21 世紀アメリカ経済論(No 1)
─転機を迎えた米国経済社会と、オバマ改革─
平 田 潤
はじめに 1 章: 転機を迎えた米国 2 章: 1990 年代の米国: ニューエコノミーとアメリカン・グローバリズムの繁栄 3 章: 米国経済・社会の長期構造課題とその背景 4 章: 21 世紀米国病:米国が直面した「3 つの病」 5 章: 米国病を悪化させた「政策危機」 終章: オバマ政権の誕生とパラダイム・シフト 本稿は、桜美林大学産業研究所が企画した 2010 ~ 2012 年度「米国経済研 究プロジェクト」の準備調査として、米国経済に関する基礎的なスケッチを試 みたものである。本稿(No1)では、「はじめに」から「2 章」までを展開し、 次号(No2)で「3 章」から「終章」をまとめる予定。 目 次 はじめに 1 章: 転機を迎えた米国 2 章: 1990 年代の米国: ニューエコノミーとアメリカン・グローバリズムの繁栄 1.90 年代は再び「米国の時代」 2.米国の「経済覇権」と「経済基本理念」 3.金融グローバリズムと米国経済はじめに
90 年代 IT(情報技術)革命を主導し、経済・金融の諸分野で様々なイノベーションを達成した米国は、 国際経済を牽引し長期成長を達成した。しかし 2000 年代に入り、IT バブル崩壊、エンロン・ワールド コム事件、そしてサブプライム金融危機という「3 つの病」が次々に発生するにいたった。特にサブプ ライム金融危機(およびリーマン・ショック)は、米国に留まらずグローバルな金融市場を介して、欧州 を始め各国の金融システム・金融機関に大きなダメージをもたらした。危機は、2008-9 年での米国政府の直接介入・公的資金投入と、オバマ政権により2010 年に成立した「金融規制改革法」などに より収束し、経済は巨額の財政資金投入や政府の各種テコ入れにより、回復基調は維持している。と はいえ、バブル崩壊後の米国経済は、多くのリスク・問題を抱えており(経済のデフレ化懸念、超低 金利の長期化、雇用難・失業問題等)楽観はできない。また「3 つの病」は米国経済・社会に様々 な負の遺産をもたらした。さらに危機後の、国際的な新危機管理体制作りという点を見ても、「21 世紀 米国病」の形を変えた発生への危機予防としては、決して十分とは言えない状況である。 一方世界経済の基調として、先進国の低成長と、BRICs を始めとした有力国の本格的成長が対比 される現状ではあるが、グローバル経済のなかで、(米国が当面比較優位を維持しており)IT のみな らず多くの分野で、科学・情報技術の成果を生かした「イノベーションが経済成長を促進するニュー エコノミーの時代」は益々深化している。また今後は規制が強化される方向が示されたものの「金融 グローバリズム(の影響力)」も依然として強力である。こうしたなか米国では、これまで長期にわたり 解決・改善が十分に達成できなかった、経済の「構造的課題」(90 年代以降現在に続くニューエコノミー 下でも改善効果は限定的であったし、今後米国経済がバランスのとれた成長を続ける上で、足かせに 成り得る問題)に対して、2009 年に発足したオバマ政権が、独自のリーダーシップにより正面から改革 に取り組もうと苦闘している。21 世紀米国の経済社会の行方を考える上で、「オバマ改革(の成否や 方向性)」は重要な意義を持つと思われる。
1 章:転機を迎えた米国
1、 先進諸国の中でも、とりわけ経済・社会がダイナミズムと流動性に富む大国=「米国」ではあるが、 同時に、現在に至る迄解決が容易では無い様々な経済課題を抱え続けている。 とくに 90 年代、約 10 年続いた長期好況下でも、捗捗しい改善・解決を得られなかった諸問題 (例えば、GDP に占めるヘルスケア・コストが上昇を続けるなかで、米国民の約 15%、4000 万人 超を数える「医療無保険者」が存在する等)が、21 世紀に入って、米国経済が① IT バブルの崩 壊や、サブプライム金融危機等により深刻なダメージを受け、②ブッシュ(子)政権時代のオーナー シップ社会構想等にみられる「市場メカニズム活用による諸問題解決展望」の実効性が疑問視され、 ③ 90 年代ニューエコノミー下での、経済実績を嵩上げしていたと見られる諸「バブル」の実相が あらためて指摘される中で、米国が今後本格的に取り組むべき経済の「長期構造課題(注 1)」さら には米国の抱える「構造問題」として徐々にクローズアップされてきている。 ここで「構造問題」とは、通常、経済・社会が短期的に、或いは通常の景気循環の過程では自 律的に解決・改善できない諸問題であって、かつ経済・社会の中/長期的な成長発展を阻害する様々 な要因―(注 2)と考えられる。 これまで深刻な「構造問題」が各国の経済成長を妨げる大きな要因となった顕著な事例として、 70 ~ 80 年代の西欧諸国(特に英国・オランダ・イタリアでは経済不振が続いて、高インフレ率と 高失業率が長期にわたったため、それぞれ「英国病」・「オランダ病」・「イタリア病」と称された。) があげられる。