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腰椎手術を受けた高齢者における退院後の転倒・転落についての実態調査

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研 究 報 告

腰椎手術を受けた高齢者における退院後の

転倒・転落についての実態調査

Risk of falls after hospital discharge in elderly patients who underwent lumbar

surgery

谷 僚太郎

1

,西村 直子

1

1 大手前大学

Ryotaro Tsuchiya1, Naoko Nishimura1 1 Otemae University 要旨 本研究の目的は,腰椎手術を受けた65 歳以上の患者を対象に退院後の転倒・転落の発生件数と転倒・転 落が発生しやすい時期,場所,発生原因について調査することである.調査は郵送法による無記名自記式 質問紙調査とし,175 名の有効回答が得られた.退院後に転倒・転落があった患者は72 名(41.1%)であっ た.屋内での転倒・転落は59 件で,多かった場所はリビング16 件,多かった発生原因は足を引っ掛け躓 きによる転倒・転落が20 件であった.屋外での転倒・転落は33 件で,多かった場所は歩道10 件,多かっ た発生原因は歩道を歩行中に転倒10 件であった.発生件数が多かった時期は退院後1 年(19 件),退院後 1ヶ月(15 件)であった.本研究で,65 歳以上の腰椎術後患者は地域在住高齢者よりも転倒・転落が発生す る可能性が高いことが明らかとなった.また,転倒・転落が発生しやすい時期,場所,発生原因が本研究 によって示された.しかし本研究は,1 施設の患者を対象とした調査であり,地域性も踏まえたデータを調 査していくことも今後の課題である.

Abstract Objective: This study aimed to examine the risk of falls after hospital discharge among elderly patients who underwent lumbar surgery. Methods: From 2014 to 2016, questionnaires were sent to 314 patients of the university hospital where they underwent surgery. The 175 valid responses that were received (in March and April 2017) provided gender and age of respondents, prior history of falls, and location and time of falls since hospital discharge. One-way tabulation was applied to data on time, location, and cause of falls. Student’s t-test was used to correlate age and falls, and the chi-square test was applied to the relationship between falls and gender of patient. Results: Of 72 patients (41.1%) who experienced falls after discharge, mean age was 76.3±6.6 years, which was not significantly different from the group that did not experience falls. More falls occurred indoors than outdoors. The most frequent indoor location of falls was the living room (16), and the most frequent cause of indoor falls was stumbling when walking (20). The most frequent outdoor location of falls was a sidewalk (10), and the most frequent cause of outdoor falls was ambulating on the sidewalk (10). Many falls (19) occurred one year after discharge. Conclusion: Results showed that elderly patients who underwent lumbar surgery were more prone to fall than other elderly people in their community. It was also clear when and where such falls were most likely to occur and their likely causes. Because participants were recruited through only one hospital, further research is needed to determine regional generalizability of the findings.

キーワード > > > 腰椎術後,退院後,転倒・転落

Key words > > > postoperative lumbar surgery, after hospital discharge, fall

連絡先:𡈽谷僚太郎(大手前大学 〒540–0008 大阪市中央区大手 前2–1–88)(受理2020 年3 月23 日)

