は、分母と分子が同数であるゆえ1である。選挙が接戦であればあるほど、次点 者の惜敗率は 1 に近くなり、無風選挙であればあるほど 0 に近づく。

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10 図表 3 衆議院議員小選挙区制選挙 各都道府県別選挙区数 区数 選挙区 25 区 東京 19 区 大阪 18 区 神奈川 15 区 埼玉、愛知 13 区 千葉 12 区 北海道、兵庫 11 区 福岡 8 区 静岡 7 区 茨城、広島 6 区 宮城、新潟、京都、 5 区 福島、栃木、群馬、長野、岐阜、三重、岡山、熊本、鹿児島 4 区 青森、岩手、滋賀、奈良、山口、愛媛、長崎、沖縄 3 区 秋田、山形、山梨、富山、福井、和歌山、徳島、大分、宮崎、佐賀 2 区 鳥取、島根 図表 4 衆議院議員比例代表選挙 選挙区・各選挙区別定数(定数 180 人) ブロック 選挙区 定数 北海道 北海道 8 東北 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島 14 北関東 茨城、栃木、群馬、埼玉 20 南関東 千葉、神奈川、山梨 22 東京都 東京 17 北陸信越 新潟、富山、石川、福井、長野 11 東海 岐阜、静岡、愛知、三重 21 近畿 滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山 29 中国 鳥取、島根、岡山、広島、山口 11 四国 徳島、香川、愛媛、高知 6 九州 福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 21 5

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2-2 通常選挙(参議院)の流れ

参議院議員の半数を選ぶための選挙で、比例代表選挙と選挙区選挙が同じ日に行われる。 参議院には解散がないため、この通常選挙は任期満了(6 年)によるもののみである。ただし、 参議院議員は3 年ごとに半数が入れ替わるように憲法で定められているため、3 年に 1 回、 定数の半分を選ぶことになっている。参議院議員の定数は242 人で、そのうち 96 人が比例 5 代表選挙、146 人が選挙区選挙により選出される。

2-2-1 選挙区制とは

有権者は候補者の氏名 1 名を自書して投票する。当選人は最多数の得票を得た者から、 順にその通常選挙で選出する議員数に達するまで当選する。ただし、有効投票の総数の六 分の一以上の得票は必要である。(法定得票) 10

2-2-2 比例代表制とは

各政党の得票率に応じて議席数を配分する制度で、それまでに行われていた全国をひと つの選挙区とし候補者個人へ投票する「全国区制」に代わって、第13 回通常選挙(昭和 58 年)よりから採用された。衆議院選挙と違い、選挙区と比例区の「重複立候補」は認められ ない。重複立候補が認められないということは、同じ比例代表制であっても惜敗率を用い 15 て当選者を確定する衆議院の比例代表制とは仕組みが異なる。参議院の場合、有権者は政 党名か名簿に掲載されている候補者個人名のどちらかに投票するため、候補者は順位付け されない。これを「非拘束名簿式」と呼び、第19 回通常選挙(2001 年)より導入された。 衆議院の場合、有権者は投票の際、支持する政党名を記入するというルールであったが、 参議院の場合は「支持する政党名以外にも、候補者の中に当選してもらいたい人がいれば 20 その個人名を記入してもよい。そして、政党名が記入された票と、その政党に属する候補 者に投じられた個人票の合計がその政党の得票数となり、ドント方式によって当選者は個 人名の得票数が多い順に議席配分が決定される。比較的公平に議席配分が出来るため、国 民の意思が正確に選挙結果に反映されるほか、死票が減る、政党は選挙費用が節約できる。 また国民が政府を監視・コントロールすることなどが可能となる一方で、問題点も存在 25 する。ドント方式においては、衆議院と異なり個人票も政党票に合算されるため、各政党 は無名の候補者よりも、国民からの認知度が高い候補者を立てたほうが議席配分を増やす ためには有利となる。この表れとして、参議院では元タレントやスポーツ選手など、もと もと政治とは関係を持たない候補者が当選し議員となるケースが衆議院よりも目立って多 い。彼らは選挙区から立候補し当選しているのでなく、その集票力を政党の広告塔として 30 活かせる比例区から当選して国会議員となるのである。よって、知名度が高ければ当選す ることも可能となるため、政治や社会問題に対する専門的な知識を持たない国会議員が誕 生する恐れがあることが問題として挙げられる。

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2-2-3 ドント方式とは

ドント方式とは、各政党の総得票数をそれぞれ1、2、3、4と自然数で割っていき、 得られた得票数の大きい順に議席を配分する方式で総選挙、通常選挙の比例代表選挙にお いて用いられている。図表5.の場合、B 党の 4 議席目と D 党の 1 議席目は得票数がどち らも200 と同じで、11 議席となるのでどちらかが落選となるが、このように得票数が同じ 5 である場合、当選人となるべき順位は、選挙会において選挙長がくじで定めることとなっ ている。(公職選挙法第 95 条の 3 第 3 項) 図表 5 ドント方式の例 (定数は 10 とする) A党 B 党 C 党 D 党 ÷1 1000 800 500 200 ÷2 500 400 250 100 ÷3 333.3 266.6 83.3 33.3 ÷4 250 200 125 50 当選人数 4 4 2 1 10 図表 6 参議院議員選挙区制選挙 各選挙区別区数・選数 選数 選挙区数 選挙区 5 人 1 選挙区 東京 3 人 5 選挙区 埼玉、千葉、神奈川、愛知、大阪 2 人 12 選挙区 北海道、宮城、福島、茨城、新潟、長野 岐阜、静岡、京都府、兵庫、広島、福岡 1 人 29 選挙区 青森、岩手、秋田、山形、栃木、群馬 富山、石川、福井、山梨、三重、滋賀 奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、山口 徳島、香川、愛媛、高知、佐賀、長崎 熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 15

