• 検索結果がありません。

第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因-供給構造の転換から-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因-供給構造の転換から-"

Copied!
38
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因−供 給構造の転換から− 著者 権利. シリーズタイトル シリーズ番号 雑誌名 ページ 発行年 出版者 URL. 清水 達也 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization (IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp 研究双書 562 ラテンアメリカ新一次産品輸出経済論−構造と戦略 145-181 2007 日本貿易振興機構アジア経済研究所 http://hdl.handle.net/2344/00011769.

(2) 第4章. ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因 ――供給構造の転換から――. 清 水 達 也. はじめに  ペルーでは1 9 8 0年代以降,サトウキビや綿花といった伝統的輸出農産物に 代わり,非伝統的輸出農産物といわれる野菜や果物などの新しい農産物輸出 が拡大している。なかでも注目を集めているのがアスパラガスである。19 80 年代末から輸出の拡大が始まり,現在はコーヒーに次いで最も重要な輸出農 産物となっている。生産量を見ると,1 98 0年代後半から1 9 90年代にかけて急 速に拡大し, 1 9 8 5年の1万6 0 0 0トンから1 9 95年には1 0万80 0 0トン, そして20 04 年には19万トンに達し,中国に次ぐ世界第2位の生産国となっている(図1, 。 後掲表1) 0 0年代に  アスパラガスの輸出は大きく缶詰と生鮮に分けられるが(1),20 入って,輸出の主役が缶詰から生鮮に交代している。缶詰輸出は1 9 80年代末 から拡大し1 9 9 0年代半ばをピークにその後は横ばいを続けている。一方,生 鮮輸出は19 9 0年代に入って成長を始め,2 0 00年代に入って急速に拡大した。 0 5 輸出量では2 0 0 2年,輸出額では2 0 0 3年に生鮮が缶詰を上回った(図2)。20 年の輸出量で見るとペルーは,生鮮アスパラガスでは世界第1位,缶詰アス パラガスでは中国に次いで世界第2位の輸出国である(後掲表2)。  なぜペルーのアスパラガス輸出は拡大しているのだろうか。一般に途上国 から輸出される農産物は,生育に適した土壌や気候の他,豊富で安価な労働.

(3)    図1 ペルーのアスパラガス生産 (1,000t) 200. (1,000ha) 25. 180 20. 160. 15. 生産量. 120 100. 10. 80. 栽培面積. 140. 60 5. 40 20. 生産量. 2004. 2002. 2000. 1998. 1996. 1994. 1992. 1990. 1988. 1986. 1984. 1982. 0 1980. 0. 栽培面積. (出所)FAOSTAT。. 力など生産要素の優位性を利用して栽培されるために,国際市場において価 格競争力を保持している。しかし国際市場において需給構造が変化したり, さらに価格競争力をもつ他の輸出国が現れたりすると,市場を奪われて輸出 が減少する。農産物輸出を継続して拡大するには,供給側が需給構造の変化 に対応しなければならない。ペルーのアスパラガスの場合,当初は気候や人 件費などの優位性により缶詰輸出が拡大したものの,競争相手の出現や需要 の変化により輸出の成長が止まる。しかし代わりに生鮮輸出が拡大し,主要 アスパラガス輸出国としての地位を維持している。  ペルーのアスパラガス産業については,      .  [1 99 5]が缶詰産業 の成立について研究を行っているほか,アスパラガス労働者に関する研究 (   [1993])や小規模生産者の競争力に関する研究(  [1 999] ). などが存在する。また,米州農業協力機構( 9 9 8年に行われたセン  )は1.

(4) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 図2 ペルーのアスパラガス輸出. 10. 0. 0. 生鮮輸出量. 缶詰輸出量. 生鮮輸出額. 2004. 20. 2002. 20. 2000. 40. 1997. 30. 1996. 60. 1994. 40. 1992. 80. 1990. 50. 1988. 100. 1986. 60. 1984. 120. 1982. 70. 1980. 輸出額. 140. 輸出量. (1,000t) 80. (100万米ドル) 160. 缶詰輸出額. (出所)Ministerio de Agricultura[1995],Global Trade Atlas。. サス・データをもとにアスパラガス産業の特徴を概観したレポート(   [  ])を発行している。これらの研究は主に缶詰用のホワイト・アスパラガ. スの栽培と輸出を対象とし,輸出におけるペルーの優位性については,生育 に適した気候や安価な労働力に言及するにとどまっている。生鮮輸出を対象 とした最近の研究としては,缶詰輸出企業による生鮮輸出への多様化( [20 01] )や,生鮮輸出の現状と政府や業界団体による取組みをまとめたレポー. ト(  [2004])が挙げられる。これらの研究は生鮮輸出拡大の要因として, 生鮮需要の増加という需要側の要因のほか,政府機関や業界団体による競争 力向上の取組みについて述べている。しかし,調査時点のみでの現状分析に とどまっており,缶詰と生鮮の商品としての特質の違いや,缶詰に代わって 生鮮が輸出の主力となった際の供給構造の変化についてはほとんど触れてい ない。.

(5)   .  そこで本章では,輸出アスパラガスに対する国際市場の需要変化を把握し たうえで,それに応じてペルーの輸出用アスパラガスの供給構造がどのよう に転換したのかを検討することで,ペルーのアスパラガス輸出が拡大を続け ている要因を明らかにしたい。具体的には,原料となるアスパラガスの供給 (栽培,加工,輸出)は誰が担っているのか,輸出の主役が缶詰から生鮮に変わっ. た際に,供給構造はどのように変わり,その要因は何かを考察する。  本章の構成は,第1節で生産統計や貿易統計を用いて,アスパラガスの需 給構造の特徴を説明する。ここでは,世界のアスパラガス生産・輸出入の変 化と,ペルー産アスパラガスの輸出先に注目する。第2節では缶詰アスパラ ガスについて, 輸出拡大とその要因, そしてその後の停滞について論じる。第 3節では生鮮アスパラガスについて,その拡大の要因を缶詰アスパラガスと 比較した商品需要の特質と供給構造の転換という視点から分析する。. 第1節 需給構造の特徴  1.生産の地理的拡大.  アスパラガスはもともと米国や欧州諸国などの主要消費国で生産されてい たが,近年はこれらの国に輸出するための生産が拡大している。  1 96 0年代以降の主要国のアスパラガスの生産量を示した図3を見ると,生 産の地理的分布が拡大していることがわかる。1 96 0年代は米国やフランスと いった主要消費国が主要生産国であった。その後,1 9 60年代末から台湾が急 速に生産を拡大し,世界有数の缶詰輸出国となった。さらにスペインやメキ シコなど,主要消費国の周辺国の生産が拡大した。これらの周辺国は,主要 消費国より温暖で収穫時期が長く,また人件費が安いなどの有利な条件によ り,生産を拡大したと考えられる。  さらに台湾が生産を縮小した1 98 0年代に入ってペルーの生産が拡大した。.

(6) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 図3 主要国のアスパラガス生産量 (1,000t,中国) 700. (1,000t) 200 180. 600. 160 500. 140 120. 400. 100 300. 80 60. 200. 40 100. 20 0 1961 1963 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003. 0. メキシコ. ペルー. スペイン. 米国. 台湾. フランス. 中国. (出所)FAOSTAT。中国についてはUSDA[2003,2005a],台湾についてはStatistical Office[1985, 1993,2001]。. 中国における生産もこのころから拡大していると考えられる(2)。19 9 0年代 半ば以降は,ペルーはスペインや米国などを追い抜き,中国に次ぐ主要アス パラガス生産国になった。  2 004年に世界の総生産量の1%以上を生産した国を表1に示した。第1位 は中国で58万7 5 0 0トンと世界生産の432 %を生産している。これにペルー ,米国(11万7930万トン,87 (1 9万1 4 0トン,140 %) %)が続いている。この他 は,主要な消費国である欧州諸国(ドイツ,スペイン,イタリア,フランス,オ ランダ)と日本,これらに供給するギリシャ,フィリピン,チリ,タイなど. が多くのアスパラガスを生産している。  同じ表で1 9 9 0年の生産量と比較すると,中国とペルーでは生産量が大きく 増加している一方,ドイツを除く欧州諸国では軒並み生産量が減少している。 このことから世界のアスパラガス生産は,輸出のために生産している両国へ.