この場合には何れも各国の経済供給面に、深刻な「構造問題」の存在が指摘された。 これら諸国の事例を参考にして、「構造問題」とは、(図 1) 図1 欧州先進3カ国の経済構造問題 構造問題のカテゴリー 分野 英国 オランダ イタリア 従来は必要として維持されてきた 経済システムの、費用対効果が 悪化(負担コストとベネフィット のバランスが崩れ)して、制度 疲労に陥っている問題 国・公営企業の運営 ◦(赤字・補助金負担) ◦(赤字 補助金負担) 社会保険・福祉制度 ◦ ◦(障害者保険/最低賃金) 医療費・保険体制 ◦ 〇 ◦ 年金制度 〇 〇 ◦(早期退職年金制の負担) 通常の景気循環の中では、(景 気が好転しても)解消・改善が 進まず、経済体質の一部として 底たまり・固定化 失業問題 ◦ ◦(乏しい雇用創出) ◦(若年・長期失業増加) 産業競争力低下 ◦ 〇(所謂「オランダ病」) 〇 経常収支不均衡 ◦ 地域格差問題 ◦(深刻な南北格差) 経済対策や経済政策を投入実 施しても、効果が出てこない インフレ抑制策 ◦ ◦(賃金物価連動制の弊害) ◦賃金物価連動制の弊害 財政赤字削減策 ◦ 〇 ◦ 公共投資の効果 ◦(南部に非効率投資) 〇 経済における「構造問題」化 ◦ そのなかでも特に深刻な問題 a 従来は必要として維持されてきた経済システム(組織、制度、法規制など)の費用対効果が、 悪化を続けている(制度疲労)状況、 b 通常の景気循環の中では解消・改善が進まずに、経済体質の一部として底溜まり・固定化し てしまった経済問題(構造的高失業率、若年者の長期失業など)、 c 政府による財政・金融政策/数次の経済対策を投入しても効果がでてこない、成果が得られ ない問題、と類型化することができる。 また、英国・オランダ・イタリアについては、60 年代~ 80 年代にかけて、それぞれ近似した「経 済基本理念」が存在していたと考えられる。(図 2) 図 2 危機に陥った欧州先進国における「経済基本理念」 国 名 政権・政党 経済・財政政策の基本理念 英 国 保守党・労働党 (60年代末~70年代) ◦コンセンサス・ポリティックス 〇ケインズ主義に基づく ・総需要管理 ・財政主導で景気の調整 〇完全雇用追求 〇社会保障充実 ◦政府の役割増大 ・国が産業に介入強化 オランダ キリスト教民主同盟(CDA)を中心とした連立政権 (70年代~80年代初) ◦社会福祉国家を追求 ・手厚い失業保険、障害者保険、病気休暇手当 ◦雇用・労働者権利重視 ・ 賃金・物価スライド制 ・ 厳しい解雇規制 イタリア キリスト教民主党(DC)主体の連立政権 中道左派の社会党(PSI)等が連立政権に参加 (70年代~80年代) ◦イタリア型コーポラティズム(協同体主義) ◦混合経済(国公営部門比重大) ・ 国家持株会社傘下企業の拡大 ◦南北地域格差縮小(南部への重点的公共投資) ◦雇用・労働者重視 ・ 賃金・物価スライド制 ・手厚い年金制度 ◦社会保障重視 (資料) 第一勧銀総合研究所「世界の経済・財政改革」東洋経済新報社 2001 年 平田 潤 「政策危機と経済の長期停滞」桜美林大学 博士学位論文 2007 年
2、次に、米国について、これまでも多くの識者が指摘してきた「長期構造課題」としては、 ① 経済・社会・市場等の多くの分野に定着した、著しい「格差」「不均衡」の存在、及びその 一層の拡大傾向。近年の所得/資産格差問題は特に注目されている ② 先進国のなかでも、高水準の貧困者数(世帯)と貧困比率が長期的に持続していること ③ 2008 年現在、約 4600 万人にのぼる実質的「医療無保険者」の存在 ④ マクロ経済における諸不均衡問題(拡大する経常収支赤字と対外純債務累増[その持続可能 性])、2002 年以降再び増大した財政赤字(財政構造の問題)、潜在的な US$ 不安など ⑤ 社会インフラ/公共財の老朽化・不足・偏在(注 3)、非効率なエネルギー多消費経済 などがあげられる。 上記長期構造課題のなかで、とりわけ②(貧困問題)、③(医療保険問題)については、歴史的 な背景を持つ中で、米国歴代政府もさまざまに取り組んできた。1950 ~ 60 年代の経済繁栄期と民 主党政権による「偉大な社会」構想による政策展開(社会保障を拡大し、ケインズ型需要拡大政 策を実施したが、70 年代にはスタグフレーションに陥った)、80 年代共和党によるレーガノミクス 実施(サプライサイド改革の結果、経常・財政収支が「双子の赤字」に落ち込んだが、インフレ 抑制と長期景気拡大を達成した)を経た後、前述のように 90 年代長期経済拡大局面を経過したが、 依然として問題は十分に改善されたとは言えない。米国の貧困者人口は、39.8 百万人、貧困率は 13.2%の水準(2008 年現在)で、貧困率は 1970 年の水準とほぼ同じである。90 年代の景気拡大 期には改善したが、2000 年以降は再び悪化した。また医療無保険者数の増加傾向には一向に歯止 めがかからず、2008 年には 46.3 百万人、全人口の 15.4%に達した。