マーシャルの進化論的経済学における人間の性格の検討 - 幸福と貧困との対置的性質の観点から -
全文
(2) 第6巻 D1:道. 第2号. 徳 的性格 の高級 化 を求 める生産効 率. 来 」 とい う論 文 の事 例 3-3経. 必 需 品 の第3段 階 の用 途 D2:人. 間の高級な活動 とは. D3:活. 動 の 動 機 と して の,卓 越 の 欲 望 と 自. 済 進 歩 の 抱 え る困 難:道 徳 的 性 格 と芸 術的性格の統合化. D11:人. 己顕 示 の欲 望 の対 比. 間 の活 動 能 力 の 新 しい3段 階:芸 術. D4:卓. 的性 格 の新 しい分 化. 越 の 欲 望 の 登 場 と道 徳 的 性 格 の 高 級. D12:芸. 化 の必 要 性. 術 的 性 格 と卓 越 そ れ 自体 を求 め る欲. D5:生. 望 との 関係. 産 効 率 必 需 品 の 創 造 の 意 義 の 再 確 認:. D13:芸. 人 間 の性 格 の最 高 級 化. 術 的 性 格 の 段 階 的 高 級 化 の議 論 の 要. D6:名. 約. も知 れ ぬ 漁 師 の 事 例:彼 の 活 動 の3段. D14:生. 階 の高 級 化. 物 進 化 の新 見 解 と幸 福 と貧 困 の 対 置. 3-2幸. 的性 質 の 関係. 福 あ るい は貧 困 の 非 物 的 源 泉 と して の. D15:幸. 福 あ る い は 貧 困 の 源 泉 の段 階 的 変 化 と生 物 の そ れ との類 似. 道徳的性格 D7:自. 尊心の高級化の重要性の確認. D8:幸. 福 あ る い は貧 困 の 物 的 源 泉 の 所 得 の. D16:遺. 子 との2次 元 的視 点 D17:中. 大 変 化 と小 変 化 の結 果 の相 異 D9:非. 物 的源泉 の享受 の仕 方の相 違で結 果. 要旨. 間 段 階 と して の 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 の 困難 さ. エ ピ ロー グ:経 済 的 騎 士 道 の 提 唱. さ れ る幸 福 と貧 困 D10:貧. 伝 子 と遺 伝 子 の 発 現 を制 御 す る遺 伝. 困 の 最 悪 の事 例:「 労 働 者 階 級 の 将. 本 稿 の 目的 は,マ ー シ ャル(AlfredMarshall,1842-1924)の. いて,人 間 の性 格(character)を. 進化 論的経済学 にお. 幸 福 あ る い は貧 困 の非 物 的源 泉 と見 なす こ と,こ の 性 格. の 高 級 化 の 困 難 さで 経 済 進 歩 が 困 難 で あ る こ とを 示 した 。 この 議 論 は 以 下 の よ うで あ る。 経 済 進 歩 は,人 間 の 幸 福 な 状 態 の 持 続 とす れ ば,人 間 の 性 格 の 高 級 化 を 求 め る。 この 最 高 級 化 の 段 階 は,性 格 の 段 階 的 変 化 にお い て,芸 術 的 性 格 と卓 越 の 活 動 との 結 合 を 求 あ る。 この 段 階 で 道 徳 的 性 格 は 高 級 化 の段 階 の 中 間 段 階 に位 置 す るが,こ. の 中 間 段 階 よ り も前 の段 階 で. は,人 々が 貧 困 に導 か れ や す い 傾 向 を も ち,こ の 後 の 段 階 で は幸 福 に 導 か れ や す い 傾 向 を も つ の で あ る。 わ れ わ れ は,人 々の この 生 活 状 態 の 特 徴 を,幸 福 と貧 困 の 対 置 的 性 質 と よん だ 。. キー ワー ド. ア ル フ レ ッ ド ・マ ー シ ャ ル(1842-1924),. 原稿受理 日. 2008年9月26日. と 貧 困 と の 対 置 的 性 質,人. Abstract. terial things,. two points. (1842-1924): firstly,. is the source of happiness. the step-by-step. change in human. or poverty;. character. in evolutionary. that human. human. character.. happiness. and secondly, that. a step-by-step. On the other side, economic decline is the lasting. ing people into poverty,. and this brings. about the step-by-step. not ma-. the speed of. drives economic progress.. for people, it requires. economics. character,. The discus-. sion in this paper is developed as follows: on one side, economic progress ing element creating. 福. 間の性格. This paper looks at the following. as proposed by Alfred Marshall. 進 化 論 的 経 済 学,経 済 進 歩,幸. is the last-. upgrading. of. element driv-. degrading. of human.
(3) character.. Finally,. upgrading,. moral. is slow.. Control. ness and difficulty. Key. word. s. Alfred. we have character over. found. human. create. that,. is at the character. serious. Marshall. gress, opposite. on an analogy. intermediate. barriers. step. development. of happiness. biological. and. this. is very. to economic. (1842 —1924), evolutionary nature. with. type. difficult.. step-by-step of upgrading This. slow-. progress.. economics,. and poverty,. human. economic character. pro-.
(4) 第6巻. 0.幸. Z1:本. 第2号. 福 と貧 困 との 対 置 的 性 質. 稿 の 目的 と そ の叙 述 の順 番. 本 稿 の 目的 は,マ ー シ ャル(AlfredMarshall,1842-1924)の に,人 間 の性 格(character)を. 経 済 学 に お い て,第1. 幸 福 あ る い は貧 困 の 非 物 的源 泉 と見 なす こ と,第2に,. この 性 格 の 高 級 化 速 度 の 遅 さの た め に経 済 進 歩 が 現 実 に は困 難 で あ る とマ ー シ ャル が 考 え て い た こ と を示 す こ とで あ る。 マ ー シ ャル の 時 代 で もな お,多 数 の 労 働 者 が 貧 困 で あ った が,こ の 原 因 こ そ は,人 間 の 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 の 速 度 が 遅 い こ と に くらべ て そ の 低 級 化 (あ るい は悪 化)の 速 度 が相 対 的 に速 い こ とで あ る。 本 稿 のA5で. 示 す よ う に,幸 福 あ る い. は貧 困 を直 接 に支 配 す るの は マー シ ャル で は 「生 活 水 準 」 と 「安 楽 水 準 」 で あ り,こ の 性 格 は源 泉 と して 間 接 に しか 支 配 しな い。 その 上,こ の 性 格 の 高 級 化 は,幸 福 状 態 の 実 現 あ る い は貧 困 状 態 の 根 絶 に お いて きわ めて 重 大 な 役 割 を 果 たす の で あ る。 この 重 要 な 役 割 を 果 たす こ と をわ れ わ れ は まず,本 稿 の1-2,1-3,B2,B3,C5,C10,C11,D6,D8,D9, D10に. お け るマ ー シ ャル の 事 例 の 検 討 で 示 した 。 そ して,こ の重 要 な役 割 は,次 の よ うな. 人 間 性 格 の 高 級 化 の 段 階 の 更 新 に よ って よ り重 要 にな る こ とを 示 す 予 定 で あ る。 わ れ わ れ は,本 稿 のA5とB4で. 予 告 して,D11で. 示 す よ うに,人 間 の性 格 全 体 が そ の 段 階 的 変 化. の 過 程 で その 高 級 化 の 段 階 を一 段 階 引 き上 げ る こ と を,ま ず 指 摘 す る。 この 変 化 の 結 果, わ れ わ れ は,道 徳 的 性 格 が この 変 化 の 前 で は最 高 級 の 第3段 階 に あ った の に,こ の 変 化 の 後 で は第2段 階 で あ る 中間 段 階 へ と高 級 化 の 段 階 を 変 え る こ と も,指 摘 す る予 定 で あ る。 相 対 的 に は,道 徳 的 性 格 は,低 級 化 した よ う に見 え るが,人 間 の 性 格 の 高 級 化 の 段 階 が 高 級 化 したの で,以 前 よ り も高 い高 級 化 の レベ ル が 求 め られ る。 この こ と は,本 稿 のD12以 降 で,人 間 の 活 動 能 力 が 最 高 級 の 段 階 に向 か って 高 級 化 す る問 題 と して 議 論 され る予 定 で あ る。 ま さ に,こ の よ う に見 た 人 間 の性 格 の 段 階 的 高 級 化 の 中 間段 階 の前 の 段 階 で は, 人 々が 貧 困 に導 か れ や す い傾 向 を も ち,こ の 後 の 段 階 で は幸 福 に導 か れ や す い傾 向 を もつ の で あ る。 それ ゆえ,人. 々の 幸 福 状 態 と貧 困 状 態 は,一 方 が 存 在 す れ ば他 方 が 存 在 しえ な. いの で はな く,生 物 の 自然 淘 汰 の 法 則 に従 って 環 境 の 変 化 へ の 適 応 に成 功 す れ ば経 済 学 的 に は幸 福 に導 か れ,逆 で あれ ば貧 困 に導 か れ る傾 向 を もつ の で あ る。 わ れ わ れ は この 現 象 を本 稿 で は幸 福 と貧 困 の 対 置 的性 質 を よ ぶ。 この 対 置 的 性 質 に 関 して は,本 稿 のD14, D17で. ま とめ て 検 討 して い るが,こ の 性 質 は 本 稿 を 通 して 貫 くテ ー マ で あ る。. マ ー シ ャル は,生 物 が 多 種 多 様 な 環 境 に適 応 して 多 種 多 様 に存 続 して い る こ との 類 似 で 一26(96)一.
