1)フェリス女学院大学国際交流学部,〒 245-8650 神奈川県横浜市泉区緑園 4-5-3 2)プレマ株式会社,〒 604-8331 京都府京都市中京区御供町 308 3)公益社団法人日本環境教育フォーラム,〒 116-0013 東京都荒川区西日暮里 5-38-5 日能研ビル 4)公益財団法人国際緑化推進センター,〒 112-0004 東京都文京区後楽 1-7-12 林友ビル * 連絡責任者:[email protected] [研究ノート]
インドネシア産サトウヤシ砂糖の化学的組成と GI 値の特徴
佐藤 輝1, *)・久野真希子2)・矢田 誠3)・仲摩栄一郎4)Characteristics of chemical components and glycemic index value of the palm
sugar of Arenga pinnata from Indonesia.
Akira SATO 1, *), Makiko KUNO 2), Makoto YATA 3) and Eiichiro NAKAMA 4) 摘 要 持続的な森林保全にむけて重要な非木材林産物としてサトウヤシ(Arenga pinnata)砂糖をインドネシ アから日本にフェアトレードで輸入するにあたり,この有効成分や安全性について測定した。様々な化 学的組成分析の結果(砂糖 100 g あたり),水溶性ビタミンのうち,特にナイアシン(3.27 mg)と葉酸 (41 μg)が黒砂糖と比べても多く含まれていた。また,ビタミン様物質のイノシトール(239 mg)と色 素・苦味成分のポリフェノール(300 mg)も比較的高いことが明らかとなった。一方,食後の血糖値の 上昇度を示す指標である glycemic index 値(平均±標準偏差,n =12)は 66 ± 17 となり,白砂糖のそ れ 70 ± 35 との有意差がなく,中 GI 食品と分類された。安全性については,大腸菌群,一般生菌数,カ ビ,芽胞数はすべて日本の食品衛生基準値以下であり,残留農薬(245 化合物)とアフラトキシン類は 不検出,重金属の鉛,ヒ素,総水銀,カドミウムも不検出だった。以上から,サトウヤシ砂糖はナイア シン,葉酸,イノシトールおよびポリフェノールの含有を特長とした高付加価値商品として展開できる と評価した。 キーワード:ヤシ砂糖,葉酸,食品衛生基準,中 GI 食品
Key words:Palm sugar, Folic acid, Food sanitation standards, Medium GI food
1.はじめに インドネシアにおける非木材林産物(non-timber forest products,以下では NTFPs と略す)の果 物,薬草,香辛料,繊維,染料等の利用は,熱帯 林の保全と農家の生計向上の両立の観点から持続 可能な森林経営にとって最優先事項の一つである (例えば,渡辺,2007)。サトウヤシ(Arenga pinnata) は東南アジアを原産とするヤシ科クロツグ属の常 緑高木であり,インドネシア林業大臣決定 2007 年 35 号においても有望な NTFP として位置づけら れている。この花序液(山本ら,2013)を煮詰め て作られる砂糖の販売収入は,アグロフォレスト リーとして森林管理を実践する地域住民のインセ ンティブ向上効果が期待できる(JIFPRO,2017)。 花序液から砂糖が採れるヤシのうち,これまで にココヤシ,オウギヤシおよびサトウヤシ由来の 砂糖の成分に関して,糖類の組成(Tomomatsu et al., 1996),有機酸・アミノ酸の組成(仲宗根,2004) の報告がある。筆者らは,NTFPs の利用促進支援
2.材料と方法 供試したサトウヤシ砂糖は,非営利活動法人 Agenkultur(所在地:ジャカルタ)の販売する商 品 Enau を用いた。この製品は粉末状のため,製菓 材料等としてすぐに使用でき,従来の 200 g 程度の 固形のものより利便性が高い。佐藤ら(2018)の現 地調査のとおり,西ジャワ州チアンジュール県内で 伝統的な方法(佐藤,1959)で生産され,品質は 安定しているため,生産ロット間の成分のばらつき は小さいと考えられた(ファンケル,2012)。また 出荷量が十分に確保されており,自然・有機食品 を扱うプレマ株式会社が同法人から公正な価格で 仕入れて,日本で業務用販売を開始している。 