特に家計収入 US$25,000 未満 の階層では無保険者の比率は、26.9%にのぼっている。 もっとも米国経済は、経済の供給面で、上記 80 年代のレーガン改革―(注 4)を経て、90 年代には、 IT 革命を梃子にニューエコノミーに至る構造変化が生み出され、長期成長と繁栄を謳歌した。米 国の場合はレーガン改革のインフレ対策(FRB ボルカー議長)と経済構造改革によりスタグフレー ションを克服し、90 年代ニューエコノミーにより経済の供給面が強化された。また西欧諸国が抱 える図 1 のような公的福祉/医療/年金制度の肥大や国・公営企業の非効率化から生じる「構造 問題」はそれほど進行しているとはいえなかった。そこで米国経済社会に存在する、上記の様な 長期経済課題(特に「格差」や「不均衡」の存在・拡大や、貧困問題)についても、経済成長を 持続させ、規制緩和と技術革新により、市場の高度化/市場メカニズムを一層機能させることで、 問題は漸次改善していく、あるいは少なくとも問題解決については、(長期的にみてより効果的な) 市場メカニズムに委ねるべきとの考えが、非常に有力である。(注 5) 今般(2010 年)「医療無保険者問題」の解決を巡っては、オバマ政権下でかなり前進した(注 6) とはいえ、米国民の十分なコンセンサスに基づいた結論・成果とは言えなかった。 この「国民皆保険」問題の論議プロセスで顕著に見られたように、「市場」が有効に解決できな い諸問題について、これを米国経済全体に内在する(政策課題としての)「構造問題」視し、自律 的な市場メカニズムを規制・抑制したり、政府に委ねる(特に国民の税を使い再分配や介入を行う)
ことには、米国(民)内に強い抵抗と拒絶(建国以来の歴史的背景を持ち、80 年代レーガン共和 党政権以降、強化された―(注 7))が見られる。 つまり米国経済・社会の長期発展のためには、民間活力を市場メカニズムにより最大限活用して、 政府の非効率で無駄な部分を極力ダウンサイジングしていく、そのために政府(とくに連邦政府) の守備範囲の限定・不介入/非規制(規制緩和)を志向する「小さな政府」「市場主義」ともいう べき基本理念が、政党・政治勢力、企業(経営層)、各種団体、市場関係者、学者のみならず、国 民による広範な支持(とくに草の根保守層)を得続けており、政府(連邦政府)主導の改革によ る米国「構造問題」の解決を難しくしていることは否めない。 このように米国経済社会においても、過去から継続し累積した「構造問題」解決への本格的な 取組みは必ずしも容易ではない。しかもこれまで様々な「構造問題」がもたらす問題を、実質的 に緩和・軽減(或いは先送り)する効果をもたらしてきた「米国経済・社会のダイナミズム・流動 性」にも、ここにきて停滞と翳りが見え始めてきたといえよう。 3、2000 年代に入り、米国は 3 つの深刻な「危機」に直面した。すなわち① IT バブルの崩壊、② エンロン・ワールドコム事件(コーポレート・ガバナンス/会計危機)、③サブプライム金融危機 である。これらに共通した内容は様々な分野での「バブル発生」であり、これを培養・増幅させた「市 場」(あるいは危機予防に失敗した「制度」)の問題である。主に規制緩和と、活性化した市場メ カニズムとを全開して経済成長を持続してきた米国及び「アメリカン・グローバリズム」は①、② の局面は凌いだ(①は FRB による果断な金融緩和策、②は、当事者のすみやかな退場と事後迅速 に成立させた「企業改革法(SOX 法)」により一応終息したが、その負の遺産は③につながったと 考えられる)ものの、③に直面してついに政府の直接介入と救済に全面的に依存するに至った。 「市場」(特にグローバルな市場)が陥った深刻な失敗の原因としては、市場自体の「設計」や「運営」 の問題に加えて、a 危機予防のための「制度の不備・欠陥」、b 加速する「市場における著しい情 報の非対称性」の問題 c. 市場プレーヤーに増殖したモラルハザードの蔓延や、「強欲」が増幅して いくメカニズムの側面が、益々クローズアップされつつある。 こうした深刻な問題を抱える米国の市場の実態を見た場合に、果たして「市場」が、これまで 長期にわたり存在し続けた「構造問題」に対して、[自律的]で有効な解決・調整機能を発揮し、 さらに市場参加者がそれを的確に活用できるかについては、現状かなり疑問であると言わざるを得 ない。そして、中長期的な視点からは、①米国が上記「3 つの病」や危機、特に米国発金融危機(サ ブプライム危機)において、「グローバル市場(米国主導の市場原理が実効支配した金融市場)の 失敗と救済」に対応するために巨額のコスト、国民の最終負担を招いたことや、②経済悪化の中 で、従来からの「構造問題」による負の経済効果が様々に顕在化しつつあること、③これに対して、 2008 年ブッシュ(子)政権の退場からオバマ政権成立に至る、政治面での変革ダイナミズムは依 然健在で、十分発揮されたこと等を見ると(もちろん 2010 年には再び保守派ティ-・パーティ運 動等が力を増しており、その動向が連邦・州議会等に反映されつつある現状や今後の政治経済の