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2-3 選挙制度改革の困難性

このように現行の選挙制度には、一票の格差を生み出す以外にも多くの問題が存在する のは明白であるが、選挙制度の改革が遅れている理由として、議員との関係、費用や手間、 時間など様々な問題があげられる。格差を是正するためには議員定数や区割りを変更する ことは必要不可欠であるが、それらは議論している議員たちに直接影響を及ぼす。 5 例えば、議員定数の増加は、議論している議員たちに直接マイナスの影響があるわけで はないため、合意を得やすい問題であるが、定数の削減、選挙区割りの変更、あるいは選 挙区制の変更といった問題は、議論している議員の何人かが確実に影響を受け、場合によ っては次の選挙で落選することも考えられるのだから、合意がなかなか得られないことは 明らかである。政権を握る与党は現存する選挙制度を変更しようとはしないものである。 10 与党は現存する制度の下で勝利し、政権に就いたのであれば、自らの政党にとって有利と 思われる制度をわざわざ変える必要はないからである。実際に、多くの民主主義国におい て、政権は頻繁に交代しても、選挙制度改革はそれほど頻繁には見られない。 また、既に長らく運用されている現行制度であれば、あまり問題なく効率的に選挙を行 えるが、新しい制度を採るとなると、その準備、整備から始まるので、多くの時間と費用 15 がかかる。よって、現状を新しい制度に替えるという決断をするには、新しい制度の方が 現状より明らかに良いと認識さなれなければならない。このような点を考慮すると、現行 制度と新しい制度を比較して、誰もどちらが有利とも不利とも感じないならば、わざわざ 時間と費用をかけて新しい制度に移行する必要性は感じられないだろう。よって、実際問 題として、格差を是正するために現在の制度を変更するのは非常に難しいということが分 20 かる。

3 章 様々な問題がある現在の投票方式

現在の日本は民主主義社会といえる。民主的社会ではいかに国民の民意が選挙結果に反 25 映されるかが重要なポイントになる。このことから、どのような選挙制度を設計されるか が重要な問題になる。その中でも最も重要なのは、どのような投票方式で行うかである。 なぜなら、投票方式によって国民の民意反映の程度が変わってくるだけでなく、当選者自 体も変わる可能性があるからだ。投票方式は、以下の3つの点に問題があるとされる。 ➀一票の重さの不平等 30 ➁投票率の低下 ➂投票結果の信憑性

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3-1 なぜ一人一票なのか

通常、選挙において各有権者は一票の投票権が与えられる。しかし、そもそもなぜ一人 一票の投票権なのだろうか。これは有権者が全員平等であるという考えが根拠にあるから だろう。しかし、一票にこだわる必要はないのではないだろうか。有権者全員が一票でな く二票でも三票でもかまわないのではないだろうか。実際、過去に日本でも複数票の投票 5 がおこなわれたことがある。しかし、投票の集計の面倒さが大きな要因となって、実施さ れなくなったようだ。 しかし、有権者の中には、立候補者の間に優劣をつけがたく、両方の立候補者に投票し たいと思う人もいるだろう。そうであれば複数の票を持つことを認めた方が、一人一票と 無理やり限定するよりも、より民主的な投票方式と言えるのではないだろうか。 10 現在では、コンピューターの技術やIT 技術の発展、普及などで電子投票なども実際に行 われている。そのため、一人が何票投票したとしても集計の面倒さを解消することは可能 であろう。しかし、電子投票が行われなければ莫大な時間と費用がかかることは容易に想 像できる。例としてオーストラリアの「優先順位付け投票制」と呼ばれる制度がある。オ ーストラリアでは小選挙区制が採用されているが、そこでは投票者は立候補者全員に優先 15 順位をつけた投票を行わなければならない。集計は、まず、第一位の票について行われる。 過半数を獲得した候補者がいれば、その人が当選を果たし、選挙は終了する。過半数の票 を獲得した候補者がいない場合は最下位の候補者を落選とし、この候補者を第一位とした 票において、第二順位の候補者を調べ、該当する候補者にこの票を加える。そこで過半数 に達した候補者があれば、その人が当選となる。そうでないときは、再び、最下位の候補 20 者を落選とし、先と同じように、その候補者に投票した票を第二順位の候補者に加える。 これらの操作を、過半数を越える候補者が出るまで繰り返す。このような複雑な選挙制度 をもつオーストラリアでは有権者に棄権が認められていない。 したがって、オーストラリアでは選挙結果が決定するまで数週間かかることもある。こ のことから選挙に費やす費用が莫大なものになることが予想されるだろう。オーストラリ 25 アでは、有権者が投票所に出かける選挙方式からコンピューター・ネットワークとIT の技 術を利用した方式へ変更していくことが計画されている。これが実現すれば、世界でも最 先端の選挙制度になるだろう。これらのことをふまえて、現在の日本の選挙制度について 考えてみたい。 30