(5) マー シャルの進化論的経済学 にお ける人間の性格の検討(礒 川) 人 間 の 活 動 能 力 も多 種 多 様 で あ る,と 想 定 した。 わ れ わ れ は最 近 の 遺 伝 に関 す る生 物 学 の 発 展 か ら,生 物 の 遺 伝 子 が 多 種 多 様 で あ り,し か も,遺 伝 子 の 形 質 を 生 物 の 発 生 にお いて い つ ど こ で 発 現 させ る か を支 配 す る遺 伝 子 が 存 在 して い る こ とを 知 った。(本 稿 のD14 とD15を. 見 よ。)生 物 学 か らの新 しい類 似 で考 え る と,人 間 の 活 動 能 力 は,た とえ,と て. も貧 しい人 で も富 裕 な 人 で も,潜 在 的 に生 まれ な が らに して 同 じよ う に 内在 して い る。 た だ,そ れ は発 現 して いな い,つ ま り顕 在 化 して いな いだ けな の で あ る。 この 類 似 で 人 間 の 活 動 能 力 の 顕 在 化 あ る い は その 行 使 を 考 え る と,幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 は二 重 に考 え る こ と が で き る。 人 間 が 活 動 す る に は活 動 手 段 が 必 要 で あ る。 後 に 本 稿 の2-3で. 示す よう. に,本 稿 で は この 手 段 は生 産 効 率 必 需 品 と よ ばれ る。 そ して この 必 需 品 は物 的 と非 物 的 の 2つ に分 類 され る。 この 必 需 品 と その3段 階 の 用 途 こ そ は,幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 の 具 体 的 姿 な の で あ る。 物 的 生 産 効 率 必 需 品 は,物 的 富 と見 な して も良 いで あ ろ う。 非 物 的 生 産 効 率 必 需 品 は,実 は,人 間 の 活 動 能 力 その もの な の で あ る。 上 で 取 り上 げた 道 徳 的 性 格 は この 活 動 能 力 に影 響 す る一 つ の 要 素 で あ る。 そ こで,遺 伝 子 と,そ の 発 現 を 支 配 す る遺 伝 子 と い う生 物 学 的 関 係 は,幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 に お け る,物 的 と,非 物 的 との 関 係 に対 応 す る,と わ れ わ れ は見 な す の で あ る。 しか も,わ れ わ れ は幸 福 あ る い は貧 困 の 非 物 的 源 泉 の 中で,道 徳 的 性 格 が その 段 階 的 変 化 の 中間 段 階 に位 置 づ け る こ と に よ って,幸 福 と貧 困 と の対 置 的 性 質 に大 き な 影 響 を 与 え る こ とを 示 す 予 定 で あ る。(本 稿 のD16を よ。)本 稿 は,こ の こ と を 明 らか にす る こ とを通 して,マ. み. ー シ ャル が 経 済 進 歩 の 困難 さを. 主 張 す る と共 に,彼 の 議 論 を 貧 困 の 絶 滅 に力 点 を 置 いた こ とを 示 す で あ ろ う。. Z2:幸. 福 あ る い は貧 困 の源 泉 の二 重 の 規 定. わ れ わ れ は上 のZ1の つ は人 間 の 性 格,も. 二 つ の段 落 で幸 福 あ る い は貧 困 の源 泉 を2重 に規 定 して い る。 一. う一一 つ は生 産 効 率 必 需 品 で あ る。 この 二 つ の 概 念 の 関 係 を,も. う少 し. だ け は っ き りさせ て お こ う。 源 泉 を 二 重 に規 定 す る最 大 の 理 由 はわ れ わ れ の 考 え で は,人 間 の 性 格 が 芸 術 的 性 格 の 新 しい分 化 に伴 って 新 しい形 態 に統 合 化 して 高 級 化 す る こ とを 示 す た めで あ る。(こ の詳 しい議 論 は本 稿 のD11を. 参 照 さ れ た い。)こ こで は,こ の 論 点 の 理. 解 を容 易 にす る た め に,人 間 の 性 格 と生 産 効 率 必 需 品 の 関 係 を 簡 単 に説 明 して お きた い。 本 稿 で わ れ わ れ が 人 間 の 性 格 で 意 味 しよ う とす る こ と は,次 の こ とで あ る。 まず,人 間 の 性 格 は,人 間 の 活 動 能 力 と,そ れ が 活 動 環 境 にお いて 人 間 に と って 望 ま しい形 態 か そ れ と も望 ま し くな い形 態 で 行 使 され る仕 方 と,の 二 つ を 意 味 して い る。 も ち ろん,こ の 二 つ は 分 離 して は 意 味 が 成 り立 た な い。 なぜ な ら,本 稿 のA3で 一27(97)一. 示 す よ うに,「 習 う よ り も慣 れ.
(6) 第6巻. 第2号. ろ」 が 意 味 す る こ と は,人 間 の 活 動 能 力 が 実 際 に行 使 され る こ とで 変 化 し,し か も ま った く行 使 され な い こ と は この 活 動 能 力 を 消 滅 させ る こ と に等 しいか らで あ る。 この 変 化 と類 似 して,人 間 の 活 動 能 力 は,望 ま しい形 態 で 行 使 され る と高 級 化 す る し,望 ま し くな い形 態 で 行 使 され る と低 級 化 す る。 この よ う に,わ れ わ れ は,人 間 の 活 動 能 力 とそ の 行 使 の 仕 方 の 二 つ は密 接 で 不 可 分 と見 な す か ら,こ の 二 つ の 変 化 を全 体 と して 示 す と き人 間 の 性 格 の 変 化,と 呼 ぶ こ と にす る。 人 間 の 性 格 は,芸 術 的 性 格 が 分 化 す る前 で は 肉体 的 性 格,精 神 的 知 的 性 格,道 徳 的 性 格 で あ る。 この 分 化 後 で は,肉 体 的 精 神 的 性 格,道 徳 的 性 格,芸 術 的性 格 の3段 階 の形 態 に更 新 され る(2)。これ らの こ と に つ い て は,本 稿 のA5,D11, D13を. 参 照 され た い 。 他 方,わ れ わ れ は,生 産 効 率 必 需 品 も幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 と見. な す 。 と い うの は,人 間 の性 格 を 固 有 に研 究 す るの は,経 済 学 で は な く どち らか とい え ば, 心 理 学 な どで あ ろ う。 それ で,人 間 の 性 格 その もの を 直 接 的 に経 済 的 変 数 そ の もの と見 な す こ と は,適 切 とは思 わ れ な い(P謝. 吻16∫,16-7)。 そ こで,わ れ わ れ は人 間 の 性 格 を 幸 福. あ る い は貧 困 の 源 泉 の 非 物 的 源 泉 と見 な す の に対 して,所 得 な どの 物 的 富 を そ の 物 的 源 泉 と見 な す こ と に したの で あ る。 そ して わ れ わ れ は,物 的 と非 物 的 源 泉 を 経 済 的 意 味 で 一 つ の 用 語 で 呼 ぶ と き に は,生 産 効 率 必 需 品 と呼 ぶ の で あ る。 だ か ら,わ れ わ れ は この 必 需 品 を,経 済 学 的 意 味 で 源 泉 の 具 体 的 姿 と して の 変 数 で あ る と見 な す の で あ る。 と い うの は, わ れ わ れ は,幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 と いえ ば,マ ー シ ャル が 広 義 の 経 済 学 を 考 え て い る か らこ そ,生 産 効 率 必 需 品 を か れ の 経 済 学 の 範 囲 内で この 源 泉 と定 義 して い る と解 釈 す る の で あ る。 しか も,こ の 必 需 品 に は,本 稿 のC10で. 示 す よ う に,3段. 階 の 用 途 が 規 定 され. て い る。 それ ゆえ,こ の必 需 品 も,人 間 の 性 格 と同 様 に,二 重 に規 定 さ れ て い る。 つ ま り, この 必 需 品 その もの と,そ の3段 階 の 用 途 で あ る。 この 必 需 品 の 用 途 は,人 間 の 活 動 環 境 で 望 ま しい形 態 で 享 受 され る と人 間 の 性 格 を 高 級 化 し,逆 な 形 態 で あれ ば低 級 化 す る。 こ の よ う に,わ れ わ れ は,幸 福 と貧 困 の 源 泉 を 実 際 的 意 味 にお いて は生 産 効 率 必 需 品 とそ の 3段 階 の 用 途 と見 な す が,本 質 的 に高 級 化 あ る い は低 級 化 す るの は,つ ま り段 階 的 に変 化 す るの は,人 間 の 活 動 能 力 と その 行 使 の 仕 方 で あ る と見 な す 。 本 稿 の 以 後 の 議 論 で わ れ わ れ は,上 の 区 分 を 踏 まえ な が ら,人 間 の 性 格 の 段 階 的 変 化 と して は人 間 の 活 動 能 力 とそ の 行 使 の 仕 方 との 段 階 的 変 化 に力 点 を置 いて 叙 述 す るで あ ろ う。 な お,生 産 効 率 必 需 品 の 概 念 につ いて は,本 稿 の2-3を. 参 照 され た い。. 上 の,人 間 の 性 格 の 変 化 の 叙 述 の こ と を含 めて 本 稿 の 論 旨の 叙 述 の 仕 方 につ いて 簡 潔 に ま と めて お こ う。 わ れ わ れ は,幸 福 あ る い は貧 困 を 支 配 す る原 因 か ら見 れ ば,最 も現 象 の 表 面 か ら遠 い場 所 に あ る源 泉 の 検 討 を 本 稿 の 一 番 最 後 く3.人 間 の 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 の 遅 一28(98)一.