(7)    表1 アスパラガスの主要生産国 1990. 2004. 1990/. 生産量(1,000t) シェア(%) 生産量(1,000t) シェア(%). 2004( %). 中国*. 394.08. 19.4. 587.50. 43.2. 149. ペルー. 58.00. 2.9. 190.14. 14.0. 328. 111.00. 5.5. 117.93. 8.7. 106. ドイツ. 22.01. 1.1. 72.52. 5.3. 329. メキシコ. 43.22. 2.1. 67.25. 4.9. 156. スペイン. 104.50. 5.2. 12.90. 4.2. 12. イタリア. 28.38. 1.4. 6.40. 3.0. 23. ギリシャ. 13.58. 0.7. 7.50. 2.5. 55. 日本. 33.00. 1.6. 6.26. 2.2. 19. 1.60. 0.1. 1.65. 1.6. 103. チリ. 10.44. 0.5. 4.10. 1.4. 39. フランス. 41.77. 2.1. 6.09. 1.4. 15. オランダ. 13.80. 0.7. 2.50. 1.1. 18. −. −. 3.40. 1.0. −. 米国. フィリピン. タイ. (出所)FAOSTAT。 (注)*1990年の中国の生産量は輸出量(8万2757トン)から筆者推計,2004年はUSDA[2005a]。. の集中度を高めていることがわかる。.  2.生鮮貿易の拡大.  1 99 0年代のアスパラガス貿易の特徴として,生鮮アスパラガス貿易の増大 と,特定の数カ国の輸出入の急増を挙げることができる。図4に世界各国の アスパラガス輸出額の総額を示した。缶詰アスパラガスの輸出額は,19 92年 以降1億80 0 0万∼2億2 7 00万ドルの間を推移しており,あまり変化していな い。一方生鮮アスパラガスは,1 99 3年の2億9 00 0万ドルから,1 99 9年には6 億ドル弱に増加した。その後一度縮小したものの, 2 00 1年以降は拡大し, 20 05 年には再び6億ドル弱に達している。  輸出入の動向についてさらに詳しく見るために,表2に1 99 5年と20 05年の 輸出入上位5カ国の貿易量を示した。缶詰輸出については,第1位の中国が.

(8) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 図4 アスパラガス輸出の総額 (100万米ドル) 700 600 500 400 300 200 100. 生鮮. 2005. 2004. 2003. 2002. 2001. 2000. 1999. 1998. 1997. 1996. 1995. 1994. 1993. 1992. 0. 缶詰. (出所)UN Comtrade。. 輸出量と世界の輸出合計に占めるシェアの双方について大きく伸ばしている。 輸出量は約4割増し,シェアは4 85 %から6 00 %と大きく拡大した。第2位の ペルーは輸出量,シェアともわずかに落ちた。第3位以降は,1 9 9 5年にはオ ランダが比較的大きなシェアを占めていたが,2 00 5年には19 %にとどまって いる。缶詰輸入では上位国のうち,スペインの輸入量増加が目立っている。 19 95年の1万7 90 0トンから2 00 5年には5万7 60 0トンへと約32 倍に増えた。  生鮮についても,輸出,輸入が特定の国へ集中する傾向が強まっている。 1 995年にはメキシコ,米国,ギリシャ,スペインがそれぞれ2万トン以上を 輸出し,1 5%前後のシェアで横並びであったのが,2 00 5年には8万トン, 334 %のシェアを占めるペルーと,5万3 80 0トン,224 %のメキシコの2カ国 が他国を大きく引き離している。一方輸入については米国の増加が著しい。 1 995年の3万5 9 00トン,2 55 %から,2 0 05年には10万83 00トン,4 60 %へと 倍以上に拡大し,第2位以下を大きく引き離している。.

(9)    表2 缶詰・生鮮アスパラガスの主要輸出入国(1995年,2005年) 1995 量 缶詰. 輸出. 輸入. 生鮮. 輸出. 輸入. 1995/. 2005 シェア. *. 量. *. シェア. 2005. (1,000t). (%). (1,000t). (%). (%). 総量. 155.4. 100.0. 総量. 176.9. 100.0. 114. 中国. 75.3. 48.5. 中国. 106.1. 60.0. ペルー. 42.0. 27.0. ペルー. 40.5. 22.9. オランダ. 17.4. 11.2. ドイツ. 8.7. 4.9. ドイツ. 3.7. 2.4. ベルギー. 8.5. 4.8. スペイン. 3.6. 2.3. スペイン. 4.1. 2.3. 144.2. 100.0. 175.6. 100.0. ドイツ. 49.9. 34.6. スペイン. 57.6. 32.8. フランス. 20.3. 14.1. ドイツ. 36.5. 20.8. スペイン. 17.9. 12.4. フランス. 26.8. 15.3. オランダ. 14.0. 9.7. ベルギー. 11.2. 6.4. 日本. 7.7. 5.3. 米国. 8.4. 4.8. 総量. 139.4. 100.0. 総量. 239.9. 100.0. メキシコ. 26.2. 18.8. ペルー. 80.0. 33.4. 米国. 22.2. 15.9. メキシコ. 53.8. 22.4. ギリシア. 21.5. 15.4. 米国. 23.3. 9.7. スペイン. 20.7. 14.8. スペイン. 16.8. 7.0. ペルー. 12.2. 8.7. タイ. 15.8. 6.6. 総量. 総量. 140.9. 100.0. 総量. 235.6. 100.0. ドイツ. 41.5. 29.4. 米国. 108.3. 46.0. 米国. 35.9. 25.5. ドイツ. 24.7. 10.5. 日本. 22.7. 16.1. 日本. 17.5. 7.4. フランス. 9.5. 6.8. カナダ. 16.7. 7.1. スイス. 9.0. 6.4. フランス. 12.5. 5.3. 総量. 122. 172. 167. (出所)UN Comtrade。 (注)*世界の輸出入量に占める割合。.  以上からアスパラガスの輸出入については,缶詰が横ばいなのに対して生 鮮が拡大をしていること,さらに,輸出国としては缶詰の中国,生鮮のペルー, 輸入国としては缶詰のスペイン,生鮮の米国がそれぞれ拡大していることが わかった。.

(10) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   .  3.ペルー産アスパラガスの輸出先.  次に本章の分析対象であるペルー産アスパラガスについて,輸出先,輸出 量,最近の変化について把握する。表3にペルー産アスパラガスの主要輸出 先上位10カ国を1 9 95年と2 00 5年についてまとめた。ここからまず,世界の貿 表3 ペルー産アスパラガスの主要輸出先上位国(1995年,2005年) 1995. 輸出量. 輸出量. (t). シェア(%). 総量. 40,515. 100.0. 41.1. スペイン. 17,400. 42.9. 20.1. 米国. 7,973. 19.7. 4,870. 11.6. フランス. 7,244. 17.9. フランス. 4,602. 11.0. デンマーク. 1,845. 4.6. ドイツ. 3,996. 9.5. オーストラリア. 1,389. 3.4. ブラジル. 903. 2.2. カナダ. 1,072. 2.6. ベルギー*. 692. 1.6. ドイツ. 1,016. 2.5. イタリア. 522. 1.2. オランダ. 916. 2.3. スイス. 321. 0.8. イギリス. 429. 1.1. チリ. 85. 0.2. イタリア. 313. 0.8. 総量. 12,184. 100.0. 総量. 80,021. 100.0. 米国. 9,926. 81.5. 米国. 59,133. 73.9. イギリス. 690. 5.7. スペイン. 6,562. 8.2. スペイン. 609. 5.0. オランダ. 5,430. 6.8. オランダ. 518. 4.3. イギリス. 4,682. 5.9. フランス. 164. 1.3. ベルギー. 762. 1.0. イタリア. 73. 0.6. ドイツ. 575. 0.7. 日本. 50. 0.4. オーストラリア. 506. 0.6. ドイツ. 43. 0.4. 日本. 403. 0.5. スイス. 34. 0.3. フランス. 370. 0.5. デンマーク. 32. 0.3. イタリア. 258. 0.3. 輸出量. 輸出量. (t). シェア(%). 総量. 41,959. 100.0. スペイン. 17,233. オランダ. 8,444. デンマーク. 国名 缶詰. 生鮮. 2005. (出所)UN Comtradeのデータを元に筆者作成。 (注)*ベルギーとルクセンブルグの合計。. 国名.