変動次第では、予断を許さないが)、米国経済社会もこれまでの「市場」/「市場原理」による過 剰な呪縛を解きつつ、自らのダイナミズムを維持しながら、21 世紀米国が必要とする「改革」(政 治的イノベーション)に本格的に取り組む時期に至ったとも考えられよう。 本稿では、まず米国がグローバル化が進む国際経済の潮流のなかで、90 年代に達成した経済繁 栄、世界を席巻した「ニューエコノミー」と「経済基本理念」の意義を確認して、さらに米国経済・ 社会の景気循環の過程の中で通常の政策によっては改善・改革が難しい、いわば「構造問題」(注 8) について分析を加えたい。
2 章:1990 年代の米国:ニューエコノミーとアメリカン・グローバリズムの繁栄
1.90 年代は再び「米国の時代」 冷戦構造が終焉した 90 年代では、市場経済が急拡大する中、世界経済は需要面・供給面共に 「グローバリゼーション」の時代が本格化した。同時にコンピュータ・通信情報技術の飛躍的発展 により IT 革命が進行し、経済/産業に構造的な変化をもたらし(ニューエコノミー)、金融のグロー バル化・高度化を加速させた。(とくに国際資本取引の急増、IT 技術や金融工学の発展、ファン ドや投資銀行による国際金融仲介が隆盛をみた。またグローバルマネーが世界的なディス・イン フレ/過剰流動性下で、各国/国際金融市場における影響力を飛躍的に拡大した。) なかでも米国経済は、90 年代 IT 革命を中核とした様々なイノベーションを主導し、91 年 3 月 ~ 01 年 2 月に至る 120 ヶ月に及ぶ景気拡大を達成し、世界経済・金融を牽引することで、「一極」 経済覇権が確立したとまで評価されるに至った。(図 3)実際に、米国では、IT 関連産業の興隆(シリコンバレーの発展・IT ベンチャー起業/ IPO ブー ム)や拡大等の直接的な効果に加え、多くの産業分野が IT 革命の成果を導入することにより、構 造的変化が進行した。 まず製造業では、分業構造や生産工程、さらに企業のビジネスモデル等に大きな変容が加えら れた。また非製造業では、通信・流通・金融・不動産・サービス(特に情報・医療・ビジネス) 分野で、IT 革命の影響が著しい。その結果として、 ① 米国経済「供給力」面の変革: 米国では、まず 90 年代に新たな有力・高成長・高付加価値産業として情報産業・知価産業が興 隆し、供給力面を直接強化したといえよう。また多くの企業が IT 関連を中心に、旺盛な設備投資 を行い、資本装備を強化した。様々な産業において、IT 革命の成果を生かして、「生産性」が上 昇したことが指摘されている。(注 9) 製造業分野では、部品調達や製造工程の「モジュール化(注 10)」、「グローバル・アウトソーシング」 など、分業構造をめぐる革新とネットワーク化が進行した。また多くの産業に共通して、企業の生産・ 管理レベルで、効率性を重視したダウンサイジングや、リエンジニアリング(IT 活用による、生産・ 管理・流通工程での効率化、非製造業では、本社管理機能の簡素化・フラット化)、コア・コンピ タンスの強化が、企業の活性化、収益力向上に大きく貢献した。
②米国経済「需要」面の持続的拡大 米国では、まず投資(企業部門:IT 関連の設備投資)の持続的拡大にはじまり、消費(家計の 個人消費)需要拡大に続く好循環が見られた。90 年代初期では、雇用増加に結びつかない景気回 復(ジョブレス・リカバリー)が続いたが、90 年代後半になると、雇用の拡大と労働時間の増加 が見られた。(但し雇用創出の多くの部分はサービス産業中心で単位労働コストは抑制された。ま たクリントン政権では、政府の雇用・福祉政策も「働くための福祉政策」にシフトが進み、就労を 積極的に促進した。) 90 年代の米国では比較的高い成長率が続くなかで、インフレは抑制されていた。また個人消費 の持続的拡大は、90 年代発生した、金融(株価)/実物資産(不動産)価格の長期的上昇による「資 産効果」の形で下支えされた。同年代は 80 年代に続き、各階層間の所得格差が拡大した時代であっ たが、消費は堅調であった。(21 世紀には個人消費は対 GDP 比で 70%台に到達した。)これは 90 年代前半から 2001 年にかけて株式価格の高騰が続き、90 年代後半から 2000 年代前半までは、住 宅価格上昇が続いたことが大きく寄与している。(もっとも 21 世紀に入り、最終的には株式、住宅 両市場ともに、バブルの崩壊により大幅な調整を余儀なくされた。) ③米国スタンダードに対する信認拡大
90 年代、米国は前述のように、IT 革命の主導(IT のプラットフォーム設計、IT をベース/活用し たビジネスモデル創出、IT・ネット分野の企業化/ベンチャー化については米国企業が先行した)を 始めとして、世界経済を牽引していたが、そうした米国が設定し、使用した様々な原則・規範(特に 情報産業、金融産業、企業統治、会計分野、コンプライアンス等)において確立した「事実上の基