(7) マー シャルの進化論的経済学 にお ける人間の性格の検討(礒 川) さ〉に お い た。 とい うの は,人 間 の 活 動 の 段 階 的 変 化 か ら見 れ ば,生 物 の進 化 に類 似 して, 人 間 の 活 動 能 力 は よ り簡 単 で 低 級 な 形 態 か らよ り複 雑 で 高 級 な 形 態 に変 化 す る。 これ か ら 見 れ ば,つ ま り,人 間 の 活 動 が 幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 の 源 泉 と して の 活 動 能 力 に対 応 し て 変 化 す る と考 え る と,変 化 の 初 めの 方 で は分 化 して3つ の 段 階 に分 化 す る。 これ を 出発 点 と考 え る と,次 に,人 間 の 行 動 が その 具 体 的 で 複 雑 な 現 象 レベ ル で 把 握 され る と,人 間 の 活 動 能 力 が 再 び統 合 化 され る と き に は 「生 活 水 準 」 や 「安 楽 水 準 」 に支 配 され るで あ ろ う形 態 に お け る人 間 の 活 動 が 派 生 的 に分 化 した 段 階 と見 なせ る。 この よ うに して 最 後 に は,人 間 の 活 動 状 態 は,幸 福 な 状 態 あ る い は貧 困 な 状 態 で 生 活 す る と い う段 階 に分 化 と共 に統 合 化 され る段 階 に至 る はず とみ な せ る。 だ か ら,こ の 順 番 で は,わ れ わ れ は幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 その もの の 解 明 を 本 稿 の 初 め にす べ きで あ る。 しか し,わ れ わ れ の 叙 述 の 仕 方 は逆 で あ る。 本 稿 の 解 明 の 焦 点 が,こ の 源 泉 と して の 人 間 の 性 格 に あ るの で,こ の 転 倒 を したの で あ る。 したが って,本 稿 のA5で. の 人 間 の 性 格 の 議 論 は,こ の 性 格 の 定 義 を. した だ け にす ぎな い。 本 稿 は全 体 と して は,マ ー シ ャル の 幸 福 と貧 困 の 議 論 を 解 明 す る こ とか ら見 れ ば,演 繹 的 分 析 の 出発 点 を設 定 しよ う とす るの で あ る。 そ こで,わ れ わ れ は貧 困 と幸 福 の 対 置 的 性 質 の 解 明 の 旅 を,経 済 変 化 に関 わ る人 間 の 活 動 を 支 配 す る物 的 要 因 と 非 物 的要 因 の分 類 を検 討 す る こ とか ら始 め よ う。(こ の2つ の 要 因 は,そ れ と対 応 す る2 つ の 源 泉 に本 稿 のA5で. そ の 名前 を変 更 され る。). 0-1経. 済 活 動 の変 化 を支 配 す る物 的要 因 と非 物 的要 因. Al:広. 義の経済学. マ ー シ ャル は,1890年. に初 版 を 公 刊 した 『経 済 学 原 理 』(以 下 『原 理 』 と略 す)の 本 文. 冒頭 で,経 済 学 が 一 方 で 富 の 研 究 で あ るが 他 方 で よ り重 要 な 側 面 で は人 間 研 究 の 一 部 で あ る と述 べ る と共 に,そ の 理 由 と して 端 的 に,人 間 の 性 格 が 日 々の 活 動 の 遂 行 で 変 化 す る と 述 べ て い る(Pr'η 吻Z68,1)(3>。つ ま り,マ ー シ ャル は,経 済 活 動 の 変 化 は,富 の変 化 に 由 来 す る部 分 と人 間 の 性 格 の 変 化 に 由来 す る部 分 が 結 合 され て 形 成 され て い る と見 な して い る。 経 済 的 変 化 は富 の 変 化 と人 間 の 性 格 の 変 化 と相 関 して い るの で あ る。 も ち ろん,人 間 の 性 格 は体 力 や 知 性 な どの 活 動 能 力 等 で 形 成 され,こ の 性 格 の 高 級 化 は これ らの 活 動 能 力 の 変 化 と相 関 して い る。 そ こで,わ れ わ れ は,こ れ 以 後,経 済 活 動 の 変 化 の 中で 物 的 富 に 由来 す る部 分 を 物 的 要 因 と呼 び,人 間 の 性 格 を 含 め た,人 間 の 活 動 能 力 に 由来 す る部 分 を 非 物 的 要 因 と よ ぶ こ と に す る④。 これ ら二 つ の 要 因 の 結 合 を 詳 し く説 明 す る こ と に よ っ て,人 間 の 経 済 状 態 の も っ と も重 要 な 指 標 と して マー シ ャル が 採 用 した,幸 福 の 概 念 と貧 一29(99)一.
(8) 第6巻. 第2号. 困 の 概 念 の 対 置 的 性 質 が 人 間 性 格 の 高 級 化,低 級 化 あ る い は悪 化 と緊 密 に結 びつ いて い る こ とが 十 分 に説 明 で き る と思 わ れ る。 こ こで これ ら二 つ の 概 念 が 対 置 的 と い うの は,マ ー シ ャル が 進 化 論 的 経 済 観 に立 つ こ と に よ って,幸 福 を人 間 に と って 望 ま しい こ と,実 現 す べ き こ と,そ れ と対 置 して 貧 困 を 望 ま し くな い こ と,し たが って 根 絶 す べ き こ と と考 え て い る こ とで あ る。 しか も,わ れ わ れ は,本 稿 のZ1の. 第1パ. ラ グ ラ フ で説 明 した よ う に,こ. れ ら二 つ の 概 念 の 対 置 的 性 質 を,対 立 概 念 の ご と くに一一 方 が 存 在 す る と き に は他 方 が 存 在 しえ な い と い う二 者 択 一 的 概 念 と は考 え な いで,経 済 変 化 の 中で 幸 福 と貧 困 が 同時 に存 在 す る とマ ー シ ャル が 考 え て い た こ とを 意 味 させ た い の で あ る。 生 物 学 の進 化 論 に よ れ ば (本稿 の0-2で. 示 す よ うに),生 物 は 当該 の生 存 環 境 に適 応 す る こ とで存 続 に成 功 す るが,. この 成 功 の 背 後 で は別 な 生 物 が この 生 存 環 境 に適 応 す る こ と に失 敗 して 消 滅 す る こ とを 意 味 す る。 この 自然 選 択 の 法 則 を マー シ ャル は,経 済 制 度 と人 間 に適 用 して は い る もの の, 幸 福 を導 く人 間 の 努 力 を 優 勢 に しつ つ 貧 困 を 導 く人 間 の 活 動 を 弱 体 にす る よ うな 経 済 社 会 と人 間 の あ り方 を示 そ う と した の で あ る(Pr'ηclρ16&240-2)。 しか し,こ の あ り方 の 本 稿 で の 検 討 は,進 化 論 的 観 点 に立 つ マー シ ャル の 経 済 学 全 体 像 か ら見 れ ば一 部 分 の 説 明 を 構 成 す る にす ぎな い。. A2:定. 常状 態 に 関 す る マ ー シ ャル の動 態 的解 釈:人. 間 の性 格 の変 化. わ れ わ れ は こ こで 前 置 き的 に,マ ー シ ャル が,経 済 変 化 を 生 物 の 段 階 論 的 変 化 と類 似 な 変 化 と い う意 味 で 動 態 的 だ とみ な す と き,人 間 の 性 格 を 決 定 的 に重 要 な 要 素 だ と考 え て い る こ とを 示 そ う。 これ は,本 稿 の 以 下 の 議 論 全 体 の 理 解 へ の 有 用 な 道 案 内 にな る と思 わ れ る。 これ に関 す る マ ー シ ャル の 議 論 は次 の よ うで あ る。 この 議 論 は定 常 状 態 と い う静 学 的 工 夫 に関 して,古. い学 説 と彼 の 学 説 の 相 違 を 強 調 す るた め に使 わ れ て い る。 この 議 論 は,. 彼 の論 文 「経 済 学 に お け る生 物 学 的 類 似 と力 学 的類 似」(Mαr訥 α〃-1898)で 展 開 され て い る。 その 要 旨 は,経 済 変 化 が 生 物 学 的 段 階 的 変 化 と類 似 で 変 化 して い る と考 え るマ ー シ ャ ル か ら見 れ ば,定 常 状 態(stationarystate)と. い う静 学 的工 夫 は,人 間 の性 格 が 不 変 量. で あ る と想 定 され て い る こ とで しか な い。 も う少 し詳 し く見 て み よ う。 この 工 夫 で は,土 地 の 不 足 はな くて 土 地 収 穫 不 変 で あ る とす れ ば,人 口 と富 と い う変 数 は増 加 して い るが, それ らは 同一 の 率 で 増 加 して い る。 しか し,生 産 方 法 と市 場 の条 件 は,「人 間 自身 の 性 格 が 不 変 量 で あ る と こ ろで は」 ほ とん ど変 化 しな い。 この 状 態 で は生 産 と消 費,交 換 と分 配, これ らの 変 数 に関 す る も っ と も重 要 な 条 件 が ま っ た く同一 な 質 で あ り同一 な 一 般 的 関 係 で あ るの に対 して,こ れ らの 変 数 の 量 はす べ て 増 加 して い る(ハ4翻or∫α1∫,315)。 -30(100)一.
(9) マ ー シ ャル の 進 化 論 的 経 済 学 にお け る人 間 の 性 格 の 検 討(礒 川) こ の よ う な 定 常 状 態 に 関 し て,古. い 学 説 の 代 表 と し てJ・S・. ミル の 説 を 見 れ ば,こ. 状 態 が 経 済 進 歩 の 過 程 で は 避 け る こ と が で き な い こ と で あ る 共 に,人 は な い こ と は な い の で あ る(ハ4∫〃-1848,vol.3,752-6)。 あ る が,人. ミル は,定. 間 に と って 望 ま し く. 常 状 態 を 消 極 的 にで は. 間 の あ る べ き 姿 の 一 つ と して 肯 定 して い る の で あ る 。 しか し,マ. 人 間 の 性 格 が 変 数 で あ り,高. の. ー シ ャ ル は,. 級 化 もす れ ば低 級 化 あ る い は悪 化 もす る と見 な す 。 人 間 の 性. 格 を 不 変 と す る よ う な 定 常 状 態 の 内 容 を 彼 は,人. 間 に と っ て 望 ま し い も の と して 消 極 的 に. で も肯 定 す る わ け に は い か な か っ た で あ ろ う 。 と は い う も の の,マ して は 定 常 状 態 に 興 味 を 持 っ た 。 彼 は 『原 理 』 で は,人. ー シ ャル は分 析 道 具 と. 間 の 性 格 を 不 変 と す る か わ り に,. 需 要 と 供 給 が 変 化 す る 時 間 の 長 さ を 分 析 的 論 理 の 長 さ で 固 定 す る 方 法 を と っ た 。 つ ま り, 『原 理 』 第5編. で 展 開 し て い る 一 時 均 衡,短. 期 均 衡,長. 期 均 衡 の3つ. の 区 分 で あ る。 い わ. ゆ る 「他 の 事 情 に して 等 し け れ ば 」 と い う 条 件 説 で あ る 。 こ の 手 法 に つ い て 彼 は 「原 理 』 の 序 文 で 次 の よ う に 述 べ て い る(Pr∫ ηCψ18&xiv-XV)。 て は 「基 盤 」(foundation)の 象 を 取 り扱 う 。 こ の た め に,よ. 『原 理 』 は,彼. の 経 済 学 体 系 にお い. 役 目 を 果 た す 。 こ の 著 作 に 続 く著 作 は,よ. り複 雑 な 経 済 現. り単 純 化 で き る 個 別 の 経 済 現 象 の 詳 細 な 分 析 が 事 前 に 準 備. さ れ た の で あ る 。 マ ー シ ャ ル は,経. 済 の 研 究 と その 叙 述 に お いて 帰 納 と演 繹 と い う論 理 を. 駆 使 し た の で あ る 。 複 雑 な 現 象 は 帰 納 に よ っ て 単 純 な 要 素 に 分 解 さ れ て か ら,演. 繹的な分. 析 的 論 理 に よ っ て 復 元 さ れ る(Pr'ηc∫1フ165,29)。 マ ー シ ャル は,『 原 理 』 と い う 著 作 を 初 め か ら2巻. で 計 画 し て い た こ と が,知. ら れ て い る(斜. 一1990ゑ236-7)。. の 著 作 が 彼 の 生 存 中 に 公 刊 さ れ た 。 だ か ら,「 基 盤 」 と な る 著 作 で は,か. 現 実 に は 後2つ れ は力 学 的類 似. の 手 法 の 方 が 生 物 学 的 類 似 の 手 法 よ り も 使 用 割 合 が 多 くな る と い う 。 後 者 の 手 法 の 使 用 割 合 が 少 な い と は い え,使. 用 す る の で あ る 。 だ か ら,彼. は経 済 学 者 の メ ッカが 経 済 動 学 よ り. もむ し ろ 経 済 生 物 学 に あ る と い う の あ る 。 し た が っ て,定 せ ば,一. 常 状 態 の 工 夫 の 関 係 に議 論 を 戻. 時 均 衡 と 短 期 均 衡 で は 生 産 技 術 は ほ ぼ 変 わ らな い と 一 般 的 に は 前 提 さ れ て る と 解. 釈 さ れ る か ら,マ. ー シ ャ ル 的 に い え ば,人. 間 の 性 格 は 不 変 量 で あ る の に 対 して,長. 期均衡. で は こ の 性 格 は 変 化 す る で あ ろ う(5)。. 0-2生. 物 学 的類 似 で の人 間 の性 格 の段 階 的変 化. A3:分. 化 と統 合 に よ る 段 階 的 変 化:低 級 か ら高 級 な 段 階 へ(6). そ こで,わ れ わ れ は貧 困 と幸 福 との 概 念 の 対 置 的 性 質 の 検 討 に必 要 な 限 りで,マ ー シ ャ ル の 進 化 論 的 考 え の 要 点 を ま と め よ う。 わ れ わ れ はす で に,経 済 変 化 は物 的 要 因 で あ る富 の 変 化 と非 物 的 要 因 で あ る人 間 の 活 動 能 力 の 変 化 に 由来 す る こ とを 指 摘 した 。 これ を 踏 ま 一31(101)一.