3-2 一票の重さの不平等

一票の格差とは、簡単に言えば、選挙区間で有権者の持つ一票のウェイトが極端に異な ることである。簡単に例を挙げるとすると、小選挙区制(一選挙区一人当選)の下で、選 挙区A の有権者が50万人、選挙区 B5万人いるとする。ここからすぐに分かるように、

(15)

15 選挙区①の投票者の投票のウェイトは10人で選挙区 B の投票者1人の投票に匹敵するこ とになる。したがって、選挙区A の有権者の投票の価値は選挙区 B の有権者の投票の10 分の1しかないことがいえる。このような一票の格差は、日本国憲法第14条「法の下の 平等」の原則に反するという意見が強くなっており、違憲の判決が出されている。国会も このような問題を無視することができず、若干の定数の見直しや選挙区割りの変更、比例 5 代表制との併用などが導入されてきた。次になぜこのような状況が起こるのか、その背景 について説明していきたい。 社会の変化につれ人口動態が変化するのは周知の事実である。たとえば、経済発展に伴 って、地方の人々が都心部に移り住んでくる。それこそ人口の都市集中化現象である。こ のような状況が長く続くと地方は過疎化に向かい、都市では過密化が進み、有権者数が選 10 挙区間で大きく異なってくることになる。それにもかかわらず、選挙区割りや定数を変更 しなければ、選挙区間で一票の重みに差が生じてくることになる。これは、有権者の平等 性の原則に反することになる。よって、選挙区間での一票の重みをできるだけ均等にする 制度変更が必要となってくる。 15

3-3 投票率の低下

一般的に選挙権には二つの性質があるとされている。それは権利と義務である。選挙権 を持つ有権者は、この権利を他人には移譲できないとされている。したがって、オースト ラリアやベルギーなどの国では、棄権者に罰則が科せられたりするのである。日本ではこ のような罰則がない。このため投票率の低下が大きな問題となっている。もし投票率が大 20 幅に低下してしまえば、当選者が民意を代表しているとは言い難くなるからである。 その要因として、今の日本の情勢があげられる。今日の日本は平和であり、経済的に豊 かである。投票に出かけるよりも楽しいことがたくさんあるだろう。たとえ自分が投票し たとしてもそれはたった一票にしかならず、選挙結果への影響力は小さなものであると考 えてもおかしくない。つまり自分の一票は自分の意見を必ずしも反映するものにならない 25 からだ。そのようなもののため、休日にわざわざ投票所まで出かけることが割に合わない と考える人は多くいるのではないだろうか。もちろんそれは天候によっても左右されるだ ろう。雨が降れば、投票に出かける気力も大幅に減ってしまう。また、度重なる議員や政 治活動の不祥事などを目の当たりにすれば、そのことで、棄権する気持ちが起きてくるか もしれない。 30 投票率の低下を防ぐためには、議員や政党の努力も不可欠ではあるが、やはり各有権者 が選挙を自分自身の問題であると認識することが重要である。選挙に対して関心をもち、 参加意識を持つ必要があるだろう。そのためには、教育機関や公的機関が選挙の重要性や 意義を国民に訴え続けることも大切であろう。もしそれでも投票率の低下に歯止めがかか らなければ、オーストラリアやベルギーのように、有権者が投票することを義務とし、棄 35

(16)

16 権者に対して罰金などを課すことをしなければならないかもしれない。 しかし、結局は、投票という行為をより魅力的にするための努力が必要である。選挙制 度を総合的に見直し、多くの有権者が気軽にかつ簡単に投票できるようにすることも一つ の方法にある。そのためにはやはり今日のコンピューターやネットワークシステムの技術 を積極的に利用することが必要不可欠である。そのような投票端末は、健常者のためだけ 5 でなく高齢者や身体障害者の方やハンディキャップを持っている人々でも簡単に操作でき るように扱いやすくする必要があり、在宅投票システムを考える必要もあるだろう。

3-4 投票結果の信憑性

実際の選挙の開票において僅差の接戦になった場合、票の集計をやり直す場合が稀にあ 10 る。すると集計結果が最初の場合と異なることもおおくある。大差がついている場合は集 計ミスが多少あったとしても大きな影響はないが、僅差の場合は重大な問題になりかねな い。投票の信憑性を考えるときにこれは重大な問題ではないだろうか。しかし、これから は人手からIT の技術を利用した電子集計への移行で解決される問題であろう。このことか ら近い将来、集計ミスは完全になくなるであろう。 15 以上の3点が選挙における投票行為でおこる問題である。今回、一票の格差についてど う考えるかというテーマだったが、それ以外にも多くの問題点があることが分かった。

3-5 死票の問題

3-4 節であげた投票行為でおこる問題の一つと死票の問題がある。死票とは選挙において、 20 その票を投票した有権者を代表とする当選者がいない票のことである。つまり、選挙区に おいての落選者の票のことであり、仮に有権者が棄権しても議席配分や当選に全く影響を 与えない票のことである。 特に小選挙区制では死票が多くなり、比例代表制では死票が少なくなる傾向がある。選 挙をする上で死票が発生するのは仕方がないことである。しかし、仮に死票が 5 割を超え 25 ることがあれば、議会に国民の半分の意見しか反映していないことになるのだ。単記移譲 式投票のように死票になりうる票が当落選上の候補者に復活する制度の場合は死票の定義 は困難になる。 1996 年以降の小選挙区比例代表制による衆議院議員選挙においては、2 章で説明したよ うに比例区と重複した候補者は復活当選する可能性がある。比例区においては、他の重複 30 候補と同一順位かどうかに関わらず、復活当選した候補者の票は死票に該当しないとされ る。だが、政党という観点から見るならば、これらの票は政党の議席増加に使われないと いう点で死票に該当する。ただし、例外として重複立候補者が全員供託金没収点以下の得 票で比例議席を没収されたことがある。2001 年以降の非拘束名簿式比例代表制による参議