遊離アミノ酸(18 種類)はおもにアミノ酸自動 分析法によって,ミネラル類は原子吸光光度法と 誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)計によって, また糖類は液体クロマトグラフ法によって測定し た。ビタミン類は液体クロマトグラフ法と微生物定 量法1)を用いて定量した。ポリフェノールはフォー リン・デニス法で測定した。安全性に関しては,微 生物検査は食品衛生検査指針によって,また残留 農薬一斉分析(245 化合物)はガスクロマトグラ フィー・タンデム質量分析(GC/MS/MS)法で, 重金属類は原子吸光光度法で,代表的なカビ毒の アフラトキシン類2)は液体クロマトグラフィー・タ ンデム質量分析(LC/MS/MS)法で測定した。以 上の方法は公定法(消費者庁,2015)に基づいて おり,北陸環境科学研究所(福井県)もしくは日本 食品分析センター(東京都)に分析を依頼した。結 果の単位は砂糖の乾燥重量あたりで示した。 GI 値の測定では,本試験に対する文書同意の得 られた日本人健康成人 12 人(糖尿病ではない男性 6 名,女性 6 名.併用薬名とその投与量・期間と使 用理由等を把握)を対象とし,インクロム CRO 株 式会社(大阪府)において 2016 年 9 月~10 月にク ロスオーバー法による非盲検無作為化比較試験を 実施した。この試験は医療法人平心会・大阪治験 病院の治験審査委員会で承認された(臨床研究計 画番号:972)。試験食としては,①標準食:グル コース(トレーラン G 液を 150 mL),②被験食(サ トウヤシ砂糖),③対照食(白砂糖:三井製糖社製) の 3 種類とし,被験食先行群(男女 3 名ずつ)と のフェアトレードをめざしてインドネシアのサト ウヤシ砂糖を用いた商品開発に着手し,飲料や菓 子等の原材料として味覚の面で十分に魅力がある ことを確認した(JEEF, 2014;佐藤ら,2018)。一 方,ビタミン類やミネラル類,あるいは微生物検 査,残留農薬分析等の報告例はほとんど入手でき ず,販売促進・営業活動の際に,有効成分や安全 性について情報が不十分であることが課題の一つ となっている。 さまざまな食品について食後の血糖値の上昇度 を示す指標として glycemic index (以下 GI と略 す)がある。一般にヤシ砂糖は,GI 値が白砂糖に 比べて低く,糖尿病予防に効果があると多くの該 当 web サイトで宣伝されている。GI 値は,低(55 以下),中(56–69),高(70 以上) に分類されて いるが,ヤシ砂糖が低 GI であるという根拠は, フィリピンにおける炭水化物食品の GI 値に関す る文献(Trinidad et al., 2010)からココヤシ砂糖 の GI 値 35 を引用したものがほとんどであった。 しかし,ヤシ砂糖は低 GI ではないという報告,例 えばタイ産のココヤシ砂糖 65 とオウギヤシ砂糖 64(Srikaeo and Thongta, 2015),カンボジア産の オウギヤシ砂糖 62(ファンケル,2012),サトウ ヤシ砂糖 68(Afman, 2012,原産国は不明)も存 在した。今後,さらなる商品化をめざすうえでイ ンドネシア産のサトウヤシ砂糖の GI 値およびそ のほか健康に効果のあるとされる成分や安全性に ついて信頼性の高い情報を得ることは必要不可欠 と考えられる。 そこで,本研究では,実際に日本に輸入するサ トウヤシ砂糖の成分分析と GI 値測定臨床試験を 実施した。ビタミン類やミネラル類の濃度等とと もに,危険物質の含有がみられないことを証明で きるデータを収集することを本研究の目的とし た。著者らの知る限り,本報告のサトウヤシ砂糖 をヒトに投与した GI 値測定は,米国国立医学図 書館のデータベースに投稿された事例(Afman, 2012)に次いで 2 例目と考えられる。ただし,こ の結果の信頼性は投稿者に委ねられており,サト ウヤシ砂糖の GI 値以外の分析値は記載されてい なかった。