(10) 第6巻 え て,わ. れ わ れ は,本. 釈 〉 で 指 摘 し た,人. 稿 全 体 で は 本 稿 の0-1の. 〈定 常 状 態 に 関 す る マ ー シ ャ ル の 動 態 的 解. 間 の 活 動 能 力 を 構 成 要 素 と す る 人 間 の 性 格 を 中 心 に 議 論 を した い の で. あ る 。 と い う の は,本 に,マ. 第2号. 稿 の1-1,1-2,1-3の. 検 討,そ. し て 最 終 的 にD7の. ー シ ャル は 経 済 変 化 を 支 配 す る 要 因 と して は,物. 議論が示す よう. 的 要 因 の 変 化 よ りも非 物 的 要 因 で. あ る 人 間 の 性 格 の 変 化 を よ り重 要 視 して い る と 思 う か らで あ る 。 そ こ で わ れ わ れ は,こ で は こ の 重 要 視 に 留 意 して,人. こ. 間 の 性 格 の 段 階 的 変 化 を 説 明 す る こ と にす る。 生 物 の 進 化. 論 的 段 階 的 変 化 の 観 点 と 類 似 す る 観 点,よ. り直 接 的 に は ス ペ ン サ ー の 進 化 論 か ら 学 ん だ 観. 点 に 立 っ て 経 済 変 化 と 人 間 の 性 格 の 変 化 を 考 え る と き,す べ て の 変 化 は 「自然 選 択 の 法 則 」 (ス ペ ン サ ー で は 最 適 者 存 続 の 法 則)に 影 響 さ れ る と 考 え られ る 。 こ の 段 階 的 変 化 の 議 論 を わ れ わ れ は 以 前 に 明 らか に し た こ と が あ る の で(斜 を 踏 ま え て,こ. 一198816-18,24),こ. こで は これ. の 議 論 を 人 間 の 性 格 の 段 階 的 変 化 に 適 用 し よ う 。。 人 間 の 性 格 は そ の 活 動. 環 境 の 変 化 に 適 応 して 変 化 す る 。 そ れ は よ り単 純 な も の か ら よ り複 雑 な も の へ 変 化 す る 。 ス ペ ンサ ー 的 に は,段. 階 的 変 化,つ. ま り進 化 そ の も の は 変 異 の 持 続 で あ り,人. よ り単 純 で 下 級 な も の か ら よ り複 雑 で 高 級 な も の へ 変 化 す る 。 な ぜ な ら,人 と そ の 行 使 の 仕 方,つ. ま り そ の 性 格 は 生 物 の 変 化 の よ う に,一. た が っ て 実 行 す る こ と で 高 級 化 し,他. 間の性格 は. 間の活動能力. 方で環境の変化の求 めに し. 方 で この 変 化 が 求 め に したが って 使 わ な けれ ば低 級. 化 す る 。 マ ー シ ャ ル も 使 っ て い る 格 言 で あ る が,「 習 う よ り慣 れ ろ 」(P航clρ16∫,250-1)で あ る 。 こ れ を,マ しか も,わ. ー シ ャル は経 済 制 度 と人 間 に応 用 したの で あ る。. れ わ れ は,本. 稿 で 人 間 の 性 格 に 焦 点 を あ て て い る の で,こ. の性格の変化が段. 階 的 で あ る こ と を 強 調 して お こ う 。 人 間 の 性 格 の 変 化 の 速 度 が 遅 い だ け で は な い 。 生 物 の 段 階 的 変 化 に 類 似 して,こ 応 して,性. の 性 格 の 段 階 的 変 化 は,そ. 格 の 機 能 の よ り多 い 分 化 を も た ら し,よ. の 過 程 に お いて 活 動 環 境 の 変 化 に適 り多 く に 分 化 さ れ た 機 能 は 新 し く分 化. し た 機 能 を 包 含 して 新 し い 統 合 を 結 果 して,一 一 つ の 段 階 を 形 成 す る。 段 階 的 変 化 の 古 い段 階 と 新 し い 段 階 と は,小 あ る 。 連 続 的 と は い え,異. さ な 相 異 し か な い 連 続 的 段 階(continuousgradation)の 質 な 段 階 を 形 成 して い る の で あ る 。 こ の 二 つ の 段 階 で,よ. し い 段 階 が 機 能 を よ り多 く分 化 を して 人 間 の 性 格 が 複 雑 化 す る と き,新 級 化 す る し,逆. り新. し い 段 階 は よ り高. に こ の 性 格 が 機 能 を 以 前 よ り も 少 な い 分 化 と な っ て 単 純 化 す る と き,こ. 段 階 は よ り低 級 化 す る と い わ れ る(Pr'ηclρ16∫,vi-vii,33,632,241-2)。 く り しか 変 化 しな い 。 変 化 が 開 始 さ れ て,成. 済 制 度 だ け で な く,人. 間が必. の 中間 で 経 過 す る段 階 が 問 題 とな る。. 間 も 変 数 な の で あ る 。 しか し,経 一32(102)一. の. し か し,人 間 は ゆ っ. 功 す る に して も 失 敗 す る に して も,時. 要 で あ る 。 ま して や 最 高 級 に ま で 成 功 す る に は,そ か くて,経. 関係 に. 済 社 会 を 構 成 す る経 済.
(11) マ ー シ ャル の 進 化 論 的 経 済 学 にお け る人 間 の 性 格 の 検 討(礒 川). 制 度 は 急 速 に 改 善 し う る が,人. 間 は ゆ っ く り と し か 成 長 し な い の で あ る。 「自然 は 飛 躍 せ. ず 」 で あ る(Pr'ηclρ16&249)。 も ち ろ ん,段. 階 の 区 分 だ け で な く,そ れ が 小 さ な 相 異 し か な い 連 続 的 段 階 で あ る こ と は,. マ ー シ ャ ル の 人 間 の 段 階 的 変 化 の 理 解 に お い て き わ め て 重 要 で あ る。 こ の こ と は,マ. ー. シ ャ ル が 『原 理 』 の 初 版 へ の 序 文 で 連 続 性 の 原 理 と して 強 調 して い る と お りで あ る(Pr'η 一 吻163,vi)。. しか し,わ れ わ れ は 本 稿 で は,連. しな い 。 す な わ ち,人. 間 の 性 格 の 段 階 的 変 化 が 高 級 化 す る に し ろ,低. り低 級 か ら よ り高 級 へ,逆 い う の は,本. 続 性 の 原 理 の 観 点 は,次. の こ と以 外 で は強 調 級 化 す る に し ろ,よ. に よ り高 級 か ら よ り低 級 へ 順 番 に 変 化 して い く こ と で あ る 。 と. 稿 で の 議 論 の 焦 点 が,人. 間 の 性 格 の 変 化 が 遅 い こ と,し. か もそ の 段 階 的 変 化. の 中 間 段 階 で の 変 化 が 遅 い こ と を 明 ら か に し よ う と す る か ら で あ る。(こ の こ と は,本 の セ ク シ ョ ン3で. A4:人. 明 らか に す る 予 定 で あ る 。). 間 の 性 格 の 高 級 化:人. しか し,マ. ー シ ャ ル は,進. 間 に と っ て 望 ま しい こ と. 化 論 的 倫 理 の 観 点 か ら快 楽 主 義 的 な 意 味 で の 功 利 主 義 を 否 定. す る よ う に こ の 主 義 を 修 正 し た が,こ 84-9)。. こ の た め に,か. の 主 義 を 全 面 的 に は 否 定 し な か っ た(創. れ は 『原 理 』 で は 人 間 の 活 動 の 動 機 と し て,快. 語 の 使 用 を 排 除 し な か っ た が,欲 desire)と. 稿. 一199£. 楽 と苦 痛 とい う用. 望 の 満 足 と 不 満 足(satisfacionordissatisfactionof. い う用 語 を も併 用 し て い る(Pr'ηcψ18&17-19,Bk.III)。. こ れ に よ っ て,彼. は. 欲 望 の 満 足 と い う用 語 に よ って 単 な る損 得 勘 定 と い う道 徳 的 に低 級 な 欲 求 を 意 味 す る快 楽 よ り も広 い 範 囲 の 人 間 の 活 動 の 動 機 を 意 味 さ せ よ う と し た と 思 わ れ る 。 こ の よ う な 観 点 か ら彼 は,人 も,活. 間 の 活 動 を 次 の よ う に 見 な し た 。 つ ま り,人. 動 す る こ と そ の も の に 喜 び を 感 じ,よ. 福 を 感 じ,逆. して,生. 物 学 的 意 味 に 加 え て,人. ー シ ャ ル は,人. り下 級 な 活 動 が も た ら す 挫 折 感 覚 に 貧 困. 間 の 活 動 能 力 の 高 級 化 あ る い は低 級 化 に関. 間 に と っ て 道 徳 的 に 望 ま し い こ と を 高 級 と 呼 び,望. く な い こ と を 低 級 と 呼 ぶ と い う 意 味 を 付 加 し た 。 だ か ら,こ 化 に 適 応 す る こ と で の 成 功 は,人 る と,わ. 間 が 貧 困 な 状 態 に あ る と,わ. 間が幸福な状態 にあ. 応 に 失 敗 す る こ と は 望 ま し くな い. れ わ れ は見 な す の で あ る。 わ れ わ れ が 幸 福 と. 貧 困 と の 概 念 が 対 置 的 性 質 を 持 つ と い う の は こ の 文 脈 で あ る 。 も ち ろ ん,人 響 す る 要 素 は た く さ ん 存 す る で あ ろ う が,わ. ま し. の道徳的意味で活動環境の変. 間 に と っ て 望 ま し い こ と で あ り,人. れ わ れ は 見 な す の で あ る 。 こ れ と 対 置 的 に,適. こ と で あ り,人. の 活 動 の 動 機 を 別 に して. り高 級 な 活 動 が で き た と き そ の 成 功 感 覚 に 幸. に 行 動 しな い こ と は 苦 痛 で あ り,よ. を 感 じ る 。 こ れ に 対 応 して,マ. 間 が,そ. れ わ れ は,マ. 一33(103)一. 間 の 性 格 に影. ー シ ャル が 生 物 の 進 化 論 理 解 か.
