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高齢者医療におけるシルバーケアという考え方

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Academic year: 2021

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野 田 大 地, 井 上 昭 彦, 池 田 憲 政

佐 藤 尚 文

要 旨 現在わが国は高齢化が急激に進むと同時に,高齢患者が増加している.高齢者を若年者と同様に検査・治療 することで思わぬ合併症に見舞われる可能性がある. 当科では罹患前の ADL, 認知症の有無, 疾患の重症度, 家族背景などを 合的に 慮した上で, 症状緩和を中心とした医療を提供し, 場合によっては看取りまで支 援しており, このような概念をシルバーケアと呼称している. シルバーケアを実践した症例を通して当科の 医療哲学を提示し, 超高齢化社会を迎えるにあたり, 今後のわが国の高齢者医療のあり方について提言した い.(Kitakanto Med J 2014;64:183∼191) キーワード:シルバーケア, 医療哲学, 高齢者, SCT, SCU は じ め に 高齢患者に対し若年者に行われるような標準的治療を 行っても本人及び家族にとって有益にならないと判断さ れた場合, 当科では悪性疾患だけでなく, 良性疾患症例 に対しても症状緩和を中心とした医療を提供し, 場合に よっては看取りまで支援しており, そのような概念・哲 学をシルバーケアと呼称している. 当科におけるシル バーケア実践例を提示・ 察することで従来の医療現 場・医学論文の型に嵌らずに医療の問題点を論じ, 今後 のわが国の高齢者医療の哲学について提言する. 症 例 1 患 者:89 歳, 女性. 主 訴:嘔吐 既往歴:嚥下機能低下に伴い数年前に他院で胃瘻造設を 行った. 現病歴:施設入所中, 寝たきりであった. 胃瘻より注入 していた栄養剤を数回嘔吐したため当院に救急搬送され た. 入院時身体所見:呼びかけに反応なし. 腹部軽度膨満. CT: 胆管結石により胆囊腫大, 胆管拡張あり. 膵 頭部周囲の脂肪織濃度上昇しており, 急性膵炎も合併し ていると えられた (図 1). 経 過:意思表示ができない点, 高度の脱水から全身状 態が悪かった点などから, 経皮経肝的ドレナージや内視 鏡的ドレナージは医原性のトラブルが懸念されたため施 行しなかった. 嘔吐や喀痰増量が見られたため, 胃瘻か らの栄養剤注入も中止した. 末梢点滴も確保困難なため, 点滴は一切行わなかった. 栄養剤注入を止めると喀痰が 減り呼吸状態は安定した. 栄養剤を再開した際に再び喀 痰が増量したため, 遠方に住む家族と十 に相談し, 以 後栄養剤注入を一切中止した. 入院後 21日目に眠るよ うに息を引き取った. 解 説:嚥下困難という理由で胃瘻造設され, 栄養剤注 入で 命されてきたが, 繰り返す誤嚥を呈していた. 栄 養剤の逆流と栄養剤注入を引き金とした唾液過剰 泌に よる誤嚥が苦痛の主たる原因であり, 栄養剤中止により 苦痛の緩和が得られたと えられる. このような症例は 老衰と えるべきである. 老衰とは年を取って心身が衰 えることであるが, 医学的状態の定義は難しい. まして や数値やスコア化は望ましくなく, また不可能だと思わ れる. 現状では診療する医師が, 加齢に伴う変化であり 症状緩和に努めるべきなのか, 若年者と同様に検査・治 療するべき症例なのかを臨機応変に判断していくしかな いであろう. 1 群馬県富岡市富岡2073-1 立富岡 合病院外科 平成25年12月20日 受付 論文別刷請求先 〒370-2393 群馬県富岡市富岡2073-1 立富岡 合病院外科 門脇 晋