対照食先行群(男女 3 名ずつ)に分けた摂取方法 は表 1 のとおりである。前提として全被験者の標 準食による血糖上昇曲線下面積の標準値は,2016 年 9 月 5 日と 12 日の計 2 回の試験から得られた。 全被験者の平均値(最小値–最大値)は年齢 26 歳 (21–31 歳),身長 164 cm(152–178 cm),体重 56 kg(49–69 kg),BMI 値 21(20–22)だった。実 施期間中,有害事象の該当被験者はいなかった。血 糖値(慣例的に単位を mg dL–1で表記)の測定は, 試験食摂取の直前(0 分),15 分,30 分,45 分, 60 分,90 分,120 分後におこなった。被験食ある いは対照食の GI 値は,「被験食あるいは対照食の 血糖上昇曲線下面積 ÷ 2 回の標準食の血糖上昇 曲線下面積の平均× 100」より算出した。 3.結果と考察 以下のサトウヤシ砂糖の基礎成分,アミノ酸, ミネラル類,糖類,ビタミン類については 100 g あたりの数値を示した。基礎成分は,エネルギー 380 kcal,水分 2.2 g,たんぱく質 1.9 g,脂質 0.1 g 未満,糖質 92.4 g,食物繊維 1.3 g,灰分 2.2 g,食 塩相当量 0.02 g だった。アミノ酸組成では,アス パラギン酸(44 mg),グルタミン酸(11 mg)の 濃度が高く,その他は 1~7 mg を含有し,仲宗根 (2004)で供試されたインドネシア西ジャワ州スカ ブミ県産のサトウヤシ砂糖の分析結果と同様の傾 向を示した。 一般的なミネラル類では,消費者ニーズが高く, 健康機能を有するとされるカルシウム(5 mg),鉄 (2.0 mg),マグネシウム(37 mg)等の濃度は高 くなかった。ただし,白砂糖のこれらの値3)(カ ルシウム 1 mg,鉄 Trace,マグネシウム Trace) に比べれば明らかに多く含まれていた。糖類の組 成では,グルコース 0.9 g,フルクトース 0.9 g,ス クロース 81.8 g 等となった。このスクロース含有 量は,仲宗根(2004)のサトウヤシ砂糖の 72.1 g と類似していた。 表 2 のとおり,ビタミン類では水溶性のビタミ 表 1 サトウヤシ砂糖の GI 値測定のための摂食方法の概要 投与群 人数 第Ⅰ期(2016 年 9 月 26 日) 第Ⅱ期(2016 年 10 月 3 日) 被験食先行群 6 名 炭水化物含有量 50 g に相当するヤシ砂糖を 150 mL の水 に溶解し摂取 炭水化物含有量 50 g に相当 する白砂糖を 150 mL の水に 溶解し摂取 対照食先行群 6 名 炭水化物含有量 50 g に相当する白砂糖を 150 mL の水に 溶解し摂取 炭水化物含有量 50 g に相当 するヤシ砂糖を 150 mL の水 に溶解し摂取 表 2 サトウヤシ砂糖の化学的組成(特徴的な成分のみ抜粋) 分類 成分(単位) 結果 表示基準値※ 1 高い旨 含む旨 水溶性ビタミン ビタミン B1 (mg 100 g–1) 検出せず 0.3 0.15 ビタミン B6 (mg 100 g–1) 0.021 0.3 0.15 ビタミン B12 (μg 100g–1) 検出せず 0.6 0.3 ナイアシン (mg 100 g–1) 3.27 3.3 1.7 葉酸 (μg 100 g–1) 41 60 30 ビタミン様物質 イノシトール (mg 100 g–1) 239 比較的高い※ 2 色素や苦味成分 ポリフェノール (mg 100 g–1) 300 比較的高い※ 3 ※ 1栄養成分の補給ができる旨の表示(消費者庁,2014) ※ 2ビタミン様物質に分類されるため表示基準なし。 ※ 3任意表示のため表示基準なし。
ン B1 と B12 は検出されず(それぞれ検出限界値 は 0.01 mg 100 g–1と 0.03 μg 100g–1),ビタミン B6 もごく微量だった。この結果は,ビタミン B 類の 含有を特長として欧米で普及しているインド産パ ルミラヤシ砂糖(SugaVida, 2018)と差異が認めら れたが,その諸要因は不明である。一方,健康効 果の期待できる水溶性ビタミン(厚生労働省, 2014)のうち,ナイアシン4)が 3.27 mg(黒砂糖3) の 0.8 mg の約 4 倍),葉酸5)が 41 μg(黒砂糖3)の 10 μg の約 4 倍)と特に高いことが判明した(表 2)。また,イノシトールとポリフェノールも比較 的高いことが明らかとなった。 安全性については,大腸菌群は MPN 法で陰性, 一般生菌数は 300 CFU 以下 g–1,カビは 10 CFU 以下 g–1,芽胞数は 300 CFU 以下 g–1,残留農薬は すべて不検出(検出限界値 0.01 mg kg–1),アフラ トキシン類は不検出(検出限界値 1.0 μg kg–1),重 金属の鉛,ヒ素,総水銀,カドミウムは不検出(そ れぞれの検出限界値は 0.2 mg kg–1, 0.05 mg kg–1, 0.01 mg kg–1, 0.02 mg kg–1)であった。