図 3 90 年代
グローバリズム
と米国の繁栄準(デファクト・スタンダード)」は、グローバル・スタンダード化し、各国に大きな影響を与えることとなった。 90 年代米国は、世界経済のグローバル化が進展するなかで、経済の順調な成長と拡大、需要・ 供給面でのダイナミズム発揮に加えて、③の要素で、世界経済を大きくリードした。 2.米国の「経済覇権」と「経済基本理念」 米国では、80 年代に、レーガン・ブッシュ(父)共和党政権が「小さな政府」「規制緩和」、「減税」 を標榜・推進したが、米国経済は「ブラックマンデー」「双子の赤字」「S&L 経営危機」「3 つの L 危機」等に次々に直面し、再建は容易ではなかった。この時期の米国経済は、マクロ・ミクロ両 面で問題が山積し、日本・欧州から追い上げられ、比較優位が脅かされ、国際協調(プラザ合意 による US $水準調整等)を必要とし、貿易摩擦問題(特に日・米間)が頻発した。しかし 90 年 代、米国経済は再活性化に成功し、特に 90 年代後半~ 00 年代初め(クリントン政権Ⅱ期)には、 安定した長期成長(低インフレ持続、低失業率&緩やかな賃金上昇、投資⇒消費の成長牽引、財 政赤字の縮小)を達成した。80 年代末に冷戦が終結し、市場経済が急拡大するなかで、同時代の 先進諸国=日本(バブル崩壊以降の長期経済低迷)、EU 諸国(通貨統合や東西ドイツ統合で忙殺) が苦戦するなかで、90 年代は米国の経済覇権(「アメリカン・グローバリズム」の繁栄)が確立し ていく。その過程で、様々な「パラダイム」、「経済基本理念」、が産み出された。 ① 「ニューエコノミー」の時代 「ニューエコノミー」については、当初 IT 革命の米国経済への画期的影響(設備投資・在庫管 理面での効果)を計・推測して、景気循環に及ぼす影響などが議論された。続いて IT 革命による「労 働生産性の持続的向上」の検証が行なわれたが、今日では、ニューエコノミーを 90 年代の「米国 経済活性化・経済覇権の本質」と考える包括的評価が多い。 すなわち初期盛んに主張された、米国経済がニューエコノミー化に伴い「景気循環が消滅する」 等の議論は事実上否定され、IT バブル崩壊(2000 ~ 2001 年)により、株式市場での IT 企業・ 起業に対する著しい過大評価も解消したが、現在では、以下のような様々な経済的革新を実現し た「ニューエコノミー(広義)」が、新たな「パラダイム」化しているといえよう。 ・ 多くの IT(関連)産業・企業の勃興と、発展・拡大による「直接的寄与」 (コンピューターソフト、通信、ネット、検索、情報サービスなどの分野) ・ 産業・企業におけるダウンサイジング、アウトソーシング、オフショアリング、モジュール化、 ナノ/マイクロ化、リアルタイム化を主導し、経済・金融の質的変化を喚起した意義、 ・ 金融面では、IT を活用した金融工学を確立し、アセットを極力使用しない金融手法・金融仲 介(証券化・デリバティブの高度化)の発展に寄与、 ・ 企業価値の短期的・持続的拡大が、「企業」の最大目的化(株式時価・利潤の最大化)する ことを一層促進、 ・ 様々な分野における、新たな「グローバルスタンダード」の創設 即ち、ニューエコノミー(広義)とは、グローバリゼーションといったパラダイムとは別に、経済・
金融の質的変化を伴う革新の時代であり、現在も引き続き進行・加速しているといえよう。 ②ニューエコノミーを支える「新たな経済基本理念」の創出 「ニューエコノミー(広義)」というパラダイム下で、a ~ c に代表される「新たな経済基本理念」 が、米国を起点に強力に発信され、90 年代のグローバルエコノミーを席捲した。 a ニューエコノミー時代では、「イノベーション」こそが、成長の源泉・牽引車である。 すなわち生産性(全要素生産性= TFP)を持続的に引き上げることができる。 (米国は経済の供給面・需要面を大きく変革することに成功した「IT 革命」のみならず、多 くの優れた人材が、新たな創造を目標に、自由な研究環境下で、活発な企業家精神を発揮し、 企業・大学・各種研究機関の競争・連携等により、様々な「イノベーション」を持続的に生 み出すことが可能な、最強の「イノベーション」国家である故に、経済覇権を確立した。) b a の前提でもあり、経済発展の長期持続を達成するためには、市場メカニズムの活用が有効 であり、市場強化のための改革(自由化、規制緩和など)こそが必須と考える。 具体的には、90 年代にニューエコノミーを生み出し、最も規制緩和された、柔軟で機動的 な「米国型市場」をモデル・目標とする「市場(原理)主義」が支持され、 c 企業が起業・資金調達を行う場合や、成果・報酬の公平な分配、M & A の実施等で、企業 価値等をリアルタイムに把握するのに相応しい会計メソッドとして「時価主義」が金融分野 の会計を中心にグローバル・スタンダード化した。