(12) 第6巻. 第2号. ら獲 得 した こ との 一 つ が 人 間 の 性 格 の 変 化,特. に道 徳 的 性 格 の 変 化 が 重 要 で あ る と,繰. り. 返 しに な るが,本 稿 で は主 張 した いの で あ る。 いず れ に して も,人 間 の 性 格 が 高 級 で あ る こ と は,人 間 に と って 望 ま しい こ と,つ ま り善 で な けれ ばな らな い。 そ の 中で も道 徳 的 な 性 格 が 善 で な けれ ばな らな い,こ の こ とを マ ー シ ャル が 人 間 活 動 の 高 級 化 で 主 張 して いた と,わ れ わ れ は主 張 した いの で あ る。 そ こで,確 認 す べ き こ と は次 の こ とで あ る。 マ ー シ ャル が 生 物 の 段 階 的 進 化 か ら学 ん だ こ と は,同 と,さ. じ原 因 が 時 と場 所 に よ っ て 人 間 に幸 福 を 結 果 した り貧 困 を 結 果 した りす る こ. らに踏 み 込 ん で,物 的 富 で あ る貨 幣 所 得 の 増 加 だ けで は,必 ず しも人 間 に幸 福 を も. た らさな いの で あ り(Pr'ηc'1フ163,20),非物 的 側 面 で あ る人 間 自身 の 性 格 の 高 級 化 が な けれ ば,貧 困 を結 果 す る こ とで あ る。 あ る意 味 で,あ. る原 因 の 結 果 と して,貧 困 と幸 福 は一 方. の いず れ か が 必 ず も た らされ るの で はな く,条 件 次 第 で 対 置 的 に もた ら され る結 果 な の で あ り,ま さ に 「他 の 事 情 に して 」 の 条 件 の 変 化 が 中間 的 段 階 で 発 生 す れ ば,貧 困 に向 か っ て い る事 態 が 幸 福 に向 か う途 に向 か うか も しれ な いの で あ る。 と い うわ けで,マ ー シ ャル が 生 き た時 代 で は深 刻 な 貧 困 の 根 絶 こ そが,マ ー シ ャル の 緊 急 の 課 題 で あ った が,貧 困 の 根 絶 は物 的 条 件 の 改 善 と共 に,貧 困 を 是 認 しな い人 間 の 思 考 と活 動 様 式 を 持 つ よ う に人 間 を道 徳 的 に改 善 す る こ と,つ ま り人 間 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 を必 要 とす る。. 0-3幸. 福 あ る い は貧 困 の非 物 的源 泉 と して の人 間 の性 格. A5:幸. 福 あ る い は 貧 困 の 物 的 源 泉 と非 物 的 源 泉. さ て わ れ わ れ は,本. 稿 のA2で. シ ャ ル は,「 原 理 』 第1編. 第1章. い る 。 人 間 の 性 格(character)は 大 き く左 右 さ れ る が,そ. 前 置 き 的 に 指 摘 した,人 第1節. で,貧. 間 の 性 格 の 検 討 に入 ろ う。 マ ー. 困 の 原 因 を 論 じ る と き,次. 一 般 的 見 て,か. れ の 所 得(物. の よ うに い って. 的 富)の. 大 き さ に よ って. れ 以 上 に 所 得 を 稼 得 す る 仕 方 に よ り強 く影 響 さ れ る と,マ. ル は 強 調 す る 。 こ の 強 調 は,本. 稿 の0-1で. 指 摘 し た,人. け る 意 味 で あ る 。 こ の 例 証 と し て マ ー シ ャ ル は,年 み て 充 実 し た 生 活 が で き て,少. 間 の 性 格 の マ ー シ ャル 経 済 学 に お. 所 得150ポ. ン ドの 家 庭 は 社 会 的 平 均 で. な くと も物 的 生 活 手 段 は過 剰 で はな いが 不 足 もな い状 態 と. 想 定 し て 検 討 を 始 め る 。 年 所 得1,000ポ. ン ドあ る い は5,000ポ. 所 得 の 場 合 で も 非 常 に 裕 福 な 家 族 で あ っ て,こ. ン ド と い う家 庭 は,い. ン ドの 家 庭 は,150ポ. ン ドを 普 通 の. 足 な 生 活 に 必 要 な 物 的 富 に お い て 欠 如 して お り,生. の 確 保 に 困 窮 し て い る は ず で あ る 。 し か し,こ -34(104)一. ずれの. の よ う に高 額 な 所 得 水 準 で はそ の 生 活 の 豊. か さ で は 大 き な 差 異 は 生 じ な い 。 しか し年 所 得 が30ポ 人 び と の 家 庭 だ と す れ ば,満. ー シャ. こ で マ ー シ ャ ル は,最. 活必需品. 高 級 の 幸 福(the.
(13) マー シャルの進化論的経済学 にお ける人間の性格の検討(礒 川) highesthappiness)の. 源 泉 と して,所 得 な ど の物 的要 因 に加 え て 宗 教,家 族 愛,友. 情と. い う非 物 的 要 因 を 指 摘 して い る。 た とえ ば,マ ー シ ャル の 時 代 で30ポ ン ドの 年 所 得 で 貧 乏 な 人 は,教 会 に行 くと い っ た宗 教 活 動 を して いな い し,子 ど も を 肉体 的 に精 神 的 に虐 待 す る な ど して 家 庭 を 荒 廃 さ せ る だ け で 家 族 の き ず な を つ な ぐ家 族 愛 を 発 揮 す る こ と もな い し,他 人 に は交 際 を 回避 さ れ て友 情 を培 う こ と もで き な い(P航. 吻16∫,2)。 か れ は,物 的. で 肉体 的 生 活 に お いて 欠 乏 して い るだ けで な く,他 人 との ふ れ あ いを 支 配 す る精 神 的 生 活 に お いて も欠 乏 して い るの で あ る。 マー シ ャル は この よ う に貧 困 を 物 的 要 因 だ けで な く, 精 神 的 概 念 を 含 め た非 物 的 要 因 と して も規 定 す る。 も ち ろん この 規 定 は,貧 困 の 対 置 的 概 念 と想 定 され る幸 福 に も その ま ま適 用 され る。 か くて,わ れ わ れ は,最 高 級 の 幸 福 の 源 泉 と い う マ ー シ ャル の 上 の指 摘 に ち なん で,こ れ 以 後 は,本 稿 のA1の. 定 義 を 変 更 して,経. 済 変 化 が 由来 す る物 的 要 因 を 幸 福 な い し貧 困 の 物 的 源 泉 と呼 び,そ の 非 物 的 要 因 を 幸 福 な い し貧 困 の 非 物 的 源 泉 と呼 ぶ こ と にす る。 したが って,マ. ー シ ャル は こ こで,物 的 源 泉 と. して 所 得 を,非 物 的 源 泉 と して 宗 教 的 活 動 能 力 と道 徳 的 性 格 を 形 成 す る道 徳 的 活 動 能 力 を 指 定 して い る こ と にな る。 も ち ろん,人 間 は 肉体 的 に も知 的 に も活 動 す るか ら,こ れ らの 活 動 能 力 を マ ー シ ャル が 非 物 的 源 泉 と して 考 え られ た と想 定 す べ きで あ ろ う。 そ こで,わ れ わ れ は,こ こで は,4つ. の 源 泉 を想 定 で き る。 つ ま り,活 力 あ る 肉体 的 活 動 能 力,知 識. な どの 精 神 的 知 的 活 動 能 力,宗 教 的 活 動 能 力,そ. して 道 徳 的 活 動 能 力 で あ る。 マ ー シ ャル. の 非 物 的 源 泉 の 範 囲 はか な り広 い と思 わ れ るの だ が,か れ の 幸 福 の 概 念 の 意 味 内容 で も っ と も重 要 な こ と と思 わ れ る こ と は,本 稿 のA4で. 示 した よ う に,マ ー シ ャル で は人 間 が こ. れ らの 活 動 能 力 を それ 自体 で 使 用 す る こ と,つ ま り活 動 す る こ と 自体 で 喜 びを 感 じる と い う こ とで あ る と思 わ れ る。 この 意 味 で は宗 教 活 動 は重 要 な 意 味 を もつ と思 わ れ るが,マ ー シ ャル は,宗 教 を動 機 とす る人 々の 活 動 が 幸 福 に強 烈 な 影 響 を 与 え るが,こ の 影 響 は人 々 の 生 涯 にわ た って 直 接 的 に強 烈 な ま まで はな いの で 人 々の 幸 福 状 態 の 変 化 に は間 接 的 な 影 響 しか 与 え な い と(P航. 吻165,1)と. 述 べ て い る。 こ の こ とか ら,本 稿 で はわ れ わ れ は宗 教. 活 動 能 力 を 非 物 的 源 泉 の 考 察 か ら除 外 す る。 わ れ わ れ の 議 論 を よ り簡 単 化 す る た め で あ る(7>。 か くて,わ れ わ れ が 考 察 す る源 泉 は3つ とな る。 議 論 の 簡 単 化 と は いえ,い に見 え る宗 教 的 活 動 能 力 の 除 外 の 解 釈 は,実 は本 稿 の1-1で. くぶ ん 強 引. 検 討 す る 「生 活 水 準 」 に影 響. す る人 間 の3つ の 活 動 能 力 に符 合 させ る た め に行 っ た。 そ こで は,こ れ ら3つ の 活 動 能 力 は,「 知 性,活 力,自 尊 心 」 とな って い る。 さ らに わ れ わ れ は,本 稿 のZ2で. 指 摘 した よ う. に,人 間 の 活 動 能 力 と その 性 格 との 密 接 不 可 分 の 関 係 か ら,こ れ ら3つ の 活 動 能 力 は,肉 一35(105)一.