これらの 結果から,日本の食品衛生基準上でも問題のない 安全性が確保されていることが確認された。 表 1 の第Ⅰ期と第Ⅱ期における両投与群の血糖 値上昇曲線を図 1 に示した。両期をあわせて算出 した GI 値はサトウヤシ砂糖で平均 66(標準偏差 17),白砂糖で平均 70(同 35)となり,有意な差 は認められなかった。今回の試験ではサトウヤシ 砂糖は「低 GI」とは言えず,上述の先行研究の 62 ~68 とも同等の「中 GI」であることが明らかと なった。なお,この白砂糖の GI 値は,信頼でき る合計205報のデータを取りまとめたAtkinson et al.(2008)の砂糖(スクロース)の 65 ± 4(平均 値±標準偏差)と同等の値であった。 Trinidad et al.(2010)の報告では,Atkinson et al.(2008)に記載の同じ食品名であっても GI 値 がポテト(ゆで)で 45%低かったり,リンゴで 17%高かったりしており,ココヤシ砂糖の GI 値 35 にも測定上の何らかの支障があったのかもし れない。また,このココヤシ砂糖の糖類の組成 (100 g あたり)としてフルクトース含有量が 44.7 g とだけ付記されており,値の妥当性に疑問が 残った。なぜなら仲宗根(2004)によるココヤシ 砂糖 3 種ではスクロース含有量のほうが 68.3~ 89.1 g と 大 半 を 占 め た か ら で あ る。 た だ し, Tomomatsu et al.(1996)の実験では,サトウヤ シの花序液を 30℃で 16 時間培養した時点で,混 在微生物の作用によってスクロースのほとんどが グルコースやフルクトースに加水分解されたとい う結果もあるため,混在微生物の種類や花序液の 採取時間の長さによっては製品の糖類の組成が著 しく変化する可能性もあると考えられた。 最後に,サトウヤシ砂糖の健康面からのプロ モーションに関して,表 2 のとおりナイアシン, 葉酸,イノシトールおよびポリフェノールの含有 を特長とした高付加価値商品として,消費者(お もに富裕層)ならびに製菓等の食品製造・販売企 業へ訴求していくこと(佐藤ら,2018)を検討し たい。なお,その際は平成 3 年にスタートし,平 成27年4月に改定された保健機能食品制度に留意 図 1 サトウヤシ砂糖の GI 値測定の第Ⅰ期(上) と第Ⅱ期(下)における被験食先行群 6 名 と対照食先行群 6 名の血糖値の変化.それ ぞれのシンボルは平均値を,縦線の幅は標 準偏差をあらわす.
しなければいけない。本制度の下では,一般的な 加工食品が健康効果を謳うためには「特定保健用 食品(特保)」,「栄養機能食品」または「機能性食 品」の表示認可を消費者庁から取得する必要があ る。本研究の結果から判断すると,サトウヤシ砂 糖は,特保と栄養機能食品よりも健康効果の表示 が限定的な機能性食品に分類される可能性が高 い。ただし,とりわけ葉酸は消費者庁の表示基準 では「胎児の正常な発育に寄与する栄養素」と認 定されている。サトウヤシ砂糖のみから一人あた り一日の葉酸摂取推奨量(成人 240 μg. 妊娠を計 画している女性,または妊娠の可能性がある女性 では 400 μg.厚生労働省,2014)を摂取するのは 難しいとしても,20~40 代の女性を中心に好印象 を与えることが期待できるだろう。 謝辞 本研究は林野庁補助事業「平成 28 年度 途上国 持続可能な森林経営推進事業 対象産品番号③,対 象産品名 ヤシ砂糖(サトウヤシ)」の一環として 行 わ れ た。 イ ン ド ネ シ ア の 非 営 利 活 動 法 人 Agenkultur の代表 Rizky 氏にはサトウヤシ砂糖 の提供を快諾いただいた。ここに記して心から感 謝の意を表する。今回の成分結果について特許取 得の予定はなく,著者らとプレマ株式会社とのあ いだの謝礼の授受は一切ない。 注 1 )Lactobacillus 属等の菌株を使用。 2 )B1, B2, G1, G2 および総量を検査。 3 )日本食品標準成分表 2015 年版(七訂)を参照。 4 )皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 5 )貧血の予防,および胎児の正常な発育に寄与する。 引用文献
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