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サンゴと生きる微生物

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Academic year: 2021

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474 生物工学 第96巻 第8号(2018) 著者紹介 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻(助教) E-mail: [email protected] 白いサンゴ礁∼という歌詞が印象的な往年のヒット曲 がある.南の島で見ることができる,どこにあるか分か らないサンゴ礁を歌ったものだが,そう遠くない将来, サンゴ礁自体がめったに見られない存在になってしまう かもしれない. サンゴ礁を構成するサンゴ(造礁サンゴという)のほ とんどは,健康な状態では褐色をおびている.これは刺 胞動物であるサンゴに細胞内共生している褐虫藻が,そ の名の通り褐色を呈しているためで,褐色の本体はクロ ロフィルである.褐虫藻はサンゴ細胞から二酸化炭素・ 窒素・リンを受け取り,代わりに光合成を行って得た炭 素源をサンゴ細胞に受け渡すことで共生関係を維持して いるとされる. サンゴが地球温暖化に伴う海水温上昇などによりスト レスを受けたり病気になったりすると,サンゴ体内から は褐虫藻が失われ,石灰質でできた白い骨格が半透明な サンゴ細胞体を通して透けて見えるようになる.そうし た状態にあるのが,“白化した”白いサンゴである. このサンゴが褐虫藻を失う現象「白化」が現在世界規 模で問題になっている.通常,サンゴは多少白化したと しても,時間が経てば褐虫藻との共生を回復することが できる.しかし,褐虫藻を失った状態が長く続けば,栄 養供給に行き詰まったサンゴは白化から回復することな く,死に至る.壊死したサンゴが回復することはないの で,広範囲に存在する造礁サンゴが白化・壊死してしま うと,サンゴ礁は失われ,回復は困難になる. 昨今新聞や雑誌でも大きく報道されているが,2016 年に世界中で大規模な白化現象が観測された.観光ス ポットとして有名なオーストラリアのグレートバリア リーフはもちろん,日本最大のサンゴ礁の海域である沖 縄の石西礁湖でも実に90%以上のサンゴが白化した. そのうち現在までに壊死に至ったサンゴは60%以上に のぼる1).ユネスコ(国連教育科学文化機関)の政府間 海洋学委員会による試算では,このまま白化・壊死を食 い止めることができなければ,2030年までに90%のサ ンゴが絶滅する危険性があるという2). 事態の深刻さ,サンゴ礁喪失に想定されるタイムリ ミットまでの短さに反して,サンゴに関連する研究,特 に分子レベルでの解析は,まだまだ発展途上である.わ が国では2011年,新里らにより世界に先駆けてサンゴ ゲノムが解読され3),サンゴと共生する褐虫藻も一部は 単離・培養が可能になってきた4).現在こうした情報を 生かしたサンゴ白化メカニズムの解明と対応策の検討が 展開されつつある. ところで,サンゴ礁がなくなるとは言っても,海洋全 体から見るとサンゴ礁が占める割合はわずかに0.2%程 度である.なぜサンゴ礁がなくなるといけないのだろう か.実は海洋に存在する生物種のおよそ4分の1以上が, 面積としては非常に限られたこのサンゴ礁域に生息して いるとされる.なぜそこまでサンゴ礁が生物多様性の要 となっているのだろうか.サンゴ礁の複雑な地形には, そこを住処や隠れ家・餌場とする多様な生物が集まって くる.サンゴ礁と,そこに集まる生物が「生物多様性ホッ トスポット」を作り上げているのである. サンゴ礁の構成要員として,もちろん微生物も例外で はない.海洋微生物は海中や海底中にも存在するが,海 洋生物の体表・体内・細胞内にもおびただしい数・種類 が生息する.その生息形態,特に多種生物との共生状態 も,非常にユニークなものが多い.こうしたサンゴ共在 微生物は,サイクリックジペプチドやクオラムセンシン グ物質といった多様な生理活性物質を産生し,ちょうど 我々の体の中で腸内細菌が担っているように,サンゴの 健康維持に寄与している可能性が示唆されている5).ク オラムセンシング物質などはすぐに耐性菌が出現すると いう報告もあり,サンゴ体内でも激しい微生物の攻防が 行われているようである. サンゴの病原菌として知られるVibrio属細菌はヒトや 家畜の病原菌としても知られるが,Vibrio属細菌からサ ンゴを守る物質も存在することが示唆されている.こう した生理活性物質の中には,たとえば,ヒトや家畜の疾 病に対する薬剤候補が存在する可能性もある.しかしサ ンゴ礁が消えると,サンゴ礁と共に生きる多様な微生物 とそこから得られる生物資源も失われてしまう. 四方を海に囲まれた日本は,実はオーストラリアに次 ぐ有数のサンゴ礁保有国でもある.まだ見ぬ海洋資源, まだ見ぬ微生物がサンゴ礁と共に消えてしまう前に, 我々にできることはないものだろうか. 1) 環境省:平成29年1月10日報道発表資料. 2) UNESCO:2016年7月14日報道発表資料. 3) Shinzato, C. HWDO: 1DWXUH, 476, 320 (2011). 4) 山下 洋ら:みどりいし,22, 14 (2011).

5) Bourne, D. G. HW DO: $QQX 5HY 0LFURELRO, 70, 317 (2016).

サンゴと生きる微生物

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