(14) 第6巻. 第2号. 体 的 性 格,精 神 的 知 的 性 格,道 徳 的 性 格 と見 な す こ とが で き る。 つ ま り,こ れ らの 活 動 能 力 の 段 階 的 変 化 の 観 点 か らは,こ れ ら3つ の 性 格 は その 高 級 化 の 第1段 階,第2段 して 第3段. 階,そ. 階 に 対 応 す る と,わ れ わ れ は見 な す の で あ る(8)。こ こで は,道 徳 的性 格 を 最 高. 級 で あ る第3段 階 と,わ れ わ れ は見 な す の で あ る。 それ ゆえ,わ れ わ れ は,幸 福 な い し貧 困 の 源 泉 を検 討 す る に先 立 って,マ ー シ ャル の 別 な 概 念 を先 に検 討 しな けれ ばな らな い。 な ぜ な ら,マ ー シ ャル に お いて 幸 福 な い し貧 困 を よ り直 接 的 に支 配 す るの は 「生 活 水 準 」 と 「安 楽 水 準 」 との2つ だ か らで あ る。 これ ら後 者 の2つ の 要 素 は,物 的富 と人 間 の性 格, つ ま り,幸 福 あ る い は貧 困 の 源 泉 に よ って 支 配 され る。 だ か ら,幸 福 な い し貧 困 の 変 化 か ら見 れ ば,物 的 富 と人 間 の 性 格 の 変 化 は,「 源 泉 」 と して の変 化 で あ って,「 生 活 水 準 」 の 変 化 や 「安 楽 水 準 」 の 変 化 に く らべ れ ば間 接 的 な の で あ る。 しか も,幸 福 な い し貧 困 の 源 泉 は物 的 と非 物 的 側 面 の 両 方 に お いて,マ ー シ ャル に お いて はマ ー シ ャル 独 自な 生 活 必 需 品 の 概 念 で あ る,生 産 効 率 必 需 品 お よ び その3つ の 段 階 の 用 途 と して 概 念 化 され て い るの で あ る。(こ の概 念 は本 稿 の2-3で. A6:次. 検 討 され る。). の検討課題. わ れ わ れ れ は こ の た め に,「 生 活 水 準 」(standardoflife)と ofcomfort)と. の 概 念,生. 「安 楽 水 準 」(standard. 産 効 率 必 需 品(necessariesforefficiency)の. 概念を人間の性. 格 の 概 念 よ り も 先 に 検 討 す べ き と 思 わ れ る 。 貧 困 と 幸 福 と の 概 念 の 対 置 的 性 質,そ. して 貧. 困 か ら幸 福 へ の 転 換 の 可 能 性 を マ ー シ ャ ル が ど の よ う に 考 え た か を 検 討 す る こ と か ら 始 め よ う 。 こ れ らの 検 討 の 後 で,わ. れ わ れ は,人. 間 の 性 格 の 中で そ の 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 が 最. 高 級 の 幸 福 の 達 成 に と って 肝 要 で あ る と マ ー シ ャル が 考 え て いた こ とを 示 す 予 定 で あ る。 しか も こ の と き に は,人. 間 の 行 動 の 動 機 が 卓 越(excellence)を. 求 め る欲 望 に変 化 し向 上. して い る こ と を も 示 す こ と が で き る 。 卓 越 を 動 機 と す る 活 動 は 人 間 の 活 動 能 力 を 最 高 級 に 導 くの で あ る 。(こ の こ と は 本 稿 の3-1で 本 稿 の0-2の. 段 落 の 最 後 で 示 し た,道. 明 ら か に す る 。) 徳 的 性 格 の 高 級 化 の 議 論 を こ こで 使 って 本 稿 の 議. 論 の 進 行 計 画 を 示 せ ば 次 の よ う に 表 現 で き る 。 「生 活 水 準 」,さ つ 人 間 の 肉 体 的 お よ び 精 神 的 活 動 能 力 は,本 す る 要 素 で あ る か ら,人. 稿 のZ2で. 示 し た よ う に,人. 間 の性 格 を 形 成. 間 の 性 格 の 高 級 化 と対 応 す る仕 方 で 変 化 す るを 考 え る こ とが で き. る 。 人 間 の 性 格 の 高 級 化 と は そ の 向 上 で あ っ て,よ る 。 他 方,そ. らにそ れ と密 接 な 関 係 を 持. の 低 級 化 と は,そ. り複 雑 に な っ た 統 合 の 段 階 を 形 成 す. の 悪 化 な い し低 下 で あ っ て,よ. を 形 成 す る 。 高 級 化 して も 低 級 化 して も,こ. り簡 単 に な っ た 統 合 の 段 階. れ ら は 連 続 的 で は あ る が,異. 一36(106)一. 質な段階を形成.
(15) マー シャルの進化論的経済学 にお ける人間の性格の検討(礒 川) す る よ う に変 化 す る。 人 間 の 活 動 能 力,そ. して そ の 性 格 の 高 級 化 な い し低 級 化,そ. れに. よ って も た らされ る人 間 活 動 の 高 級 化 な い し低 級 化 は,本 稿 で も っ と も重 要 な 論 理 的 道 具 で あ る。. 1.「 生 活 水 準 」 と 「安 楽 水 準 」 と の 対 置 的 性 質. Bl:マ. ー シ ャル の 経 済 進 歩 の 観 念 の 原 点. わ れ わ れ は,本 稿 の 実 質 的 な 議 論 を経 済 進 歩 に つ い て の マ ー シ ャル の観 念 か ら始 め よ う。 マ ー シ ャル は 「労 働者 階 級 の 将 来 」(Mαr8肋 〃-1873)と い う論 文 で,労 働 者 の あ りう べ き幸 福 な 将 来 を,労 働 者 が その 職 業 に よ って 「紳 士 」 の よ うな 人 間 的 性 格 で 活 動 で き る よ う に成 長 す る こ と に よ って 実 現 で き る可 能 性 を,次 の よ う に示 した 。 マ ー シ ャル は,当 時 の 未 熟 練 労 働 者 の 悲 惨 な 貧 困 状 態 の 原 因 を,第1に す る性 格 で あ る た め に無 知 で あ っ ただ けで な く,第2に. 増 加 した 所 得 を 即 時 的 な 快 楽 に浪 費 道 徳 的 に恥 ず べ き ほ ど に無 分 別 に. 結 婚 す る性 格 で あ って,こ の 結 果 で 生 じた急 速 な 人 口増 加 は,労 働 者 の 家 計 の 生 活 手 段 を 大 き く圧 迫 して,生 活 を 生 存 ぎ りぎ りに悪 化 させ て い る,と 強 調 して い る。 この た め に, 親 の 世 代 だ けで な く次 世 代 へ も,貧 困 が 持 続 す るの で あ る。 これ に対 して,こ の よ うな 労 働 者 の 幸 福 へ の 途 は,上 の2つ の 性 格 を,次 の よ う に変 更 す る こ とで あ る。 つ ま り,第1 に増 加 した所 得 を 肉体 的 精 神 的 活 動 を 向 上 させ る よ う に健 全 に使 用 す る意 識 を 持 つ 性 格 に 変 更 して,し か も,第2に. 次 世 代 を 担 う子 ど も た ちを 健 全 に養 育 し教 育 す るた めの 費 用 を. 準 備 で き る まで は結 婚 しな い と い う性 格 に変 更 す る こ とで あ る。 この 第1に 変 更 され る人 間 の 性 格 は,本 稿 のA5の. 定 義 を 参 照 す る と,肉 体 的 性 格 と精 神 的 知 的 性 格 と,第2に. 変. 更 され る性 格 は道 徳 的 性 格 と,見 な す こ とが で き る。 そ して,こ れ ら2つ の 変 更 は,こ れ らの 性 格 が 高 級 化 され る こ と に対 応 す る と見 な す こ とが で き る。 第1の 変 更 が 重 要 で あ る こ と は もち ろん で あ るが,経 済 進 歩 は次 世 代 の 人 々 まで 健 全 な 精 神 的 肉体 的 活 動 が 持 続 す る こ と を意 味 す る こ とか ら,現 世 代 の 両 親 が 次 世 代 を養 育 し教 育 す る費 用 を 準 備 す る こ と が で き る まで 結 婚 しな い こ とを 義 務 と して 意 識 す る よ う に変 化 す る こ とを,マ ー シ ャル は 経 済 進 歩 の 条 件 と して 特 に重 視 して い る。 つ ま り,人 間 の 道 徳 的 性 格 の 高 級 化 を もた らす 結 婚 を 自制 す る義 務 感 の 強 化 と,そ れ に よ って 準 備 され た費 用 に よ って,子 い知 識 を持 っ た健 全 な 大 人 に成 長 す るで あ ろ う。 この 成 長 に よ って,人 質 の 向上 を含 ん で,人. ど もた ち は広. 口増 加 は,人 間 の. 々の 生 活 を 向 上 させ る範 囲 内で 持 続 す る こ と にな ろ う。 この 持 続 に. お い て 経 済 進 歩 が 始 ま るで あ ろ う。 そ うす る と,現 世 代 だ けで な く次 世 代 に関 して も, -37(107)一.