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I. は じ め に

高齢者は加齢に伴い,筋力の低下や関節可動域の 制限,視機能の低下,平衡感覚などの感覚機能の低 下などにより転倒・転落を引き起こす可能性が高い. 転倒・転落は骨折や頭部外傷などへ繋がり,障害を 残し,最悪の場合死に至る可能性がある.事故の種 別ごとに高齢者の救急搬送者数を見ると,転倒・転 落によるものが最も多く,全体の8 割を占めるとされ ている(1).また,75 歳以上の不慮の事故での死因 は窒息に次いで転倒・転落が第2 位に位置付けられて いる(2).高齢者の生命を守り QOL を考慮した場合, 転倒・転落の予防は欠かすことができないのである. また,高齢化の進行する日本において,腰部脊柱 管狭窄症の罹患率は増加の一途をたどっている.特 に,70 歳以上の高齢者の50% が罹患すると報告され ており,今後,さらに患者数が増加することが予想さ れている(3).腰椎疾患は回復・改善までの治療経過 は比較的長く,筋力低下・バランス障害・痺れ・疼痛 など日常生活上支障をきたす場合が多い.さらに腰椎 疾患は,下肢の筋力低下,疼痛,痺れ,感覚障害を引 き起こすため,歩行能力の低下や立位保持・立ち上が り困難などへと繋がり,加齢変化に伴う転倒・転落の リスクよりもさらに高くなると予測される.そのた め,腰椎手術後の患者に対し,入院中から転倒・転落 アセスメントシートを用い,様々な転倒・転落の予防 対策が行われている.そして,転倒・転落の予防は 入院中だけでなく退院後の生活においても重要であ る.なぜなら,脊椎の手術療法は脊椎の退行性変化の 完全修復や神経障害の完全治癒は不可能である(4)と 報告されている様に,腰椎手術後の患者は症状が残 存したまま退院を迎えている可能性が高いためであ る.しかしながら,病棟看護師は入院中の患者に対す る転倒・転落について把握し,予防を行うことはでき ても,退院後の患者の転倒・転落を把握することは困 難な状況である.先行研究でも,入院中の転倒・転落 に関する関心は高く,整形外科病棟における転倒・転 落予防への取り組み—インシデント分析結果を踏ま えた DVD・パンフレットを用いて—(5)や院内の転 倒・骨折に対する転倒/転落防止対策チームの取り組 み報告—転倒・転落の予防のための7 つの視点を中心 に—(6)など様々な研究がなされているが,腰椎術 後の患者を対象とした退院後の転倒・転落について追 跡調査をした研究はなされていない. したがって,本研究の目的は,退院後の生活にお いて,どのような場面で,いつ,どこで転倒・転落が 生じているのかを調査し,腰椎術後患者の退院後の転 倒・転落予防への示唆を得ることとした.

II. 研 究 目 的

腰椎手術を受けた65 歳以上の患者を対象に退院後 の転倒・転落の発生件数と転倒・転落が発生しやすい 時期,場所,発生原因,時間帯について調査し,腰椎 術後患者の退院後の転倒・転落予防への示唆を得るこ とを目的とした.

III. 用語の操作的定義

転倒・転落 加齢による身体的衰えや,病気による身体の疼痛・ 痺れ・麻痺・筋力低下・感覚障害などにより,躓きや 膝折れ,ふらつきなどを誘因に倒れる,尻もちをつく ことを「転倒」とする.また,車椅子やベッドなどか ら落ちることを「転落」とする.

IV. 研 究 方 法

1. 対象 2014年∼2016 年に A 大学病院で腰椎手術を受けた 65歳以上の患者で,退院後に A 大学病院を外来通院 されている患者314 名を対象とし,175 名の有効回答 が得られた. 2. データ収集期間 2017年3 月∼4 月 3. 調査方法 調査は郵送法による無記名自記式質問紙調査とし た.研究者は自記式質問紙及び研究説明用紙を対象者 へ郵送し,同封の返信用封筒にて返信のあった175 名 (回収率55.7%)の全てのデータを分析対象とした(有 効回答率55.7%). 4. 調査項目 独自で作成した自記式質問紙に回答を求めた.調 査項目は先行研究から地域在住の高齢者における転倒 の調査(7∼9)を基に性別,年齢,退院後の転倒・転 落歴及び回数,転倒・転落の時期,転倒・転落場所, 発生原因,時間帯とした.質問紙の妥当性については 整形外科病棟師長及び院内研究委員会のスーパーバイ ズを受け確保した.

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5. 分析方法 対象者の基本属性については記述統計を用いて分 析を行った.転倒・転落の時期,場所,発生原因,時 間帯については単純集計で分析を行った.転倒・転 落が年齢による差があるか T 検定を用いて分析した. また,転倒・転落が性別(男性・女性)による差があ るかχ2検定を用いて分析した. 6. 倫理的配慮 本研究は,A 大学病院倫理委員会及び A 大学病院 看護部の承認を得て実施した.研究説明用紙で対象者 に研究の目的・方法,発生しうるリスクと対応,決し て研究参加は強制ではなく,自由意志であること.ま た,研究に同意しない場合でも,対象者が不利益をこ うむることはないことを説明した.研究対象者の同意 は,返信用封筒でのアンケート用紙の返信をもって行 われたものとした.なお,アンケート用紙返信後の撤 回は,匿名化されており個人が特定されないため不可 能である.それについて文章を用いて説明した.