IT 革命により、膨大な量のデータ処理と 解析、情報伝達面での時間・空間(距離)の飛躍的圧縮、ネットによるコミュニケーション の高度化、コンピュータを駆使した技術革新と融合等が可能となったが、それらを含めた多 くの「イノベーション」の成果は、機動的な「市場」という場でスクリーニングされ(注 11)、 市場メカニズムの活用により円滑に起業・企業化され、その価値や成果は「時価」に正しく 反映・評価されるというメカニズムが進行するわけである。それぞれのコンセプトとしては、 a「イノベーション」(注 12) ニューエコノミーの興隆を可能としたのは、米国の様々な「イノベーション」であり、米国が 多くのイノベーションを可能とする条件・土壌としては、前述のように ・ 優秀な人材を育成・吸引できる、多種多様な大学(院)や研究所の存在、 ・ 研究成果をいち早く「企業化」できるベンチャーやインキュベーターの存在 ・ 新たなイノベーションの商品化・企業化に向けて、揺籃期から、積極的に資金を提供する「エ ンジェル」「ファンド」群の存在 ―もっとも米国では、「競争力評議会レポート」(2004 年)以降、将来に向けてイノベーション の持続・競争力維持への懸念(米国のイノベーションを支えてきた優位性は、各国により早期 にキャッチアップされてきている)が拡大しており、政府に行動・予算を求める動きが盛んになっ てきており、ブッシュ(子)政権下で「競争力イニシアティブ」(2006 年)、全米競争力法(2007 年)が成立した。― b「市場(原理)主義」
経済の長期安定を達成した米国が、規制が緩和・撤廃されたことで加速した市場における競 争と、それを促す制度的枠組みとを、経済活力の源泉としていることから、市場原理・市場メ カニズムに対する強い信認・オプティミズムが醸成された。「市場や市場メカニズムの円滑な機 能発揮を阻む「様々な規制や慣習/制度」を除去すれば、自ずと中・長期的には、競争原理と 市場原理(価格決定メカニズム等)に基づいて、需要・供給を的確に反映した生産要素の配分 がマクロ・ミクロレベルで実現していく。 十分強靭かつ柔軟な市場が成立する経済は、中・長期的には需給ギャップや各種経済問題に ついて、市場メカニズムの作動により、時間的・費用的に有効でかつ合理的な成果・結果が得 られるとする。 c「時価(原理)主義」(注 13) 会計上の時価主義(=狭義、資産・費用またはそのいずれかについて、時価評価を原則)よ りも広く、キャッシュフローの PV(現在価値)、M&A 等で使用する企業価値評価、不動産の 収益還元法等のメソッドの根底に存在する、「現在の(市場での)価値を最も重視し、これを算 出・測定し、価値基準とすることを基本とする」考え方。 市場における価値評価の「客観性」「透明性」を担保するのは、時価のみとする。 3.金融グローバリズムと米国経済 さらに、米国で 2―②の「新たな経済基本理念」が、最も自己実現化された産業分野の一つが 金融情報産業である。90 年代には、金融面で多くの革新(イノベーション)が見られたが、なか でも①金融仲介、②金融商品(デリバティブ)の面で顕著であった。 まず、伝統的な「直接」・「間接」金融の枠組みをアンバンドリングした、「ハイブリッド型金融 仲介―証券化とデリバティブ等を TOOL とし、各種ファンド・SPC 等を活用した金融仲介―」が 活発化し、巨額なグローバルマネーの橋渡しに活躍することになった。90 年代では、米国への資 金流入(主にアジア諸国からの米国債投資(注 14)、欧州諸国による株式投資等)と米国からの資本 流出(高リターン獲得のための投融資)が、活発化した。とくに米国の金融機関、各種ファンドは、 下記に見られるようにグローバルな規模で、様々な投資(有力新興国への諸投資、M&A・企業再 編投資、不動産投資、株式投資、ABS 債券発行、デリバティブ取引など)により、活発な資金運 用を行ない、ハイリターンの獲得を続けるなど高パフォーマンスを誇った。 ・ 先進国の低金利長期化を活用した(キャリートレード)、新金融仲介でのコスト抑制 ・ 伝統的な金融スタイル(アセット・レンディングと資産保有)から、O&D(オリジネート&ディ ストリビューション)や、オフバランス&トレーディングへの移行 ・ 高度・複雑に組成したモジュール型金融媒体(各種投資ファンドや SPC)と、伝統的金融機関 との連携を促進 ・ 同時に様々な「デリバティブ」(CDS など)を産み出し、その市場を拡大させた。 3 章以下は次号の予定。