(11)   . 易動向と同様に,缶詰の停滞,生鮮の拡大という傾向がわかる。1 99 5年から の1 0年で,缶詰輸出量は3%減少したのに対し,生鮮輸出量は65 倍に拡大し た。続いて,ペルー産アスパラガスの輸出先市場について缶詰と生鮮に分け て詳しく分析する。.   欧州向け缶詰アスパラガス  缶詰の輸出先は1 99 5年,20 0 5年ともスペインが第1位である。それ以外の 国として,フランスやデンマークが重要であるが,2 0 05年には米国が第2位 となり,これらの欧州諸国を追い抜いて主要な輸出先となっている。ここで は,ペルー産缶詰アスパラガスが主要輸出先国の市場でどの国の商品と競合 しているのかをスペインの輸入を例として見た。  図5にはスペインの缶詰アスパラガス輸入の総量と中国,ペルーそれぞれ からの輸入量を示した。1 9 9 4年まではスペインの缶詰アスパラガス輸入はそ のほとんどがペルー産でまかなわれていた。しかし1 9 90年代後半に中国産の シェアが拡大し始め,2 0 02年にはペルー産を追い抜いた。その後,ペルーか 図5 スペインの缶詰アスパラガス輸入量 (1,000t) 70 60 50 40 30 20 10. 総量 (出所)UN Comtrade。. 中国. ペルー. 2005. 2004. 2003. 2002. 2001. 2000. 1999. 1998. 1997. 1996. 1995. 1994. 1993. 1992. 1991. 1990. 1989. 0.

(12) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 図6 スペインの缶詰アスパラガス輸入単価 (米ドル/kg) 4.00 3.50 3.00 2.50 2.00 1.50 1.00 0.50. 総額. 中国. 2005. 2004. 2003. 2002. 2001. 2000. 1999. 1998. 1997. 1996. 1995. 1994. 1993. 1992. 1991. 1990. 1989. 0.00. ペルー. (出所)UN Comtrade。. らの輸入が減少傾向にあるのに対して,中国からの輸入は拡大を続けている。  なぜペルーと中国のシェアが逆転したのだろうか。それは両国からの輸入 単価を見れば明らかである。図6には輸入額を輸入量で割った1キログラム 当たりの缶詰アスパラガスの単価を示した。一部を除いて中国からの単価は ペルー産に比べて安い。一方ペルー産缶詰は1 9 90年代後半以降,輸入全体の 平均より割高になっている。つまり,中国産缶詰は低価格を武器にスペイン 市場でシェアを拡大したのである。ドイツでは1 9 90年代初めから中国産がペ ルー産を大きく上回っているほか,フランスにおいても20 00年に中国がペ ルーを追い抜くなど,欧州市場全体で同様の傾向が見られる。.   米国向け生鮮アスパラガス  生鮮については,輸出先第1位である米国への輸出量が,1 9 9 5年の99 00ト ンから200 5年には5万9 0 0 0トンへと大幅に増加している。第2位以降の欧州 諸国への輸出量も増加しているが,2 00 5年でも輸出量の7 4%が米国市場に集 中しており,ペルーの生鮮アスパラガス輸出は米国における需要の拡大とと.

(13)   . もに増加してきたといえる。  米国における生鮮市場の拡大は,形態別消費のデータで確認できる。図7 は米国における1人当たりのアスパラガス年間消費量を,生鮮,缶詰,冷凍 の3形態に分けて示したものである。これによれば,1 9 80年代半ば以降に生 鮮消費が缶詰消費を上回り,特に1 99 0年代末以降はその量が急増している。  次に生鮮アスパラガスの需給についてその構造を図8に示した。1 9 80年代 半ばまでは国内消費のほとんどを国内生産でまかなっていた。1 99 0年代後半 から国内消費が急速に増加する一方,国内生産は横ばいを続け,2 00 0年以降 は減少している。この時期は,消費の増加を輸入でまかなっている需給構造 が確認できる。  生鮮アスパラガスの需要と供給が増加した要因は何だろうか。米国をはじ めとする先進国では,近年途上国から輸出された生鮮野菜・果物の消費が拡. 図7 米国の年間1人当たりアスパラガス消費量 (g) 700 600. 農場での重量. 500 400 300 200 100. 生鮮 (出所)USDA[2005b]。. 缶詰. 冷凍. 2005. 2003. 2001. 1999. 1997. 1995. 1993. 1991. 1989. 1987. 1985. 1983. 1981. 1979. 0.

(14) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 図8 米国の生鮮アスパラガス需給 (1,000t) 160 140 120 100 80 60 40 20. 国内生産. 輸入. 輸出. 2005. 2003. 2001. 1999. 1997. 1995. 1993. 1991. 1989. 1987. 1985. 1983. 1981. 1979. 0. 国内消費. (出所)USDA[2005b]。. 大している。米国の社会学者・フリードランドはこの要因として社会,経済, 技術の3つの側面での動向を挙げている(フリードランド[1999 。ま  30 33  1 0]) ず社会面では,市場国の国民の高所得・高学歴化と高齢化を挙げている。高 所得,高学歴,高齢の消費者は食品の安全性や健康により強い関心をもち, 加工食品よりも生鮮食品を好む。経済面では,資本の移動が容易になり,先 進国の資本が「逆シーズン」 (市場国の端境期に農産物を収穫できる)を利用し た新しい生産地を確保するために途上国への投資を進めている。技術面では 生産技術の移転により途上国に適応した品種が開発され, 世界的なコールド・ チェーン(冷蔵状態を保持したままの物流システム)の整備により世界中の産地 から先進国の消費者に生鮮農産物が届くようになった(3)。米国における生 鮮アスパラガス消費増加もこの傾向のひとつとして理解できる。  それでは,米国はこれらの生鮮アスパラガスをどこから輸入しているのだ.

(15)   . ろうか。図9に米国の生鮮アスパラガス輸入の総量と,主要供給国であるペ ルー,メキシコそれぞれからの輸入量を示した。1 9 90年代初めまでは米国が 輸入する生鮮アスパラガスの多くはメキシコ産で,ペルー産はわずかであっ た。1990年代末にペルーからの輸入が急増し,2 00 1年には両国からの輸入が ほぼ並んだ。その後,拡大を続けるペルーが,横ばいのメキシコを追い抜い た。  米国生鮮市場におけるメキシコとペルーの逆転は,スペイン缶詰市場にお ける中国の逆転と同様に両国からの輸入単価で説明できるのであろうか。図 1 0に米国の輸入生鮮アスパラガスの単価を示した。これによれば,1 9 91年か ら現在まで一貫して,ペルー産の単価がメキシコ産を上回っていることがわ かる。つまり,ペルー産アスパラガスは単価以外の別の要因で輸出を拡大し ているのである。  その要因が「逆シーズン」である。図1 1と図1 2に,19 89年と2 00 4年につい て,米国による生鮮アスパラガスの月別輸入量を原産国別に示した。これに よれば19 8 9年の輸入はほとんどがメキシコからで, 2月から3月に集中してい 図9 米国の生鮮アスパラガス輸入量 (1,000t) 120 100 80 60 40 20. 総量 (出所)UN Comtrade。. ペルー. メキシコ. 2005. 2004. 2003. 2002. 2001. 2000. 1999. 1998. 1997. 1996. 1995. 1994. 1993. 1992. 1991. 0.