(17)

17 院議員選挙においては、落選した候補者に投票された個人名得票は所属する政党の得票と して扱われるために、死票になるとは限らないのである。例として、2010 年の第 22 回参 議院議員通常選挙では、落選した候補者の個人名簿得票を合計するだけで、民主党と自由 民主党では各1 人の当選分の約 112 万もの得票を上回る計算になるのだ。なお、落選者に とって得票数は供託金没収点の問題がある。 5 また政党にとって得票数は政党交付金にも大きく影響する問題であるのだ。さらに次の 選挙で、有権者が戦略投票を行う際に今回の得票数を参考とするため、次回の当選に大き な影響が及ぶのである。また、世間では選挙直後の候補者の落選のみに注目するため、こ のことは注目されないが、1989 年の千葉知事選挙のように、現職と共産党しか有力な候補 がなかったときに共産党候補が消費税の導入やリクルート事件に対する批判票を集め、予 10 想外の高得票をし、中央の政局にまで影響を及ばしたことさえある。

4 章 選挙の実態とそれに対する意識

選挙の実態はどのようなものなのだろうか。また、有権者は政治・選挙に対し、どれほ 15 どの関心や興味を持っているのだろうか。そして、データから見て、「一票の格差是正」は 必要なのだろうか。以下は「明るい選挙推進協会」から引用したデータである。

4-1 衆議院議員選挙

4-1-1 選挙関心度の推移と投票率

20 図表7 は第 38 回から第 45 回までの衆院選挙関心度の推移である。「今回の選挙について、 あなた自身は、どのくらい関心を持ちましたか」という質問に対して、第45 回衆院選では 「非常に関心を持った」という意見が58.9%、「多少は関心を持った」という意見が34.0% という結果になっており、有権者の 90%以上が関心を持っていることが分かる。過去の選 挙関心度と比較すると、「非常に関心を持った」という割合が近年では最も高く、4 年前に 25 行われた前回と比べても、17.8%上昇していることが分かる。また、第 41 回衆院選以降、 関心度は向上しており、単なる個々の選挙事情のみで上昇したわけではないということが 読み取ることができる。 図表 8 は衆院選の投票率の推移である。上昇と低下を繰り返しているものの、全体的に みると大きな変化は見られない。 30

(18)

18 図表 7 衆議院議員選挙の関心度の推移 図表 8 衆議員議員総選挙投票率の推移(中選挙区・小選挙区) 5 58.9 41.1 30.3 28.9 19.4 36.5 46.7 25.5 34 43.7 49.5 47.5 52 47.1 42.3 53.9 5.5 10.1 15 18.1 21.9 12.7 8.6 15.9 1.6 5.1 5.2 5.5 6.7 3.6 2.5 4.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第45回 第44回 第43回 第42回 第41回 第40回 第39回 第38回 非常に関心あり 多少あり ほとんどなし 全くなし 74.75 67.94 71.4 73.31 67.26 59.65 62.49 59.86 67.51 69.28 50 55 60 65 70 75 80 85 90 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 (%) (回数) (年数) '80 '83 '86 '90 '93 '96 '00 '03 '05 '09

(19)

19

4-1-2 年齢別投票率の推移

図表9 は第 37 回から第 45 回の年齢別投票率の推移である。この図表から第 43 回以降 は年々投票率が上昇していることが分かる。しかし、第 37 回以降投票率に大幅な伸びは ない。 5 図表 9 衆議院議員選挙年齢別投票率推移

4-1-3 第 45 回衆院選に対する年齢別関心度と投票率

図表10 は第 45 回衆院選に対する関心度を年齢別に見たものである。この図表より関心 10 度は年齢と関係があることがわかる。今回の衆院選に「非常に関心を持った」という割合 は20 歳代では 30.5%にしか過ぎないが、30 歳代では 55.0%、40 歳代では 64.2%と上昇し ている。50 歳代では一時的に下がるが、その 50 歳代でも 60%以上が、「非常に関心を持っ た」と回答している。60 歳代では 68.2%と最も関心度が高く、それ以降の世代になると下 降していることがわかる。 15 また、図表 11 は第 45 回衆院選の年齢別の投票率推移である。投票率においても関心度 と同じく、20 歳代では 50%を下回っている中で 60 歳代と 70 歳代においては 80%以上の 投票率という結果になっている。 20

(20)