V. 結

1. 転倒・転落件数と対象者基本属性 退院後に転倒・転落があった患者は72 名(41.1%) で,基本属性について表1 に示した.対象者の年齢分 布は65 歳から93 歳であった.退院後に転倒・転落を 生じた患者の平均年齢は76.3±6.6 歳,転倒・転落を 生じなかった患者の平均年齢は75.1±5.5 歳であった. 平均値で比較すると転倒・転落あり群の方が高い傾向 を示したが,有意差は認められなかった.また,転 倒・転落群の男女比は男性31 名(43.1%),女性41 名 (56.9%)と女性の方が高い数値を示したが,有意差は なかった.さらに退院後複数回転倒・転落を発生した 患者の人数は72 名中50 名(69.4%)であった. 2. 転倒・転落が発生した場所,発生原因 転倒・転落の延べ件数は92 件であった.転倒・転 落が発生した場所での内訳は,屋内での転倒・転落が 59件(64.1%),屋外での転倒・転落が33 件(35.9%) であった.屋内での転倒・転落で,一番多かった 場所はリビング16 件(27.1%)で,次いで寝室9 件 (15.3%),洗面所6 件(10.2%)であった(表2).屋内 での転倒・転落の発生原因は何かに足を引っ掛け躓き による転倒・転落が非常に多く20 件(33.9%)であっ た.さらに「何かに足を引っ掛け躓き転倒」の発生原 因の内訳を見ると絨毯が6 件(30.0%)と一番多かった (表3, 4). 屋外での転倒・転落場所の一番多かったのは歩道 10件(30.3%)で,次いで道路5 件(15.2%),玄関前 3件(9.1%)であった(表5).屋外での転倒・転落発 生原因で多いのは歩道を歩行中に転倒10 件(30.3%), 次いで段差に躓いて転倒6 件(18.2%),自転車乗車中 に転倒5 件(15.2%)であった(表6). 3. 転落・転倒時期 転倒・転落の時期で一番発生件数が多かったのは 退院後1 年を経過した時期(19 件)であった.ついで, 退院後1ヶ月(15 件),3ヶ月(8 件)であった.また, 一番発生件数が少なかったのは退院後11ヶ月を経過 表 2 屋内で転倒・転落:場所 件 % リビング 16 27.1 寝室 9 15.3 洗面所 6 10.2 玄関 5 8.5 台所 5 8.5 ダイニング 4 6.8 廊下 4 6.8 階段 3 5.1 トイレ 3 5.1 ベランダ 3 5.1 風呂 1 1.7 合計 59 100 表 1 転倒・転落件数と対象者基本属性 N=175 転倒・転落 有意確率(両側) あり なし 総数 T検定 χ2検定 年齢(平均±標準偏差) 76.3±6.6 75.1±5.5 75.6±6.0 P=0.224 男性 31名 56名 87名 P=0.141 女性 41名 47名 88名 総数 72名(41.1%) 103名(58.9%) 175名 ┌ ┐

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した時期(0 件)であった(表7).退院後1ヶ月,退院 後1 年の時期に発生した転倒・転落の屋内,屋外の内 訳は,退院後1ヶ月が屋内66.7%,屋外33.3%,退院 後1 年が屋内42.1%,屋外57.9% であった. 表 3 屋内での転倒・転落:発生原因 件 % 何かに足を引っ掛け躓き転倒 20 33.9 立ち上がりの時に転倒 7 11.9 かがむ・座る時に転倒 6 10.2 歩き始めに転倒 4 6.8 布団に入ろうとした時に転倒 4 6.8 階段昇降時に転倒 3 5.1 洗濯物を取り込んでいて転倒 3 5.1 ドアの開閉時に転倒 2 3.4 トイレで用を足す時に転倒 2 3.4 歩行中に何もなく転倒 1 1.7 入浴中に滑って転倒 1 1.7 椅子から転落 1 1.7 靴下で滑って転倒 1 1.7 掃除をしている時に転倒 1 1.7 歯磨き中に足の力が抜けて転倒 1 1.7 足の力が突然抜けて転倒 1 1.7 急いで出発しようとして転倒 1 1.7 合計 59 100 表 4 何かに足を引っ掛け躓き転倒の発生原因 件 % 絨毯 6 30.0 段差 4 20.0 畳 3 15.0 敷居 2 10.0 椅子 2 10.0 スリッパ 1 5.0 階段 1 5.0 布団 1 5.0 合計 20 100 表 5 屋外での転倒・転落:場所 件 % 歩道 10 30.3 道路 5 15.2 玄関前 3 9.1 公園 3 9.1 コンビニ・お店 3 9.1 坂道 2 6.1 車庫 2 6.1 駐車場 2 6.1 階段 1 3.0 病院 1 3.0 マンションエントランス 1 3.0 合計 33 100 表 6 屋外での転倒・転落:発生原因 件 % 歩道を歩行中に転倒 10 30.3 段差に躓いて転倒 6 18.2 自転車乗車中に転倒 5 15.2 立ち上がり時に転倒 3 9.1 車から降りる時に転倒 2 6.1 買い物した物を持っている時に転倒 1 3.0 気分が悪くなり転倒 1 3.0 ゴミを出そうとして転倒 1 3.0 仕事中に転倒 1 3.0 シルバーカーを押している時に転倒 1 3.0 階段でバランスを崩して転倒 1 3.0 下り坂を下る時に転倒 1 3.0 合計 33 100 表 7 退院後の転倒・転落時期 退院後から 経過した時期 屋内 屋外 総数 2日 1 0 1 1週間 1 0 1 2週間 2 0 2 1ヶ月 10 5 15 2ヶ月 2 0 2 3ヶ月 7 1 8 4ヶ月 2 1 3 5ヶ月 2 0 2 6ヶ月 5 2 7 7ヶ月 1 0 1 8ヶ月 3 1 4 9ヶ月 1 0 1 10ヶ月 1 0 1 1年 8 11 19 1年2ヶ月 0 1 1 1年3ヶ月 1 0 1 1年5ヶ月 1 0 1 1年6ヶ月 2 3 5 1年8ヶ月 3 4 7 2年 2 1 3 2年6ヶ月 1 0 1 2年10ヶ月 1 1 2 3年 2 2 4 総数 59 33 92