(16) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . ることがわかる。これは,米国に比べて温暖なメキシコでは,米国よりも早 い時期に収穫できるからである。次に2 00 4年の状況を見ると,米国での収穫 期である4∼6月を除いて毎月大量に輸入するようになった。その輸入相手 国を見ると,9∼1 2月はほとんどがペルー産となっている。これは,南半球に 位置するペルーは米国やメキシコと季節が逆で,1 0∼1 2月が主要な収穫期に あたるためである。つまり,4∼6月は米国内の産地が,1∼3月はメキシコ の産地が,そして9∼1 2月はペルーの産地が主な供給地になることで,米国 市場には年間を通して生鮮アスパラガスが供給されるようになったのである。  このように,米国で拡大する逆シーズンの需要に対して供給することで, ペルーの生鮮アスパラガス輸出は拡大した。ただし,生鮮農産物は,缶詰農 産物と比べて商品として異なる特質をもっており,それに適した供給構造も 異なってくる。生鮮農産物の需要が拡大しても,缶詰農産物と同じ供給構造 のままでは生鮮輸出を拡大することはできない。そこで次節以降は,輸出拡 大とその供給構造の変化について検討する。 . 図10 米国の生鮮アスパラガス輸入単価 (米ドル/kg) 3.50 3.00 5.50 2.00 1.50 1.00 0.50. 総額 (出所)UN Comtrade。. ペルー. メキシコ. 2005. 2004. 2003. 2002. 2001. 2000. 1999. 1998. 1997. 1996. 1995. 1994. 1993. 1992. 1991. 0.00.

(17)    図11 米国の月別アスパラガス輸入(1989年) (t) 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 メキシコ. ペルー. その他. (出所)Interactive Tariff and Trade DataWeb。. 図12 米国の月別アスパラガス輸入(2004年) (t) 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 メキシコ (出所)Interactive Tariff and Trade DataWeb。. ペルー. その他.

(18) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 第2節 缶詰アスパラガス輸出の拡大と伸び悩み  1.ホワイト・アスパラガスの導入と拡大.  輸出用缶詰の原料となるホワイト・アスパラガスは,1 9 50年代にペルー北 部の工業都市であるトルヒーヨ市を中心とした農業地帯(北部海岸地域)に導 入された(      .  [1995] )。最初に栽培を始めたのは農産物加工を手が ける    . .

(19)    .         社である(4)。同社は自社農園にホワイト・ アスパラガスを導入し,これを缶詰加工して輸出を開始した。19 6 0年には      . 

(20).  社が缶詰加工に参入し, 19 7 0年代末までこの2社による加 工・輸出が続いた。  196 0年代末から進められた農地改革で大規模農場が解体されると,中小規 模の農民がアスパラガスを栽培し始めた。そして,これを直接または集荷業 者などを通して缶詰工場が買い取るという原料の外部調達が一般的になった。 1970年代にはトルヒーヨ市周辺の1 0 0 0ヘクタール前後で約5 0 0 0トンのアスパ ラガスが栽培され,2 0 00トン前後の缶詰アスパラガスが輸出された。  1980年代に入って急速な工業化により台湾からの缶詰アスパラガスの輸出 が減少したことは,ペルーのアスパラガス産業にとって拡大の契機となった。 市場機会の拡大に対して,1 9 7 9年から1 9 8 4年の間にトルヒーヨ市とその南に 位置するサンタ市に4つの缶詰製造企業が設立された。それとともに原料と なるホワイト・アスパラガスの需要も拡大し,1 9 79年に初めて1 0 00ヘクター ルを超えた栽培面積は, 1 9 8 5年には3 0 0 0ヘクタール, 19 9 1年には1万ヘクター 5 ル(うち,7000ヘクタールが北部海岸地域)を超えた。輸出量も拡大し,198 年には50 0 0トンを超え,1 9 9 1年には3万7 0 00トンに達した。デンマークの他, スペインやフランスなどの欧州諸国が主要な輸出先であった。  北部海岸地域でアスパラガス缶詰産業が成長した理由はいくつか考えられ る。第1の理由として,この地域の気候と土壌がホワイト・アスパラガスの.

(21)   . 栽培に適していたことが挙げられる。アスパラガスは気候が温暖な方が生育 は早いが,温度が高すぎると貯蔵養分の蓄積が効率よく行われないために, 収量が低くて収穫できる年数も短くなる。また,高温多湿の場合,茎枯病と いう病気が発生しやすい(農山漁村文化協会[2004  1 4])。トルヒーヨ市付近の 気候は各月の平均最高気温が2 0∼2 5度,平均最低気温が1 4∼1 8度と年間を通 じて寒暖の差が小さく,季節を問わずに栽培ができ,年に2回収穫できると いう条件に恵まれていた。土壌については,この地域の畑は砂が多く混じっ た砂壌土からなっており,土壌が硬くなりにくい。このため,盛り土のなか を若茎が真っ直ぐに成長しやすく,ホワイト・アスパラガスの栽培に適して いる。  第2に重要なのが農業基盤の存在である。トルヒーヨ市の周辺にはチャオ 川,ビルー川,モチェ川,チカマ川などのペルー北部の主要河川が位置し, これを中心に大規模な農業地帯が広がっている。ここではサトウキビや飼料 用メイズなど商業的な農業が以前から行われており,農業に必要な資本財, 投入財,サービスの供給体制が整っていた。  第3にトルヒーヨ市の工業基盤である。トルヒーヨ市は国内では首都のリ マ市,南部のアレキパ市に次ぐ国内第3の規模をもつ都市であり,農水産業 に関連した製造業が存在した。近くの漁港から水揚げされたマグロを原料に ツナ缶を製造する缶詰産業が以前から存在しており,これが缶詰アスパラガ ス産業の発達に寄与した。  このほか安価な労働力が豊富に存在したこともアスパラガス産業の拡大を 支えた。ペルーでは1 9 6 0年代以降,アンデスの山間地域から海岸地域へ移民 が大規模に流入した。北部海岸地域へも移民が流入し,その多くが農業労働 者となった。アスパラガスは収穫に多くの労働力を必要とするが,生産者は これらの労働者を低賃金で雇うことができた。 .

(22) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   .  2.缶詰輸出の伸び悩み.  缶詰輸出は欧州を主な市場として1 99 0年代半ばまで成長するものの,1 9 90 年代半ばをピークに,その後は成長が止まった。その理由はこれまでに見た とおり,国際市場における缶詰アスパラガスの需要が拡大していないことに 加え,中国産缶詰が低価格を武器に欧州市場でのシェアを拡大したためであ る。  ペルー産缶詰アスパラガスが中国産に価格で対抗できなかったのは,中国 と比べて高い人件費を,新技術の導入などによる収量や品質の向上でカバー できなかったからである。これには,主に小規模生産者がアスパラガスを栽 培し,それを缶詰加工企業が買い取るというペルーにおけるホワイト・アス パラガスの供給構造が関係している。  1 99 0年代初めまでにはペルーにも,ハイブリッド種子や点滴灌漑などアス パラガスの収量と品質の向上を可能にする新しい栽培技術がもたらされた。 しかし缶詰用ホワイト・アスパラガスを栽培する小規模生産者は資金を調達 できなかったために,新技術の導入をすすめることができなかった。その理 由として当時の経済状況が挙げられる。19 8 0年代末には経済危機が発生し 19 90年にはハイパー・インフレーションが発生した。それに続く1 99 0年代の 経済自由化改革では,政府による経済活動への介入が大幅に縮小された。農 業部門では,農業銀行や農業試験場の廃止,農業投入財の流通を担っていた 公営企業の民営化が行われた。その結果,小規模の生産者は新しい技術を導 入しようとしても,資金も技術も得ることができなかった。そして,中国と の競争により缶詰加工企業が原料の買取価格を引き下げると,多くの生産者 がアスパラガス栽培から撤退した。缶詰加工企業は安価で質の良い原料を外 部から調達することができず,これが缶詰輸出拡大の伸び悩みにつながった(5)。. .