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症 例 2 患 者:79 歳, 男性. 主 訴:呼吸困難 既往歴:慢性心不全, 大動脈弁置換後. 認知症あり. 現病歴:施設入所中, 転倒し当院入院. 補液を行ってい たが, CT で胆囊気腫と高アミラーゼ血症を指摘された ため当科紹介となった. 入院時身体所見:腹部圧痛なし. 呼吸困難感, 下肢浮腫 を認めた. CT:両側胸水貯留あり. 胆囊気腫を認めるが胆囊壁肥 厚, 周囲の脂肪織濃度は正常であり胆囊炎は否定的で あった (図 2). 経 過:当科転科. 呼吸困難の原因は輸液による心不全 と診断し, ただちに中心静脈カテーテルを抜去し, 以後 一切の点滴を中止した. 右胸腔ドレナージを行い胸水 300ml排出した. 以後呼吸状態は安定し四肢の浮腫も数 日で改善した. 胆囊気腫や高アミラーゼ血症は症状と直 接関連がないと え詳細な精査は行わなかった. 時折背 部痛を訴えたがジクロフェナクナトリウム座薬 (ボルタ レン) 25mg 屯用での投与により症状はコントロールで きた. 当科転科後 14日目に元の施設に退院した. 解 説:典型的な, 輸液による医原性心不全である. こ のような症例は点滴を即刻中止することで心不全は改善 する. また, 胆囊気腫に関しては症状がなければ精査, 治 療の必要はないと えた. 臓器だけを診るのではなく, 患者の 合的なバランスに配慮した医療が大切である. 症 例 3 患 者:75歳, 女性. 主 訴:腹痛, 腹部膨満 既往歴:高血圧, 脂質異常症 現病歴:腹痛, 腹部膨満のため当科入院した. CT:右上腹部∼骨盤腔にかけて大きな多房性囊胞性病 変を認めた. 卵巣囊腫または卵巣癌の捻転が疑われた (図 3a). 経 過:呼吸機能が悪く全身麻酔は困難と判断された. 症状緩和のため囊腫内容の経皮的ドレナージを行った. 排液は血性で, 細胞診は血球成 が多く判定不能であっ た.徐々に囊腫は縮小し (図 3b),症状は改善した.リハビ リを行い入院 44日目に退院した. 解 説:通常は手術あるいは化学療法の適応となる卵巣 囊腫または卵巣癌であるが, 液体成 が多い腫瘤の場合 は症状緩和のために経皮的ドレナージが有効であること が示された症例である. 標準治療に捉われない, 臨機応 変な対応が必要である. 図1 CT 胆管結石により胆囊腫大, 胆管拡張あり.膵頭部周囲の脂肪織濃度上昇 (矢印) しており, 急性膵炎も合併していると えられた. 図2 CT 両側胸水貯留あり. 胆囊気腫 (矢印) を認めるが胆囊壁肥厚, 周囲の脂肪織濃度は 正常であり胆囊炎は否定的であった.

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症 例 4 患 者:89 歳, 男性. 主 訴:全身打撲 既往歴:胆石のため胆囊摘出術 現病歴:自宅の屋根で作業中に落下し受傷. 当科に救急 搬送された. 入院時身体所見:意識清明. 前額部に裂傷あり. 左前胸 部痛あり. CT:大脳鎌に接する位置に急性 膜下血腫, 左血気胸 あり (図 4). 経 過:前額部裂傷を縫合し, 当科入院した. 急性 膜 下血腫, 左血気胸は経過観察した. 受傷後 4日目に 39℃ の発熱, 食思不振, 意識障害を認めた. 血液検査で Na 122mEq/L と低値を示し, 外傷のストレスに伴う副腎不 全が疑われた. せん妄も強く点滴自己抜去が危惧された ため, フルドロコルチゾン酢酸エステル (フロリネフ) 0.1mg/日内服・ヒドロコルチゾンコハク酸エステルナト リ ウ ム (サ ク シ ゾ ン) 500mg/日 静 脈 注 射 の み 行った. 徐々に経口摂取や離床ができるようになり, 受傷後 21 日目に療養型病院に転院した. 経過中せん妄を認めたが, 身体抑制は一切行わなかった. 解 説:高齢者の外傷は今後益々増加すると えられ る. 本症例は外傷によるストレスのため副腎不全が疑わ れたが, 少量の静脈注射と内服により状態改善した. 当 科ではせん妄を認め点滴を自己抜去するような症例は, 点滴は極力行わないようにしている. また, 身体抑制は 手術後の限られた時期以外は, 例えせん妄が強くても患 者や家族の尊厳を傷つけると え一切行っていない. 徘 徊予防には家族に協力を依頼しベッドサイドに付き添っ てもらうか, 夜間だけ自宅で過ごしてもらうなどの対策 を取っている. 抑制を行わなかったばかりに徘徊し転倒 した場合であっても, 夜勤の看護職員をはじめ特定の個 人の責任を問うことは一切ない. 症 例 5 患 者:88歳, 男性. 主 訴:血尿

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図3 CT 右上腹部∼骨盤腔にかけて大きな多房性囊胞性病変を認めた. 卵巣囊腫または卵巣癌の捻転が疑われた (3a). 囊腫内容の経皮的ドレナージを行い徐々に囊腫は縮小した (3b). 図4 CT 大脳鎌に接する位置に急性 膜下血腫, 左血胸を認めた (矢印).