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4. 転倒・転落が発生した時間帯 転倒・転落が発生した時間帯としては10 時が一番 多く19 件,次いで14 時の17 件で,その2 つの時間帯 で全体の39.1% を占めていた.夜間帯(21 時∼5 時) は10 件で全体の10.9% であった(図1).時間帯別屋 内・屋外での転倒・転落回数を見ると,屋内での転 倒・転落は10 時に多く,屋外での転倒・転落は14 時 に多かった(図1).

VI. 考

転倒は高齢者によく発生する老年症候群の一つで あり,要介護の主要な要因となっている(10)わが国 の超高齢化社会において,転倒・転落の予防は欠かせ ない看護介入の一つである.本研究の退院後の腰椎 術後高齢患者を対象とした転倒・転落発生率は41.1% (72 名)であった.地域在住高齢者を対象とした調査 では,過去1 年間の転倒発生率は,ほぼ10∼25% で ある(11)と報告されており,これに比較すると腰椎 術後高齢患者の退院後の転倒発生率は高いといえる. また,そのうちの69.4%(50 名)は転倒を繰り返して いた.その原因として,腰椎手術の成績は,安静時の 下肢の痺れが消失しにくい(3)など,術前の症状が十 分に改善されないことも報告されており,患者は症状 が残存したまま退院を迎え症状と折り合いをつけなが ら生活を送っていることが挙げられる.腰椎術後高齢 患者は,健康高齢者よりも転倒・転落発生率が高く, 退院後の生活も継続して転倒・転落への注意が必要で ある. 転倒・転落は,個々の身体的状態と家庭や公共 の環境に存在する危険のような周辺環境との相互作 用(12)によって生じる.環境要因を把握するために は転倒・転落が発生した場所・発生原因を把握する 必要がある.今回の調査では,転倒・転落の場所と して,屋内が64.1%,屋外が35.9% という状況であっ た.地域高齢者の転倒の実態を調査した研究でも自宅 での転倒が64.9% と示されており(9),今回のデータ はほぼ一致する結果であった.屋内での転倒・転落 で多い場所はリビングで,16 件と最も多く,続いて 寝室であった.また,発生原因としては「何かに躓い た」が多く見られた.入院中の転倒・転落が発生しや すい場所はトイレやベッド周囲,浴室(13∼14)であ る.トイレや浴室は各家でレイアウトや広さにあまり 違いがなく,必要な動作もわかるため入院中に患者と 医療者が共通認識し対策を練りやすい.しかし,リビ ングや寝室は各個人の家の間取りや広さ,家具の配置 などによって環境が大きく違い,どこが危険なのかが 入院中に医療者と共有されにくい.そのため,対策が 講じられずに患者は自宅のリビングや寝室にどのよう な危険があるのか認識しないままに退院してしまうこ とが考えられる.このことは,入院中から患者・家族 への指導を取り入れ,継続看護が必要な患者には,退 院前の訪問看護師とのカンファレンスでより具体的に 話し合い,危険な箇所の環境の改善などを取り入れて いく必要がある. 本調査では屋外での転倒場所は,歩道が最も多 かった.他に歩行(移動)することを目的とした場所 として,道路や坂道を合わせると17 件となった.ま た,発生原因として「歩道を歩行中に転倒」が最も多 く,他に歩行中に起こったと考えられる「段差に躓い て転倒」を合わせると屋外の転倒発生原因の半分が歩 行中であった.これは,屋外では目的地への移動時に 転倒が起きやすいと考えられる.屋外の道にはリハビ 図 1 時間帯別屋内・屋外の転倒・転落回数