20 図表 10 年齢別衆議院議員選挙関心度 図表 11 第 45 回衆議院議員総選挙における年齢別投票率(全国,抽出投票区数:188) 有権者数(人) 投票者数(人) 投票率(%) 男 女 計 男 女 計 男 女 計 20~24 歳 13201 12036 25237 5933 5843 11776 44.94 48.55 46.66 25~29 歳 13201 13078 26279 6591 7109 13700 49.93 54.36 52.13 30~34 歳 15792 15261 31053 9199 9790 18989 58.25 64.15 61.15 35~39 歳 17750 17259 35009 11552 11654 23206 65.08 67.52 66.29 40~44 歳 15829 15608 31437 10963 11160 22123 69.26 71.5 70.37 45~49 歳 14746 14719 29465 10862 11247 22109 73.66 76.41 75.03 50~54 歳 15188 15199 30387 11850 12116 23966 78.02 79.72 78.87 55~59 歳 17924 18164 36088 14329 14678 29007 79.94 80.81 80.38 60~64 歳 17689 18436 36125 14775 15339 30114 83.53 83.2 83.36 65~69 歳 15234 16595 31829 13086 13980 27066 85.9 84.24 85.04 70~74 歳 12224 14659 26883 10372 12032 22404 84.85 82.08 83.34 75~79 歳 10057 13419 23476 8186 10051 18237 81.4 74.9 77.68 80 歳以上 10766 21661 32427 7348 10842 18190 68.25 50.05 56.1 計 189601 206094 395695 135046 145841 280887 71.23 70.76 70.99 5 45.5 58.1 68.2 61.8 64.2 55.0 30.5 42.4 33.6 27.4 32.7 29.4 39.8 52.3 10.6 5.1 3.2 4.1 5.2 4.8 15.2 1.5 3.2 1.2 1.5 1.3 0.4 2.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 80歳以上 70歳代 60歳代 50歳代 40歳代 30歳代 20歳代 非常に関心あり 多少あり ほとんどな し 全くなし

(21)

21

4-1-4 投票に対する考え方

図表12 は投票に対する考え方を年齢別に見たものである。20 歳代、30 歳代から 50 歳代、 60 歳代以上で、「国民の義務」という意識は年代別にまとまりをもって上昇している。一方 で、若い人ほど、「個人の自由」という意見が高く、考え方が大きく異なっていることが分か る。 5 図表 12 衆議院議員選挙の投票に対する年齢別考え方

4-2 参議院議員選挙

4-2-1 全体の選挙関心度と投票率

10 図表 13 は参院選関心度の推移である。参院選と同様に有権者に「今回の選挙について、 あなた自身は、どのくらい関心を持ちましたか」という質問を有権者に行った結果、「非常 に関心がある」と回答した人は40.3%、「多少はあり」と回答した人は43.9%であった。以 前のものと比較すると、第21 回参院選は第 16 回参院選からで最も「非常に関心がある」 と回答した割合が高いという結果になった。第15 回参院選においては 1989 年に行われた 15 ということで、1998 年に発覚し多くの政治家や官僚が逮捕されたことにより政界や官界を 揺るがせたリクルート問題や消費税の導入等の理由で、「非常に関心あり」という回答が 44.5%を占めたと考えられる。 図表14 は参院選の投票率の推移である。投票率において近年は投票率が 60%を下回って おり、投票率の低下がうかがわれる。その一方で、関心と同様リクルート問題や消費税の 20 導入により、多くの人々が興味や関心を持ち、第15 回参院選は 65.02%と高い投票率であ ったことが分かる。 72.2 76.9 64.9 49.9 51.6 52.2 33.1 16.7 15.2 19.4 30 25.8 24.9 24.5 9.1 7.2 14.4 20.1 22.6 22.9 42.4 1.5 0.7 1.2 0 0 0 0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 80歳以上 70歳代 60歳代 50歳代 40歳代 30歳代 20歳代 国民の義務 権利だが棄権すべ きではない 個人の自由 分からない

(22)

22 図表 13 参議院議員選挙関心度の推移 図表 14 参議院議員通常選挙投票率の推移(地方区・選挙区) 5 40.3 28.2 32.6 29.6 12.4 14.4 44.5 43.9 50.0 50.0 47.5 41.0 48.6 41.8 12.6 16.2 13.6 18.1 32.6 28.7 10.1 3.1 5.5 3.7 4.8 13.9 8.3 3.6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第21回 第20回 第19回 第18回 第17回 第16回 第15回 非常に関心あり 多少あり ほとんどなし 全くなし 57 71.36 65.02 50.72 44.52 58.84 56.4 56.57 58.64 40 50 60 70 80 90 (%) '83 '86 '89 '92 '95 '98 '01 '04 '07 (回数) (年数) 13 14 15 16 17 18 19 20 21

(23)

23

4-2-2 年齢別投票率推移

図表15 は第 15 回から第 21 回の投票率の推移である。かつてに比べると、全体的に投票 率が低下していることが読み取れる。また、第17 回と比べると第 18 回では大きく投票率 が伸びているが、それ以降ではほとんど投票率が変化していないことが読み取れる。 5 図表 15 参議院議員選挙年齢別投票率の推移

4-2-3 第 21 回参院選に対する年齢別関心度と投票率

図表16 は第 21 回参院選に対する関心度を年齢別に見たものである。衆院選と同様に選 10 挙への関心が年齢と大きく関係していることが分かる。20 代前半においては「非常に関心 あり」との回答が19.0%であるが、年齢が上がるにつれてその割合は上昇していき、60 歳 代では51.4%になっている。しかし、衆院選と同様 70 歳代からはその割合は減少していき、 80 歳代以上になると 27.2%まで下がるという結果になった。 図表17 は参院選投票率である。投票率も関心が高い 60 歳代から 70 歳代が 75%以上と 15 なっており、80 歳代では 62.83%まで下がることがわかる。 20 20 30 40 50 60 70 80 90 15 16 17 18 19 20 21 (%) (回数) 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 '89 '92 '95 '98 '01 '04 '07 (年数)