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既往歴:認知症, 誤嚥性肺炎, 前立腺肥大のため尿道カ テーテル挿入中 現病歴:老 施設入所中. 肺炎のため近医入院し点滴を 受けていた. 尿道カテーテル 換時に血尿を来したため 当院受診. 経過観察目的で当科へ入院した. 入院時身体所見:発語や意思表示は不能であった. 両上 肢に点滴による浮腫を認めた (図 5a). 経 過:高度の嚥下機能低下により経口摂取は困難で あった. また両上肢の血管も細く, 末梢点滴確保も困難 であった. 加齢に伴う全身の衰え, 老衰と えられた. 家 族に老衰であることを説明し, 点滴は行わず苦痛の緩和 に徹する方針とした. 尿道出血は自然止血された. 点滴 中止して 2日目には上肢の浮腫は改善した (図 5b).入院 8日目に穏やかな表情で永眠した. 解 説:嚥下困難に伴い経口摂取不十 であったが, 訪 問看護により連日自宅で 500ml/日程度の点滴を行って いた症例である. 両上肢の浮腫は, 点滴漏出による医原 性の浮腫である. 食べられないから点滴, という短絡的 な えは改めるべきである. 医師が老衰と診断し家族に 十 に説明を行い, 直ちに点滴を中止することが大切で ある. 老衰と えられる症例は間違っても症例 2のよう に中心静脈輸液を行ってはならない. しかし点滴治療は 我が国では頻繁に, 当然のように行われているため, そ れを行わないことは多くの医療者や患者家族にとって心 理的に抵抗があることが予想される. 今後議論を要する 問題である. 症 例 6 患 者:87歳, 男性. 主 訴:下血 既往歴:高血圧, 慢性心不全, 認知症 現病歴:おむつ内に大量の血液を妻が認め救急搬送さ れ, 当科へ入院した. 入院時身体所見:腹部軟. 直腸診で指先に腫瘤を触れ, 血液が付着した. CT:直腸 Raに壁肥厚と平衡相で壁全体の濃染が認め られ, 直腸癌が疑われた (図 6). 経 過:切除可能と えられたが, 入院当日より高度の せん妄のため精神状態が不安定となった. 家族と相談の うえ退院, 急変時は緩和ケア病棟で対応する旨を説明し, 外来通院しながら苦痛の緩和を行う方針とした. 退院後 9 ケ月が経過するが, 下血を時折認めるものの疼痛の訴 えは全くなく, 非常に元気に過ごしている. 解 説:病変が切除可能であっても手術を行うべきでな 図5 上肢の所見 入院時は上肢が点滴による浮腫が著明であった (5a). 点滴中止して 2日目には上肢の浮腫は改善した (5b).

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図6 CT 直腸 Raに壁肥厚と平衡相で壁全体の濃染が認められ, 直腸癌が疑われた (矢印).