(23)   . 第3節 生鮮アスパラガス輸出の拡大と供給構造の転換  1 99 0年代半ば以降,缶詰輸出が伸び悩んでいる一方で生鮮輸出が急拡大し ている。これは新規参入した農業企業が,拡大する米国市場に対応するため に生鮮需要の特質に合わせた新しい供給構造を築いたことで可能になった。 具体的には,新技術の導入と,農業企業によるアスパラガスの栽培・加工・ 輸出の統合が,生鮮拡大のカギとなったのである。.  1.生鮮輸出需要の特質.  途上国から輸出される生鮮農産物とその供給構造に求められる特質は,缶 詰農産物に比べてさまざまな点で異なる。ここではアスパラガスを例に,品 質,安全性,安定供給について考える。まず品質については見栄えの美しさ が重要である。アスパラガスの等級は長さ,太さ,先端の開き具合,色,茎 の曲がり具合などによって決まる。生鮮用に輸出されるグリーン・アスパラ ガスの場合,長さ2 0センチメートル前後(収穫時は25センチメートル前後),太 さ1センチメートル前後,先端が締まり,茎は真っ直ぐでほとんどが緑色, 病虫害による変色や虫食いがないなどの条件が揃っていれば最も高い等級に 分類される。太さや長さが規格から外れている場合はもちろん,先端が開い ていたり,茎が曲がっていたりすると,それ以下の等級に分類される。ホワ イト・アスパラガスの場合も同じような基準が決められている。しかし缶詰 に加工する場合,洗浄後に皮をむいて熱湯を通すため,多少の傷や茎の曲が りは問題とならない。  品質でもうひとつ重要なのが鮮度である。生鮮の場合は最終消費者の手元 に届くまで鮮度を維持する必要がある。ペルー産グリーン・アスパラガスの 場合,収穫後最大3週間までは商品として販売される状態を維持することが 可能だという。ただしそのためには,収穫後できるだけ早く冷蔵して劣化を.

(24) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 防ぐことが重要である。さらに加工工場から小売店まで低い温度を保ったま ま輸送するコールド・チェーンが整備されている必要がある。  輸入生鮮農産物については,規制されている残留農薬が輸入時の検査で見 つかる事例が近年相次いでいることもあり,消費者の間で安全性に対する懸 念が高まっている。そのため,生産,流通,販売の各段階を通して,安全性 を確保するための管理体制の整備が求められている。  安定供給については,特にスーパーマーケット・チェーンなど大規模の小 売店や外食産業に販売する場合に特に重要となる。ペルーの生鮮アスパラガ スは主に9∼1 2月の間に米国市場向けに輸出される。この期間を通して,顧 客の要望に応じて安定した量を出荷することができれば大きな利益を生む。 そのためには単に収穫できたものを販売するのではなく,需要に合わせて栽 培する供給構造が求められる。.  2.農業企業の参入.  缶詰とは異なるこのような特質をもった生鮮需要に対して供給を増やした のが大規模農場において最新の技術を導入した農業企業である。そのきっか けとなったのが1 9 80年代半ばにリマ市の南にあるイカ県の農業生産者組合が 始めたプロジェクトである。彼らは,新たな輸出農産物の開発を目的に米国 際開発庁( )の援助を受けて米国市場を視察し,有望産品のひとつとし てアスパラガスを選定した。そしてイカ県アスパラガス生産者協会(       を組織した。この協会は米国際開発    .  .   .

(25)    .          ) 庁の援助を受けて米カリフォルニア大学デービス校の専門家を招聘し,当時 開発されたばかりのハイブリッド種子1  5 7を導入して苗床を設置した。 協会のメンバーはこの苗を利用してアスパラガスを栽培し,1 986年末から輸 。 出を始めた(  [2004  67     ],   [1 9 93  3 4] )  南部海岸地域はグリーン・アスパラガスの生育に適した気候である。年間 を通して気温が安定している北部に比べ,南部は寒暖の差が大きい。生産地.

(26)   . のひとつであるピスコ市の各月の平均最高気温は1 9∼27度,平均最低気温が 12∼19度と, トルヒーヨ市と比べて最高, 最低気温とも変動の幅が大きい。そ のため南部では主な収穫期が1 0∼12月となり,米国の端境期と一致する。曇 りがちのトルヒーヨ市周辺に比べてイカ県は日照量が多く,盛んな光合成に よりアスパラガスの緑色が濃くなることも重要である。さらに,輸出の拠点 となるリマ国際空港やカヤオ港まで約2 0 0キロメートルと, トルヒーヨ市から の約60 0キロメートルと比べて近いことも生鮮輸出にとって有利である。  当初数十ヘクタールから始まったグリーン・アスパラガスの栽培は,米国 で受け入れられたことでその後急速に拡大した。イカ県のアスパラガス栽培 面積は19 8 7年の90ヘクタールから,翌年には3 88ヘクタール, 1 9 91年には1 0 00 ヘクタール,1 9 9 4年には4 0 00ヘクタールに達した。2 0 04年の国内のアスパラ ガス栽培面積1万8 0 0 0ヘクタールのうち,約半分がイカ県を中心とする南部 海岸地域に位置している。  また,1 9 9 1年に米国がアンデス特恵関税措置(      .       

(27).  (6) を導入したことも,生鮮アスパラガス輸出への投資が拡大する要因 ). となった。米国の輸入アスパラガスに対する関税は,生鮮の場合は2 13 %(た ,缶詰の場合1 49 %であるが,この措置 だし,9月15日から11月15日までは5%) によりペルー産アスパラガスは関税が免除され,他の輸出国に対して有利な 条件を得た。  生鮮輸出用アスパラガス導入のきっかけとなったのは中規模の生産者を中 心としたアスパラガス生産者協会であったが,1 99 0年代末からの生鮮輸出拡 大の中心となったのは南部海岸地域に新たに設立された栽培,加工,輸出を 一貫して手がける農業企業である。農地改革以降1 98 0年代末までは企業によ る土地所有が制限されていた。そのためホワイト・アスパラガスでは,中小 規模生産者が栽培しそれを加工企業が買い取って缶詰加工して輸出する供給 構造が成立していた。しかし1 9 9 0年代に進められた経済自由化により企業に よる土地所有に制限がなくなったのを契機に,土地を取得する農業企業の参 入が相次ぎ,この供給構造に変化が現れた(7)。表4にペルーの主要アスパラ.

(28) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . ガス企業の特徴を示したが,このうち,社や社のように製造業や鉱業など 豊富な資本をもつ国内の他産業の企業が新規参入した他,社のように中規 模生産者から出発し,欧米の取引相手と共同で出資して農場を拡大した例も ある。南部海岸地域の農業企業は,商業銀行が債務の担保物件として差し押 さえた土地などを購入した。これらの土地は協同組合が所有していたものの, ほとんど利用していなかった土地である。この地域では雨がほとんど降らな いため,農業生産には灌漑整備が必要であったが,そのための資金が調達で きなかったからである。購入した企業は井戸の掘削,用水路や貯水池の建設 など灌漑整備に投資することで,不毛の地を生産性の高い農地に転換した。 その結果,原料を自社農場から調達するという新たな供給構造が生まれた。  表4には生鮮輸出企業の他,北部海岸地域の缶詰加工企業(社,社, 社)の特徴も示した。これらの企業は現在では大規模な自社農場をもち,原料. の一部をそこから調達している。しかしこれらの缶詰加工企業が,参入時は 外部調達に依存し,徐々に自社農場からの調達の割合を増やしているのに対 して,生鮮輸出の農業企業は当初より自社農場からの調達を前提に参入した 点が大きく異なる。.  3.新技術の導入.  新規に参入した農業企業は,自社農場に新技術を導入し,さらに栽培,加 工,輸出を統合した。新技術として具体的に挙げられるのが,点滴灌漑,ハ イブリッド種子,農業技術者の3つである。これらの導入には大きな初期費 用がかかるうえに規模の経済が働くため,導入することができたのは資本力 の豊かな農業企業に限られた。.   点滴灌漑  点滴灌漑とは畝に沿って設置された小さな穴の空いたパイプにポンプで水 を送り込んで灌水する灌漑方法である。点滴灌漑にはいくつかのメリットが.