注釈 (注 1) たとえばオバマ政権下の「米国大統領経済諮問委員会 2010 年次報告」では、米国ヘルスケア部門での「構 造的問題」の存在について(以下の間接的な表現ではあるが)、指摘を行なっている。 ・ 民間 / 公的部門におけるヘルスケア・コスト(支出)は、持続不可能な割合で増加しつつある。 ・ 企業は一般に、労働報酬の支払いを賃金と医療給付の合算により行なっているので、ヘルスケア・コスト 増大により、医療給付部分が賃金部分を圧迫(賃金上昇を抑制)してしまう。 ・ 民間保険中心の現在のヘルスケア・システムでは、医療保険市場における「逆選択」、「モラル・ハザード」、 「保険の不完全契約」などが発生してしまう。(市場の失敗) しかしこれは政府が政策を適切に策定するこ とによって改善される。そのためには、医療保険のリスク・プールを安定させ、無保険者に保険を提供する ことが必要となる。 ・ 米国のヘルスケア・システムの下では支出が大幅に増加しているにもかかわらず、ケアの満足度は低下し てきている。 ・ 米国の「予防可能死亡率」(有効なヘルスケアを施すことで、防ぐことができたと考えられる「死亡率」)は、 男女共に他の先進国比で高く、改善度も低い状態である。 『米国経済白書 2010 年 第 7 章 ヘルスケア改革』、「エコノミスト」毎日新聞社 2010 年 5 月 24 日号より要約) (注 2) 「構造問題」 「構造問題」の経済学的意味とは、「潜在 GDP 或いは潜在的成長率の変動(その低下)をもたらすような諸問題」 が、「市場の機能を阻害し、資源配分に歪みが生じて、効率的生産・消費ができない」状況。(野口旭、2002) また 70 ~ 80 年代に生じた欧米諸国の経済低迷について、「経済の供給面の構造的な硬直性の存在によって、 経済の構成要素が十全に機能しないことが、長期安定的成長を阻害している」と指摘されている。(Structural Adjustment and Economic Performance OECD, 1987) 本稿では、「構造問題」について、経済構造問題を 中心に議論を行いたい。 (注 3) 「老朽化した社会インフラ、公共財の不足・偏在」 90 年代全米情報インフラ・ネットワーク建設や、官民協同プロジェクト= PFI 等=の推進(都市、公的施設 の民営化)、都市部再開発などによるインフラ整備が見られるものの、概して経済効果が大きくない基礎的な 社会インフラ(費用対効果が大きくない、民間ベースでは採算性の低く民営化が難しい分野、交通インフラ など)は、予算の制約(財政赤字)もあり設備老朽化が進み(特に州レベル)、利便性や経済性に影響を及ぼ している。またブッシュ(子)政権時(2005 年)に深南部を襲ったハリケーンは、被災地住民の深刻な状況・ 政府(連邦・州)対応の問題点と同時に、堤防や避難設備など災害緊急対応体制の不備が示された。 (注 4) レーガン改革 時 期 経済政策の基本理念 主な経済・金融政策 レーガン改革(81 年~ 88 年) ・レーガノミクス(マネタリズム+サ プライサイド・エコノミー) ・ 小さな政府 ・ 政府による諸規制の緩和・撤廃 ・ マネーサプライ重視の金融政策 (インフレへの処方箋) ・経済再建計画(大幅減税、税制簡 素化) ・規制緩和策(政府規制軽減作業部 会の設置により、規制の見直し)。 ・政府支出削減・補助金のカット ・FRB の独立性尊重=地位の確立 ・徹底したインフレ対策の実施 すでに先行した民主党カーター政権(76 ~ 80 年)下でも、それまでの政策の限界への認識から、路線修正 が模索されていた。規制緩和(航空運輸部門への参入や運賃)も一部で開始され、初めて「大統領競争力白書」 も作成された。 (注 5) 格差に関する議論 米国では、90 年代以降の経済繁栄の実績に基づき、「格差」や「貧困」問題についても、 ① 国民の生活水準(GDP, 所得)が順調に増加傾向にあるなかで、格差拡大はボトム層の所得(横這いか増 加率は緩やか)の問題ではなく、トップ層の所得の急拡大により生じており、 ② 賃金・所得格差の拡大はあっても、米国では、所得階層間の変動、所得階層内の移動に伴う「流動性」が 存在しており、 ③ ニューエコノミーの興隆に伴う新たな分野での高いスキルへの需要急増や、より高い生産性へとつながる 要素への賃金上昇(技能偏向的技術進歩)が格差を拡大した本質である、
等を背景に、生産性の上昇、経済成長の持続、市場機能の一層の強化、高等教育訓練やスキルアップこそが 積極的解決策と考える見方・主張は多い。 「米国大統領経済諮問委員会:2006 年、2007 年度年次報告」他 (注 6) 医療無保険者問題 オバマ政権は、ヘルスケア問題の中核=「医療無保険者」問題に対して、当初「国民皆保険、公的保険導入」 を目指したが、保険会社を始め各方面の反対は強く、妥協を重ねて、2010 年に改革案を成立させた(医療保 険改革法)。その結果、民間保険会社への加入を促進するための政府の援助・優遇(税)や罰則設置を行い、 約 3000 万人の無保険者数の減少を期待している。 (注 7) 強力な米国「市場主義」 70 ~ 80 年代に実現したレーガン改革や、サッチャー改革などの経済構造改革、そして IMF が策定した構造 調整プログラム内容や、ワシントン・コンセンサスに、理念的・経済学的支柱を提供し大きな影響を与えたと 見られる「新自由主義(ネオリベラリズム)」ないし「新保守主義」の理念と、市場メカニズムを重視する「新 古典派」を中心とした経済学の組み合わせは、規制緩和、市場の活用/市場の活性化を軸とした政策を直接・ 間接的に推進しており、90 年代以降もグローバリゼーションの中で、強力な基本理念として幅広い浸透力を 持ち続けている。 (注 8) 2000 年代米国「3 つの病」後遺症が、今後「構造問題化」するリスク 後述する米国の 3 つの病、特に 100 年に 1 度の危機と称されたサブプライム金融危機は米国経済に大きな後 遺症・負の遺産をもたらしただけでなく、一連のバブル崩壊後の経済再生過程で、爬行性が伴う(順調に回復・ 再生する分野と、遅遅として回復しない部門分野が並存を続ける)ことが予想され、後者は「構造問題」化 していくリスクが考えられる。米国では、危機の源である住宅市場(価格、需要)の回復が遅れており、実 体経済でも 2010 年になっても失業率が約 10%と高止まった「雇用・失業悪化問題」(失業期間の長期化が見 られる)他、一連の経済再生財政支出の恩恵を蒙れず苦境に立つ既存の「中小企業・中小金融機関」、マク ロ経済的には、「成長率の鈍化持続」、(日本が陥った)「経済のデフレ化懸念」など、予断を許さない。 (注 9) 労働生産性の上昇 「米国大統領経済諮問委員会 2007 年次報告」によれば、90 年代で、1990 ~ 1995 年と、1995 ~ 2000 年を比 較すると生産性上昇率(年率平均)は、それぞれ 1.5%, 2.7% であった。その内訳を見ると、資本ストックの質・ 量の増加は前者が 0.5%, 後者は 1.1% と、資本の貢献度は 2 倍に達した。これは IT 資本への投資等により「資 本ストックの質的改善」が貢献している。また効率性の向上(プロセスイノベーションとプロダクトイノベーショ ンが含まれる)については、前者が 0.6%, 後者は 1.3% と大幅に高まっている。(『米国経済白書 2007 年 第 2 章「生産性の成長」、「エコノミスト」毎日新聞社 2007 年 5 月 21 日号より要約) (注 10) モジュール化 モジュール化とは、製品を完成させる場合に、それぞれ独立して設計・作成が可能な各部品・ユニットの集 合体として構成し、これをつなぎ合わせ、組み合わせることで、製品化が可能なようにしていくこと。IT 産 業に関連した製品(パソコンや通信機器)が代表的。モジュール化が有効な産業分野では、製造部門の分離・ アウトソーシングなどにより、需要変化への機敏な対応を可能とする新たなビジネスモデルが優位を占め始め た。 (注 11) イノベーションと市場の関係 「米国大統領経済諮問委員会 2005 年報告」によれば、 ① あるイノベーションが市場に認められて、その恩恵が十分に消費者にもたらされればそのイノベーション は成功といえる、 ② イノベーションが成功して発展していけば、市場を通じて投資は活性化し、イノべーションは急速に普及 する、 ③ イノベーション活動の指針となる市場のシグナルが、政府の政策によって歪められてしまえば、この成長 の原動力が弱まってしまう。 (『米国経済白書 2005』、「エコノミスト」毎日新聞社、2005 年 5 月 23 日号より抜粋・要約) (注 12) イノベーション 米国競争力評議会「イノベ-ト・アメリカ」2004 によれば、イノベーションは、『社会的・経済的価値の創造 を導く発明と洞察の交差』と定義されている。(出所―田村考司「アメリカにおける第 2 次競争力問題と競争 力法」―桜美林エコノミックス, 2010)
(注 13) 時価(原理)主義 元々成果主義が原則の米国では、内部管理で「時価主義」が利用されていることが多く-特に金融界(主に 投資銀行)では、部門別・個人別の一定期間内のパフォーマンス評価・測定(ボーナス等に連動)を行なう ための内部的会計メソッド(財務会計とは一致しない)として、早くから使用されてきた。(出所:笹子善平「サ ブプライム金融危機と背景事情」『国際金融』2009 年 11 月号) (注 14) 金融仲介の変化 アジア通貨危機(1997 ~ 8 年)以降、アジア各国では、急激な短期資金の流出によって生じる危機=「資本 収支危機」を予防するために、経常収支黒字維持に腐心し、外貨準備積み上げを鋭意行い、これを主に、米 国国債(或いはエージェンシー債-国の暗黙での保証があるとされたファニー・メー債(FNMA)等政府支 援企業(GSE)が発行する債券)で運用するという流れが、強化されたと見られる。(途上国・成長センター からの資本流入)一方超低金利・金融緩和が長期化した日本では、90 年代以降、欧米ヘッジファンド等によ るキャリー・トレード(低利の円を借り、高金利・高利回りの通貨・資産に投資する、さらにそれら資産を担 保として、レバレッジを大きく効かせて、よりハイリターンを狙う。)が増大した。(日本からの資金の流れ) 参考文献 Kavanagh, D and P.Morris : Consensus Politics from Attlee to Major, Blackwell, 1994 OECD : Structural Adjustment and Economic Performance, 1987
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