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い典型例である. 十 な説明を行い家族が理解できれば, 下血があっても本人が元気であれば問題はないと え る. このような癌の進行に伴う出血の場合は, 積極的治 療の適応がなければ輸血は行わなくとも患者の状態は安 定していることが多い. 大切なことは, 何か困ったこと があればいつでも診るという医療者側の覚悟を家族に示 し, 理解してもらうことである. 症 例 7 患 者:67歳, 男性. 主 訴:腹痛, 嘔吐 既往歴:大腸癌術後, 脳梗塞 現病歴:身寄りがなく, 施設入所中. 腹痛, 嘔吐のため当 科受診. 腸閉塞と診断され当科入院した. 入院時身体所見:腹部は全体に張っていた. 圧痛なし. CT:小腸は拡張しており, 術後の癒着による腸閉塞と 診断した (図 7). 経 過:ロングチューブを経鼻的に小腸内に挿入し減圧 を図ったが, 自己抜去. 以後治療を全て拒否したため, 点 滴を 500ml/日に減量した. 腹痛にはジクロフェナクナト リウム座薬 (ボルタレン)25mg,嘔気・嘔吐に対してはド ンペリドン座薬 (ナウゼリン) 60mg とジアゼパム座薬 (ダイアップ) 10mg を 用し苦痛の緩和を行った. 徐々 に衰弱し入院 4日目に永眠した. 解 説:治療拒否を明言している患者に対する医療は, 何をどこまで行うべきか時に迷うことがある. そのよう な状況でも非侵襲的な方法で苦痛の緩和を試みることは 一貫しているだろう. 座薬での薬剤投与は, 人工肛門患 者・肛門疾患などで経肛門的投与に不快感を訴える患者 でなければ①確実に投与可能②家族の協力が得られれば 自宅でも投与可能③薬剤効果, 即効性も経静脈的薬剤投 与に比べ 色ないという点で, 我々はシルバーケア実践 において主要な薬剤投与方法と位置付けている. また輸 液を一切中止, または輸液量を減量することで, 腸閉塞 が自然に改善する症例も経験する. 症 例 8 患 者:86歳, 女性. 主 訴:腹痛 既往歴:認知症 現病歴:数日続く悪心, 腹痛のため当科入院した. 入院時身体所見:腹部は全体に張っており, 下腹部に圧 痛を認めた. CT:小腸壁に広範に pneumatosisを認め, 上腸間膜静 脈∼門脈にかけてガス像を認めた (図 8). 経 過:全身状態から救命は困難と えられ, 苦痛の緩 和に徹する方針となった. 一日 3回ジクロフェナクナト リウム座薬 (ボルタレン) 12.5mg の定時投与, モルヒネ 塩酸塩座薬 (アンペック) 5 mg 屯用での投与, ベタメタ ゾン (リンデロン)4 mg の連日皮下注射を行った.入院 3 日目には腹痛は改善し, 経口摂取を再開した. 入院 9 日 目に顔色不良, 頻呼吸となり敗血症が疑われた. 家族と の面会を済ませ, 同日未明に安らかに永眠した. 解 説:CT 所見から重篤な疾患と えられ, 救命は困 難である. 本症例は亡くなる直前まで経口摂取可能であ り, 家族ともコミュニケ―ションを取れていた. このよ うな症例にいかに安らかな最期を迎えさせられるかがシ ルバーケアの真骨頂であり, 医師や看護師の力量と共に 感性や哲学が問われる. 症 例 9 患 者:79 歳, 男性. 主 訴:腹痛 既往歴:慢性心不全, 心房細動, 右上肢動脈塞栓症. 以前 入院した際に暴力的な夜間せん妄を認めた. 現病歴:夕食後より腹痛を訴え当科入院した. 入院時身体所見:腹部は全体に軟らかいが, 下腹部に自 発痛を認めた. CT:上腸間膜動脈の第二空腸枝∼回結腸動脈根部にか けて血栓を認めた (図 9). 経 過:ジクロフェナクナトリウム座薬 (ボルタレン) 図7 CT 胃∼小腸が著明に拡張・液体貯留しており, 術後の癒着による腸閉塞と診断した.

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25mg により疼痛は改善した. せん妄が激しく入院継続 困難となり即日退院した. 以後外来定期通院しており, 腹痛を時折訴えるがジクロフェナクナトリウム座薬 (ボ ルタレン) 25mg の屯用により疼痛コントロール良好で ある. 解 説:上腸間膜動脈血栓症という重篤な疾患であって も, ジクロフェナクナトリウム座薬 (ボルタレン) 25mg により疼痛コントロール可能であった示唆に富む症例で ある. どのような状況でも苦痛の緩和を実現することが 医療の役割であると える. 症 例 10 患 者:91歳, 女性. 主 訴:発熱, 食思不振 既往歴:特記すべきことなし 現病歴:認知症, 寝たきり状態で自宅で介護を受けてい 図8 CT 小腸壁に広範に pneumatosisを認め, 上腸間膜静脈∼門脈にかけてガス像を認めた (矢印). 図9 CT 上腸間膜動脈の第二空腸枝∼回結腸動脈根部 にかけて血栓を認めた (矢印). 図10 CT 下部胆管内に結石, 胆管の拡張を認めた (矢印).