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リ室にはないような斜路や劣化部分がいたるところに あり,それは天候などによっても変わる.さらに人や 車両の往来など,転倒リスクに繋がる要因が存在して おり,多重課題下での歩行が要求される(8).先行研 究では斜路の中には両下肢間の実質的な脚長差が最大 1.6 cmある斜度もあり,歩道上の斜路は屋外移動動作 を阻害する因子として明らかにされている(15).屋 外での生活は,屋内での生活以上に患者の適応能力が 必要となり,医療者は入院中の指導やリハビリだけで はなく,転倒に対する危機管理能力の向上や対応能力 を高めるような介入も必要となる. 腰椎手術を受けた高齢患者は退院後1ヶ月(15 件), 退院後1 年(19 件)に転倒・転落が多いことが明らか となった.退院後1ヶ月は,試行錯誤しながらもまず は日常生活を取り戻そうとする時期であると考えられ る.そして1ヶ月間で徐々に自分のことは自分で行う など自分なりの対処法を獲得し生活が心身共に落ち着 いていく時期であり,1ヶ月経つ頃にはその生活が日 常化していると推測される.退院後1ヶ月の転倒転落 の内訳は屋内転倒66.7%,屋外33.3% であり,生活の 場での転倒が多いという結果であった.また,退院 後1 年での転倒では,自分なりの生活が定まり,今度 は社会生活の場に参加していく機会が増えていく時 期であると考える.この時期は屋内の転倒42.1%,屋 外57.9% と退院後1ヶ月の時と比べ屋外が増加傾向に なっている.このように退院後の時期によって発生す る転倒・転落の場所が変化することが考えられ,入院 時から,転倒・転落の多い時期の情報提供や患者が環 境の変化や生活の変化に対応できる様に看護介入を検 討していく必要がある. 在宅高齢者は6 時∼18 時の日中に転倒の90% が発 生している(7).本研究でも6 時∼18 時の日中に転倒 転落の85.9% が発生しており,ほぼ一致するデータ であった.しかし,時間帯を細かく見ると10 時が19 件,14 時が17 件と,この2 つの時間が全体の39.1% を占めていた.また,10 時の転倒転落は屋内11 件, 屋外8 件,14 時の転倒転落は屋内4 件,屋外13 件と 時間帯によって転倒転落が発生する場所に違いがある ことが明らかとなった.整形外科患者の入院中の転 倒は午前1∼7 時に多い(16)ことが明らかになってい る.入院中はベッドサイドという限られた範囲での生 活であることや,日中は医療者の人員が確保されてお り,援助が受けやすい.そのため,入院中の転倒・転 落は医療者のマンパワーが減る夜間帯の転倒が多くな ると考えられる.しかし,退院後は医療スタッフに よって提供されていた日常生活の援助がなくなり,日 中に日常生活行動を自立して行わなければならない. また,趣味や外食,地域活動への参加などの生活範囲 が拡大するといった活動内容の変化も日中の転倒・転 落に影響していると考えられる.本研究のデータが示 す様に,退院後の生活において日中の転倒・転落を予 防する対策を患者と共に考えていく必要がある.

VII. 結

今回の研究を通して,腰椎手術を受けた高齢患者 は地域在住高齢者よりも転倒・転落が発生する可能性 が高いことが明らかとなった.また,転倒・転落が発 生しやすい時期,場所,発生原因,時間帯が本研究に よって示された.さらに,入院中と退院後の生活では 転倒・転落の場所,発生原因,時間帯に違いがあるこ とがわかった.本研究で明らかとなったデータから, 腰椎術後高齢患者の退院後の転倒・転落予防への示唆 を得ることができた.今後はこのデータから転倒・転 落の具体的な予防について検討していく必要がある. また本研究は,豪雪などの気候の変動や山間部と都市 部での違いなどの影響を受けない地域にある1 施設の 患者を対象とした調査であり,一般化という点では限 界がある.そのため,地域性も踏まえたデータを調査 していくことも今後の課題である.

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