(24)

24 図表 16 参議院議員選挙関心度の推移 5 10 図表 17 第 21 回参議院議員総選挙における年齢別投票率(全国,抽出投票区数:142) 15

年齢階層

女 

20~24歳

9439

9215

18654

2879

3243

6122

30.5

35.19

32.82

25~29歳

10569

10124

20693

3861

4194

8055

36.53

41.43

38.93

30~34歳

12521

11926

24447

5538

5713

11251

44.23

47.9

46.02

35~39歳

12390

12207

24597

6320

6485

12805

51.01

53.13

52.06

40~44歳

10986

10987

21973

6271

6490

12761

57.08

59.07

58.08

45~49歳

11177

10875

22052

6966

6988

13954

62.32

64.26

63.28

50~54歳

11728

11577

23305

7876

7957

15833

67.16

68.73

67.94

55~59歳

14764

14880

29644

10368

10518

20886

70.22

70.69

70.46

60~64歳

11118

11797

22915

8357

8753

17110

75.17

74.2

74.67

65~69歳

10172

11331

21503

8019

8694

16713

78.83

76.73

77.72

70~74歳

8893

11009

19902

7016

8032

15048

78.89

72.96

75.61

75~79歳

7071

9846

16917

5394

6679

12073

76.28

67.83

71.37

80歳以上

7156

14767

21923

4496

6440

10936

62.83

43.61

49.88

137984 150541 288525

83361

90186 173547

60.41

59.91

60.15

有権者数(人)

投票者数(人)

投票率(%)

40.3 28.2 32.6 29.6 12.4 14.4 44.5 43.9 50.0 50.0 47.5 41.0 48.6 41.8 12.6 16.2 13.6 18.1 32.6 28.7 10.1 3.1 5.5 3.7 4.8 13.9 8.3 3.6 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第21回 第20回 第19回 第18回 第17回 第16回 第15回 非常に関心あり 多少あり ほとんどなし 全くなし

(25)

25

4-2-4 投票に対する考え方

図表18 は第 21 回参院選に対しての意見である。全体の 56.5%が投票に対して、「国民の 義務」であると回答し、23.7%が「投票することは、国民の権利であるが、棄権するべきで ない」、18.0%が「投票する、しないは個人の自由である」と回答している。このことから、 過半数が選挙で投票することは国民としての義務であると感じていることがわかる。 5 また、年齢別に見てみると若い人ほど、選挙を「個人の自由である」と考えている人が多 く、20 歳代前半になると 42.9%の人が「個人の自由である」と考えており,「国民の義務」 であると考えているのは33.3%しかいない。その一方で、高齢者になると、投票を「国民の 義務」と考えている傾向が強く、70 歳代においては 72.3%が「国民の義務」と回答し、わず か6.3%が「国民の自由」であると考えている。 10 図表 18 参議院議員選挙関心度の推移

4-3 統一地方選挙に対する関心と実態

15

4-3-1 統一地方選挙に対する関心度と投票率

図表19 は統一地方選挙の中でもどの選挙に関心があるかをまとめたものである。有権者 が「非常に関心あり」と最も回答したのは市区町村長選挙であり、26.3%であった。次いで、 知事選の 21.8%、市区町村議選の 21.6%、道府県議員選の 14.9%と続く。「非常に関心あ り」と「多少あり」を合わせた回答者の割合が最も高いのは73.3%で知事選となっている。 20 72.2 76.9 64.9 49.9 51.6 52.2 33.1 16.7 15.2 19.4 30 25.8 24.9 24.5 9.1 7.2 14.4 20.1 22.6 22.9 42.4 1.5 0.7 1.2 0 0 0 0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 80歳以上 70歳代 60歳代 50歳代 40歳代 30歳代 20歳代 国民の義務 権利だが棄権す べきではない 個人の自由 分からない

(26)

26 図表 20 は各選挙の投票率の推移である。投票率においては、年々低下しており、第 16 回においては知事選が最も高い投票率で、54.85%となっている。 図表 19 第 17 回統一地方選挙への関心度 5 10 15 図表 20 統一地方選挙の投票率推移 20 25

4-4 有権者が関心のある選挙

4-4-1 関心のある選挙

図表21 は有権者の対し、「衆議院議員総選挙、参議院議員通常選挙、都道府県知事選挙、 都道府県議会議員選挙、市区町村長選挙、市区町村議会議員選挙の 6 つの選挙の中でどの 選挙に最も関心があるか」という質問をしたものである。最も関心がある選挙は過半数を 30 超えた衆議院議員選挙であった。しかし、同じ国政選挙でも参議院議員選挙と回答した人 50 60 70 80 90 100 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 (%) (回数) 知事選挙 都道府県議選挙 市区町村長選挙 市区町村議選挙 '47 '51 '55 '59 '63 '67 '71 '75 '79 '83 '87 '91 '95 '99 '03 '07 (年数) 21.6 26.3 14.9 21.8 44.1 42.7 45.4 51.5 24.9 21.2 27.2 19.3 9.2 9.9 11.8 7.3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 市区町村議選 市区町村長選 都道府県議選 知事選 非常に関心あり 多少あり ほとんどなし 全くなし

(27)

27 は 23.5%にしか過ぎないという結果になっている。また地方選挙においては都道府県より も市区町村の選挙の関心が高く議員選に比べ首長選の関心が高いという傾向がわかった。 図表 21 関心のある選挙 5 10 15