(29)   . あるが,第1に挙げられるのは少ない水量で灌漑ができることである。ペ ルーの海岸地域は降雨がほとんどなく,耕作できるのは河川流域の灌漑施設 が整っている場所に限られる。さらに河川の流量が十分であるのはアンデス 山脈の雨期である1 1∼4月の間で,それ以外の時期は井戸水に頼るしかない。 畝に水を流す通常の灌漑方式(重力灌漑)の場合,大量の水を必要とするた めにポンプの燃料費がかさみ,生産費用が高くなる。点滴灌漑なら途中で土 表4 ペルーの主要アスパラガ 事業. 生 鮮 輸 出. 企業. 地区. 操業開始. A. 南部. 1995. 製薬,農薬. B. 南部. 1987. 農業,米国の流通. 出資元. アスパラガス 栽培面積. 種類*. 1,200ha. グリーン. 480ha. グリーン. 企業が農場に出資 C. 南部. 1998. 鉱業. 560ha. グリーン. D. 北部. 1989. 養鶏. 700ha. ホワイト. E. 北部. 1997. 漁業,2003年から. →グリーン 1,500ha. スペイン資本45% 缶 詰 加 工. F. 北部. 1994. 農業. G. 北部. 1994. 地場企業40%,デン. H. 北部. 1997. ホワイト1/3 1,100ha. 885ha. マーク食品企業60%. 中 規 模. グリーン2/3. ホワイト. ホワイト,少 量のグリーン. 85ha. ホワイト →グリーン. I. 北部. 1999. J. 北部. 1998. 50ha. ホワイト →グリーン. アスパラ集荷業者. 105ha. ホワイト. (出所)各企業からの聞き取り調査(2005年10月)とLanderas Rodríguez [2004: 244]に基づき筆者 (注)*矢印は種類の変更を示す。.

(30) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 壌に吸い込まれることなくパイプからしみ出た水が直接作物の根に届くため, 重力灌漑に比べわずかな水で灌水が可能になる。  第2のメリットは労働力の削減である。点滴灌漑では作物以外には水が届 かないため,畝に雑草が育ちにくく,除草のための労働力を大幅に削減でき る。また,圃場のパイプに送り込む前に水に液肥を混ぜることで施肥ができ るため,施肥のための労働力も減らすことができる。 ス企業の特徴(2005年10月時点) アスパラガスの調達 ほとんど自社。1%のみ外. 販売形態 直接販売が主. 部. 販売先 4年前は米国98% 現在は欧州80%,米国20%. 自社のほか,欧米の輸入企. 委託販売(米),固定価格. 業と共同出資の中規模農場. (イギリス). から調達. 委託販売(米),固定価格. 欧州70%,米国30% 米国70%,欧州30%. (主に欧州)が半分ずつ 全て自社農場から. 生鮮は委託販売,缶詰は. 生鮮は米国,缶詰は欧州. 直接販売 20−25%を中規模(30−50. 缶詰は固定価格,生鮮は. 缶詰はスペイン,フランス,. ha) , 大規模(250−300ha). 委託販売. 米国。生鮮は米国. 65−70%は自社農場。残り. 直接販売1/3. 欧州,米国. は他社から調達. 卸売業者1/3. 農場から調達. 委託販売1/3 当初は全て外部調達,最近. 欧州(デンマークなど). 自社農場での栽培始める. 生鮮は北米(米国,カナダ) 委託販売. 米国 国内の缶詰加工企業,生鮮 輸出業者 国内の缶詰加工企業,生鮮 輸出業者. 作成。.

(31)   .  第3のメリットは細かい栽培管理が可能になることである。大規模農場の 多くはコンピューターによって点滴灌漑を管理している。そのため,アスパ ラガスの生育段階や気象条件などに合わせて,圃場ごとに灌水量や液肥の種 類を変えることが可能である。細かい管理は収量を改善し,収穫時期の調整 を可能にした。.   ハイブリッド種子  新技術の2つ目はハイブリッド種子である。これを導入することで収量が 向上し,高品質のアスパラガスを収穫できる割合が高くなる。多くの小規模 0ド 生産者はハイブリッド種から作られた種子(2)を1ヘクタール当たり8 ルほどで購入したり,自家採取した種を使ったりしている。それに対して大 規模農場では米国から輸入するハイブリッド種子(1)を使っている。この 種子のコストは1ヘクタール当たり750ドルと2に比べると非常に高い。 しかし,アスパラガスは一度植えれば1 0年間は収穫でき,その間高い収量と 最上級の等級に分類されるアスパラガスが多く収穫できれば,初期投資の回 収が可能になる。.   農業技術者  3つ目の新技術が農業技術者である。農業企業では大学卒の農業技術者が 農場における栽培全般を管理することで,収穫の量と質の改善を図っている。  農業技術者の仕事は,常に圃場を回り生育状況を見ながら点滴灌漑の調節 を指示し,病虫害の予防や発生後の措置をとることである。そのために彼ら は国内各地で開催される栽培技術関連のセミナーに参加して,新しい病虫害 への対処法や,天敵を導入して害虫の発生を抑えることで農薬の利用を減ら す総合的病虫害管理などの手法を学んでいる。  近年は栽培面積の増加にともない,アスパラガスの病虫害が頻繁に発生し ている。そのため,病虫害をコントロールするための農薬にかかる費用が増 加し,コスト削減が重要な課題となっている。そこで多くの大規模農場では,.

(32) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 圃場に害虫を寄せ付けるわなを設置して害虫を常時監視することで被害の拡 大を防ぐ措置を講じている。大発生後に農薬を散布するよりも事前の対策で 拡大を防げれば,安全かつ低コストで害虫をコントロールすることが可能に なる。  新技術の効果を具体的に見ることは難しいが,導入している農業企業の大 規模農場では年間1ヘクタール当たり最低でも1 5トン,最大4 0トンぐらいの 収穫が可能である。一方,ペルー全体のアスパラガスの平均収量は約10トン で,多くの小規模生産者はこれ以下である。.   初期費用と規模の経済  農業企業だけがこのような新技術を導入できた理由として,初期費用が高 額なことと技術導入には規模の経済が働くことが指摘できる。例えば点滴灌 漑の導入には,ヘクタール当たり最低でも4 0 00∼50 0 0ドルが必要になる。小 規模生産者の多くが栽培している飼料用メイズの年間1ヘクタール当たりの 農業所得が1 4 0 0ドル程度なので,点滴灌漑の導入は彼らにとってかなりの負 担になる。さらにアスパラガスは最初の収穫まで1年半,初期投資が回収で きるまで2∼3年かかるため,その間の支出に対する準備も必要である。そ のような資金を調達できるのは,他産業で蓄積した自己資本を有するか,銀 行から融資を受けることが可能な農業企業に限られる。  点滴灌漑の導入においては,井戸やポンプ,フィルターなど規模にかかわ らない一定の投資が必要になる。これらの固定投資は規模が拡大するほど単 位面積当たりの費用が小さくなるため,農業企業の大規模農場だと有利にな る。ハイブリッド種子や肥料など栽培面積に応じてコストがかかる投入財に ついても,農業企業なら大量購入や外国からの直接輸入によってコストを削 減することができる。 .

(33)    図13 アスパラガスの供給構造の転換. 缶詰アスパラガス (1990年代半ばまで) 中小規模 生産者. < 土地 1990年 新し 取得の 代> 他部 い農地 自由化 門か の出 外資 らの 現 の流 投資 入. 生鮮アスパラガス (1990年代半ば以降) 農業企業 <自社農場> ハイブリッド種子 点滴灌漑 農業技術者 GAP認証. 非ハイブリッド種子 重力式灌漑. (3)計画栽培. (1)履歴管理・ 認証取得. スポットで買付 (2)物流整備. 集荷業者. <加工場> 洗浄,分類, 包装,冷蔵 GMP, HACCP認証. 缶詰加工企業 アスパラガス 缶詰製造 海上輸送. 航空輸送 海上輸送 委託販売. 食品輸入企業 (販売代理店). 食品産業 小売店. 輸入企業 (ブローカー). (3)直接販売. 卸売市場 大手スーパー. 欧州市場. 食品産業 小売店 米国市場. 大手スーパー 欧州市場. (出所)筆者作成。.  4.栽培から輸出までの統合.  栽培部門における新技術の導入に加え,図1 3に示した栽培,加工,輸出の 統合という供給構造の転換により,農業企業は拡大する生鮮輸出の主役と なった。  缶詰アスパラガスの場合,輸出の成長が止まった1 9 90年代半ばまでは,中 小規模の生産者が原料となるホワイト・アスパラガスを栽培し,それを集荷 業者が買いつけて企業に販売し,企業が缶詰に加工して輸出していた。つま り生産者,集荷業者,加工企業の間で,栽培,国内流通,加工・輸出の役割.