(16) 第6巻. 第2号. 人 々の 生 産 効 率 が 向 上 す る共 に,人 々 は健 全 で 知 的 に賢 明 な 活 動 能 力 を も った 活 力 あ る生 活 を享 受 で き る こ と にな る。 この よ う に して,マ. ー シ ャル は,経 済 進 歩 が 「物 的 富 だ けで. な く精 神 的 富 を成 長 させ る」とい う。(わ れ わ れ は こ こ で精 神 的富 を人 間 の活 動 能 力,そ し て その 性 格 と解 釈 す る。)も し経 済 進 歩 が 開始 され た ら,「 す べ て の 社 会 階 層 」 が 一 斉 に上 の3つ の 性 格 で 高 級 化 して お り,物 的 に も知 的 精 神 的 に も豊 か な 生 活 を 享 受 す る こ と にな ろ う。 そ して,マ ー シ ャル は,こ の よ うに高 級 化 した性 格 の特 徴 を次 の よ うに述 べ て い る。 つ ま り,進 歩 の よ り後 の 世 代 にな る ほ ど,そ の 性 格 は,自 分 に と って 苦 労 の 多 い こ とで も 義 務 で あ って 回 避 しよ う と しな いで,よ. り大 きな 困 難 を 耐 え 忍 ぶ 能 力 とそ の 意 志 を 持 って. い る はず で あ る と(1晩 〃30磁15,114-5)。 この こ とは,経 済 進 歩 が も し持 続 で き る と仮 定 す れ ば,次 の よ う に人 間 の 性 格 が 高 級 化 す る と マ ー シ ャル が1873年 の 時 点 で 考 え て いた こ と を示 唆 す る。 す な わ ち,こ の 持 続 に は,道 徳 的 性 格 が 他 の2つ の 性 格 よ りも大 きな 程 度 で 高 級 化 す る必 要 が あ る と。 しか し,こ の 時 点 で マ ー シ ャル が こ こで 展 開 した経 済 進 歩 の 観 念 が そ の 可 能 性 を 示 した だ けで あ る こ と を,す べ て の 社 会 階 層 の 性 格 が 一 斉 に高 級 化 す る と い う上 の 指 摘 か ら,わ れ わ れ は看 取 で き る。 そ こで,わ れ わ れ は この 経 済 進 歩 の 観 念 を,マ ー シ ャル の 経 済 進 歩 の 考 え の 原 点,と 理 解 す る こ とが 適 切 で あ る と思 わ れ る。 つ ま り,『 原 理 』 で の経 済 進 歩 の 考 え は本 質 的 に は これ と 同 じで あ り,「原 理 』 で の議 論 は そ の メ カ ニ ズ ム を 「生 活 水 準 」 や 「安 楽 水 準 」 の 概 念 を使 って 詳 細 に明 らか に したの で あ る。 経 済 進 歩 の この 観 念 を 本 稿 の この 部 分 で 取 り上 げ たの に は,も う一一 つ 理 由が あ る。 それ は,マ ー シ ャル は 「産 業 経 済 学 』(1879年 初 版)の. 「快 適 水 準 」(9)の 定 義 で,子. ど もを育 て る準 備 が で き る まで 結 婚 しな. い こ と を,道 徳 的 要 素 と して 定 義 して い るか らで あ る。 この こ と は,経 済 進 歩 の 観 念 で は 1873年 か ら1879年 まで は マ ー シ ャル の考 え が 大 き く変 化 して いな い こ とを 示 す と共 に, 『原 理 』 で の 議 論 で は経 済 進 歩 の 具 体 的 プ ロセ ス の 説 明 で は か な り変 化 して い る こ とを 示 唆 して い る の で あ る。 い ず れ に して も,は っ き り して い る こ と は,経 済 進 歩 は,人 間 に と って 肉体 的 に も精 神 的 に も,そ. して 道 徳 的 に も望 ま しい こ とで あ り,こ れ と対 置 的 に,. 経 済 退 歩 は貧 困 を も た ら して 望 ま し くな い こ とで あ る。 この 意 味 を 込 めて,わ れ わ れ は本 稿 で の 議 論 で は,経 済 進 歩 の 局 面 と は,人 々が 幸 福 な 状 態 に あ り,そ れ が 持 続 す る こ とで あ る と見 なす 。 これ に対 して,経 済 退 歩 の 局 面 は,人 々が 貧 困 な 状 態 に あ り,そ れ が 持 続 す る こ とで あ る と見 な す 。 マ ー シ ャル は,経 済 進 歩 の 出発 点 と して 貧 困 の 絶 滅 を 目 ざ して 彼 の 経 済 学 の 体 系 を 構 築 した と いわ れ て い る。 貧 困 の 絶 滅 と い って も,貧 困 者 を 豊 か な 生 活 環 境 に強 制 的 に移 動 さ 一38(108)一.
(17) マ ー シ ャル の 進 化 論 的 経 済 学 にお け る人 間 の 性 格 の 検 討(礒 川) せ れ ば,貧. 困 者 が 豊 か に な る の で は な く,上. 間 の 性 格 が 変 更 さ れ な け れ ば な ら な い(Pr加. の1873年 吻185,3)。. 性 格 の 変 更 の 努 力 を た だ む や み に 人 間 が 行 え ば,ま る の で あ ろ う か?わ. の 論 文 で 指 摘 さ れ て い る よ う に,人 し か し,貧. 困の絶滅のための人間. った く自動 的 に幸 福 の 実 現 に到 達 で き. れ わ れ は マ ー シ ャ ル の 答 え が 否 定 で あ る こ と を 本 稿 の0-1と0-2. で す で に 示 唆 し た が,こ. の こ と を 次 の よ う に,「 安 楽 水 準 」(standardofcomfort)と. 「生 活 水 準 」(standardoflife)の. 二 つ の 概 念 を 使 っ て 指 摘 し よ う。 マ ー シ ャル の 経 済 進. 歩 の 議 論 に 関 して ほ と ん ど の マ ー シ ャ ル 研 究 者 が 第 一 に 注 目 す べ き 概 念 が 概 念 で あ り,こ. の 向 上 な く して は 貧 困 の 根 絶 は な い の で あ る 。 そ して,貧. 「生 活 水 準 」 の 困 の 絶 滅 と は,. 「生 活 水 準 」 の 向 上 を 必 要 と す る 限 り で,貧 困 と は 対 置 的 状 況 で あ る 幸 福 へ 向 か う 道 で も あ ろ う 。 逆 に,幸. 福 な 状 態 で あ っ て も,「 生 活 水 準 」 を 低 下 さ せ る 変 化 が 続 け ば,貧. 困 に向. か う 可 能 性 も あ ろ う 。 つ ま り,わ れ わ れ が 貧 困 と幸 福 を 対 置 的 概 念 と 見 な す の は,「 生 活 水 準 」 が 向 上 す れ ば 幸 福 に,こ. の 水 準 が 低 下 す れ ば 貧 困 に 向 か う の だ か ら で あ る。 だ が,. マ ー シ ャ ル は,「 安 楽 水 準 」 の 概 念 を 持 つ 。 「生 活 水 準 」 の 向 上 か 低 下 が,幸 困 へ の 途 と の 切 り替 え ス イ ッ チ で あ る と して も,こ に ス イ ッ チ を 切 り替 え た ら,明 で の生 活 の改 善 が. の 切 り替 え は,今. 福 へ の 途 と貧. 日か ら貧 困 か ら幸 福. 日か らは幸 福 と い うわ け に は いか な いの で あ る。 貧 困 状 態. 「生 活 水 準 」 を 向 上 さ せ な い で 「安 楽 水 準 」 だ け を 改 善 す る こ と は,. 人 々 を 幸 福 に 向 か わ せ る 途 で は な く貧 困 に 向 か わ せ る 途 な の で あ る 。 こ れ ら の こ と を マ ー シ ャル の 議 論 で 確 か め る こ と に しよ う。. 1-1「. 生 活 水 準 」 と 「安 楽 水 準 」⑩ の 定 義. ま ず,「 生 活 水 準 」(standardoflife)と. は,人. 間 の 欲 求 に 対 し て 適 合 した 人 間 の 活 動. 水 準 を 意 味 し て い る 。 だ か ら,こ. の 水 準 の 向 上 は 人 々 の 活 動 能 力 を 構 成 す る 「知 性. (intelligence),活. し て 自尊 心(self-respect)」. の. 力(energy),そ. 「支 出 に お い て 注 意 力 と 判 断 力 の 強 化 を 導 き,体. さ せ な い 飲 食 を 回 避 さ せ,肉 くの で あ る 」(Pr'ηcψ16&689)。. の 高 級 化 を 意 味 し,所. 得. 力 を 強 くす る こ と の な い 欲 望 しか 満 足. 体 的 に も道 徳 的 に も不 健 全 な 生 活 様 式 を回 避 させ る こ と に導 した が っ て,本. 稿 のZ2の. 議 論 とA5で. 示 し た 分 類 か ら見. れ ば,「 活 力 」 が 肉 体 的 性 格 を 形 成 す る 肉 体 的 活 動 能 力,「 知 性 」 が 精 神 的 知 的 性 格 を 形 成 す る 精 神 的 知 的 活 動 能 力,そ 対 応 す る。 も しも国 民 全 体 の れ る だ け で な く,国. して. 「自 尊 心 」 が 道 徳 的 性 格 を 形 成 す る 道 徳 的 活 動 能 力,に. 「生 活 水 準 」 が 向 上 す れ ば,国. 民 分 配 分 が 大 き く増 加 さ せ ら. 民 の す べ て の 階 層 の 分 け 前 も 大 き く増 加 す る 。 つ ま り,各. 生 産 効 率 も大 き く上 昇 し,そ. の 所 得 だ け で な く知 性,活 一39(109)一. 力,そ. 産業階層の. して 自 尊 心 と い う 人 間 の 活.