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4 mg の連日皮下注射を行い症状緩和を図った. 食欲が戻 り経口摂取再開. 自宅退院した. 退院後一ヶ月で経口摂 取不能になり筆者が往診し死亡確認した. 死因は老衰と した. 解 説:本症例のように良性疾患であっても本人または 家族が自宅での看取りを希望する場合は可能な限り対応 している. 急性期の 合病院の外科医であっても往診を 含め極力最期を看取ることで, それまでの治療や判断が 正しかったのかを自身で振り返ることができ, 以後の診 療に生かすことができると える. 医師として大切な姿 勢であるだろう. 察 医療には様々な専門的な知識や技術が必要である. し かし知識や技術があればそれで良いという訳ではない. 医療機関には色々な えや思いを持った人, 異なった環 境や社会生活をしてきた人が, 病気や苦しみを訴えて受 診する. 知識や技術を 動員することで, それらの患者 に十 対応できるという単純なものではなく, 感性, 理 念, 哲学を必要とする. 単に病気や臓器, 検査データを見 て, 知識と技術で押し切っても患者の納得や満足は得ら れない. いかに知識, 技術を適切に提供するか, 医療には 感性や哲学が試されていると える. 本稿では主として 知識, 技術論ではなく医療を行うにあたっての感性, 哲 学について述べたい. 当院は群馬県西部の富岡市に位置する, 約 8万人の医 療圏の 359 床を有する地域中核病院である. 当科は日本 外科学会の修練施設であり, 一般外科のほか, 消化器, 胸 部, 乳腺, 血管など, 開心術以外のほぼすべての 野の診 療が可能な体制である. 常勤医 7名, 研修医が常時 1∼2 名在籍している. 診療のモットーとして①診断から治療 まで speedy, ② Informed consentを最重視した治療法の 選択, ③体に優しい低侵襲手術・低侵襲治療を掲げてい る. 平成 23年度の外来患者は 15,195名, 入院患者は 15, 500名 (43床),平 在院日数は 11.4日,病床利用率は 86. 4%であった. 平成 23年度の手術数は 727例で, 全身麻 酔 602例, 腰椎麻酔 42例, 局所麻酔 83例である. なお, がん患者に対する緩和医療にも力を入れており, 初診か ら手術, 看取りまで一貫して診療することで, 個々の患 者に対しきめ細やかな医療を提供していると自負してい 現在わが国は高齢化が急激に進み, それに伴い当科に おける手術患者も含めた入院患者の平 年齢も増加して いる. 2002年は約 66歳, 2012年は約 70.5歳と, 当科で も明らかに入院患者の高齢化が進行していることが示さ れた. さらに全国や県平 と比較して当院の医療圏は約 10年高齢化が進んでいる. 高齢者は若年者に比べ体力 や判断力の低下, 様々な併存症を有しているという点で, 若年者と同様に検査・治療することで思わぬ合併症に見 舞われる可能性が増えていると予想する. 以上のような背景から, 当科では近年シルバーケアと いう概念・哲学を提言し, 看護師, 薬剤師, 栄養師, Medi-cal social worker (MSW) を含め外科病棟スタッフを挙 げてチームとして実践している (silver care team: SCT). シルバーは Silver age (高齢者) を意味する. 高齢患者に 対し若年者に行われるような標準的治療を行っても本人 及び家族にとって有益にならないと判断された場合, 当 科では悪性疾患だけでなく, 良性疾患症例に対しても症 状緩和を中心とした医療を提供し, 場合によっては看取 りまで支援しており, そのような概念・哲学をシルバー ケアと呼称している. 症例によってはチームでカンファ レンスを行い方針を決定しているが, 直ちに方針を決定 しなければならない致死的な疾患に遭遇した場合は, シ ルバーケアの理念を熟知した初診医が本人や家族と相談 した上で方針決定している. 一例として筆者らは外科救 急疾患である急性腹症に対するシルバーケアについて報 告した. 急性腹症は特に初診時の方針決定が重要であ り, ゆっくりカンファレンスを開催する余裕がない. し かし決定された方針・共有した理念により, その後の入 院加療はチームを挙げてスムースに行われている. 高齢者に関わらず人類 生以来, 医療本来の目的は① 生のサポート②病気や怪我によってもたらされる苦痛 の軽減と緩和,quality of life: QOL の維持③看取りのサ