(34) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 分担がなされていたのである。  一方生鮮アスパラガスの場合は,栽培から輸出まで一貫して手がける農業 企業が199 0年代半ば以降の拡大の中心となった。大規模の自社農場を設立し, 新技術を導入して質の高いアスパラガスを大量に栽培する。収穫したアスパ ラガスは自社で加工し,さらに整備されたコールド・チェーンを通して飛行 機または船で市場国まで輸送する。市場国での販売は,現地のブローカーに 販売を委ねる委託販売に加え,大手スーパーマーケット・チェーンなど小売 業者へ販売する直接販売も増やしている。  このような農業企業による統合の特徴として,履歴管理,認証取得, 物流整備,直接販売,計画栽培の3つが挙げられる。.   履歴管理と認証取得  栽培や加工段階における履歴管理と認証取得は,生鮮輸出農産物需要の特 質のひとつである食の安全性を確保し,それを消費者に伝えるための重要な 方法である。農業企業は栽培から輸出までを統合することで,これらの導入 を可能にした。  生鮮農産物が輸入される際の検疫時に,使用が許可されていない農薬や基 準以上の残留農薬が検出されると,輸入が許可されずに廃棄される。さらに 該当した輸出業者や生産地域,輸出国からの農産物については,一定期間の 輸入禁止や全量検査措置などがとられる(8)。生産側が市場国の植物検疫や 食品衛生基準に関する内容を把握し,それを遵守することが重要となってい る。  安全性確保のためには,許可されている農薬のみを,許可されている方法 で使うことはもちろんのこと,農薬や肥料の使用を記録し,買い手の要求に 応じて示すことができる栽培履歴の管理を求められる場合が増えている。し かし,ほとんどの小規模生産者は栽培履歴を記録していないため,彼らから 調達したアスパラガスでは買い手の要求に応じられない。たとえ栽培履歴を 記録していたとしても,輸出企業が買い取ったアスパラガスを生産者ごとに.

(35)   . 区分して栽培履歴を管理するには多大な費用がかかる。  それに対して自社農場を抱える農業企業は,初めから農薬や肥料の使用を 圃場の区画ごとに記録しており,区画ごとに収穫したアスパラガスをロット に分けて加工している。そのため,輸出されるパッケージについているバー コードを読み取れば,それがいつ,どの区画から収穫され,どのような栽培 履歴をもっているかを即座に確認する体制を整えている。  栽培履歴や加工工程の管理を進めて安全性を確保したとしても,それが確 かであることを買い手や消費者に示すことができなければ安全な生鮮農産物 としての評価を得られない。 それを可能にするのが適正農業規範(  .

(36). .         . )と呼ばれる栽培に関する認証の取得である(9)。生鮮アスパラガ. スの販売先である欧米の大手スーパーマーケットの多くが輸出側にこれらの 認証の取得を求めている。  の認証取得のためには,栽培履歴,農薬利用,労働者の衛生などの管 理体制の構築と維持が求められる。例えば,圃場の土壌・水質の分析,ハイ ブリッド種子の利用,農機具の消毒,農薬保管庫の設置,農薬散布時の労働 者の安全対策,トイレと手洗いの設置,労働者の健康・衛生管理などの実施 が必要になる。認証は取得後も定期的に監査を受けて更新しなければならな い。  さらに,市場によって異なる認証を求められる場合がある。米国市場の のほかに,欧州市場であれば欧州の流通業者団体が定めるユーレップ・ ギャップ()と呼ばれる類似の別の認証を取得する必要がある。ま たイギリスのスーパーは別の会社による認証を求めることがある。  このように,認証の取得・維持には大きな費用がかかるが,農業企業は規 模の経済を生かして自社の大規模農場に導入し,買い手からの要望に応えて いる。.   物流整備  生鮮農産物は消費者の手に渡る段階でも鮮度を維持していることが重要で.

(37) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . ある。農業企業は統合により,栽培から輸出までの物流を整備してより高い 鮮度の維持を可能にしている。  加工企業が原料を外部から調達する場合,集荷業者は1日に1,2回,小規 模生産者を回って収穫されたアスパラガスを集めて加工場に運ぶ。この間, 長い場合は収穫後半日近く圃場において常温で保存され,その間に劣化が進 むことになる。一方農業企業の場合,圃場で収穫したアスパラガスは長くて も4 0分程度で加工場に運ばれ,洗浄,分類,切断,包装されて保冷倉庫に保 存される。収穫から冷蔵までの時間を短縮することにより,劣化を抑えて商 品としての寿命を延ばすことができる。  加工場から出荷されたアスパラガスは保冷トラックでリマ市にある国際空 港まで運ばれ,航空機に積み替えられて米国や欧州諸国に輸出される。しか し1 99 0年代半ばまでは,空港での積み替え時に温度が上昇し,品質の劣化が 進むことが問題になっていた。空港内に保冷倉庫がなく,トラックから降ろ されたアスパラガスは航空機に積み込まれるまで,場合によっては数時間以 上炎天下に放置されていたためである。  この問題の解決に取り組んだのが主に生鮮アスパラガス輸出を手がける農 業企業が集まって組織したフリオ・アエレオ(      )という団体である。 19 98年に設立されたこの団体はリマ国際空港内で輸出生鮮農産物の保冷倉庫 を建設・運営し,航空機への積み込みサービスを提供しはじめた。これによ り,以前は航空機への積み込み時に切れていたコールド・チェーンが農場か ら消費地までつながり,ペルー産生鮮アスパラガスの質が向上した。さらに フリオ・アエレオは,保冷庫にもちこまれたアスパラガスの温度,等級,保 冷庫から出されて航空機に積み込まれるまでの時間などの情報を,生産企業 別,航空会社別にまとめて定期的に利用者に公表することで各利用者の全体 のなかでの位置づけを示し,品質や物流サービスの改善を促している。.   直接販売と計画栽培  栽培,加工,輸出を統合した農業企業は,輸入業者を通した委託販売だけ.

(38)   . でなく,スーパーマーケット・チェーンなど大規模な小売業者などへの直接 販売を増やすことで生鮮輸出を拡大している。  アスパラガスをはじめ生鮮農産物を輸出する場合,大きく分けて委託販売 と直接販売の2つの販売形態がある。委託販売では,輸出企業が市場国の輸 入業者などのブローカーに商品を託し,ブローカーが顧客を見つけて価格を 交渉して販売する。ブローカーは売上げから販売手数料を差し引いて輸出企 業に支払う。この場合,輸出企業はその商品が誰に販売されるかは事前には わからない。価格もブローカー任せとなるが,市場の需給状況によって決ま るために大きく変動することが多い。これに対して直接販売では,輸出企業 が買い手となるスーパーマーケット・チェーンや食品企業と交渉し,事前の 合意に基づき販売する。間にブローカーや専門商社が入る場合もある。合意 内容には販売の期間,販売量,価格が含まれる。店頭にそのまま並べられる よう,買い手が包装材や包装形態を指定することも多い。  ペルーの生鮮アスパラガスを輸出している農業企業は,米国向けは主に委 託販売を採用しているが,最近は欧州向けを中心に直接販売の割合を増やし ている。供給側から見た直接販売のメリットは,事前に買い手,販売量,価 格が確定することである。事前に毎月,毎週の出荷量が確定すれば,それに 合わせて圃場の拡張などの投資を行い,植付けや点滴灌漑の調整など,1日ご との目標収穫量を定めた詳細な栽培計画を立てることができる。実際には直 接販売で合意した供給量を必ず確保できるように多めに栽培し,それを上 回った分は委託販売にまわしている。市場価格の高騰時と比べると,直接販 売の合意価格は安いことが多いが,市場価格が大幅に下がった場合でも安定 供給を条件に一定の価格水準は維持される点が有利である。  このほかに直接販売のメリットとしては,販売先から需要に関する情報が もたらされることである。委託販売の場合には供給側と需要側の間では商品 の売買以外のやりとりはほとんど発生しない。しかし直接販売によって固定 的な関係が長期間続くことで,商品に対する仕様,クレーム,新しい需要な どに関する情報などが入ってくる可能性が出てくる。例えば,国によって一.