(18) 第6巻. 第2号. 動 能 力 も 高 級 化 す る の で あ る。 だ か ら,「 生 活 水 準 」 の 向 上 が 連 続 す れ ば,国. 民 が よ り豊. か に な る 状 態 が 連 鎖 す る こ と に な る 。 他 方,「 安 楽 水 準 」(standardofcomfort)と マ ー シ ャ ル に よ れ ば,ま ず,人 性,活. 力,そ. は,. 間 の 活 動 水 準 で は な く,欲 求 の 水 準 で し か な い 。 そ れ は 「知. して 自 尊 心 」 の 向 上 を 意 味 しな い で 単 な る 自 己 満 足 の た め に 行 わ れ る 人 為 的. な 欲 求 の 増 加 で しか な い 。 し た が っ て,こ しな い の で あ る 。 本 稿 のA4で. の 水 準 の 改 善 は,人. 示 した よ う に,人. 化 す る 。 活 動 の 停 止 が 持 続 す れ ば,人. 間の活動能力の行使を意味. 間 の 活 動 能 力 は 行 使 さ れ な け れ ば,低. 級. 間 はや が て 貧 困 な 状 態 に陥 るで あ ろ う。 この よ う に. マ ー シ ャ ル は,「 生 活 水 準 」 の 概 念 を,所. 得 と い う物 的 源 泉 と,「 知 性,活. 力,そ. して 自 尊. 心 」 と い う非 物 的 源 泉 か ら形 成 さ れ て い る と 考 え て い る 。 も ち ろ ん,「 安 楽 水 準 」 も こ れ ら二 つ の 源 泉 か ら形 成 さ れ る と 彼 が 考 え て い る こ と は,い シ ャル が. 「生 活 水 準 」 の 向 上 が 人 々 を 幸 福 に,そ. ー. の 低 下 が 貧 困 に導 くこ と と考 え て い る こ. と は 推 論 で き る 。 しか し,「 安 楽 水 準 」 の 向 上 は,上 りれ ば,人. う ま で も な い 。 以 上 か ら,マ. の マ ー シ ャル の 引 用 に あ る言 葉 を 借. 々 に 「体 力 を 強 くす る こ と の な い 欲 望 し か 満 足 さ せ な い 飲 食 」 を さ せ,「 肉 体. 的 に も 道 徳 的 に も 不 健 全 な 生 活 様 式 」 に 導 くの で あ る 。 人 間 の 性 格 が 低 級 化 あ る い は 悪 化 す る の で あ る 。 そ の 結 末 が 貧 困 に 導 か れ る で あ ろ う こ と は,容 に,マ. ー シ ャ ル は,人. 易 に推 論 で き る。 この よ う. 々 を 幸 福 に 導 く途 を 一 つ だ け 指 摘 す る の に 対 して,貧. 二 つ 指 摘 し て い る と お も わ れ る 。 そ こ で,わ. 困 に 導 く途 を. れ わ れ の 推 論 を 確 認 す る べ く,「 生 活 水 準 」. と 「安 楽 水 準 」 と の 関 係 を マ ー シ ャ ル が ど の よ う に 規 定 して い る か を 詳 し く検 討 し よ う 。. 1-2人. 間性 格 の悪 化 の事 例1:馬. や奴 隷 の養 育 ・訓 練. 「生 活水 準 」 と 「安 楽 水 準 」 とは,人. 口の 増 加 が幸 福 な 状 態 か貧 困 な 状 態 か の い ず れ か. で 持 続 す るの か を 知 らせ る指 標 と見 な す こ とが で き る。 これ に関 して マ ー シ ャル は,家 庭 の 支 出が 人 間 で あ る家 族 を 馬 や 奴 隷 の ご と くに養 育 し訓 練 す るの と 同一 原 理 で 行 わ れ る場 合 と,欲 求 の み の 実 現 を 追 求 して 安 楽 水 準 の 改 善 の た め に行 わ れ る場 合(Pr'ηc∫1フZ63,691) を対 比 して,次 の よ う に述 べ る。 他 の 事 情 に して 等 しけれ ば,も. し 「安 楽 水 準 」 が 生 存 に. 必 要 な水 準 に加 え て 生 産 効 率 の 維 持 ・改 善 に必 要 な 水 準 よ りも少 しで も高 い場 合 で も,つ ま り,人 々の 生 活 状 態 が 生 存 ぎ りぎ りの 水 準 よ りもか な り高 い場 合 で も,人 口の 増 加 は, 家 庭 の 支 出 が 後 者 の 「安 楽 水 準 」 の 改 善 に 向 け られ る場 合 の 方 が,前 者 の 馬 や 奴 隷 の 養 育 ・訓 練 の よ う な仕 方 で行 使 さ れ る場 合 よ り も,早. く停 止 す る。 人 口増 加 の この 議 論 を. マ ー シ ャル が,馬 や 奴 隷 の 養 育 の 事 例 を こ こで 取 り上 げて い る こ と に注 意 しな が ら,説 明 す る と しよ う。 マー シ ャル に お いて 「安 楽 水 準 」 の 改 善 に人 々の 支 出が 使 わ れ た と い う こ 一40(110)一.
(19) マー シャルの進化論的経済学 にお ける人間の性格の検討(礒 川) と は,上 の よ うに 「安 楽 水 準 」が か な り高 い生 活 状 態 を人 々 に可 能 にす る高 さ だ と して も, この 支 出 は,第1に,生. 存 水 準 を 改 善 す る た め に も,第2に. 生 産 効 率 の 維 持 ・改 善 の た め. に も使 わ れ な いの で あ る(Pr∫η吻165,691)。 「安 楽 水 準 」 の改 善 に使 われ る支 出 は,人 間 の 欲 求 を よ り多 くす るだ けで,大. き くな っ た欲 求 にふ さわ しい活 動 を,そ の た め に必 要 な 活. 動 能 力 を成 長 させ な い ど こ ろか,こ の 能 力 を遂 行 す る意 欲 を 衰 退 させ る。 も し生 存 ぎ りぎ りの 生 活 を して い る人 で あ っ た と した ら,単 に 自分 の 欲 しい もの を いた ず ら に浪 費 す るだ けで,よ. り大 き くな っ た欲 求 の 満 足 の 実 現 手 段 を よ り多 く獲 得 す る にふ さわ しい活 動 を し. な いの で あ る。 その 帰 結 は,次 第 に強 くな る満 足 実 現 手 段 の 不 足 で あ り,貧 困 は悪 化 す る で あ ろ う。 ま して や,よ. り豊 か な 人 で も欲 求 の 拡 大 は容 易 で は あ るが,そ の 満 足 の 手 段 の. よ り多 くの 獲 得 は通 常 で は困 難 で あ る。 その た め に は特 別 の 努 力 を 必 要 とす る。 しか し, 「安 楽 水 準 」の た め の支 出 は こ の努 力 に何 も貢 献 しな い。 こ の結 果,こ の た めの 支 出の み を 人 々が 続 けて い た ら,人 間 の 質 の 低 下 はや が て,人. 口の 増 加 を も停 止 す る こ と にな るで あ. ろ う。 こ の よ う に,「 安 楽 水 準」 の 改 善 は,人 々 が豊 か に な って い る よ う に見 え るが,実 は貧 困 へ の 道 に繋 が って い るの で あ る。 この 側 面 を 強 調 す る た め に,マ ー シ ャル は,馬 や 奴 隷 の 養 育 の 事 例 を こ こで 取 り扱 った の で あ る。 馬 や 奴 隷 は,た. しか に生 命 を も って い るが,マ ー シ ャル は こ こで は物 的 生 産 要. 因 の ご と く見 な して い るの で あ る。 本 稿 の0-1で. 示 した よ うに,経 済 変 化 は物 的 要 因 と非. 物 的 要 因 に依 存 す るが,物 的 生 産 要 因 は人 間 が 改 善 しな い限 り変 化 は しな い。 しか し,人 間 は活 動 環 境 の 変 化 と と も に変 化 す るの で あ る。 その 環 境 の 変 化 が 「安 楽 水 準 」 の 改 善 の み を もた らす と き,人 間 は貧 困 の 生 活 に 適 応 す る よ うに 変 化 す る傾 向 を 持 つ の で あ る。 マ ー シ ャル は こ の変 化 の実 例 と して奴 隷 の行 動 を例 示 して い る(1)r'ηc∫P183,691)。俊 敏 で 賢 明 な 奴 隷 所 有 者 は,一 瞬 で も奴 隷 を 浪 費 した くな いた め に奴 隷 所 有 者 の 費 用 で,病 気 の 時 に は薬 を 与 え,元 気 の な い時 に は音 楽 な どの 娯 楽 を 与 え た と しよ う。 も しこれ が 持 続 す れ ば,奴 隷 は この 経 験 か ら学 習 す るで あ ろ う。 そ して,も. し奴 隷 が 自分 の 欲 求 が 実 現 され. るの だ と 自覚 しか れ の 「安 楽 水 準 」 が 向 上 した 結 果,彼 の 欲 求 が 巨大 にな り彼 を 処 罰 や 死 の 恐 怖 で も って して も,奴 隷 所 有 者 は彼 を 働 か せ る こ とが で きな くな った と しよ う。 奴 隷 は その 性 格 を変 化 させ たの で あ る。 この 帰 結 と して,奴 隷 所 有 者 は高 価 な 安 楽 品 な どを 彼 に与 え て 働 いて も らうか,そ れ と も彼 を 奴 隷 を して は消 滅 させ る こ と にな るで あ ろ う。 つ ま り,奴 隷 が 稼 ぎ 出す 収 入 に く らべ て,そ の 所 有 者 が 投 下 しな けれ ばな らな い費 用 が 多 く な りす ぎ たの で あ る。 これ は ち ょう ど,馬 が そ の 飼 育 費 用 を 稼 ぎ 出 さな くな った と き,利 用 が 消 滅 す るの と類 似 して い る。 要 す る に,マ ー シ ャル は次 の よ う に考 え た 。 す な わ ち, -41(111)一.
関連したドキュメント
(2) (2) 内在的性質< 内在的性質< KCN KCN である>は、他の である>は、他の
この小論の目的は,戦間期イギリスにおける経済政策形成に及ぼしたケイ
Keywords: homology representation, permutation module, Andre permutations, simsun permutation, tangent and Genocchi
Standard domino tableaux have already been considered by many authors [33], [6], [34], [8], [1], but, to the best of our knowledge, the expression of the
H ernández , Positive and free boundary solutions to singular nonlinear elliptic problems with absorption; An overview and open problems, in: Proceedings of the Variational
Keywords: Convex order ; Fréchet distribution ; Median ; Mittag-Leffler distribution ; Mittag- Leffler function ; Stable distribution ; Stochastic order.. AMS MSC 2010: Primary 60E05
Inside this class, we identify a new subclass of Liouvillian integrable systems, under suitable conditions such Liouvillian integrable systems can have at most one limit cycle, and
Applications of msets in Logic Programming languages is found to over- come “computational inefficiency” inherent in otherwise situation, especially in solving a sweep of