4-5 若者の選挙行動への啓蒙

4-5-1 啓蒙活動

これまでのデータから見ると、一貫して若者の投票率が低いということがいえる。その 原因として、選挙への関心度が低いことがデータから分かる。そこで近年、日本では若者 の選挙行動への啓蒙として、若者啓発グループがいくつか存在する。「明るい選挙推進協会」 20 の資料を参考に、2008 年度以降に設立されたグループの事例を以下に挙げる。 25 30

(28)

28 図表 22 2008 年度以降に設立された様々なグループの事例 都道府県 グループ名 設立年 青森県 選挙へGO!! 2011 年 福島県 福島県選挙啓発ボランティア 2008 年 栃木県 栃っ子!選挙推進プロジェクト 2011 年 埼玉県 埼玉県選挙カレッジ 2012 年 さいたま市 さいたま市青年選挙サポーターの会 2008 年 東京都品川区 Sa-!1kow 2010 年 横浜市 イコットプロジェクト 2010 年 三重県四日市市 学生団体「ツナガリ」 2011 年 福岡市 福岡市明るい選挙推進グループCECEUF 2009 年 上記の事例の中で最も新しい埼玉県の「埼玉県選挙カレッジ」を例にどのような啓発が されているのか調べた。 埼玉県では、 若年層の低投票率の改善を図るため、大学生の選挙啓発活動の取組みとし 5 て選挙委員会が「埼玉県選挙カレッジ」を実施している。その活動内容は、県内大学等へ の選挙啓発出前講座の実施や、若者向け選挙啓発冊子の作成、選挙啓発の企画・実施選挙 事務の体験等である。選挙啓発の企画として、SNS 等のインターネットを利用した啓発活 動もある。 このように、大学等での講座や SNS 等のインターネットで選挙での投票の啓発活動は、 10 多数の若者が選挙に対して、何らかの知識を得ることになる。その結果、選挙への関心が 高まるのではないだろうか。しかし、全国的にみると、そのような啓発活動を行っている 団体は少ない。投票率を上げるには、将来を担う世代が政治に関心を持つ必要があるだろ う。そのために、啓発活動を全国的にさらに増やしていくべきだと考える。 15

4-6 選挙に関するデータから分かる問題

4-6-1 問題点

以上のデータから三点の問題が挙げられる。一つ目はどの選挙においても20 代という若 者の投票率が低いことである。これは、どの選挙であってもはっきりと出ている結果であ り、全体の選挙率が低下していることにも問題である。しかし、高齢者の投票率が 80%以 20

(29)

29 上であるのにもかかわらず、20 代は 50%以下である。若者世代のこの投票率の低さは大き な問題であると考えられる。この投票率が低い原因としては、現在の政治が若者目線の政 策ではなく、多くの選挙立候補者が高齢者中心の政策を挙げていることが考えられる。高 齢者中心の政策を立候補者が挙げることは高齢者が多い日本にとっては、たくさんの票を 集めることにつながる。しかし、この高齢者中心の政策は若者の興味をなくし、若者の投 5 票率の低下を導いていると考えられる。 二つ目の問題点は若者の選挙に対する考え方と関心である。年齢が上がるほど投票に対 して義務であると考えている人が多い。その一方で、若者はどの選挙の投票に対しても、 投票を行くのも行かないのも個人の自由であり、義務であるという考えはかなりすくない。 また、関心がないという若者の意見は他の世代に比べて目立っている。このことは、一つ 10 目の問題点である投票率の低下の原因と類似しており、若者目線の政策がないがゆえの結 果であると考えられる。 三つ目の問題点は選挙のなかでも関心のあるものとないものの差があるということであ る。同じ国政選挙でさえも投票率でみると大きな差があることが分かる。全世代でも選挙 によってこれほどの差が生まれるということは、年代別に見ると、若い世代にはさらなる 15 差が生じていることが考えられる。

4-6-2 改善策と課題

以上のことから、上記のような問題点はどう改善していけばよいのであろうか。若者の 投票率が低下している原因として、先ほど挙げた「若者目線の政策ではないこと」以外に 20 も「政治の分かりにくさ」が挙げられるのではないだろうか。有権者になって間もない20 代の若者が選挙に対して意識が低いという結果が以上のデータから得られた。それに加え、 若者からは「政治のことは難しい」という声も現在は多く挙げられている。よって、意識 の低さ、投票率の低さは少なからず「政治の分かりにくさ」も関連していると考えられる。 すなわち、20 代をはじめとする若い世代の投票率をあげるには、今ある政治を若者にもわ 25 かるものに変え、高齢者中心の政策だけではなく、若者が中心となる政策も加えていき、 これからの世代である20 代にも高い意識を持たせていくべきであると考える。 この章では今の選挙に対して様々な問題が見えてきた。このような今解決しなければな らない「投票率の低下の改善」や「若者目線の政治作り」という課題がたくさんある。そ の中で「一票の格差是正」は本当に必要なのだろうか。「一票の格差是正」よりも改善・解 30 決しなければならない問題があるのではないだろうか。

(30)

30

第5章 諸外国の選挙制度

これまで日本の選挙制度と日本国民の選挙に対する意識、一票の格差について考えてき た。いまからは諸外国の選挙制度と一票の格差について論じていき、最終的に日本と比較 してそこから言えることを導く。 今回は日本と比較するために、「日本では導入されたことがない、理解するのが容易では 5 ない」などの視点から、まず4 つの選挙制度に絞って紹介する。