ポートに集約されると える. 苦痛は肉体的, 精神的苦 痛を含み, さらに範囲は患者本人とそれを取り巻く家族 や病院・施設職員まで含まれる. どんなに高齢でも②病 気や怪我によってもたらされる苦痛の軽減と緩和, QOL の維持は変わらない. 苦痛の軽減と緩和, QOL の維持の 方法を決め, さらに本人や家族に説明をするためには診 察はもちろん, 最低限の検査が必要である. もちろん侵 襲のある検査や治療は, それによるリスクやデメリット

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シルバーケアの実践で最も大切なことは, 患者・家族 への十 な説明と同意である. 説明が不足すると医療者 への不信感や医療行為の手抜きであると捉えられかねな い. 病状説明の際に若年者と同様の標準的治療を行った 場合の予想される経過, 症状緩和に徹した場合の経過, 退院後の家族の身体的・経済的負担や介護の問題につい て, 時には医療者側の経験や良心に基づき適切と思われ る方法を勧める必要もあるだろう. シルバーケアの実践が患者にとって有益であるという 判断は初診時または数日以内に見極める必要がある. バ イタルサインや血液検査で画一的に判断するのではな く,シルバーケアの概念を共感・理解し,高齢者へのある 程度の臨床経験のある医師であれば罹患前の ADL, 認 知症の有無, 疾患の重症度, 家族背景などを 合的に判 断することで, シルバーケア対象患者を選別することは 可能であると える. また一部の疾患を除き, 医師のみ で方針を決める必要はなく, シルバーケアチーム (SCT) として一例一例適切な対応について検討する姿勢が必要 である. シルバーケア実践の要点は, 以下に集約される. ①点滴を無理に行わない. 特に中心静脈輸液は挿入時 および長期留置に伴う合併症を 慮し原則行わな い. ②身体抑制は原則行わない. ③標準治療にこだわらない. ④診断にこだわらず, 症状の緩和を目標とする. オピ オイドの 用も 慮する. ⑤看取りの場 (在宅, 施設, 病院) は病状や患者および 持てる医療技術をどのような患者に, どのようなに提 供するか, そのような視点を臨床医は常に持つことが大 切である. 臨床医は疾患を診断し治療するだけではなく, 患者の看取り方 (看取る力とも言える) も平行して学ぶ 必要があり,医学教育 (特に医師になってからの教育)に おける今後の課題であると える. 当院のような急性期 の 合病院だけでなく, 大学病院やがんセンター, 救命 救急センター, 療養型病院, 診療所, クリニックなど, 病 院の規模や地域を問わず医療従事者としての必要な概 念・医療哲学と え提言した. 当院ではシルバーケア対 象患者の病棟である silver care unit: SCU の 設や周囲

の老 施設, 療養型病棟, クリニックとの連携も視野に 入れ, 今後も地域医療に貢献していきたい. また, 急性期 の 合病院である当院からこのような提言をしていくこ とが意義のある事と えている. 国民の多くは先端医療 を享受すると共に, 苦痛を感じずに最期を迎えたいと えているだろう. シルバーケアの実践と啓発が, 国民の ニーズに応え, 今後の医療に必要な姿勢と えられ提言 した. お わ り に これからの高齢者医療のあり方についてシルバーケア という哲学を提言した. 文 献 1. 門脇 晋, 尾形敏郎, 五十嵐清美ら. 高齢者に対する腹部 救急への提言 ―シルバーケアの実践―. THE KITA-KANTO Med J 2013; 63: 357-363.

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Daichi Noda,

Akihiko Inoue,

Norimasa Ikeda

and Naohumi Sato

1 Department of Surgery, Tomioka Public General Hospital, 2073-1 Tomioka, Tomioka, Gunma 370-2393, Japan

The aging society is rapidly growing in Japan, and more elderly patients are requiring medical treatment. However, elderly patients are often unable to undergo the same medical treatments as younger patients. Palliative care is offered for even benign illnesses in elderly patients in our department after considering the patients condition and background. Such medical treatment is called silver care. We herein present cases of silver care and propose the philosophy of silver care as a future medical treatment in Japan.(Kitakanto Med J 2014;64:183∼191)

Key words: silver care, medical philosophy, elderly patient, silver care team, silver care unit

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