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学校教育における「障害理解教育プログラム」導入の必要性

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Academic year: 2021

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Ⅰ.はじめに

今年 4 月、障害者差別解消法が施行され、障害者に対する理解が少しずつではあるが進 んできていると思われる。そもそも「差別」とは人々の無知により生じ、無関心、無理 解、偏見により、大きくなる。こうした差別解消の第一歩は障害がない人と障害がある人 が互いに交流し、お互いに関心を持つことから始まると思われる。 学校教育においては2002年の学習指導要領改訂により「総合的な学習の時間」(以下、 「総合学習」と略す)が新たに創設され、「福祉」が国際理解、情報、環境などのテーマと ともに学校教育の中で取り組まれることとなった。それに伴い、地域の障害者や福祉施設 職員、ボランティア等がゲストティーチャーとして学校を訪れる機会が増え、授業指導案 や授業方法、教材開発等の工夫が進められてきた。 筆者はこれまで数多くの小中高等学校において、「障害理解教育プログラム」を実践し てきた。障害理解教育プログラムとは、これまで実践されてきた視覚障害疑似体験(アイ マスク体験)に代表される、身体障害・精神障害等に起因する「出来ない体験」ではな く、障害当事者とともに、社会構造や社会環境が障害者の日常生活の中に生じさせる現状 とその改善策を理解する教育プログラムである。ここでは障害があるが故に一見、「出来 ないこと」と思われる多くのことが、周囲の環境(人々の意識を含む)の変化により、「出 来ること」に転化することを学ぶ。 本報告は、本学に在籍する視覚に障害がある学生とゼミの学生と共に行った教育実践を まとめたものである。

Ⅱ.障害理解教育プログラムの実践

1 .プログラムの概要 ( 1 )対象 神奈川県A小学校 4 年生 4 クラス(140人) ( 2 )方法 児童生徒数が多いため、 2 回に分けてA小学校を訪問、各回、 2 クラスを対象に 2 時限 連続( 5 、 6 限)で実施、児童生徒は 5 限と 6 限で教室移動し、表 1 の異なる 2 つのプロ

学校教育における「障害理解教育プログラム」導入の必要性

谷 内 孝 行

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グラムを体験する。 ( 3 )ゲストチィーチャー ゼミ学生 4 名と視覚に障害がある学生(幼児期は色の区別や目の前の相手の顔が判別で きる程度の視力があったが、 6 歳の時に両眼を失明。高校生まで盲学校(特別支援学校) で教育を受ける。本学入学後は大学近くのアパートでひとり暮らしをしている。) ( 4 )障害理解教育プログラムの内容 1 )「障害学生によるプログラム」内容(45分) ①自己紹介:障害の状況や趣味、自身の小学校時代の様子などを話す。 【留意点】 小学校時代の話を中心に自分と他の子どもを比較し、出来たこと、出来なかったこと を中心に話す。 ②講話:視覚に障害があっても楽しめるスポーツ等について話す 【留意点】 まず、視覚に障害があってもスポーツを楽しむことができるのかを問いかける。例え ば、「目の見えない人は卓球ができると思う?」という質問を行う。すると異口同音 に「卓球なんか出来ないよ」という声が飛び交うが、時間の経過とともに「音が出る ピン球があれば……」、「ネットの下をくぐらせば……」等、実際に視覚障害者が行っ ている卓球のスタイルが出来あがっていく。ここでは、ルールや道具を工夫すること により、最初は視覚に障害あるために出来ないと思っていたスポーツが、出来るス ポーツに変わる可能性があることを伝える。 ③便利グッズの紹介:視覚に障害がある人の生活を便利にするための目盛りを手で触れる ことができる視覚障害者用定規(写真 1 )や音声で計算結果を知らせてくれる音声電卓 B 室 教 A 室 教 5限 障害学生によるプログラム ゼミ生によるプログラム 6限 ゼミ生によるプログラム 障害学生によるプログラム 表 1 .障害者理解教育プログラム 写真 2 .音声電卓 写真 1 .視覚障害者用定規 写真 3 .授業の様子