5-1 各国の選挙制度

5-1-1 選択投票制:オーストラリア(下院)

定数は 150 で任期は 3 年である。選挙人は図表 23 の投票用紙のすべての候補者に「1」 10 「2」「3」…と選好順位を付して投票する。まず第 1 順位票の集計を行う際は、各投票用紙 を「1」が付された候補者(図 23 では MELBA 候補)に対する投票として扱う。過半数を 得票する候補者があれば当選となる。 図表 23 オーストラリア下院の投票用紙4 15

4 Australian Electoral Commission

<http://www.aec.gov.au/Voting/Ho w_to_vote/Voting_HOR.htm>をもとに都市政策パートで作成。 3 1 2 5 4 WILSON, Anthea SULLIVAN, Arthur

Remember… number every box to make your vote count

Number the boxes fr om 1 to 5 in the or der of your choice.

B ALLO T PAPER H O U SE O F REPRESEN TATI VES

SMITH, Jack

MELBA, Ellie

(31)

31

5-1-2 単記移譲式比例代表制:オーストラリア(上院)

定数は76 で任期は 6 年である(原則 3 年ごとに半数改選)。選挙人は投票用紙の中 央の太線の下側に記載されているすべての候補者に「1」「2」「3」…と選好順位を付し て投票する。票の計算の際、最初の段階では各投票を第 1 順位に指定されている候補 5 者の票として開票を行う。当選するためには候補者は当選基数[有効投票総数/(選挙 区の選出人数+1)に 1 を加えた数]を獲得しなければならない。最初の段階で、当選基 数以上の得票をした候補者は当選となり、当選基数を上回る得票(剰余票)は、それ ぞれの第2 順位の候補者に移譲される。第 2 段階では、移譲によって加算された票に より当選基数に達した候補者があれば当選となり、その剰余票が次順位の候補に再移 10 譲されるという手続きをさらに行う。当選者の剰余票の移譲を終えても当選者数が定 数に達しない場合は、選択投票制と同様に、最も得票の少なかった候補者の票として 移譲し計算する。この手続きを当選者数が定数に達するまで繰り返す。

5-1-3 拘束名簿式比例代表制(プレミアム付き):イタリア(上

15

院)

総定数は322 議席(直接公選議員 315 人、特別上院議員 7 人)で任期は 5 年である。 各有権者は小選挙区の候補者のうちの一人と、選挙区の 1 政党リストに投票する。以 下それぞれの投票を個人投票、リスト投票と呼ぶ。投票用紙は別々で 2 枚である。比 例制の投票は候補者名か、政党のシンボルマークに×印をつける。それがどちらも政 20 党の得票となる。 国内選挙区の場合、ヴァッレダオスタ州は1 議席、モーリゼ州は 2 議席とされ、他 州は最小でも7 議席を保証される。これらの配分 7 議席以外の諸州を除き各州の人口 に基づき、ヘアー式最大剰余法で議席配分がなされる。人口はイタリア国家統計局の 発表する直近の人口総合調査による。なお、イタリアの国家統計局の人口総合調査は、 25 1951 年以降は 10 年ごとに行われている。在外選挙区の場合、在外選挙区の総数 6 議 席中4 議席は 4 在外選挙区に 1 議席ずつ配分される。残りの 2 議席は各在外選挙区の イタリア市民の数に基づき、ヘアー式最大剰余法で各在外選挙区に配分される。 30

(32)

32 図表 24 比例選挙の投票用紙(イタリア) 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 A 党 候補者氏名 X 党 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 B 党 候補者氏名 Y 党 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 候補者氏名 C 党 Z 党

5-1-4 非拘束名簿式比例代表制:スウェーデン

定数は349 議席で任期は 4 年である。 5 スウェーデンは、投票所に各政党の投票用紙が用意されている。選挙人は投票する政党の 投票用紙を1枚選び、封筒に入れて投票箱に入れる。 投票用紙には、政党が予め定めた順位を伏して候補者が記載されている。有権者はその順 位をそのまま承認して何も記入せずに投票することもできるし、優先して当選させたい 1 人の候補者に印を付けて投票することもできる(優先投票)。 10 選挙区は原則として県を単位とする。選挙区数は 29 で定数は最多で 36 議席、最少で 2 議席、選挙区定数の合計は 310 議席である。各選挙区において、各党の得票数に応じて修 正サン・ラグ式5で議席を配分する。ただし、全国で4%未満かつ当該選挙区で 12%未満の 得票率の政党には議席は配分されない。 この他に、全国的な投票率と議席率を近づけるために39 の調整議席が存在するが、これ 15 も修正サン・ラグ式で議席数を求める。この議席数と各選挙区で実際に獲得した議席数の 合計を比較して、前者のほうが多い政党には、調整議席から順次議席を追加配分する。追 加配分された議席は、修正サン・ラグ式の要領で各選挙区に配分する(図表25 参照)ただ 5 「修正サン・ラグ式」とは、比例代表制での議席配分の計算方法の 1 つで、サン・ラグ式で計算すると 小党に有利に働く傾向があることから修正された議席の配分方式である。最初を 1 ではなく、1.4 で割る 以外は正の奇数で割っていくため、「修正奇数法」とも呼ばれている。

参照

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