(39) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . 束の重さや利用される包装材が異なるが,これらは大手スーパーマーケット・ チェーンから商品の仕様について具体的な指示がある。包装時には仕様通り の重量があっても輸送時の水分蒸発で到着時にその重量を満たさないという クレームには,それをあらかじめ計算して多めの量を包装するという対応が とれる。また,アスパラガスの先端だけ欲しいという要望に対しては,先端 だけを切ってトレーに並べた商品を開発して供給する。固定的な関係が長期 間続けば,販売先からもたらされた情報を栽培,加工,輸送など各工程の改 善やより付加価値の高い製品の開発に結びつけることができる。. むすび  本章ではペルーのアスパラガス輸出について,その拡大の要因を検討して きた。ここで明らかになったのは,国際市場においてアスパラガスの需給構 造が変化すると,それに合わせてペルーにおける供給構造が,生鮮輸出に対 応したものへと転換したことである。  1 99 0年代前半までペルーは,アスパラガスの生育に適した土壌や気候,豊 富で安価な労働力に基づいた優位性により,缶詰輸出を拡大してきた。しか し中国産缶詰が低価格を武器に欧州市場で拡大したこと,そして国際市場の 缶詰需要自体が横ばいになると,ペルーの缶詰輸出は伸び悩んだ。  国際市場における生鮮需要が米国を中心に増大すると,市場国とは収穫期 が異なる逆シーズンという優位性を利用して,ペルーでは新たに参入した農 業企業が生鮮アスパラガス輸出の中心になった。缶詰と生鮮では需要の特質 が異なるため,従来の缶詰輸出企業では簡単には対応できなかったのである。 これらの農業企業は土壌,気候,労働力など,ペルーがもともと備える優位 性に頼るだけでなく,栽培において最新技術を導入し,栽培,加工,輸出を 統合するなど生鮮輸出農産物に適した供給構造を作り上げることで,拡大す る需要に対応した。その結果,ペルーのアスパラガス輸出の主役は缶詰から.

(40)   . 生鮮に交代し,拡大を続けたのである。  近年多くのラテンアメリカ諸国は再び一次産品の輸出に依存した経済開発 を目指している。国際市場における需給構造の変化への対応や,農業企業に よる近代的な技術導入と栽培から輸出までの統合という点で,本章で検討し たペルーのアスパラガス輸出の拡大はその成功事例の一パターンを示してい る。単に気候,土壌,労働力といった従来からある優位性に依存するだけで なく,農業企業のような経済主体が,経済自由化の進展によって入手しやす くなった技術や資本といった生産要素を利用して農業部門を近代化し,需要 の変化に応じて産品を変えたり,その供給構造を整備すれば,競争力のある 輸出部門を作り上げることが可能になる。   〔注〕―――――――――――――――  輸出品目の分類では,アスパラガスは生鮮(の品目番号0 7 0 9 2 0) ,缶・瓶 詰め(同2 0 0 5 6 0) ,冷凍(同0 7 1 0 8 0)に分類されている。本章では缶・瓶詰め をまとめて「缶詰」と表記する。また0 7 1 0 8 0の品目にはアスパラガス以外の野 菜も含まれており,アスパラガスだけの数量の把握が難しいこと,ペルーの輸 出に占める冷凍品の割合は缶詰の1割程度と小さいことから,本章では冷凍品 は分析の対象としていない。  中国におけるアスパラガスの栽培面積と生産量についてはのデー タがある。しかし [2 0 0 5]が指摘するように,このデータは正確ではな いと考えられる。当時の生産の状況は輸出のデータから推測できる。         .   . 

(41) .  . .            (中国対外経済統計年鑑)には,中国の缶 詰アスパラガスの輸出は1 9 8 3年の5 9 6 3トンから記録があり,1 9 8 5年に1万3 7 2 トン,1 9 9 0年に8万2 7 5 7トンとなっている。なお,本章では中国の生産データ は[2 0 0 5 ]に基づいている。  フリードランドはコールド・チェーンについて,それ自体が構築されること だけでなく,市場の需要を予測して生産計画に沿って生産する業務の統合など, 生産現場から小売業者までの統合の重要性を強調している(フリードランド [1 9 9 9  3 0 8] ) 。  1 9 4 2年に    ファミリーが設立した同社は,国内では当時よく知られてい た ブランドのフルーツ・ジュースを製造していた。  1 9 9 7年に北部海岸地域において政府による灌漑プロジェクトが一部完成し, 大規模農地が販売された。これを契機に缶詰加工企業も生鮮輸出を手がける 農業企業と同様に,自社の大規模農場を設置して原料の内部調達を始めた。た.

(42) 第4章 ペルーのアスパラガス輸出拡大の要因   . だし本章では1 9 9 0年代半ばまでの缶詰輸出と,新たに拡大した生鮮輸出の供給 構造を比較しており,現在の缶詰加工企業の供給構造については分析の対象と していない。  この協定により,アンデス4カ国(ボリビア,エクアドル,コロンビア,ペ ルー)は麻薬撲滅で米国へ協力する見返りに,農産物を含む約6 0 0 0品目につい て米国へ関税なしで輸出できるようになった。1 0年間の期限が切れたあと, 2 0 0 2年からはを拡大したアンデス地域貿易振興・麻薬撲滅法(         . 

(43)  

(44)        . 

(45)       ) が施行された。この法律 は現時点では2 0 0 8年2月末まで有効である。これとは別にペルーとコロンビ アは米国と自由貿易協定を締結し,現在米国議会が批准について検討している。  企業による土地所有は,1 9 9 1年の農業投資促進法で緩和され,1 9 9 5年の土地 法の改革で自由化された。  日本でも2 0 0 6年に輸入農産物に対する農薬の規制方法が,禁止されている農 薬を定めるネガティブ・リスト方式から, 許可されている農薬を示すポジティブ・ リスト方式に変わり,規制がより厳しくなった。  加工段階では適正製造基準 (     . 

(46).  

(47) .    ) や危害要因 分析に基づく必須管理点(     .

(48).    

(49) 

(50)  .     .       . ) など,食品の安全性を確保するための管理体制の認証取得を求められることが 多い。. 〔参考文献〕 <日本語文献> 黒崎利夫[1 9 9 9] 「非伝統農産物輸出と持続的発展――中米農業の復活と国際資本 の支配――」 (小池洋一・堀坂浩太郎編著『ラテンアメリカ新生産システム 論――ポスト輸入代替工業化の挑戦――』アジア経済研究所 1 3 51  6 8ペー ジ) 。 フリードランド,ウイリアム・[1 9 9 9] 「新たなグローバル化――生鮮農産物の場 合――」 (ボナンノ・アレッサンドロ他編著『農業と食料のグローバル化―― コロンブスからコナグラへ――』筑波書房 2 8 93  1 7ページ) 。 農山漁村文化協会[2 0 0 4] 『野菜園芸大百科 第2版9アスパラガス』農山漁村文 化協会。 <外国語文献>       .  

(51) .  [1 9 9 2]      .  .

(52) .  .   .                 .     . .  

(53) . .  

(54)  .   2 7 (2)     4  38  2.

(55)      .  

(56)   .       .        (中国対外経済統計年鑑) [            ]      . .    

(57)                  [2 0 0 5]       .  . . 

(58)                     .

(59)    .   .

(60). .   

(61)

(62)     . .

(63)              .

(64)    .       [1 9 8 2]      . . .

(65). .       .  .                .

(66)    .    .             . .

(67)    .   .          . . 

(68).     [  1 9 9 5]      . .   

(69) .       .    .             .      

(70)                 . 

(71) .         .

(72)                 .

(73). [2 0 0 1]     .

(74).   .       .            . .        . . 

(75) .     .                 .   . 

参照

関連したドキュメント

一連の貿易戦争でアメリカの対中貿易は 2017 年の 1,304 億米ドルから 2018 年の 1,203

1.序説一問題点 2.Ex Works契約の内容 3.Ex WOrks契約の特徴 4.売主の工場を履行地とする貿易取引

本研究の目的と課題

日中の経済・貿易関係の今後については、日本人では今後も「増加する」との楽観的な見

第 2005.60 号の品目別原産地規則 : CC (第 0709.20 号の材料又は第 0710.80 号のアスパラガス

明治以前の北海道では、函館港のみが貿易港と して

(1)本表の貿易統計には、少額貨物(20万円以下のもの)、見本品、密輸出入品、寄贈品、旅

(1)本表の貿易統計には、少額貨物(20万円以下のもの)、見本品、密輸出入品、寄贈品、旅