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(写真 2 )などがあることを説明する(写真 3 )。 【留意点】 視覚に障害があるが故に日常生活の中で多くの不便(生きづらさ)が生じる。しか し、全ての不便を解消することは出来ないが、視覚に障害がある人のために開発され た便利グッズを使用することにより、その不便を減らすことが出来ることを伝える。 ④VTR視聴:一人暮らしの様子を撮影したVTRを視聴する。 ・買い物をする映像:「買いたいものを店員に伝えて商品を持ってきてもらう場面や会 計の様子」⇒出来ない事は人に頼む必要があることを説明する。 ・歩行する映像:「街中を白杖を使用して単独歩行する様子」⇒歩く際にどういったも のを目印にしながら歩いているのか、歩くときに気を付けていること等を説明する。 ・調理する映像:「アパートの台所でフライパンを使用して炒め物を作る様子」⇒音や 臭いで焼き加減を確認するため、換気扇は使用しないことを説明する ・不在票を確認する映像:「アパートの郵便受けに投函されていた宅急便の不在票に書 かれた文字を音声読み上げ装置で確認している様子⇒様々な福祉機器を使用すること で生活が快適化されることを説明する。 【留意点】 VTRでは、「見えない」ということで、一見「出来ない」と思われる買い物や単独歩 行などが、他者のサポートや本人の工夫により、「出来る」ことを伝える。 2 )「ゼミ生によるプログラム」(45分) ①点字学習:短時間であるため50音の「あ行」と「か行」の仕組みを説明する(写真 4 )。 グループごとに事前に筆者らが作成してきた点字カード( 1 枚ずつあ行、か行の文字を 一文字ずつ点字で打ってあるカード)を10枚ずつ配布。児童生徒はアイマスクをつけ、 こちらが示す熟語(例:あか)を10枚の点字カードの中から自分の触覚を活用し探し出 し、熟語を作る(写真 5 )。 【留意点】 点字を学んでも視覚障害そのものの理解には繋がらないと考える。故に点字学習で は、点字とは視覚に障害がある人が使用するローマ字と同様な規則性を持った「文 写真 5 .グループワーク 写真 4 .点字の説明

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字」であることを強調する。 ②生活の中のユニバーサルデザインを発見する:アイマスクを装着し、シャンプーとリン スの違い(写真 6 )、牛乳パックとその他のパック飲料との違い(写真 7 )、PASMOと その他のカードの違い(写真 8 )、 1 万円札と千円札との違い(写真 9 、10)を比較対 象と共に直接触れてみる(写真11)。 【留意点】 誰にとっても使いやすいユニバーサルデザインは自分達の生活の中に既に存在してい ることに気づく。そして、アイマスクを装着し実際に触れることにより、自分一人の 力で「分かる」ことの喜びを知る。 2 .プログラムを終えて 授業開始時には「目が見えない人は身の回りのことはすべて誰かにしてもらっている」、 「ご飯も誰かに食べさせてもらっている」等と思っていた児童生徒が、授業終了後には、 「道具や周りの人のサポートがあれば、一人で生活できることが分かった」等の感想を述 べてくれる。我々の社会は様々な人々で構成されており、その中にはサポートを必要とす る人々が含まれていることを知るきっかけになったと思われる。 写真 6 .シャンプーのきざみ 写真 9 . 1 万円札の識別マーク 写真 7 .牛乳パックの凹み 写真10.千円札の識別マーク 写真 8 .PASMOのくぼみ 写真11.授業の様子

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Ⅲ.これからの障害理解教育プログラムに期待すること

1 .「違い」を認め合える社会を目指して 一般的に言われる、障害が「ある/ない」とは、身体的・精神的な特性の「違い」に過 ぎない。我々の社会はこうした障害の特性を持ちえない多数派の身体的・精神的特性、さ らに価値観に基づき構築されている。その結果、少数派の障害の特性がある人々にとって は生活しづらい社会となってしまっている。例えば視力は人により異なる(老眼を含め) はずであるが、新聞や雑誌等の文字の大きさは社会を構成する多数派の基準(視力等)に 基づき決定される。これにより少数派の視力の人たちにとって新聞の文字が「見えない/ 見えづらい」という状況を生じさせている。こうした状況を踏まえ我々は互いの「違い」 (差異)を理解、共有し、これからの「共生社会」のあり方について考える必要がある。 2 .障害(傷害)疑似体験は差別を創る教育プログラム 現在も多くの教育現場ではアイマスク体験、車いす体験に代表される障害疑似体験が用 いられている。筆者はこれまで機会があるごとに、安易な障害疑似体験の実施を批判的に 論じてきた。障害疑似体験を用いる関係者が、実施にあたり教育目標に「見えない、歩け ない体験をすることで障害者の気持ちやその障害者のおかれている状況を理解すること」 を掲げる。しかし、本当に限られた体験時間で自分とは異なる人々の気持ちや状況を理解 することができるのであろうか、さらに「見えない」、「歩けない」という、言わば「傷害」 による出来ない体験を強調することにより、体験者に「○○が出来ない障害者は可哀そ う」、「私には障害がなくて良かった」等、障害理解とは正反対の障害者差別、障害者排除 の精神を生じさせる可能性はないだろうか。 3 .社会モデルの視点からの障害理解教育の必要性 障害疑似体験は「違い」を追体験することにより、自分たちが暮らす社会のあり方につ いて考えるきっかけにはなるかもしれない、しかし、疑似体験という大きなインパクトは 体験者に障害(傷害)とは個人に属するものとして強く認識されてしまう可能性が高い。 障害を捉える方法には「医学モデル」と「社会モデル」が存在する。医学モデルとは障 害の原因は個人(身体・精神)に帰属するとし、日常生活の不便(生活のしづらさ)に対 しては、個人のよりよい「適応」と「行動変容」を求める、一方、社会モデルでは障害の 原因は社会環境によって作り出されるとし、日常生活の不便(生活のしづらさ)に対し て、社会へ働きかけ(人的・物的環境の改善)社会の変化を求める。 つまり、障害理解教育プログラムにおいては、障害がある状態を疑似体験して終わらせ るのではなく、日常生活の不便(生活のしづらさ)が社会環境により創りだされているこ とに気づき、その改善策を考え、実行することを促すプログラムでなくてはならないと考 える。

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Ⅳ.おわりに

例えばインドについて、我々が日本国内において学ぼうとする際、どのような行動をと るだろうか。ある人は関連する書籍(ガイドブック等)を読んだり、関連する映画を観た り、またある人はインターネットを活用して情報収集を行うかもしれない。しかし、最も 「リアル」にインドについて学ぶ事ができるのは、インド人に直接会い、インドの話を聞 く事である。障害理解教育プログラムにおいても同様であり、障害について理解するため に児童生徒は、障害当事者から直接話を聞くことが必要不可欠となる。 小中高等学校の教育において、障害を理解するということは、障害特性を理解すること だけに留まらず、障害という切り口から、社会の多様性や共生社会のあり方、生きづらい 社会の変革方法等について学ぶことが重要である。障害「を」理解することから、障害 「で」これらのことを理解することの転換が求められていると思われる。 参考文献 上野谷加代子他 監修「新福祉教育実践ハンドブック」全国社会福祉協議会、2014年 真城知己著「障害理解教育の授業を考える」文理閣、2003年 徳田克己編著「障害理解 心のバリアフリーの理論と実践」誠信書房、2005年 冨永光昭編著「小学校・中学校・高等学校における新しい障がい理解教育の創造 交流及び共同学 習・福祉教育との関連と 5 原則による授業づくり」福村出版、2011年 水野智美編著「はじめよう!障害理解教育 子どもの発達段階に沿った指導計画と授業例」図書文化 社、2016年

参照

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